著者
矢野 淳 勝毛 智子 大島 奈々
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.361-367, 2018-07-20 (Released:2018-08-20)
参考文献数
24

人は,犬猫等のペットに愛着を抱く.ペットは愛情を注がれ,家庭の中で人同様に生活するようになったが,このことで生活習慣が乱れ,過肥,疾病の発生につながっているとも感じられる.そこで,飼い主のペットへの愛着がペットの健康に及ぼす影響を,飼い主への質問紙調査で検討した.その結果,ペットへの愛着として執着性愛着と気分安定性愛着が抽出され,執着性愛着はペットへの不適切な給餌傾向や混合ワクチン未接種に影響し,不適切な給餌をする飼い主の動物は過肥,混合ワクチン未接種,急性膵炎罹患が多く,その飼い主の執着性愛着は高かった.このことから執着性愛着は,不適切な給餌を介してペットの健康に悪影響を及ぼす可能性があることが分かった.ペットの疾病予防や動物愛護実現のため,獣医師は人のペットへの愛着の質について考慮する必要があると考えられる.
著者
早崎 峯夫 勝矢 朗代 Kun-Ho SONG
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.549-552, 2008-07-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
19

犬糸状虫抗原を用いた免疫ブロット検査により, 2000年11月から2001年8月にかけて, 山口県内で飼育されている猫315頭 (雄136頭, 雌168頭, 不明11頭) を対象に犬糸状虫の感染調査をしたところ, 19頭 (6.0%) が検査陽性と判定された. 雄 (12頭/136頭, 8.8%) は雌 (7頭/168頭, 4.2%) より陽性率が高かったが有意差は認められなかった (P=0.095). 屋内外を自由行動する猫 (11頭/199頭, 5.5%) と屋内飼育の猫 (5頭/90頭, 5.6%) との間の陽性率に有意差は認められなかった (P=0.594). 猫の年齢別では, 2歳以下 (5頭/117頭, 4.3%), 3~6歳 (6頭/86頭, 7.0%) および7歳以上 (7頭/92頭, 7.6%) の順に年齢が高くなるとともに陽性率は上昇したが有意差は認められなかった (P=0.559). 東部 (7頭/106頭, 6.6%), 中部 (6頭/123頭, 4.9%), 西部 (5頭/65頭, 7.7%) および北部 (1頭/11頭, 9.1%) の地域間の陽性率に差は認められなかった.
著者
北崎 宏平 大谷 喜永 小原 嘉昭 太田 剛 梅田 剛利 馬場 武志 阿野 仁志 片本 宏
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.147-153, 2019-03-20 (Released:2019-04-20)
参考文献数
30
被引用文献数
1

暑熱期の乳牛は,酸化ストレス状態にあることが知られている.泌乳牛において,トレハロースの飼料添加による酸化ストレス指標の改善が報告されているが,暑熱期での効果は不明である.本研究では,6頭の泌乳牛を対照区とトレハロース区(1.5%添加)に分け,2群×2期のクロスオーバー試験を暑熱期と適温期に実施し,血液,乳汁及び第一胃内容液の酸化ストレス指標への影響を調べた.暑熱期の飼料摂取量は,トレハロース区が対照区よりも多く(P<0.01),第一胃液中の原虫数は,暑熱期,適温期ともにトレハロース区においてEntodinium 属が多かった(P<0.05).抗酸化能を表す1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル消去活性は,暑熱期,適温期ともにトレハロース区の乳汁で高く(P<0.05),血漿でも暑熱期のトレハロース区が高い傾向を示した.これらのことから,暑熱期における泌乳牛の飼料へのトレハロースの添加は抗酸化能の改善に有効と考えられた.
著者
岩田 徳余 三木 伸悟 秋山 今日子 岩永 優斗 神先 芽衣 田中 聖晃 大谷 祐介 真下 忠久
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.73, no.12, pp.735-739, 2020-12-20 (Released:2021-01-20)
参考文献数
17

症例はマルチーズ,避妊雌,4歳齢で急性の発咳を呈し来院した.各種検査から外傷性横隔膜ヘルニアを疑い,外科手術を実施した.手術時の所見は,横隔膜に欠損はなく,肝臓内側右葉が大静脈孔を介して胸腔に連絡していた.先天性大静脈孔ヘルニアと診断し,血流を確認するため,術中に造影CT検査を実施したところ,胸腔内に脱出した肝臓へと連絡する肝静脈,門脈が認められた.脱出した肝臓を温存するため,整復手術を実施した.術後87日目に実施した造影CT検査では整復した肝臓は正常位置に存在しており,同時に肝生検を実施したところ組織学的にも正常であった.横隔膜ヘルニアの鑑別診断として大静脈孔ヘルニアを考慮し,腹腔内に完納するのか肝葉切除を実施するのか決定するために,術前の造影CT検査が重要であると考えた.
著者
中本 裕也 中本 美和 小澤 剛
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.41-49, 2018-01-20 (Released:2018-02-20)
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

獣医神経病2次施設で紹介を受けた4,131例の犬に対し,中枢神経及び末梢神経筋領域の疾患群での各種疾患の発生割合,犬種の占める発生割合,診断年齢の中央値,発症年齢の範囲を調査した.脳領域が1,583例,頸髄領域(第1頸髄~第2胸髄分節)が743例,胸腰髄領域(第3胸髄~第3仙髄分節)が1,589例,末梢神経筋領域が216例だった.脳領域では特発性てんかん,頸髄及び胸腰髄領域では椎間板ヘルニア,末梢神経筋領域では特発性前庭症候群の罹患割合が高かった.本調査では国内の人気犬種を反映した小型~中型犬種での罹患割合が高く,国外の報告とは異なる傾向だった.単独施設での調査であるため紹介症例に偏りが生じている可能性を考慮すべきだが,本調査は国内における神経病の発生割合などに関する有益な情報である.
著者
山田 茂夫
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 = Journal of the Japan Veterinary Medical Association (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.603-605, 1997-10-20
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

嘔吐, 腹囲膨大を呈し, 子宮蓄膿症が疑われた未経産シャム猫 (3歳) を開腹したところ, 発生期における内部生殖器と外部生殖器の癒合不全によると考えられる腟端閉鎖症と診断された. 左右子宮角および盲嚢状に終る腟は拡張し, 子宮および腟には多量の血様内容物が貯留していた. 腟尾側の盲端部分と腟前庭との間には少量の疎鬆結合組織が介在していた.組織学的には出血性子宮内膜炎がみられたが, 腟盲端部の組織は萎縮しているもののほぼ正常構造を保っていた.
著者
清水 大樹 田口 清 西川 晃豊 小岩 政照
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.184-188, 2006-03-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
9

6頭のホルスタイン種非泌乳牛 (平均体重528kg) に20%グルコン酸カルシウム (Ca) 液500mlおよび1,000mlを7~10日間隔で左側および右側頸部の1カ所に皮下注射した. 血中総Ca (tCa) およびイオン化Ca (iCa) 濃度は投与前値に比べて投与後2, 3時間に500ml群で平均0.37および0.20mM/L, 1,000ml群では0.78および0.41mM/L上昇した. 皮下注射24時間後の注射組織の生検所見は筋間の水腫, 出血, 炎症性細胞浸潤であった. 次に分娩後3時間以内の6頭のホルスタイン種経産牛に20%グルコン酸Ca液を両側頸部に500mlずつ合計1,000ml皮下注射した. 注射3時間後にtCaおよびiCaは投与前値に比べて0.79および0.34mM/L上昇し, 有意な増加は12時間持続した. 注射部位の腫脹は12時間でほぼ消失した. 潜在性低Ca血症の治療に20%グルコン酸Ca液1,000mlの皮下注射は安全かつ有用であると考えられた.
著者
髙栁 明子 三品 美夏 堀江 和香 渡邊 俊文
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.657-664, 2020-11-20 (Released:2020-12-20)
参考文献数
26

麻布大学附属動物病院腎泌尿器科において,尿管結石による尿管閉塞と診断された猫117例(143尿管)に対して行われた外科手術における合併症について検討を行った.術後再手術を要する合併症が最も少なかったのは尿管切開術の4.0%であり,その他尿管膀胱吻術27.1%,尿管ステント設置術34.6%,SUB設置術37.5%であった.いずれの手技においても術後クレアチニン値は有意に低下した.周術期死亡率は1.8%であり,過去の報告と比較して低かった.術前に実施した腎瘻設置術は,高窒素血症が重度で長時間の麻酔リスクの高い症例の安定化や閉塞解除後の腎機能を推測するうえで有用であった.猫の尿管結石は個々の病態がさまざまであり,外科療法における明確な治療方針は確立していないことから,治療にはすべての手技を選択できる熟練した外科医による対応が望ましいと考えられた.
著者
納 敏 麻生 節子 柳尾 和広 一条 茂
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.927-929, 1992
被引用文献数
1

分娩数日前の軽種馬に対してビタミンE1,000mgを1回または5日間隔で2ないし3回筋肉内に投与し, 分娩後の胎盤排泄時間に及ぼす効果を検討した.ビタミンE非投与例では, 血清トコフェロール値300μg/100m<I>l</I>以上例のうち胎盤排泄時間が60分以上を要した例が11.1%であったのに対し, 300μg/100ml以下例では33.3%と多数にみられた. ビタミンE投与例では, 血清トコフェロール値300μg/100m<I>l</I>以下例で全例が60分以内に胎盤が自然排泄し, ビタミンE非投与例に対して有意 (p<0.05) な効果がみられた. いっぽう, 供試馬の血清セレニウムと血液グルタチオンペルオキシダーゼ活性は正常値を示し, かっ胎盤排泄時間との関連がみられなかった.
著者
久永 晃資 岩田 剛敏 池内 隆 五十嵐 章紀 足立 邦明 林谷 秀樹
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.54-57, 2004-01-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
9

生活空間を共有する人と犬が快適に生活するために, どのくらいの頻度で犬を洗浄したらよいかを検討するために, 犬の被毛の脂質の成分や量を調べるとともに, これらが洗浄前後でどのように変化するかを経時的に観察した. その結果, 犬被毛の脂質は脂肪酸, コレステロールおよびステロールエステル, ワックスエステル, グリセロールエステルなどのエステル類で構成されており, 特にエステル類は脂質の80%以上を占めていた. また, 犬被毛の脂質量は洗浄直後に洗浄前の約60%にまで減少したが, 72時間後には洗浄前のレベルまで回復した. そして, 洗浄後72時間が過ぎる頃から動物臭が感じられるようになった. これらの結果から, 衛生的な観点からみると, 室内犬の洗浄は3~4日に1回くらいの割合で行うことが適当と考えられる.
著者
高橋 義明 平川 篤 山本 直人 田中 美礼 浦 亜沙美 猪狩 和明 吉原 俊平 大塚 浩平
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.585-589, 2020-10-20 (Released:2020-11-20)
参考文献数
7

近医にて汎血球減少を指摘された1歳2カ月齢,未去勢雄のトイ・プードルが紹介受診し,骨髄検査を含む各臨床検査により,特発性再生不良性貧血と診断した.プレドニゾロンとシクロスポリンによる免疫抑制療法と顆粒球コロニー刺激因子とエリスロポエチンによるサイトカイン療法を実施したところ,第32病日に寛解に導入することができた.その後,良好に推移し,第89病日にはプレドニゾロンを休薬し,第395病日現在,シクロスポリン単独投与により寛解を維持されている.
著者
小嶋 大亮 小嶋 恭子 太田 和美 小嶋 佳彦
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.511-515, 2020-09-20 (Released:2020-10-20)
参考文献数
17

14歳齢,未去勢雄犬の会陰ヘルニア内の前立腺近傍に,多発性の囊胞状及び腫瘤状病変が認められた.病理組織学的に,囊胞は,細胞質辺縁に微絨毛様の突起を有する上皮性細胞により内張りされていた.一方,腫瘤は,薄い壁構造に支持される静脈ないしリンパ管様構造を主体とし,しばしば厚い壁に支持される動脈様構造により構成されていた.免疫組織化学では,囊胞を内張りする細胞は抗Cytokeratin AE1/AE3,CAM5.2,Vimentin及びWilms' tumor protein抗体に陽性を示し,脈管構造を内張りする内皮細胞は抗CD31及びFactorⅧ抗体に陽性を示した.エラスチカ・ワンギーソン染色により,血管壁では膠原線維と筋組織が主体に認められ,内弾性板を含む弾性線維はほとんど観察されなかった.以上の所見から,上記の犬の病変を漿膜封入囊胞と動静脈瘻と診断した.
著者
岡田 啓司 古川 岳大 安田 準 内藤 善久
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.713-718, 2002-11-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
15
被引用文献数
1

ホルスタイン種乳牛25頭を適正 (N) 群, 高デンプン (S) 群, 高タンパク (P) 群の3群に分け, 血中乳酸 (LA) およびアンモニア (NH3) 濃度とルーメン環境との関連を検討した. S群のルーメン液中総原虫数は採食後に著しく減少し, 活性度も低下した. ルーメン液中LA濃度は光学活性の異なるD-LA, L-LAともに採食後2時間に増加し, ルーメンpHはその後も低下し続けた. ルーメン液中および血中それぞれのD-LAとL-LA濃度との間には正の相関があった. ルーメン液中NH, 濃度はP群で採食後2時間以降に著しい増加を示したが, N群およびS群では採食後4時間に減少した. 採食後4時間のルーメン液中と血中NH3濃度に相関があった. 以上より, 血中NH, 濃度は, 乳牛が摂取した飼料中のタンパク質のルーメン内における消化の状態を反映していると考えられた.
著者
菅野 紘行 黒田 正明 金子 純一
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.37, no.10, pp.639-643, 1984-10-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
11

犬・猫の皮膚の縫合法のうち, 抜糸をする必要のない方法について, 避妊手術に用いることを目的として検討した.その結果, 従来より行われている埋没縫合法は, 術創で糸を結紮し切るため, 創の両側の創縁の接合が悪いと, 糸が創外へ出る欠点を経験した.そこで, 糸を術創で切らず, 創口より皮下へ入れてしまう方法を試みたところ, よい結果が得られ, とくに猫においてもっとも優れていた.
著者
三好 正一 田口 清 青木 創 虻川 孝秀 岡田 洋之 吉野 知男
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.575-578, 2004-09-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
15

4歳のホルスタイン種乳牛において分娩後, 食欲の低下とタール便の排泄を認めた. 被毛は粗剛となり脱毛し, 末梢部 (耳介, 尾端) の壊死, 両前膝表皮の脱落および左後肢の壊疽が認められた. 患畜が乾乳中に敷き料として用いられたライ小麦麦秤が赤カビに汚染され, 高濃度のマイコトキシン (デオキシニバレノール) が検出されたこと, また, 患畜がその敷き料を採食していたことから, 発症原因としてマイコトキシン中毒の関与が疑われた.