著者
長谷 公隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1167-1173, 2004-12-10

はじめに バイオフィードバック(biofeedback;以下BFと略)とは,通常では認識することが困難な生体内の生理現象を視覚や聴覚などで感知できる知覚信号に変換し,随意的には制御できない現象をその知覚信号に基づいてコントロールさせようとする行為である.筋電図バイオフィードバック(EMG-BF)療法は,筋収縮の程度を知覚信号に変換して患者に提示し,これを制御させることによって目的とするパフォーマンスの改善を図る治療法であり,Marinacciら1)が神経筋再教育に用いて以来,運動学習のための一手法としてリハビリテーション医療に広く応用されている.制御対象として選定された筋肉の収縮を,促通(facilitation)させるのか,弛緩(relaxation)させるのかによって大きく分類することができ,その適応は表1に示すように多岐にわたっている. 促通訓練は,筋力増強を必要とする病態に対して,筋肉の活動を量的に提示することによって施行される.しかし,痙性麻痺に対するEMG-BF療法は,麻痺筋の促通訓練に先立って,制御したい運動に拮抗する筋群の弛緩訓練が必要な場合がある.また,弛緩訓練には,過剰な筋収縮を抑制することで局所的な不随意運動を制御させようとする場合と,特定の筋収縮を制御することで,疼痛や全体としての運動パフォーマンスなど,筋張力が低下することとは直接関係のない事象の機能的改善を得ようとする場合に分けられる.これらの効果をリハビリテーション医療に適用するためには,EMG-BF療法の基本的技術を十分に理解したうえで,患者の特性や病態に応じた治療プログラムに基づいて実施する必要がある. 本稿では,EMG-BF療法を臨床に用いるために必要な基礎知識をまとめるとともに,その臨床効果について,無作為対照試験(randomized controlled trial;RCT)を中心にレビューする.
著者
鈴木 美穂
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.44, no.13, pp.1272-1274, 2016-12-01

Q プロゾーン現象って何ですか? A 抗原抗体反応において,抗原または抗体のどちらか一方が過剰であることが原因で,反応が抑制される濃度領域が現れることを地帯現象(zone phenomenon)と言います.抗体過剰による反応抑制領域を前地帯(prozone),抗原過剰による場合を後地帯(postzone)と言いますが,一般的には両者ともプロゾーン現象と言われることが多いです.
著者
平岡 浩一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.509-513, 1997-07-15

はじめに いわゆる症例報告は臨床,研究領域を問わず盛んに行われている.しかし,主に事例の経過の説明に終始することの多い症例報告は,多くの場合治療介入を留保した対照群を持たないため,治療効果に関する客観的な因果関係の分析が困難である.他方,従来は多標本(複数の症例)を対象とした方法が客観的な治療効果の判定には多く用いられてきたが,これは多くの症例と多大な時間と労力を必要とすると同時に,個人差の多い疾患の場合,多標本から得られた結果が必ずしも個々人にあてはまらない場合が多いという欠点を持つ. シングルケーススタディは1個体のデータから治療効果を判定する,歴史的には心理学から発展した実験計画法である.シングルケーススタディは同一個体内で独立変数導入と撤回を交互に行いながら標的行動の定期的な繰り返し測定を行うことにより,1個体の複数のデータを用いて治療効果を客観的に判定する.したがって,この方法は先述の多標本研究法の短所を補って,単一症例から客観的な治療介入効果の判定を可能にする. もうひとつのシングルケーススタディの優れている点は,多標本を用いた対照比較研究においては半数の患者に治療効果が低いと予想される治療介入を長期間継続しなければならないという倫理的な問題があるのに対し,シングルケーススタディにおいては1症例における非治療期間の複数の繰り返し測定のデータがこの対照群として機能するので,そのような治療を留保する多数の症例を必要としないことがあげられる.これらの利点は規模の小さなコストの低い客観的な治療効果の判定を可能にし,日常の臨床場面での応用も比較的容易であり,理学療法の意志決定のためのツールとしての使用も期待できる. さて,シングルケーススタディには多くのデザインがあるが,治療を留保する相に始まり治療導入,再度の治療撤回をスケジュールとするABA型デザインが最も一般的である.そこで本稿ではABA型デザインを中心にその具体的方法について脳卒中片麻痺の歩行速度に及ぼす下腿三頭筋の持続的伸張の効果を観察する場合(仮想)を例にあげながら紹介する.
著者
満田 直美 栄徳 勝光 菅沼 成文
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.475-479, 2020-05-10

●つわりのなかった妊婦に比べ,つわりのあった妊婦のほうが早産の頻度が低かった. ●つわりの程度と早産リスクには関連があり,つわりの症状が強いほうが早産リスクは低下していた. ●つわりと早産リスクの関連性についてのこれまでの研究結果は一致していないが,つわり症状があるほうが早産リスクが低下するという報告が多い.

2 0 0 0 Modic sign

著者
大鳥 精司 折田 純久 稲毛 一秀 鈴木 都 山内 かづ代
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1129-1137, 2016-12-25

Modic signとは 椎体終板変性は,MRIで日常的に観察される変化である.一般的には退行性変化として考えられている.図1で示すように,年齢とともに椎間板高が減少し,その変化が椎体終板に発生する現象である.高齢者の8割以上はこのような画像を呈している.変性腰椎の椎体終板変性はModicら1)により報告され,一般的にはModic signと呼ばれている.椎体終板はMRIのT1強調画像で低輝度,T2強調画像で高輝度を呈するModic Type 1,T1強調画像,T2強調画像でともに高輝度を呈するType 2,さらにT1,T2強調画像で低輝度を呈するType 3に分類された2,3)(図2).最近のModic signのレビューによると,腰椎にその変性を認める割合は14%であり,変性の程度は年齢に比例し,10年間で6%の増加を認めることが報告されている.Modic signの分類ではType 2が多く,次にType 1であり,Type 3が最も少ない2).多くの論文において椎間板の変性が腰痛の原因となりうることが報告されているが,椎間板の近傍に存在する椎体終板変性の病理と臨床的意義に関する論文は少ない.本稿では,現在までにわかっているModic signの臨床的意義に関して述べたい.
著者
尾方 克久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.305-314, 2003-04-10

リアノジン受容体は,細胞内Ca2+ストアから細胞質へCa2+を放出するチャネルタンパクで,骨格筋にはRyR-1が発現し,筋小胞体膜のCa2+放出チャネルを構成する。N末側80%以上の大部分は筋細胞質で,4量体を形成してフット構造を構成し,T管膜のL型電位依存性Ca2+チャネルと共役して,筋細胞膜の興奮による筋細胞質へのCa2+動員をもたらす。悪性高熱は全身吸入麻酔薬や筋弛緩薬の投与により,高体温や骨格筋の異常収縮が生じる常染色体優性遺伝の致死的病態で,発症素因者にはCa2+誘発性Ca2+放出の異常亢進を認める。その約半数はRyR-1の変異による悪性高熱症(MHS1)であり,28種の点変異が報告されている。先天性ミオパチーであるセントラルコア病(CCD)に悪性高熱が生じやすいことが知られていたが,CCDもRyR-1の変異により生じることが明らかにされ,13種の点変異が報告されている。RyR-1の変異で生じるMHS1とCCDを包含する,「RyR-1チャネロパチー」という概念が,病態解明に新たな視点をもたらす。
著者
戸倉 新樹
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.17-21, 1995-04-15

ニューキノロン剤は光線過敏症を起こしやすいことが知られており,新薬の出現のたびに副作用としての光線過敏性皮膚炎が話題となる.ニューキノロンは一重項酸素を主とする活性酸素を介して光毒性物質としての性格,すなわちDNA切断活性などを示すが,活性の強さは各ニューキノロン間で異なる.同剤は光毒性の一つの特徴である蛋白との光結合能も有するため,マウス表皮細胞をニューキノロン溶液に浮遊させた後,長波長紫外線(UVA)を照射することにより,ニューキノロン光修飾表皮細胞を作製することができる.この光修飾細胞を同系マウスに皮下投与することにより過敏症反応を誘導し得る.すなわちニューキノロンは光ハプテンとしての性格を持ち,このため光アレルギー反応を起こすと考えられる.さらにニューキノロンはT細胞に対してサイトカイン産生増強作用を示し,免疫反応修飾物質としての側面も持っている.こうした光毒性物質,光ハプテン,免疫反応修飾剤という特質を併せ持っているからこそ同剤は光線過敏性皮膚炎を起こしやすいと考えられる.
著者
岩室 紳也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.550-557, 2020-07-10

未知ゆえの苦難 2019年12月に中国武漢市で流行が始まったとされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19:coronavirus disease 2019)。原因が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2:severe acute respiratory syndrome coronavirus)2)であることが明らかになる中で,保健医療福祉の現場の皆様は未知ゆえの苦難に疲弊しつつも,対応に奔走し続けられているのではないでしょうか。新型コロナウイルスが流行し始めてから数か月,この原稿を入稿してから1カ月半,状況は刻々と変わっていることでしょう。 今回,筆者は公衆衛生医,臨床医として,HIV/AIDSをはじめさまざまな感染症に関わってきた経験から,新型コロナウイルスとどう向き合えばいいのかを考え続け,ホームページ*1やSNS*2で発信し続けてきました。
著者
赤木 宏行
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.397-399, 1991-04-15

種々の神経伝達物質,ホルモン,成長因子が結合するレセプターの分子実体が遺伝子クローニングの手法を用いて次々と明らかにされつつある.これらの受容体は,構造的および機能的特徴の共通項から,3つのグループ(イオンチャンネル型,G蛋白共役型,チロシンキナーゼ型,詳しくは,本誌34巻8月号(1990)の特集を参照のこと)に分類されている.このうち,イオンチャンネル型と呼ばれるものは,細胞膜を4回貫通する受容体サブユニットが4ないし5個集まって1つのイオンチャンネルを構成するタイプのものである(図1,2).この種の受容体は,中枢神経細胞およびニューロンにより直接支配される組織細胞(骨格筋や一部の平滑筋)に存在する.他の2つのカテゴリーに属する受容体が比較的時間経過の長い反応(数分から数時間)を仲介するのに対し,イオンチャンネル型受容体は,ごく短時間(ミリ秒から秒のオーダー)で反応を仲介する.すばやい筋肉の動き,瞬時の思考などの情報処理にはイオンチャンネル型受容体が中心的役割を果たしていると考えてよい.イオンチャンネル型受容体には興奮性のものと抑制性の2つがある.前者はアセチルコリンやグルタミン酸が,また後者には,γ―アミノ酪酸(GABA)やグリシンがそれぞれ伝達物質として作用する.GABAおよびグリシン受容体は,ともにクロライドイオンの透過性を高めることにより抑制作用を引き起こすという共通点を持つが,その実体は異なる物質であることが分子レベルで明らかとなっている.GABA受容体は中枢神経系全域に存在するのに対し,グリシン受容体は下位中枢,特に脊髄に多く存在し,そこで,運動ニューロン(骨格筋を支配する神経)の興奮性を制御している.この受容体が密接に関与する疾患として筋萎縮性側索硬化症(ALS),パーキンソン病,痙性脊髄麻痺などが考えられている.
著者
木下 ひとみ 中村 吏江 幸 絢子 天野 愛純香 白石 剛章 森本 忠雄
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.863-867, 2019-10-01

要約 62歳,男性.賞味期限切れの納豆を摂取し,蕁麻疹と血圧低下を生じた.大豆製品を日常的に摂取し問題ないこと,クラゲ刺傷の既往があったことから,クラゲ刺傷によって生じた納豆アレルギーを疑った.クラゲ刺傷によってポリガンマグルタミン酸(poly-gamma-glutamic acid:PGA)に感作されるが,納豆の粘稠物質にもPGAが含まれており,このPGAは納豆の発酵過程で経時的に増加すると考えられている.そこで賞味期限内および賞味期限切れの納豆,納豆の粘稠物質,大豆の水煮,ミズクラゲ,PGAを用いてプリックテストを施行した.賞味期限切れの納豆,納豆の粘稠物質,PGAで陽性であり,PGAによるアナフィラキシーショックと診断した.PGAは医薬品で使用されるほか,食品や化粧品等広い分野で使用されているため,原因不明のアナフィラキシーでまず疑うことが大切であり,クラゲ刺傷の既往や詳細な食事歴の聴取が重要である.

2 0 0 0 CIDPの亜型

著者
園生 雅弘
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.513-525, 2003-08-10

CIDPの亜型について論ずるには,CIDPの概念,すなわち診断基準を明確にする必要があるが,このためにはAAN基準よりもDyckらの原著に立ち返るべきである。多巣性型の亜型としては多巣性運動ニューロパチー(MMN)と多巣性運動感覚性脱髄性ニューロパチー(MMSDN)がある。MMSDNはしばしば痛みやTinel徴候を伴い,抗ガングリオシド抗体は陰性である。ステロイドは後者のみで有効なので,両者を区別することは治療面からも重要である。抗MAG/SGPG活性を有するIgM MGUSを伴うCIDPは,遠位優位の分布を示す亜型(DADS)とも重なる概念となる。純粋感覚型のCIDPにはその存在の有無も含め未だ不明点が多い。慢性特発性軸索性多発ニューロパチー(CIAP)は,高齢発症で機能障害は軽く,軸索障害を示す独立した疾患概念と思われる。純粋運動型で軸索型のものは慢性運動性軸索性ニューロパチー(CMAN)などの名で呼ばれているが,これとALSとの鑑別は極めて困難である。
著者
日高 高徳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.48-52, 2019-04-10

summaryAryl hydrocarbon receptor(AHR)は大気汚染物質や皮膚常在菌などに含まれる化学物質をリガンドとして認識し,それらを代謝する酵素を誘導する受容体型転写因子であるが,近年アトピー性皮膚炎に関連する遺伝子群の発現も制御していることが報告された.具体的には,表皮におけるAHRの活性化はフィラグリンをはじめとするバリア機能分子の発現を増強させ,TSLPやIL-33などのアトピー性皮膚炎に関連する上皮産生性サイトカインを発現し,更に神経伸長因子ARTEMINの誘導により表皮内への瘙痒伝達性の神経伸長を引き起こすことでかゆみ過敏状態につながることが示された.表皮におけるAHR活性の調節はアトピー性皮膚炎の病態改善につながることが期待されるが,AHRリガンドTapinarofを含有する外用薬がPhase Ⅱ studyを終えて,アトピー性皮膚炎に対して奏効することが示された.
著者
田中 啓治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.607-615, 2018-06-01

直観とは,普通の人には困難な問題を短時間にほとんど無意識に解くエキスパートの能力のことである。筆者らの研究グループは将棋のプロ棋士またはアマチュア高段者の脳活動を測定し,次の具体手の直観的決定には大脳基底核が,攻めるか守るかの戦略の直観的決定には帯状皮質が重要な働きをすることを見出した。長い訓練を経てエキスパートになると,普通の人では原始的な行動で働くこれらの進化的に古い脳部位が,高度に認知的な問題解決に使われるようになる。
著者
鈴木 裕子 堀江 良一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.822-826, 2007-09-01

サマリー 慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia,CLL)は,低悪性度成熟B細胞腫瘍の一つである.CLLは,欧米では65歳以上の白血病の40%を占め,1年に10万人当たり3人の発症がみられるが,わが国では20~30分の1以下と稀である.CLL細胞の形態は,通常のリンパ球とは見分けがつかない.定義上は,大きさが赤血球の2倍以下の成熟した小型リンパ球で,細胞質に乏しく,核クロマチンが凝集し,核小体は見られない.CLLの約10%に経過の早いリンパ腫へと変化するものがあり,報告者の名前にちなんでリヒター症候群(Richter's syndrome,RS)と呼ばれる.一般に,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫へと変化することが多いが,ホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma,HL)へと変化するものもある.RSの場合,それぞれの組織型に応じた治療が選択されるが,治療への反応が悪く通常1年以内に死亡する例が多い.化学療法での治療強度を上げても,寛解率の上昇にはつながらないとされる.治療後に部分寛解以上になったときに,造血幹細胞移植を行うことが最も長期生存が望めると報告されているが,わが国でのまとまった報告はない.
著者
河崎 一夫 奥村 忠 田辺 譲二 米村 大蔵 西沢 千恵子 山之内 博 中林 肇 東福 要平 遠山 竜彦 村上 誠一 小林 勉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.137-140, 1973-02-15

緒言 高濃度酸素吸入によつて不可逆的眼障害をきたしうる疾患として,未熟児網膜症が知られている1)。本症では網膜血管が著しく狭細化する。成人においても高濃度酸素吸入によつて脳および網膜の血管が狭細になると報告された2)。この狭細化は,高濃度酸素吸入を止めた後には消失した(可逆的)2)。成人で高濃度酸素吸入によつて網膜血管の不可逆的狭細化をきたしたという報告はまだないようである。本報では,生命維持のため止むをえず高濃度酸素を長期にわたり吸入した重症筋無力症成人患者で起こつた網膜中心動脈(central retinal artery,CRAと便宜上記す)の白線化などの著しい眼底異常を記し,成人においても長期にわたる高濃度酸素療法は不可逆的眼障害をきたすおそれがあることを指摘したい。
著者
平山 恵造
出版者
医学書院
雑誌
Brain and Nerve 脳と神経 (ISSN:00068969)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.58, 1974-01-01

緊張性の瞳孔反応障害と腱反射消失からなつている。瞳孔は対光および幅輳に対し反応がおそく,光を当てると徐々に収縮し,暗室におくとき,ゆつくりと散瞳する。輻輳でも同様である。そのため一見して瞳孔反応が消失してみえることもある。瞳孔障害は両側性にもくるが,多くは一側性で,障害側の瞳孔が健側より大きいことが多い。すなわちArgyll Robertson徴候にみるような縮瞳はあまりみられない。しかも瞳孔は正円形を呈さず卵円形,楕円形をなす。 腱反射の消失は上肢よりは下肢において目立ち,Adie症候群の約2/3はこのような完全な形とされているが,1/3は腱反射消失を伴わない不完全な型である。
著者
長田 久文 蔡 培梁 太田 ふさ 殿村 た喜子 伊瀬知 幸代 中居 澄子 小野 文子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.98-101, 1979-02-25

1.はじめに 母乳栄養の確立が論じられてから,各方面より数多くの報告がみられ,全国的に普及した感がある。横浜市愛児センターにおいても,従来よりこの問題にとりくみ,授乳方法の検討からはじまり,乳汁分泌を促進および抑制する因子について検討を行なってきた。 第17回日本母性衛生学会において,「乳汁分泌に対する各種薬剤の影響」をはじめとし,社会的因子,環境的因子,行政的因子等について報告した。
著者
森山 成彬
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.114-122, 1989-02-15

Ⅳ.Bobon以降現在まで ドイツのSnellを言語新作研究の始祖とすれば,ベルギーのBobon, J. はその中興の祖といえる。彼はまず1943年の論文9)で,それまでの諸研究を総括したあと,言語新作を欠陥症状troubles déficitairesの優位なものと,反応的な障害troubles réactionnelsの優位なものに分けた。前者は言語中枢の器質的病変も示唆され,同時に機能的な障害としても,入眠時や心的興奮時の自動的な言語活動,曖昧な表現,記憶の保持と喚起の障害,情動障害などを示すものである。後者の反応的な障害の言語新作は,①消し難い強烈な妄想体験,②新しい概念を表出しようとする努力,③非病理的な言葉の改作,④言葉の魔術性への信仰,⑤想像の世界へ埋没する代償的活動,⑥遊戯的な活動,などの側面をもつ。 Bobonが1947年に報告した症例10)は,無音の"e"を発音したり,r・t・er・ment・ancreなを語尾に加える。この患者に薬物を注射し半睡状態にすると,逆に言語新作の度合が減少することから,Bobonはこれらの遊戯的な言語新作が意志的なものであるとした。別な症例11)は「アクロバット的」な言語新作をし,日本語の話し言葉を〈evanes〉と称して,〈Jenefolenbette Serrntlesito〉を日本語だと主張する。この患者は5カ月で症状改善し言語新作をやめた。56歳の緊張病の男性例12)は,年月を経るに従ってparalogie→schizophasie→言語新作へと進展する。その言語新作は方言を組み合わせたもので,Bobonは戯れの機制を指摘した。Bobonはさらに1952年には自説を集大成して,言語新作の全体像を整理する13)。
著者
森山 成彬
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1290-1295, 1988-12-15

I.はじめに 言語新作néologismeとは,新しい言葉あるいは,既存のとは異なる新しい表現の謂である71)。Lantéri-Laura, G. ら51)によれぱ,néologismeという語の初出は1735年で,哲学書のなかで使われ,科学・技術用語の創出,および死語や外国語からの借用による新語をさしていた。しかし,その実体は言語体系そのものの独創から,言葉の意味の微妙なズレまで多様であり,それが次頁表のように,多種の類語を派生させる理由にもなっている。 こうした言語新作を精神分裂病者が生み出してきた事実は,多くの精神医学者の注目をひき,その研究史は少なくとも19世紀中葉まで遡ることができる。彼らはそこに病者の体験が凝集されていると信じ,様々の症例を集め検討した。
著者
馬場 正次 岩佐 賢二 大江 昭三
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.591-593, 1955-09-01

まえがき ビタミンB6は家鼠の抗皮膚炎性因子として発見されて以来,皮膚科領域に於て,湿疹及びその類似性疾患に単独に,或はビタミンB1,B2等と共に内服,注射の形で広く用いられて来たが,その相当量の使用にも,あまり効果の見られない場合も屡々経験される処である。殊に有効とされている脂漏性皮膚炎に於いてこの感が深い。 1952年Schreiner & Slingerは23例の脂漏性皮満炎患者を2グループに別ち,第1グループの11例に対しては毎日Pyridoxine 300mgを4週間経口投与,第2グループ12例中6例は最初1日600〜1000mgのPyridoxineを3週間注射し,次いで1%Pyridoxine軟膏を局所に塗布せしめ,他の6例は終始1%Pyridoxine軟膏の塗布のみを継続した。その結果第1グループに於ては脂漏性の局面が2例に於いて僅かに好転,5例は変化なく,4例は悪化し,第2グループに於いては,注射のみの継続中には2例に僅かな好転を見たのみであつたのが,Pyridoxine軟膏塗布後は全例に於いて5〜12日で著効を得たことを記載している。