著者
大原 繁男
出版者
名古屋工業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

Yb化合物研究では、純良単結晶を得にくい問題がある。我々は新物質YbNi_3Al_9及びYbNi_3Ga_9の純良単結晶育成に成功し、強相関Yb化合物の研究において極めて有用であることを明らかとした。X線回折、比熱、抵抗率、帯磁率、de Haas-van Alphen(dHvA)効果、光電子分光、X線吸収、圧力効果の測定から以下のことがわかった。①三方晶ErNi_3Al_9型構造(空間群R32)を持ち、カイラル体である。②YbNi_3Al_9はYb価数がほぼ+3価の重い電子系ヘリカル磁性体(T_N=3.4K)であり、YbNi_3Ga_9はYb価数が+2.5価の価数揺動体である。③YbNi_3Ga_9は低温で近藤ピークを示し、伝導電子(c)とf電子が強く混成している。④YbNi_3Al_9、LuNi_3Al_9、LuNi_3Ga_9は類似したフェルミ面を持つが、YbNi_3Ga_9はcf混成のためフェルミ面が異なる。YbNi_3Al_9及びYbNi_3Ga_9ではサイクロトロン有効質量が増大している。反転対称を持たないため、いずれもフェルミ面が分裂している。⑥YbNi_3Ga_9では価数揺動から磁気秩序状態まで圧力により連続的に電子状態を調節でき、磁気臨界圧力で超伝導を示すかどうか興味がもたれる。YbNi_3Al_9は4GPa、YbNi_3Ga_9は9GPaで強磁性に転じる。⑦Yb(Ni_1-xCu_x)_3Al_9及びYb(Ni_1-xCo_x)_3Ga_9(x0.33)が合成でき、置換により基底状態が調節できる。発展として、R(希土類)Ni_3Al_9の合成を行い、4f電子系カイラル磁性の研究を進めている。そのほか、Gaを組成比に多く含むCe_2TGa_12(T=Ni, Pd, Pt)及びCe_2Pt_6Ga_15についても単結晶を育成し、電子物性測定を行った。
著者
武田 はやみ
出版者
名古屋工業大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

1、研究目的ジオポリマーは適当なシリカおよびアルミナの非晶質相をアルカリ溶液と混合することのみで得られるため、低環境負荷材料として注目されている。本研究の目的は、ジオポリマー硬化体に遷移元素を拡散させて、天然岩石の色合いを呈する新規無機人工建材を創生することである。2、研究方法発色遷移金属として銅を用いた。メタカオリン、水ガラス、水酸化カリウムと各種銅化合物(Cu(OH)_2,CuO,Cu_2O,CuCO_3・Cu(OH)_2・H_2O,CuCl_2・2H_2O,CuSO_4-5H_2O)を混合して、型に流し込み、60℃で48時間養生することによって銅を発色源とするカラージオポリマー硬化体を作製した。作製したカラージオポリマー硬化体の強度測定、FT-IR分析、XRD分析、ESR分析等を行い、発色機構の解明を行った。3、研究成果銅化合物の添加による硬化体の顕著な強度低下は認められなかった。また、発色は以下に示すような2つの様態が考えられた。(1)顔料発色様態:Cu(OH)_2,Cu_2Oはジオポリマー化反応に関与せず、それ自身の発色をジオポリマー硬化体中で呈する(2)鉱物様発色様態:CuCO_3-Cu(OH)_2・H_2O,CuCl_2・2H_2O,CuSO_4・5H_2O,CuOはジオポリマー化反応中に分解し、ジオポリマーの構造中にCuが取り込まれCuイオンによって青緑の呈色を示す。また、硬化体中には孤立Cu^<2+>イオンが存在するため、このCu^<2+>イオンがジオポリマー構造中のOH分子と錯体を形成することによって発色しているとも考えられた以上のように、従来の建材に用いられる顔料とは異なる発色様態を持つカラージオポリマー硬化体を作製することができた。
著者
川嶋 紘一郎 西村 尚哉 林 高弘 伊藤 智啓 古村 一朗 三留 秀人 杉田 雄二
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は,構造物内部あるいは接合界面に存在する、線形超音波あるいは放射線等で検出不可能な、微細な不完全結合部(マイクロクラック、キッシングボンドなど)を非破壊的に検出するため,大振幅超音波を入射し不完全接合部の繰返し打撃・摩擦により励起される,2次高調波(入射波周波数の2倍の周波数を持つ波)振幅を計測し,入射波振幅に対する比を2次元画像表示する装置の開発を目的とした.主な研究成果は以下の通りである.1)従来の固体の非線形超音波計測法と異なり,超音波素子を試験片に貼りつけることなく,市販の大振幅超音波発生装置,超音波センサーを用いて、0.4%以上の2次高調波振幅比(感度は0.1%)を測定する方法を開発した.これにより材料・構造の任意の位置での高調波計測が可能になる。2)水浸集束センサーを用いて固体接合部に超音波エネルギーを集中させ,発生した高調波を広帯域のハイドロフォンで検出する計測システムを開発し、線形超音波法では界面反射波が検出できない程度の、ごくわずかな拡散接合界面特性の変化を検出できることを実証した。これによって,従来法では不可能であった,高信頼性が要求される航空機ロケット,自動車などの高品位接合部の構造健全性評価が可能となる.3)閉口疲労き裂面で励起される漏洩表面波の2次高調波を測定することにより,深さが1-2mmのき裂深さを定量的に計測する方法を開発した。これにより圧力容器の開放点検時に閉口しているき裂状欠陥のその場非破壊寸法測定が可能となる。4)固体材料中あるいは表面に存在するナノメートル程度の隙間を模擬する接触要素を用いて,大振幅超音波によりそれら隙間で励起される2次高調波の発生・伝播状況を可視化する動的有限要素法を開発した.5)特許【非線形超音波による接合界面健全性評価法及び装置】の出願準備中である.6)本研究を契機に非線形超音波による材料評価に関する2件の民間との共同研究を実施している。
著者
佐藤 淳 佐藤 幸男
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、カメラ画像から得られる対象物の位置や形状の情報を音の位置で表現する方法や、視覚情報と音響情報との3次元的な整合性を取る方法を探求した。まず、ステレオカメラが復元した3次元画像空間と、音響制御装置が持つ3次元音響空間と、ユーザが持つ3次元聴覚空間の関係を調べた。ステレオカメラが校正されていない場合、カメラにより復元した空間は3次元射影変換の不定性を持つ。また音響装置が校正されていない場合には、3次元音響空間にはやはり3次元射影変換の不定性が存在する。さらにこのインターフェイスを使用するユーザの聴覚感覚には個人差があるが、相対的な位置感や相対的な距離感が保存されると仮定すると、ユーザの聴覚感覚の個人差は3次元アフィン変換により表せることが明らかになった。そこで、ステレオカメラと音響装置との関係を3次元射影変換で直接表現し、基底音をユーザに与えてこの3次元射影変換を求めることにより、聴覚の個人差を吸収しつつ、カメラで撮影した物の位置を音の位置で表現する方法を開発した。次に、得られた視覚音響弱校正理論を複合現実感に応用し、視覚情報と聴覚情報との3次元的な整合性を取ることにより、より臨場感を増強する手法の開発を行った。この時、複数のカメラ同志がお互いに投影しあうカメラの相互投影の情報を積極的に用いることにより、視覚的3次元情報の計算安定性を格段に向上させることが可能であることを示した。このような視覚的3次元情報を聴覚的3次元情報と結びつけることにより、複数ユーザが存在する状況下において、それぞれのユーザごとに視覚情報と聴覚情報の3次元的整合性を取る手法を示した。実際に音と映像を用いた仮想対戦システムや仮想楽器を実現し、視覚的3次元情報と聴覚的3次元情報との幾何学的な整合性を取ることの重要性を明らかにした。
著者
足立 俊明 山岸 正和 前田 定廣 江尻 典雄
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ケーラー多様体の部分多様体の性質を調べるために、概接触構造から誘導される自然な閉2形式を考え、その定数倍である佐々木磁場の下での荷電粒子の等速運動について考察した。佐々木磁場は一様な力が働く磁場ではないため、軌道が古典的なフレネ・セレーの公式に関して単純である2次の曲線になっているかという観点に着目した。複素空間形といわれる対称性の高いケーラー多様体内の測地球面をはじめとするA型実超曲面上にはこのような軌道が存在し、しかもこのような軌道の量により複素空間形内の部分多様体族の中でA型実超曲面は特徴付けられることがわかった。更に、閉じた2次の曲線になる軌道の長さが数直線上にどのように分布するかを明らかにした。一方、ケーラー多様体の離散モデルの提案にも取り組み、辺が2色に彩色されたグラフがその候補であることを、グラフ上の閉じた道と磁場の下での閉軌道とを対応させ、両者の長さの分布状況に類似点があることを裏付け証拠として示した。
著者
孫 晶
出版者
名古屋工業大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

はじめに,サプライヤーリスクマネジメント諸問題を対象とした国内外の文献・実態調査により,サプライチェーリスクを明確化し,問題の体系化を行った.次に,サプライチェーンビジネスの戦略決定に不可欠な,品質・コスト・納期・環境・安全における効率的な評価基準算出方法を提案し,サプライヤー最適経営評価法則及び新たな統括理論を検討した.また,環境負荷軽減を目指し, Win-Winの視点からリュース部品のサプライヤーの最適な物流構築モデルを提案し, LP(LinearProgramming)手法を使って,サプライヤー業者全体の利益を最大にする物流構造の最適解空間とその条件を導くことができ,さらに,提案したモデルを使って,自動車業界のリバースチェーンにおける需要変動に対する最適物流構造の変更方策を考察した
著者
川島 慶子
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

一般的に18世紀の科学啓蒙といえば、その中心的課題は「科学理論そのものの普及」だけでなく「その普及により、科学的精神を公衆(ただし貧困階級はまず除外されている)にいきわたらせ、教会勢力の力を弱体化する」という二つの目標が設定されていることが多い。もちろん宗教に関しては啓蒙する個々人の宗教観の差から、単に「迷信」のみを廃し、キリスト教そのものは擁護する科学啓蒙もあれば、あらゆる宗教を廃止したい科学啓蒙まで様々である。ただ、こういった啓蒙の集積したものがいわゆるディドロとダランベールの『百科全書』となって結晶したというのは疑いのない事実である。さて、ここにジェンダーという視点を持ち込むとなにが見えてくるのか。まず発信者が男性で啓蒙の対象が女性である場合を考えると、上のような単純な図式にはならない。つまり、階級における矛盾(作者は「人類」といいつつ、その実貧困階級を無視しているといったこと)と同様、作者は中産階級の男性と女性を同列にみていないという問題の影響がでてくるからである。彼らは対象が女性の場合は、彼女たちを、より「教えられるべき存在」とみなしがちである。結果、教えるべき科学レベルは低いものへと限定される。たとえばフォントネルは女性たちに「数学」を抜いて宇宙論を説明した。実は男性読者も多数いながら、「女、子ども向き」科学は一段下のものとみなされるのである。では発信者が女性だとどうなるのか。これには作者が男性以上に、その女性の作品と実人生の両方を考慮する必要が出てくる。というのも、男性科学啓蒙家の女性に対する上記のような態度は、その社会のジェンダーの反映であり、女性たちもその束縛から完全にのがれることは困難だからである。本研究に調べた限りの女性たちにおいては、彼女たちが科学啓蒙にかかわるようになった事情はさまざまであるが、すべてのケースで当時のジェンダーのダイナミクスが彼女たちの活動と大きく関係していることがわかった。啓蒙の中身については、現代のフェミニズムと通じるような主張をする者から、男性科学啓蒙家のジェンダー観に忠実に、男女の「生得的」差異を強調する者まで幅広く存在することがわかった。ただどの場合でも、彼女たちの実人生は、当時のジェンダー規範に沿わないものであり、その主張の中身と彼女自身の行動は連動していないということも判明した。ここからも、女性が科学啓蒙の主体たることは、その思想如何にかかわらず、当時のジェンダー規範に反する行為だったのである。
著者
ニラウラ マダン 安田 和人
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

有機金属気相成長法によりSi基板上の厚膜単結晶CdTe成長層を用いて作製した、エネルギー識別能力を持つ、放射線検出器の高性能化を目的とし、検出器動作時における暗電流の低減と成長層高品質化に関する検討を行った。成長条件の最適化と成長層アニールにより、成長層内に存在する結晶欠陥の不活性化による暗電流を低減できる成長条件及びアニール条件を確立した。これに伴い、作製した検出器の性能の向上を確認した。
著者
NIRAULA Madan
出版者
名古屋工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では高い空間及びエネルギー分解能、高い検出効率を有する高性能放射線検出器を実現することを目的とし、CdTe半導体結晶を用いて検出器の作成を行った。CdTeは放射線に対する吸収係数が大きく、また禁制帯幅が大きいため常温動作可能な検出器を作製できる。しかしながら、CdTe検出器では電子と正孔の移動度と寿命差に起因する検出感度の低下や、エネルギー分解能劣化などの問題がある。それを解決するため本研究では新規の電極構造である微小収束型電極構造を持つ検出素子の検討を行った。今年度は昨年度得た成果を基に電極構造、検出器作製の最適化を行い、さらにこの検出器アレイ化について検討した。また、大規模アレイ作製に必要な素子分離に適用できるレーザーアブレーション技術の検討を行った。検出器作製技術の改良により単一検出器及び小規模アレイ(2x2素子)の検出特性の向上を達成できた。その結果は従来の結晶表面と表面に平面電極を形成した構造の検出器より優れた検出特性を持っていることが確認できた。また、検出器アレイでは素子間の特性のばらつきがなく、均等な検出特性が得られた。一方、レーザーアブレーションによるアレイの素子分離では結晶上に金属マスクを置きKrFエキシマレーザー照射することにより深いトレンチが形成可能であることを確認した。また、レーザー照射がCdTe結晶内に及ばす影響が少ないことが電気特性から明らかになった。以上の結果は来年度アメリカに開催予定の放射線検出器に関する国際会議に報告する予定である。
著者
森田 良文 鵜飼 裕之
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

理学療法士・作業療法士養成教育機関における下肢運動療法の教育実習のための下肢患者ロボットを開発し,教育現場導入に向けた教育効果を検証した.この患者ロボットでは,膝関節の固縮,拘縮,痙縮といった麻痺の症状や,関節可動域の低下などを再現できる独自の関節機構を用いることで,より人間に近い膝関節の運動を実現する.このような患者ロボットを用いることで,学生は臨床実習の前に訓練手技や検査手技の自主トレーニングが可能となり教育効果の向上が期待される.
著者
柴田 哲男
出版者
名古屋工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フルオロメチル基の特異的性質が医薬品の薬理効果発現や増強など好ましい結果をもたらすという事実からフルオロメチル基、特にトリフルオロメチル基含有化合物の合成研究に注目が集まっている。その主流となる方法は、今から四半世紀前に開発された求核的トリフルオロメチル化剤(Me3SiCF3、Rupert試薬)あるいは求電子的トリフルオロメチル化剤(梅本試薬)を用い、触媒存在下でトリフルオロメチルを導入する二つのタイプに大別することが出来る。今年になっても新しい触媒を用いたトリフルオロメチル化法が続々と発表されているが、実用的トリフルオロメチル化法にはほど遠い。特にトリフルオロメチルカチオン(^+CF_3)等価体を用いる求電子的トリフルオロメチル化反応は、求核的な方法に比べ、検討された形跡は格段に少ない。その原因は、トリフルオロメチルアニオンの場合以上に、利用可能な試薬に制限があることである。これまで報告されている求電子的トリフルオロメチル化試薬として、S-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウム塩、ペルフルオロアルキル化剤としてRf-I(C_6H_5)OSO_2CF_3(FITS反応剤)が挙げられる。近年では、Togniらによって超原子価ヨウ素を用いた求電子的試薬や梅本らによるオキソニウム塩も報告されている。しかしながら、これら試薬のうち、一部は市販もされてはいるものの、求核種に対する反応性は乏しい。そこで我々はスルホキシイミン型新試薬を開発した。この試薬は、取り扱い容易で安定な結晶であるにも関わらず、特に炭素求核種に対して高い反応性を示す良好な試薬である。硫黄及び窒素を最高原子価状態にすることで安定性を付与し、求核剤存在下では低原子価に戻る性質を反応起爆要因とした。
著者
大桑 哲男 直井 信
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

平成10年度はラットにおいて、一日の自由運動での走行距離は大きな個体差を認め、肝臓の水酸化ラジカルレベルは走行距離と負の相関関係を認めてきた(r=-0.533,p<0.05)。さらに水酸化ラジカルを除去する還元型グルタチオンは、肝臓、心臓および脳において、走行距離と有意な正の相関関係を認めてきた(肝臓ではr=0.532,p<0.05;心臓ではr=0.462,p<0.05;脳ではr=0.760,p<0.001)。平成11年度は、還元型グルタチオンは肝臓において、グルタチオン酸化還元酵素と高い相関関係があることを認めてきた。しかし、正規分布を逸脱する群では、有意な相関関係は認められなかった。さらに一日の運動量は、抗酸化能力と密接に関係していることが明らかとなった。今年度(平成12年度)は、成長期である5週齢ラットのWistar系ラットに3,6,12週間の自発的運動を課し、週齢と運動期間が抗酸化能に及ぼす影響について検討した。成長に伴い自発的運動量は11週まで増加した。しかし肝臓における水酸化ラジカル濃度は安静群と運動群ともに有意な変化は見られなかった。この水酸化ラジカルレベルに有意な変化が認められなかった理由として、成長と運動に伴い肝臓の還元型グルタチオン濃度が増加したことが考えられる。特に肝臓の還元型グルタチオン濃度の増大は、還元型グルタチオン生合成系酵素(γ-グルタミルトランスフェラーゼ、γ-グルタミルシステインシンターゼ)活性ではなく、還元型グルタチオン酸化還元系酵素活性(グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンリダクターゼ)が増加したことによることが示唆された。また、自発的運動を課することにより、成長期においてさらに抗酸化能の誘導が促進することが明らかとなった。さらに本年度では、人を対象にビタミンE投与が筋組織への損傷に及ぼす影響を明らかにした。4週間にわたるビタミンEの投与(1200IU/日)と、その後の6日間の激しい走行トレーニング(48.3±5.7km/日)中のビタミンEの投与は血清の過酸化脂質の生成を抑制した。激しい走行トレーニング群におけるビタミンE投与は、対照群(擬似薬群)に比べ、血清中のクレアチンキナーゼおよび乳酸脱水素酵素活性が低下した。これらの結果から、ビタミンE投与は、長期間の激しい走行トレーニングによって増大する活性酸素の生成を抑え、筋損傷を抑制したものと考えられる。
著者
津田 浩司
出版者
名古屋工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、インドネシアの国家的文脈のもとでの仏教・孔子教(儒教)・道教の動向と、華人の宗教意識との関わりを明らかにすることに専念した。この目的のため、報告者は2度(平成21年8月17日~9月8日、および平成22年2月12日~3月2日)インドネシアに渡航し、実地調査を行なった。前者の期間は、主にバリ島およびジャワ島東部に点在する30あまりの寺廟(中国寺院)の実態調査を行なうとともに、寺廟を統括する全国組織の理事らにインタビューを行なった。この調査で、インドネシア国内の寺廟のあり方の地域的特性を比較することができたのみならず、「華人の伝統的宗教」と目される寺廟組織の来歴や現状を把握し、かつ近年国家公認化された孔子教との間に生じ始めている軋轢についても実地に観察し聞き取ることができた。なお、昨年度は同目的のため中・東ジャワ州の寺廟調査を行なったが、その成果は『アジア・アフリカ言語文化研究(79)』に論文として掲載された。後者の渡航期間中は、まず報告者が2002年来調査している中ジャワ北海岸の港町ルンバンに滞在し、同地の華人コミュニティの動向について最新の情報を得るよう努めた。この調査においては、近年中央レベルで顕著になりつつある華人の社会政治団体/利益団体の動きとは異なる、ローカルな論理で展開している地方レベルの現象に焦点を当てることで、当初掲げたもう1つの課題、すなわち、日常的対面関係を超え出るような「華人」としての何らかの連帯が今日のインドネシア社会において人々の実感を伴う形で成立するかを明らかにするための、重要な視点を得ることができた。日程の後半は、西カリマンタン州のポンティアナック市およびシンカワン市で元宵節の祭を観察するとともに、ジャワとは全く異なる歴史的背景を持つ華人コミュニティの実情を知ることができ、これまで主にジャワでの調査により得てきた華人コミュニティに関する知見を対象化することができた。
著者
片山 喜章 高橋 直久 和田 幸一 高橋 直久 和田 幸一
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

無線通信装置を有する大量のセンサー端末が互いに通信しあうネットワークがセンサーネットワークであり,これは一般の無線通信端末による"アドホックネットワーク"(無線通信ネットワーク)として捉えることが可能である.本研究では,アドホックネットワーク上で効率のよい通信を実現するための論理的構造の構築方法と経路制御手法,および端末が自律的に移動する場合にそのシステムがどのように制御可能かを明らかにした.これらの成果を,7編の論文,8件の国際会議,および学術誌解説記事と招待講演各1件で発表した
著者
岡田 成幸 谷口 仁士 井戸田 秀樹 林 勝朗 竹内 慎一 名知 典之 中嶋 唯貴 島田 佳和 石田 隆司
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本邦の主要住家である木造建物(倒壊により死者発生危険度が特に高いとされている構造形式)について、地震からの構造健全性を微動のカオス挙動を測定する手法を応用して逐次監視し、さらに監視結果である物理指標を居住者に分かり易い防災情報(生命安全性)に変換し提供(リスクコミュニケーション)することにより、構造ヘルスモニタリングを人的被害軽減化対策システムとして防災に有効活用させる方途を考究した。
著者
佐野 明人 藤本 英雄
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は, 動力やコンピュータを持たない歩行ロボットに関するものである. ロボットを歩かせるのではなく, 歩けるような脚・足にすることで, ロボット自身が自然かつ滑らかに歩行することができる. 開発したロボットは, 約2時間歩き続けたり, 時速3.3[km/h]で素早く歩いたりすることができ, しかも歩く姿はヒトそっくりである.
著者
北村 正 徳田 恵一 後藤 富朗 宮島 千代美
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

今年度は、手話の手座標・形状情報の統合に基づく認識法の検討、アクティブ画像探索法に基づく手の高速追跡法、基本動作モデルの検討を行った。以下にそれぞれについて述べる。1.国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所開発の日本手話データーベース(DB)を利用した。当該DBの中から動作数の多い手話動作者、出現頻度の高い18単語を選び学習・認識の対象とした。手話の特徴パラメータとして、手の動作と形状情報を利用しているが,それらを統合する方法(初期統合法、結果統合法)を検討した。動作:形状に7:3の重み付けをした統合により、形状情報単独に比べて誤り改善率が12.5%と向上し、82.8%の単語認識率が得られ、その有効性が示された。手話単語モデル作成には隠れマルコフモデルを用いている。2.手の座標抽出の実時間処理を目指して、アクティブ画像探索法に基づく方法を検討した。提案法は、過去の手座標から現在の探索範囲を予測し、探索範囲内の動作領域と肌色領域の情報から手座標を高速抽出する方法である。RWCPの手話単語DBに対して、肌色情報のベクトル量子化に基づき手の座標を抽出する従来法と比較を行い、4倍高速に抽出可能であることを確認した。3.前後の基本動作情報に基づくコンテキストクラスタリングを用いる基本動作モデル学習法を提案した。RWCPの手話単語DBを用いたが、まず手話単語を基本動作のラベル付けを行い、コンテキストクラスタリングに基づいて基本動作モデルを作成し、更に連結学習により各モデルを再学習する。得られた基本動作モデルの接続により任意の単語モデルを作成する。研究では、33単語モデルの認識実験を学習データに対して行ったが、約93%の認識率が得られ、提案法の有効性が確認できた。今後は,テストデータに対して有効性を検討していく予定である。
著者
南 範彦 西田 吾郎 吉村 善一 古田 幹雄 夏目 利一 島川 和久
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

Gを位相群、X, YをG-空間とする時、XからYへのG写像全体のG-ホモトピー類全体の集合[X, Y]^Gが空集合で無いための極めて普遍的な障害類として、G空間対X, Yのオイラー類e(X, Y)∈[X_+,S^O*Y]^G_*を定義し、何時これが完全に忠実な障害類になるか(つまり、e(X, Y)が自明なら[X, Y]^G≠0が帰結できるか)など、幾つかの性質を得た。この問題に関しては、現実的に計算しやすい(一般に忠実とは限らない)障害類を原靖浩氏とともに開発した。このような考え方は、Farberによって定義されたロボットアームなどのモーションプラニングの困難度を測るトポロジカル・コンプレクシティーの考察や、また抽象ホモトピー論としてのモデルカテゴリー的な観点からVoevodsskyらのA^1-ホモトピー論や関する幾つかの知見も得るのに用いられた。またHELPを通した特異点論におけるThom多項式の一般化にも着手し進歩が得られた。古田幹雄氏は、適当なコホモトピー群に値を持つ境界のない4次元可微分多様体に対する安定ホモトピーSeiberg-Witten不変量と違い、境界のある4次元可微分多様体に対する安定ホモトピーSeiberg-Witten-Floer不変量は、Fredholm Universeというproスペクトラムという、代数的位相幾何学での伝統的なMay流のuniverseの手法を用いてcoordinate freeなスペクトラムで表そうとすると対応するuniverseがtwistされたものを用いて表されることに注意した。これは従来の代数的位相幾何学には存在しなかった現象で、極めて興味深い。また、期間中には以下の多くの研究集会を主催し、活発な研究連絡を行った。1.国際会議"International Conference on Algebraic Topology"(2003年07月27日〜08月01日)2.名工大代数的位相幾何学国際ワークショップ03(2003年08月03日〜08日)3.名工大ホモトピー論集会01(計1回),02(計4回),03(計1回),04(計1回)。
著者
新谷 虎松 大囿 忠親
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

Web情報は、意味的な構造を持たないテキストであり、計算機を用いて情報の統合や検索をするためには、多くの課題を解決する必要がある。本研究では、既存のWeb情報を閲覧者の観点で構造化し、効果的な情報閲覧を支援するための新たな技術として、HTMLを意味的な構造へと変換するための新たなWebページ分割アルゴリズムを開発した。本アルゴリズムの応用として、エージェント技術に基づく知的Webブロック管理機構を実装した。本技術により、Webページから特定のWebコンテンツを高い精度で収集可能になり、また、既存のWebコンテンツの再利用性を向上させ、Webページの閲覧性を効果的に改善できる。
著者
石川 有香 小山 由紀江 カレン ブライアン 浅井 淳
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、東海圏の工業大学の初年次学生を対象とした英語教育システムTEEE(Tokai English Education for Engineering Students)の開発を目的とする。東海圏の英語教員によるネットワークを作成し、現在のESP教育の問題点を明らかにし、開発した新しい教育方法と教材を実施する。研究の結果、工業大学の初年次学生は、工学や英語の知識は乏しいが、概して工学への強い学習動機が備わっているため、TEEEによるESP教育は効果的である可能性が示唆された。