著者
大東 宏 小野 祐幸 冨永 茂人 森永 邦久 工藤 和典
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.331-346, 1980

ウンシュウミカンの栽植様式. 樹形. 整枝並びにせん定などの樹形管理技術の合理化と品質向上対策を図るための基礎資料を得る目的で, 1977年の7月から同年12月にかけて, 開心自然形と柵仕立ての杉山系普通ウンシュウミカン成木の異なる着果部位における受光量, 気温及び果実温の日変化を調査した. 結果は以下のとおりである.<br>1. 各月の1日の総全周短波放射量は, 開心自然形樹では樹冠の南側上部において最も高く, 他の着果部位でも概して上部において南側とほぼ同じであったが, 柵仕立て樹では樹冠上部でも少なかった. この相違は, 柵仕立て樹が南北方向の生垣状樹形で, 日射程度が午前と午後とでかなり異なるためであり, 開心自然形樹では半球状樹相のため, 終日平均的に日射を受けることによるものであろう. 樹冠下部の1日全周短波放射量はかなり少なく, 特に北側下部では, 秋季には南側上部の2%程度に落ち込み, 夏季においても45%程度となった. 樹冠内部における1日の総全周短波放射量は低く, 特に柵仕立てでは南側上部の10~20%程度であった.<br>2. 開心自然形樹の着果部位ごとの気温は, 樹冠南側, 東側上, 下部, 内部では, 日の出から正午過ぎにかけて西側上, 下部, 北側上, 下部よりも早く昇温したが, その後日没まで, 西側上, 下部よりも低くなって徐々に下降した. 西側上, 下部では14時頃までは, 昇温が遅れぎみとなったが, その後16時頃までにかなり高くなり, 更に日没まで他の部位よりも高く, 特に東側上, 下部よりも明らかに高温で推移した. 北側上部では日の出から時期にもよるが16~18時頃まで昇温は遅れたが, その後日没まで東側上, 下部よりも高くなった.内側では午前中西側上, 下部, 北側上, 下部より昇温は早かったが, その後16~18時頃まではほぼ一定気温で推移し, 概して16時以降東側上, 下部よりも高かった.<br>柵仕立て樹の着果部位ごとの気温は, 午前中は樹冠の東側上, 下部の昇温が顕著であり, 西側上, 下部では東側よりも遅れて昇温した. 正午になると, 西側上, 下部において高くなり, その後日没に向って下降するものの, 他の部位よりも明らかに高く, 特に, 東側よりも西日の影響が強く現れ, 長く高温が持続するものと思われる. 樹冠内側では東西から太陽の影響を受けているため, 各部位の同時刻の気温の昇降変化のなかで常に中間的な推移を示した. ところが, 東側上, 下部では時期にもよるが14時頃から気温の低下が速くなり, 日没まで各部位中最低の気温を示した. このように, 柵仕立て樹では午前と午後とで気温分布がかなり異なっていることが明らかである. その理由として, 同樹形樹は南北方向の壁様樹相を呈し, しかも樹冠幅は狭いものの枝葉の着生密度が高いため, 大気が枝葉間を流れにくい状態となっていることから, 午前中は東側が, 午後は西側の気温が高まりやすくなると考えられた. そのため, 特に西側では西日の受熱量が貯えられやすいものと思われた.<br>3. 開心自然形樹の果実温は, 午前中, 東側上, 下部の温度上昇が早く, その後西側上, 下部が高くなった. 南側の果実温は午前中は, 東側よりも, また, 午後には西側よりもそれぞれ低くなった. 北側上部の果実温は, 午前中低かったが, 午後かなり過ぎると, 南側よりもむしろ高くなった. 北側下部では果実温の昇温は著しく遅れ, 日中は低かった. 内部でも北側下部とほぼ同様に果実温の上昇は遅れ, 午後も低くなった. 柵仕立て樹では午前中, 東側上, 下部, 西側上部の果実温は早く上昇し, 東側下部ではその後急下降したが, 正午以降再び上昇した. そして, 日没に向って下降した. 西側下部, 内部の果実温は正午過ぎまで他の部位よりも上昇は遅く,しかも最高温度も低く, 更に, 夕刻近くなると, 内部の低下は特に早かった. 西側下部では西日を受け, しかも地表面温度の影響を受けるためか, 果実温度の下降は遅れぎみとなった.
著者
浅尾 俊樹 谷口 久美子 冨田 浩平
出版者
園藝學會
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.519-521, 2001 (Released:2011-03-05)

養液栽培された葉菜類について、自家中毒の種間差異について検討した。6科16種の葉菜類を活性炭添加および無添加の条件において培養液非交換で栽培した。葉菜類の収量にあたる地上部の生体重は、パセリ、セルリーミツバ、リーフレタス、サラダナ、葉ゴボウ、シュンギク、チンゲンサイおよびケールで活性炭添加区に比べて無添加区で劣った。活性炭無添加による生育抑制はパセリで最も著しかった。コマツナ、ハクサイ、葉ダイコン、ネギ、シソおよびホウレンソウでは活性炭無添加による生育の抑制はみられなかった。以上より、セリ科、キク科および一部のアブラナ科に自家中毒を示す葉菜類がみられた。
著者
陳 介余 宮里 満 石黒 悦爾 難波 直彦
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.951-956, 1993
被引用文献数
1

本報では打撃力による農産物の硬度を非破壊的に測定する方法を提案した. 簡単な弾性モデルを用いて打撃力を解析した結果, 特性値kは農産物の弾性係数などの内部品質だけに影響され, 農産物の大きさと打撃力の強さに影響されないので農産物硬度の判定指標とすることが可能であることが示された.<BR>また, カボチャと桜島大根を供試材料として, 打撃装置を利用して統計的な実験をした結果, その硬度とk値との間にそれぞれ0.93, 0.92の相関係数が得られた. 従って, 本方法はカボチャと桜島大根の硬度を非破壊測定するには可能だと思われる.
著者
狩野 敦 コーネリアス H.M.バン ベーブル
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.408-416, 1988
被引用文献数
1 10

温室トマトの決定論的生長モデルを1)葉の光合成モデル, 2)生長と呼吸の理論, および3)光合成が環境条件と葉中光合成産物の濃度に律速されているという仮説に基づいて開発した. モデルは Pascal 言語で記述され, トマトに対する二酸化炭素(CO<sub>2</sub>)増与の効果をシミュレートするのに用いられた. 1983年から1984年にかけてアメリカ合衆国テキサス州カレッジステーションにて行なった2回の栽培実験の結果とモデルの出力を比較した. この栽培実験のために, 著者らは3つの2×2×10mのポリエチレンチャンバーを二重ポリエチレン温室内に構築し, チャンバー内空気のCO<sub>2</sub>濃度をそれぞれ340,700, 1000ppm(容量)に制御してトマトを栽培した.<br>モデルはトマトのCO<sub>2</sub>同化速度を低めに出力したが,果実の生育量とその収量はかなり正確に予測した.このモデルを用いて, 環境条件がトマトに与える影響を予想したり, いろいろな栽培環境における温度制御法の効果を推定したりすることが可能なことがわかった.また, このモデルが温室モデルに組み込まれることにより, 温室内で栽培されたトマトの生育や収量, 暖房熱,水やCO<sub>2</sub>の必要量などを温室外環境から推定するのに役立つと思われる.
著者
小山 佳彦 宇田 明
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.203-209, 1994
被引用文献数
11 20

ステージIVで収穫したつぼみ切りカーネーションの開花環境について, 淡桃色の'ノラ'および赤色の'コーラル'を供試して, 温度, 照度, 開花液のショ糖濃度が開花後の品質に及ぼす影響について検討した.<BR>1.温度を20°, 25°, 30°Cで実験したところ, 温度が高くなるにつれて開花所要日数は短くなり, 品質保持期間が増加したが, 茎の基部に発現した褐変障害も大きくなった. しかし, 開花所要日数と品質保持期間を合計した採花後からの日数に一定の傾向はなかった. 花色は20°, 25°Cで自然の花色に近くなったが,30°CではL値の増加とa, b値の減少がみられ, 淡い花色になった.<BR>2.照度を0.2,1,2,3klx連続照明で実験したところ, 花茎, 品質保持期間などには影響しなかったが, 花色に影響があらわれ, 'ノラ'が0.2~1klxの低照度で, 'コーラル'が2~3klxの高照度で自然の花色に近くなった.<BR>3.開花液のショ糖濃度が高くなるにつれて花径および品質保持期間が増大したが, 7%以上で葉とがく筒裂片先端部にしおれがみられた. また, ショ糖濃度が高くなると, L値が減少し, a, b値が増加し, 濃い花色になったが, 品種本来の花色に最も近かったのは, 3%区であった.<BR>4.以上のことより, つぼみ切りカーネーションを開花させるための最適環境は, 花色を中心に考えると,温度は20°~25°C, 照度は淡桃色系品種'ノラ'は0.2~1klx, 赤色系品種の'コーラル'は2~3klx, 開花液のショ糖濃度は3%であった.
著者
小山 佳彦 宇田 明
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.211-217, 1994
被引用文献数
4 4

母の日の数日前に高品質のカーネーションを出荷するために, つぼみ段階で採花した品種'コーラル'の貯蔵性, STS処理, 開花室, 市販開花液について検討した.<BR>1.品種'コーラル'の貯蔵限界は, 開花所要日数を考慮すると, 12週間であった.<BR>2.5月上旬の温室内平均温度は約20°Cで, 1°Cで4週間貯蔵したつぼみ切り切り花の開花環境条件に適しており, 切り花の花色は自然開花のものに近くなった.<BR>3.貯蔵後のSTS処理 (1mM, 2時間) は, 開花後の品質保持期間を向上させた.<BR>4.貯蔵後のSTSの処理と開花室としての温室および市販開花液の利用により, 高需要期である母の日の数日前に高品質の切り花が得られた.
著者
金 国光 内藤 俊栄 松井 鋳一郎
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.496-502, 2004-09-15
参考文献数
19
被引用文献数
1

来歴や親子関係の不明な品種・系統を含むCaleya walkeriana、C.nobilior、C.loddigesiiおよびそれらの交配種、計25品種・系統について類縁関係および花色の異なる品種間の識別マーカーを明らかにするためRAPD分析を行った。8種の12および10塩基プライマーにより176本の多型バンドが100-2000bp範囲で検出された。その中で65本のRAPDマーカーを用いてクラスター分析を行った結果、C.walkeriana(2交配種を含む)、C.nobiliorおよびC.loddigesiiは3つの大きなクラスターに分離し、C.nobiliorをC.walkerianaと形態的、生態的に別種とするBriegerら(1981)の分類を支持する結果が得られた。これまでC.nobiliorあるいはC.loddigesiiとの交配種と考えられていたC.walkeriana var.alba 'Pendenive'はC.walkerianaアルバ品種と同一のクラスターに分類された。さらに、異なる花色を持つC.walkeriana品種はプライマー1種を用いたRAPD分析で識別された。
著者
遠山 柾雄
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.229-236, 1974
被引用文献数
2 2

培地の砂の粒径組成とキュウリの初期生育との関係を調べるために, 九州大学ファイトトロンの25°C照度10,000ルックス人工照明室を供試して実験を行なつた. さらに, ファイロンハウス下での結果と比較検討した.<br>1. 8, 12, 16および24時間の各日長区の中では16時間日長下で粗砂大および細砂区の間の地上部重, 地下部重はともにもつとも差が大きかつた.<br>2. 細砂区に対する粗砂小, 中および大の各粒径区の比率は茎長, 葉面積, 地上部重および地下部重の各形質ともほぼ同様の指数値をしめした. すなわち, 各形質とも細砂区を100とした指数で表わすと, 粗砂小80~90, 粗砂中40~50. 粗砂大35~40であつた.<br>3. 粗砂大に粗砂小および細砂を重量比で20%ずつ増量混合した場合のキュウリの初期生育はファイトトロンとファイロンハウスの両環境条件下ともに傾向は等しく, 粗砂小の場合40%, 細砂の場合20%以上の混合比で地上部乾物重の増加はみられなくなつた.
著者
松本 美枝子
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.206-214, 1988
被引用文献数
2

富山県等においてハクサイの主脈や葉脈に多数のゴマ状の黒色斑点の発生が認められた. この症状はゴマ症と呼ばれ, 発生の激しい場合は市場価格が著しく低下する. しかしゴマ症発生とその防止に関する報告は少ない.<br>本報告ではまずハクサイ生育中のゴマ症発生の特徴を調査し, さらに発生部位とその周辺を形態学及び組織化学的に観察した.<br>1. &lsquo;ひばり&rsquo;や&lsquo;耐病60日&rsquo;に認められるゴマ症の発生は, その現象から2タイプに分けられた. タイプ1は未成葉で発生し, 初期生育が異常促進されることと密接な関係があった. タイプ2は成葉で発生し, 結球重に対する外葉重の割合の低下が関係していた.<br>2. 形態学的には, 斑点発生に先だち, まず細胞内顆粒の肥大が認められ, その後細胞壁が褐変した. この細胞壁の褐変は, 細胞内顆粒や核の肥大と共にさらに拡大し, 周辺には原形質分離細胞が認められた.<br>3. 組織化学的には, 斑点発生部位にクロロゲン酸の存在とポリフェノールオキシダーゼの活性が認められ,その周辺にポリフェノールの存在とパーオキシダーゼの反応が認められた.<br>4. 褐変細胞の顆粒周辺に亜硝酸の分布が認められ, 細胞内顆粒の肥大が認められる部分と一致した.
著者
平 智 大場 節子 渡部 俊三
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.437-443, 1992
被引用文献数
3 7

エタノールと炭酸ガスを併用した渋ガキの脱渋に関する基礎的なデータを得るため, '平核無'果実を供試してデシケータを用いた脱渋実験と, 約10tの果実を一度に処理できる大型施設脱渋における果実の品質調査を行った.<BR>大型デシケータを用いた脱渋実験の結果, エタノールと炭酸ガスの脱渋剤を同時に処理すると脱渋はわずかに速まるが, 脱渋効果のほとんどは炭酸ガスの作用によることが明らかであった. ただし, 脱渋中の果肉にはエタノール, アセトアルデヒドとも, 炭酸ガス単用の果実よりも多く蓄積した. エタノール処理と炭酸ガス処理を連続して施した場合も脱渋は主に炭酸ガスの作用によって進行した. この場合, 炭酸ガス単用の場合に比べて果肉硬度の低下を若干促進する効果が認められた.<BR>大型施設でエタノール•炭酸ガス併用脱渋における果実の品質を調査した結果, 脱渋は主に炭酸ガスの作用によっており, デシケータを用いた脱渋実験で得られた結果と同様にエタノールを併用することで果肉硬度の低下が若干促進されるものと思われた.
著者
李 玉花 崎山 亮三 丸山 浩史 河鰭 実之
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.28-32, 2001-01-15
参考文献数
16
被引用文献数
12

イチゴ'女峰'における果実の発達にともなうアントシアニン合成経路遺伝子の発現を調べた.果実の色は開花3週間後に薄い緑色から白色に変わり, その後成熟期までアントシアニンの蓄積は続いた.また, この時期から全糖含量が増加を始めた.スクロース含量が成熟期まで上昇し続けたのに対し, グルコースとフルクトース含量は成熟に伴ってほとんど変化しなかった.フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)とカルコンシンターゼ(CHS)遺伝子の発現は果実の発育を通して大きな変化を示さなかった.カルコンイソメラーゼ(CHI)とジヒドロフラボノール4-還元酵素(DFR)遺伝子の発現は, 若い果実では高かったが, 白熟期に著しく低下したのち着色に伴って再び増加した.2回目のCHIとDFRの発現の上昇はこれらの酵素の発現が成熟期のアントシアニンの合成調節に関与することを示唆した.
著者
板村 裕之
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.89-98, 1986
被引用文献数
19 20

1. 発育段階の異なるカキ'平核無'果実を用いて,果実の生理活性の指標となる呼吸量, エチレン生成量を,採取後無処理のものと, 30%アルコール脱渋処理をしたものの2区について測定し, あわせて果実のヘタ脱落や軟化についても観察した.<br>2. 果実はその最大横径の推移からみて, 6月上旬から8月末ごろまでがステージI, 8月末ごろから9月20日ごろまでがステージII, 9月20日ごろから11月初めまでがステージIII, それ以降がステージIVの各発育段階に分けられた. 樹上における果実の果肉硬度は, ステージIIまで漸減した後, ステージIII以降やや低下速度が速くなった. ステージIV以降の果実では樹上で急速に軟化が進行し, 12月初めには熟柿の状態となった. 9月20日ごろより果実の着色が始まり, その後急速に着色が進行した.<br>3. 採取後, 20°C定温室にて果実を貯蔵したとき, 未熟果は完熟果に比べて呼吸量が高く推移し, エチレン生成のピークが早く現れると同時に, そのピーク値もかなり高い値を示した. それと平行して, ヘタの脱落が認められ, 果実の軟化も急速に進行した.<br>4. 採取後, 果実に30%アルコール蒸気による脱渋処理を行うと, 無処理の果実に比べて呼吸量が高く推移するとともに, 処理後2~3日でエチレン生成のピークが形成された. それと平行して軟化速度も早くなり, 未熟果においてはエチレン生成のピーク付近において, 果実の急速な軟化とヘタの脱落が認められた. このことより, アルコール処理は, 採取後無処理の果実に起こる種々の生理的変化を促進する役割を果たすと思われた.<br>5. 採取後, 果実に30%アルコール処理を行うことによって, 熟度の異なる果実の呼吸活性やエチレン生成能 (生理活性) と, 果実の生理的変化を調査した. その結果, ステージIIの未熟果は生理活性が高く, アルコール処理によってヘタの脱落と急速な果実の軟化が起こった. 着色開始期のステージIIからステージIIIにかけての果実 (9月中旬ごろ) は, 個々の果実間で生理活性が大きく異なり, 果実の軟化やヘタの脱落の有無などにもかなり大きな変異が認められた. ステージIIIに入った9月下旬ごろより急速に果実の生理活性が低下し, それと平行してヘタの脱落が認められなくなり, 果実の軟化もかなり緩慢となった. その後, 熟度が進むに従って果実の生理活性が低下し, アルコール脱渋後の貯蔵性は完熟期において最高となった. 落葉期以後, 樹上で果実が軟化するに従って果実の貯蔵性も低下した.<br>6. アルコール脱渋後, 急速に軟化する果実が混入する危険性がなくなる時期は, 山形県庄内地方においては満開後120日ごろの10月10日ごろであると思われた.
著者
前川 進 寺分 元一 中村 直彦
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.251-259, 1980
被引用文献数
3 9

開花後濃色化する変色型バラ品種′絵日傘′(F1.)の花色素生成に及ぼす光の影響を調べるために, 鉢植え個体の花蕾及び単離花弁への種々の光処理を行った.<br>20°C下での単離花弁の培養において, 10~20%しょ糖培地で多くのアントシアニンの生成が得られ, 置床後3日間はその生成量も多かった.<br>暗黒及び可視光のみの照射のもとでアントシアニンは生成されず, 330nmより短いUVを含む光の照射によってはじめて生成が認められた.<br>UVの強さや照射時間が増すにつれて, 色素量は増加するが, 強いUVを短時間照射するよりも弱くても長時間与えた方が同じエネルギー量で効果が大きかった.<br>一方, 可視光はUV照射の前かあるいは同時に照射された場合, アントシアニンの生成に促進的に働き, UVのみの照射と比べて著しく色素含量を増加した. 更に, その可視光の強さが増すとともにアントシアニンも比例して多く生成された.<br>可視光とUVを交互に照射したとき, その周期が短いほど生成されるアントシアニン量は多かった.<br>栽培中のバラに対して, UVを夜間より日中に照射した場合, より多くのアントシアニンが生成された.
著者
山内 直樹 南出 隆久
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.265-271, 1985
被引用文献数
10 30

本研究は, パセリーにおけるペルオキシダーゼによるクロロフィルの分解について追究した. パセリー葉身のエタノール抽出物にペルオキシダーゼ並びに過酸化水素を添加すると, クロロフィルの分解が認められた. しかしながら, 精製したクロロフィルはペルオキシダーゼ•過酸化水素系で分解されなかった. この結果から, パセリーのエタノール抽出物中に含有される未知物質がペルオキシダーゼ•過酸化水素系によって酸化され, その酸化生成物がクロロフィルを分解しているものと思われたので, 以下未知物質の検討を行った.<br>未知物質は溶媒分画並びにカラムクロマトグラフィーによって分離され, 紫外部吸収極大位置からアピゲニン配糖体であると推定した. さらに, 塩酸による加水分解によりアグリコンを抽出し, 薄層クロマトグラフィーでのRf値並びにスペクトル特性の検討により, 未知物質はパセリーの主要フラボノイドのアピゲニンであることを同定した.<br>以上の結果から, パセリーにおけるクロロフィルの分解は, ペルオキシダーゼがアピゲニンを酸化し, 生成したアピゲニンの酸化物がクロロフィルを分解することを認め, 収穫後におけるパセリーの黄化にペルオキシダーゼが関与しているものと推察した.
著者
山本 隆儀 渡部 俊三 阿部 豊
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.297-305, 1981
被引用文献数
1

ナシ樹, 特にセイヨウナシの水ストレスの激化の原因として, 過度の葉面蒸散ばかりでなく, 根の水吸収の能率の低さからもたらされる樹体水収支の不均衡が考えられるが, この面の調査はこれまで行われていない. 本実験では, 2年生のバートレット, レッド•バートレット及び二十世紀 (いずれもヤマナシ台) を用いて, ガラス室内で, 自動かん水器法, Impens らの着生葉の蒸散測定法及び heat pulse 法を組み合わせて, 樹体の水吸収速度及び蒸散速度の日変化ならびに季節的変化を測定し, 水収支及びこれらに及ぼす気象要因の影響などを調査した.<br>(1) 日吸水量と日蒸散量の値は共に, レッド•バートレット, バートレット, 二十世紀の順に大きく, 両者の比は3品種ともほとんど等しい変化を示した. 両者とも日平均<i>VPD</i>との間に, 気象要因の中で最も高い相関関係が見られ, 日平均<i>VPD</i>が約9mmHg, 総日射量が約400cal cm<sup>-2</sup>day<sup>-1</sup>を超えると, 日蒸散量が日吸水量を上回った. またそれら限界日平均<i>VPD</i>, 総日射量での日蒸散量 (=日吸水量) は, バートレットで約12g dm<sup>-2</sup>day<sup>-1</sup>, レッド•バートレットで約13.5g dm<sup>-2</sup>day<sup>-1</sup>及び二十世紀で約10.5gdm<sup>-2</sup>day<sup>-1</sup>であった.<br>(2) 5日間の日変化の調査では, いずれの日も朝から昼にかけて蒸散が吸水を上回り, 特に梅雨明けの晴天日にはその傾向が著しかった. 午後から夜を通して逆に吸水が蒸散を上回り, 午前に生じた水の不足分を補なっていた. 7月上旬や8月上旬に比べて, 8月下旬では. 昼間の蒸散速度に対して吸水速度が相対的により大きかった. このような傾向は3品種に共通して見られたものの, バートレットでは, 昼間の一時期に, 吸水と蒸散の両速度の較差がより広がることが見られた. 主幹部のheat pulse の移動速度の日変化曲線の形は, 上記両曲線の中間的な形を示したが, 若干ながら蒸散速度のそれに似ていた.<br>(3) 以上の結果, 蒸散と吸水との間に複雑な相互作用が認められたが, 昼間の水ストレスには, 本来的に根の水吸収能率が低く, 吸水が蒸散に追いつけないことが大きく関与するものと推察された. 更に, 実際のほ場栽植樹では, 根圏土壌の乾燥, 浅根化, 根腐れ及び根の生理的活性の低下などが併発することによって, 一層水ストレスが顕著になるであろう.
著者
尾形 凡生 植田 栄仁 塩崎 修志 堀内 昭作 河瀬 憲次
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.251-259, 1995-09-15
被引用文献数
3 10

数種類のジベレリン生合成阻害物質がウンシュウミカンの着花促進に及ぼす効果について調査した.<BR>1. パクロブトラゾール, ウニコナゾール-P, プロヘキサジオン-CaおよびCCCを秋期 (1986年10月末~12月末) に3回散布したところ, パクロブトラゾールおよびウニコナゾールーP処理が翌春の着花数を有意に増加させた.<BR>2. パクロブトラゾール, ウニコナゾール-P, プロヘキサジオン-CaおよびGA<SUB>3</SUB>を冬期 (1992年12月19日~1993年3月10日) に散布処理した. パクロブトラゾールでは, 1月10日および1月30日, ウニコナゾール-Pでは1月30日, プロヘキサジオン-Caでは, 12月20日~1月30日の処理によって有意な花数増加が得られた. GA3は各処理時期とも着花を著しく抑制し, とくに1月10日処理における着花抑制効果が高かった.<BR>3. 1993年1月30日にパクロブトラゾール, ウニコナゾール-Pおよびプロヘキサジオン-Caの100,300,1,000および3,000ppm溶液を散布したところ,パクロブトラゾールでは100~1,000ppm, ウニコナゾール-Pでは100ppm, プロヘキサジオン-Caでは300~1,000ppm処理で花数の増加効果が認められたが, このうちパクロブトラゾールの100ppm処理区では着蕾後の落花 (果) が発生した.<BR>4. パクロブトラゾール, ウニコナゾール-Pおよびプロヘキサジオン-Caの1,000ppm溶液を1993年1月10日~2月20日に1~3回散布したところ, いずれの薬剤でも3回処理が最も効果的で, 1,2回処理でも花数は増加する傾向にあった.<BR>
著者
勝川,健三
出版者
園藝學會
雑誌
園藝學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, 1999-07-15

Nerine 7種を用いた24通りの種間交雑組み合わせのうち, 12組み合わせで植物体を得ることができた.Nerine 3種を種子親に用い, 数種のヒガンバナ科植物を花粉親にして交雑を行ったところ, 19の交雑組み合わせのうち6組み合わせで植物体を得ることができた.
著者
土師,岳
出版者
園藝學會
雑誌
園藝學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, 2001-07-15

モモの溶質品種'白鳳', 不溶質品種'アーリーゴールド', および硬肉品種'有明'を供試し, 収穫後における果肉硬度とエチレン生成量の推移を調査した.溶質品種と不溶質品種では程度の違いはあるものの, 果肉硬度の低下とエチレン生成量の増加が認められるのに対して, 硬肉品種では果肉硬度の低下とエチレン生成が認められず, 溶質および不溶質品種とは明確に異なる成熟特性を示すことが明らかになった.このように硬肉品種はエチレン生成に関する変異体であり, 生食用モモ品種の日持ち性向上育種を進める上で有用な形質と考えられる.
著者
後藤 丹十郎 高谷 憲之 吉岡 直子 吉田 裕一 景山 詳弘 小西 国義
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.760-766, 2001-11-15
参考文献数
19
被引用文献数
5 5

根域制限によって生じるキクの生育抑制が, 養水分ストレスの軽減によってどの程度まで解消できるかを明らかにするため, 連続給液式の水耕法と1日の給液頻度を異にした点滴灌水式の培地耕を用いて根域制限と養水分ストレスに対する品種'ピンキー'の反応を調査した.連続給液水耕では, 茎長, 節数は定植25日後においても根域容量(10&acd;1000ml)による差が生じなかったが, 葉面積, 地上部・地下部乾物重は根域容量が小さいほど抑制された.最も抑制程度が大きかった葉面積には定植10日後から影響が認められ, 定植25日後には根域容量10mlで根域容量1000mlの約70%となった.S/R比は根域容量の減少に伴って大きくなったが, その差は比較的小さかった.点滴給液した培地耕において, 根域容量30mlで給液頻度が少ない場合には, 定植14日後から茎長に差が認められたが, 8回では28日後においてもほとんど差が認められなかった.根域容量が小さいほど定植35日後の地上部の生育は劣ったが, 根域容量30および100mlでは給液頻度が8回以上の場合, 1および3回と比較して抑制程度はかなり小さくなった.地下部乾物重は給液頻度に関わらず根域容量が大きくなるほど重くなった.S/R比は給液頻度1回および3回では根域容量による影響がみられずほぼ一定であったが, 8回および13回では根域容量が小さくなるほど大きくなった.以上のように, 養水分を十分に与えることによってキクの生育抑制を軽減することができたことから, 根域制限による植物体の生育抑制の最大の要因は, 養水分ストレス, 特に水ストレスであると推察された.100ml以下の根域容量で栽培されるキクのセル苗や鉢育苗においては, 養水分供給頻度を高めることによって, 養水分ストレスが回避され, 生長が促進されると考えられる.
著者
今西 英雄 植村 修二 園田 茂行
出版者
園藝學會
雑誌
園芸學會雜誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.483-489, 1986
被引用文献数
2

1. くん煙あるいはエチレン処理により休眠打破を促した球茎と無処理の球茎とを用いて, 発芽試験, 球茎最上腋芽における葉の分化及び底部における根の出現の推移より, 球茎の休眠の様相を明らかにすると共に, これらの球茎を異なる時期より低温処理に移し, いつから低温感応が可能であるかを調べた.<br>2. 室温下に貯蔵された無処理の球茎では, 8月31日に最上腋芽で葉の分化が再開し, 引き続いて根の出現が認められ, この段階の球茎を14&deg;C下で置床すると速やかな発芽がみられた. これに対し, 無処理球に比べエチレン処理球では2週間, くん煙処理球ではほぼ6週間,より早い時期に同じ状態に達することが認められ, 両処理, とりわけくん煙処理による顕著な休眠打破効果が確かめられた.<br>3. このように休眠程度の異なる球茎を種々の時期より, 10&deg;C湿潤5週間の低温処理に移したところ, 低温処理終了時における発芽及び花芽分化は共にくん煙処理球で最も進み, エチレン処理球, 無処理球の順であった.これらの低温処理球の開花をみたところ, くん煙及びエチレン処理球ではそれぞれ8月17日, 8月31日低温処理開始において全個体開花し, 完全な低温感応が認められたが, 無処理球では最も遅い9月14日の処理開始でも開花率が86%にとどまった.<br>4. これらの結果, 低温処理開始可能時期は室温下に貯蔵した球茎の最上腋芽における葉の分化再開時期よりも2週以上遅く, 根の突起がほぼ全個体で認められた時期に一致することが確かめられた.