著者
原 弘道 松田 智明 月橋 輝男 松田 照男
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.485-497, 1995-12-15
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

クリ果実における渋皮組織の発達とタンニンの蓄積過程ならびに渋皮剥皮の難易について形態学的な検討を行った.<BR>1.ニホングリ果実の発育初期における渋皮のタンニンは渋皮細胞の液胞に蓄積されており, 液胞内に顆粒が分散しているもの, 液胞膜に沿って集合しているもの, 液胞内全体の電子密度が高くなっているものおよび液胞がタンニンで埋めつくされているものなどいくつかのタイプが見られたが, 収穫期の渋皮細胞ではほとんどの細胞が多量のタンニンで埋め尽くされていた. タンニンが高密度に蓄積された細胞は渋皮の中央, 外層部分に多く, 子葉に近い細胞のタンニン蓄積は少なかった.<BR>2.渋皮の剥皮には渋皮組織と子葉組織の接着程度によっていくつかの様相がみられたが, 品種に固有の様相は認められなかった.<BR>3.収穫期において渋皮の剥皮が困難であった果実の渋皮は, タンニンの蓄積が多く, 子葉に接する細胞の電子密度が高く, 細胞壁の崩壊が認められた. また, 渋皮と子葉の間には低電子密度のマトリクスと電子密度の高い網目状構造が特徴的に認められた.<BR>4.電子密度の高い部分は子葉表皮細胞壁にも浸潤していたが, これらの構造は, 従来推定されていた渋皮と子葉を接着するタンニン様物質によるものと考えられた.<BR>5.一方, チュウゴクグリの果実は渋皮の剥皮が容易であり, 渋皮が薄く, タンニンの蓄積密度が低く, 子葉に接する細胞の退化は遅かった.<BR>6.これらの観察結果は, 渋皮剥皮の難易が渋皮組織細胞に蓄積されたタンニンの多少だけでなく, 中間層および子葉に接する細胞の退化とも密接に関係していることを示唆している.
著者
飯塚 正英 工藤 暢宏 木村 康夫 荻原 勲
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.767-773, 2001-11-15
参考文献数
25
被引用文献数
4 4

ユキヤナギ(Spiraea thunbergii)とシモツケ(S. japonica)を交配して赤花のユキヤナギの作出を目的として, 両種間で正逆交雑を行った.1. 乾燥条件, -30℃で貯蔵した花粉は貯蔵後360日でも発芽および受精能力を維持することがわかった.2. S. thunbergii×S. japonicaでは, -30℃で270日間貯蔵した花粉は柱頭上で良く発芽し, 花粉管は花柱内を伸長して子房内の胚珠に達し, 10日後には胚珠の肥大が観察された.一方, S. japonica×S. thunbergiiでは, 花粉は柱頭上で良く発芽したが, 子房内の胚珠へ到達しなかった.3. S. thunbergii×S. japonicaの交配16日後に摘出して培養した胚珠は正常に発育する実生を生じ, 8個体が得られた.それらの個体の形態は両親の中間を示し, RAPDパターンは両親のバンドを併せ持ったことから雑種植物であると判断した.
著者
岡野 邦夫 浅野 次郎 石井 現相
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.545-550, 1990
被引用文献数
1 12

ダイコンの主要な辛味成分である4-メチルチオー3-ブテニルイソチオシアネート(MTB-ITC)の迅速かつ簡単な定量法を開発した. 新鮮ダイコンをおろし金付きのフードプロセッサーですりおろし, 内生ミロシナーゼの働きで, 組織内のグルコシノレート (辛子油配糖体)を加水分解した. 生成したMTB-ITCは塩化メチレンに転溶し, ガスクロマトグラフィー(FID)で定量した.<br>ダイコンおろしに添加したシニグリンの大部分は, アリルイソチオシアネートとして回収された. このことは内生ミロシナーゼの活性が十分高いことを示している. MTB-ITCはクロマトグラム上のピーク面積の95%以上を占めた. ダイコン組織の磨砕方法や磨砕程度はMTB-ITCの生成量に影響を与えた. 塩化メチレン中のMTB-ITCは-20&deg;C以下で保存すれば長期間安定であった. この方法を用いて, 14品種のダイコンのMTB-ITC含量の比較を行った.
著者
小又 昭彦 蓬田 勝之 中村 祥二 太田 忠男 井澤 靖子
出版者
園藝學會
雑誌
園芸學會雜誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.429-434, 1989
被引用文献数
1 7

ツバキ属の花の香気成分について解析を行ったところ以下の結果を得た.<br>1. ツバキ属の花の香気成分として, Linalool oxide のフラン体とピラン体, Linalool, Methyl benzoate, Methyl salicylate, Phenyl ethyl alcohol, Benzaldehyde Benzyl alcohol, Acetophenone を解析した.<br>2. これらの花の官能評価結果とヘッドスペース成分分析結果よりツバキ属の香気を4つに分類することができた.<br>3. 香気分類と形態的分類との間には相関が見られ, 成分的に見ると, Acetophenone はサザンカ節特有の成分であることがわかった. また香気からもハルサザンカは, ヤブツバキとサザンカの自然交雑種であることを裏付けていると思われた.
著者
島井 弘男
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.691-696, 2001-11-15
参考文献数
15
被引用文献数
1

異なる日長, 光強度の下でペチュニア'ガーデン・パーティー・ホワイト'と'スノー・クラウド・ホワイト'の様々な開花反応に関する研究を行った.特に主茎上の最初に形成された花芽より下の葉数(LNBFB)と, 花芽が肉眼で観察できるまでの時間(MFBV), 開花までの時間, 花芽発達に要する時間, および花芽のアボート率に着目した.短日と低い光強度の組合せ下のみでLNBFBが増加し, 日長または光強度のみの影響は統計上認められなかった.MFBVと開花までの時間は, 日長または光強度が増すにつれて短くなった.不適当な光条件下で開花が遅れる原因の一つは, 花芽のアボートによるものである.本研究結果においてLNBFBには, 日長または光強度のみの影響はみられなかったが, 開花までの時間では, そのどちらか一方, または両方が影響していた.これらはペチュニアの生産期間を短縮するうえで, 長日または高い光強度が不可欠であることを示唆する.
著者
守谷 友紀 高井 良裕 岡田 和馬 伊藤 大雄 塩崎 雄之輔 中西 テツ 高崎 剛志
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.424-430, 2005-11-15
参考文献数
20
被引用文献数
1

セイヨウナシ(Pyrus communis L.)の自家および交雑不和合性は結実率や種子数により判定されてきたが, それらの評価は明確ではない.本研究では交雑による不和合・和合の判定方法を確立するため, セイヨウナシ10品種を用いて1花そう1花の除雄無受粉, 自家受粉および他家受粉を行い, 各品種の単為結果性, 自家不和合性および品種間の交雑不和合性を調査した.ほぼすべての品種が単為結果性を有し, 結実率による不和合・和合の識別はできなかった.しかし, 新たに提案したself-incompatibility (SI) index((評価対象の交配における交配花数当たりの充実種子数)/(和合交配における交配花数当たりの充実種子数)×100)により不和合・和合の判定が可能になった.その結果, 'グランド・チャンピオン'は部分的自家和合性であり, 他の品種は自家不和合性であることが明らかになった.有種子果実の品質は単為結果果実よりも優れており, 単為結果性を有するセイヨウナシでも安定的な良質果実の生産には和合花粉の受粉が必要でることが明らかになった.'フレミッシュ・ビューティー'と'スタークリムソン'および'バートレット'と'セニョール・デスペラン'の二つの組み合わせが交雑不和合を示した.
著者
Yangkhamman Pranom 深井 誠一 市村 一雄
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.337-341, 2005-07-15
参考文献数
15

STS無処理または処理のカーネーション(品種エクセリア)の切り花を用い, 24℃または32℃で品質保持とエチレン生成を比較した.24℃では, STS処理によりカーネーションの品質保持期間は延長され, STS無処理のカーネーションでは, 処理9日後から花弁のin-rollingが観察された.32℃ではSTS無処理のカーネーションにおいても, 処理14日後でもなお花弁のin-rollingが認められず, STS処理した区と同等の品質保持期間を示した.STS無処理のカーネーションでは, 24℃では処理8-9日後にエチレン生成のピークが認められたが, 32℃ではごく微量のエチレン生成にとどまった.32℃に1日置きその後24℃に移した区では, 24℃一定の区と同様のエチレン生成のピークが認められた.一方, 24℃に1~5日おき, その後32℃に移した区ではエチレン生成はごく微量であった.以上の結果より, カーネーションの切り花は, 32℃におかれた場合, エチレン生成が抑えられることが明らかとなった.
著者
山本 雅史 久保 達也 冨永 茂人
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.476-478, 2005-11-15
参考文献数
12
被引用文献数
2

わが国における主要中晩生および香酸カンキツ染色体のクロモマイシンA_3(CMA)染色を行った.染色体はCMA(+)バンドの有無および位置から5種類に区分できた.すなわち, CMA(+)をA: 両端および動原体近傍に有する, B: 一方の端部と動原体近傍に有する, C: 両端に有する, D: 一方の端部に有する, E: CMA(+)がない, である.各種はこれらのうち4, 5種類の染色体を有し, 独自のCMAバンドパターンを示した.ハッサクでは1A+1C+8D+8E, ヒュウガナツでは2A+2C+5D+9E, '川野なつだいだい'では1A+2C+7D+8E, '宮内伊予柑'では1A+1B+1C+8D+7E, タンカン'垂水1号'では1A+1B+1C+8D+7E, カボスでは3B+2C+5D+8E, スダチでは1B+2C+9D+6Eおよびユズ'山根'では2B+1C+11D+4Eであった.以上の結果, 本研究においても近縁の種間では似通ったCMAバンドパターンが観察された.
著者
松本 和夫 近泉 惣次郎 許 仁玉 渡部 潤一郎
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.171-178, 1972
被引用文献数
6

温州ミカンの可溶性固形物と遊離酸含量に影響する樹令および立地要因の寄与度を, 現象数量化の手法を用いて推定した。果汁の糖度計示度と滴定酸度のいずれに対しても, 地域を表わす要因の寄与度が最大であつた。また, 糖度については, 傾斜方位の寄与度が2位, 樹令の寄与度が3位であつた。一般に, 樹令が増すほど少しずつではあるが着実に糖度が高まつている。標高と海岸からの距離が糖度に及ぼす影響は, 他の要因に比べてかなり低かつた。<br>いつぱう, 果汁の滴定酸度のほうは, 海岸からの距離が遠くなるにつれてかなり増加した。標高と酸度の関係は, 海抜200m以上のところで酸度の増加が著しく, それ以下のところでは標高差の影響をほとんど受けていない。傾斜方位の影響については, 糖度, 酸度のいずれに対しても, 部分的に常識と一致しない傾向が認められた。
著者
太田 勝巳 伊藤 憲弘 細木 高志 遠藤 浩司 梶川 修
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.407-412, 1993
被引用文献数
2 4

水耕ミニトマト, 'シュガーランプ', 'サンチェリー','ミニキャロル'および'アカコッコ'において培養液濃度が裂果発生に及ぼす影響を検討し, 裂果発生機構の解明を試みた。<BR>'アカコッコ'を除いた3品種においては培養液濃度が高いほど裂果発生が増加した。しかし, 'アカコッコ'は培養液濃度の影響を受けなかった。成熟果および裂果までの積算温度の差異はいつれの品種においても培養液濃度の影響がみられなかった。裂果発生が増加した要因は糖度の上昇, 果実の浸透ポテンシャルの低下および果肉の硬さの低下などによるものと考えられた。高濃度で栽培された果実ほど少ない水の注入量(果実体積当たりも同様) で人工裂開を生じた。<BR>'サンチェリー'は高培養液濃度で栽培された果実の果肉部分における浸透ポテンシャルが低下していた。吸水試験では高培養液濃度における果実ほど裂果が多く発生し, 果実の膨張率が高くなり, 吸水能力が高いことを示した。
著者
春木 和久 細木 高志 名古 洋治
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.352-359, 1998-05-15
参考文献数
24
被引用文献数
6 10

ユリの種間交雑系統・品種を用いてPCR-RFLP分析を行い, 交配親推定の可能性を検討した.6種のユリ, サクユリ(L. auratum var. platyphyllum), ササユリ(L. japonicum), カノコユリ(L. speciosum), タモトユリ(L. nobilissimum), ヤマユリ(L. auratum)およびヒメサユリ(L. rubellum)を4組のプライマーと22種の制限酵素を用いて分析し, 16本のPCR-RFLPマーカーを検出した.PCR-RFLPマーカーが遺伝することを確認するために, シンテッポウユリ, カノコユリおよびその交雑個体を比較検討した.母親の葉緑体遺伝子にみられたPCR-RFLPマーカーは全ての交雑個体にみられ, 交雑個体の核のrRNA遺伝子にあるマーカーは, 母親と花粉親のバンドパターンを合わせたものになった.従って, PCR-RFLP分析は, 交雑品種の親の推定に利用できるものと考えられた.PCR-RFLP分析をオリエンタルハイブリッドと呼ばれるユリの6品種, 'スターゲザー', 'ル・レーブ', 'カサブランカ', 'サマードレス', 'ピンクパール'および'マルコポーロ'を用いて行い, その交配親を推定した.その結果, 'カサブランカ', 'サマードレス'および'ピンクパール'の細胞質はカノコユリ由来であり, 'スターゲザー', 'ル・レーブ'および'マルコポーロ'の細胞質はサクユリあるいはササユリからきているものと考えられた.一方, これらの品種の花粉親が交雑種の場合には交配時にマーカーが分離する可能性を考慮する必要があるので, 花粉親の特定は困難であった.
著者
橋永 文男 伊藤 三郎
出版者
園藝學會
雑誌
園芸學會雜誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.485-492, 1983
被引用文献数
1 4

ハッサクとブンタン果実を1か月おきに採収し, 部位別にリモノイド含量を測定した.<br>1. ハッサクの果肉のリモノイドはリモニンが主成分であり, 9月に50ppmを示した. 果肉とじょうのう膜のノミリンは8月に最も濃度が高く (20ppm く 500ppm), 以後急減した. 種子ではノミリンが10月に, またリモニンが11月に最高値を示した.<br>2. ブンタンはフラベド以外のすべての部位でノミリンが他のリモノイドに比べて多く, とくにアルベドとじょうのう膜では顕著であった. じょうのう膜のリモニンはデオキシリモニンと同じ含量を示しながら変動した. 種子では種核のリモノイドの方が種皮より顕著に高く, 12月に最高値を示した.<br>3. ブンタンの個体当たりのリモノイド含量は最高200mgに達した. 種子のリモノイド濃度は高いにもかかわらず, 種子重が少ないため, その含量はアルベドやじょうのう膜より少なかった. 両果実とも各部位でノミリンのピークのあと1か月でリモニンのピークが現れることが明らかになった.
著者
阿部 一博 棚瀬 匡彰 茶珍 和雄
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.123-129, 1998-01-15
参考文献数
17
被引用文献数
5 15

本研究では, バナナ果実(熟度;グリーンチップ段階)から種々の形状の切片を調製し, 切片の生理・化学的特性を調べた.ポリエチレン包装した切片では, 実験期間(96時間, 20℃)には明らかな糸状菌を伴った腐敗はみられなかったが, 果皮と果肉の切断面の褐変ならびに果肉の軟化がみられた.これらの変化は切断角度が大きくなるに従って顕著であった.果皮と果肉の切断面のハンター測色値(L値)の低下は0度切片で最も少なく, 切断角度が大きくなるに従って低下が明らかとなり, 縦切り切片で最も顕著であった.果肉硬度の変化は0度切片で最も少なく, 切断角度が大きくなるに従って硬度の低下が明らかとなり, 縦切り切片での軟化が最も顕著であった.C<SUB>2</SUB>H<SUB>4</SUB>生成量は貯蔵に伴って多くなり, 増加は縦切り切片が最も顕著で, 切断角度が小さくなるに従ってC<SUB>2</SUB>H<SUB>4</SUB>生成量も減少した.縦切り切片のCO<SUB>2</SUB>排出量は他の切片より多かったが, 0度, 30度, 60度切片間の差は小さかった.バナナ果実切片の貯蔵性とC<SUB>2</SUB>H<SUB>4</SUB>生成量には関連性がみられた.貯蔵環境中のC<SUB>2</SUB>H<SUB>4</SUB>を除去したり, C<SUB>2</SUB>H<SUB>4</SUB>濃度を高めても(20μl・l<SUP>-1</SUP>), L値ならびに果肉硬度の低下は0度切片で最も少なく, 切断角度が大きくなるに従ってこれらの低下が明らかとなり, 縦切り切片での低下が最も顕著であった.
著者
島田 有紀子 森 源治郎 今西 英雄
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.617-623, 1995-12-15
参考文献数
9
被引用文献数
3 2

1. <I>Ornithogalum arabicum</I>の自然条件下における花芽の発育経過を観察するとともに, 花芽の発育および開花に及ぼす温度の影響について調べた.<BR>2. 花芽形成は9月上旬に始まり, 10月下旬には第1小花が外花被形成期から内花被形成期の般階にまで進み, 12月下旬に雌ずい形成期に達した. その後, 花芽の発育は緩慢となり, 4月中旬に四分子形成期に達し, 5月中旬に開花した.<BR>3. 花芽の発達, 開花には10月下旬以降の低温経過を必要としなかった. 花茎伸長のためには低温が必要で, 花茎の長い切り花を得るためには, 1月下旬頃まで自然低温に遭遇させる必要があった.<BR>4. 5&deg;~13&deg;Cの低温は後作用して開花および花茎伸長を促進し, その効果はりん茎を処理する際の乾湿条件に関係なく認められた. さらに, 9&deg;~13&deg;Cは直接的に作用して雌ずい形成期までの花芽の発育を促した. また, この低温は茎頂が生殖生長に転換した初期段階から有効に作用した.<BR>5. 6月中旬入手のハウス栽培球を用いた場合, 100%の開花率を得るためには, 花芽形成に先立って30&deg;C12週間の高温遭遇が必要であった.
著者
梁川 正 坂西 義洋
出版者
園藝學會
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.250-260, 1977
被引用文献数
2 7

1. <i>Hippeastrum</i> のりん葉基部の組織片を母球上のしゅじゅの位置から採取し, 無菌培養を行なって, これらの子球形成能力を比較するとともに, りん葉上の各部位および底盤部の組織片からの子球形成の可能性を見た. 各培養片は直径6mmのコルクボーラーで打抜かれたもので, 0.8%の寒天と2%のショ糖を加え, 生長調節物質無添加物 White の培地に置床した.<br>2. りん葉最下端の培養片の子球形成率は, 25&deg;Cと30&deg;Cで最大であった. 光の存在は子球の発育を促すが,子球形成そのものには明暗の差がなかった, また培養片の採取季節による差も認められなかった.<br>3. りん葉最下端の培養片ことに底盤部組織がこれに付着している場合の子球形成率は大であったが, 底盤部から2mm離れた部位のりん葉培養片の子球形成率はわずか3%であり, 3mm以上離れた部位のものでは子球形成がみられなかった. りん葉と底盤の両組織にまたがる培養片では, りん葉の最下端から子球, 底盤部から根を形成した. 底盤部のみの培養片ではなんらの形成も認められなかった.<br>4. 筒状りん葉において, 葉身側は肉が厚く, 反対側は薄くなっている. りん葉最下端の組織片をりん葉の全周にわたって採取し, それぞれの子球形成能力を比較したが, 厚い部分と薄い部分, その中間の部分の差は認められなかった. しかし底盤部に厚薄2枚の隣接りん葉片をつけた培養片を採取し置床した結果, 子球は培養片の両側のりん葉表皮露出面からよりも, 2りん葉片にはさまれた部分に形成されることが多かった. 露出面からの形成について見ると, 薄いりん葉片の方が厚いりん葉片よりも高い形成率を示した. このことは葉身と反対側のりん葉葉えきの再生能力が他の位置より高いことを示唆している.<br>5. 母球上でより外部の位置にあり, 成熟の進んだりん葉の培養片ほど子球形成率は全般的により大であった.<br>6. 子球形成は基本的には, りん葉基部の背軸面で行なわれるが, 向軸面を上にして置床した場合または液体培地で振とう培養した場合には, 一部の培養片で向軸面からの子球形成が認められた. りん葉基部の組織片を縦に2分して背軸, 向軸の両面に分けて培養すると, 向軸面に子球形成を行なうものが生じた. 向軸面も形成能力を有するが, 背腹両面を有する培養片では, より形成能力の高い背軸面の存在によってそれが抑制されているものと思われる.
著者
杉浦 明 原田 久 苫名 孝
出版者
園藝學會
雑誌
園芸學會雜誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.303-309, 1977
被引用文献数
2 9

前報に引きつづき, 平核無について花蕾期より7月下旬までの間, 樹上でのエタノール処理が脱渋とその後の渋味の再現, および果実の形質等に及ぼす影響を調べた.用いたエタノール濃度は5%で, 5mlあるいは10mlずつポリエチレン袋に入れて, 花蕾あるいは果実を樹上で被袋処理し, 脱渋を確かめたうえで除袋した.<br>1) 7月下旬の処理果実を除いて, 除袋後1~2週間ぐらいの間に可溶性タンニンが再現し, とくに処理時期,が早いほど再現の程度が大きかった. また, 6月中下旬までの処理果実ではほぼ果肉全面が渋味を呈したが, それ以後の処理果実では果てい側半部あるいは果てい部のみに渋味の再現があった.<br>2) 収穫果 (9月18日) について褐斑の発生状態をみると, 渋味が果肉全面にあらわれた処理果実では褐斑は殆どみられないか, あっても果頂部付近にわずかに局在している程度であったが, 6月末以降の処理果実では渋味の再現した果てい部を除いて果肉全面に強い褐斑がみられた.<br>3) 脱渋処理の時期によって果形や果実の肥大にかなりの影響がみられた. すなわち, 概して早い時期 (5月中旬から6月中旬まで) の処理では果形が扁平になる傾向を示し, また, 強い褐斑を呈するようになった果実(6月末処理) を境にして横径生長の著しい抑制がみられ, 果形にも大きなヒズミを生じた. しかし, 処理時期がさらに遅くなるにつれて横径生長の抑制は徐々に弱まり, 7月末の処理果実では果実の大きさ, 果形ともに無処理果実と変わりないくらいに復した.<br>4) 渋味の再現との関連で, 果肉細胞の分裂を調べたところ, 開花後の分裂の最盛期は5月末から6月上旬にかけてであり, 6月下旬には殆ど停止していた. また,分裂細胞はもっぱら果実中部から果てい部にかけて分布していた. 脱渋処理は一時的に分裂を抑制したが, すぐに回復した.<br>5) 脱渋処理時期によってみられた渋味再現の様相について若干の考察を行なった.
著者
梶浦 一郎
出版者
園藝學會
雑誌
園芸學會雜誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.301-311, 1972
被引用文献数
1

リンゴ紅玉と国光果実に及ぼす炭酸ガス濃度の影響を4&deg;C下と20&deg;C下とで調査した. 炭酸ガス0,1,3,5, 10ならびに20%, 酸素16.8~21%を含む混合ガスを常時通気し, 各炭酸ガス濃度区とも紅玉では15個, 国光では10個ずつ調査した.<br><b>紅玉</b><br>1. 4&deg;C下では果皮地色の黄色化が炭酸ガス10%以. 上で抑制され, 果肉の軟化は5%以上で抑制されたが, 果肉かつ変果では軟化が著しかつた. 滴定酸度は処理中減少し, 20%区で顕著だつた. また酸素吸収量も20%区でやや抑制された. 食味は3%以下では淡白になり, 10%区はフレーバーが脱け, 20%区は異臭が生じ, 5%区が良好であつた.<br>2. 20&deg;C下では黄色化が3%以上, 軟化と減酸ならびに酸素吸収量は5%以上で抑制された. また食味も5%以上でフレーバーが脱け, 20%区では異臭が生じた.<br>3. 4&deg;C下では20%区で2種のかつ変が生じ, 5, 10%区の一部の果実にも軽い症状が見られた. (1) 濃かつ変が心皮組織中央より発生し, 果肉に拡大する. (2) 果実の肩がかつ変し, 上述のかつ変と併発する場合が多かつた. 20&deg;C下では20%区で一部の果実のほう線上に乾燥して空胴のある淡かつ斑が生じた.<br><b>国光</b><br>1. 4&deg;C下では黄色化が1%以上, 軟化が3%以上で抑制されたが, 20%区のかつ変部は著しく軟化した. 滴定酸度は減少し, 10, 20%区で顕著だつた. 食味は0, 1%区では粉状質になり, 20%区では異臭が生じ, エタノール蓄積も見られた. また3~10%区ではフレーバーが脱け, 高濃度下ほど著しかつた.<br>2. 20&deg;C下では黄色化は1%以上, 軟化は3%以上で抑制され, 20%区のかつ変部は軟化した. 滴定酸度の減少は20%区のかつ変部で著しかつた. 食味は0~3%区で粉状質になり, 10%以上で異臭が生じた.<br>3. 4&deg;C下では1%以上の区で心皮組織中央より淡かつ変が生じ, 果肉に拡大し, 高炭酸ガス下ほど顕著だつた. 20&deg;C下では果心内背管束付近が淡かつ変し, 果肉に拡大するとともに空胴が生じた. 5%以上の区で見られ, 高濃度下ほど著しかつた.<br>4&deg;C下の本実験より貯蔵に適した炭酸ガス濃度は紅玉では5%付近と思われたが, 国光ではかつ変発生のため不明確だつた. より明確な貯蔵効果を得るにはかつ変を防止するとともに低酸素との組み合わせが必要と思われた. 温度とかつ変, 最適炭酸ガス濃度, 炭酸ガス感受性の品種間差について考察した.
著者
杉山 慶太 菅野 紹雄 森下 昌三
出版者
園藝學會
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.108-116, 1999 (Released:2011-03-05)
著者
前川 進 稲垣 昇 寺分 元一
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.174-179, 1983
被引用文献数
1 3

キキョウ花色に及ぼすMoの影響を明らかにするため, キキョウ品種'サミダレ'を用いて, モリブデン酸ナトリウム溶液の切花浸漬処理や花弁への散布処理を行った.<br>Mo溶液に切花の切り口を浸漬処理することによって, 青紫色から真青色へと花弁の青色化が起こった.Moの花弁に対する散布処理によっても, 切花の浸漬処理同様の著しい青色効果が見られた.<br>Mo浸漬処理後の生花弁の吸収スペクトルは処理前のものに比べて, 吸収極大波長は長波長側へ移行し, さらに, その吸光度も増大した. このような吸収スペクトルの変化は抽出したアントシアニン溶液にMoを添加する <i>in vitro</i> での実験においても認められた. Mo処理によって青色化したアントシアニン溶液へEDTAを加えるとMoに基づく青色効果は減少した.<br>このようなことから, Moの吸収によるキキョウ花弁の青色化はおそらくアントシアニンの金属錯体の形成によるものと推論された.
著者
福田 直也 小林-吉中 美湖 鵜生川 雅巳 高柳 謙治 佐瀬 勘紀
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.509-516, 2002-07-15
参考文献数
19
被引用文献数
5 17

数種人工光源の光質がペチュニアの生育に及ぼす影響について, 光強度, 照射期間などの関連する要因とともに評価した.環境制御室に設置したメタルハライドランプ(MH), 高圧ナトリウムランプ(HPS)および青色光ランプ(B)下でわい性中輪咲ペチュニア'バカラブルーピコティ'を栽培し, 生育の比較を行った.実験では, 光質, 光強度および照射期間などの光環境要因と, 各要因との相互作用が生育に及ぼす影響を調査した.さらに, GA<SUB>3</SUB>およびウニコナゾール処理を行い, 光質がペチュニアの生育に及ぼす影響とジベレリンとの関連について考察した.1. MHやB下に比べて, HPS下で栽培したペチュニアは, 草姿がわい化する傾向があった.HPS下の最大側枝長はMHやB下よりも約30%わい化し, 節間長も短くなった.HPS下において草姿がわい化したのは, HPSの赤色/遠赤色光比(R/FR)が高いことから, フィトクロム反応が原因であると考えられる.2. MHおよびHPSの両光源下では, 光強度が低いほど草丈が高くなった.しかし, いずれの光強度においても, HPS下で生育した植物体の草丈はMHよりも低かった.3. 生育期間中に植物体をMHからHPS下に移動したところ, 草丈の伸長速度が低下した, このことから, ペチュニアの草丈は生育後半に受けた光質の影響を大きく受けること, ならびにペチュニアの草丈に及ぼす人工光源の光質の影響には残効性がないことが示された.4. HPS下の植物体ではGA<SUB>3</SUB>処理により草丈の著しい増加が認められたが, ウニコナゾール処理による茎伸長抑制効果はほとんど観察されなかった.以上のことから, R/FRが高い光環境下では, 内生ジベレリン濃度が低下し, その結果として草丈が短くなる可能性が示唆された.