著者
曽田 めぐみ
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は日本近世絵画に描かれた「いのりのかたち」に焦点を絞り、江戸時代の庶民信仰の様相を美術史の視点から明らかにするものである。本研究課題の主軸をなす河鍋暁斎筆「地獄極楽めぐり図」(静嘉堂文庫美術館蔵)は、暁斎の有力なパトロンであった勝田五兵衛の娘、田鶴が夭折した際に追善供養のため制作された作品である。最終年度においても引き続き「地獄極楽めぐり図」研究を行い、河鍋暁斎記念美術館のご協力を得ながら口頭発表や論文執筆を通じて研究成果を発表した。本年度の研究成果として第一にあげられるのが、「地獄極楽めぐり図」において田鶴が摩耶夫人に見立てられている事を指摘した点であろう。この点については拙稿「河鍋暁斎筆『地獄極楽めぐり図』について(四) ―田鶴に投影された摩耶夫人の表象」(『河鍋暁斎研究誌 暁斎』第115号、河鍋暁斎記念美術館、2015年1月)にまとめた。本稿では中でも本作第三十八図「田鶴の極楽往生」に注目している。本図は田鶴が浄土に達した場面を描いたものだが、その構図やモチーフは伝統的な浄土図と趣が異なる。研究を進めていく中で、摩耶夫人がルンビニ園で釈迦を出産した様を描いた「釈迦誕生図」の構図やモチーフを基盤として、本作第三十八図が描かれたことがわかってきた。「釈迦誕生図」は版画や粉本を通じて江戸時代に広く流布したことは既によく知られており、河鍋暁斎記念美術館所蔵の粉本「中国仏閣図」も実際には「釈迦誕生図」を描いたものであることが本研究によって明らかにされ、ここに描かれた摩耶夫人の姿勢や表情が「地獄極楽めぐり図」第三十八図の田鶴と著しく類似することが判明した。以上、三年間の採用期間を通じ、全40図からなる「地獄極楽めぐり図」を一図ずつ解明していくことで、江戸時代における宗教表現の研究を遂行した。
著者
中島 和江 平出 敦 高階 雅紀 中田 精三 多田羅 浩三 山本 浩司
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

医学生及び研修医への医療安全に関する教育方法の開発を目的として、講義時期、内容、方法に関する検討を行った。さらに、医療事故防止の実践的な教育ツールとして、患者急変時の対応、チームメンバー間や患者・家族とのコミュニケーション、診療記録の記載、医学や医事法の基礎知識に焦点をあてたシナリオを作成した。医療安全に関連する領域の講義を継続希望する学生は9割を越え、各学年の医学知識に合わせた講義、具体的ケースの提示による思考型講義の実施、多岐にわたるテーマを教育するための講義時間及び講師の確保が必要であることが明らかになった。作成したシナリオの概略とポイントは次のとおりである。【シナリオ1】血管造影中に患者が心肺停止に陥ったが、適切な心肺蘇生ができなかった。ACLS(advanced cardiovascular life support)の実施、CPR(cardiopulmonary resuscitation)コールの活用、患者急変時のチーム医療におけるリーダーシップ、診療記録の記載。【シナリオ2】研修医がインスリン経静脈的持続投与の口頭指示を出したため、ベテラン看護師に注意され医師指示簿に記載するが、単位を省略して書いたために新人看護師が投与量を誤った。薬剤に関する基礎知識、医師指示における注意点。【シナリオ3】大腸内視鏡で大腸穿孔が発生し、家族から強く責められた担当医は、感情面での支援や適確な説明が行えなかった。インフォームドコンセントのあり方、合併症発生時の患者・家族とのコミュニケーション。【シナリオ4】末期患者がベッドからの転落により急性硬膜下血腫を発症後、しばらくして死亡したが、主治医は安易に死亡診断書を作成しようとした。医師法第21条と異状死に該当する事例に関する知識、死亡診断書と死体検案書との違い。今後、これらのシナリオを実際の医学教育に使用し、教育効果を評価する予定である。
著者
三上 欣希
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

金属系構造材料の変形・破壊挙動を明らかにするためには,結晶粒レベルの微視的な応力・ひずみ分布を把握することが重要である.本研究では,デジタル画像相関法による材料表面の変位・ひずみ分布の計測,結晶異方性を考慮した結晶塑性論による応力・ひずみ分布の有限要素解析を実施した.また,デジタル画像相関法によって測定した材料表面の見かけの変形を達成できるような結晶のすべり変形を,結晶の異方性変形挙動を考慮して決定する手法を提案した.本手法を用いて決定したすべり変形量に基づいて各結晶粒の応力を推定し,微視的応力分布を算出することができた.
著者
水島 郁子 山下 眞弘 木村 敦子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

中小企業が事業承継をする際には、当該企業、その経営者や親族の利益であったり、税制上の利得が、優先されがちである。しかし、事業承継を円滑に行うには、創業者によって築かれた中小企業秩序を尊重し労使双方の利益に配慮することも必要である。本研究では労働法、会社法、家族法の観点から、法人格否認の法理、詐害行為取消権、会社分割など、法交錯領域のテーマの検討を行った。研究会を14回開催し、実務家との積極的な意見交換も行った。
著者
成清 修
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

フェルミ流体論を金属絶縁体転移近傍の異常金属相に拡張することを目指した理論的研究を、銅酸化物高温超伝導体を含む遷移金属酸化物を対象として行った。ここでの金属絶縁体転移が、従来主張されているような、局所相関が重要な(狭義の)モット転移ではなく、非局所的な反強磁性相関が重要な、異なるクラスの金属絶縁体転移であることを明らかにした。1.バナジウム酸化物の金属絶縁体転移バナジウム酸化物(V_2O_3)の金属絶縁体転移は、従来典型的なモット転移であると考えられていたが、近年の実験は、銅酸化物高温超伝導体の常伝導相に類似の、「スピン電荷分離」や「スピンギャップ」とよばれる異常を示している。我々は遍歴-局在双対性に基づいたネストしたスピンゆらぎの理論によって、2次元物質である銅酸化物の異常を解明してきたが、これを3次元物質であるバナジウム酸化物に拡張することによって、その異常を説明した。これらの異常は2次元に特有のものと思われていたが、ネストしたスピンゆらぎの理論では、次元性は重要ではなく、3次元でも異常があらわれることを明らかにした。また、これらの異常は、我々の理論では中間結合領域に特有のものなので、バナジウム酸化物および銅酸化物高温超伝導体は、従来言われているような強結合ではなく中間結合の物質であると結論した。インコヒーレントなスペクトルの効果金属絶縁体転移の近傍では、フェルミ流体論では主役の遍歴的な準粒子よりも局在スピンによるインコヒーレントなスペクトルのウエイトが大きくなっている。我々の遍歴-局在双対性理論は、この2つの自由度を考慮しているが、フェルミ流体論では前者しか考慮していない。この意味で、遍歴-局在双対性理論はフェルミ流体論の自然な拡張になっており、従来非フェルミ流体とかマージナルなフェルミ流体とよばれていた現象も、遍歴-局在双対性理論の枠組みで理解できることを明らかにした。
著者
篠原 厚 高橋 成人 笠松 良崇 吉村 崇 二宮 和彦 畑中 吉治 畑澤 順 金井 泰和
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

医薬用放射性試薬や有用放射性同位体の供給の確保は、我が国の医療や基礎-応用にわたる研究レベルの維持には必須である。本研究では、サイクロトロンにより大強度照射・RI製造法を開発し、PETイメージング核種として124-Iと62-Zn、白金系抗がん剤の機序解明のために191-Ptの製造、分離、精製法を開発し、それぞれ核医学・薬学分野に貢献した。さらに、イメージング技術に基づくがん治療への展開として、新たに211-Atによるアルファ線内用療法の開発プロジェクト(概算要求事項)をスタートさせるに至った。一方で、国内生産の要請のある99m-Tcの加速器による製造・精製法の確立へも貢献した。
著者
宮永 憲明 村上 匡且 細貝 知直 末田 敬一 川嶋 利幸 藤岡 加奈 時田 茂樹 李 朝阳 荻野 純平 宮本 翔 松山 卓弘 上須 駿一 富田 省吾
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

オクターブ近い周波数広がりのレーザーとプラズマの相互作用を研究するために、レーザーの技術開発と将来の応用に向けて陽子加速を研究した。広帯域光パラメトリック増幅(OPA、OPCPA)に関しては、誘導ブリルアン散乱パルス圧縮を利用したサブナノ秒OPCPA、回折格子対とレンズ対の4f構成光学系による周波数領域2段ピコ秒OPA、パラメトリック蛍光の低減手法を開発した。陽子加速に関しては、ナノチューブでのクーロン反発効果による加速手法を考案し、最大10MeVの加速を観測した。また、球状クーロン爆発による陽子加速では、比較的思い元素を混合させることで単色化が可能であることを水クラスターで実証した。
著者
上野 将敬
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

葛藤解決行動は、動物が社会的文脈において発揮する認知能力(社会的知性)を明らかにする上で、非常に興味深い研究対象である。対立する2者間で、目的を調和させ、争いをうまく調整する行動は、ヒトを含む社会的動物において、普遍的に存在し、多くの類似性を持つ。そこで本研究では、ニホンザルを対象として、協力的関係を築くための、葛藤解決メカニズムを明らかにすることを目指す。ニホンザルは、気温が低くなると2個体以上の個体がお互いの胴体を接触させてハドルを形成して暖を取る(Hanya et al. 2007)。一方の個体がハドル形成を望んでいるときに、もう一方の個体も同じくハドル形成を望んでいるとは限らない。そこで本研究では、昨年度勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)を観察して得られたデータを分析して、ニホンザルが、成体メスに毛づくろいを行うことによって、個体間の葛藤を少なくしてハドル形成という利益を得ているのかどうかを検討した。成体メス同士でハドルを形成するときには、毛づくろい交渉後にハドルを形成することが多かった。そして、成体メス同士でハドルを形成するときには、毛づくろいを行い、そして相手からお返しの毛づくろいを受けていない時に、ハドルを形成することが多くなっていた。以上の結果から、ニホンザルがけつくろいによって葛藤を解決し、ハドル形成という利益を得ていたことが示された。この研究成果は、ハドル形成に伴う葛藤をどのように解決しているのかを示した初めての研究である。
著者
桑島 秀樹
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

平成13年度以来、上記の研究課題のもと、特別研究員奨励費の補助によって遂行した研究は、次の2点に集約される。1.初期バークにみられる美学思想形成の経緯、2.日本におけるバーク思想(とりわけ美学思想)の受容。以下、これらの課題に関して、今年度(最終年度)分の研究実績を中心に、本研究課題の最終報告をおこないたい。《1.バークにみられる美学思想形成の経緯》補助金支給の最終年度たる今年度は、2001年のアイルランド(バークの小学校・中学校・高校・大学時代)調査結果、および2002年5月の政界登場前後までのバーク青年期に関するイングランド調査結果(バークのマニュスクリプトの原典資料調査も含む)の精査に基づいて、その研究成果を公表することに尽力した。この成果は、以下2回の国内外での学会および研究会での口頭研究発表、(1)「若きバーク像の再検証-誕生から幼少年期までのアイルランド時代をめぐる伝記的考察から-」、日本イギリス哲学会関西部会第28回例会、平成15年7月5日(於 京大会館)。(2)「画家W・ホガース『美の分析』にみる感覚主義あるいは<悪>の美学-ヴィーナス・蛇・イギリス風景式庭園-」、大阪工業大学第35回研究談話会(大阪工業大学工学部一般教育科主催)、平成15年10月6日(於 大阪工業大学)に顕著に反映されていると思われる。わけても、2003年12月に大阪大学大学院文学研究科に提出した博士学位請求論文「初期バークにおける美学思想の全貌-18世紀ロンドンに渡ったアイリッシュの詩魂-」(単著:400字詰原稿用紙換算で約750枚)は、本補助金による研究成果の総決算たるものであった。なお、この論文はすでに2004年1月下旬に公開審査を通過しており、研究代表者への3月下旬における博士号授与が決まっている。さらにこの博士論文を補完する業績として、学位申請論文提出後すぐにも、論文「W・ホガース優美論にみる感覚主義あるいは<悪>の美学-ヴィーナス・蛇・風景式庭園-」(単著)、甲南大学人間科学研究所編『心の危機と臨床の知』第5号,pp.67-93、平成16年2月20日。ならびに、学会報告「若きバーク像の再検証-誕生から幼少年期までのアイルランド時代をめぐる伝記的考察から-」、日本イギリス哲学会関西部会第28回例会、平成15年7月5日(於 京大会館)、日本イギリス哲学会編『イギリス哲学研究
著者
中嶋 有加里
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

平成13年度のシミュレータ実験により眼精疲労や車酔いなどシミュレータの影響と推察される問題点が判明し妊婦を対象に実験を行うことができなかった。そこで本年度は「妊婦の自動車運転の安全性に関する研究」の一環として実施した前方視的質問紙調査のデータを統計学的に分析し、自動車運転により切迫早産・早産および臍帯巻絡のリスクが増大することはないとの結論を得た。【研究方法】2001年1〜12月に大阪府泉佐野市T病院で妊婦健診に来院した妊娠28週の初産婦493名に質問紙を配布し、外来・入院カルテ、出産記録から出産情報を照合し、単胎妊婦442名の有効回答を得た。切迫早産・早産の検討では、早産の関連因子(有職者、喫煙者、運動習慣のある者、妊娠中毒症などの合併症)のある者を除いた238名、臍帯巻絡の検討では、巻絡の発生頻度に関連する因子(有職者、運動習慣のある者)のある者を除いた312名を分析対象とした。【結果】(1)運転の有無と切迫早産・早産率および臍帯巻絡率との関連は認められなかった。切迫早産率 早産率 臍帯巻絡率ドライバー 11.7% 3.1% 39.4%ノンドライバー 16.0% 4.0% 35.6%(2)運転・乗車時間の長短を1週間総利用時間のほぼ中央値である60分で分け比較したところ、運転・乗車時間の長短と切迫早産・早産率および臍帯巻絡率との関連は認められなかった。(3)車種と切迫早産・早産率および臍帯巻絡率との関連は認められず、振動による影響は少ないものと推察された。(4)子宮収縮の自覚では、運転中・同乗中の方が歩行時に比べて収縮を自覚する者が有意に少なく、「歩くよりも楽」という妊婦の感想を裏付ける結果となった。また、運転中と同乗中の収縮自覚の比較では有意差が認められなかった。(5)運転の有無と平均臍帯長・過長臍帯率は有意差が認められず、運転が臍帯長に影響を及ぼす可能性は低いと考えられた。
著者
舘村 卓 野原 幹司
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

パラタルリフトpalatal lift prosthesis(PLP) は, 軟口蓋を挙上して鼻咽腔閉鎖機能を改善する装置であるが, PLPによって音声言語障害が改善できても, 嚥下時の鼻咽腔閉鎖不全症による嚥下障害が改善されていないことにより, 「食べて, 話す」日常生活機能の改善ができていない例も認められる. このようなPLPによる機能改善効果の乖離は, 嚥下時と音声言語活動時での鼻咽腔閉鎖機能の調節様相の相違が考えられる. 本研究では, PLPによる治療法の開発の先行研究として, 嚥下時の鼻咽腔閉鎖機能の調節に, どのような因子が関与するかについて, とくに摂取食物の量, 物性に焦点を当てて検討した.その結果、嚥下時の軟口蓋運動の調節様相は、嚥下された食物の摂取量と物性(とくに粘性) の影響を受け、その影響の発現の様相はニュートン性の有無によって大きく異なることが示された。このことから、PLP 装置による嚥下機能の補完治療を行なうためには, まず食品の持つ種々の因子による口蓋帆咽頭閉鎖機能への影響を明らかにすることが必要であることが明らかとなり, 今回の研究結果は嚥下補助食やトロミ食品の開発に大きく貢献することが示された.
著者
平安 恒幸
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、免疫レセプターと様々な病原体との相互作用を網羅的に調べた。その結果、活性化レセプターLILRA2が病原微生物によって破壊された抗体を認識し病原微生物に対して生体防御を行っていることが明らかとなった。この結果から、病原微生物は宿主の免疫から逃れるために様々な免疫逃避機構を進化させてきた一方で、宿主側は病原微生物による免疫逃避機構を検出し、生体防御に働くように進化して病原微生物に対抗してきたことが考えられる。
著者
川村 邦光
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本の家族写真は 1860 年代の後半、幕末期に写真術が西洋から導入され、西洋の家族写真の直接的な影響を受けてきたが、独自の展開も見せていることを明らかにした。写真の構図・コンポジションにおいて、西洋風の家長を中心とする家父長制型家族写真が撮られてきたが、老齢の祖父母を中心として、儒教的な孝養・敬老の倫理を表象する儒教的孝養型家族写真が多く見られ、家族写真の主流を占めている。それは中国・台湾や韓国でも同様であり、東アジアの家族写真の大きな特徴として位置づけることができる
著者
福田 武司 堀池 寛 高田 孝 鈴木 幸子 上出 英樹 木村 暢之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-05-31

液体ナトリウムの分光透過率に関する予備的な知見に基づき、液体ナトリウム中に真空紫外光を効率的に分散する追跡元素を添加して、誘導放射光の2次元輝度分布画像を観測することにより、液体ナトリウム内部における2次元の流れ場を高分解能で可視化する技術の開発を実施した。従来の誘導ラマン光源よりも極めて大きな放射スペクトル輝度が得られるアルゴンのエキシマ分子を電子ビームで励起する方式の光源を採用するとともに、トロイダル形状を持つ回折格子型2次元イメージング分光計測装置で追跡元素であるグラファイト粒子のスペクトル計測を行った。その結果、液体ナトリウムの高精度速度場計測実現に係わる展望を得ることが出来た。
著者
谷口 維紹 田中 信之 畠山 昌則
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

サイトカイン系におけるシグナル伝達の機構を解析するため、インタ-ロイキンー2(ILー2)系をモデルとして抱え、昨年度にはすでにILー2受容体β鎖の構造解明を行ったが本年度は更にこのβ鎖の下流に位置し、β鎖と共役するシグナル伝達分子の存在について解析を行った。その結果、ILー2受容体β鎖と相互作用を持つ分子としてリンパ球に特異的に発現するsrcファミリ-チロシンキナ-ゼであるp56^<eck>を同定することに成功した。更にβ鎖とp56^<eck>分子の相互作用に必要な領域を両分子において同定することにcDNA発現法を用いることによって成功した。またILー2刺激によってp56^<eck>のチロシンキナ-ゼ活性が上昇することも明らかにした。サイトカインの遺伝子発現機構の解析をインタ-フェロン系において推進した。すでにこの系を制御する転写調節因子IRFー1、IRFー2を同定、構造解明に成功しているが本年度はEC細胞へのcDNA導入実験によってIRFー1がインタ-フェロン遺伝子やインタ-フェロン誘導遺伝子の転写活性化因子としてIRFー2が抑制因子として機能することを明らかにした。
著者
由本 陽子
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

今年度は、日本語の複合動詞形成に焦点を当て、語彙概念構造(LCS)と項構造の関係について考えた。日本語では、「動詞+動詞」の複合が非常に生産的であるが、どのような動詞の組み合せでも自由なわけではない。国語学の先行研究においては、2つの動詞の意味関係にどのような型が認められるかという分類が示されるか(cf.長嶋1976他)、もしくは、2つの動詞のうちどちらが複合動詞の格を支配しているかについての分類を示す(cf.山本1984)に留まっており、どのような組み合せが許されるのかが予測できるような、複合動詞形成を支配する原則の探求には至っていない。これに対し、Kageyama (1989)では、日本語の複合動詞には統語部門で形成されるものと語彙部門で形成されるものとがあるとし、さらに影山(1993)では、後者にも項構造の合成によるものとLCSの合成によるものという区別を認めた上で、各々がその形成されるレベル・部門に適用される原則に支配されていることが示されている。本研究では、このうち特に語彙部門で形成されると考えられているものに焦点をあて、小説・新聞・逆引き辞典などから収集した複合動詞を調査し、可能な動詞の組み合せは、(1)複合動詞のLCSにおいて、それを構成する2つの下位事態が全体として単一の事態と認識され得るような関係づけをなされていること (2)2つの動詞の主語が同定されること (3)複合動詞の項構造と格素性がBurzioの一般化に従っていること という3つの制約によって予測可能であることを示した。(1)については5つのパターンを認めたが、これはLi(1990,1993)の中国語の複合動詞の観察とほぼ一致しており、おそらく普遍的に限定されるであろう。-方(2)は中国語にはない制約であり、また、前項が非能格動詞、後項が非対格動詞の場合にも成立することから、影山の主張に反し、語彙部門での複合動詞がすべてLCSの合成によることを示唆する。(3)は、複合動詞の格素性が主要部優先を原則とする浸透の原理により導かれることと、項構造がLCSから結び付けの規則により派生すると仮定した場合、(1)(2)では説明できない動詞複合の制約を説明するものである。結論として、日本語の語彙部門における複合動詞形成に関してはLCSのレベルですべてが説明でき、項構造のレベルはLCSから派生するものとして促えた方が良いと思われる。また、複合動詞について得られた知見から、動詞のLCSはPustejovsky(1991)らが主張するように、event structureを含むものであるべきことが明らかとなった。
著者
福住 俊一 小島 隆彦
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

広いπ共役系を持つカップ積層型ナノカーボン、フラーレン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体の電子移動特性や化学反応特性を明らかにした。さらにそれらを複合化させることにより、高次π空間構造を構築し、有機太陽電池へと応用し、光電流発生におけるIPCE 値が77%の高い値を示す系を構築した。さらには、長寿命電荷分離系を構築し、光スイッチングデバイスの作成にも成功した。
著者
羽原 英明 藪内 俊穀 坂上 仁志
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

高強度レーザーが固体物質内部に生成する高エネルギー電子をその場計測するため、物質形状そのものをチェレンコフ光の分光器とする構造とすることを考案し、ターゲット材質やプリズム構造を最適化することによりレーザーから高エネルギー電子流のエネルギー変換効率を精度よく求めた。通常のガラス材、屈折率2の高屈折率ガラス、屈折率3.5のシリコン結晶を用い、チェレンコフ光の計測波長を可視から赤外まで拡大することで、幅広いエネルギー範囲での計測を行うことができた。
著者
植田 晃次
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

まず、朝鮮語教育の最大の隘路のひとつである文字教育に焦点を当て、『朝鮮語実物教材(1)』を作成した。授業において、大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国のさまざまな「実物」資料に書かれた朝鮮語の語句を実見して読むことは、いわゆる「なまの」朝鮮語に触れる機会となり、学習者の学習モチベーションを維持・向上させる有力な手段となる。しかしながら、これらを「実物」によって示すことは、資料の収集・管理、あるいは教室のクラスサイズなどの諸々の要因のために、困難を伴うことが多い。本教材は、これら「実物」資料をデジタルカメラで撮影し、教室での利用を意図して集成したものである。これを直接あるいは実物投影機などを用いて利用することにより、簡便かつ容易に「実物」資料を提示することが可能となる。資料の収集にあたっては、上記のように南北朝鮮のものを中心としつつ、中国・日本をはじめとする諸国のものをも対象としたことによって、本課題の視点のひとつである「総合的朝鮮観」の涵養にも裨益するものである。つぎに、『日本で学ぶ朝鮮語』を作成した。従来の教材では、表記法・発音に関する事項と文法事項を平行して習得していく必要があるものが一般的であり、とりわけ学習時間数の限られている高等学校の課程においては、両者とも不十分な習得に終わることが少なくない。それを考慮し、基本的な文字・発音の学習の後、前者に関しては可能な限りいったん保留し、できるだけ少ない文字・発音に関する知識の活用により、基本的な文法事項の習得を優先したものである。また、外国語教育のイデオロギー的側面に関する論文「「ことばの魔術」の落とし穴」(山下仁・植田晃次編『「共生」の時代に(仮)』三元社、2005年夏刊行予定)も本研究の一部を成す。
著者
楢崎 正也 山中 俊夫 大野 治代 佐藤 隆二
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

気密な市街地住宅において, もっとも汚染発生の著しい調理の際に, 室空気環境を良好に維持し, しかも熱負荷が過大にならない合理的な換気方式の確立を目的に研究を進めた. 本研究は三部から成っている.1.種々の調理条件時に発生する熱・水蒸気・汚染ガス・臭気の発生状況を調べた.まず, コンロ上方の熱気流と汚染ガスの拡散性状を詳細に検討し, 高性能な排気フードの開発に有益な資料を提供した.また, 調理時に生成するような汚染物質, とくにNO_Xと調理臭の発生量を定量化し, 室空気質評価に必要な資料を提供した.2.気密な住宅では台所の局所排気だけでなく, 局所給気の必要性を提言し, 給・排気方式を採用した住宅の換気調査を行い, 給気口の換気効果を実証した.また, 住宅においては自然換気とくに風力換気の依存度が高いため, 外部風と換気量の関係を調べ, 換気量推定のための風データーのサンプリング法を提言した.3.Tracer-Gas法による換気量推定法を種々考察した. ここでは, 空間の相互換気を考慮した二室換気を算定する手法を提案している.以上, 各検討事項は今後に多くの問題点を残しているが, ある程度の成果は達成できたと考えている. 今後はこの研究成果をもとに, さらに研究を進展させ, 所期の目標に近づくことを念願する次第である.