著者
上原 徳子
出版者
宮崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

中国語文化圏では現在も小説に限らず様々な形で古典を娯楽作品や芸術作品として取り入れている。調査の結果、現在も明代短篇小説のテレビドラマ化が進められていることがわかった。また、映像化の傾向には90年代の原作に沿ったものから2000年代に入ってからの思い切った翻案をする手法へと変化が見られる。我々がこの事象について考察するとき、原典とされる小説が何であるかや登場人物の服装や言葉遣いが古いことに注意するだけではなく、現代人がその枠組みを必要としていることに注目すべきである。これはなにより中華文化圏では「古典」が文化の根底にあることを示しているのである。
著者
田中 美栄子 田伏 正佳
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では人工知能の基礎となるような複雑系科学に的を絞り、経済系、脳の解明に応用数学の経験と計算能力を投入することを目的とした。主テーマは経済情報物理学、人間乱数のHMMモデル、非侵襲的診断へのニューラルネットワーク応用、エージェントの協調、であるが、経済情報物理学の占める割合が特に大きかった。初年度は協力者田伏との共同研究で、次年度以降は代表者田中が単独で、学部学生9名の卒業研究テーマとしても用いながら行い、モデルと実データの解析から様々の新たな知見を得ることができた。後半には研究の重点を複雑系としての経済現象にしぼり、「経済物理学」と「人工市場」の二つ研究グループと接触を保ちながら、経済物理学はポジティブフィードバックによるマルチエージェント・シミュレーションから、パラメータ空間が二つの相に分かれその臨界点に対応する値でちょうど実際の高頻度金融データと同じ統計性を示すことを具体的な形で明らかにした。結果の前半は2001年4月発行のINFORMATION誌第4巻に、後半はEmpirical Science of Financial Fluctuations(Springer,2002)に掲載された。また、高頻度金融(TICK)データの性質を高速コンピュータ解析で扱い、スケール不変な統計性から乱流との類似、細かな動きの予測可能性、および多国間の為替の同時取引を仮想的に行った場合の裁定機会とその緩和時間について具体的な知見を多く得た。最後に複雑系経済学の国際的な研究センターの一つであるサンタフェ研究所を2月に訪問して意見交換を行った。人間乱数の研究は実データの時系列解析により個人の性格に対応した特徴をパラメータに取り入れることが可能であることを明らかにした。非侵襲的診断へのニューラルネットワーク応用は吉田氏の開発した計測機器と共に特許申請した。
著者
川野 日郎 原 義彦 上條 秀元 平瀬 清 吉田 甫 草野 勝彦 NAKASONE Rau FINKEL Donal FIKSDAL Susa SMITH Barbar 堀 和郎
出版者
宮崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究グループは、これまで3年にわたって大学におけるリカレント教育(生涯学習)の推進についてアメリカのエヴァグリーン州立大学(TESC)と情報交換・共同研究を行ってきた。本年度は代表者川野と協力者小林がTESCを訪ね研究のまとめを行った。TESCでは州に提出される報告書(Portfolio)をもとに教育や評価について詳細な説明を受けた。TESCの理念は、(1)大学の主目的は教育である,(2)個人学習よりも共同学習、共有学習が優れている,(3)受動的に知識を習得させるのではなく、自ら主体的に学ぶ姿勢(Active learning)を育てる教育を旨とする,(4)専門分野を個別ではなく総合的に関連づけて理解させる,(5)習得した知識は現実に適用されて初めて理解されたと云える,となっている。このような理念の実践のためカリキュラムや評価まで大学全体が組織立てられている。通常の専門教育は行われず全ての授業がそれぞれ一つのプログラムのテーマに沿った構成要素になっている。そして授業内容も徹底した横断的・総合的内容になっている。総合的教育のネックは、学生の成績評価であるが、これについても教官及び学生それぞれの立場からの評価を総合し、極めて綿密で行き届いた論述による評価方式をとっている。こうした大学の教育にかける努力には実に注目に値するものがあった。共同研究では、本来大学の使命は教育と研究であるとするわれわれと種々の点で意見の分かれるところがあったが、TESCは少なくとも教育の面については先進的であり、極めて有用な知見を得ることが出来た。本学の新しい大学教育を考えるとき研究と教育の調和をいかに図るかが大きな課題と考える。生涯学習に関しては、TESCの場合、大学教育そのものが生涯学習の一環であるといえる。大学では専門知識をそのまま直接教えるのではなく、知識の獲得の仕方、使い方を学ぶ、これは将に生涯学習者の育成である。生涯学習の制度的側面など比較研究については、未だ十分な結果は得られていないが、アンケートによる意識調査の結果によると、学生・教官ともに生涯学習に関する意識は高いことがわかった。
著者
岩槻 幸雄
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

フエダイ上科魚類は、大きく3つの生活史のパターンがあることが判明した。Aタイプの代表的なフエダイ亜科魚類は、沿岸浅所で成長して、そのまま沿岸の岩礁域や砂浜地帯で成長・産卵するものが多いが、成長と共に水深200mの深所に移動するものもいた。大部分のものは琉球列島以南に分布生息するが、種子島・屋久島以北にのみ生息・産卵しているのは、フエダイ、ヨコスジフエダイ及びクロホシフエダイの3種のみであり、産卵場所は3種ともすべて九州南岸及び北西岸であった。しかも、3種の主な産卵場所は一カ所しかなく、そこから産卵された稚魚は黒潮及び対馬暖流に乗り、太平洋岸では房総近辺、日本海側では新潟沿岸まで稚魚が運ばれ、接岸・成長していた。更にその後、成長と共に産卵場所である九州地区に南下回遊している可能性が強く強く示唆された。Bタイプの代表的なハマダイ亜科魚類は、具体的な調査ではなかったが、琉球列島以南に分布し、沿岸域で主に産卵し、その沿岸浅所で成長し、その後成長と共に深所に移動するという生活史をもっているものと推察された。種子島・屋久島以北に、分布・産卵する種は殆どいないと判断された。Cタイプのタカサゴ亜科魚類は、琉球列島の珊瑚礁周辺で生涯の大部分を主な生息域として持ち、そこで産卵して浮遊期を送った後、生涯沿岸浅所の珊瑚礁周辺に生活史を持つと判断された。本タイプは、種子島・屋久島以北で分布・産卵するものはいないと判断された。以上のことから、我が国の沿岸性魚類の資源管理や増殖対策の検討を加えるにあたり、フエダイ科3つの生活史パターンを考慮することが重要であり、更に種子島・屋久島近海でフエダイ科魚類群集が完全に変わることから、琉球列島以南に生息するものと種子島・屋久島以北に生息するものと区別して考える必要があることが強く示唆された。
著者
岩槻 幸雄
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

インド-西部太平洋におけるクロサギ科クロサギ属魚類(Gerres)の分類学的再検討を行った。それらの結果は、以下のようになる。47公称種のすべてのシノニム関係を明らかにして6類似種グループ(complex)と2種の有効種を認め、下記にようにまとめられる。1)The Gerres oyena complex : G.oyena, G.baconensisとG.equulus ; 2)The Gerres filamentosus complex : G.filamentosus, G.infasciatus, G.macracanthusとGerres sp. 1 ; 3)The Gerres setifer complex : G.chrysops, G.decacanthus, G.setiferとG.silaceus ; 4)The G.erythrourus complex : G.erythrourusとGerres phaiya ; 5)The Gerres longirostris complex : G.longirostrisとG.oblongus ; 6)The Gerres subfasciatus complex : G.japonicus, G.maldivensis, G.subfasciatus, Gerres sp. 2およびGerres sp. 3 ; 特異的な種が2種 : G.limbatusとG.methueni. 従って従来8種程度が有効とされてきたが、7末記載種を含む合計22種が認められた。
著者
長友 安弘 岡山 昭彦
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

マイクロパーティクル(MP)の間質性肺炎(IP)病態形成への関与、臨床応用への可能性を明らかにすることを目的とし、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の MP を測定した。IP の BALF 中の MPは増加しており、MP 濃度は BALF 中の総細胞数、特にリンパ球数と正の相関をしたが、好中球数や LDH 濃度とは相関しなかった。これらの結果から MP は抗炎症性に働いている可能性が考えられた。今後さらに研究を進めたい。
著者
長友 和彦 森山 新 史 傑 藤井 久美子
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年度の計画に基づき研究を進め、マルチリンガリズム研究会(http://jsl-server.li.ocha.ac.jp/multilinualism/index.html)(本科研のメンバーで設立)で、研究成果の一部を公表するとともに、主な研究成果をスイス・フリブールで開催の「The Fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」(http://www.irdp.ch/13/linkse.htm)で発表した。この国際学会では、本科研グループで、個別発表とともに「Multilingualism in Japan」というコロッキアを主宰し、日本社会における多言語習得の実態およびそこにおける課題に関する議論を展開した。研究の主なテーマは以下の通りである。1.中国語・韓国語・日本語話者によるコードスイッチングとターンテイキング2.中国語・韓国語話者による第三言語としての日本語の習得3.One Person-One Language and One environment-One Language仮説検証4.韓国語・日本語・英語話者における言語転移5.マルチリンガル児童のアイデンティティの発達6.多言語話者による言語管理7.環境の違いが多言語能力へ与える影響このような多角的な観点からの研究によって、日本社会における多言語習得の実態の解明に迫った。本研究の成果は報告書にまとめられる予定である。
著者
長友 和彦 森山 新 史 傑 藤井 久美子
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本科研グループが設立した「マルチリンガリズム研究会」などを通して、研究を進め、その成果を雑誌や国際学会で発表するとともに、その成果に基づいた「多言語同時学習支援」の国際シンポジウムや試行プログラムも実施し、「多言語併用環境における日本語の習得、教育、及び支援」に関する全体の研究実績を報告書にまとめた。主な研究実績の概要は以下の通り。1.幼児から成人までを対象に、(1)1人1言語・3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。環境1言語仮説(2)思考言語と優越言語(3)言語環境の変化(4)品詞(5)言語選択(6)アイデンティティ(7)場所格(8)テンス・アスペクト等の観点から、タガログ語・英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・中国語等の多言語併用環境における日本語習得の実態が解明された。(これらの主な成果は、スイスでの国際学会「The fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」のProceedings(CD-ROM版)として出版。)2.国際シンポジウム「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援」をマルチリンガリズム研究会と日本語教員養成機関(大学院>とで共催し、3力国(+台湾)での多言語学習・習得の実態の報告を受け、多言語同時学習支援プログラムと多言語併用環境での日本語の教育や支援のできる日本語教員養成プログラムの研究・開発に着手できた。3.実際に試行的な「多言語(日本語、韓国語、中国語)同時学習支援プログラム」を実施し、多言語併用環境での日本語の教育や支援、そのための日本語教員養成に関する基礎的なデータを得た。
著者
草野 勝彦
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

知的障害児の体力発達は低い水準にとどまるのが一般的であるが、ある私立養護学校において、高等部3年生の生徒全員がフルマラソンを完走できる水準の体力を身につけている。本研はこの生徒たちの体力の水準を明らかにすること、この生徒たちがどのようなトレーニングを行ったのか、その内容を分析することである。トレーニングの内容は、週6日間、5kmのランニングである。ランニングは個人のペースで走り、仲間との競走も自由な状態となっていた。ランニング中の心拍数は平均150拍/分で、最後の1kmは165〜180拍/分という高水準の負荷となっていた。これに加えて週3回の体育を行っている。体育においては、柔軟性、筋力、平行性の運動が中心となっていた。運動負荷の面からみて特筆すべき強度をもったプログラムではなかったが、きついことや、くるしいことを強要するとパニックを起こして抵抗することが多い障害児に対して指導者の指導上の配慮は大きいものであった。年間にわたって市民、県民レベルで行われる競技会に出場し、次の大会への出場を動機づけにして、練習を行っていた。一般の人の中で上位に入ることが本人の社会参加意欲や自信につながるというサイクルが形成されていた。体力水準の診断テストの結果、筋力、持久力、瞬発力、平衡性、敏捷性、柔軟性の全ての項目において対象の養護学校は他の養護学校より有意に高い水準にあることが明らかとなった。特に、全身持久力においては、一般の高等学校生徒の平均値を上回る水準であった。
著者
加藤 貴彦 黒田 嘉紀 中尾 裕之
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.サンプルの収集:某電気機械器具製造工場の従業員とその関連会社の従業員、男性1225名、女性429名の計1654名から文書による研究協力の承諾を得た後、詳細なライフスタイル情報・健診データとゲノムDNAを収集した。2.遺伝子診断結果を用いた介入研究:DNAの抽出に成功し、ALDH2遺伝子型の分析の成功例は850名である。意識調査の結果、「解析結果の返却を希望した」社員420名を2群(初期介入群、後期介入群)に分け、専属産業医が遺伝子診断結果を用いた対面による飲酒に関する健康指導を実施した。通知群235名中、期間中に通知できたのは154名(65.5%)で、うち139名(59.1%)を追跡できた。非通知群は、233名中203名(87.1%)を追跡できた。通知前後の飲酒習慣、肝機能検査データは、通知前と通知後1年後の健康診断データを使用した。その結果、毎日飲酒する人の割合は、通知前後で男女とも飲めない遺伝子であるGG型保有者で通知群、非通知群ともに増加傾向がみられた。不況による過ストレスや女性への深夜勤務導入などが要因として考えられた。男女別、遺伝子型別に通知前と通知後5か月のGOT、GPT、_Y-GTP値を比較したが、通知群、非通知群ともに有意な変化はみられなかった。3.行動変容ツールとして有用な候補遺伝子の探索:PhIPの代謝に関与するGlutathione S-transferase (GST) A1の遺伝子多型と前立腺癌、口腔扁平上皮癌、尿路上皮癌との関連性について症例・対照研究を行った。その結果、GSTA1遺伝子多型と喫煙者前立腺癌、男性喫煙者口腔扁平上皮癌、非喫煙者尿路上皮癌罹患とのあいだに、統計学的に有意な関連性が認められた。
著者
相葉 恵介 五十嵐 明則 島村 勲
出版者
宮崎大学
雑誌
宮崎大學工學部紀要 (ISSN:05404924)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.5-9, 2007-08-30

We have analyzed 1Po resonances for He and Ps- associated with n = 5 thresholds of He+ and Ps by the time-delay ###matrix Q(E). Q-matrix as functions of total energy E is constructed from scattering matrix obtained by scattering ###calculation. The eigenvalues {qi(E)} of Q-matrix are quite useful to identify resonances in the energy region where ###some resonances overlap and where the eigenphase sum δ(E) and its energy-derivative dδ/dE do not provide enough ###information. Some overlappling resonances are appeared by examination of the eigenvalues {qi(E)} for He and many ###new resonances are found for Ps-.
著者
長友 和彦 森山 新
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

・多言語併用環境,特に三言語併用環境にある幼児,年少者,成人の日本語およびその他の言語の発達を文法やコミュニケーション能力の発達という観点から解明した。・5班に分かれた約20名の研究者で月1回公開研究会を行いながら,タガログ語,ベンガル語,スペイン語,中国語,台湾語,韓国語,日本語によるデータの分析とその分析結果の検討を行った。・数回にわたって研究成果の中間発表会および最終発表会を公開で行った。・平成15年9月にアイルランドで開催されたThird International Conference on Third Language Acquisition and Trilingnalismで研究成果を発表するとともにInternational Association of Multilingualismの発足式に参加した。・研究成果を報告書(pp.1-199)にまとめ,約400部を関係機関・研究者に送付した。・本研究を基礎として「マルチリンガリズム研究会」が創設された。
著者
長谷川 信美 西脇 亜也 井戸田 幸子 福田 明 樋口 広芳 園田 立信
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

中国青海省東チベット高原北部と南部の,土地の利用・管理方式と繁殖方式の異なる2つの地域において,ヤクの行動生態とその放牧地植生および生態系物質循環に与える影響を比較研究した。北部は青海省の優良放牧モデル地区で,南部は放牧地の荒廃と砂漠化の進行が懸念されている地域である。野草地の生態系を保全して劣化・砂漠化を防ぎ,ヤクの生産性を維持し,持続的に放牧利用するために必要な基礎的データを得ることを本研究の目的とした。平成15年8月より平成18年8月まで,玉樹蔵族自治州玉樹県で3回,海北蔵族自治州門源回族自治県で4回計7回の調査・実験を行った。成雌ヤクの3日間行動観察と排泄行動記録・排糞量測定,GPS受信機による行動軌跡記録,採食行動調査と採食植物観察,草地植生調査,糞・植物・土壌サンプル採取と成分分析を行った。4年間の研究の結果,南部は北部と比較し,寒季の反芻時間が短く,ヤクの糞排泄成分と量から推定した生態系物質循環量はほぼ1/2と低く,ヤクは嗜好性の低い植物種さえも採食しており,過放牧となっていることが明かとなった。現状のまま放牧を続けていけば,今後植生はさらに劣化し,裸地化・砂漠化することが懸念された。しかし,生態系が良好に保たれているとされていた南部においても,現在行われている暖寒2季輪換放牧方式では,特に暖季放牧地で植生の劣化が起きており,ヤクは繁殖に必要な栄養を十分には摂取できていず,現在の方式に代わる新たな放牧方式を今後検討する必要があることが明らかとなった。
著者
田村 智淳 桂 紹隆 フランシス ブラサル
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

平成14年以降、入力済みの梵文テキスト(Vaidya本)、チベット語テキスト(デルゲ版)、漢訳テキスト(60・80・40巻本)の校正を開始し、同時にSuzuki本、チベット語ペキン版、収集した諸写本との校合に従事した。研究期間中に収集した28本の写本の中、5本の画像化を終了し、残余については10〜50%のスキャン率である。総体的には約30%を画像化した。華厳経入法界品第1章の完全な"Tri-lingual text"をめざして、以下のような最終報告書を作成した。(1)既刊本のVaidyaテキストの下に、Royal Asiatic Society所蔵の写本の読みを全文ローマ字体で記載した。さらに、Suzuki本、Baroda写本、Cambridge写本の異読をfolio-lineの数字を伏して記載した。(2)デルゲ版チベット語テキストの全文を梵語テキストの下に記載し、ペキン版の異読をその下に附した。(3)漢訳3本の全文をチベット語テキストの下に記載した。これらの作業を通して気づいたことは、少なくとも第1章に限れば、梵語テキストおよびチベット語テキストに関しての異同は、そのほとんどが書写ミスであり、また語句の順序の違いであり、新しい解釈の資料となりうるようなものは見いだせなかったことである。しかし、同様の作業を入法界品の全章にわたって完了するならば、あるいは何かを見いだせるのかもしれない。特に、漢訳3本のあいだの異同は多く見られ、それぞれの漢訳の梵文原典を推察することは今後の課題であろう。
著者
中澤 隆雄 今井 富士夫 新西 成男
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ポーラスコンクリートは,その特徴である多孔性によって種々の優れた特性を有している。吸音機能もその1つであり,近年では吸音機能に関する研究も次第に活発に行われてきており,本研究では,これまで道路交通騒音の低減が可能なポーラスコンクリートの開発を目的の1つとして,インピーダンス管による垂直入射吸音率のデータの収集や吸音壁の等価騒音レベル低減効果に関して,実験的な研究を行ってきている。ポーラスコンクリート壁を作製するにあたって用いた火山性軽量骨材のぼら,石灰石およびフェロニッケルスラグ(以下,FNSと記述)の3種類の骨材ならびに2種類の目標空隙率20%と30%が騒音低減効果に及ぼす影響を検討した。騒音低減効果の検討にあたっては,普通騒音計を用いて得られた100〜2000Hzの範囲の各1/3オクターブバンドの周波数の等価騒音レベルを用いている。また,壁供試体から抜き取った直径約100mmのコアに対して,インピーダンス管による垂直入射吸音率も測定し,吸音壁から得られた等価騒音レベルとの関連についても検討を加えている。得られた結果を要約すると以下のとおりである。(1)使用骨材別にみると,FNSを用いた壁の騒音低減効果が最も高くなった。これは粒径が他の骨材よりも小さいために空隙径が小さくなり,実際の空隙率も他の骨材の場合より低めになった影響と思われる。(2)FNSを用いた場合,特に1000HZ以上の周波数に対して,回折行路差の影響を上回る騒音低減が生じていることからも,FNSの吸音効果が高いといえる。(3)ぼらおよび石灰石を用いた壁の騒音低減効果がFNSほど大きくないのは,これらの壁の内部空隙を音が透過する影響によるものと考えられる。(4)ぼらおよび石灰石を用いた場合の垂直入射吸音率は,500Hz近傍で第1の吸音ピークが生じているが,この周波数域での壁の等価騒音レベルの低減量がそれほど大きくないことからも,壁内部の空隙を音が透過する影響があると考えられる。(5)同一骨材を使用した壁の空隙率の影響をみると,空隙率が小さい方が等価騒音レベルの減量は幾分大きくなる傾向が認められた。
著者
長谷川 信美
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

牛におけるストレス負荷時のAVP投与後のACTH・Cortisol分泌反応変化が、ストレス評価方法となるか検討を行なった。1.社会的ストレス実験 実験区ホルスタイン種育成雌牛5頭を乾乳牛群(5頭)へ混群し、対照区は元の群にとどまった3頭とした。混群前(P期)、混群後3(D3)、7(D7)、14(D14)、21日(D21)に剄静脈AVP投与後0・10・30・60・120分に採血し、血漿中ACTHとCortiso濃度を測定した。闘争の勝敗より各個体の優劣順位(ADV)を評価した。実験区は混群後優劣順位が低下した。AVP投与後血漿中ACTH濃度は、0-60分では日間差はなく、血漿中Cortisol増加反応は、実験区では30分を除く各時間で混群後有意に低下した(p<0.05)。対照区では差はなかった。実験区ではADVはD3にACTH濃度と正の相関を示し(p≦0.05)、優劣順位の高い個体ほどACTH濃度が高く、順位低下量が大きい個体ほどCortisol濃度が低かった。2.暑熱ストレス実験実験区黒毛和種去勢牛3頭ホルスタイン種去勢牛2頭計5頭を日中2時間直射日光に暴露し、対照区は同品種同頭数を畜舎内に繋留した(最高気温実験区38.0℃、対照区34.7℃)。頸静脈AVP投与後0・5・15・30・60・120分に採血を行った。血漿中ACTH濃度は実験区と対照区間では有意な差は示さなかったが、異常値を示した個体を各区1頭ずつ除くと、5分・15分で実験区よりも対照区が高い傾向を示した(p=0.06)。血漿中Cortisol濃度は、実験区と対照区間では有意な差は示さなかった。これらから、AVP投与後のACTHとCortisolの分泌反応は、ストレス評価方法として有効であることが示された。また月齢によりAVP投与後のACTHとCortisol分泌反応は異なることが示された。
著者
池田 正浩
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

Aquaporin (AQP)分子種とは、疎水性の脂質二重膜である生体膜を水分子が透過する通路として同定されたタンパク質分子種で、現在では、200以上のAQP分子種が、微生物から脊椎動物に渡って存在することが明らかにされ、生命を維持する上で根本的なタンパク質分子の一つであると見なされるようになった。申請者のグループは、最近新しいAQP分子種であるAQP11を世界に先駆けて発見した。しかしながらAQP11が細胞のどこに局在するのか、どのような分子形態で存在するのか、AQP11の生理学的意義付けは何かなどについては、全く明らかにされていない。本研究では、これらの点を明らかにすることを目的とした。(1)AQP11の細胞内局在GFPやmycなどのタグをAQP11に融合させて細胞に発現させ、イメージング法により細胞内の局在を調べた。その結果AQP11は主として小胞体に局在すること、そして少ないながら一部は核膜および細胞膜にも局在することを観察した。次に、小胞体局在に関係するアミノ酸配列について部位特異的突然変異法などの手法を用いて検討した結果、AQP11のC末端側に存在しているNKKEモチーフ、およびCys-101は、AQP11の小胞体局在には関係していないことが明らかとなった。また、AQP11のC末端側に存在しているNKKEモチーフが、ER exitシグナルとして働いている可能性を見出した。(2)AQP11の分子構造現在までに分子構造が明らかにされているAQP分子種は4量体を形成して、細胞膜に存在することが知られている。この点について、pull-downアッセイ法やタンパク質架橋法などを用いて検討した結果、AQP11が4量体を形成すること、この多量体形成にCys-101が関わっていることなどを見出した。(3)小胞体ストレスが生じた場合のAQP11の役割についてAQP11発現量が減少したマウスに、虚血再灌流による小胞体ストレスを負荷したところ、そのマウスの表現型には、変化は認められなかった。しかし、今回の系は、AQP11の発現を完全に抑えた系ではなかったため、小胞体ストレスが生じた場合のAQP11の役割については、今後も検討する必要がある。以上の成果の一部は論文としてまとめ、現在投稿中である。
著者
伊達 章 倉田 耕治
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

画像,音声,自然言語,塩基配列などの大規模データに対し,確率モデルを構築し,認識,予測など確率推論を行なうことが,計算機性能の急速な向上に伴い可能になっている.ベイズ推論の本質の一つは,データを観測した後の事後確率分布の利用にあるが,その分布の構造については不明な点が多く,分布が奇妙な構造をもつことは十分考えられる.本研究では,事後確率分布から多数のサンプルを生成することで,事後確率分布の構造を反映した意味のある推定量を求める手法を開発した.単純な隠れマルコフモデル,格子型マルコフ確率場を用いて計算機実験をおこない,本手法の有効性を確認した.
著者
永田 雅輝 木下 統 辰巳 保夫
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

イチゴは収益性が高く営農上有利な作物であるが、果実が痛みやすいために省力化・機械化の開発が大幅に遅れている。特に、収穫以降のハンドリング作業(収穫、選果、出荷)は強度な労働負担であることから、早急な機械化の開発が望まれている。本研究は、特に選別機の開発研究を主として遂行するものであるが、イチゴ果実は痛みやすいので、品質保持を安定化・強化するために予冷を組み込んだ選果システムを提案するための基礎研究に研究に取り組んだものである。その結果、次の成果を得た。1.イチゴ選別機の研究(1)選別機構の開発 選別機構としてベルト式を開発した。本機構は直線的な搬送により選別速度の制御が容易で連続選別が可能となるように、イチゴが円形パンに載せられてベルト上を移動する間に、CCDカメラで画像入力して、コンピュータで階級と等級に選別するものである。区分けはエア-シリンダにより、イチゴをA.B.Cの3等級に区分するものである。(2)形状判別ソフトウェアの開発 コンピュータ画像処理によって階級と等級を判別するために、イチゴ果実の縦横比、輪郭線等を用いた形状特長抽出の演算手法を提案し、ニューラルネットワークによる判別プログラムを開発した。本プログラムによる判別性能は83〜95%が得られた。2.予冷による品質管理の研究イチゴの品質保持として果実硬度を増加するために、予冷とCO_2ガス処理の試験を行い、予冷温度は1℃が5℃より、CO_2処理では高CO_2貯蔵が、果実の硬化及び品質保持には有効であることを明らかにした。そのため、予冷とCO_2を併用した処理法は選別での損傷が少なくなり、出荷後の品質劣化も減少させ得ると言え、機械選果には有利と判断された。
著者
山村 善洋
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

南九州火山灰土壌地帯は,元来,河川水,湧水,地下水あるいは溜池を水源とする天水依存型の農業地帯である。ところが,この地域は戦後の50年の間に,土地利用形態の変化,農地の減少や河川改修等によって水文環境が相当に変化し,河川水位や地下水位の低下,あるいはため池や湿原の減少等の水環境の変化が生起している。その結果,気温の上昇と湿度の低下,霧の発生の減少等の気象環境変化が認められている。この様に水環境の変化が進行する中で,ダム・堰・調整池,水路,パイプライン等の建設を含む農業水利事業が完了したり,進行中であったり,あるいは今後着工する地域がある。ところで,農業水利事業とは新たな水環境創生事業に他ならない。卑近な事例として高鍋防災ダムがある。築造され30年経過し,ダムの効果が発揮されていると同時に,湿原が出現し,今その保存のあり方と環境教育の一環として注目を浴びている。また,昨夏の無降水・猛暑による早魃被害が報じられた一方で,一ツ瀬地域の水利事業完了地域ではその事業効果が報じられた。この様に農業用水は単に安定した作物生産や営農上の観点から,農業・農村の活性化に貢献するばかりでなく,周辺の大気・微気象環境を良好にし,用水として使用される過程において,また,使用された結果として,地表水あるいは地中水・地下水として3次元的に地域水環境に影響を及ぼしていることが明らかになった。このように農業用水は地域水環境の保全に対して公益的機能をもっている。しかるに,農業用水も取水・利用には利水上の制限があり,水利施設の観点からの用水管理のあり方が重要な課題となっている。そのためには水利用の実態と気象条件との関連を詳細に解析し,水使用量の推定を行うことが重要な要因となる。気象変動の予測にはひまわり画像が有益な情報であり,この利活用による農業水利施設の管理が可能であることを確認できた。