著者
木村 和也
出版者
広島大学
雑誌
広島大学マネジメント研究 (ISSN:13464086)
巻号頁・発行日
vol.2, 2002-03-20

自動車メーカー同士が激しい競争を繰り広げ, 終わりのないコスト削減をしている。自動車業界においては, 従来のような, グループ内での実質的な継続的取引の保証は, もはや期待することはできなくなってきている。したがって, 今後はグループ外企業との競争に勝てるような競争力を身に付けなければ, 子会社といえども取引を獲得することができなくなるばかりか, 企業として存続することすら危うくなる可能性がある。とりわけ, わが国の会計制度が連結決算重視へとシフトしたことにより, 事態は深刻である。連結対象企業の業績がグループ全体に反映されることになったため, 子会社の業績がグループ全体の足を引っ張ってしまうからである。すなわち, 過去によくみられた, 業績不振のグループ企業があればたとえ料金が高くとも優先的に発注してきたような行為は, 市場の評価の低下につながって資金調達を困難にさせ, やがては財務状況を悪化させる要因ともなる。そうなると, 競争力のない子会社はもはや親会社としても株式を保有し続ける意味はなくなり, 処分してしまうという選択肢も生まれてくるからである。本研究は, 再編が著しい自動車業界における物流サービス企業の自立化の可能性について検討する。筆者が勤務するマロックス株式会社の視点から, 新規事業を立ち上げ, グループ外企業への販売比率を高めて自立化していくための条件と成功要因を抽出する。そのベンチマーキングの対象として取上げられたのが株式会社バンテックである。バンテックは, 日産の物流を担うグループ企業であったが, 経営陣による企業買収方式(MBO)によって日産自動車との資本関係を絶ち, 自立化に成功している。バンテックの自立化の成功要因(KFS)を要約すると以下の7点になる。(1)高度なノウハウがあった(2)集中性と広域性を兼ね備えた拠点ネットワークがあった(3)一般向け事業の初期の段階で良質の顧客を確保することができた(4)プロジェクトチームをうまく機能させ, 分野・顧客別の事業部制組織に発展させた(5)投資に関してある一定の範囲で自由度があり, 一般向けに設備投資できた(6)経営危機を契機に, 親会社が一貫して自立を促した(7)系列内取引の受注量の減少と共に一般売上拡大のインセンティブが高まったこれらのKFSのうち, マロックスが容易に満たしうる要因は, (1)に限られる。したがって, マロックスがバンテックと同じビジネスモデルで自立していくのは, きわめて困難である。しかし, マロックスとしてはマツダ向け以外の顧客を開拓していかなければ将来はない。この危機感をテコに, 並々ならぬ決意をもって事業, 組織, 戦略を抜本的に見なおす必要がある。そのために, 以下の問題を創造的に解消しなければならない。(1)既存のノウハウを活かして自動車産業内で取引の拡大を図る(2)営業力の強化(3)一般向けのノウハウの蓄積(4)キャリアパスの再構築をして組織を活性化させる(5)戦略の一貫性基本的には, 本業に近い領域で短期的なキャッシュフローを稼ぐ間に, 着々と一般向けの新規事業の領域でビジネスを展開するノウハウを蓄積するという事業展開である。九州地区には自動車関連市場において高い成長性が見こまれる(工場の生産台数が1995年の80万台弱から2010年140万台を超えると推計)。マロックスは山口県の防府地区に拠点を有しており, これを活かせば, 九州から広島への物流サービスを供給することができる。その一方で, 外部との提携関係を結び, 一般向けの物流サービスのノウハウを蓄積する。自立化を前提にした事業展開を継続的に行うためには, 戦略の一貫性を保って組織を活性化させる必要がある。バンテックが行ったように, プロパー社員と転籍社員を区別した二元的人事処遇制度を取りやめ, 年功的な要素を排除して, 実力主義の考え方のもとで, より高い目標にチャレンジし, より高い成果を上げ会社へ貢献した人が高い成果を得る仕組みを構築して組織を活性化させる必要がある。そのためには, この人事制度を支えるような戦略的な一貫性が不可欠なのである。
著者
両角 卓也
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

研究業績の概要パリテー対称性が自発的に破れるある種のleft-right模型は,標準理論と異なる機構で軽い5つのに質量を与えることができ,さらにトップクオークの質量も困難なく導入できるので,標準模型を超える模型として興味深い.我々はシーソー機構に基づくleft-right模型を研究し,この模型におけるクオーク質量階層性,フレーバーチェシジングな中性カレントおよびCP非保存現象を系統的に調べた.その結果,K中間子のCPの破れ_<εK>およびΔM_Kからパリテー対称性が破れるスケールの下限を得た。このスケールが低い時(500GeV程度)には,K中間子の稀崩壊K_L→π^0ννのpionのエネルギースペクトルに標準模型と異なる特徴的なシグナルが現れることを指摘した.B中間子の稀崩壊B→X_sl^+l^-は,10^8-10^9個のB中間子を作るBファクトリーで100-1000個程度見つかることが期待され,このモードが標準理論のtreeレベルでは起きないことから,標準模型を超える理論に強い制限を与えることが期待されている。我々はB→X_sl^+l^-の模型によらない解析を行った.具体的には,このモードに寄与しうる10個のローカルな4体フェルミ相互作用を書き下し,それがこのモードに対する分岐比,レプトンの不変質量分布や,前後方非対称性にどのような影響を与えるか,特に標準模型との違いに注目して解析した.その結果,ローカルな4体フェルミ相互作用の種類によって,分岐比と前後方非対称性に与える影響が異なることがわかった.
著者
黒川 隆志 崔 泰羲
出版者
広島大学
雑誌
広島大学教育学部紀要. 第二部 (ISSN:04408713)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.149-158, 1990

さまざまな水泳の授業形態の中で自由遊び, 水泳練習, テスト及び休憩が含まれている小学生の水泳授業を対象にして, 物理的運動強度としての泳速及び生理的運動強度としての心拍数を分析した結果, 次の結論を得た。①水泳練習(0.50m/秒)とテスト(0.49m/秒)の泳速は自由遊び(0.17m/秒)の約3倍に相当した。②休憩を含む泳速では, 自由遊び(0.17m/秒)と水泳練習(0.16m/秒)とでほぼ等しかった。しかし, テストでは, 休憩時間が長かったため遅い泳速度(0.04m/秒)が示された。③水泳練習と自由遊びではAerTからAnT間にそれぞれ全心拍数の28%と27%, AnT以上に2%と1%の心拍数が含まれ, 主として有酸素能力の改善が期待できた。④テストではAerTからAnT間に全心拍数の18%, AnT以上に9%の心拍数が含まれ, 有酸素能力の改善も期待できた。The purpose of this study was to compare the exercise intensity during play activities, practice and time trial in swimming pool for boys and girls aged 9 to 10 years. After analyzing the heart rate and swimming velocity during those activities, we obtained the following results.(1) Swimming velocities during practice (0.50m/sec) and time trial (0.49m/sec) were approximately three times as much as that during play activities (0.17m/sec).(2) Swimming velocities including rest during play activities (0.17m/sec) and practice (0.16m/sec) were approximately four times as much as that during time trial (0.04m/sec).(3) The distribution of the heart rate during practice and play activities included 28% and 27% between AerT and AnT, and 2% and 1% over AnT, respectively. This indicates that aerobic power may be prominently improved by practice and play activities.(4) The distribution of the heart rate during time trial included 18% between AerT and AnT, and 9% over AnT. This indicates that aerobic and anaerobic power may be improved by time trial.
著者
藤本 隆弘 房前 浩二 岡本 昌規 三宅 幸信 高田 光代 合田 大輔 石口 雄二 小川 智恵子
出版者
広島大学
雑誌
中等教育研究紀要 (ISSN:09167919)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.237-247, 2005-03-22

当校では1982年より「生涯体育に視点をおいた授業実践」に取り組んできた。「体育の学び方を学ばせ, 体育・スポーツの生活化」を目指し, 「自ら学び, 自ら考え」, 自己を成長させていく「自己教育力」の育成をねらいとして実践してきた。今回の授業では, ソフトテニスを「ロビングからはじめる」ことによって, ボールの落下点の予測や移動するフットワーク, 打球のための体のさばきなどが身につきやすいのではないか, また, サービス・サービスレシーブやボレー・スマッシュなどの技能の習得に役立つのではないか, 狙ったところにロビングで返せることは戦術を考えることにつながるのではないか, と仮説を立て実施した。「ラリーの続く」楽しさに, 生徒たちが意欲的に, 考え, 工夫し, 技能の習得につとめ, ゲームの中でも工夫することができる授業になったと思う。
著者
地村 彰之
出版者
広島大学
巻号頁・発行日
2002

博士論文
著者
林 忠行
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1)1977年に始まるチェコスロヴァキアでの人権運動、憲章77はそれ以降の信国における異論派の運動の中心となった。憲章77は、既存の政治体制に対し、他の政治的選択肢を提示するという意味での「政治活動」を避け、体制が承認した国際規範や宣言、言体的には世界人権宣言、ふたつの国際人権規約、ヘルシンキ宣言などを論拠に、それらの内容を国内で実施するよう求めた。この点に運動の最大の特色があった。2)当初、憲章77のヘルシンキ宣言とその後の全欧安全協力会議(CSCB)に対する期待は、必ずしも大きなものではなかった。しかし、その後、CSCEは憲章77の運動の基本的な支柱となる。CSCEは拘束力の弱いプロセスにすぎなかったが、憲章77の主張が西側諸国政府によってとりあげられることによって、国際的な場でその主張は政府の立場と対峙できた。また、その過程を通じて西側のNGOとの接触が深まった。こういった意味において、CSCEは憲章77の運動の「国際化」を可能にした。3)また、CSCEが人権だけでなく、平和や環境など広範な問題を扱っていたことから、その影響下で憲章77が「人権」をより広い文脈でとらえるようになった。少なくとも運動はCSCEとのかかわりの中で、全欧州的な視野を獲得したといってよいであろう。4)1989年の同国での政治変動において、憲章77が育てた人脈は大きな役割を果たし、また現在の政府にも多くの人材を送り込んだ。しかし、89年政変を単線的に憲章77の運動もしくはCSCEと結び次けることには慎重でなければならない。この政変は、国際的政治・経済環境の変容、国内体制の分裂と体制の自壊といった多様な結果生じたからである。とはいえ、政治変動初期において、「市民フォ-ラム」などが示した理念は多くの点で憲章77が積み上げてきた議論を引き継いでいる。少なくとも、理念的には、憲章77とCSCEは89年政変に深く結び付いている。
著者
木村 昭郎 原田 浩徳 大瀧 慈
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

原爆被爆者の高令化に伴い骨髄異形成症侯群(MDS)の増加がみられているが、広島市内の4病院において過去15年間に診断されたMDSをリストアップし、87例の被爆者MDSを集積した。被爆者情報は研究代表者の所属する広島大学・原医研が構築した被爆者データーベース(13万人)によって確認し、個人骨髄線量は当研究所が構築したABS93Dによって検索し、放射線被曝による発症相対リスクの統計学的解析をすすめている。予備的結果としては、以前院内統計によって得られた1Svあたり2.5よりさらに高い値が得られている。次に、被爆者MDSでは白血病関連遺伝子AML1遺伝子のラントドメインに高頻度に点突然変異を認め、変異を認めた例の被ばく線量は比較的低線量と考えられた。そこで、標本等の試料を過去にさかのぼって収集し、被爆者10例を追加して解析をすすめた。また、AML1遺伝子のラントドメインよりC末端側についても、非被爆者を含めて点突然変異を5例に見出した。ラントドメイン以外に変異を見い出したのは最初であり、このうちの1例は点突然変異により発現されるAML1分子は正常のものよりも大であった。AML1の変異は放射線誘発MDSに特異的である可能性を有しておりAML1変異と被爆との関係を明らかにすることで、放射線誘発MDSの発症機構を解明することが出来ると考えられる。
著者
野崎 祐子
出版者
広島大学
雑誌
経済学研究 (ISSN:02882434)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-9, 2005-02

本稿の目的は、近年女性の高学歴化が急速に進展した日本の労働市場において、技術進歩がどのような影響を与えたかを定量的に検証することにある。具体的には、高学歴者の労働供給増加が賃金の学歴プレミアム低下を伴わない現象と技術進歩との関連を、要素間の生産関係を説明するモデルを用いて分析する。推計結果からは、高学歴労働者に変更的な技術進歩が雇用吸収力の大きいサービス業でプラスに作用し、労働需要をシフトさせたことが明らかになった。しかしその効果は製造業や運輸・通信業では高卒労働者にシフトするなど必ずしも大卒労働者に有利に働くわけではない。さらに男女で逆に作用するケースも認められた。このように技術進歩が労働市場に及ぼす影響には、産業や教育レベルのみならずジェンダーによっても異なるという重層性が存在する。
著者
長沼 毅
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

通常の表層海水試料に加えて、深部地下水ならびにトカラ列島や口永良部島などの火山域、サハラ・ゴビ砂漠、北極・南極等の極限環境試料から孔径0.2ミクロン(μm)通過菌(すなわちナノバクテリア)の単離・培養を試みた。上記試料液あるいは懸濁液を三連にした孔径0.2ミクロンSterivexフィルターで濾過し、その濾液を貧栄養の1/100LB液体培地に接種した後、濁りの生じた培地をさらに1/100LB寒天培地に塗布し、形成した単コロニーからの釣菌および画線を繰り返して、0.2ミクロン通過菌、(極微小菌)の単離を行い、6株を取得することができた。このうち好気・室温条件で増殖が比較的速い深部地下水由来の3株の分子系統を16S rRNA遺伝子で調べたところ、それぞれ既知の属(Acidovorax、Micrococcusおよび phaeospirillum)に帰属することが分かった。この深部地下水由来の3株について、一酸化炭素と二酸化炭素の変換および亜硫酸と硫酸の変換という地球化学的な機能を有する酵素の遺伝子を得ることができた。また、一本鎖DNAの分解、突然変異源である酸化ヌクレオチドの分解酵素、トレハロース生合成の最終段階、グルタミン酸の生成(synthetaseではなく、糖代謝とアミノ酸代謝を結ぶsynthase)など、種々の代謝に関わる酵素の遺伝子も得ることができ、極微小生物の生理に関する基礎知見を拡充することができた。
著者
松永 京子
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

最終年度となる本年度は、昨年度行ったチカーナ文学における環境正義と環境アクティヴィズムの研究を踏まえて、シェリー・モラガやエレナ・マリア・ヴィラモンテスといったチカーナ作家たちの描く環境アクティヴィズム、宗教的シンボリズムの言説、そしてEl Theatro Campesino(農業労働者劇場)の研究をさらに発展させた。また、環境正義の視点からみる核/原爆文学研究をさらに進め、ジェラルド・ヴィゼナーやサイモン・J・オーティーズといった先住民作家の作品に関する核問題の研究を行なった。具体的には以下を実施した。1.シェリー・モラガ、エレナ・マリア・ヴィラモンテスといったチカーナ作家とEl Theatro Campesino関連の資料・文献を調査、収集(インターネット、大学図書館使用)。2.中・四国アメリカ文学会で、シェリー・モラガ作品における宗教的シンボリズムと環境アクティヴィズムについて発表。3.American Literature Association学会で、ジェラルド・ヴィゼナー作品にみる核問題について発表。4.Western Literature Association学会で、チカーナ作家と環境正義に関する論文を発表。5.ASLE-J大会のラウンドテーブルで環境正義の視点からみた原爆文学問題について発表。6.中・四国アメリカ学会のシンポジウムで、El Theatro Campesinoとチカーナ文学の関係について発表。7.原爆文学研究会でジェラルド・ヴィゼナー作品における核問題について発表。8.以上の学会発表に基づいて論文を執筆し、『文学と環境』、『原爆文学研究』といった学会誌や、Southwestern American Literatureといった海外のジャーナル等に投稿。
著者
鈴木 芳代
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

研究計画に従い,線虫のコンピュータモデルの構築,実生物実験および生物モデルに基づく移動ロボットの制御実験を行った.これらの成果は,学術雑誌および国際学会にて発表した.それぞれの内容にっいて,以下にまとめる(次頁[雑誌論文]記載の順).1.線虫の機械刺激応答(走触性)を担う神経回路のモデルと運動を担う筋の簡略なモデルを作成し,両者を連結することで,前進・後退といった応答をコンピュータ上で再現した.2.地面の摩擦や筋の硬さ,体重など,1.では考慮できていなかったダイナミクスを考慮し,筋モデルをより詳細なものとした.また,筋を支配する神経回路を実生物に忠実にモデル化することで,複雑な運動を再現可能とした.神経回路モデルに含まれる一部の神経細胞を除去したシミュレーションでは,正常体をもとに作成した本モデルにより,変異体の挙動もある程度再現できることが確認された.3.方向制御を担う神経回路をモデル化することで,刺激に応じて運動方向を変化させる線虫の応答を再現した.また,実生物の立体的な筋構造を詳細に表現する体の3次元モデルを新たに考案し,方向制御回路と連結することで,刺激に応じた種々の空間的な運動の表現を実現した.4.1.の走触性神経回路モデルと2.のダイナミクスを考慮した筋の詳細なモデルを連結することにより,刺激に対する応答(前進・後退)をより実生物に近いものとした.5.日本原子力研究開発機構において,線虫の走化性やFood応答に対する放射線照射効果を調べる実験を行った.この結果をもとに,走化性や学習といった応答・機能をシミュレートする初期モデルを新たに構築した.6.構築した線虫モデルを用いて機械システムを制御することを目指し,まず,単細胞生物であるゾウリムシのモデルを用いて小型移動ロボットのバイオミメティック制御を行った.この結果から,線虫モデルに基づく機械システムの制御法について検討した.
著者
勝部 眞人 頼 祺一 相良 英輔 濱田 敏彦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、これまでほとんど明らかにされてこなかった幕末・維新期における島根県大社地域の歴史的特質を、同地域の藤間家文書を中心にしながら、同家の海運業のあり方、町支配の状況、産業・経済基盤、名望家間のネットワークの観点から解明していこうとするものである。基礎作業としてまず文書目録の作成を行ったが、数千点におよぶ文書一点々々に番号の付箋を挟み込み、収納場所と目録とが対応できるようにしていった。ただし、別場所に保管されていて後から出てきた文書や一枚物の文書を中心に、作業を完遂させられなかったものも少なからずあり、今後の課題として残ってしまった。藤間家は慶長期には廻船業を開始していたという伝承を持つ出雲地方の名家であるが、幕末期にも7艘の船を操って東北日本海側各地から九州・瀬戸内各地域におよぶ広い範囲を交易圏として活発な活動を行っていた。また大社地域は、出雲大社の年2回の祭礼時に行う富くじ目当てに遠く江戸・畿内や四国・九州から数十万人が集まってきたことから、それらの人々を相手に諸商売・宿屋を営むことで生計を成り立たせていたという。しかし維新政府の富くじ禁止策によって、地域経済は大きな打撃を受けることになる。「養米」と称された救恤米の払底を機に明治2年に起こった騒動など、地域秩序の維持・再構築が模索されていた。こうしたなかで縁戚筋にあたる宍道町木幡家との書簡をとおして、「文明の魁」として断髪に踏み切る姿が明らかになった。地域のリーダーとして、維新政府・県令の指導と地域秩序維持とのはざまで自らを律していく名望家の姿の一端を解明することができた。
著者
十亀 豊一郎
出版者
広島大学
巻号頁・発行日
1973

博士論文
著者
神谷 研二 増田 雄司 豊島 めぐみ 神谷 研二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

低線量放射線被ばくの健康影響を解明するためには高感度のバイオドシメトリーと発がん機構の解明に基づく発がんリスク評価が必要である。そのため,バイオドシメトリーを可能にする放射線高感受性マウスの開発とゲノム障害応答・修復蛋白質の機能解析とそれを利用した分子バイオドシメトリー法の開発を試みた。1.放射線に高感度なモニターマウスの開発と特性解析放射線に高感度なマウスを開発する為に,誤りがちな修復をする損傷乗り越えDNA合成遺伝子mRevlを過剰発現したトランスジェニックマウス(Revlマウス)を共同研究で作製した。このマウスは,発がん処理に対し発がん高感受性であることが明らかとなったので,このマウスの生物学的特性を解析した。さらに,REV1の過剰発現が細胞の特性に及ぼす影響を解析する目的で,テトラサンクリンでREV1の発現が誘導可能なヒト肉腫細胞を樹立した。この細胞の放射線感受性を検討した結果,この細胞は放射線照射後の生存率が対照群より上昇傾向にあることが明らかとなった。この様にREV1の過剰発現細胞は,放射線に抵抗性であることから,細胞が生き延びることで突然変異を蓄積しやすい特性を有することが示唆された。2.低線量放射線を測定する分子バイオドシメトリー法の開発に関する研究ゲノム損傷部位には、損傷応答に関連するタンパク質複合体が形成され、この複合体は免疫染色でドットとして可視化でき、その個数からゲノム損傷を定量できる。このような現象を利用した全く新しい分子バイオドシメトリー法を開発する一助としてゲノム損傷修復やDNA合成に関係するタンパク質の同定とその機能解析を進めた。そめ結果、幾つかのタンパク質因子の候補を同定した。それらのタンパク質因子について、分子バイオドシメトリー法に利用できるか否かの検討を行った。一方、ゲノム損傷に依存的なH2AXの修飾がクロマチンダイナミズムを増加させることを見出した。さらに、再構成系を用いて損傷乗り越えDNA合成機構の解析に成した。
著者
丸山 文裕 馬越 徹 (1985) 馬越 徹 竹花 誠児 JOE Hicks 山崎 博敏 山下 彰一 HICKS JOE E.
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

本研究は、ドーア(Ronald P.Dore)教授の「学歴病(Diploma Disease)」仮説を、アジアの現状に即して検討することであった。すなわち、学歴獲得競争は後発工業国ほど激しく、それゆえに学校教育は本来の教育機能よりも選抜機能を強め、一種の病的症状を呈するという考え方である。われわれは東アジア(中国,韓国),東南アジア(フィリピン,インドネシア,マレーシア,タイ)の各国を対象に検討を重ね、次のような結論を得た。1.アジア各国では、教育機会は拡大しているにもかかわらず、なおそれを上回る上級学校進学要求が根強く存在している。特に大学への進学要求はますます高まっており、競争は激しさを増している。このため、学校教育のすべての段階で「試験」のための教育という圧力にさらされている。」2,国家・社会は、その経済発展政策において、大学卒のマンパワーをますます必要としており、高等教育の拡大に力を入れているが、雇用市場の方は、大卒者を十分に吸収できる条件が必ずしも整っているとはいえない。そのため、大卒失業者が出ている国もある。また、大学教育の内容(カリキュラム)が、社会の要求に合わず、大学と社会の間に不適合現象がみられることが多い。3.いわゆる「学歴病」の克服に、明確な処方箋を発見した国は今のところ見当らないが、上記のような問題を改善するために、各国とも、1)高等教育制度の多様化、2)教育内容・教授法の改革、3)教員のスタッフ・デベロップメントの強化、4)入試制度の改善、5)高等教育財源の増大、などに懸命に取組んでいる。
著者
藤井 大地
出版者
広島大学
巻号頁・発行日
1992

目次 / p10論文概要 / p1Abstract / p3記号表 / p51 序論 / p1 1.1 緒言 / p1 1.2 埋込み基礎の動的相互作用問題に関する既往の研究 / p2 1.3 研究の目的と概要 / p6 1.4 関係論文 / p92 境界積分方程式法を用いた動的相互作用解析 / p12 2.1 動的相互作用解析の概要 / p12 2.2 境界積分方程式の定式化 / p16 2.3 境界積分方程式の離散化 / p17 2.4 インピーダンスマトリクス / p19 2.5 地震強制力ベクトル / p213 薄層地盤のグリーン関数 / p23 3.1 波数領域の運動方程式 / p23 3.2 要素剛性方程式 / p25 3.3 変位の一般解 / p28 3.4 薄層法点加振解 / p35 3.5 薄層法リング状線加振解 / p384 内部共振解の除去法 / p45 4.1 内部共振解と解析精度 / p45 4.2 蓋と内部空孔面による内部共振解の除去法 / p47 4.3 内部拘束面による内部共振解の除去法 / p525 応力マトリクスの修正法 / p56 5.1 弾性地盤における修正法 / p56 5.2 粘弾性地盤における修正法(その1) / p61 5.3 粘弾性地盤における修正法(その2) / p676 境界積分方程式法と軸対称有限要素法の結合法 / p72 6.1 外部領域の剛性方程式 / p72 6.2 結合法 / p74 6.3 地震強制力の導出法 / p797 境界積分方程式法と3次元境界要素法の結合法 / p81 7.1 外部領域の剛性方程式 / p81 7.2 内部領域の剛性方程式 / p85 7.3 外部領域と内部領域の結合方程式 / p89 7.4 任意形状剛基礎の動的相互作用解析法 / p90 7.5 1/4解析 / p91 7.6 解析法の有効性の検証 / p958 二層地盤における円筒剛基礎のねじれインピーダンス特性 / p100 8.1 解析方法と解析モデルの設定 / p100 8.2 弾性二層地盤におけるねじれインピーダンス / p101 8.3 粘弾性二層地盤におけるねじれインピーダンス / p105 8.4 まとめ / p1079 埋込み基礎の動的特性に及ぼすはく離と滑動の影響 / p108 9.1 解析方法と解析モデルの設定 / p108 9.2 インピーダンスと基礎入力動に及ぼすはく離と滑動の影響 / p110 9.3 構造物の応答に及ぼすはく離と滑動の影響 / p117 9.4 まとめ / p12210 埋込み基礎の動的特性に及ぼす埋戻し土の影響 / p123 10.1 解析方法と解析モデルの設定 / p123 10.2 インピーダンスと基礎入力動に及ぼす埋戻し土の影響 / p125 10.3 構造物の応答に及ぼす埋戻し土の影響 / p131 10.4 構造物の高さに対する影響 / p135 10.5 まとめ / p14011 埋込み矩形基礎の動的特性 / p141 11.1 解析方法と解析モデルの設定 / p141 11.2 埋込み正方形基礎の地反力分布 / p143 11.3 埋込み正方形基礎のインピーダンス / p148 11.4 埋込み矩形基礎のアスペクト比に関する調査 / p151 11.5 地盤の成層性の影響 / p154 11.6 まとめ / p15712 結論 / p158謝辞 / p162参考文献 / p163Appendix / p169 A 相反定理による境界積分方程式の定式化 / p169 B 境界積分方程式の軸対称表現 / p172 B.1 変位表現 / p172 B.2 表面力表現 / p175 C インピーダンスの実部と虚部の関係 / p178 D 多層地盤における入反射場解析 / p180 D.1 平面波の波動方程式 / p180 D.2 SH波入射の場合 / p181 D.3 SV波,P波入射の場合 / p185 D.4 直交デカルト座標系における変位と表面力 / p190 E 動的および静的Kelvin解の変位と表面力 / p192 E.1 動的Kelvin解の変位と表面力 / p192 E.2 静的Kelvin解の変位と表面力 / p192