著者
内野 欽司 佐藤 誠治 増田 充
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.91-99, 1978-09-01

1)運動時の胃内圧変化を知る目的で,radio capsuleによるテレメーター法により,安静時,深呼吸時,努責時とともに,体回転,ステッピング,体前屈,背屈,側屈,上体おこし,V字バランス,15kgバーベル挙上時の胃内圧と呼吸変化を同時記録した。2)capsuleは,イギリス製E.I.L.Type D.70.圧測定用,電池はMauory R.M.312H.1.4volt.アンテナは多方向性のものを用い,Selig Electro-Magnetics Ltd.製受信器の430KHz前後で受信した。3)capsuleの特性は,ガラス円筒内の37℃温水中の測定により決定し,水圧と受信波長(電圧)関係が30〜300cmH_2Oでは10%以内の誤差で直線を示すと推定した。4)30歳代男子3名を被検者とし,早朝空腹時に1時間以内に終了するように実験を行なった。capsuleは3〜4時間アルコールで消毒し,O.5%ハイアミン液に20分浸漬した後水洗してのみこませた。5)立位安静時の圏内圧は,一過性に50〜60cmH_2Oに上昇することもあるが,30〜33cmH_2Oの律動性収縮で2〜3秒の周期と3cmH_2O以下の振幅をもつ波型を示した。この波型は,深呼吸,努責あるいは運動開始と同時に消失した。6)体回転,ステッピングでは73.3〜83.3cmH_2Oの胃内圧を示したが,ステッピング時にはドリフトが多く測定困難なときもあった。体前屈時の最高胃内圧は80.0cmH_2Oであったが,背屈時あるいは早い側属を行わせたときは,それぞれ最高160.0cmH_2O,153.3cmH_2Oの胃内圧を示した。7)吸気終了時に上体おこしを行なったとき,最高147.0cmH_2Oの胃内圧を示した。V字バランス時の最高は126.6cmH_2Oであった。8)Jerkで15kgのバーベル挙上時と努責時に170.0cmH_2O(125mmHg)の高い胃内圧が観察された。Snatchで挙上した場合は120.0〜123.0cmH_2Oであった。9)深呼吸時あるいは運動後安静回復時の呼吸曲線では,多くの場合呼息期の1/2の時点で1〜3秒下降(呼息を示す)曲線が平行になるか,極めて僅かの上昇を示した。腹式深吸息時の胃内圧は最高76.6cmH_2Oであった。10)staticな筋運動時における空腹胃内圧上昇の機序として,吸息による腹筋緊張が,皮膚受容器を刺激し,皮膚-内臓反射径路によって胃壁筋の緊張が亢進することが考えられ,そのとき,介在ニューロンに対する大脳皮質からの情報が大きく影響すると推察した。
著者
中山 悌一
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.443-453, 2004-08-01
参考文献数
36
被引用文献数
2

本研究は, 1950年から2002年までの日本人プロ野球選手の身長と体重が, 戦後飛躍的に向上した一般人の体格と比較して如何に推移してきたか, さらに米大リーグ選手との体格の差は縮まりつつあるのかを明らかにする事を目的として遂行され以下の結果を得た.<BR>1.1950年の日本人プロ野球選手の平均身長は170.7cmであったが, 2002年には平均180.1cmまで高くなり53年間で9.4cm (5.5%) の成長を見せた.1950年の日本人プロ野球選手の平均体重は65.0kgであったが, 2002年には79.8kgとなり53年間で14.8kg (22.8%) の増加を認めた.さらに1950年の日本人プロ野球選手の平均BMIは22.3であったがその後徐々に大きくなり2002年には24.6となり, 日本のプロ野球選手ががっちりとした体格へと推移していることが明らかとなった.<BR>2.身長のポジション別推移では常に投手が一番高かった.この理由として投手は身長が高い方が投球に有利であるいうポジション的特異性に由来しているものと考えられる.体重のポジション別推移は, 1969年から現在まで捕手が一番重くなっている.この結果は捕手は移動距離が少なく, ポジション的役割としてホームベースを死守する役目を担っているために体重が重い方が有利である事に起因するためと推察される.<BR>3.一般人の体格は, 戦後急激に向上したことが数多く報告されているが, 日本人プロ野球選手の体格も同様に大きくなり, 身長は日本人一般男子 (24歳) より5.5%から8.6%の範囲で常に高く, 同様1に体重も日本人一般男子 (24歳) より15.9%から27.3%の範囲で常に重かった.このことより, 日本人プロ野球選手は, 同年齢の日本人一般男子より体格的に非常に優れた選手たちによって構成されていることが明らかとなった.日本人プロ野球選手と日本人一般男子 (24歳) の身長と体重の差は, 1950年代に急激に広がったが1960年以降はその差も小さくなる傾向にある.<BR>4.日本人プロ野球選手と米大リーグ選手の体格を比較してみると, 1950年代の身長差は11.4cmであったが, 2000年代の身長差は4.9cmとなった.同様に1950年代の体重差は17.7kgであったが, 2000年代の体重差は13.1kgまで縮まり, 日本人プロ野球選手と米大リーグ選手の体格の差は, 確実に縮まりつつあることが確認できた.
著者
鈴木 政登 清水 桃子 河辺 典子 高尾 匡 町田 勝彦 川上 憲司
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.329-344, 1996-04-01
参考文献数
48
被引用文献数
6 1

加齢およびlife styleに起因した有酸素性作業能 (VO<SUB>2</SUB>max) の低下, 高血圧, 血清脂質の上昇および筋量や骨密度 (BMD) の低下は「寝たきり, 痴呆性老人」発症の危険因子とされる.<BR>本研究は, 年齢やlife styleおよび運動の習慣化の動機などそれぞれが異なる20~76歳の健康女性165名を対象とした横断的研究であり, これらの危険因子が習慣的運動によって改善または除去されるか否かを調べる目的でなされた.1回30分間以上, 週2回以上の頻度で水泳, ジョギング, エアロビックダンス等の運動を2年間以上継続している者を運動群 (Ex群, n=82) , Ex群としての条件を満たさない者および運動習慣がない者を対照群 (Cont群, n=83) とし, 40~60歳までは5歳刻みで, それ以下およびそれ以上の年齢の者は一括して比較した.運動習慣の有無のみならず閉経年齢や嗜好品および就業状況などlife styleの調査も行い, 次のような研究結果を得た.<BR>1) 本被検者165名のうち閉経者は89名 (54%) おり, 閉経年齢の平均は49.7±3.1歳 (閉経期間1~23年間) であった.<BR>2) 常習的喫煙者は35名, 週1回以上の頻度の飲酒習慣を有する者は100名みられた.<BR>3) 加齢にともなって体重あたりVO<SUB>2</SUB>max (n=165, r=-0.590) およびHRmax (r=-0.722) は有意 (p<0.001) に減少した.Ex群のVO<SUB>2</SUB>maxはCont群に比し有意な高値を維持しつつ加齢にともない減少したが, HRmaxには2群間の差はなかった.<BR>4) 安静時血圧は40歳未満の群が有意な低値を示した他は隣合う年齢間に有意差こそなかったが, 明らかに加齢にともないSBP (r=0.391) , DBP (r=0.315) ともに有意 (P<0.001) な上昇を示した.しかし, 本被検者165名の中には160/95mmHg以上の者はいなかった.安静血圧にはEx, Cont群間に有意差はなかったが, 運動前後の差 (ΔSBP, ΔDBP) はEx群がやや高い傾向であった.<BR>5) 血液成分のうち, 明かな年齢変化が認められたのは血清TC (r=0.346, p<0.001) およびLDL-C濃度 (r=0.339, p<0.001) であった.HDL-Cには年齢変化はみられなかった.Ex, Cont群間の比較では, TC, HDL-CいずれもEx群が高値傾向を示し, HDL-C/TC比には差がなかった.しかし, 本被検者のうち10, 30kmおよびフルマラソンなど公式試合出場者 (n=11, 49.7±7.7歳) では同年代の者に比し血清TCは低く (189.2±23.3mg/dl) , HDL-Cは有意に高値 (72.2±10.9mg/dl) であった.さらに, 飲酒と運動習慣を併用している者 (n=26) のHDL-C (75.8±15.8mg/dl) およびHDL-C/TC比が高かった.<BR>6) 体重や肥満度には年齢変化も2群間の差もみられなかったが, 加齢にともない%FTMが増加し, %LTMが減少する傾向であった.2群間の比較ではEx群の%LTMが高く, %FTMは低値傾向を示した.<BR>7) 閉経前にはEx群のTBMDおよびLegBMDが有意に高値であったが閉経後では2群間に有意差はなかった.しかし, 閉経後の者でもフルマラソン等公式大会に出場している者 (n=5, 52.6±1.5歳) のTBMDおよびLegBMDはCont群 (51~55歳) のそれに比し有意に高値であった.<BR>8) VO<SUB>2</SUB>max, 体組成, 骨密度および血清脂質濃度相互の関連を調べた結果, VO<SUB>2</SUB>max総量はLTM (kg) と高い相関 (r=0.669) を示し, VO<SUB>2</SUB>max/LTMは加齢にともなって減少したが, いずれの年齢でも常にEx群が有意な高値であった.体重あたりVO<SUB>2</SUB>maxは%FTMとは逆相関 (r=-0.442) , %LTMとは正相関 (r=0.422) を示した.しかし, 血清TC, HDL-C濃度とは関連がなく, 安静時SBP (r=-0.232, p<0.01) およびDBP (r=-0.192, p<0.05) とは低い相関係数しか示されなかった.一方, BMDは年齢の他に体重, それもLTMの影響を強く受けた.しかし, TBMDと体重あたりVO<SUB>2</SUB>maxとの相関は必ずしも高くはなかった (r=0.354, p<0.001) .<BR>骨密度およびVO2maxにおよぼす諸要因の重回帰分析を行った結果, 次のような回帰式を得た.<BR>全身骨密度 (TBMD; g・cm<SUP>-2</SUP>)<BR>=0.9525-0.0045×Age+0.0059×FTM (kg) +0.0072×LTM (kg)<BR>(n=165, R=0.669, p<0.001)<BR>VO<SUB>2</SUB>max (ml・kg<SUP>-1</SUP>・min<SUP>-1</SUP>)<BR>=47.97-0.391×Age+0.175<BR>×Leg BMD (g・cm<SUP>-2</SUP>) -0.531×%FTM (%)<BR>(n=165, R=0.715, p<0.001)<BR>尚, 上記二式の偏回帰係数はすべて0.1%水準で有意であった.<BR>以上の研究結果から, 習慣的運動によって全身持久性能力 (VO<SUB>2</SUB>max) や筋の最大酸化能 (VO<SUB>2</SUB>max/LTM) は高く維持されるが, 加齢による骨密度の減少や血清脂質の改善を期待することは困難であり, これらの改善にはより厳密な運動処方が必要であることがわかった.しかし, 体重あたりVO<SUB>2</SUB>maxは骨密度 (例えば, 脚骨密度; r=0.395) や筋量指標 (%LTM; r=0.422) と有意 (p<0.001) な正相関を示したことから,
著者
藤井 宣晴
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.313-317, 2003-06-01
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
熊江 隆 荒川 はつ子 鈴川 一宏 石崎 香理 内山 巌雄
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.189-199, 1997-04-01
被引用文献数
2 3

本研究においては慢性疲労の予防を主眼として, 簡便・迅速な肉体疲労度評価法を開発するための基礎的検討をある大学に所属する箱根駅伝の選抜選手を被験者として行った.<BR>インフォームドコンセントを得てから, 夏期合宿の直前の7月から翌年2月までの8ケ月において, 約一ケ月間隔で8回の, 1) 身体的特性; 体重及びインピーダンス法による体脂肪量等, 2) 血清生化学検査; ドライケミストリー法と従来法による6項目の検査, 及び3) 主観的疲労度; 自覚症状しらべとPOMS, の調査を行った.<BR>ドライケミストリー法と従来法による血清生化学検査の結果は非常に良く一致し, ドライケミストリー法を用いても従来法と変わらない検査結果が得られることが明らかとなった.また, 練習量の多い夏期合宿の前後でみると血清酵素活性と主観的疲労度の変化に関連性がみられた.しかし, 全調査期間を通してみると関連性は認められず, 血清酵素活性と主観的疲労度の変化が逆になる傾向を示す被験者の存在が認められた.<BR>これらの本研究の結果より, 持久性の強い運動が慢性的に繰り返されている場合には, 主観的な疲労の調査だけでは肉体的な負荷を見過ごす可能性が考えられ, 肉体的な疲労状態を客観的に推定することが競技成績の向上や運動による障害の防止も含めて重要であろうと思われる.したがって, 微量の血液から簡便で迅速に検査が行え, 結果を調査現場で直ちに被験者や指導者に伝えることができるドライケミストリー法による血清酵素活性の検査は肉体疲労度の評価として有用であると思われ, オーバートレーニング状態への推移を予防する上でも非常に有効であろうと考えられる.
著者
小栗 和雄 加藤 義弘 黒川 淳一 井上 広国 渡辺 郁雄 松岡 敏男
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.155-164, 2006-02-01
参考文献数
39
被引用文献数
6 4

Masked obesity is the presence of obesity based on percent body fat (%BF) when the body mass index (BMI) shows an absence of obesity. To examine the relationship between masked obesity and arteriosclerosis risk factors, we compared both serum lipid levels and the prevalence of hyperlipidemia in male and female high school freshmen with and without masked obesity. Subjects consisted of 403 male and 326 female high school students aged 15〜16 years. Of these, 34 (8.4%) males and 36 (11.0%) females had masked obesity, defined as 17≦BMI<23.60 and %BF ≧25% in males, and 17≦BMI<24.17 and %BF≧30% in females, while the remaining 300 males and 246 females were not obese, having 17≦BMI<23.60 and %BF<25% and 17≦BMI<24.17 and %BF<30%, respectively. For both sexes, serum total-cholesterol (TC), low-density lipoprotein cholesterol (LDLC), triglycerides and the arteriosclerotic index (AI) were significantly higher (p<0.05〜0.01) in those with masked obesity. And many of the subjects with masked obesity had abnormal levels of TC, LDLC and AI, compared with those who were not obese (p<0.05〜0.01). Additionally, we compared both serum lipid levels and the prevalence of hyperlipidemia between subjects with masked obesity and control groups with the same BMI values. As a result, subjects with masked obesity had high serum lipid levels and a prevalence of hyperlipidemia. These results support the existence of masked obesity and suggest that masked obesity is associated with increased serum lipid levels, and thus could be a risk factor for arteriosclerosis in male and female high school freshmen.