著者
生駒 大洋 ギオ トリスタン
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.115, 2005

太陽系の巨大氷惑星(天王星と海王星)の熱進化を議論する。既存の熱進化モデルは、初期条件として惑星が非常に低温であることを要求している。これは集積モデルと矛盾する。その原因の一つは、初期の惑星内部の温度分布を非常に単純化していることである。そこで、集積時に氷惑星に供給される熱を考慮して熱進化モデルを再構築した。
著者
吉田 辰哉 倉本 圭
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.52-63, 2021-06-25 (Released:2021-07-16)

近年の宇宙化学的研究により,地球マントル物質の同位体組成は始原的隕⽯の中で最も還元的なエンスタタイトコンドライトに酷似していることが⽰されている.このことは形成期の地球に,⾦属鉄の還元作⽤によってH2やCH4に富む還元型原始大気が形成されたことを強く⽰唆する.これまで富⽔素原始大気は流体力学的散逸によって速やかに失われたとみられてきたが,これは放射活性分子種による放射冷却過程やXUV吸収に付随する光化学過程を著しく簡略化したモデル計算に基づいており,⽔素残留期間については不確定性が大きい.そこで本研究では,これらの過程を陽に組み込んだ流体力学的散逸モデルを原始地球大気に適⽤することで,大気組成に依存した大気散逸率を求め,その結果を適⽤して,現表層揮発性元素の貯蔵量や同位体組成と整合的な原始大気の進化経路を推定した.CH4や⾚外活性光化学生成物(H3+,CH,CH3等)の混合⽐が⼩さい場合でもそれらの放射冷却の影響は著しく,CH4/H2>0.01の場合,CH4はほとんど散逸せずH2のみが散逸する.散逸が抑制された結果,集積期に獲得したH2の残留期間は>4億年にも達しうる.これは,地球上に生命が誕生したと推定される時期に重なり,初期地球において還元的大気種の温室効果によって温暖環境が保たれ,当時の大気が生命につながる有機物の生成場として重要な役割を果たした可能性があることを⽰唆する.
著者
中澤 清
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.177-184, 2011-06-25 (Released:2017-08-25)
参考文献数
11

前前回[1]は「研究室での林先生」と題し,また,前回[2]は「林先生の教育・研究指導」と題して,日本物理学会誌[3]や天文月報[4]とは違った視点から,林先生の人となりを紹介してきた.今回は,先生のいくつかの太陽系起源の研究を話題としながら,「京都モデル」構築までの裏話のほんの一部を紹介したい.内容が研究に深く関わることから,専門的な用語を用いた記述とならざるを得ず,分野外の読者にはかなりの負担となることをご容赦願いたい.
著者
瀧川 晶
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.4-13, 2020-03-25 (Released:2020-05-22)

先太陽系粒子は,太陽より一世代前の晩期星で形成し,星間空間を経て太陽系原材料物質の一つになった,星周ダストの生き残りである.星周ダストやダスト形成場の観測,先太陽系粒子の分析,ダスト形成実験を組み合わせることによって,先太陽系粒子固有の形成・変質履歴と,星周ダストの一般的特徴や形成過程という,相補的な情報を得ることが可能となる.本稿では,アルミナ(Al2O3)を鍵として,晩期星から太陽系形成に至るまでの,物質の形成と進化を紐解く試みを紹介する.
著者
安部 正真 橘 省吾 小林 桂 伊藤 元雄 渡邊 誠一郎
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.28-37, 2020-03-25 (Released:2020-05-22)

探査機「はやぶさ2」は小惑星リュウグウ表面での試料採取のための二回の着陸運用を成功させ,現在,地球帰還に向けて,飛行中である.2020年末に地球に届けられるリュウグウ試料は,地球帰還から6ヶ月の期間,JAXAキュレーション施設内に設置された専用のクリーンチャンバーの中で,地球大気にさらされず,窒素ガス中で初期記載される.その後,一部試料に対し,外部機関でのJAXA主導の高次キュレーションならびに「はやぶさ2」科学チームによる初期分析がおこなわれる.地球帰還から18ヶ月後には,それらの分析結果はカタログ化され,国際公募による分析に試料が配布される.本稿では,初期記載,高次キュレーション,初期分析に関し,それぞれの目的や実施内容,計画について示し,国際公募開始以前にJAXAならびに「はやぶさ2」プロジェクトが主導しておこなうリュウグウ試料分析の全体像を紹介する.
著者
吉川 真 吉光 徹雄 高木 靖彦 出村 裕英 野口 高明 宮本 英昭 川口 淳一郎 藤原 顕 安部 正真 岩田 隆浩 川勝 康弘 田中 智 森 治 矢野 創
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.7, 2006

小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星イトカワの観測で、500m程度の小さなS型小惑星についての理解が深まったが、我々は、さらに次の小天体探査ミッションについての検討を行っている。次のミッションとしては、S型と同様に小惑星帯で主要なタイプとなっているC型小惑星の探査を行いたい。このタイプでは、有機物や水をより多く含んでいると思われており、生命前駆物質の科学としても重要である。ここでは、これまでのミッション検討結果をまとめて報告する。また、是非、多くの研究者に小天体探査に参加してもらうことを呼びかけたい。
著者
野田 寛大 花田 英夫
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.88, 2004

国立天文台RISE推進室ではSELENEの次のミッションとして月面天測望遠鏡を提案している。写真天頂儀を月面に置き、星の軌跡を撮像することにより月の回転を測り、月の内部構造を推定することが目標である。月面では熱環境が厳しいためこれまで実験等で熱の解析を行ってきた。本講演では前回の発表に引き続き計算機による熱解析の結果を発表する。
著者
荻原 正博 井田 茂 モルビデリ アレサンドロ
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.37, 2006

原始惑星同士の衝突による地球型惑星集積の最終段階を、円盤乱流トルクを考慮してN体計算した。原始惑星系円盤は磁気回転流体不安定によって乱流状態にあると考えられ、乱流による円盤ガスの密度揺らぎによって発生するランダムな重力トルクが原始惑星の軌道進化に影響を与える可能性がある。計算の結果、乱流トルクが軌道離心率を間欠的に上昇させながら軌道長半径のランダムウォークを生じさせ、惑星同士の孤立化が妨げられ衝突が増える傾向にあることが分かった。
著者
北里 宏平 安部 正真 三戸 洋之
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.114, 2004

65803 Didymos はPHAの軌道グループに属する近地球型小惑星で, 比較的探査機が到達しやすく次期小天体探査計画の候補となり得る天体である. 我々は東京大学木曽観測所の30-cm望遠鏡 (K.3T) を用いて, この小惑星の15晩のライトカーブを取得した. Didymos のライトカーブには, 周期約2.26時間のダブルピークの連続周期カーブと周期約11.90時間の減光カーブが複合しており, 主星の周りに衛星が存在することを示唆している. これらの周期と主星と衛星の直径比より, 衛星の軌道を真円と仮定して二体問題で概算すると, この小惑星のバルク密度について約2.0 g/cm<sup>3</sup> という値が得られた.
著者
阿部 新助 山本 真行 矢野 創 海老塚 昇 渡部 潤一 向井 正
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.107-107, 2006

流星や隕石が、地球大気突入によりどのような物理化学発光素過程を経ているのかは、未解明な点が多い。特に 炭素や水などのアブレーション過程を理解することは、生命起源物質の地球到来過程を解明する上でも重要である。2006年1月15日、NASAのスターダストは、直径80cmのカプセルを人工物では史上最速の12.9 km/sで地球大気に突入させた。我々は、この人工流星をNASA-DC8観測航空機から超高感度ハイビジョンカメラ(UV-II-HDTV)と500 grooves/mmの反射型対物分光器を用いて300-650nm波長領域の分光観測を行った。
著者
磯部 洋明
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.169-173, 2017-12-25 (Released:2018-02-09)

京都大学宇宙総合学研究ユニットの歴史文献天文学研究会では,太陽-地球環境に関心を持つ自然科学者と,様々な地域,時代を専門とする歴史研究者との共同研究により,歴史文献中の太陽黒点や中低緯度オーロラの記録を用いた過去の太陽活動の研究を2014年頃から行っている.本稿では太陽活動に関するいくつかの成果とともに,8世紀のシリア語の文献から,彗星にイオンテイルとダストテイルと思われる二つの尾あることを記述した例についても紹介する.また,自然科学系と人文系の学際的共同研究の難しさと魅力についても述べる.
著者
東 真太郎 片山 郁夫
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.318-325, 2015-12-25 (Released:2017-08-25)

アポロ計画で設置された地震計によって月にも地震(月震)が起きることがわかっている.月震は発生領域や発生メカニズムによって,浅発月震,深発月震,熱月震,インパクトによる月震に分類されており,我々はこの月震の中でも深さ約800-1200km付近で起きる深発月震について,月内部のレオロジー構造とともに考察した.月内部の温度構造から考察されるレオロジー構造から,深発月震は明らかに塑性変形領域で発生していることがわかった.通常は破壊や滑りが起こらない塑性変形領域で深発月震が起こるメカニズムを,地球で起きる地震の発生メカニズムのモデルを参考に考察した.
著者
三浦 弥生
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.15-20, 2017

<p> 火星起源と考えられる隕石の数は170個を超え,それらの多くは13億年前よりも若い結晶化年代を示すが,1984年に南極で発見されたAllan Hills 84001(ALH 84001)は約45億年前という太陽系形成時期に近い結晶化年代を示す.炭酸塩鉱物や有機物を含む斜方輝石岩であるこの隕石は,古い時代の火成活動・水質変成・天体衝突の痕跡,それらの時期や規模に関する情報を与える貴重な隕石である.</p>
著者
中村 良介 山本 聡 松永 恒雄 小川 佳子 横田 康宏 石原 吉明 廣井 孝弘
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.15-24, 2014-03-25 (Released:2017-08-25)

我々は月探査機「かぐや」に搭載されたスペクトルプロファイラ(SP)データの全量解析を行い,月表面に露出しているカンラン石・低カルシウム輝石に富む岩相の全球分布を調べた.その結果,(1)カンラン石はモスクワの海・危難の海といった地殻が薄く比較的小さい衝突盆地周辺に(2)低カルシウム輝石は月の三大衝突盆地,すなわち南極=エイトケン盆地・雨の海・プロセラルム盆地の周囲に,それぞれ局在することが明らかとなった.表層の斜長岩地殻が完全に吹き飛ばされた衝突盆地の内部では,その下にあるマントルが大規模に溶融して「マグマの海」が形成される.原始地球への巨大衝突によって形成された月は,当初数百km以上の厚さのマグマオーシャン(マグマの大洋)によって覆われていた.「マグマの海」は,このマグマオーシャンのミニチュアであり,SPが捉えたカンラン石・低カルシウム輝石の分布は,その分別結晶化過程を反映していると考えられる.今後「かぐや」分光データの詳細な解析をすすめ,「マグマの海」の組成およびその分化過程を読み解いていけば,同じ手法を用いてマグマオーシャンの分化過程や月の内部構造・バルク組成にも強い制約を加えることができるだろう.同様に月の「マグマの海」の研究は,ほぼ同規模の小惑星ベスタ上のマグマオーシャンや,月よりもさらに規模の大きい地球のマグマオーシャンの分化過程についても,新たな知見をもたらすことが期待される.
著者
藤谷 渉
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.90-93, 2016-09-25 (Released:2017-02-01)

タギシュ・レイク隕石は,反射スペクトルのデータからD型小惑星を起源としている可能性が高い.物理的,岩石鉱物学的および地球化学的な特徴はこの隕石が既存の化学グループには属さず,非常に始原的で特異な炭素質コンドライトであることを示す.その特徴は,小惑星帯の外縁部に多く存在するD型小惑星に予想されるものと調和的である.