著者
奥村 栄朗 藤井 栄 森 一生 八代田 千鶴 金城 芳典
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

森林総研と徳島県では、再造林地でのシカ被害軽減のため、皆伐跡地における集中捕獲技術の開発を試みていて、皆伐跡地のシカによる利用実態を把握するため、糞粒法と自動撮影カメラによるモニタリングを行った。 2014年春、徳島県つるぎ町の皆伐跡地2ヶ所(2013〜14年伐採、約4ha)を捕獲試験地および対照試験地に設定した。糞粒法調査は、各試験地周囲の林内、および捕獲試験地の周辺地域(1.5〜3km範囲の4地点)で行い、シカの利用頻度指標としてプログラムFUNRYU(岩本ら 2000)による生息密度推定値を用いた。自動撮影カメラは、7月末から試験地の林縁に各15台を設置した。 糞粒法の結果は、試験地周囲が31頭/km<sup>2</sup>、周辺地点は15頭/km<sup>2</sup>で、皆伐跡地の利用頻度が高かった。自動撮影カメラでは、夏〜秋には出現頻度が高く、日没前の出現もあり、給餌による日中の誘引が可能と考えられたが、12月初めに記録的大雪があり、以後、出現頻度が大幅に低下するとともに、日中の出現がほとんど無くなった。その状況で2〜3月に給餌誘引による捕獲(狙撃および囲いワナ)を試みたが不成功に終わった。 講演では、冬季の出現低下の要因を考察し、今年度の状況についても報告する。
著者
楠本 大 鈴木 和夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.G05, 2004

はじめに針葉樹の師部は、傷害や菌の感染に対して、防御反応を引き起こす。それにともない師部内では様々な化学変化が起こる。これまで多くの組織化学的研究によって、師部の化学物質の変化が示されているが、それら化学物質の経時的・空間的変化を定量的に明らかにしたものは少ない。本研究では、フェノール系物質を中心に防御反応による化学物質の量的変化を、組織化学的観察と対応させながら、明らかにすることを試みた。材料と方法実験には東京大学演習林田無試験地植栽の5年生ヒノキを用いた。7月にヒノキの主幹に傷を付け、その後継続的に5本ずつ選び、傷の周りの樹皮を採取した。解剖観察:樹皮切片を作成した。ポリフェノールはジアゾ反応法とニトロソフェノール反応法で、リグニンはフロログルシン-HCl法で染色した。スベリンはフロログルシン-HClで染色した切片にUV光を照射して蛍光を観察した。フェノール類の抽出と定量:樹皮を傷害カルス、壊死部(コルク組織を含む)、傷から1mmまでの生きた師部(コルク形成層とコルク皮層を含む)、傷から1_から_2mmまでの生きた師部に分け、凍結乾燥した。10mgの組織片を粉砕し、80%メタノールで2回抽出した。総ポリフェノール量をFolin-Denis法で定量した。タンニン量は、抽出液にゼラチンを加えてタンニンを沈澱させたのち、上澄みに残ったポリフェノール量を総ポリフェノール量から引くことで計算した。壁結合フェニルプロパノイドの抽出と定量:メタノール抽出を行った後の残渣から細胞壁に結合したフェニルプロパノイドを1N NaOHで抽出した。抽出されたフェニルプロパノイドはHPLCで分析した。リグニンの定量:NaOHで抽出した後、残渣のリグニン量をアセチルブロミド法により測定した。結果傷害カルスにおけるポリフェノール量は健全部よりも測定期間を通じて有意に高く、解剖観察においてもポリフェノール粒が多数観察された。一方、壊死部では3日目で既にポリフェノール粒は消失し、量的にも減少した。0-1mm師部では、parenchymatic zoneにおいて多量のポリフェノール粒が観察された。また、師部柔細胞では14日目以降液胞の拡大とポリフェノールの染色性の低下が観察された。0-1mm師部のポリフェノール量は健全部よりも若干増加したがその差は有意ではなかった。1-2mm師部のポリフェノール量は健全部と変わらず、解剖観察によっても変化はみられなかった。タンニン量は、いずれの部位においてもポリフェノール量の20_から_35%を占め、ポリフェノールとほぼ同じ経時変化を示した。傷付け7日目に壊死部の細胞壁にリグニンの蓄積が認められ始め、14日目まで蓄積の範囲が増加した。壊死部のリグニン濃度は14日目から増加し始め、28日目に一定に達した。傷害カルスでは、カルス形成が始まったばかりの14日目に健全部に比べてリグニン濃度が低かったが、28日目以降は健全部と同様の濃度を示した。壁結合フェニルプロパノイドについては、p -クマル酸、カフェー酸、フェルラ酸、シナピン酸のうち、フェルラ酸のみが検出された。フェルラ酸は壊死部と傷害カルスで7日目以降増加した。考察傷害カルスのポリフェノールは、その発達初期から多量に含まれており、傷害カルスの防御に強く関与していると考えられた。一方で、師部柔細胞では、化学性の変化によると思われる染色性の低下が認められた。壊死部ではポリフェノールの減少がみられたが、これは細胞が傷付けられたときに遊離した酸化酵素がポリフェノールを酸化重合させたためと考えられた。壊死部のリグニンは、染色によって7日目に認められたが、実際に細胞壁中の濃度が増加するのは14日以降であった。また、その増加は28日目まで続き、壊死部であっても1ヵ月程度は生理活性を維持している可能性が示唆された。壁結合フェルラ酸はリグニン濃度に変化が認められた壊死部と傷害カルスにおいて有意に増加し、リグニン合成との関連が示唆された。このように、ヒノキ師部の防御反応は部位によって多様であり、その発現のタイミングも異なっていた。病原体に対する抵抗性は、こうした種々の防御反応の総合的な効果によって決定されると考えられた。
著者
イクサン ムハマッド 中越 信和
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

Precise forest maps are needed for forest planning. This study compared an accuracy of visual and automated forest boundary delineations using a Root Mean Square Error (RMSE) assessment in the Patenggang Conservation Area. On-screen digitization was utilized as the visual delineation method and Maximum Likelihood was used as the automated delineation method. The results showed that visual was more accurate than automated delineation. The RMSE of visual delineation on World View-2 image were 6.0 m and 9.3 m, while on Landsat ETM+7 image were 21.3 m and 21.5 m. The RMSE of automated delineation on World view-2 image were 16.05 m and 20.75 m, while on Landsat ETM+7 image were 32.45 m and 37.30 m. The study clarified that visual delineation using World View-2 image is the most accurate method for forest delineation.
著者
太田 岳史 小谷 亜由美 伊藤 章吾 花村 美保 飯島 慈裕 マキシモフ トロフューム コノノフ アレキサンダー
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

筆者らは,1998年よりロシア・ヤクーツクの北方,約20kmに位置するスパスカヤパッド・カラマツ実験林において,渦相関法を用いた全生態系からの蒸発散量,光合成量の観測を行ってきた.植生条件は上層植生は2007年6月に展葉していた樹木が枯れ始め,下層植生は2006年~2007年よりコケモモから湿地性の草本や低木が繁茂するようになった.気象条件は,降水量は,1998年~2000年は平年並み,2001年~2004年は渇水年,2005年~2009年は豊水年,2010年~2011年は平年並みとなった.その間に,大気側の成分(放射量,気温,飽差など)はあまり大きな経年変動をしなかったのに較べて,地表下の成分(地温,土壌水分量)は明確な経年変動を示した.そして,蒸発散量,光合成量は,この地表面下の成分により変化したと考えられた.すなわち,土壌水分量と蒸発散量は関係は2007年から低下しており,土壌水分量と光合成量は1年遅れて2008年より低下した.つまり,2005年から土壌水分量は上がりはじめ,2年の時間遅れで蒸発散量を低下し,光合成量はもう1年の時間遅れが必要であった.詳しくは,講演時に発表する.
著者
小山 泰弘 竹垣 英信 岩崎 唱
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

利用されなくなった牧場の森林化を行うため、企業の社会貢献活動の一環として企業等からの支援により、牧場に隣接するブナ林の林縁部に発生した稚樹を活用したブナの移植を行った。移植を行った牧場跡地は、未利用の牧草とその根系が5cm 程度の厚さで堆積していたため、三機工業や和信化学工業等の企業からの支援金を活用して重機を使って牧草をはぎ取った。その後、6~10月までの5回にわたり林縁部のブナ稚樹を堀取り、はぎ取った場所へ移植させた。本年度は、八十二銀行をはじめとする協賛企業および一般公募のボランティアに関係者延べ約300名が植樹に参加し、10,000本のブナ を0.7haの範囲に移植させた。なお6月に植栽したブナは10月現在で95%以上が活着し、植替え作業そのものは良好だった。本方法では、NPOが仲立ちをすることでボランティアの公募や企業の協賛に加えて、NPOに対する支援を行っている東京ガスや地球環境基金なども活用できるため、公的資金や地元負担が少なくなり、コストをかけずに地域の種苗を用いた自然再生を行うための手法の一つとして効果的だと思われる。
著者
長倉 淳子 三浦 覚 齊藤 哲 田中 憲蔵 大橋 伸太 金指 努 大前 芳美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>きのこ原木栽培に用いる広葉樹について、原木利用部位の放射性セシウム濃度を当年枝のセシウム濃度から推定する方法の確立を目指している。本研究は、当年枝のセシウム濃度が同一個体内の採取位置によって異なるかどうかを明らかにすることを目的とした。原発事故後に萌芽更新したコナラ林3サイトの各3個体から8~11本の当年枝(主軸の梢端から下部に向けて5本、および主軸以外の萌芽枝)を採取し、放射性セシウムおよび安定同位体セシウムの濃度を測定した。当年枝の放射性セシウム濃度は、個体によっては採取位置によって2倍以上異なるものもあったが、梢端で高い、下部で高い、主軸で高い、といった採取位置による決まった傾向はみられなかった。放射性セシウム濃度の変動係数は枝間では0.22、個体間では0.29、サイト間では0.51であり、個体内変動よりもサイトによる違いが大きかった。コナラ当年枝の放射性セシウム濃度は枝間や個体間でばらつきはあるが、サイトの指標値として利用できる可能性が示された。</p>
著者
小向 愛 斎藤 秀之 渋谷 正人 小池 孝良
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

広葉樹の花成は花成ホルモンをコードする遺伝子(<i>FT</i>)が葉で発現することで誘導される。しかし開花年の不規則な広葉樹における<i>FT</i></i>遺伝子発現の年変動については、その発現制御が日長等の即時的な環境シグナルでは説明できず、過去の環境刺激がゲノムに記録され、遺伝子に対してエピジェネティックに発現制御していると考えられた。本報告では、ブナの<i>FT</i>遺伝子の塩基配列の特徴を調べ、DNAメチル化の潜在的な可能性を検討した。またDNAメチル化率を調べ、<i>FT</i>遺伝子のDNAメチル化を介したエピジェネティック制御の可能性を検討した。ブナの<i>FT</i>遺伝子のTATA配列はシトシン塩基を含まず、RNAポリメラーゼ結合におけるDNAメチル化の制御はないと考えられた。日長誘導型の転写因子(CO)の結合が推定されるcis配列は、連年開花型のポプラ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、ユーカリに比べてブナでは数多くのシトシンを含んだ。よってブナの<i>FT</i>遺伝子は連年開花型の樹種に比べてDNAメチル化による発現制御の可能性が潜在的に大きいと考えられ、ブナの花成周期の不規性と関連が示唆された。発表ではDNAメチル化率についても報告する予定である。
著者
延廣 竜彦 佐々木 尚三
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>上川地方南部の南富良野町に位置する人工林流域において、グラップルとレーキブレードを組み合わせた林業用機械を用いた地がき処理を2015年7月に行った。地がきは筋状にササ類の根系と表層土壌を剥ぎ取った(地がき帯)。剥ぎ取った土壌は地がき筋間(残し帯)にまとめ置いた。このような地がき斜面上に土砂受け箱を設置し、2015年8月から土砂発生量の観測を行った。同時に、流域末端の簡易堰堤において流量・土砂濃度を観測し、土砂流出量を求めた。土砂発生量は地がき帯、残し帯ともに地がき後2~3年で森林土壌と同程度まで低下した。これは地がき後に植生が回復し、同時に土壌表面が落葉等で覆われることによって土壌の浸食速度が大きく低下したためと考えられた。2015年の地がき直後には流量増加時に土砂濃度が大きく上昇するケースが認められたが、渓床が大きく浸食された2016年の台風時を除けば流量の増加に対する土砂濃度のピーク値は低下傾向にあり、結果として土砂流出量も大きく低下した。以上より、地がき後の土砂発生量・土砂流出量の低下傾向は植生回復の程度に影響を受けると考えられた。</p>
著者
延廣 竜彦 佐々木 尚三
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>北海道内で最も植栽面積が大きいトドマツは主伐対象となる面積が今後拡大することが予想されており、増大する更新コストを低減することが求められている。本研究で対象とした車両系林業機械を用いて地がき作業を行う手法は更新初期コストを低減する面で有望であると考えられている一方、地がきを行うことによる表層土壌のかく乱やそれに伴う土砂移動、ならびに渓流を通じた下流域への土砂輸送などが懸念されている。しかしながら、このような大規模な地がき施工サイトにおける調査事例は少なく、地がきと土砂発生・土砂流出の関係については不明な点が多い。このため、北海道の上川南部地域のトドマツ人工林において、2015年にグラップルと特注のレーキブレードを組み合わせた林業用機械を用いて地がき作業を行い、地がき斜面からの土砂発生量および渓流からの土砂流出量について調査を行なった結果を報告する。</p>
著者
津山 孝人 中村 将太 乗冨 真理 Radka Vladkova
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>環境ストレスは光合成を阻害する。低温や乾燥により炭酸固定速度が低下すると光は過剰になり、葉緑体で活性酸素の生成を引き起こす。活性酸素は各種タンパク質および脂質を酸化し、光合成を不可逆的に阻害する。植物は光合成電子伝達反応を制御することで過剰光を安全に処理する。光合成電子伝達反応のうち、チラコイド膜における酸素還元反応は、その能力が被子植物よりも裸子植物の方が高い。酸素還元反応はフラボプロテインFlvによって触媒される。同タンパク質はらん藻から裸子植物まで保存されている。本研究ではまず、酸素還元反応の能力の評価法を確立するために、らん藻<i>Synechocystis</i> sp. PCC 6803のFlv1欠損株を作製した。酸素還元能は、暗適応後の試料に飽和光パルスを照射して誘導されるクロロフィル蛍光の強度の変化(蛍光減衰)により評価される。蛍光減衰は、野生株よりも欠損株の方が遅かった。これは、蛍光法により酸素還元能を正しく評価できることを示す証拠となる。一方、被子植物の酸素還元反応は小さいが、光化学系Ⅰ循環的電子伝達の能力は高い。裸子と被子、どちらの光合成制御が過剰光処理に有利かを議論する。</p>
著者
上村 佳奈
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>強風による森林風害の発生は、これまで経験/力学的モデルや統計解析によって、 被害発生の風速閾値(限界風速)の推定や要因の解明が行われてきた。しかし、強風時の被害がどのように始まり連鎖(拡大)していくのかという動的プロセスの分析が限られているため、被害推定の精度が向上しないという問題点が指摘されている。動的プロセスについては、通常数値計算などの膨大な計算処理が必要であるため、多様な林分の空間配置などを考慮した解析は少ない。本研究では、ゲーム理論やコンピュータサイエンス技術等を統合したAgent-based modelling手法に既存研究から得られた森林被害に関する理論および風況パラメタを組み込み、森林風害の発生と連鎖のシミュレーションを行った。その結果、林縁での耐風性が高く、林縁から林内への距離が長くなると耐風性は低下した。この傾向は、風洞実験や野外計測結果と類似していることから、 動的プロセスに着目した風害発生メカニズムの解析について本手法は有効であることが示唆された。また、風向に対し立木の配置を変えると、被害の発生場所や連鎖状態が異なることが確認された。</p>
著者
石塚 航 今 博計 黒丸 亮 津田 高明
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>2016年、5つもの台風が北海道に接近・上陸して甚大な被害をもたらした。北海道への台風上陸は9年ぶりの記録だが、3つの台風が上陸したのは気象庁の統計開始以来初の記録で、稀な気象イベントだったことがうかがえる。このうち大型の台風10号は、上陸こそしなかったものの8月末に道南地域を通過したため、この地域の森林に大規模な風倒害が発生した。トドマツ産地試験の1つも風倒害を受けたため、低頻度の攪乱への応答、とくに地域変異の有無を知る貴重な機会と捉え、実態を調べた。対象種は北海道の主要造林樹種トドマツで、道内全地域にまたがる53家系の苗を1980年に植栽した産地試験のうち、函館市内にある試験地にて現地調査を行った。過去の定期調査データも用いて解析し、以下の結果を得た;1) 風倒率は成長や生残密度と関係なく形状比と関係し、道北・道東産で風倒率が高いという地域変異もみられた。2) 幹折れ、根返りの割合に地域変異があり、道北と一部の道東産で根返りが多かった。3) 攪乱後の家系成績(成長×生残)は道西南地域産で高い傾向があった。これらは攪乱応答と地域適応性との密接な関連を示唆すると考えられた。</p>
著者
高尾 和宏 大村 寛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.190-193, 2008 (Released:2008-12-09)
参考文献数
13

刎橋が,江戸時代に静岡県北部,大井川の上流部に存在した。古文書の調査によれば,架橋当初の1607(慶長12)年から1692(元禄5)年まで85年間の橋長は72.8 m(40間)のままであった。ところが1692年に刎橋の10 km上流で推定3,600 haの森林が伐採され始め,1700(元禄13)年までの9年間に皆伐状態にされた。森林の伐採後,1702(元禄15)年に橋長は85.5 m(47間)となり,以後,1729(享保14)年に91.0 m(50間),1815(文政8)年に100.0 m(55間)と,架け替えのたびに長くなっている。架橋場所は橋台を建設する場所の限定から,毎回同じ場所であった。橋長の延長は,大井川の川幅の拡大によるものであろう。すなわち,洪水により流失した刎橋は,拡大した川幅に併せて架け替えされたと推測される。さらに,洪水の原因は,上流部における大規模伐採で森林の保水機能が失われたことによるものと推測される。
著者
正木 隆 中岡 茂 大木 雅俊 青木 理佳 朝倉 嘉勇 五十嵐 徹也 星野 大介
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>巨大なクロマツが生育する神奈川県真鶴町の森林、通称「お林」で調査を行い、クロマツの成長と生存を予測するモデルを作成した。約50haのお林に面積400m<sup>2</sup>の円形プロットを約100m間隔で43箇所設置し、2015~2018年にプロット内の全個体の胸高周囲長を測定した。また、クロマツの樹高と枝下高を2017~2018年に測定した。Matsushitaら(2015)のモデルを基本に、クロマツの年直径成長量を応答変数とし、自身の直径と樹冠長率、プロット内の他個体BA、個体差を固定効果として定式化しパラメータを推定した結果、高精度の成長モデルが得られた(r=0.92)。クロマツの枯死確率については、2015~2016年の直径と直径成長量を固定効果に2017年(通常年)と2018年(稀な巨大台風が直撃)の生存・枯死を定式化し、パラメータを推定した。その結果、通常年の枯死率は直径成長量のみに左右されるが、巨大台風直撃年にはさらに直径の影響も加わり、巨大かつ低成長の個体が枯死しやすい傾向が見られた。以上から、直径、樹冠長率、周囲の広葉樹BAを計測することで成長量の推定が可能であり、それにより通常年および巨大台風が来襲した際の枯死リスクも事前に個体ごとに見積もることができる。</p>
著者
金子 有子 金子 隆之 高田 壮則
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P5009, 2004

1.目的 1)河川の氾濫やギャップ形成等の台風撹乱がサワグルミの個体群動態に及ぼす影響,ならびに,2)ニホンジカ(以下シカ)の食害がトチノキの個体群動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,個体群センサスとセンサス結果に基づいた推移行列モデルによるコンピュータシミュレーションを行った。2.方法 京都大学農学部付属芦生演習林(京都府北桑田郡美山町芦生)のモンドリ谷渓畔域に2.8haの調査区を設定し,トチノキとサワグルミについて種子段階から成熟段階までの全生存個体に標識し,1989年から2003年まで断続的に個体群センサス,種子生産,実生の消長調査を行った。 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 大型台風(総降水量287mm)が直撃した1990年と台風撹乱の影響がなかった1989年,1991年,1992年,1993年,1996年の調査結果に基づき,サワグルミ集団の個体群成長率が台風と結実豊凶の要因に依存して変化する様子をシミュレーションで示した。台風の影響としては台風撹乱による稚樹生存率に対するマイナスの効果,および,台風直撃の2年後と3年後に観察された実生および稚樹生存率へのプラスの効果を考慮した。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 目立ったシカ食害が観察されなかった1997年までとシカ食害が激化した1998年以降の個体群センサスの結果から,シカ食害による動態パラメータ(実生定着数,稚樹の生存率および成長率)の低下の度合いをe-Aとおいて推定した。推定したシカ食害圧の下で個体群の長期変動をシミュレートし,個体群サイズの減少や食害圧がなくなった場合の回復の様子,成熟個体の生存率に依存して変化する長期個体群変動の様子等を示した。3.結果 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 サワグルミ集団の長期個体群成長率は台風要因と豊凶要因に依存して変化した。波及効果による台風の2年後と3年後のプラス効果を含めた場合の結果では,台風頻度が低いほど,また豊作頻度が高いほど個体群成長率は高くなった。プラス効果を含めなかった場合の結果と比べると個体群成長率が増加していた。また,実際の観察による豊作の頻度は2年に一度,台風の頻度は5年に一度であったが,この時の個体群成長率は1を越えていた。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 トチノキ集団の個体群サイズは2001年に1992年の36.15_%_に減少していた。1992年と2001年の個体群センサスの結果から推定したところ,シカ食害により生存率は樹高0-1mのサイズ階ではその2.13_%_,1-4mのサイズ階ではその95.16_%_に低下していたことが明らかになった。推定された動態パラメータを用いて1997年を初期値とし,50年間の動態をシミュレートした結果,個体群サイズは最初の数年で急速に減少し,9年目には20_%_以下になるが、その後は行列の最大固有値に従って減少速度が緩やかになることが分かった。また,50年後にシカの食害がなくなったとして回復速度を評価したところ,52年後には初期値とほぼ同じ総個体数になった。4.考察 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 サワグルミは台風の直撃による地表撹乱(河川の氾濫,斜面崩壊)や風倒木等による物理的撹乱によって大きな被害を受けていたが,台風撹乱の波及効果としてギャップ形成や裸地形成による実生定着のセーフサイトの増加があることにより,個体群成長率が上昇していることが確認された。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 トチノキ集団へのシカ食害は樹高4m以下の稚樹にのみ見られ最初の2,3年に著しい個体数の減少をもたらす。しかし,採餌効率によりその後の減少は緩やかになり,また,トチノキは成熟個体に達してからの余命が150年以上に及ぶことから個体群自体は長く存続すると考えられた。また,その状態で食害圧から解放されれば蓄積した成熟個体による実生供給で急速に回復することが示唆された。