著者
中村 省吾 大場 真 森 保文 根本 和宣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>地方創生に向けた地域資源活用による活性化方策の一環として、木質バイオマス利用には多くの期待が寄せられているが、その具体化にあたっては多様なステークホルダーの存在もあり課題が山積しているのが現状である。</p><p>本研究では、福島県奥会津地域に位置する三島町(本町は人口約1,600人の小規模な自治体で、地域資源を活用したエネルギー施策の検討を進めている)が近年進める森林利活用施策に注目し、同町における木質バイオマスに関する取組の現状を把握することを目的として、町役場担当者に対するヒアリング調査を行った。</p><p>三島町では2016年から町内の森林活用の観点から木質バイオマスの検討が開始され、その中で木質バイオマスの事業利用(年間数千m3)と家庭利用(年間数m3)を並行して推進する必要性が確認された。特に後者では薪ボイラーによる冷暖房システムを町内施設に整備し、燃料供給を町主体の木の駅プロジェクトにより収集する方式を採用した。2019年度には上流(山主)、中流(森林事業者)、下流(エネルギー需要家)の各ステークホルダーが一体的に検討する場として協議会の設立が予定されていた。</p>
著者
興梠 克久 大内 環 垂水 亜紀 北原 文章
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

NPO法人土佐の森・救援隊が考案した自伐林家による林地残材の資源化を導入又は導入検討中は全国で56箇所あり(2012年11月)、①大型機械でなく軽トラック・チェーンソー、軽架線(安価な集材用機械)等を用いた小規模な担い手を想定していること、②副業型または専業型自伐林家へのステップアップとして林地残材の収集運搬という比較的誰もが取り組みやすい方法を取っていること、③出荷者に対価の一部を地域通貨で支払い地域活性化を企図していることが特徴である。これまで研究例がほとんどない,土佐の森方式を導入した地域を対象に,全国アンケート調査(2012年,配布17地域、回収10地域)および聞き取り調査(2012年,3地域)を実施し,①既存の自伐林家が活躍し、新規の自伐林家の開拓にあまり結びついていないケース,②既存の自伐林家に加え、新たに自伐を開始し、副業・専業自伐林家へのステップアップがみられるケース,③自伐林家が少なく、都市住民の森林ボランティアを活用しているケースに分類し,自伐林業の普及、林地残材の有効活用、地域活性化の3つの観点から,全国展開する土佐の森方式の活動の現状と課題を明らかにした。
著者
工藤 琢磨 鈴木 貴志
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.225-231, 2015-10-01 (Released:2015-12-23)
参考文献数
41

猛禽類の巣の土台となりそうな太枝がない若齢針葉樹に,人工巣を設置することで中型猛禽類の営巣を誘導できるか,試みた。その結果,オオタカとトビ,それぞれ一つがいが営巣を行った。オオタカは2羽の巣立ち雛を育てることに成功した。トビは育雛期になって巣を放棄したが,原因は山菜採りによる撹乱の可能性が疑われた。オオタカは前年に自ら構築した自然巣が近くにあったにもかかわらず,人工巣を利用した。トビが利用した人工巣は,もともとトビを含む中型猛禽類の営巣がみられなかった地域に設置されたものだった。これらの結果は,若齢や間伐遅れのために太枝が発達していない針葉樹でも,人工的に中型猛禽類の営巣を誘導することが可能であることを示した。この技術を利用すれば,営巣適木がない森林を営巣適地に変えることが可能で,結果として生息地域拡大も期待できる。
著者
仁多見 俊夫 鈴木 欣一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

木質バイオマスの収集効率を向上させることを目的として、圧縮成形機能をもつ処理機構をトラックに搭載した。圧縮成形機能を持つバンドラ―ユニットは重量6t、長さ5.5mで、林地残材などを受け入れるホッパー部、圧縮成形切断する主要部、圧縮成形されたバンドルを受けて側方へ流れ落とす受け部からなる。このユニットをトラックの後部車台へ、旋回可能に装架し、車両キャビン後方に装備した油圧グラップルクレーンでホッパー部へ材料を供給する。車両総重量は、18tである。林地残材は直径約70cm、長さ約4m、重量約400kgのバンドルに成形排出される。バンドル実証作業を行い、1本のバンドルを作成するための処理時間は平均約5分30秒、処理コストは約2千円/tであった。既往の同様な機構の作業では1バンドル処理時間は約2分であって、コストは約600円/tとなることが期待される。この処理量に対応する施業面積は間伐約200ha、主伐約70haとなり、トラックの機動性によって1台の単年の事業量として無理なく処理可能である。今後、さらに操作手順、ユニット機構、バランスの検討が必要である。
著者
高尾 和宏 大村 寛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.121-125, 2007 (Released:2008-05-21)
参考文献数
13

17世紀,江戸時代の元禄期に,江戸町人の紀伊国屋文左衛門と駿府町人の松木屋郷蔵は,共同で幕府御用材の伐採と運材を請け負った。御用材の伐採場所は,静岡県中央部に位置する大井川上流部の森林であった。その伐採期間は元禄5年(1692年)から元禄13年(1700年)までの9年間で,幕府へ納入した材積は6万尺締(20,160m3)である。御用材は,駿河湾まで大井川を管流され,駿河湾から江戸湾まで船輸送された。大井川での管流は,木材の損傷が大きく,材引取りの合格率は低かった。また,労務者の賃金が低かったことから,収入を得るために細い立木までも伐採をしたとされている。このため,推定3,600haの森林が皆伐状態にされた。御用材の伐採場所は,3,000m級の高山に囲まれた急峻な森林地域で,静岡県内でも降水量の多い地域である。
著者
鹽谷 勉
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.7, pp.393-403, 1940-07-10 (Released:2008-12-19)
参考文献数
35
著者
渋谷 幸弘 餅田 治之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.26, 2003

フィリピンにおける森林再生事業は、初期の政府が直轄で行う造林から近年では地域の住民組織が主体となったものへと変化してきた。しかし、現在においても問題の抜本的解決には至っていない。そこで本研究では、フィリピンにおける主要な森林再生事業である、__丸1__政府が直轄で行う造林と、__丸2__住民組織による造林が地域の実態においていかなる問題をはらんでいるのかという点に関して、事業に関係している地域住民に焦点を当て考察を行った。具体的には、__丸1__事業の公平性、__丸2__地域住民による造林地の自立的な維持管理、__丸3__地域住民の生活改善への寄与、そして、__丸4__森林の再生という4つの分析視角を設定し事業の評価を試みた。政府が直轄で行う事業としては、国際協力事業団の協力により1976__から__1992年に実施されたパンタバンガン森林開発プロジェクトを取り上げた。プロジェクトの目的は、ダムの集水域に広がる荒廃林地に造林を行うことによって土砂堆積を防ぐことであり、約1万haの造林が行われた。当プロジェクトでは、林地・造林木は国の所有とされ、地域住民は主に雇用労働者として事業に携わった。住民組織による事業としては、現在の林政における最重要政策であるCBFM(Community Based Forest Management)を取り上げた。CBFMは地域の住民組織に対して25年を契約単位とする林野保有権を付与し、住民組織を基盤とした資源の共同管理を目指そうとするものである。調査地においては、二つの住民組織が各々約300haの国有林地を利用し、果樹造林を行っていた。調査地は、ルソン島中部に位置するヌエバエシハ州カラングラン町を設定した。当地域では過去にパンタバンガンプロジェクトが実施され、2001年以降二つの住民組織がパンタバンガンプロジェクトと同じ造林地を利用してCBFMを実施している。そのため、多くの住民が双方の事業に関わっており、両事業の比較が可能であった。調査は2001年8月、2002年2月、2002年9月の3回実施し、設定した二集落の全世帯に対して質問表を用いた悉皆調査を実施した。地域住民は所得水準によって以下の4つの階層に分類することが可能であった。高所得順に、__丸1__農外就業者、__丸2__自作農、__丸3__小作農、__丸4__農業雇用労働者であり、この階層の違いをもとに分析をおこなった。__丸1__事業の公平性:パンタバンガンプロジェクトにおいては、最も貧しい農業雇用労働者が最も雇用機会を得ることができず、雇用に際して平等が確保されていなかった。CBFMの実施主体である住民組織への参加率は、自作農が最も高いものの、その他の階層ではほぼ同程度であった。しかし、農業雇用労働者は日々の生活の糧を得なければならないため、造林地の維持管理ができず、CBFMは富裕層のみが利益を得ることができ、貧困層が実質的に参加できない仕組みになりつつあった。__丸2__造林地の自立的な維持管理:パンタバンガンプロジェクトにおいては、実施期間中、年平均10ha以上が山火事によって被害を受けた。林地・造林木に対してほとんど何の権利も持たなかった地域住民にとって、造林木を維持管理するインセンティブは無く、造林地を保護する自立的な行動は見られなかった。CBFMでは、その同じ造林地において、2001年に事業が開始されて以来、山火事による造林木の被害は無い。これは、住民組織が山火事に対処するために規則を作り、草刈や消火活動などを行った結果であり、25年(最長50年)に及ぶ林野保有権が林地・造林木の維持管理における強力なインセンティブになっていると考えられた。__丸3__住民の生活改善への寄与:当地域における住民のニーズはどの階層においても、「雇用機会の創出」が最も高かった。パンタバンガンプロジェクトは、16年間という長期にわたって雇用機会を提供することができたが、一時的な効果にとどまっており、地域の持続的な発展に繋がることはなかった。CBFMにおいては、住民組織が造林事業にとどまらず、家畜飼育事業や金融事業などを自主的に行うことを計画しており、CBFMを通じた新たな地域発展の可能性が生まれつつあった。__丸4__森林再生事業としての評価:パンタバンガンプロジェクトにおいては、20種類以上の多彩な樹種が造林され、採算性の低い場所にも大面積に造林された。CBFMにおいては、造林されているのはマンゴーを主体とする数種の換金樹種に限られ、また集落から交通アクセスのよい林地にしか造林が行われていない。面積は現在のところ完全に事業が成功したとして約600haである。このように、森林の再生という側面からみれば、CBFMには限界があるということができる。
著者
小松 雅史 稲垣 善之 三浦 覚 小林 政広 梶本 卓也 池田 重人 金子 真司
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

森林に降下した放射性セシウムは樹冠にトラップされたのち、林内雨や葉枝の脱落によって林床に移行していくと考えられる。そこで、森林内の放射性セシウムの動態を明らかにするため、リターフォールによる放射性セシウムの移行について調査を行った。茨城県石岡市のスギ林およびヒノキ林、茨城県城里町のスギ林および広葉樹林において、リタートラップを用いて樹冠より降下するリターフォールを採取した。サンプルは葉や枝などに分別・計重し、放射性セシウム濃度を測定した。そして重量と濃度から、単位面積あたりのセシウム濃度を求めた。スギ林からのリターフォールによる移行は、主に褐色葉によるものであったが、事故から2か月間、雄花による移行が多いことが明らかになった。城里町のスギ林では、褐色葉のセシウム濃度は指数的に減少しているものの、事故から2年経過後もリターフォールによる移行は継続していた。石岡市の調査地では森林内のセシウム蓄積量分布調査を、また城里町の調査地では林内雨のCs濃度の計測を行っている。リターフォールによる放射性セシウムの移行について、樹種やサイトの比較とともに、これらの結果との関係について考察を行う予定である。
著者
糟谷 信彦 武永 葉月 村田 功二 宮藤 久士
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.40-47, 2021-02-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
29

センダンの直まき造林技術の確立に向け,まき付ける場所の立地環境,光環境および母樹の違いによる発芽特性や生育特性を評価することを目的とし,以下三つの試験を行った。長野県から岡山県にかけて14カ所の林地に同一母樹由来のセンダン果実をまき付けて発芽および発芽後の苗木の成長を測定したところ,発芽果実率は0~81%,2年目の平均苗高は5~84 cmとまき付け場所により大きく異なり,谷部に近い斜面での成長が良いことがわかった。また,同一母樹由来のセンダン果実を,開空度の異なる場所にまき付けたところ,開空度と発芽果実率,苗高,果実当たりの発芽本数および発芽日との間に有意な相関が認められ,開空度の高い明るい場所ほど,発芽の確率が高まり,苗木の成長が良く,果実当たりの発芽本数が多くなり,発芽日も早まることが明らかになった。さらに異なる母樹から得られた果実を同一場所にまき付けた直まき試験を行ったところ,母樹間で果実1個当たりの発芽本数や苗高が有意に異なっていた。以上により,センダンの直まき造林を行う際には,立地条件,光条件および優良系統の選定が重要なことが明らかになった。
著者
岡 裕泰 田村 和也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

原木需給のミスマッチは丸太価格の暴騰や暴落をもたらす要因となる。1~3ヶ月程度の短期の原木需要見通しが立てられれば、原木供給調整のための基礎データとして有用と考えられる。林野庁においても四半期毎に見通しを作成・公表しているが、その精度改善は可能だろうか。2002年以降を中心に、月次データおよび四半期毎の国産材製材用素材入荷量、製材用素材在庫、製材品在庫等のデータを利用して、国産材製材用素材の需給量を見通すためのモデルについて検討した。国産材素材入荷量には季節変動が顕著なことが確認された。また入荷量には慣性があり、前期の量が大きいほど、次期の量も大きい傾向が認められた。さらに前期の素材在庫率(直近1年間の入荷量に対する在庫量の割合)が低いほど、次期の入荷量が大きい傾向が認められた。翌月以降の見通しを立てるのが当月の下旬とすると、実績値として利用できるのは前月までの入荷量と在庫量である。分析の結果、季節ダミーと製材工場への前月の入荷量、前月の素材在庫量の3つの変数で、政府の見通しと同じ程度の誤差率で国産材製材用素材の需給量を予測できることがわかった。改善のためにはさらに研究が必要である。
著者
根本 唯
出版者
日本森林学会
雑誌
森林科学 (ISSN:09171908)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.25-27, 2021-02-01 (Released:2021-03-04)
参考文献数
2
著者
水野 敬 佐々木 章宏 田島 華奈子 堀 洋 梶本 修身 渡辺 恭良
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第126回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.833, 2015 (Released:2015-07-23)

本邦の国民の約4割は6ヶ月以上疲労が続く状態、慢性疲労状態にある。慢性疲労は、さまざまな疾患発症に寄与するため未病状態といえる。よって、慢性疲労克服法の創出は健康社会形成の一助となる。われわれは急性疲労・慢性疲労・疾患関連疲労の分子神経基盤を探究しつつ、疲労回復に資する抗疲労介入研究を推進している。本講演では、癒される森林などの風景画像による生理心理指標に基づく疲労軽減効果について紹介する。疲労負荷作業中に、風景画像を呈示することで、疲労に伴う1)脳波における覚醒度低下の抑制効果、2)認知機能における注意制御パフォーマンス低下の抑制、3)自律神経における交感神経活動亢進の抑制および4)疲労感上昇の抑制効果が得られることを明らかにした。よって、実際の自然風景の眺望が困難なオフィス環境下においても、これらの風景画像を活用することにより疲労軽減効果が得られ作業効率を維持することが可能となる。本成果を一例とする科学的検証法に立脚した抗疲労ソリューションを実生活空間へ提供・還元していくことが、健康社会実現のための具体的方策の創出、健康科学イノベーションの本格的展開に導くと期待している。

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著者
山本 福壽
出版者
日本森林学会
雑誌
森林科学 (ISSN:09171908)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.29-31, 2018-02-01 (Released:2018-03-23)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
渡辺 敦史 田村 美帆 泉 湧一郎 山口 莉未 井城 泰一 田端 雅進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.298-304, 2019
被引用文献数
1

<p>二つのDNAマーカー,EST-SSRマーカーとgenomic SSRマーカーを利用してウルシ林の多様性評価を行った。EST-SSRマーカーは次世代シーケンサーを利用して新たに開発した。得られたEST情報から2塩基または3塩基モチーフの一定繰り返し数以上を示した21領域にプライマーを設計した結果,最終的に8マーカーが利用可能であった。8 EST-SSRマーカーおよび7 genomic SSRマーカーを利用して,全国各地のウルシ林9集団から採取した377個体を対象として分析した。ウルシは,渡来種であり,クローン増殖が容易であることから遺伝的多様性の喪失が懸念されたが,遺伝的多様性は近縁種であるハゼノキよりもやや高く,著しい喪失は認められなかった。クラスター分析・主座標分析・STRUCTURE分析の結果は,集団によっては特異性が維持されていることを示す一方で,種苗が移動したことによる集団内の遺伝構造の存在を示していた。クローンの存在や小集団化に伴うボトルネックは限定的であり,現在のウルシ林を適切に保存すれば,ウルシ遺伝資源は維持できると考えられる。</p>
著者
齋藤 央嗣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.150-155, 2017-08-01 (Released:2017-10-01)
参考文献数
43
被引用文献数
1

ヒノキの花粉症対策のため,雄性不稔個体の探索を行った。神奈川県内のヒノキ林を探索した結果,雄花から花粉が飛散しない個体が発見された。花粉の飛散を調べるため,雄花がついた枝を袋に入れ水差ししたところ,飛散期を過ぎても花粉嚢が開かず,全く花粉を飛散しなかった。花粉嚢内の状況を光学顕微鏡で観察したところ,正常花粉と異なる大小の粒子が観察された。電子顕微鏡で花粉嚢内を観察したところ,正常花粉同様に花粉の表面に形成されるオービクルは観察されたものの,正常な花粉は形成されていなかった。種子の稔性を調査したところ,結実した球果は小型で,正常な種子は形成されなかった。さし木の活着率は70%であり,クローン増殖が可能であった。増殖したさし木クローンに着花した雄花も花粉を飛散せず,雄性不稔形質は増殖個体でも再現性があった。染色体数を確認したところ 2n= 22 本で2倍体であり,染色体数の異常は認められなかった。花粉四分子期の観察により,雄性不稔形質は,減数分裂時の不等分裂が原因であると推定された。雄花および球果の状況から,両性不稔個体であると判断された。
著者
木村 恵 壁谷 大介 齋藤 智之 森口 喜成 内山 憲太郎 右田 千春 千葉 幸弘 津村 義彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

クローナル繁殖は植物の個体群動態と遺伝構造を特徴付ける重要な要因である。本研究では全国のスギ天然林13集団を対象に、クローナル繁殖の1つである伏条繁殖の頻度を明らかにし、遺伝要因と環境要因が伏条繁殖に与える影響を調べた。核SSR8座を用いたクローン解析の結果、10集団で伏条がみられ空間遺伝構造に強く影響していた。伏条の頻度は集団間で異なったことから、説明変数に環境要因(積雪深)、遺伝要因(Structure解析による<i>Q</i>値)、個体サイズ(胸高断面積合計:BA)、目的変数に各ジェネットが伏条繁殖するか否かとジェネットあたりのラメット数の2項目を用いて一般化線形混合モデルによりモデル選択を行った。その結果、伏条するか否かには<i>Q</i>値、積雪深との交互作用、BAが選択され、積雪の多い地域では個体サイズが小さく、遺伝クラスター1に由来しないジェネットほど伏条を行うという結果が得られた。またジェネットあたりのラメット数はBAが小さいほど減少する傾向がみられた。以上から、スギにとって伏条は氷期のような厳しい環境下で個体群を維持するための重要な繁殖様式として機能してきたと考えられた。
著者
河原 孝行 平岡 裕一郎 渡辺 敦史 小岩 俊行 滝 久智 田端 雅進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

ウルシは日本の伝統工芸を支える漆を得るための重要な特用林産物である。文化財修復など国産漆の需要は高まっており、安定供給が求められているが、その伝統に反し、ウルシの育林技術は確立されていない。健全な育苗を行っていくために、ウルシ林がどのような繁殖構造を持っているか遺伝解析によって検討した。<br> 北海道網走市及び岩手県二戸市浄法寺町に植栽されるウルシ林を材料として用いた。SSR10座を用い、multiplexによるPCR増幅後ABI prism 3100XLにより遺伝子型を決定した。 網走の2林分において6mx6m内の全ラメットを採取し、クローン構造を決定した。成長良好箇所はラメット数が少なく(134)、22のマルチジェノタイプ、不良個所はラメット数が多く(223)、24のジェノタイプが検出された。この結果、約20年での萌芽枝の最大伸長は4m前後であり、自然実生による更新も行われていることが示された。また、上伸成長がよい個体では萌芽枝を発生しないか少ないことが示された。 <br> 両地域の代表的な母樹を選び、父性分析を行ったところ、隣の林分からの遺伝子フローもあることが示された。
著者
平田 令子 高松 希望 中村 麻美 渕上 未来 畑 邦彦 曽根 晃一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.113-120, 2007 (Released:2008-05-21)
参考文献数
25
被引用文献数
14 6

スギ人工林へのマテバシイの侵入に係わる野ネズミの働きを解明するため,2003年4月から2005年1月まで,鹿児島大学演習林内の常緑広葉樹林とそれに隣接するスギ人工林において,堅果の落下状況,野ネズミによる堅果の散布状況,マテバシイ稚樹の生育状況を調査した。自然落下による分散距離は平均2.4m,人工林への侵入距離は最大4.4mであった。2003年と2004年の秋に200個ずつ設置した磁石付き堅果のうち,それぞれ66個,58個を野ネズミは人工林内に運搬し,林分の境界から貯食場所までの距離は,2003年は最大34.5m,2004年は18.5mであった。2003年の貯蔵堅果のうち6個は翌春まで人工林内に残存した。人工林内のマテバシイ稚樹の生育密度は林分の境界から距離とともに減少したが,境界から10m以内は広葉樹林内と有意差がなかった。以上のことから,人工林へのマテバシイの侵入に野ネズミは種子散布者として大きく貢献していると考えられた。