著者
川崎 萌子 野口 猛 王 権
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.488, 2013 (Released:2013-08-20)

クロロフィルaとクロロフィルbが混在するアンテナLHCⅡは、光に対して敏感に反応しアンテナサイズを調整し、光捕集と光防御両方の役割を担う。弱光下ではアンテナサイズを大きくするためクロロフィルa/b比が上昇し、反対に強光下では葉内クロロフィルa/b比が下がる。このようにクロロフィルa/b比は葉のストレス状態を示す指標として重要視されている。一方近年では高分解能光センサーによって葉の分光反射特性を利用し、葉内光合成色素量を推定できる分光反射指数を求める研究が進められている。本研究では、新潟県南部苗場山系ブナ林成長固定試験地における葉群に対し、遮光シートにより被陰処理を行った。被陰処理は遮光シートの枚数により被陰の程度を変え、処理期間中1,3,5,7,14,21,27日目に葉の分光反射率を測定した後葉内クロロフィルを定量した。既存の分光反射指数を用いてブナ個葉のクロロフィル量の推定を行ったところ高い相関が得られたが、クロロフィルa/b比についてはどの指数に関しても相関は低くなった。また、総当たりにより、クロロフィルa/b比を推定する新たな分光反射指数をSR型、NDVI型について探索した。
著者
升屋 勇人 田端 雅進 市原 優 景山 幸二
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.318-321, 2019-12-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1

国産漆の需要拡大とともに国産漆増産の機運が高まる中,これまでに多くのウルシの植林が全国で行われてきたにも関わらず,漆液の収穫にこぎつけている地域は多くない。そこにはウルシの育成時における何等かの阻害要因が存在すると考えられた。実際に全国で植林したウルシの衰退傾向が著しい地域において調査を行った結果,北海道や岩手県を除く衰退林のほとんど全てで土壌より植物疫病菌の1種Phytophthora cinnamomiが検出された。分根苗を用いた土壌混和による接種試験では,菌を入れていない土壌と比較して明らかな衰退枯死が見られた。本研究により,P. cinnamomiは日本のウルシ植林において阻害因子の一つとなり得ると考えられた。また,本病害を新病害「ウルシ疫病」とすることを提案した。
著者
桧山 亮 折橋 健 小島 康夫 寺沢 実 鴨田 重裕 高橋 康夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P3047, 2004

1、目的 エゾシカ(以下シカとする)の嗜好性とそれが生じる要因を研究することは樹皮剥ぎ害対策のための重要な情報になると考えられる。本研究では特に樹皮の物理的な発達がシカの嗜好性に与える影響を調べるためにハリギリ丸太を用いて樹皮の剥ぎ難さの測定と野外摂食試験(Orihashi et al., 2002)およびハリギリ丸太から調製した樹皮片の摂食試験を行った。2、試験方法1)試験材料 2003年3月上旬に東京大学北海道演習林(以下北演)でハリギリ2個体(DBH17.5cm、27cm)を伐採し、樹幹及び枝の直径1_から_18cmの部分から長さ1mの丸太を調製した。丸太は長さ40cmと60cmに切り分けて前者を樹皮剥ぎ抵抗値測定用、後者を野外摂食試験用とした。丸太は切断面において直径と樹皮の厚さを0.1mm単位で測定した。2)抵抗値の測定 【剥がし抵抗値測定】大井(1999)の剥皮試験の方法を参考に、樹幹方向に15cm×1.5cmの切込みを樹皮にいれて周囲の樹皮と切断し、端から5cmの部分を剥がして掴み、残りの10cmの部分を約10秒かけて引き剥がし、デジタルひずみ測定器(共和電業製)を用いて応力を計測して剥がし抵抗値とした。【刺し込み抵抗値測定】マイナスドライバー様の型をしたステンレス製の擬似シカ門歯をデジタルひずみ測定器に取り付けて、丸太の接線方向に対しては垂直に、樹幹方向に対しては約30度の角度から刺し込み、応力を測定して刺し込み抵抗値とした。各測定では1試験体(丸太)につき5回計測を行い、平均した。3)摂食試験 【抵抗値と嗜好性】摂食試験用の丸太を北演の林道沿いに設けた試験サイト(20m×5m)にランダムに並べて直立させて3月下旬の10日間(樹皮剥ぎ被害期間)シカに自由に摂食させて剥皮された面積を測った。【樹皮片の摂食試験】直径12_から_17cmのハリギリ丸太から一辺が3cm程度の方形樹皮片を3種類(内樹皮のみ、外樹皮のみ、外樹皮つき内樹皮(以下全樹皮とする))調製した。この3種類を1組として9反復用意し、それぞれ生重量で40gずつプラスチックの容器にいれて摂食試験を行った。試験中は一日一回観察し、組の中でどれかが半分以上減っていたらその時点で回収して残ったものの生重量を測定した。試験前後の様子を撮影し、食べられ方の様子を比較した。3、結果【抵抗値と嗜好性】摂食試験で剥皮が確認された丸太は剥がし抵抗値が2kgf以下、刺し込み抵抗値が6kgf以下のものがほとんどであった(図)。丸太の直径(cm)に対する樹皮厚さ(mm)の関係は内樹皮がy=0.31x+2.44, R2=0.76、外樹皮がy=0.99x_-_0.77, R2=0.84(共に単回帰分析、P<0.01)であった。直径(cm)と樹皮剥ぎ抵抗値(kgf)の関係は剥がし抵抗値でy=0.26x+0.39, R2=0.85、刺し込み抵抗値でy=0.77x+1.90, R2=0.88(共に単回帰分析、P<0.01)であった。【樹皮片の摂食試験】試験前後での試料の減少量(生重量)は内樹皮片で38.9g(±0.3)、全樹皮片で20.8g(±10.3)および外樹皮片で4.0g(±3.0)であった。内樹皮片と外樹皮片の間で減少量に有意な差が存在した(Tukey型多重比較、P<0.05)。4、考察 抵抗値と嗜好性の試験結果より、樹皮を剥がす際の抵抗値が大きな丸太の樹皮をシカがほとんど食べていないことから、樹皮の物理的な抵抗がシカの樹皮剥ぎに影響を与えていることが予想できる。丸太の直径と樹皮厚さと抵抗値には高い正の相関が見られた。樹皮厚さは直径が大きくなると特に外樹皮が発達する。外樹皮にはシカにとって栄養にならないリグニンが多く含まれ(安井、2002)、樹皮全体に占める外樹皮の割合が高くなると樹皮中のリグニン量は増加することになる。直径が大きくなった時にシカの嗜好性が下がる(小島ら、2003)主な要因として少なくとも上述の2つ(樹皮剥ぎ抵抗値、リグニン量)が考えられた。樹皮片の摂食試験結果において内樹皮片が外樹皮片よりもよく食べられたことからシカが樹皮を食べる時には内樹皮を目的としていることが示唆された。全樹皮片は中間的な食べられ方と観察された。この試験はシカが通常好まない太さで抵抗値も大きな丸太から調製した樹皮片を用いたが、人為的に剥ぎ難さを排除して供試すると食べられた。このことから剥ぎ難さがシカの嗜好性に影響をしていると言えるだろう。しかし、全樹皮片は内樹皮片よりも食べられ方が少なかったことから剥ぎ難さを排除しても外樹皮の存在により嗜好性を下がったと考えられる。
著者
島田 博匡 野々田 稔郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.46-50, 2009 (Released:2009-03-24)
参考文献数
14
被引用文献数
4 5

シカの生息密度が高い地域内で強度間伐 (本数間伐率47.5∼71.2%) を行った針葉樹人工林に獣害防護柵を設置し, 間伐後の広葉樹侵入に及ぼすシカ採食の影響を調査した。獣害防護柵内では先駆種を中心とする多数の広葉樹が間伐後に侵入し, その生残率は高く, 樹高成長も良好であった。しかし, 柵外では柵内よりも広葉樹の侵入が少なく, 生残率も低かったため, 2年後まで生残した個体はわずかであった。このことから, 柵外ではシカの採食により間伐後の広葉樹侵入が強く阻害されていると考えられた。シカ生息密度が高い地域において, 人工林の針広混交林への誘導を目指すには, 強度間伐を行った場合にシカ採食が顕在化する生息密度の解明と施業地へのシカの集中を防ぐ簡便な手法の開発が必要である。
著者
福沢 朋子 新井 涼介 北島 博 所 雅彦 逢沢 峰昭 大久保 達弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.1-6, 2019-02-01 (Released:2019-04-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

カシノナガキクイムシ(以下,カシナガ)によるナラ類集団枯損被害(以下,ナラ枯れ)は標高300 m以下で多く発生するが,富山県などで標高1,000 mを超える被害が確認されているため,被害が高標高域へと拡散している可能性がある。カシナガの繁殖成功度などは標高の上昇・気温の低下と負の関係があり,今後ナラ枯れの拡大予測や予防を行う上で,高標高域におけるカシナガの脱出・飛翔に関する生態的知見は重要である。本研究では,標高傾度に沿ったカシナガ成虫の脱出消長や数,林内における飛翔数とその季節変化を明らかにすることを目的とした。2015年6~12月,2016年6~11月にかけて,標高600~1,000 mの標高100 mごとに衝突板トラップと脱出トラップを設置し,カシナガ成虫を捕殺した。本研究の結果,標高600 m以上の高標高域では低標高域に比べてカシナガの繁殖成功度は極めて低く,標高600~900 mの範囲では,標高傾度の影響はなかった。さらに標高900 m以上では,樹種組成の変化で主な寄主であるミズナラが減少する影響を受けて,飛翔成虫が極めて少ないと考えられた。
著者
渡邉 仁志 茂木 靖和 三村 晴彦 千村 知博
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.145-149, 2017-08-01 (Released:2017-10-01)
参考文献数
21
被引用文献数
3

育苗時に施用した溶出期間の長い肥料(緩効性肥料)がヒノキ実生苗の初期成長に及ぼす影響を明らかにするため,植栽後2年間の成長と部位ごとの重量変化をコンテナ苗と裸苗とで比較した。コンテナ苗は緩効性肥料(溶出期間700日)を施用し,マルチキャビティコンテナで1年間育成した。植栽時のコンテナ苗は,裸苗より根元直径が小さく,樹高および比較苗高が大きかった。2年間の樹高および根元直径成長量や同期末サイズは,コンテナ苗の方が大きかった。比較苗高の低減はコンテナ苗で大きかった。苗木のT/R 比は苗種間で差がなかったが,部位(葉,幹,枝,根)ごとの乾燥重量の増加はコンテナ苗の方が大きかった。樹高や根元直径の相対成長率は,植栽1年目にはコンテナ苗が優れていたが,植栽2年目にはその優位性が低下した。これらのことから,育苗時に施用した緩効性肥料の影響は時間経過とともに低減するものの,ヒノキ実生苗の植栽後の初期成長の促進に有効であることが示唆された。
著者
興梠 克久 椙本 杏子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

静岡県では自伐林家グループが多数設立されており(興梠、2004),生産性、持続性といった従来の視点に社会性の観点を新たに加え,これらが地域森林管理の担い手たり得るか評価することが研究の目的である。事例として,集落外社会結合である静岡市林業研究会森林認証部会と集落社会結合である文沢蒼林舎の2つの自伐林家グループを取り上げた。<br> それぞれの集落内で個別経営を行っていた自伐林家の一部が,集落外で機械の共同利用や共同請負、森林認証の共同取得を目的とした機能集団を形成していった。しかし,その機能集団が地域森林管理を担う主体になるのではなく,機能集団の活動を経た自伐林家が,今度は各集落で再度、地域森林管理を担うためのグループ活動を展開し,集落内の林家全体が再結合していた。この再結合に、認証部会メンバーによる一部の活動(自伐林家が共同で経営計画を作成するケース、事業体化し地域の森林を取りまとめ管理を行うケース)と、文沢蒼林舎の活動(集落の自伐林家が集落全体の森林管理を担うケース)があてはまり、これらのケースは地域森林管理の担い手として評価できると考えられる。
著者
八木橋 勉 渡久山 尚子 石原 鈴也 宮本 麻子 関 伸一 齋藤 和彦 中谷 友樹 小高 信彦 久高 将洋 久高 奈津子 大城 勝吉 中田 勝士 高嶋 敦史 東 竜一郎 城間 篤
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>ヤンバルクイナは沖縄島北部のやんばる地域のみに分布しており、環境省のレッドリストで絶滅危惧IA類(CR)に分類されている。森林面積や外来種とヤンバルクイナの繁殖分布の関係を明らかにするため、沖縄島北部でプレイバック法による調査を2007年から2016年の繁殖期に3年ごとに4回実施し、確認個体数を応答変数とするGAMMによる統計解析を行った。その結果、ヤンバルクイナは、マングースが少ない場所ほど多い、広葉樹林面積が大きい場所ほど多い、畑地草地面積が大きい場所ほど多い、2007年と比較して近年確認個体数が増加している、という統計的に有意な関係がみられた。また、確認地点数も増加していた。これらの結果から、地上性のヤンバルクイナは、外来種であるマングースの影響を強く受けているが、マングース防除事業の効果により、近年分布が回復していると考えられた。ヤンバルクイナは広葉樹林面積が大きい場所で多いことから、近年大面積伐採が減少していることも分布回復に有利に働いていると考えられた。同時に畑地草地面積が大きい場所で多いことから、林内だけでなく、林冠ギャップ、林縁や草地なども生息環境として重要である可能性が考えられた。</p>
著者
阿部 真 阿部 篤志 齋藤 和彦 高嶋 敦史 高橋 與明 宮本 麻子 小高 信彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>大型の着生ラン、オキナワセッコク(<i>Dendrobium okinawense</i> Hatusima et Ida)は、沖縄島北部やんばる地域を代表する固有種のひとつである。戦後の森林伐採や乱獲のために激減したとされ、環境省と沖縄県が絶滅危惧種(それぞれIB類、IA類)に指定する。本研究は、本種野生株の分布情報から、その適切な保護・回復のために有効な森林管理を検討する。これまでに本種が成熟林に依存すること、着生木(ホスト)樹種の選好性があること、また、2018年までに整備された国立公園の保護区域が現生する株の多くをカバーすることを明らかにした。本報告では、探査を重ね400近くになった着生木の情報から、本種の生育に求められる環境条件を、林齢や地形について絞り込む。伐採や盗掘のリスクを抑えつつ適切な林分や配置を誘導することにより、本種の分布について効果的な回復が期待できる。研究は(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(課題番号4-1503及び4-1804)の支援を受けた。また、環境省の調査資料(やんばる地域希少植物生育状況調査、平27~28)の提供を受けた。</p>
著者
亀山 統一 森田 琴美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>琉球列島のデイゴ<i>Erythrina variegata</i>は葉や若枝に侵入害虫デイゴヒメコバチの激しい加害を受けているが、被害木の一部に急速な枯死にいたる個体が存在する。この枯死被害は、<i>Fusarium solani</i> species complex (以下FSSC)に属する菌類を主因とすることが、演者を含む共同研究により明らかにされている。FSSCは沖縄島の複数地点と石垣島のデイゴ罹病木から分離され、琉球列島の広域に分布しているものと推測された。本研究では、沖縄島、宮古島、伊良部島、石垣島においてデイゴの枝枯・胴枯病徴の患部を採取して菌類を分離し、形態及び分子分類により種を推定した。いずれの島でもFSSCが分離された。患部から高率で分離されたFSSCおよび別種の菌株について、接種試験を試みた。デイゴヒメコバチが侵入している琉球諸島においても入手容易な材料として、デイゴの葉柄への接種を試みた。付傷接種によりFSSCおよび別種の菌株の多くが病原性を示した。葉柄への接種試験の手法としての有効性をまず確認した。その上で、菌株間での病原性の強弱等に着目して検討を加えるとともに、温度条件など成木での病徴進展に関与している可能性のある因子についても検討を加えた。</p>
著者
安井 瞭 岡本 透 寺嶋 芳江 Helbert Helbert 奈良 一秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>外生菌根菌(以下菌根菌)は樹木の根に共生し、土壌中の無機栄養分を樹木に供給する菌である。琉球列島において広く分布する固有種の「リュウキュウマツ(以下松)」の根には、菌根菌が共生していることが明らかになっている。琉球列島には松が自生する島の他に人為的に松が導入された島が数多く存在する。このような人為的な松の導入と共に菌根菌も共に侵入する事例が小笠原諸島などでは明らかになっており、過去に松が植林されたとされる琉球列島の島々でも同様に菌根菌の共侵入が起こっていると考えられる。しかし、琉球列島においてはどの島にいつ頃松が導入されたのかという情報が明らかになっていない。そのため、本研究では江戸時代の国絵図や文献資料などから読み取った植生情報を活用し、琉球列島の島々の松林が自生か植林由来であるか起源を明らかにするとともに、植林の有無が菌根菌群集に与える影響について考察する。</p>
著者
大島 順子 久高 将和
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p> 2020年夏の世界自然遺産登録を目指す沖縄島北部(やんばる)では、横行する希少野生生物の密猟を防止するために、森林パトロール事業が実施されている。事業の発注者は、環境省および沖縄県で、パトロールに携わるのは地元の林業の担い手である。森林パトロールは、やんばる山地に生息する希少野生生物種の違法採集を抑止する取組みであるが、より効果的な対策を検討し、林業の担い手が森林パトロールを継続した事業として受入れていくための体制づくりが今後必要となる。野生動植物の生息域と人間の生活空間が重なるやんばるが世界自然遺産に登録されることは、やんばるにおける林業の大きな転換を意味し、自然環境保全をも目的とする持続可能な森林業を構築していくために、林業従事者の意識改革と能力開発を促す学習機会の創出が求められている。今回は、森林パトロールに携わる林業従事者に実施したアンケート結果から、林業従事者の森林パトロール事業に対する考えや役割、必要な知識や技術等を報告する。</p>
著者
高嶋 敦史 中西 晃 森下 美菜 阿部 真 小高 信彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島やんばる地域の亜熱帯林において、樹洞はケナガネズミやヤンバルテナガコガネなどの希少野生生物も利用する重要な生態学的資源である。そこで本研究では、やんばる地域の非皆伐成熟林2箇所に試験地(面積0.36haと0.25ha)を設け、胸高直径(DBH)15cm以上の幹を対象にDBHと樹洞の発生状況を調査した。なお、樹洞は立木の幹、枝、根に発生している奥行き10cm以上の穴と定義した。調査の結果、試験地内の立木の第一優占種はイタジイで、それに次いでイスノキやイジュが多かった。イタジイの樹洞を有する率(以下、樹洞発生率)は全体では22%であったが、DBH40cm以上では52%に達するなど、DBHが太くなるほど樹洞発生率が高くなる傾向が確認された。イスノキでも同様にDBHが太くなるほど樹洞発生率が高くなる傾向が確認されたが、樹洞発生率は全体で52%、DBH30cm以上では77%、同40cm以上では90%となっており、イタジイと比べてより細い幹でも高い樹洞発生率を呈していた。その一方、イジュにはまったく樹洞が発生していなかった。このように、樹洞発生率はDBHが太くなるほど高くなる傾向があるものの、樹種間による違いが大きいことが明らかになった。</p>
著者
大嶋 優希 高嶋 敦史
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島北部やんばる地域の代表的な針葉樹であるリュウキュウマツは、人工林や里山などに広く植栽されているほか、林道沿いなどの人為的影響を受けた開けた場所に定着していることが多い。リュウキュウマツは、世界自然遺産候補地やその周辺にも広く分布しているが、既往の研究は人工林における木材生産を扱ったものが中心で、天然林における出現傾向や生育密度などは十分に検証されていない。そこで本研究では、やんばる地域に広がる天然生二次林においてリュウキュウマツの出現と地形の関係を評価することを試みた。現地調査では、天然生二次林内の主に尾根に沿って設定された合計約4.5kmの複数の歩道で、左右両側10m内のリュウキュウマツを記録した。リュウキュウマツの定着位置はGPSで記録し、その後GISで出現傾向と地形との関係性を検証した。その結果、記録されたリュウキュウマツは30本と少なく、尾根の先端部にまとまって出現する傾向があったことから、天然林におけるリュウキュウマツの生育環境は極めて限定的である可能性が考えられた。</p>
著者
高橋 與明 高嶋 敦史 小高 信彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島北部のやんばる地域に分布している亜熱帯林は、世界的に見ても希少な植物相を育む森林であり、多くの固有種や希少種が生息している。沖縄県は台風の常襲地域であるため、森林は台風の影響を受け、高い頻度で撹乱が発生する(小多ら、2015)。例えば2012年には、最大瞬間風速が50m/sを超えるような大型の台風によってやんばる地域の森林が広範囲に渡り大きく攪乱されたが、そのような攪乱が森林生態系に与える影響は大きいと考えられる。広大な森林域の生態系に対する攪乱の影響を正しく評価するためには、局所的な生態系調査は必要であるとともに、林冠木が暴風によって被害を受けた地理的な位置を広域で把握することも必要となる。本研究では、後者について大型の台風による攪乱前後の二時期の航空機リモートセンシングデータからやんばる地域の森林変化を検出する手法を考案し、変化量をマッピングした。使用したリモートセンシングデータは航空機LiDARデータ(台風攪乱前)と空中写真測量データ(台風攪乱後)である。マッピングの結果、負の変化量が大きな場所は林冠木の樹冠が損傷している被害地(二次元的な空間分布)を的確に表現していることが示された。</p>
著者
阿部 隼人 松本 一穂 谷口 真吾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p> 本研究では沖縄島北部の亜熱帯常緑広葉樹林における炭素循環プロセス解明の一環として、地上部における枯死有機物(葉・枝・粗大木質有機物)の量と供給量、分解量について調査した。</p><p> 枯死有機物量は枯死有機物の種類とサイズに応じて調査地(0.25 ha)の全域もしくは一部区画内の枯死有機物の乾燥重量から求めた。供給量はリタートラップ法や毎木調査のほか、あらかじめ枯死有機物を除去しておいた一部区画内の枯死有機物量を再調査することで評価した。分解量は林内に設置したイタジイ(優占樹種)の枯死有機物サンプルの重量減少量から推定し、併せてこれらの微生物分解呼吸量の計測も行った。</p><p> 調査の結果、2019年6~9月における地上部の枯死有機物量は1746 g C m<sup>-2</sup>であった。また、2019年の枯死有機物の年間供給量は337 g C m<sup>-2</sup>、年間分解量は594 g C m<sup>-2</sup>(このうち、微生物分解呼吸量は465 g C m<sup>-2</sup>)であった。これらの結果から,本森林では年によっては分解量が供給量を上回るほど大きく、枯死有機物内の炭素の大部分は微生物の分解呼吸によって大気へ放出されるため、枯死有機物から土壌への炭素の移入量は非常に少ないと考えられた。</p>
著者
矢部 岳広 高嶋 敦史
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>大径木は、亜熱帯性照葉樹林において保全すべき森林の指標であると考えられている。沖縄島北部やんばる地域ではヤンバルテナガコガネやケナガネズミなどの大径木に依存する希少な固有種が多く生息しており、大径木の生育状況を把握することは生態系保全のために重要であると考えられる。そこで本研究では、同地域の非皆伐天然林において胸高直径30cm以上の大径木の生育状況を調査した。第二次大戦頃から強度な伐採活動が認められない森林域の尾根から斜面にかけて試験地を設定した。その結果、大径木の密度は全樹種合計で約160本/haであり、第一優占種はイタジイ、第二優占種はイスノキで、イジュは極めて少ない割合であった。やんばる地域の主要構成樹種であるオキナワウラジロガシは出現しなかった。やんばる地域の非皆伐林天然林を調査した既往の研究と比較すると、遷移後期種であり非皆伐老齢林の指標と考えられているイスノキがより多くみられ、攪乱依存種で明るい林床で更新するイジュの本数が少なかった。このことから、本試験地は非皆伐天然林の中でも特に安定した成熟林であると考えられた。</p>