著者
野口 麻穂子 奥田 史郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.192-195, 2012-08-01 (Released:2012-09-13)
参考文献数
26
被引用文献数
2

高知県東部の暖温帯域に位置するスギ人工林皆伐跡地において, 皆伐5年後から11年後までの林分構造と種組成の変化を明らかにした。調査地では, 皆伐5年後の2003年の時点で胸高直径2 cm以上の広葉樹の幹密度が11,300本 ha−1に達し, 調査期間中一貫して増加した。2009年には胸高断面積合計が29.8 m2 ha−1に達した。個体の約65%が多幹個体であったことから, 前生樹からの萌芽再生が更新に重要であったことが示唆された。期間中の林分構造と種組成の変化から, クサギなどの先駆性の低木種の大部分が枯死し, 常緑広葉樹林の林冠構成種, 特にシイ類が優占する傾向が強まったことが示された。これらの結果から, 本研究の調査地では針葉樹人工林の皆伐後に常緑広葉樹林が成林し, その植生回復過程は, これまでに報告されている萌芽更新由来の常緑広葉樹二次林の遷移とおおむね同様の経過をたどっていると考えられた。
著者
村上 拓彦 吉田 茂二郎 高嶋 敦史
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.163-167, 2019-08-01 (Released:2019-10-24)
参考文献数
17

1660年頃作成の屋久島の古い絵図「屋久島古図」が存在する。この絵図は非常に詳細で,島内の集落名,山頂名,河川名,場所名,スギを含む数種の樹木の存在,島中央への歩道等が書き込まれている。そこで本研究では,この地図を現代図と重なるようにGIS上で補正し,当時のヤクスギ分布を推定した。さらに現代図のヤクスギ分布域との比較から,その間の変化を把握しかつその変化要因を分析し,最後にこの地図の今後の利用可能性を検討した。その結果,この地図は現代図と非常に良く重ね合わせることができ,当時のヤクスギ分布域は島東部の安房川流域に偏り,標高200 m付近の低標高域にも存在していたことが判明した。1660年当時にヤクスギが分布していた地域で,その後の伐採でヤクスギが消失した地域は,低標高の地域と川の近くに多かった。以上からこの屋久島の地図は,作成当時の森林状態を詳細に記録した地図として活用できる可能性が示唆された。
著者
上原 巌
出版者
日本森林学会
雑誌
森林科学 (ISSN:09171908)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.49-53, 2019-06-01 (Released:2019-07-09)
参考文献数
7
著者
土屋 智樹 関岡 東生 山下 詠子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p> 東京都における木炭産業の歴史について同業組合政策との関連で整理を行い、商人貸付により生産を行う,またはこれに類似する前期的な生産体系が主体であった近代日本における木炭生産の変化の要因を、流通組織の機能および発展段階から考察を試みた。 わが国における重要物産同業組合を核とする産業振興政策は1884年公布の「同業組合準則」、1897年公布の「重要輸出品同業組合法」、1900年公布の「重要物産同業組合法」等を根拠法として展開した。木炭については、「重要物産同業組合法」に準拠する同業組合によって過当競争の防止や製品検査による品質の向上が取り組まれた。 東京都における木炭の同業組合は1909年に設立されはじめ、1931年までに計6組合が設立された。しかし、1930年以降は農村恐慌を背景とする産業組合の拡充や1932年の「商業組合法」の公布により、同業組合以外の木炭関連の流通組織が推進された。そして1943年には「商工組合法」により燃料配給統制組合が東京都を含む主要消費都道府県に設立された。この組合は、第二次世界大戦後も統制経済の下で燃料林産組合として木炭の配給調整機関として機能したこと等が明らかになった。</p>
著者
奥 敬一
出版者
日本森林学会
雑誌
森林科学 (ISSN:09171908)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.26-27, 2016 (Released:2017-04-14)
著者
田村 和也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第129回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.17, 2018-05-28 (Released:2018-05-28)

農林業センサスの農業集落調査における地域資源5種の保全の設問のうち森林について、都道府県別結果及び「地域の農業を見て・知って・活かすDB」の集落単位結果を用い、全国状況および農業集落の特徴との関係を概観した。2015年の全国13万8千の集落のうち森林があるのは76%、そのうち森林を保全しているのは23%で2010年から4ポイント増加し、割合は東北・北陸・東山・近畿で高く、北海道・関東・四国・南九州で低い。2010年に保全していた集落の8割が2015年も保全し、保全してなかった集落の1割が保全していた。森林を保全している集落の特徴を、立地・森林状況・人口世帯・集落活動等の面から検討したところ、農地の保全との関連が観察された。
著者
川西 基博 小松 忠敦 崎尾 均 米林 仲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.55-60, 2008 (Released:2008-10-15)
参考文献数
14
被引用文献数
2 3

人工林から天然性の渓畔林への誘導を目的とし,渓畔域に位置するスギ人工林において間伐およびリター除去を行い,植物の定着との関係を調査した。発芽した出現種数,発生個体数,生残個体数は無処理区や巻き枯らし区よりも皆伐区や間伐区で多い傾向があった。リターを除去した方が発生個体数,出現種数ともに有意に多かった。また,渓畔林構成種の出現種数は増加したものの,フサザクラなどの一部の樹種が優占し,シオジやサワグルミなどの主要樹種はみられなかった。草本植物の渓畔林構成種はわずかしかみられなかった。伐採や林床処理によって天然更新が可能であると考えられたが,天然性渓畔林に近い林分へ誘導するためには,長期的な研究を行い,その結果によっては,一部の種の植栽や播種による導入も検討する必要がある。
著者
謝 樹冬 恩田 裕一 加藤 弘亮 五味 高志 孫 新超 高橋 純子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.391, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

林地の中で土壌侵食が最も顕著なのは荒廃人工林であると考えられる。日本は国土面積約65%が森林であり、その約40%がスギやヒノキなどの人工林である。林地における土壌侵食を放置すれば、林内の荒廃が進み、斜面崩壊や土石流などの災害を引き起こす要因にもなる。そこで、人工林における土壌侵食や水流出について考察することが重要だと考えられる。 我々は栃木県佐野市にあるヒノキ・スギ人工林において間伐施業が与える土砂流出の影響を調査した。調査期間は2010年6月から2013年10月までの間である。そして、2011年と2013年に間伐した。本研究では、研究サイトに4m×10mの観測用プロットを三つ設置し、間伐前後のプロットから流出した土砂の量を観測と表面流量も測定した。結果として間伐後は土砂流出量が減少し、表面流出量が増加したことを示された。そこで、その原因を明らかにするために、魚眼レンズを使用した映像解析によってプロットの植被率を推定した。その結果、間伐後に下層植生が回復したことで、前述した現象を起こす要因の一つであると考えられた。
著者
今田 省吾 柿内 秀樹 大塚 良仁 川端 一史 藤井 正典 佐藤 雄飛 綾部 慈子 久松 俊一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>海岸林樹木による霧水の吸収とその樹体内分配を明らかにするために、重水素をトレーサーとして、クロマツの2年生ポット苗への霧水散布実験を行った。実験に際して、灌水停止によりポット内の土壌深さ0–5 cmの土壌水分量をそれぞれ0.38、0.18及び0.14 cm<sup>3</sup> cm<sup>–3</sup>に変化させた、対照区、中湿区及び少湿区を作製し、土壌をプラスチック袋で被覆したポット苗試料を人工気象器内で霧にばく露した。霧の発生には超音波加湿器を用い、15%重水を用いて1時間ばく露した後に、試料をガラス室に移し、48時間後に葉、枝及び根並びに土壌を採取した。植物及び土壌試料中の自由水を減圧乾燥法により採取し、それらの重水素濃度を測定した。自由水重水素濃度(FWD)は、全処理区で葉>枝>根の順に下がる傾向が見られ、葉及び枝のFWDは、対照区と比較して中湿区及び少湿区で明らかに高かった。一方、根のFWDは、対照区及び中湿区と比べて少湿区で高く、加えて、土壌中FWDにも上昇傾向が見られた。以上より、霧水として供給した水分の樹木地上部からの吸収及び根への分配が確認されるとともに、少湿区では霧水の根から土壌への滲出が示唆された。</p>
著者
深田 英久 渡辺 直史 梶原 規弘 塚本 次郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.231-239, 2006-08-01 (Released:2008-01-11)
参考文献数
26
被引用文献数
7 4

林分密度管理をヒノキ人工林における土壌保全目的での下層植生管理に応用するために, 高知県下のヒノキ人工林に28の調査プロットを設け, 下層植生に対する強度間伐の影響と, 通常の管理下での下層植生の動態を調べた。強度間伐試験地では設定後2~3年間の収量比数 (Ry) の推移と2~3年後の植被率を調べた。通常施業試験地では設定時を0年次として, 0, 5, 10~13年次のRyと植被率を調べた。その際, 調査プロットの海抜高 (温量指数) に基づいて三つの温度域 (ウラジロ・コシダ域, カシ域, 落葉樹域) を区別し, 植被率を6段階評価した被度指数を土壌侵食抑制効果と光要求度の異なる六つの生活型 (ウラジロ・コシダ, 陽性草本, 林床草本・地表植物, 常緑木本, 落葉木本, ササ) のおのおのについて別個に求めた。強度間伐が被度指数に及ぼす影響は生活型によって異なった。また, 同じ生活型でも温度域によって異なる反応を示すものがあった。通常施業試験地では調査期間を前期 (0→5年次) と後期 (5→10~13年次) に分け, 期間ごとに求めた各生活型の被度指数の期間変化量 (dC) とRyの期間累積偏差 (ΣdRy×100) との関係を調べた。両者の関係には生活型間での差や, 温度域間での差が認められた。また, 生活型別の被度指数の合計値が40未満の林分 (貧植生型林分) と40以上の林分を区別すると, dC とΣdRy×100との関係が両林分間で異なっていた。以上の結果に基づいて, 生活型, 温度域, 貧植生型林分か否か, を区別してRy-植被率関係のデータを集積することにより, 下層植生管理を目的とした密度管理モデルの実用性が高められることを指摘した。
著者
今 博計 渡辺 一郎 八坂 通泰
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.395-400, 2007 (Released:2008-08-27)
参考文献数
31
被引用文献数
7 8

トドマツ人工林を多様な広葉樹を含む針広混交林へと誘導する施業法を検討するため,間伐後8∼11年経過した39年生の間伐林分と28年生の無間伐林分において下層植生を調べた。間伐は3段階の異なる強度の列状間伐(1伐4残,2伐3残,3伐2残)を行った。間伐後の林内の相対光合成有効光量子束密度は,間伐強度が強くなるにしたがって明るくなる傾向があった。高木性・亜高木性広葉樹の種の豊富さと個体数は,無間伐区に比べ間伐区で高かったが,間伐区間では間伐強度が強いほど,個体数が少なくなる傾向があった。低木類と草本類の最大植生高と植被率は,間伐強度が強くなるにしたがい増加していた。2伐3残区と3伐2残区では,ウド,アキタブキなどの大型草本の回復が著しく,多くの高木性・亜高木性広葉樹はこれらの草本類により覆われていた。しかし,2伐3残区と3伐2残区では,大型草本の被圧を抜け出した樹高1 m以上の広葉樹が11種あり,その個体数は1 ha当たり2,500∼3,750本存在していたことから,十分な数の更新木が確保できたと考えられた。したがって,間伐によって,トドマツ人工林を多様な広葉樹を含む針広混交林へと誘導することが可能であり,間伐には誘導伐の効果を併せもつことが示された。
著者
村上 拓彦 吉田 茂二郎 高嶋 敦史
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.163-167, 2019

<p>1660年頃作成の屋久島の古い絵図「屋久島古図」が存在する。この絵図は非常に詳細で,島内の集落名,山頂名,河川名,場所名,スギを含む数種の樹木の存在,島中央への歩道等が書き込まれている。そこで本研究では,この地図を現代図と重なるようにGIS上で補正し,当時のヤクスギ分布を推定した。さらに現代図のヤクスギ分布域との比較から,その間の変化を把握しかつその変化要因を分析し,最後にこの地図の今後の利用可能性を検討した。その結果,この地図は現代図と非常に良く重ね合わせることができ,当時のヤクスギ分布域は島東部の安房川流域に偏り,標高200 m付近の低標高域にも存在していたことが判明した。1660年当時にヤクスギが分布していた地域で,その後の伐採でヤクスギが消失した地域は,低標高の地域と川の近くに多かった。以上からこの屋久島の地図は,作成当時の森林状態を詳細に記録した地図として活用できる可能性が示唆された。</p>
著者
伊藤 太一
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.125-135, 2009 (Released:2011-04-05)

近年自然地域におけるレクリエーションのための入域や施設利用、インタープリテーションなどのサービスに対する費用負担が国際的課題になっているが、日本では山岳トイレなど特定施設に限定される。ところが、江戸時代の富士山においては多様な有料化が展開し、登山道などの管理だけでなく地域経済にも貢献し、環境教育的活動の有無は不明であるが、環境負荷は今日より遙かに少なくエコツーリズムとしての条件に合致する。そこで本論ではレクリエーション管理の視点から、登山道と登山者の管理およびその費用負担を軸に史料を分析し、以下の点を明らかにした。1)六つの登山集落が4本の登山道を管理しただけでなく、16世紀末から江戸などで勧誘活動から始まる登山者管理を展開することによって、19世紀初頭には庶民の登山ブームをもたらした。2)当初登山者は山内各所でまちまちの山役銭を請求されたが、しだいに登山集落で定額一括払いし、山中で渡す切手を受け取る方式になった。さらに、全登山口での役銭統一の動きや割引制度もみられた。3)同様に、登山者に対する接客ルールがしだいに形成され、サービス向上が図られた。4)一方で、大宮が聖域として管理する山頂部では個別に山役銭が徴収されるという逆行現象もみられた。