著者
高橋 正通 柴崎 一樹 仲摩 栄一郎 石塚 森吉 太田 誠一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.6, pp.229-236, 2018-12-01 (Released:2019-02-01)
参考文献数
72
被引用文献数
3 2

ポリアクリル酸等を材料とする高吸水性高分子(SAP)は1970年代後半から土壌保水材として利用されている。乾燥地・半乾燥地における農林業や緑化へのSAP利用に関する研究報告や実証試験をレビューした。SAPは自重の数百倍の純水を吸収できるが,塩分を含む水では吸水能が数分の1に低下し,土壌中では粒子間での膨潤に限られる。SAPの利用は,1)裸苗の根の乾燥防止や活着促進,2)土壌の保水性と苗木の乾燥耐性の向上,3)植栽穴への施用による活着や成長促進,4)種子の発芽促進,を期待した研究が多い。ポット試験の結果からは,土壌の保水量はSAP添加量に比例して増加するが,粘土質より砂質土壌で土壌有効水量が増加し,樹木の耐乾性も向上する。実証試験からは,SAP施用で活着や成長が概ね良くなるが,土質や樹種によって反応が異なり,過剰な添加はしばしば苗木の成長を低下させる。SAPの課題として,肥料との併用による保水効果の低下,持続性の短い保水効果,現場コストの未検討等を指摘できる。今後は,体系的な実証研究によるSAPの施用方法の確立,有効な樹種の選別,製品性能の改良が望まれる。
著者
金子 智紀 武田 響一 野口 正二 大原 偉樹 藤枝 基久
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.208-216, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
39
被引用文献数
2 4

スギ人工林の林況および立地環境の違いが流出特性に与える影響を明らかにすることを目的に, 第三紀凝灰岩を地質とする3小流域 (秋田県長坂試験地: 上の沢・中の沢・下の沢) において, 3水年の流量観測と林況および土壌調査を実施した。各小流域は, スギの植栽後およそ40年を経過した林分で, それらの成長や立木密度, 他樹種との混交度合いなどが異なっており, 流域全体の被覆度に差が生じていた。各小流域の年間損失量は724 mm (上の沢), 861 mm (中の沢), 548 mm (下の沢) であり, 流域間で大きく異なっていた。この違いの一部分は, 各流域における蒸発散量の違いによって生じていると考えられた。また, 中の沢流域で観測された年間損失量は, ハモン式から想定される可能蒸発散量 (640 mm) を大きく上回り, 同流域では深部浸透が生じている可能性が示唆された。土壌調査から求めた各流域の保水容量は104 mm (上の沢), 132 mm (中の沢), 121 mm (下の沢) であり, これらの保水容量の大きさは流出解析から求めた各流域の貯留量の大小関係と一致した。また各流域の流況曲線の形状は, 主に蒸発散量や保水容量の違いを反映していると考えられた。
著者
薬師川 穂 池田 武文 大島 一正
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.335, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

葉に潜り込み, 葉肉細胞を摂食する昆虫をリーフマイナーと呼ぶ。一般に昆虫が葉を摂食すると, 食べられた箇所の細胞は褐変・枯死するが, リーフマイナーが摂食した葉は緑が維持される。そこで, リーフマイナーと植物の相互関係を探るために, 潜入葉の光学顕微鏡と走査電子顕微鏡による観察及びクロロフィル蛍光を測定した。材料はクルミホソガが潜入したカシグルミの葉(恒温室内)と, 野外採取した5種の葉を用いた。光顕観察では, 葉のマイン部の切片を作製し, サフラニン‐ファストグリーンの二重染色を行った。その結果, カシグルミの葉肉細胞には顕著な活性の低下や壊死は生じていなかった。野外採取の種では, クズを除くすべてで細胞の壊死はみられなかった。いずれのマインにおいても摂食跡はマインのある組織のみであり, まわりの組織への損傷はほとんどなかった。また, クロロフィル蛍光の測定結果から, すべての葉でマイン部分の光合成活性が低下していた。以上から, マイン形成によって葉の光合成活性は低下するが, 細胞それ自体の活性は維持されているようであった。クズのマインは, マインに接する細胞壁がスベリン化していた。
著者
科学部所属 杉山拓、小林勇太、中澤颯、間仁田和樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第125回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.197, 2014 (Released:2014-07-16)

群馬県の県木はクロマツであり、かつては赤城山に広く植樹されていたが、多くが枯れてしまった。私たちは、枯れた原因について異なる説を聞いた。そこで、枯れた原因を探るとともに、マツがどのように減少し、今後はどうなるか、調べることにした。 まず、林業試験場などで聞き取り調査や文献調査を行うとともに、マツの現状を現地で確認し、現地で撮影した映像やwebからの情報をもとに、地図上に分布などを記録した。次に、過去の3つの現存植生図を用いて、どのように変化したか調べた。 聞き取り調査、文献調査の結果、赤城山では酸性雨が降っていたがマツの生育には影響しない程度であり、枯れた原因はマツクイムシが道管を破壊するためであると分かった。文献調査から、赤城山のマツ林は90年前と比べ、約90分の1まで面積が減っていたことが分かった。また、現地調査や現存植生図からは、かつては広い林も多くあったが、現在は数本が点在している場所が多くなっていることが分かった。 マツは現在も樹齢やマツクイムシの影響で枯れていくものがあるが、枯れる本数と植林本数がほぼ同じであり、マツクイムシの被害が抑えられれば、本数は増加していくと考えられる。
著者
伊藤 太一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.125-135, 2008 (Released:2009-07-22)
参考文献数
38
被引用文献数
1 4

近年自然地域におけるレクリエーションのための入域や施設利用, インタープリテーションなどのサービスに対する費用負担が国際的課題になっているが, 日本では山岳トイレなど特定施設に限定される。ところが, 江戸時代の富士山においては多様な有料化が展開し, 登山道などの管理だけでなく地域経済にも貢献し, 環境教育的活動の有無は不明であるが, 環境負荷は今日より遙かに少なくエコツーリズムとしての条件に合致する。そこで本論ではレクリエーション管理の視点から, 登山道と登山者の管理およびその費用負担を軸に史料を分析し, 以下の点を明らかにした。1) 六つの登山集落が4本の登山道を管理しただけでなく, 16世紀末から江戸などで勧誘活動から始まる登山者管理を展開することによって, 19世紀初頭には庶民の登山ブームをもたらした。2) 当初登山者は山内各所でまちまちの山役銭を請求されたが, しだいに登山集落で定額一括払いし, 山中で渡す切手を受け取る方式になった。さらに, 全登山口での役銭統一の動きや割引制度もみられた。3) 同様に, 登山者に対する接客ルールがしだいに形成され, サービス向上が図られた。4) 一方で, 大宮が聖域として管理する山頂部では個別に山役銭が徴収されるという逆行現象もみられた。
著者
有賀 一広 金築 佳奈江 金藏 法義 宮沢 宏 小出 勉 松本 義広
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

栃木県佐野市のセメント工場では, 2009 年4 月から燃料の65%(年間10 万トン)を木質バイオマスで賄う発電施設が本格稼動した。この施設ではこれまではRPS制度を利用してきたが、現在、FITへの申請を行っている。また、栃木県那須塩原市、那珂川町の製材所では、現在、木質バイオマス発電施設の整備が計画されている。今年度、那須塩原市に265kWが、来年度、那珂川町に2,000kWの発電施設が整備される予定である。一方、先の東日本大震災では、栃木県北部に位置する那須野ヶ原地域でも甚大な被害を受け、また、その後の放射能汚染による影響は大変深刻な状況である。森林の除染については、落葉等の堆積有機物、枝葉の除去や間伐など伐採による樹木の除去などが検討されているが、これらの除去物質を木質バイオマスとしてエネルギー利用することで、地域のエネルギー源確保に繋がる。現在、宮沢建設株式会社、那須野ヶ原土地改良区連合、小出チップ工業有限会社、松本興業株式会社、宇都宮大学からなる事業組合によって除染装置を備えた木質バイオマスガス化発電小型プラントの開発が実施されている。本発表ではその概要について報告する。
著者
芳賀 和樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p> 東北地方日本海側におけるスギの分布変化を明らかにするため、秋田県を対象に、17~19世紀の森林利用にかかわる文献史料を分析した。17世紀前半には建築用材生産のためスギ利用が活性化し、17世紀後半にはスギの減少が問題となった。また阿仁川流域では、17世紀後半から阿仁鉱山の開発が積極的に進められ、製錬用の木炭・薪需要が急増した。これにより阿仁鉱山周辺では、針葉樹よりも落葉広葉樹を優先した森林管理がみられるようになった。具体的には、スギの伐採跡地に落葉広葉樹を育成したほか、落葉広葉樹の育成に支障が出る箇所にはスギの植栽は禁止された。19世紀後半に作成された官林(のちの国有林)の台帳によると、秋田県のなかでも阿仁鉱山周辺ではブナ・ナラが多く分布し、スギの分布は少ない。たとえば荒瀬村所在の官林では、ブナ約460万本、ナラ約270万本、イタヤカエデ約120万本、ホオノキ約100万本、サワグルミ約140万本、その他60万本に対し、スギは約20万本となっている。こうした分布は、17世紀以降におけるスギの積極的な伐採に加え、鉱山開発と連動した木炭・薪生産の興隆と、それに対応した落葉広葉樹優先の森林管理の結果であったと考えられる。</p>
著者
福地 晋輔 吉田 茂二郎 溝上 展也 村上 拓彦 加治佐 剛 太田 徹志 長島 啓子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.303-308, 2011 (Released:2012-03-13)
参考文献数
27
被引用文献数
2 6

宮崎南部森林管理署管内に設定されている系統的配置法によるオビスギ密度試験地 (1972年設定) の測定データをもとに, 植栽密度が単木と林分単位の成長ならびに林木形質に与える影響を明らかにするとともに, 低コスト林業に向けた植栽密度について考察した。試験地は, Nelder (1962) が考案した円状のもので, 1箇所に2反復, 計2プロットがあり, 各プロットはha当たり376∼10,000本の範囲で10段階の植栽密度があり, 各密度区は36本の試験木からなる。解析の結果, 極端な高密度と同低密度では林木形質や目標サイズに達するまでの時間などから, ともに望ましくないことがわかった。利用上, 形質にこだわらない場合であれば, 高密度区ではha当たり蓄積が高いために有利であるが, 1,615本の植栽密度区以上ではほぼ一定であった。一方, 形質を求める場合は, 高密度の植栽では形質が悪く, 逆に低密度では良形質材の林分材積量が低かった。これらから, 植栽密度区6 (範囲は約2,000∼2,800本) の中間的な植栽密度が望ましいことが示唆された。
著者
浴野 泰甫 吉賀 豊司 竹内 祐子 市原 優 神崎 菜摘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第129回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.180, 2018-05-28 (Released:2018-05-28)

線形動物門(線虫)は最も繁栄している動物分類群のひとつであり、林学だけでなく、農学、水産学、医学的にも重要な生物群である。演者らは、線虫が繁栄できた要因のひとつとして虫体を覆うクチクラ層の構造に着目し研究を行っている。本報告では菌食性から植物寄生性、昆虫寄生性及び捕食性が複数回独立に進化しているAphelenchoididae科線虫をモデルとして、生活史の変遷とともにクチクラ微細構造がどのように変化しているか調査した。野外から同科線虫を採取し、塩基配列情報から系統的位置を明らかにするとともに、透過型電子顕微鏡を用いてクチクラ微細構造の観察を行った。その結果、菌食種は互いに類似のクチクラ構造を持っている一方、捕食種(=Seinura sp.)は菌食種の約10倍肥厚した最外層を持っていることが明らかになった。また、捕食行動観察では、Seinura sp.は菌食種に対して高い捕食率を示した一方、同種及び別種の捕食種とはほとんど食い合いをしなかった。よって、Seinura sp.は同種認識によらない共食い回避機構を持っており、肥厚した最外層がその機構の一つである可能性が示された。
著者
矢竹 一穂 秋田 毅 中町 信孝 本間 拓也 前田 重紀 水越 利春 河西 司 阿部 學
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P3053, 2004

新潟県十日町市珠川の林地、開放地、道路が混在し、連続した林分と分断・孤立した林分が分布する地域におけるリスの分布と林分の利用状況について、給餌台の利用状況調査とテレメトリー法により調査した。発信機を装着した4個体の夏_から_秋季の行動圏には1)連続した林分を利用、2)分断・孤立林分内で完結、3)複数の分断・孤立した林分間を移動して、利用する3タイプがみられた。車道上の轢死事例があり、孤立林分間の移動の延長として、今後も道路横断の可能性が考えられる。
著者
杉浦 克明 吉岡 拓如 井上 公基
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

【目的】児童が思いつく樹種名というのは,身近な環境の他にも,何か別の要因があるのではないかと仮定した。そこで,本研究は,小学校の教科書に焦点をあて,児童が思いつく樹種名と教科書に記載されている樹種名との関係を分析することを目的とした。 【方法】調査は,神奈川県藤沢市の市立小学校5校の4年生の児童を対象に,思いつく樹木名の記入と,その樹種を知った理由についてのアンケートを実施した。また,藤沢市立小学校で使用されている1年生から4年生までの8教科の教科書に記載されている樹種名を調べた。 【結果および考察】5つの小学校の児童が回答した上位樹種名を見ると,サクラやモミジ等であり,校内や公園で比較的見ることのできる樹種が多かった。その一方で,リンゴ,ヤシ,ブドウ,バナナ,ナシなど小学校周辺では見られない主に食用となる果実のなる樹種名の回答も多く見られた。小学校の教科書に数多く記載されている上位樹種名にはミカン,カキ,リンゴ,レモン,ブドウ,バナナが見られたことから,教科書に出てくる樹種名は児童にとって無意識のうちに印象に残っているのかもしれない。
著者
岡 裕泰
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>国連統計部の月間統計情報オンライン(2017年2月17日更新版)による建築統計と人口統計、および国連食糧農業機関の林産物統計(2015年12月更新版)を用いて、2000年から2014年までの各国の年次別建築面積(住宅、非住宅別)、住宅建築戸数、人口と、製材と木質パネルの合計の見かけの消費量(木材消費量)の関係を分析した。住宅建築面積のデータが掲載されている主要国18か国のうち、住宅建築面積のみの一変数によって各年の木材消費量を説明しようとしたときに決定係数が0.6以上になったのは、日本(0.93)の他、トルコ、ロシア、ニュージーランド、フランス等であり、一人あたりの木材消費量が大きい北欧諸国やドイツでは決定係数が低く、住宅建築に関わらない用途の比重が高いことが示唆された。住宅建築面積に比例する成分の割合は日本が88%と際だって高く、ほとんどの国は50%未満であった。住宅建築面積が1m<sup>2</sup>増えるごとの木材消費量の増分は0.1~0.4m<sup>3</sup>/m<sup>2</sup>程度の国が多く、日本は中庸であった。日本の人口あたりの住宅建築戸数は減少傾向にあるが依然としてかなり高く、一戸あたりの面積はやや小さい方だった。</p>
著者
坂田 景祐
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.400, 2003

本研究は、日本、アメリカ合衆国、EU(スウェーデン)の3カ国をモデル地域として、4通りの排出権の計算方法を用いた林業経営収支モデルを作成した。このモデルでは、CO2排出権の単価(CO2価格)を$5と$10(現在の市場取引価格を参考)とした場合の「造林利回り」を算出することと、伐期に影響を与える造林利回り最大の伐期齢が異なるCO2価格により何年になるのかを明らかにした。 本研究で用いた4通りの森林の排出権の計算方法は、ストック変化法、平均貯蔵法、トンイヤー法、排出権を返還する方法である。「ストック変化法」とは、ある1時点の森林が貯蔵している炭素量を排出権として計算する方法であり、ここでは伐採時に樹木が貯蔵している炭素量を排出権として森林所有者が獲得するとした。「平均貯蔵法」とは、植栽時から伐採までの間の平均蓄積量を排出権とする方法である。植栽して早くから成長し、温暖化を防止する森林には多くの排出権が見込まれることになる。ここでは、伐期齢1年ごとの平均蓄積量の排出権を森林所有者が伐採時に獲得するとした。「トンイヤー法」とは、森林の炭素貯蔵により温暖化を防止する効果を排出権として計算する方法である。ここでは森林が貯蔵した炭素量の1/55を55年間毎年排出権として森林所有者が獲得するとした。「排出権を返還する方法」とは、森林の炭素循環を考慮した方法で、森林所有者は森林が成育している段階では、森林が貯蔵する炭素量を毎年排出権として獲得するが、伐採時には貯蔵した炭素を排出するととらえて、獲得した排出権をすべて返還する方法である。トンイヤー法と排出権を返還する方法では、森林所有者は排出権を毎年獲得することから、その排出権にはモデル国の10年国債の利回り(過去10年間の平均)(日本:2.53%/年;アメリカ合衆国:5.93%/年;スウェーデン:5.32%/年)を1年複利で乗じた。 CO2排出権取引を想定しない場合の伐採収益は、丸太を木材市場で売却した収入から造林費と伐採費を引いた金額である。CO2排出権取引を想定した伐採収益は、排出権取引を想定しない場合の伐採収益にCO2排出権の金額(4方法ごと)を加算した値である。CO2排出権の金額は、排出権(量)にCO2価格を乗じた値である。この林業経営収支モデルを日本では神奈川県津久井郡(樹種:スギ)、アメリカ合衆国は南部のジョージア州(樹種:イエローパイン)、スウェーデンは南部のユタランド地域(樹種:ノルウェースプルス)に適用した。 異なるCO2価格による造林利回り最大の伐期齢の変化については、CO2価格が上昇するにつれて「ストック変化法」と「平均貯蔵法」の場合、造林利回り最大の伐期齢は、日本、アメリカ合衆国では短縮し、スウェーデンでは延長した。「トンイヤー法」と「排出権を返還する方法」の場合では、日本、スウェーデンでは延長し、アメリカ合衆国では短縮した。 造林利回りが最大になる計算方法として、「排出権を返還する方法」において造林利回りが最大になった理由は、排出権取引を想定しない場合の造林利回りが国債の利回りと比較して低いためである。この方法は、伐採前から排出権を獲得して、その排出権は国債の利回りにより増加することから、伐期が長くなるにつれて造林利回りは国債の利回りに収束することになる。そのため、「排出権を返還する方法」以外の計算方法による造林利回りが国債の利回りより低い場合、この計算方法の造林利回りが最も高くなる。異なるCO2価格による造林利回り最大の伐期齢の変化として、「ストック変化法」と「平均貯蔵法」では、CO2価格の上昇に伴い樹木の平均成長量が最大の伐期齢に移動することを明らかにした。「トンイヤー法」と「排出権を返還する方法」では、伐期が長くなるに従い、造林利回りは国債の利回りに収束する。そのため、この計算方法による造林利回りが国債の利回りより低い場合、伐期が長くなるほど造林利回りは高くなる。この場合、CO2価格が上昇するほど国債の利回りに影響を受ける排出権の価値が増し、造林利回りが国債の利回りまで上昇する伐期は短縮する。
著者
上原 巌
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p> 米国ミシガン州立大学(Michigan State University : MSU)は、1855年の創立で、アメリカ初の州立農学校が前身である。MSUの林学科(Department of Forestry)は1902年の創設され、全米の森林・林学関係学科の中でも古い歴史を有している。そのMSU林学科において、2017年8月~10月までの2か月間、講義、実習を担当する機会があったので、その内容を報告するとともに、日米における森林アメニティ、森林療法に対する学生の意識の差異なども考察し、報告する。 担当した講義名は、「FOR491 Forest amenities and forest therapy」であり、2017年の新設科目である。履修単位(credit)は3単位。FOR491は、履修番号を表し、学部高学年での履修が望ましいことを示す。講義は、月、水、金の3回あり、1回の講義時間は、50分であった。また、講義の時間および、時間外にMSU学内の研究林や緑地においてフィールド実習も行った。 履修生は、林学科の他、教育学部(特殊教育)、社会福祉学部の学生であった。森林療法はアメリカにおいて大きな可能性を持っているということが、学生の共通した感想であった。</p>
著者
鈴木 秀典 山口 智 宗岡 寛子 佐々木 達也 田中 良明 中澤 昌彦 陣川 雅樹 図子 光太郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>フォワーダの積載性能が長尺材の集材生産性に与える影響を明らかにするため、大型(最大積載量6,000kg)と中型(同4,800kg)のフォワーダを対象として、材長ごとの生産性を調査した。長尺材として6mと8m材を集材し、比較のために4m材も集材した。集材作業は、13tクラスのグラップルによるフォワーダへの積込み、実走行、グラップルによる荷おろし、空走行の各要素作業に区分した。先山と土場の各グラップル操作も含め、1人作業として生産性を比較した。その結果、大・中型機とも4m材を生産したときに最も生産性が高く、6m、8mと材が長くなるにつれ低下した。しかし、大型機では8m材の生産性が4m材の約7割だったのに対し、中型機では約6割と積載性能によって低下率が異なった。各作業における材長の影響は積込み作業で大きく、長尺材になるほど時間がかかる傾向がみられたが、走行や荷おろし作業への影響はそれほど大きくなかった。長尺材の生産性は大型機の方が高く、また、長尺材になったときの生産性低下率も大型機の方が小さいため、長尺材の集材には大型機の方が適しているといえる。</p>