著者
松本 一穂 速水 眞誉 谷口 真吾 安宅 未央子 大橋 瑞江
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島北部の亜熱帯常緑広葉樹林では、国内最大級の土壌呼吸量が観測され、その空間変動も大きいことが確認されている。本研究では土壌呼吸量の空間変動を特徴づけている要因を解明するために、土壌呼吸量と様々な要因との関係を検討した。2018年9月に調査地(1250m<sup>2</sup>)内の9箇所において、土壌呼吸量と環境要因(地温,土壌水分,土壌密度)を調べた。また、土壌呼吸量の構成要素として、根呼吸量と微生物呼吸量を調査した。なお、土壌中の微生物呼吸量は土壌呼吸量から根呼吸量とリターの微生物呼吸量を差し引くことで推定した。このほか、これらの呼吸量の規定要因として、根量や易分解性の有機物量、基質誘導呼吸法に基づく微生物活性の指標も測定した。調査の結果、土壌呼吸量の空間変動と各環境要因との間に明瞭な関係は認められなかった。一方、根呼吸量と土壌呼吸量との間には有意な正の相関関係が認められた。リターの微生物呼吸量は一様に小さく、土壌中の微生物呼吸量は場所によっては量的に大きな寄与を示した。なお、本調査ではリターの除去によって土壌呼吸量が増加する現象もみられ、非攪乱に近い状態での検討には技術的な課題があることも示された。</p>
著者
坂本 幸志郎 松本 一穂 谷口 真吾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島北部の「やんばる」と呼ばれる地域の亜熱帯常緑広葉樹林は、生物多様性の高い生態系として知られている。本研究ではやんばるの森林において、植物が生産する有機物量(純一次生産量,NPP)を積み上げ法に基づいて評価した。NPPは一定期間における植物の成長量と枯死脱落量、被食量の和として求められる。本研究では2013, 2016, 2019年に琉球大学与那フィールド内の調査地(2500m<sup>2</sup>)において毎木調査を行い、各年のバイオマス量を見積もり、それらの差から成長量を求めた。また、調査地内の6箇所のリタートラップで採取したリターと虫糞から、それぞれ枯死脱落量と被食量を求めた。調査の結果、2016~2019年の間には台風攪乱等による樹木の先折れによって成長量は負の値(-61.5 g C m<sup>-2</sup> yr<sup>-1</sup>)を示した。枯死脱落量と被食量はそれぞれ350,27 g C m<sup>-2</sup> yr<sup>-1</sup>であった。その結果、NPPは315 g C m<sup>-2</sup> yr<sup>-1</sup>であると見積もられた。これらの結果から、本森林では年によっては植物によって生産された有機物の殆どが枯死脱落したり被食されることで、植物自身の成長が低く抑えられていることが分かった。</p>
著者
池田 重人 志知 幸治 岡本 透 林 竜馬
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>秋田ではかつて天然スギが広く分布し、豊富に存在していた「秋田杉」の資源がこの地域の経済基盤を支えてきた。演者らはこうした秋田杉の成立過程を古生態学的手法と歴史資料から調べており、山地帯上部の「桃洞・佐渡のスギ原生林」下方の湿原で行った花粉分析では、全体としてスギは分析試料最下部の約1500年前からブナなどとともに優勢であるものの、約600年前以降の一時期に衰退していたことを示した(第125回大会)。一方、古くからの林政史資料など森林管理を記録した記録によると、江戸時代以降になると全国的に木材資源が急速に枯渇していくことが示されているが、そのことは秋田地方も同様であった。それ以前の時代についての資料は乏しいため山林利用の詳細は不明であるが、これまでは大規模な伐採等の影響があるとは考えられていなかった。しかし、秋田周辺地域で行った複数の花粉分析結果を検討した結果、スギの衰退は江戸時代より以前に遡り、中世には生じ始めていた可能性が示唆された。</p>
著者
佐藤 宏明
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.315-320, 2008 (Released:2009-01-20)
参考文献数
44
被引用文献数
1

奈良県大台ヶ原では,近年,増加したニホンジカ(Cervus nippon)による樹皮剥ぎや実生の採餌により原生林の衰退が顕著となっている。一方,シカの被食に対し高い耐性を有するミヤコザサ(Sasa nipponica)が林床をおおう林や,一面ミヤコザサからなる草地が拡大している。ミヤコザサは蛋白質が豊富であり,シカの主要な餌資源となっているため,森林が衰退しミヤコザサが優占する場所では糞供給量が増加していると考えられる。そこで,原生林の衰退が糞を餌資源とする糞虫群集にどのような影響を及ぼしているかを明らかにするため,原生林,ササ草地およびその間の移行林に仕掛けた誘因式ピットフォールトラップによって得られた糞虫に基づき多様度を植生間で比較した。種数,均衡度(Smith-Wilson index, Evar),種多様度(Shannon-Wiener index, H′)のいずれも,原生林で最も高い値を示した。移行林では糞虫個体数の増加がみられたものの,均衡度はもっとも低い値を示し,ササ草地では種数,均衡度ともに最も低い値であった。このことは,ニホンジカの増加による森林の衰退は,糞という餌資源の増加があったとしても,糞虫群集の多様性を減少させていることを示唆する。したがって,このような生態系の変化は生物多様性の保全という観点から糞虫群集にとっても好ましい現象ではないといえる。
著者
渡邊 裕太 上原 巌 田中 恵
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.226, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

一般に樹木菌根は土壌中で菌が根に感染することで形成され、養分の受け渡しをするなどの役割が知られている。これらの働きは実生の生残や成長にも重要な役割を果たしていると考えられる。そこで、実生への菌根菌感染はいつ行われ、どのような菌根菌相を持つのか明らかにするために、有用広葉樹であるミズナラ実生を対象として調査を行った。東京農業大学奥多摩演習林と山梨県小菅村鶴峠付近のミズナラ林で2015年2月からミズナラ実生を採取した。採取した実生の根から菌根の特徴ごとに形態的分類を行いその後DNA解析による菌根菌の種推定を行った。実生1本あたりの菌根数は100~200個程度が多く見られた。一方感染していなかった個体は1本のみで他はすべて感染が確認された。これにより自然下ではほぼ確実に菌根菌に感染すると考えられる。未感染の個体も発芽後あまり時間がたっていなかったためであると思われる。今回確認された菌種は、Tomentella、Russula、Sebacina、Cenococcum geophilm、Laccaria、Lactarius、Inocybe、Amanita 等に属していた。
著者
大場 孝裕 小松 鷹介
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第128回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.771, 2017-05-26 (Released:2017-06-20)

一夫多妻型あるいは乱婚型の配偶システムを採るニホンジカ(cervus nippon)の個体数管理を行う場合、メスの数が重要となる。特に個体数削減を図る場合には、雌雄の行動の違いを踏まえ、メスを選択的に捕獲できれば効果的である。 静岡県では、ニホンジカの行動特性を踏まえた捕獲の効率化を図るため、県内各地でGPS首輪を装着し、季節移動や行動範囲、集中的に利用する環境などを把握してきた。 富士山では、オス3頭のカーネル法による95%行動圏は259.6±127.5ha、集中的に利用していたと見なせる50%行動圏は40.5±27.2haであった。メス4頭の95%行動圏は147.5±59.9ha、50%行動圏は21.4±13.1haであった。個体数が少なく有意ではないものの、オスの方が広い傾向にあった。南アルプスでは、オス6頭の95%行動圏は150.0±111.9ha、50%行動圏は22.7±14.1haであった。メス4頭の95%行動圏は112.6±40.5ha、50%行動圏は18.9±5.9haで、やはりオスの方が広い傾向にあった。交尾期にメスのいる場所へオスが移動し滞在していること、若いオスが比較的広い範囲を移動していることが要因として考えられた。
著者
金澤 泰斗 久保田 耕平
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第125回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.179, 2014 (Released:2014-07-16)

【目的】関東平野において自然度の高い森林に局所的に分布しているコシビロダンゴムシ科等脚類のうち、従来トウキョウコシビロダンゴムシとされてきた個体群について遺伝子解析と形態解析を行い、その多様性の実態を明らかにする。【方法】関東平野の38地点で採集したコシビロダンゴムシ類について形態を観察し、従来識別形質とされてきた雄第一腹肢外肢については楕円フーリエ記述子を用いて定量解析を行った。また、ミトコンドリア遺伝子COI領域の配列を決定し、種内及び近縁他種との系統関係を解析した。【結果】遺伝子解析の結果、従来トウキョウコシビロダンゴムシとされてきたものの中に遺伝的に大きく異なる2系統が存在することがわかった。この2系統は雄第一腹肢外肢の形態に明確な差は見られなかったが、背板側縁部の体色によって区別された。2系統が同所に共存する地点は確認されず、生殖干渉などにより排他的な分布となっていると考えられ、両者が遺伝的にも形態的にも分化した別種であることが推定された。また、2系統間で採集地点の標高に有意な差が見られ、それぞれの分布が生息地の環境の違いや地史的背景を反映している可能性が示唆された。
著者
永竹 翔太 尾張 敏章 福士 憲司 笠原 久臣 渡邉 良広 井口 和信 犬飼 浩
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.215, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

ウイスキー樽用資材として国産ミズナラ材の需要が近年高まっている。樽材生産に適した径級や形質を持つミズナラ立木は、天然林内にごく少数が点在して生育する。熟練した森林技術者が樹幹の外観を観察し、長年の経験をもとに樽材適性を評価・判定した上で収穫木を選定している。これまで、天然生ミズナラ立木の樽材適性評価は技術者個人の暗黙知にとどまり、客観的な選木基準は明らかでなかった。そこで本研究では、熟練技術者によるミズナラ樽材候補木選定調査のデータを分析し、ウイスキー樽材適性評価に関する暗黙知の表出化を試みた。調査は東京大学北海道演習林の57林班で行った。胸高直径40 cm以上のミズナラ立木計744本のうち、95本が樽材適性有りと判定された。胸高直径と枝下高、樹幹外観の特徴(ねじれ、曲がり、傷、腐れ、コブ、枝・節)が樽材適性の有無に及ぼす影響を一般化線形モデルにより解析した。解析の結果、枝下高が高く、ねじれのないミズナラを樽材候補木として選定する傾向が認められた。一方、胸高直径および曲がり、コブ、傷、枝・節については、樽材適性の判定において有意な効果が検出されなかった。
著者
森川 均一 鮫島 宗堅
出版者
日本森林学会
雑誌
林學會雑誌 (ISSN:21858187)
巻号頁・発行日
vol.12, no.12, pp.711-732, 1930-12-10 (Released:2009-02-13)
参考文献数
31

(一) 概して毬果の縦の方向に於ては、中部の種子は其體積、氣乾重量及絶對乾量の何れも最大にして、先端部之に亞ぎ、基部は最も輕小にして、從來既に知られ居る如くなるも、此毬果の縦の方向に於ける種子大小の差異は甚だ少く、返つて之よりも毬果の周圍に於ける種子の大小變異の力が著しく大にして、種子の良否に對し重大なる意義の存するを認めらる。即ち此原因は毬果の周圍の各鱗片が、總て同一の強度又は時間の光線を受ける事は有得ない爲に、日光に強く又は長く照射される部分の鱗片は、然らざる鱗片よりも水分の蒸散作用が著しく盛となり、其水分の不足を補給する爲に、特に其部分の鱗片に水分が多く上昇し來り、次第に其鱗片に向へる維管束も發達して太くなり、益々水分の供給が大となる故、此水分と共に營養も多く供給され、又之と同時に日光に良く照射される部分の鱗片には、より多くの同化作用行はれ、植物の營養となる炭水化物も増加する故、此部分の種子は良く充實した重き大粒種子となる。 (二) 毬果上の着生部位に依る授精率は、毬果の先端部最大にして中部之に亞ぎ、基部は最も少い。然し此授精率の大小よりも、毬果の鱗片の大小の方が直接蒸散作用並に同化作用に影響するを以て、種子の大小に關係する事大である。 (三) 一〇-三〇年生の母樹に生じた種子は、八〇年生の如き老齡に達したものより産した種子よりも大である。 (四) 種子の發芽率は毬果の中部最大にして、先端部之に亞ぎ基部最も不良にして、之又從來知られたる結果と同様なるも、然し此の毬果の縦の方向の發芽率の變異よりも、毬果の周圍に於ける發芽率の變異の方が著しく大である。即ち發芽率は種子の大小と常に並行せるを見る。然し毬果の周圍に於ける種子の體積、重量の變異は非常に大なりしも、發芽率の變異は右の如き傾向存するも、其差は甚だ少い。之は劣等なる小粒種子にも、比較的多く發芽するに依る。 (五) 赤、黒松稚苗の子葉數は四-一〇枚なるも、一〇本の子葉を有するものは極めて稀にして、通常四-九本である。而して兩樹種共に子葉六枚を有するものが最も多きに拘らず、赤松大粒種子にては其五〇-七〇%が子葉七枚以上を有するも、同小粒種子は子葉七枚以上のもの一〇%以下にして、甚だしきは一%に過ぎないものもある。 黒松に於ては、大粒種子は其六〇-八三%が子葉七枚以上を有すれども、同小粒種子にては、之を一〇-三五%産するに過ぎない。 即ち母樹の老幼を問はず、大粒種子は小粒のものよりも、子葉の多き苗木を著しく多く生ずる。 (六) 黒松の大粒種子よりも赤松の大粒種子の方が子葉の多き苗木(子葉七枚以上のもの)を生ずる割合の劣るは、黒松にては種子の長さ六-七粍のもの比較的多きも、赤松にては之の甚だ少きに依り、又黒松小粒種子より赤松小粒種子の方が、子葉多き苗木を生ずる割合の著しく劣る事は、赤松では長さ三-四粍の種子多きも、黒松では之の甚だ少きに依るものと思考せられる。 (七) 母樹の年齡に就ては、赤、黒松共に約三〇年生の母樹より産せし種子は最も子葉多く、約一〇年生の母樹所産種子之に亞ぎ、約八〇年生の老齡に達せる母樹より採取せる種子は、發芽率は可なり大なるも子葉數の多きもの最も少い。即ち子葉數の多少は母樹の老幼に就ても、其種子の大小と並行せるを示し、而して壯齡に達せる約三〇年生の母樹に生じたる種子は、一〇年生又は八〇年生の母樹所産種子よりも最も多くの營養を母樹より供給され居るを實證して居る。 (八) 斯くの如く種子の大小と子葉數との間に、相當密接なる關係を有する生理的理由は、松の子葉は一見輪生せる如く見ゆるも、實際は螺旋状に配列し居るものにして、母樹より供給される營養が多き程胚は肥大し、從つて子葉の分化も發達して、子葉が長く又は數多くなるものにして、種子に供給される營養の多き程内容充實して、重く大なる優良種子となる事と並行し、而して一般に重大なる種子は、生長旺盛な優良苗を多く産すると云はれ居るは、赤、黒松の如きものにありては、充實せる重大な種子には子葉多く、子葉多き稚苗は、樹木の主成分が炭水化物なるを以て、子葉の少きものよりも同化作用盛である事が、早く生長せしめる主因となり、順次發生し來る初生葉や、通常葉の發生、發達も加速度的に早くなり、其結果益々早くより同化作用が旺盛となり、其生長量に大なる差異を生ぜしめ、健全なる優良苗になるのである。 (九) 樹木が幼齡にて開花結實すると云ふ事は、多くの場合母樹の遺傳性に依るよりも、其立地の良否に基く事大にして、立地良好なれば幼母樹産林木にても、其遺傳性表れず生長宜しきも、立地良好ならざれば老母樹産林木にても、幼齡にて開花、結實して生長衰へる。故に此樹木の開花、結實の年齡に關する遺傳性に拘泥するよりも、母樹の生育せし立地並に現存林木の立地に注意する方が重要である
著者
河合 洋人 西條 好廸 秋山 侃 張 福平
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.151-157, 2008 (Released:2008-12-09)
参考文献数
21
被引用文献数
7 7

竹林の拡大機構を解明するため,岐阜県西部においてモウソウチク地下茎を100 m2方形枠で掘り取り,採取した試料から成長様式と年間伸長量,発生後年数を推定した。その結果,節間長の配列には振幅性があり,極端に節間長が短くなる部分を年次の境界と仮定した場合,その節間の狭窄部は7∼29 mmの範囲にあり,1振幅における最長節間長の40%以下であった。地下茎の分岐点と節間長の狭窄部から採取した50本の試料について1年間の伸長量を推定した結果,0.02∼3.63 m,平均1.27±0.90 mであると推定され,西日本における他の事例よりも小さいことが明らかとなった。採取した地下茎が方形枠に侵入し,その枠外へ伸長していくまでの経過年数は4∼12年と推定され,経過年数と各年における平均年間伸長量,合計伸長量,全分枝数,新規分枝数について解析した結果,新規分枝数が3年に一度大きな値をとることが明らかとなった。以上から,節間長の配列によって年間伸長量の推定が可能であると考えられるが,さらなる検討が必要である。また気候や土壌などの立地環境が地下茎の成長に影響を与えている可能性についても同様である。
著者
井上 友樹 村上 拓彦 光田 靖 宮島 淳二 溝上 展也 吉田 茂二郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.208-216, 2007 (Released:2008-07-15)
参考文献数
42
被引用文献数
5 2

下層植生からみた剥皮害の発生傾向を明らかにすることを目的として,熊本県球磨地域のヒノキ人工林77地点を対象に,剥皮害木本数と下層植生との関連性を検討した。まず,下層植生の繁茂状況をデジタルカメラを用いて撮影し,定量化した。また,下層植生の種組成データを基に,TWINSPANにより調査点を三つの植生タイプに分類した(スズタケタイプ,先駆種タイプ,常緑高木種タイプ)。次に,下層植生が繁茂している調査点では剥皮害木本数が低く抑えられているのか,ブートストラップ法により検討した。その結果,常緑高木種タイプの調査点においてのみ,下層植生の繁茂状況が剥皮害木本数の多寡に影響していたことが明らかとなった。これは,下層植生による物理的,視覚的な遮蔽効果によるものであると考えられた。
著者
阿部 佑平 柴田 昌三 奥 敬一 深町 加津枝
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.270-276, 2011 (Released:2012-03-13)
参考文献数
42
被引用文献数
3 1

京都市では, 左京区の北部山間地域でササの葉が採集され, 京都市内で食品の包装や祇園祭厄除け粽の作成に利用されてきた。本研究では, ササの葉の採集・加工方法と流通・利用状況を明らかにするとともに, 最近まで京都市内でササの葉を生産し, 利用する体制が維持されてきた要因を明らかにすることを目的とした。調査の結果, 当地域の花脊別所町と大原百井町の集落周辺の里山で, 裏に毛のないササの当年生葉が採集され, 天日乾燥されていたことが明らかになった。また, 広葉樹の択伐といった里山管理がササの旺盛な生育につながっていた可能性が示唆された。このような地域の知恵や技術により, 品質の良いササの葉を生産し, 利用する体制が最近まで維持されてきたと考えられた。一方, 2004年から2007年にかけて京都市内のササが一斉開花・枯死した以降は, 他の産地のササの葉が利用されていた。また, ササの葉の生産に関して後継者も不足していることが明らかとなった。京都市において再びササの葉を生産し, 利用していくうえで, ササの葉の生産に必要な労働力を確保すること, ササの葉の生産に関する地域の知恵や技術を伝えていくことが重要であると考えられた。
著者
知念 良之 芝 正己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.266-271, 2019

<p>沖縄県における一般的な住宅構造は,鉄筋コンクリート造であったが,近年は戸建を中心に木造率が増加傾向にあり,1990年代以降は県外産プレカット材を移入する動きが報告されてきた。2015~2016年に,二つのプレカット工場が経済特区へ進出すると,木造建築はさらに活発化した。本研究では,関連事業者に対して,進出の動機や活動実態,県外出荷に係る公的助成制度の利用についてインタビュー調査を行い,沖縄県における木造住宅の拡大とプレカット工場の関係を明らかにした。プレカット工場の進出は,県内の木造需要増加への対応と遠隔地特有の流通に不利な条件を緩和する目的があった。供給する住宅には,主に人工乾燥材または集成材が使用されており,台風対策や耐震性の向上が図られていた。工場には,公的助成制度を利用して県外にも出荷するものと県内専売のものがあり,使用する主な原材料や工場の立地選択に違いがみられた。一方,県内における木材産業に対する認知度の低さや木造関連技術者の少なさから,住宅生産が制限されていた。また,ボイラー燃料需要がなく,産業廃棄物として排出されるオガ粉や端材の処理費用の負担が大きい課題があった。</p>