著者
赤根 幸子 牧野 慎也 橋本 典親 八束 陽介 河井 裕 竹田 一彦 佐久川 弘
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.185-196, 2004-03-05
被引用文献数
2

陸起源の溶存有機物濃度の高い広島湾において2000年を除く1996年から2002年の春季(5月,6月),及び夏季(8月)に海水を採取し,蛍光法を用いて海水中道酸化水素濃度の測定を行った。道酸化水素濃度の日変化や鉛直分布を調べるとともに,船上での光照射実験及び分解実験から道酸化水素の生成速度及び半減期の見積り,また環境諸要因との相関関係などを調査研究した.その結果,道酸化水素濃度は昼間(143〜448 nmol L^<-1>)の値が,夜間(85〜259 nmol L^<-1>)よりも高く,また,表面水で高く水深が深くなるにつれて減少する傾向を示した。道酸化水素の生成速度は8.0〜16 nmol h^<-1>, 半減期は12〜14hであり,報告例がある他の海域と比べて表面海水中濃度は高く,生成速度,半減期ともに速いものであった。また,広島湾表面海水は閉鎖性の高い海域の特徴として,河川水の流人の影響を強く受けることから主に塩分,水温が道酸化水素濃度を左右する要因であること,他方,微生物による分解作用も強く受けていることが実験的に示された。
著者
鈴木 淳 井上 麻夕里
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.177-188, 2012-09-15 (Released:2019-09-01)
参考文献数
59
被引用文献数
1

造礁サンゴの石灰化について,特に溶存無機炭素の役割に着目し,これまでに提唱されている石灰化メカニズムをレビューした。サンゴの石灰化は造骨細胞と骨格に挟まれた間隙の,いわゆる石灰化母液で進行する。石灰化の進行には,この石灰化母液にカルシウムイオンと溶存無機炭素(特に炭酸水素イオン)が適切に供給される必要があり,石灰化の阻害因子となる水素イオンが適切に除去されなければならない。造骨細胞に存在する炭酸脱水酵素は溶存無機炭素の供給に寄与していると考えられる。サンゴの石灰化機構の解明は,いまだ道半ばであり,今後の一層の研究の進展が待たれる。サンゴの石灰化メカニズムの解明は,その海洋酸性化影響を評価する上でも重要である。
著者
野口(相田)真希 千葉 早苗 田所 和明
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.43-57, 2018-01-15 (Released:2018-03-13)
参考文献数
81
被引用文献数
2

北太平洋における10数年規模の気候変動に関連した海洋生態系の変化について,これまで多くの研究が行われてきた。その代表的な事例として,1976/77年に発生した気候シフトに関する研究が挙げられる。これらの研究では,観測や数値モデルによって,1976/77年に発生した気候シフトがプランクトンから魚類に至る海洋生態系に大きな影響を与えたことが示されている。また,ここ約半世紀の間,北太平洋の広域で表層の栄養塩濃度の減少トレンドも示しており,動植物プランクトンの生産への影響を示唆している。このように,海洋環境の変動に関連する海洋生態系の変化について多くの知見が得られている。一方,生態系構造には未だ不明な点が多く,物理環境-栄養塩-生態系に至る一連の変動プロセスについて定量的に理解することができていない。そこで本総説では,観測と数値モデルから得られた北太平洋域の一次生産者と動物プランクトンの10年規模変動を概説し,海洋生態系の変動メカニズムの解明のために今後の研究展開を提示する。
著者
吉村 寿紘 井上 麻夕里
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.81-99, 2016-05-15 (Released:2018-10-25)
参考文献数
101
被引用文献数
1 1

カルシウムは海水の主成分元素であり,生体必須元素でもある。化学風化で岩石から溶け出したカルシウムは土壌で動植物に利用され,河川や地下水に運搬されて,最終的には海に注ぎ,そこで炭酸カルシウム,リン酸カルシウムなどの固体として多様な生物に利用される。海洋におけるカルシウムの挙動は炭素循環と密接に関連しており,現代と過去の地球環境変動の理解にとって欠かせない。カルシウム安定同位体比の高精度測定が可能となって20 年弱が経過した。本総説では,海洋に関連する各リザーバーの同位体組成とそれを駆動する生物学,化学,地球化学的な反応過程について,現代と過去のカルシウム循環を紐解くツールとしての役割とともに概説する。
著者
田辺 信介 立川 涼 河野 公栄 日高 秀夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.137-148, 1982
被引用文献数
110

西部太平洋, 東部インド洋および南極海の大気と表層海水に残留するHCH異性体とDDT化合物を測定した.世界的に広く使用されているHCH(BHC)やDDTなどの有機塩素系農薬が, 南極周辺の大気や海水にも検出可能な濃度で存在するすとが今回見出されたが, その他南北両半球の外洋環境からも検出され, 地球規模で汚染の進行していることが明らかとなった.<BR>大気および表層海水に残留するHCH異性体は, 南半球に比べて北半球の濃度が高い.一方, DDT化合物は, 熱帯域で高濃度分布が認められたものの, 南北両半球間の濃度差は少く, HCHの分布とは明らかな違いが認められた.さらにDDT化合物組成はρ, ρ'-DDTが50%以上を占め, 海域間の差はほとんど認められなかったが, HCH異性体の組成は, 北半球では酢HCH>γ-HCH>β-HCH, 南半球ではγ-HCH>α-HCH>β-HCHであった。<BR>海域問で物質の分布に差が見られ, あるいは物質の種類間でも分布に特徴が認められることは, 世界における農薬の使用状況および物質の物理化学性に加え, 地球規模での大気の大循環, とくにハドレーセルやフェレルセルなどの空気塊の存在も関与していることが示唆された.
著者
谷本 照巳 星加 章 三島 康史 柳 哲雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.397-412, 2001-09-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
38
被引用文献数
5 4

大阪湾と紀伊水道における水質観測結果に基づいて, 大阪湾における懸濁・溶存態物質の収支をボックスモデルにより解析した。その結果, 夏季, 冬季ともに表層では懸濁物質(TSM), 懸濁態有機炭素(POC), 懸濁態有機窒素(PON)および懸濁態リン(PP)の生成量は分解を上回り, 中層と底層では分解が生成を上回っていた。表層におけるPOC, PONおよびPPの生成量の夏季と冬季の平均はそれぞれ1, 300, 175および27td-1であり, 河川等からの負荷量と比較してそれぞれ約10, 8および16倍大きい。表層で多量の懸濁態有機物が生成されるにもかかわらず, これらのうち約60%は大阪湾内で分解され, 湾外への流出は20~30%であった。一方, 溶存態無機窒素(DIN)と溶存態無機リン(DIP)は両季節ともに表層で消費, 中層と底層では生成が上回っていた。表層で栄養塩が消費されて懸濁態の有機物が生成され, 中層と底層では懸濁態有機物が分解を受けて溶存態の栄養物質へと移行し, 海水中へ回帰している。夏季では, 下層の栄養塩が再び表層に輸送されて基礎生産に利用される循環が認められた。
著者
伊藤 大樹 纐纈 慎也 須賀 利雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4-5-6, pp.75-95, 2019-12-25 (Released:2020-01-13)
参考文献数
76

海洋前線やメソスケール現象に伴い全球海洋に遍在するとされるサブメソスケール現象は,エネルギー輸送や生態系,物質循環において重要な役割を果たす可能性があることから,理想化したモデル実験や現実的な条件下のシミュレーション等を用いた研究が近年活発である。数値研究により力学的・生物地球化学的重要性の理解が進む一方で,時空間スケールの小さな現象であるために,現場観測による研究は少ないのが現状である。本論文では,異なる形成発達過程により生じるサブメソスケールの流れを,形成の力学特性に応じて三つの主要なメカニズムに分類しまとめた。そして,この分類とこれまでの観測事例に基づいて,これからのサブメソスケール現象に対する現場観測からのアプローチの可能性を検討した。
著者
松本 英二 横田 節哉
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.108-115, 1978-06-30 (Released:2011-06-17)
参考文献数
12
被引用文献数
20

The accumulation rates of sediment cores in Osaka Bay have been determined by using 210Pb dating technique. In the upper 10 cm 210Pbex contents show a constant value with depth. The accumulation rates below the homogeneous layer of sediments ranging from 0.12 to 0.61 cm y-1 (0.067-0.34 gcm-2y-1) were obtained. The higher contents of Zn, Cu, Pb and Cr were observed in the upper 10 to 30 cm of sediments. Assuming that the increment of heavy metal content in sediments is due to anthropogenic origin, the amount of anthropogenic input of heavy metals into sediments were estimated to be 1, 300-2, 700μg cm-2 for Zn, 150-480 for Cu, 360-410 for Pb and 320-480 for Cr. The increment appears to start about 100 years ago. In surfical sediments most of heavy metal contents exceeded the background content, and thenmost part of Osaka Bay is polluted by heavy metals.
著者
Zhang Xiangdong Zhang Jing
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

北極海における熱力学効果は大気海洋相互作用に影響を与え,そこからの淡水流出は北大西洋の熱塩循環を変える可能性をもっているので,北極海の気候研究は需要である。観測データだけから熱・淡水収支を知るのは困難なので,海氷海洋モデルを大気データと河川からの淡水供給で駆動することによって,熱・淡水収支を調べた。モデルにはネプチューン効果とフラックス修正項が入っている。北極海への熱流入はフラム海峡からの46TW(T=10^<12>)が主である。バレンツ海には43TWが入るが,そのうちほとんどはバレンツ海で大気へ逃げ,北極海には2TWしか入らない。80,000km^3の北極海淡水は,ほぼカナダ海盆とユーラシア沿岸に溜まっている。淡水供給源は河川,降水,ベーリング海峡からの海水流入である。淡水流出は,海水としてカナダ多島海からの3,000km^3 yr^<-1>とフラム海峡からの1,000 km^3 yr^<-1>であり,海氷としてフラム海峡からの1,900 km^3 yr^<-1>である。
著者
日比谷 紀之 梶浦 欣二郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.172-182, 1982-07-25 (Released:2011-06-17)
参考文献数
8
被引用文献数
13 195

長崎湾内で通例は冬期にしばしば見られるあびきが, 1979年3月31日に長崎海洋気象台観測史上最大の規模で発生した.これを例として, 数値シミュレーションを行ない, その発生機構について, 定量的な考察を試みた.その結果, 湾内の顕著な振動 (長崎験潮所で最大潮位差278cmを記録) は, 東シナ海を, ほぼ東向きに, 約110kmh-1の速度で進行した振幅約3mbの気圧波によっておこされたとすれば説明できることがわかった。また, その発生の過程については,1) 東シナ海大陸棚上での気圧波との共鳴的カップリングによる海洋長波の振幅10cmに及ぶ増幅3) 長崎湾内での浅水増幅および反射干渉による増幅;3) 長崎湾の固有振動系と, 五島灘領域の振動系との干渉による共鳴増幅効果など, 数段階の増幅作用が絡んでおり, これらによって生成された約35分周期の一連の波によって, 同湾の固有周期に相当する36分および23分周期で共鳴的に増幅されたことが, 定量的に結論づけられた。
著者
平野 茂樹 小柳 卓
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.145-147, 1981
被引用文献数
1

<SUP>60</SUP>Co (II)-アミノ酸錯体の安定度定数をイオン強度μ=0.67の過塩素酸ナトリウム水溶液中で求めた. 安定度定数の値は. Co-フェニルアラニンについて, Iogβ1=4.4, 10gβ2=8.2, 10gβ3=11.7, Co-ヒスチジンについてlogβ=7.4, Co-バりンについて109β1=4.3, 109β2=8.5, Co-プロリンについて1ogβ1=4.1, Co-チロシンについてlogβ1=7.2であった. これらの安定度定数を用い, 各アミノ酸の海水中の濃度を10<SUP>-7</SUP>~10<SUP>-8</SUP>moll<SUP>-1</SUP>と仮定して化学平衡になった状態の各錯体の存在割合を計算により推定した. <SUP>60</SUP>Coが廃液として海水に放出された後の短時間ではアミノ酸錯体より無機錯体の割合の多い事が推定された.
著者
杉ノ原 伸夫 深澤 理郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.315-336, 1988
被引用文献数
23

底層水の生成域を内部に持ち, 南北両半球にひろがる海洋の冷却過程を数値的に研究した. モデル海洋は初期に一様な水温の海水で占められている. 計算の過程では, 表面を一様に加熱する一方, 南半球の最高緯度帯で底層水を生成させた.<BR>計算初期においては, 生成された底層水は, ケルビン波的な密度流の形態を呈しつつ南半球海洋の西端に沿って北上した後, 赤道に沿って東進する. 海洋の東端に達した底層水は, ケルビン波的な密度流の形態で極向きに移動すると同時に, ロスビー波的な密度流を形成することによって西方へも広がり, 内部領域に極向きの流れを引き起こす. 底層水が西端に達すると, そこに西端境界流が形成される. この時から, 南半球海洋の西岸を北上する底層水が, 赤道を越えた北半球海洋の西岸境界流に直接補給されるようになる. 中深層においては, 内部領域および沿岸での湧昇によって下層から順に冷やされて行くが, その過程で, 底層水と周囲の暖かい海水とが混合し, 温度躍層は, 加熱層 (最上層) の下端に留まらず, より深層にまで広がる傾向が見られる. その結果, 湧昇速度は温度躍層の下部で最大となり, ストムメル・アーロンズが示したような内部領域での流れの形態は底層付近にのみ再現される. また, 赤道に沿っては鉛直高次モードの運動が卓越し, 流速場は, 東向流と西向流が互い違いに重なった構造 (ziggy structure) になる.
著者
石田 洋 古澤 一思 牧野 高志 石坂 丞二 渡邉 豊 Hiroshi Ishida Kazusi Furusawa Takashi Makino Joji Ishizaka Yutaka W. Watanabe 株式会社環境総合テクノス 株式会社日本海洋生物研究所 株式会社ケーズブレインズ 名古屋大学宇宙地球環境研究所 北海道大学大学院地球環境科学研究院 The General Environmental Technos Co. Ltd. Marine Biological Research Institute of Japan Co. Ltd. K's Brains Co. Ltd. Institute for Space-Earth Environmental Research (ISEE) Nagoya University Faculty of Environmental Earth Science Hokkaido University
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 = Umi no Kenkyu (Oceanography in Japan) (ISSN:21863105)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.17-41, 2016-03-15

西部北太平洋亜熱帯海域の定点(北緯22.5度,東経131.8度)で,2004年から2006年の各年の夏季に,調査地点の500km以内に台風が通過した後の10日以内におこなわれた植物プランクトン群集組成の調査結果を解析した。2006年の台風はEWINIARとBILISで,最接近時の移動速度がそれぞれ2.8と4ms^<-1>であり,2004年のKOMPUS(6.5ms^<-1>)と2005年のHAITANG(7.9ms^<-1>)に比べて遅かった。人工衛星による観測では,2006年のこれらの台風が通過した後,海表面水温が低下し,クロロフィルaが調査地点を含む広範囲において増加していた。また,植物プランクトンが増加しており,優占種はPlanktoniella solで,細胞数は4×10^<7> cells m^<-2>であり,2004年(1×10^5 cells m^<-2>)と2005年(5×10^4 cells m^<-2>)に比べて2-3桁高かった。さらに,シアノバクテリアおよびバクテリアの炭素態現存量も,2004年と2005年に比べ約2倍高かった。同じ地点で2002年12月から2005年7月まで実施したセジメントトラップによる沈降粒子観測では,台風の影響と考えられる変動はみられなかった。Phytoplankton communities and carbon biomass were investigated at 22.5°N, 131.8°E in the western North Pacific subtropical region between 2004 and 2006 within 10 days of a typhoon passing within 500km of the survey point. The typhoons of 2006 were EWINIAR and BILIS. The translation speeds of these typhoons at the nearest area from the survey point were 2.8 and 4 m s^<-1>, respectively slower than that of 2004's typhoon KOMPUS (6.5 m s^<-1>) and 2005's typhoon HITANG (7.9 m s^<-1>). After the 2006 typhoons, the sea surface water temperature decreased, and the chlorophyll-a increased over a wide area, including the investigation point. The number of diatoms in 2006 increased, and the carbon biomass was 5-10 times higher compared with 2004 and 2005. The dominant species of diatom was Planktoniella sol with 4×10^7 cells m^<-2> which was considerably higher than the cell density 2004 (1×10^5 cells m^<-2>) and 2005 (5×10^4 cells m^<-2>). 2006 carbon biomass of the cyanobacteria and bacteria was twice as high as that of other years. The settling particle flux after a specific typhoon was not increased, in contrast with the hypothesis we derived from the increasing biomass data.
著者
奥田 邦明
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.221-226, 1973-10-31 (Released:2011-06-17)
参考文献数
6

強い風によるかきまぜが存在する時, 琵琶湖の季節的なサーモクラインの最上部において短周期の温度変動に関する観測を行った.観測期問, 温度の鉛直分布は混合層の底において不連続的に変化し, そのすぐ下の2m程度の厚さの内部境界層において, 大きな勾配を持っていた. 内部境界層における最も卓越した擾乱は, 2分から3分の周期で, 振幅は約1mであった. そして, それらは5分から10分の間隔で間歇的に発生し, 生成, 消滅を繰り返していた.このよな結果から, それらはシアーによる不安定性機構によって発生したこと, そして, それらが風による季節的なサーモクラインの浸食過程を支配している可能性があることが示唆される.
著者
久保川 厚 花輪 公雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.247-259, 1984-08-25 (Released:2011-06-17)
参考文献数
11
被引用文献数
1 27

ポテンシャル渦度が有限でかつ空間的に一様な, 海面上に密度前線をもつ沿岸密度流に付随する半地衡性重力波 (Semigeostfophic gravity wave) について調べた. その結果, 沿岸密度流には2種類の半地衡性重力波が伴うことが判った. 本論文では, この2種類の波動を半地衡性沿岸波 (SCW) および半地衡性前線波 (SFW) と名付けた. SCWはある極限でケルヴィン波に一致する波動であり, SFWは前線の存在に本質的に帰因する波動である. 前者は岸での上層の厚さと前線での岸に沿う方向の流速変動として主に現われ, 後者は海流の幅の変動として主に現われる. また, これらの波動は弱非線形性と非地衡性を考慮するとKortweg-de Vries方程式に支配されることを示した. このことは, 沿岸密度流の局所的な変動が波動状擾乱として伝搬しうることを示唆している.
著者
関口 秀夫 石井 亮
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.21-36, 2003-01-05
被引用文献数
20

有明海は本邦全体の干潟面積の約20%に相当する広大な干潟をもち,その中で最大の干潟面積をもつ熊本県ではアサリ漁業が盛んである。本邦全体のアサリ漁獲量は1975〜1987年にかけて14万〜16万トンあったが,これ以降激減している。有明海全体のアサリ漁獲量を代表する熊本県の漁獲量は,1977年に約6万5千トンあったが,2000年にはその1%にまで激減している。アサリ漁獲統計資料の解析によれば,アサリ漁獲量の減少パターンは有明海固有のものであり,漁獲量激減に関与している要因は本邦全域に及ぶような要因ではない。また,有明海の二枚貝類各種の漁獲統計資料の解析によれば,有明海のアサリ漁獲量の減少パターンは他の二枚貝類と異なっており,アサリ漁獲量の激減に関与している要因はアサリに固有の要因である。有明海のアサリ資源の幼生加入過程に関する過去の研究成果を踏まえれば,アサリ浮遊幼生の生残率の低下が,さらに言えば,この生残率の低下を引き起こしている要因が,アサリ漁獲量の近年の激減に関与している可能性が高い。ここでは,この推測を検証するための,併せて着底稚貝以降の死亡が関与する可能性を検証するための,プロジェクト方式の研究計画についても,提案をおこなう。
著者
岸野 元彰 古谷 研 田口 哲 平譯 享 鈴木 光次 田中 昭彦
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.537-559, 2001-11-01 (Released:2008-04-14)
参考文献数
28
被引用文献数
1

海水の光吸収係数は, 海洋の基礎生産や海色リモートセンシングの研究において重要なパラメータの1つである。今まで, その測定法について多くの提案がなされてきた。本稿は, まず吸収係数の定義を明確に定義し, その海洋学における意義を述べた。引き続き, オパールグラス法, グラスファイバー法, 光音響法, 積分球法の原理を述べると共に問題点を挙げた。また, 採水処理しなくて済む現場法についてその原理と問題点をまとめた。引き続き吸収係数の組成分離法について直接分離法と実測値から求めた半理論的分離法を紹介した。最後に人工衛星によるリモートセンシングによる推定法に言及した。
著者
川辺 正樹
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.95-107, 1982
被引用文献数
100

対馬海流は日本海中央部において複雑な蛇行路をとるのに対し, 対馬海峡付近では比較的整然とした流路をとり, しばしば3本の分枝流が見出されてきた. しかし, その構造や変動についてはほとんどわかっていない. そこで, 水温・塩分・潮位データを使って, おもに対馬海峡付近での対馬海流の性質を調べ, 次のような結果を得た.<BR>第1分枝 (日本沿岸分枝) の存在は, 塩分分布によって少なくとも3月から8月に認められる. 第3分枝 (東鮮暖流) は常に存在している. 一方, 第2分枝 (沖合分枝) は6月から8月にかけての夏季のみ存在する.<BR>主密度躍層は, 深さ150mから200mで日本側の陸棚上のゆるやかな海底斜面に交叉している. 第1分枝は, おおよそこの交叉位置より岸側を占めており, 第2分枝は交叉位置付近から沖側に位置している.<BR>釜山・厳原間, 厳原・博多間の潮位差によると, 表面流速・流量の季節変化は, 対馬海峡東水道では非常に小さく, 西水道では大きい. しかも, 西水道で表面流速・流量の増大する期間は, 第2分枝の存在する期間とよく一致している.<BR>以上の結果は, 海底地形や密度成層, および対馬海峡西水道での流入流速・流量の季節変化が, 第2分枝の形成に重要な役割を果たしていることを示唆している.
著者
角皆 静男
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.6, pp.651-653, 2002-11-05
被引用文献数
4 1

川口ら(2002)は,有明海における2000年のノリ不作の原因を珪藻が栄養塩を枯渇させてしまったせいと突きとめながら,溶存無機窒素(DIN)減少の理由を有明海内にだけ求めたため,説得力のある説明ができなかった。角皆(1979)のケイ素仮説を用いるとこれが簡単に説明できる。この年は高温・多雨だったので,雲仙普賢岳の噴火による火山灰から溶け出した効果も加わって,多量の溶存ケイ酸塩が海に流れ込み,珪藻が異常増殖し,ノリにいくべき栄養塩を使ってしまったとなる。
著者
日比谷 紀之
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.177-190, 1988-02-29