2 0 0 0 OA

著者
川口 弘一
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

本特集号は,東京大学海洋研究所所属研究船白鳳丸の共同利用航海(KH-97-2,1997年7月9日〜9月8日)の研究結果を総括したものである。航海名PSECSは,Pacific Subarctic Ecosystem Studyの略である。航海の目的は,北太平洋亜寒帯域およびベーリング海生態系における生物学的および生物地球化学的過程を,全国18の研究機関に所属する42名の研究者によって総合的に研究するというものである。主な研究項目は以下のとおりである:1)北太平洋亜寒帯域の東部と西部およびベーリング海の生物群集と生物生産過程の比較研究,2)表層と中層の食物網の構造とそれに関係する生物地球化学的過程の研究,3)表層生態系と中層生態系の相互作用の研究,4)海面を通しての温室効果ガスの出入の収支測定,5)沈降・懸濁・溶存態有機物の鉛直輸送の測定,6)エアロゾル構成物質および空中浮遊放射性物質の特定。
著者
前川 陽一 中村 亨 仲里 慧子 小池 隆 竹内 淳一 永田 豊
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.167-177, 2011-11-15
被引用文献数
2

2009年4月と10月の2回にわたって,勢水丸を潮岬周辺に派遣して,詳細な海況の観測を実施した。串本・浦神の検潮所間の水位差は,しばしば黒潮流路が直進路をとっているか,蛇行路をとっているかの指標として用いられる。従来にない密な観測点を設けることによって,この水位差は串本・浦神の間で緩やかに起こっているのではなく,潮岬の沖,東西約6kmの幅で集中的に生じていること,また,その水位差のほとんどは,僅か150m深までのごく表層の海洋構造によって作り出されたものであることが示された。黒潮本流の流速場を支配している温度躍層以深の水温・塩分構造が直接関係するのではなく,振り分け潮のような現象によって黒潮表層水が紀伊半島南西岸にもたらされるかどうかによって水位差が生じていることをより詳細に示すことができた。
著者
森 政次 野田頭 照美 新井 洋一
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.37-50, 1991-08-31

関西国際空港は大阪湾泉州沖5km,平均水深18mの海上において1987年に大規模な埋立による建設工事に着手した.護岸概成後の翌年12月から,護岸全周において藻類及び魚介類の分布調査を,護岸5ヶ所の調査点で付着生物の調査を行い,護岸構造と生物相との関係を調べた.護岸延長11.2kmの約80%を占める緩傾斜護岸は多種類の藻類の生育に適しており,水深1〜5m付近ではガラモ場が形成され,時間の経過とともにその分布範囲は拡がっていた.一方,垂直護岸は藻類の生育に適さないもののムラサキイガイなどの軟体動物にとっては有利な生息環境となっていた.今回の調査で,植物69種,動物271種,魚介類59種が観察された.これまでこの海域に見られなかった魚介類も出現しており,空港島が新たな生物空間を構築していることが明らかになった.また,埋立てによって失われた生物の現存量(15トン)を上回る生物の現存量(約300トン)が空港護岸で確認された.
著者
大島 慶一郎 小野 純 清水 大輔
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.115-124, 2008-02-29

オホーツク海の陸棚上の流速場をよく再現している3次元海洋循環モデルを用いて,粒子追跡実験を行った.モデルは日々の風応力と月平均の海面熱フラックスで駆動されている.アムール川からの汚染物質等の漂流・拡散を想定して,アムール河口に起源を持つ海水の0m層と15m層における粒子追跡実験を行った.15m層では,粒子を投下する月・年に拘らず,10月一気に東樺太海流が強まるのに伴って粒子はサハリン東海岸沖を南下し始め,12〜1月に北海道沖に到達する.表層0mでは,海流だけでなく風によるドリフトの効果が加わり,粒子の挙動は年によって異なる.沖向きの風が強い年ほど,粒子は東樺太海流の主流からはずれてしまい,北海道沖までは到達しない傾向が強くなる.2006年2〜3月に知床に漂着した油まみれの海鳥の死骸の起源を探るため,後方粒子追跡実験を行った.その結果,海鳥は北方から,おそらくはサハリン東岸のどこかから東樺太海流に乗って知床に漂着したであろうことが示唆された.
著者
三宅 裕志 山本 啓之 北田 貢 植田 育男 大越 健嗣 喜多村 稔 松山 和世 土田 真二
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.6, pp.645-651, 2005-11-05
被引用文献数
1 4

シロウリガイ類は深海から採集すると通常2, 3日しか生存せず, 飼育を試みた報告は皆無であった。本研究では, シロウリガイ類の飼育の試みとして, 良好な健康状態で採集し, かつシロウリガイ類の共生細菌のエネルギー源(泥中の硫化水素)を確保するために, 圧力以外の現場環境をできる限り維持した状態で採集する装置のMTコアを開発した。また, シロウリガイ類は高酸素濃度に弱いため, 溶存酸素濃度制御装置により低酸素濃度環境を維持する飼育システムを製作した。シロウリガイとエンセイシロウリガイをそれぞれ相模湾初島沖水深1,150m〜1,160mの地点, 石垣島沖の黒島海丘の643mの地点で採集した。採集したシロウリガイは約1週間で死亡したが, 黒島海丘のエンセイシロウリガイは17日間生存した。また, エンセイシロウリガイでは2回放卵が確認された。以上のことから, エンセイシロウリガイは飼育が容易な種と考えられた。
著者
角皆 静男 辺見 隆
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.67-72, 1971 (Released:2011-06-17)
参考文献数
7
被引用文献数
80

表面海水でのヨウ素イオンとヨウ素酸イオンとの関係を知る目的で太平洋海水中のヨウ素を測定した. その結果を角皆と佐瀬によるヨウ素イオンの生成機構と関連させて議論した. 全ヨウ素濃度はほぼ一定で平均値は0.41μg at./lであるが, ヨウ素イオン濃度は測定限界以下から0.21 μg at./lまで大きく変動した. ヨウ素イオンの鉛直分布ではその最大値はしばしば表層に現われるが, 表層では水温20℃ 以上の暖水 (平均0.10μgat.l) の方が冷水 (0.03μg at./l) 中のものより濃度が高い. 暖水中でも最も濃度の高いのは赤道海域の表層水 (0.13μgat./l) で, ここでは活漫な生物活動がみられる. 一般に, 冷水でも生物活動の活溌な水にヨウ素イオンは多い.これらの事実は提案されたヨウ素イオンの生成機構とは矛盾しない.
著者
角皆 静男 西村 雅吉 中谷 周
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.153-159, 1968-08-31 (Released:2011-06-17)
参考文献数
12
被引用文献数
20 20

海水のカルシウムおよびマグネシウム含量を測定した. 西部北太平洋において, 平均濃度は, 塩素量19.00‰の海水で, カルシウムについて0.4049g/kg, マグネシウムについて1.2684g/kgであった. また, カルシウム/塩素量比, マグネシウム/塩素量比の平均値は, 0.02131および0.06676であった. カルシウム/塩素量比は深さと共に増大するばかりでなく, 表面水でも水塊によって異なることがわかった. それゆえ, カルシウム/塩素量比は水塊のトレーサーとして使うことができる. そのような傾向はマグネシウム/塩素量比ではみられなかった.
著者
植田 純生 磯田 豊
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.47-69, 2022-05-15 (Released:2022-05-15)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

日本海の内部領域では惑星β面上の南北水温勾配を伴う東向き表層流 (対馬暖流) が年正味の海面熱損失と南方からの水平熱輸送との熱バランスによって維持されている。このような海盆スケールの表層流は温度風平衡を満たし,西岸境界で湧昇,東岸境界で沈降を駆動して,中層もしくは底層を経由するオーバーターニング循環(鉛直循環)を発達させる。日本海の高塩分中層水 (High Salinity Intermediate Water: HSIW) は極微細な塩分極大を示す水塊であり,塩分極小である日本海中層水 (Japan Sea Intermediate Water: JSIW) の下方,深度500 ~700 m 付近に位置している。HSIW は北海道沿岸沖の対馬暖流による流入高塩分水を起源とし,これはオーバーターニングによる東岸境界の沈降に対応する。2009 年の夏季,HSIW に繋がる高塩分の大規模な表層混合層が観測され,ベンチレーション (換気) の直接的な証拠が捉えられた。ところが2010 年代に入り,急速に低塩化するJSIW がHSIW を上方から蓋をする状態が継続した。本研究ではHSIW の時間変化を追跡できる有用な生物化学トレーサーとしてPreformed PO4 (PO40) を提案する。JSIW 内のPO40 は枯渇状態の表層PO40 との活発な混合を示し,JSIW は毎冬の更新が示唆された。その一方で,HSIW 内のPO40 はJSIW からの鉛直拡散の影響を受けて減少しつつも極大構造を維持していた。おそらく,HSIW を更新する大規模なオーバーターニングは間欠的にしか起こらず,その間隔は数年以上離れていることが推測される。
著者
佐藤 光秀
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-13, 2017-01-15 (Released:2018-09-20)
参考文献数
54

ピコ・ナノ植物プランクトンは外洋における主要な一次生産者であり,食物網の起点である。本論文ではピコ・ナノ植物プランクトンの組成と分布,栄養獲得,被食過程について著者らが行ってきた研究の内容と成果を概説する。はじめに,フローサイトメトリーにより代表的なピコ・ナノ植物プランクトングループの分布やサイズ組成を明らかにし,その生理的な特徴や環境因子と分布を関連づけた。つづいて,ピコ・ナノ植物プランクトンが多様な群集組成を呈する要因の一つとしてリンや鉄の利用に着目し,特に,外洋域で重要となる有機態リンと有機配位子に結合した鉄の利用について現場での実験をもとに新知見を得た。また,植物プランクトン群集を形作る要因としての被食過程に着目し,サイズ分画から植物プランクトンの被食速度を見積もる手法を開発した。これらの結果から,外洋,特に貧栄養海域におけるピコ・ナノ植物プランクトンの特徴的な栄養獲得戦略を明らかにした。
著者
諏訪 僚太 中村 崇 井口 亮 中村 雅子 守田 昌哉 加藤 亜記 藤田 和彦 井上 麻タ理 酒井 一彦 鈴木 淳 小池 勲夫 白山 義久 野尻 幸宏
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-40, 2010-01-05 (Released:2022-03-31)
参考文献数
103

産業革命以降の二酸化炭素(CO2)排出量の増加は,地球規模での様々な気候変動を引き起こし,夏季の異常高海水温は,サンゴ白化現象を引き起こすことでサンゴ礁生態系に悪影響を及ぼしたことが知られている。加えて,増加した大気中CO2が海水に溶け込み,酸として働くことで生じる海洋酸性化もまた,サンゴ礁生態系にとって大きな脅威であることが認識されつつある。本総説では,海洋酸性化が起こる仕組みと共に,海洋酸性化がサンゴ礁域の石灰化生物に与える影響についてのこれまでの知見を概説する。特に,サンゴ礁の主要な石灰化生物である造礁サンゴや紅藻サンゴモ,有孔虫に関しては,その石灰化機構を解説すると共に,海洋酸性化が及ぼす影響について調べた様々な研究例を取り上げる。また,これまでの研究から見えてきた海洋酸性化の生物への影響評価実験を行う上で注意すべき事項,そして今後必要となる研究の方向性についても述べたい。
著者
川合 英夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.333-339, 2001-07-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
42

「朝鮮」を「解」と略した「東鮮暖流」「北鮮寒流」という海流名は, 民族差別と闘う連絡協議会によって1991年に「日本の植民地時代以来の差別的な表現」だと見なされ, 文部省 (1992)『学術用語集』から削除された。本報では約30編の文献を精査して「東鮮暖流」「北鮮寒流」は宇田 (1934) に,「西鮮海流」は野満 (1931) に,「北鮮暖流」は日高 (1943) に, 初記載があったことを突き止め, これら海流名の扱い方を考える。平 (2000) が提案した「東朝鮮暖流」「北朝鮮寒流」を取りあえず代替語とする。ただ「東朝鮮暖流」は今後よく使われそうなのに, 口頭では多音節で冗長だから,「東の鮮やかな暖流」の意味を併せもつ「東鮮暖流」という海流名が22世紀またはそれ以降, 朝鮮民族のご了承を得て復活することを希望する。野満 (1931, 1942a, b) が本文では「西朝鮮海流」を, 海流図では「西鮮海流」を用いていた事実は, 海流略称はもともと図面空間節約のため生じたもので, 差別意識とは無関係であった証しである。
著者
羽角 博康
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.25-39, 2001-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
35
被引用文献数
1 1

海洋大循環モデルが実用化されてから30年ほどが経過し, 多くの人々によって全球規模の海洋モデリングが行なわれるようになった。観測が困難な深層海洋の循環を再現してその物理的メカニズムを探るという目的において, あるいは海洋の変動予測という目的において, 海洋大循環モデリングの重要性はますます高まっている。一方, それらの目的に対して満足のいくモデリングという意味ではいまだにいくつもの問題が存在する。そこで, 現在の海洋大循環モデリングが抱える問題点をまとめ, 今後いかなる点に関しての発展が求められているかを概説する。
著者
安藤 晴夫 柏木 宣久 二宮 勝幸 小倉 久子 山崎 正夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.407-413, 2003-07-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
7
被引用文献数
15 20

1970年代から月1回実施されている公共用水域の水質モニタリングデータを用いて,東京湾全域の表・底層水温の長期的な変動傾向を月別に検討した。その結果,水温の長期変動傾向は季節により異なり,概ね5月~8月には下降傾向,10月~3月には上昇傾向が認められた。また,地域的にも傾向が異なり,外洋水の湾内への流人経路と考えられる湾南西部の海谷に沿う地点で特にこうした上昇・下降傾向が顕著であった。外洋水の水温は湾内の海水に比べて夏季には低く,冬季には高いことから,湾内への外洋水流入量が長期的には増加傾向にあると仮定すると,こうした傾向をよく説明できる。
著者
池田 勉
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.173-180, 1978-08-30 (Released:2011-06-17)
参考文献数
27
被引用文献数
2

This paper reviews the author's research on metabolic activities of marine zooplankton for which the Okada Prize of the Oceanographical Society of Japan was awarded in 1978. The term metabolic activities used here refers to various physiological rate processes of zooplankton, such as respiration, excretion, feeding and growth.On the basis of experimental data obtained by the author and other workers, it is emphasized that all these rates are power functions of the body weight of zooplankton. In other words, the weight specific rates (rates per unit body weight) increase with a decrease in body weight. The habitat temperature of zooplankton can also affect the level of these rates.The relationship between these rates and body weight established experimentally can be applied to the estimation of the total rates of a zooplankton community in the field, by knowing the size distribution of individual zooplankters. The feasibility of this method was tested with the zooplankton community in the Kuroshio region.Finally, the potential importance of microzooplankton in total zooplankton respiration was suggested, based on respiration rate data recently obtained in the author's laboratory.
著者
川合 英夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.181-203, 1994-06-30 (Released:2008-04-14)
参考文献数
102
被引用文献数
1

After the national isolation policy was established in 1639, the building of large ships and ocean navigation were prohibited in Japan. Thus, it is difficult to find old books describing the Kuroshio. By searching and deciphering early books, however, I have found some historical descriptions and illustrations about the Kuroshio. By examining these records, coupled with records in the Western books, I have reached the following conclusion. The term "Kuroshio" originated from a local word "Kurose River", used within inhabitants of the Izu Islands, which indicated a branch of the actual Kuroshio flowing over the Izu Ridge. About 1800 it became meaning the Kuroshio south of the Tokaido District, and became popular among Japanese people by the fashion of publishing maps, local geography, accounts of trips and novels. However, a view of fragmental currents at that period might interrupted the recognition of the Kuroshio as a long current. From the end of the 18th century to the mid 19th, the Western collected information about Japan's geography published by the Japanese and made surveys and analyses of the Kuroshio on the occasion of cruises to ask for establishment of commercial relationship with Japan. Before the Meiji Restoration (1868), the term "Kuroshio" had already turned to an international word, which meant the entire Kuroshio, by the international diffusion of information about the Kuroshio. However, the undersanding of the Kuroshio by the Japanese was not practical as shown in Kanrin Maru journals by them.
著者
岡崎 裕典
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.51-68, 2012-03-15 (Released:2019-09-01)
参考文献数
83
被引用文献数
1 1

海洋深層循環は,膨大な熱と二酸化炭素などの物質の輸送を担い,10年から1000年オーダーの気候変動に中心的な役割を果たしている。本稿では,最終氷期以降の海洋循環変化のなかで,最終退氷期に一時的に北大西洋に代わって北太平洋が深層循環の沈み込みの起点となったことを示し,その成立メカニズムと当時の気候に与えた影響を概説する。また,古海洋研究の重要課題である氷期炭素リザーバー探索に向けた今後の展望を述べる。
著者
寄高 博行 花輪 公雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.107-128, 2020
被引用文献数
1

<p>水準測量の2000年度平均成果を用いて,外洋に面する全国の沿岸で,東京湾平均海面基準の1998年から2007年までの10年間の平均水位分布を求めた。1969/1972年度平均成果によるものとの大きな違いは,九州沿岸で18~36 cm,四国沿岸で10~24 cm平均水位が高いと見積もられたことである。その結果,北海道を除く九州・四国・本州の沿岸は,10年間の平均水位が空間的にほぼ一様な4つの区間に分けられた。これらの4区間は,平均水位の高い順に,東シナ海・日本海沿岸,潮岬以西の太平洋沿岸,潮岬以東の本州南岸,そして本州東岸である。4つの区間の4つの境界における水位差は,流れが接岸する岬付近に集中して生じていた。北海道沿岸の10年平均水位も,日本海側の方が太平洋側よりも高く,その水位差は流れが接岸する岬付近に集中していた。本州沿岸と北海道沿岸の10年平均水位差は,日本海側,津軽海峡内ともに14 cmであった。本州沿岸と北海道沿岸の水位差は11月がピークとなる季節変動を示すが,津軽海峡周辺の5つの岬を挟む水位差は,津軽海峡通過流・津軽暖流の岬付近での流速の季節変動を反映して,それぞれ異なる季節変動を示していた。九州・四国・本州南岸では,本研究で扱った期間に生じた2回の黒潮の大蛇行開始時に,黒潮の分枝流が潮岬よりも東の岬へ接岸し,潮岬以東の水位が上昇して非大蛇行時よりも高くなった状態が数か月続いていた。その後,黒潮の分枝流が岬から離岸し,潮岬以西の水位が潮岬以東の水位と同じように下がり,非大蛇行時よりも低くなるという変化をしていた。</p>
著者
松山 優治 青田 昌秋 小笠原 勇 松山 佐和
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.8, no.5, pp.333-338, 1999-10-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
17
被引用文献数
8 13

Seasonal variation of Soya Current along the Hokkaido coast in the Sea of Okhotsk was investigated both by the long-term current record obtained at the moored station off Sarufutsu and adjusted sea level record at the tidal stations along the Hokkaido coast. The current record shows significant seasonal variation, i.e., strong in summer and weak in winter. The current variation is closely correlated with the sea level difference between by high sea level in the Japan Sea compared with that in Sea of Okhotsk, while the weak current in winter is due to small difference of the sea level between both seas. This fact strongly depends on the unique seasonal variation of the sea level along the Hokkaido coast in the Sea of Okhotsk, i.e., maximum in winter and minimum in spring. The high sea level in winter is retained by the low salinity water in the subsurface layer of the southern part of the Sea of Okhotsk (Ito, 1997) and found along the southern coast of Hokkaido. The interannual variation of sea level along the Hokkaido coast in the Sea of Okhotsk in winter correlates with the Monsoon-Index (MOI) variation defined as difference of atmosphere pressure between Irkutsk in Russia and Nemuro in Hokkaido.
著者
植松 光夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.35-45, 2013-03-15 (Released:2019-03-22)
参考文献数
44
被引用文献数
1

大気と海洋間での生物地球化学的相互作用や,その応答は,気候や環境の変化を引き起こしたり,引き起こされたりする.私は地球規模の物質循環の観点から,海洋大気エアロゾルの化学組成変動とその挙動,そして海洋への影響について研究してきた.アジア大陸に起源を持つ鉱物粒子や人為起源エアロゾルが,北太平洋上へ春季を中心に広く輸送され,地球規模の気候変化の放射収支に影響を与えていることを示唆した.またエアロゾルが輸送されている間に海洋大気境界層内で生じている化学的,物理的変質過程や除去過程を明らかにした.海洋に沈着するこれらの物質が,海洋表層での化学的,生物的過程を通して,海洋生物活動に影響を与えていることを確かめた.一方,海洋大気エアロゾル化学組成が,海洋生物や物理環境によって変化することを示した.海洋と大気と気候間でのリンケージの定量的な理解を,さらに深化させるためには,海洋科学と大気科学の連携が不可欠である.