著者
升本 順夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.15-26, 2000-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
32
被引用文献数
1

西太平洋及びインド洋の熱帯域における海洋循環とその変動について,海洋大循環モデルを用いて行った著者の最近の研究を簡単に紹介する。特に西太平洋熱帯域に発達するミンダナオ・ドームの季節変動,インドネシア通過流に見られる年周期と半年周期変動,および南部熱帯インド洋の年周期強制ロスビー波を取り上げ,それらの発生機構を明らかにする。
著者
磯田 豊 村山 達朗
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.85-95, 1990-08-31

対馬暖流の分枝流の一つは南西日本海の日本沿岸に沿って存在し,地形性β効果によって海底斜面に制御された定常流である。我々は浜田沖の大陸棚を対象海域とし,成層期である1988年8月5日・10月31日,非成層期である1989年1月30日・3月27日の計年四回のSTD及びADCP観測を行った。浜田沖の底部冷水の存在は一年中認められ,成層期にその低温化の傾向は強くなることがわかった。日本沿岸に沿った対馬暖流はこの底部冷水の存在領域によく対応し,二分枝化の傾向を示している。すなわち,第一分枝流は底部冷水の南限から沿岸域にかけて存在するほぼ順圧的な流動構造を持っている。一方,第二分枝流は陸棚縁上に位置し,傾圧的な流動構造を持っている。特に注目すべき流動構造の特徴は,これら両分枝流の間に下層の底部冷水に近づくほど顕著な反流域が存在している点である。
著者
松山 優治 当麻 一良 大脇 厚
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.63-74, 1990-08-31

東京湾の青潮の発生と伝播に関する数値実験を行った.観測に依れば,青潮は成層期に下層の貧酸素水が表面近くまで上昇することにより起こり,下層水の湧昇には北よりの風が寄与しているとされている.実験では湾奥から湾口に向かう風(北東風)を与えた時,千葉県側の湾東部と湾奥部に湧昇が現れ,風が止むと湧昇域は沿岸に沿って反時計周りに移動することが示された.また移動速度は内部ケルビン波の位相速度と一致していた.風の連吹時間を長くすると,湧昇は強くなるが,風の止んだ後の湧昇の移動速度は変わらない.また,夏季に比べて初秋は北よりの風の頻度が増えること,さらに成層が弱くなることから,湧昇が起こり易く,移動速度も遅いことから青潮に長時間さらされる湾奥の千葉や船橋では被害は大きくなることが解った.
著者
大西 広二
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

北太平洋中央部の亜寒帯海域において,北海道大学のおしょろ丸によるCTD観測が毎年6月の下旬に行われている。1990〜1998年の9年間,180°の経度線に沿って,48°N〜51.2°Nの間に9観測点が設けられた。このデータセットを用いて,水温,塩分,密度,地衡流速(3,000m基準)についての平均断面図や標準偏差断面図などを作成した。さらにEOF解析を用いて断面構造における空間分布と時間変動の解析を行った。流速断面のEOF第1モード(寄与率37.6%)は,西向きのアラスカンストリームと東向きの亜寒帯海流の強弱を表わす空間分布を示した。このモードの振幅関数では,1991年と1997年に正の極大値を持ち,亜寒帯海流の東向き輸送量の変動とよい一致を示した。また,この変動は,Ridge Domainにおける深層水の湧昇の度合いが強く関与していることが示された。
著者
藤原 建紀 高杉 由夫 肥後 竹彦
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.38-46, 1989-08-31
被引用文献数
1

成層状態の内湾に風が吹くと躍層の深化・成層の崩壊・風が止んだ後の再成層化などの現象が起きる.水温・塩分・溶存酸素の自動観測装置を瀬戸内海の周防灘・播磨灘・大阪湾・江田島湾に長期間設置し,これらの現象を観測した.湾の長さが約60kmであり,上層と下層の密度差が5kg/m^3であった周防灘では,8〜12m/sの風によって,1日のうちに完全に成層が崩壊した.また風が止んだ後は,水平的な密度勾配による密度流が起き,約1日で再び成層状態にもどった.底層に及ぶ上下混合が強風によって起こされる頻度は,周防灘・播磨灘・大阪湾・江田島湾において,それぞれ4回/2月,3回/1月,0回/1月,0回/2.2月であった.
著者
和久 光靖 橋口 晴穂 栗田 貴代 金子 健司 宮向 智興 青山 裕晃 向井 良吉 石田 基雄 鈴木 輝明
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-17, 2011-01-05
被引用文献数
4

顕著な貧酸素水の発生源となり周辺の浅場生態系に致命的な打撃を与えている, 埋め立て用土砂採取跡地(浚渫窪地)およびその周辺海域における酸素の消費過程を解明するため, 主たる酸素消費物質である粒子状物質の沈降フラックスを測定した。2007年6月から2007年7月の間に計4回, 浚渫窪地の内外の3測点において, 浚渫窪地上面(CDL-3.5m)と浚渫窪地海底(CDL-6.9, -6.4m)に相当する深度にセディメントトラップを設置した。懸濁態炭素の沈降フラックス(PC flux)は, 0.35〜15.3gm^<-2>d^<-1>と観測日により大きく変動し, 膨大なPC flux(9.48〜15.3gm^<-2>d^<-1>)が-6.9, -6.4m層で観測された。膨大なPC fluxの観測時には, 浚渫窪地周辺の浅海域において, 浚渫窪地から湧昇した貧酸素水に起因すると推察される底生生物の大量へい死と, そこから浚渫窪地内部への海水流入が認められた。観測されたPC fluxを上方からの沈降成分と, 水平輸送に由来する成分へ仕分けた結果, 膨大なPC fluxの観測時, 水平輸送成分は, 多いときには上方からの沈降成分の7〜11倍に相当した。これらのことから, 浚渫窪地周辺の浅海域での底生生物の大量へい死に伴い激増した粒子状物質が, 海水の流動によって浚渫窪地に輸送された結果, 膨大なPC fluxがもたらされたと考えられた。このように, 浚渫窪地は, 窪地内部の貧酸素水に起因する周辺浅海域の底生生物のへい死を招き, 浚渫窪地へ膨大な量の粒子状有機物の集積を引き起こし, 貧酸素化を加速すると示唆された。
著者
佐藤 義夫 林 淳子 西森 真理 小野 信一 竹松 伸
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.193-204, 2000-07-05

海水(Mn~2+:約50ppm;pH:約8.0)中でバクテリアの媒介によって生成するマンガン酸化物鉱物を, いろいろなマンガン酸化バクテリアと海水の組み合わせを用いて調べた。その結果, hydrohausmannite, feitknechtite(β-MnOOH), manganite(γ-MnOOH), unnamed MnO_2 mineral(JCPDS Card:42-1316)および10Å manganate(buseriteあるいはtodorokite)が生成したが, マンガン酸化物が生成しない組み合わせもかなり存在した。バクテリアのマンガン酸化活性が高いときには, 酸化状態の高いMn(IV)酸化物が, それが低いときには, Mn(III)酸化物が, それぞれ生成した。各鉱物は, 中間物質を経ることなく, Mn~2+の酸化によって直接生成したものと考えられる。海洋環境に存在するMn(IV)酸化物は, 純粋な無機的反応よりもむしろ微生物の媒介によって生成するものと考えられる。
著者
杢 雅利
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.489-498, 2005-07-05

西部北太平洋亜寒帯域および移行域に生息するハダカイワシ科魚類の優占種について日周鉛直移動様式を解析して, 典型的な日周鉛直移動を行なう種, 夜間の分布が表層と中層に分かれる種, 夜間の分布の上限が昼間の分布の上限よりも浅くなる種, 日周鉛直移動を行なわない種の大きく4つのタイプに分けられることを明らかにした。さらに, 生物量で優占するトドハダカ, コヒレハダカおよびセッキハダカの3種について摂餌生態および成熟について多くの新知見を得た。特に, 胃内容物の精緻な解析から, 日周鉛直移動が餌の豊富な表層への摂餌回遊であることを示した。これらの知見は, 夜間の表層での魚類マイクロネクトンによる餌料プランクトン消費量を見積もる実証的パラメーターを示したもので, さらに精度の高い水産資源管理モデルの構築だけではなく, 外洋における生物ポンプの生態学的な理解にも大きく貢献するものである。さらに, トドハダカについては初期成長および産卵生態を明らかにして, 本種が亜寒帯域と移行域の間で摂餌・産卵回遊を行なっていることを示した。
著者
日本海洋学会海洋環境問題委員会
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.601-606, 2005-09-05
被引用文献数
1

2001年, 日本政府は都市再生プロジェクト(第二次決定)において, 東京国際空港(以下, 羽田空港)の再拡張事業を選定し, 「国際化を視野に入れつつ羽田空港の再拡張に早急に着手し4本目の滑走路を整備する」方針を固め, 2002年6月, 「羽田空港を再拡張し, 2000年代後半までに国際定期便の就航を図る」ことを閣議決定した。4本目の新滑走路の位置を確定した国土交通省は, 2009年の完成を目指している。工期には約3年を要すため, 2006年春には着工の予定である。本事業の環境影響評価に関しては, 2004年11月28日に1か月間の環境影響評価方法書(以下, 方法書)の縦覧期間が終了し, 国土交通省は2006年の事業着工にむけ, 影響評価準備書(以下, 準備書)の作成段階に入っている。この事業計画は(図1), 羽田空港沖から多摩川河口域にかけて, 埋立と桟橋のハイブリッド構造の滑走路を建設するものである(図2)。こうした構造物の建設は, 東京湾の水域生態系に少なからぬ影響を与えることが考えられる。したがって, その環境への影響は時間をかけて慎重に論議され調査されなければならない。このことに照らせば, 方法書から準備書作成までの期間は, 環境影響評価を行うにはあまりにも短いように思われる。方法書に対する意見の提出期限(2004年12月13日)はすでに過ぎたが, 長年にわたり海洋の環境を調査・研究してきている日本海洋学会海洋環境問題委員会としては, 本事業の環境影響を最小限に止めることを切望し, 羽田空港再拡張事業における環境影響評価のあり方について特に見解を表明する次第である。

1 0 0 0 OA 慶長9年の津波

著者
三好 寿 佐藤 要 都司 嘉宣
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.174-180, 1989-06-25 (Released:2011-06-17)
参考文献数
7
被引用文献数
1

慶長9年 (1605年2月3日) の津波波源が, 2個分離型か, 1個合体型かは, 日本社会の直面する最重要問題のひとつである. 海洋学知識が普及していない時代には, 八丈島 (含・小島) の被害パターンが重要な鍵と考えられた.戦後の動乱期に, その情報が日本に入り, 貿易風による大波と津波の複合という重要考察が読み落され, 1946年のアリューシャン津波が超巨大津波と想定された情況に似る.筆者らは延べ8年間の, 八丈島をめぐる1月, 2月の季節風風向の統計を求め, 八丈島の被害パターンは, 非常に高い確率で, 季節風による大波に若干の津波が重なったものによるとして説明し尽されることを示した.これにより, 静岡県の多数の寺の過去帳が1605年2月3日の人命損失を記録していないことを, 分離型震源との結論の鍵と考えても後顧の心配がないことが示された.
著者
岡村 和麿 田中 勝久 木元 克則 清本 容子
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.191-200, 2006-03-05
被引用文献数
8

2002年および2003年の夏季に有明海奥部・中部域および諫早湾において,表層堆積物の含泥率,酸化還元電位,有機炭素量,全窒素量,クロロフィル色素量および有機炭素安定同位体比(δ^<13>C)を測定した。有機炭素量は,有明海奥部の鹿島沖泥質平坦地の六角川と塩田川に挟まれた干潟浅海域および諫早湾の小長井沖から湾中部にかけての海域において,高濃度(>18 mgC gDW^<-1>)を示した。クロロフィル色素量は,有明海奥部の塩田川沖海底水道北部周辺海域および諫早湾の中部域において,高濃度(>100μg gDW^<-1>)を示した。δ^<13>Cは,有明海奥部の浅海域で低く(<-22.0‰),諫早干拓潮受け堤防付近を除く諫早湾と有明海中部域で高い値を示した(-21.0〜-19.4‰)。クロロフィル色素量およびδ^<13>Cの分布様式から,諫早湾では植物プランクトン起源の有機物が高濃度に堆積していることが推察され,実際に広い範囲で酸化還元電位が低下していることが観測された。潮流速の低下した諫早湾および諫早湾湾口の周辺では,赤潮植物プランクトン起源有機物の堆積により貧酸素水塊の頻発や慢性化が危倶される。
著者
首藤 伸夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.147-157, 1998-02-25
被引用文献数
1

最近,数値計算が発達したため,津波の事は全て判ったとの誤解が生じているようである.しかし,津波の実像を知る上で様々な難問題が残されている.まず,出発点である津波初期波形が一義的に決まらない.計算途上で不安定が起こり易く,また誤差の集積が結果の精度を落としかねない.計算結果の検証にあたっては,潮位記録にはフィルターがかかっている事,津波痕跡は往々にして大きい値のみが測定されており良い検証材料とは言えない場合もある事,等の問題がある.我が国の津波対策は,3つの方策を組み合わせて行われる.ハードな対策としての構造物,ソフトな対策としての防災体制,そして防災地域計画である.
著者
関根 義彦 川股 信一 佐藤 裕一
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.190-196, 1992-02-29

伊勢湾の沿岸フロントについて1989年12月および1990年11-12月にCTDによる断面観測を行った.1989年12月の観測は海底までの混合層が形成された後に行われ,知多半島の南と神島東の2つの場所に水温・塩分フロントが観測された.神島東のフロントでは密度の極大が認められた.1990年11-12月の観測は台風28号の到来前後に行われ,わずか3日の間に海況の大きな変化が認められた.特に台風に伴う河川水の流出で湾奥部の低塩分化が著しく,低塩分水が幾つかの塩分躍層を形成しながら沖側に拡散していく過程が観測された.神島東は1989年12月と同様に水温・塩分フロントが認められ,台風の影響が小さい前半の観測では密度の極大域が確認された.また,観測中木屑が20-40m程度の間隔で列をなして海面に浮いている様子がこのフロント域で目視されており,密度の極大域の形成と考え合わせて,このフロントは熱塩フロント的性格が強いことが示唆された.
著者
磯田 豊 村山 達朗 玉井 孝昭
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.197-205, 1992-02-29

1989年7月28日から8月9日の13日間,山陰沖大陸棚上で流速計の係留観測とCTD及びADCPを用いた観測を行った.流速計は陸棚上の沿岸側と沖合い側,約45km離れた二ヵ所に設置された.この流速観則期間中,山陰沖海域一帯には台風接近に伴ってほぼ定常な北東風が連吹していたにもかかわらず,観測された流速や水温記録には5〜6日周期と2〜3日周期の二つの周期帯の変動が現れた.5〜6日周期の流速楕円は岸沖方向に設置された両観測点で逆位相・逆回転の変動,2〜3日周期の流速楕円は岸沖方向でほぼ同様な変動を示した.このような各周期変動の岸沖構造の違いは,第1モード(2〜3日周期)及び第2モード(5〜6日周期)の陸棚波が一様な風の強制によって同時に励起された可能性を示唆している.
著者
松山 優治 岩田 静夫 前田 明夫 鈴木 亨
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.4-15, 1992-08-29
被引用文献数
3

相模湾では時々,急潮が発生し,沿岸に設置された定置網に破損・流失という甚大な被害を与える.本研究では急潮を三例紹介し,その特徴について報告する.二例は沿岸域で急激な水温上昇と水位上昇を伴い,岸を右に見ながら湾を反時計回りに移動することが示された.観測点間の上昇の時間的なズレから,水温変化の移動速度は0.6〜1.0m/sで,水位変化の移動速度は2.0〜3.0m/sと推算された.二例のうち一例(1975年4月23日の急潮)は,黒潮の相模湾への接近が原因と考えられた.他の一例(1988年9月18日の急潮)は台風通過に伴うエクマン輸送で沖合水が沿岸に蓄えられ,それが移動したと推論された.発生原因は異なるが伝播特性は非常によく似ており,水温変化は非線形の内部ケルビン波あるいは回転系での沿岸密度流として,また水位変化は陸棚波の移動として考えると説明ができる.もう一例は反時計回りの循環流に半日周期の内部潮汐が重なって強い流れとなって,網の流失を引き起こした.最大流速は0.8m/sを越え,60m深での水温変化の全振幅は8℃にも達した.
著者
乗木 新一郎 海老原 真弓 工藤 純子
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.205-217, 2000-07-05
被引用文献数
2

1995年12月から1996年12月の一年間, 東京湾湾口部の水深890mの790m層で時間分画式セジメントトラップを用いて沈降粒子を集めた。全粒子束は5-65g m~-2day~-1であった。粒子中の全二酸化ケイ素, アルミニウムそしてマンガンの濃度は, それぞれ, 47-62%, 4.4-7.3%, 800-1400ppmであった。春季から秋季にかけて, 陸源粒子束と生物起源二酸化ケイ素粒子束が増大したことによる全粒子束の極大が, 5回観測された。その時, 丁度東京湾上を台風または低気圧が通過していた。二つのことが考えられる。一つは, 表層堆積物の舞い上がりによる粒子の再移動であり, もう一つは, 台風の通過によって成層化が崩れて栄養塩の豊富な亜表層の海水が表面に出てきて, その後の日照時間の増加によってプランクトン増殖が促進されたことによる一時的な生物活動の増大である。また, 東京湾中央の表層堆積物には正のガドリニウム異常があったが, 沈降粒子には異常が見られなかった。このことから, 粒子が東京湾湾口の海底斜面に沿って外洋へ移動する経路があることを明らかにした。
著者
洪 鉄勲 尹 宗煥
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.1, no.5, pp.225-249, 1992-10-26

The effect of typhoon on the sea level variations at three tidal stations in Pusan, Izuhara, and Hakata in the Tsushima / Korea Strait is studied by using hourly sea level data and numerical experiments. The characteristic features of the sea level variations at these three tidal stations are found to be: (1) the existence of the time-lag between the maximum sea levels at these stations (2) the persistence of the high sea level at Pusan for about a week even after the passage of the typhoon and (3) the occurrence of oscillations with a period of about 2.5 days after the passage of the typhoon. The results of the numerical shallow water experiments with the high resolution (1/12^0 × 1/12^0) explain well the observed features of the sea level variations at three stations above. The time-lags between the maximum sea levels are caused by the difrerent response of the sea levels at each station to the typhoon. In Pusan and Izuhara, the sea level responds isostatically to the atmospheric pressure as the typhoon approaches to these stations, while in Hakata, there develops the southwestward coastal flow which is driven by the southwestward wind accompanied by the typhoon and cancels the increase of the sea level due to the isostatic response to the atmospheric pressure by the typhoon. The high sea level at Pusan after the passage of the typhoon may be maintained by the southwestward coastal current along the south Korean coast which is driven by the large scale cyclonic eddy formed in the Japan Sea by the typhoon, although the duration in the model is shorter than the observed one. The oscillation of about 2.5 days period after the passage of the typhoon seems to be a basin scale oscillations due to the propagation of Kelvin wave generated by the typhoon.
著者
武岡 英隆 速水 祐一 兼田 淳史 松下 太郎 紀本 岳志 渡辺 浩三 藤川 淳一
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.91-97, 2001-02-23
被引用文献数
1

夏季の瀬戸内海には外洋から栄養塩が流入しているため,外洋の大規模な海洋循環の変動が瀬戸内海の栄養塩環境に影響を与える可能性がある.このような問題意識に基づいた,我々のいくつかのモニタリング計画を紹介した.中でも重要なのは,佐田岬先端部に設置した栄養塩などの自動監視システムによるモニタリングである.このシステムは,2000年3月に設置され,水温,塩分,pH,溶存酸素,クロロフィル蛍光,硝酸態窒素,アンモニア態窒素,リン酸態リン,珪酸態珪素,動物プランクトン数を1時間毎に測定している.
著者
高橋 鉄哉 藤原 建紀 久野 正博 杉山 陽一
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.9, no.5, pp.265-271, 2000-09-05
被引用文献数
11

1985-1992年に三重県が行った浅海定線調査のデータおよび京都大学が1997年9月2日に行った調査のデータを用いて, 伊勢湾において外洋系水が湾内へ進入する深度の季節変動を調べ, 湾内に形成される貧酸素水塊との関係を調べた。その結果, 外洋系水は, 4月から10月には中層より進入し, それ以外の季節には底層より進入すると推測された。外洋系水の進入深度の季節変動は, 湾内水と外洋系水の密度の季節変動が異なることによる。この進入深度の季節変動が, 貧酸素水塊の消長に寄与する可能性がある。