著者
呉 碩津 松山 幸彦 山本 民次 中嶋 昌紀 高辻 英之 藤沢 邦康
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.85-95, 2005-08-26
被引用文献数
5

過去30年間の瀬戸内海における主要赤潮構成種を概観すると,珪藻類やラフィド藻から有害・有毒な渦鞭毛藻へと遷移してきている.1980年から行政の指導の下で取り組まれてきた沿岸域へのリン負荷削減の結果,瀬戸内海などの閉鎖性海域では溶存態無機リン(DIP)濃度が低下し,溶存態無機窒素(DIN)との比(DIN:DIP比)が顕著に上昇してきている.同時に植物プランクトンが利用するリン源として溶存態有機リン(DOP)の重要性が増し,これを利用可能な渦鞭毛藻が増殖するようになってきたと考えられる.本論文では,そのような一連の現象について,既存の知見と新しいデータを交えながら考察した.
著者
芳村 毅 工藤 勲
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.185-193, 2003-03-05
被引用文献数
2

河川から噴火湾への栄養塩負荷量を明らかにするために,噴火湾に流人する8河川および発電所排水路1か所において,流量および栄養塩濃度を一年にわたり観測した。その結果,河川流量は雪解け時の4月に特異的に高い明瞭な季節変化を示した。また,河川水中の栄養塩濃度は河川によって大きく異なったが,全河川の加重平均濃度は硝酸塩が24μM,アンモニウム塩が2.9μM,リン酸塩が0.30μM,ケイ酸塩が270μMであり. DIN:DIP比が非常に高いことが明らかとなった。河川から噴火湾への一年間の淡水負荷量は2.1×10^9m^3であり,溶存無機窒素,リン酸塩,ケイ酸塩負荷量はそれぞれ57×l0^6mol,0.6.3×10^6mol. 570x10^6molだった。これらの栄養塩負荷量が噴火湾の基礎生産に与える影響は総生産を考慮した場合は非常に小さなものだった。しかしながら,新生産を夏期のリン酸塩の減少量から見積もった結果,河川由来の栄養塩が噴火湾の夏期の新生産の最大10%を支えていることが明らかとなった。
著者
岸野 元彰 古谷 研 田口 哲 平譯 享 鈴木 光次 田中 昭彦
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.537-559, 2001-11-01

海水の光吸収係数は, 海洋の基礎生産や海色リモートセンシングの研究において重要なパラメータの1つである。今まで, その測定法について多くの提案がなされてきた。本稿は, まず吸収係数の定義を明確に定義し, その海洋学における意義を述べた。引き続き, オパールグラス法, グラスファイバー法, 光音響法, 積分球法の原理を述べると共に問題点を挙げた。また, 採水処理しなくて済む現場法についてその原理と問題点をまとめた。引き続き吸収係数の組成分離法について直接分離法と実測値から求めた半理論的分離法を紹介した。最後に人工衛星によるリモートセンシングによる推定法に言及した。
著者
堤 裕昭 木村 千寿子 永田 紗矢香 佃 政則 山口 一岩 高橋 徹 木村 成延 立花 正生 小松 利光 門谷 茂
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.165-189, 2006-03-05
被引用文献数
6

有明海では,近年,秋季から初冬に大規模な赤潮が発生し,ノリ養殖漁業に大被害をおよぼしている。水産庁九州漁業調整事務所がまとめた過去の赤潮記録を用いた解析によって,冷却期(10月〜12月)に有明海で発生した赤潮は,1998年以降規模が急に大型化したことが判明した。しかし,赤潮の大規模化を招くような陸域からの栄養塩流入量の増加は,有明海奥部に注ぐ一級河川からの栄養塩負荷量や有明海沿岸での公共用水域水質測定の過去のデータには見られない。本研究では,2002年4月〜2003年4月に,有明海で全域にわたる精密な隔月水質調査を行なった。奥部では7月および10月〜12月において,流入した河川水が表層の塩分を低下させて成層化し,その表層で栄養塩濃度が急上昇して,大規模な赤潮が発生していた。2002年4月〜5月の諫早湾潮受け堤防の開門操作期間には,島原半島側に顕著な湾口流出流が観測された。本研究の調査結果は,1997年の潮受け堤防締めきりが有明海奥部の河口循環流を変化させ,塩分の低下した表層水を湾外へ流出し難くして,1998年以降,毎年冷却期に奥部で大規模な赤潮を起こしてきたことを示している。
著者
梶浦 欣二郎
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

本学会名誉会員増澤譲太郎博士は2000年8月29日に享年77歳で亡くなられました。博士は東京帝国大学地理学科を卒業後,1946年に中央気象台(現気象庁)に就職,諏訪湖の研究に着手されました。その後,気象定点観測船による黒潮観測資料の解析に従事され,1954年以降,凌風丸による東北海区の黒潮続流の観測を指揮して,黒潮の実体解明に貢献されました。1962年から2年間,米国に留学してモンゴメリ教授の指導を受け,帰国後,亜熱帯モード水の研究を発表。黒潮協同観測(CSK)では,137°E定線観測計画を策定されました。1976年に日本海洋学会賞を受賞。1980年から3年間は気象庁長官,定年退官後は東海大学海洋学部教授,1987年から2年間は日本海洋学会長を務められました。謹んで哀悼の意を表します。
著者
井関 和夫 岡村 和麿 清本 容子
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-37, 1998-08-25
被引用文献数
1

MASFLEXプロジェクトの一環として,東シナ海のPN線を中心とした陸棚,陸棚斜面,沖縄舟状海盆,及び隣接外洋域において粒状懸濁物,濁度の分布を調べると共に,セディメントトラップ,濁度計,流速計の短期・長期係留実験を実施した.その結果,クロロフィル,生物起源粒状珪素等の分布から陸棚における植物プランクトンの春季増殖,及び長江沖の高生産力域が明瞭に示された。一方,陸起源粒状珪素,濁度等の分布から,夏季・秋季の陸棚における海底高濁度層の顕著な発達と冬季鉛直混合による内部陸棚域での活発な再懸濁過程が明らかとなった.沖縄舟状海盆の中・深層における粒子フラックスは,陸棚上の季節風変動パターン,台風等との関連が示唆され,陸棚斜面域における粒子フラックスは内部潮汐の影響を大きく受けていることが示された.これらのことから,沖縄舟状海盆の中・深層における粒子フラックスは,海盆表層からの鉛直輸送よりは主に陸棚からの水平輸送によるものと推察された.また,陸棚域における粒子フラックスと基礎生産量との比較から,基礎生産量の5〜20%程度が沈降粒子として有光層下に運ばれていることが明らかとなった.
著者
岩坂 直人
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.197-211, 2009-05-05

太平洋の気象観測ブイの計測値を用いて,海上気温の平均的な日変化について調べた。平均的な気温日変化は,地方時5時前後に最低値,15時から16時頃に最高値を取り,日較差は0.3〜0.8K程度であった。大気潮汐が顕著な海域では午前の昇温が強調され,逆に午後の最大は多少抑制される。しかし,そのような平均的日変化が日々の気温の日変化を代表するのは,赤道域中央,東部など天気の安定している海域だけである。赤道太平洋西部や中高緯度の海域では活発な対流活動や総観規模擾乱,季節内振動などに伴う温度変化と思われる変動が卓越し,一日の最高,最低気温の差は平均的日較差より1桁大きい。なお,過去の研究でも指摘されているが,いくつかのブイの気温観測値には正のバイアスが午前と午後に現れていることが疑われ,その大きさは平均で0.1〜0.2K程度に及ぶ可能性がある。
著者
筧 茂穂 藤原 建紀 山田 浩且
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.527-540, 2005-07-05
被引用文献数
2

鉛直的・空間的に密に測定されたAOUのデータからの線形回帰, あるいは表層と底層の栄養塩濃度の線形補間によって栄養塩現存量を算出し, その季節変動を明らかにした。下層のDIN現存量は, 1,500〜2,600tの範囲で変動し, 夏季に高く, 冬季に低かった。上層のDIN現存量は, 下層に比べ, 夏季は低いものの冬季はほぼ同じであった。DIPの現存量はDINよりも明瞭な季節変動をし, 冬季には上下層とも200tであるのに対し, 夏季には上層は400t, 下層では800tにまで増加した。現存量の時間変化量と海水交換による栄養塩変化量の差から見積もった生物・化学的要因による栄養塩の変化量は, 物理的要因(海水交換)による栄養塩変化量よりも大きかった。夏季の上層では, クロロフィル濃度の増加と対応してDIN・DIPが減少する場合があるものの, 両者が完全に同調するわけではない。夏季の下層における生物化学的要因によるDIP変化量は正であり, 溶出の影響が大きいことが示された。一方で, DIPの吸着や, 一年を通じて脱窒が起こっていることもAOUとレッドフィールド比から示された。
著者
吉田 みゆき 高杉 由夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.123-135, 2001-03-05
被引用文献数
6

瀬戸内海という器は経済の高度成長に伴う埋め立て等によって大きく変形してきた。これらの地形変化が潮汐に及ぼす影響を見るため, 過去30年間の潮汐の経年変化を調べた結果, 半日周潮(M_2)の振幅は, 大阪湾で減少(約2.3cm), 瀬戸内海中央部の備讃瀬戸では大きく増加(約4cm), 周防灘奥部ではやや減少, その西端に位置する関門海峡では大きく減少(約5cm)していた。関門海峡では日周潮も変化しており, 振幅は減少(約1cm)し位相は遅れてきていた。これらについて一次元理論より考察した結果, 埋め立て・浚渫・架橋などの影響により瀬戸内海の固有周期が短くなり, 半日周潮の明石海峡付近の節は東へ移動し, その結果大阪湾では減少してきていた。
著者
倉本 敏克 南川 雅男
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, 2002-03-05

タイ南西沿岸域における堆積物中有機物の特徴を明らかにする目的で,陸上植物やマングローブ,河川や沿岸の懸濁態有機物(POM)および堆積物について,安定炭素・窒素同位体比を測定した。試料は,都市の隣接するトラン川流域と,目立った河川の流入がないムック島周辺地域で採取した。陸上植物や河川のPOMのδ ^<13>Cは,両地域で大きな差はなく-24‰以下の値を示した。これは,河川から流入する有機物がC_3植物の影響を強く受けており,δ ^<13>Cの高いC_4植物の影響は小さいことによると考えられる。一方,マングローブ,河川のPOMや堆積物のδ ^<15>Nは,トラン川地域で高い値を示した。これは,農耕や隣接する都市からの排水の流入など人間活動による影響により,トラン川の硝酸のδ ^<15>Nが高くなっている可能性を示唆している。本論文では,堆積物中有機物の起源として,陸上植物,マングローブ,沿岸のPOMに加え,すでにこの海域で測定値が報告されている海草を含めた4種のエンドメンバーを想定し,確率論的な計算を用いることにより両地域における寄与率の違いを明らかにした。その結果,堆積物中有機物の主要な起源と考えられたのは海草であり,トラン川地域で36%,ムック島地域で42%を占める。沿岸のPOMの寄与は,トラン川地域で高く(19%),ムック島地域では低い(13%)。陸上植物とマングローブの寄与はいずれも23%前後で地域による大きな差は見られなかった。
著者
三宅 裕志 山本 啓之 北田 貢 植田 育男 大越 健嗣 喜多村 稔 松山 和世 土田 真二 Hiroshi Miyake Hiroyuki Yamamoto Mitsugu Kitada Ikuo Ueda Kenji Okoshi Minoru Kitamura Kazuyo Matsuyama Shinji Tsuchida 新江ノ島水族館:海洋研究開発機構(JAMSTEC) 新江ノ島水族館 新江ノ島水族館 新江ノ島水族館 石巻専修大学 海洋研究開発機構(JAMSTEC) 海洋研究開発機構(JAMSTEC) 海洋研究開発機構(JAMSTEC) Enoshima Aquarium:Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology Center (JAMSTEC) Enoshima Aquarium Enoshima Aquarium Enoshima Aquarium Ishinomaki Senshu University Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology Center (JAMSTEC) Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology Center (JAMSTEC) Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology Center (JAMSTEC)
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.6, pp.645-651, 2005-11-05
参考文献数
9
被引用文献数
1 4

シロウリガイ類は深海から採集すると通常2, 3日しか生存せず, 飼育を試みた報告は皆無であった。本研究では, シロウリガイ類の飼育の試みとして, 良好な健康状態で採集し, かつシロウリガイ類の共生細菌のエネルギー源(泥中の硫化水素)を確保するために, 圧力以外の現場環境をできる限り維持した状態で採集する装置のMTコアを開発した。また, シロウリガイ類は高酸素濃度に弱いため, 溶存酸素濃度制御装置により低酸素濃度環境を維持する飼育システムを製作した。シロウリガイとエンセイシロウリガイをそれぞれ相模湾初島沖水深1,150m~1,160mの地点, 石垣島沖の黒島海丘の643mの地点で採集した。採集したシロウリガイは約1週間で死亡したが, 黒島海丘のエンセイシロウリガイは17日間生存した。また, エンセイシロウリガイでは2回放卵が確認された。以上のことから, エンセイシロウリガイは飼育が容易な種と考えられた。