著者
金澤 浩 浦辺 幸夫 岩本 久生 白川 泰山
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0475, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】腱損傷や腱断裂の術後などでは腱組織の伸張性の改善が求められる.その際のリハビリテーションではストレッチングを用いる場合が多いが,ストレッチングによって生じる腱組織の伸張量は明確ではない.腱組織の伸張を目的としたストレッチングを効果的に実施しようとする場合,実施時間と腱組織の伸張量との関係を知る必要がある.本研究の目的は,下腿三頭筋をストレッチングし,アキレス腱伸張量とストレッチング時間との関係を調査してアキレス腱の伸張に有効なストレッチング時間を決定することである.【方法】対象は下肢に傷害の既往がなく,特別なスポーツ活動を行っていない健康な成人女性40名とした.方法は,まずデジタル超音波診断装置(EUB-6500,(株)日立メディコ)とリニア型プローブ(EUP-L54MA,(株)日立メディコ)を用い,安静立位の超音波画像上で右の腓腹筋内側頭の筋腱移行部を確認し,その位置の皮膚にマーカーを付けた.また,踵骨隆起の位置を確認して皮膚にマーカーを付け,二点間の距離をアキレス腱長とした.対象は足関節最大背屈角度に設定されたストレッチングボード上で立位をとった.ストレッチング終了直後,再び安静立位でアキレス腱長を測定し,ストレッチング前後のアキレス腱長を比較した.ストレッチング時間は,1分,2分,3分,5分,10分の5種類とした.1回のストレッチングの影響が最長で4日間持続するという報告があることから,各測定の間隔を5日以上とした.測定は同じ時間帯に行い,実施時間の順序は無作為に選択した.本研究は,医療法人エム・エム会マッターホルン病院倫理審査委員会の承認を得て行った.【結果】安静立位のアキレス腱長の平均は182.4±23.1mmだった.ストレッチング後,アキレス腱は,1分で3.3±1.5mm,2分で6.6±2.1mm,3分で6.8±0.4mm, 5分で7.1±0.5mm,10分で7.4±0.5mm伸張され,1分と2分では有意に伸張されたが(p<0.01),それより長い時間では伸張量に差は認められなかった.【考察】10分のストレッチングでアキレス腱は平均7.3mm伸張された.久保ら(2006)は,足関節底背屈0°で底屈方向への等尺性最大随意収縮時の腱組織の最大伸張量は20歳代で14.4mmだったと報告した.腱組織はストレッチングよりも筋収縮によってさらに伸張される可能性を示しており,腱損傷後などのリハビリテーションで段階的なストレッチングを実施する際に示唆を与えるかもしれない.アキレス腱伸張量とストレッチング時間との関係については,ストレッチングを3分以上行っても2分のアキレス腱長と差がなかったことから,腱組織の伸張を目的としたストレッチングは2分間で十分であると考えられた.【まとめ】本研究の結果,アキレス腱の伸張を目的としたストレッチングは2分で有効であることがわかった.
著者
大平 功路 平賀 篤 田中 和哉 角田 信夫 山村 俊一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1068, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】身体運動において下肢関節では骨盤の動きを中心に運動連鎖が生じており、歩行時には骨盤・下肢関節に運動連鎖が生じていると考えられる。第39回、40回日本理学療法学術大会において、歩行時の骨盤回旋運動に左右差があることを報告した。骨盤の回旋運動に左右差があることで下肢関節にも骨盤の動きに対応した運動連鎖が起こり、下肢関節の動きにも左右差が生じていることが推測される。今回は歩行時の骨盤と股関節の動きに着目し、骨盤回旋運動と股関節屈伸及び内外転との関係について検討した。【方法】対象は健常成人9名(男性4名、女性5名)、年齢25.2±2.0歳である。測定課題は自由歩行とし、3次元動作解析システムVICON370(Oxford Metrics社)にて測定した。自由歩行の施行回数は各被験者につき3回とした。得られたデータより骨盤回旋角度、股関節屈伸角度、股関節内外転角度を算出した。解析は立脚期における骨盤の後方回旋角度を左右で比較し、後方回旋角度が大きい側の骨盤後方回旋角度、股関節伸展角度、股関節外転角度の最大値を求めた。比較・検討は同一被検者間で行い、3回の施行において骨盤後方回旋角度が最大である施行と最小である施行の2つの施行間で股関節伸展角度、股関節外転角度の各々を比較した。統計処理はSpearman順位相関を用い、最大と最小の2つの施行間において骨盤後方回旋角度、股関節伸展角度、股関節外転角度の各々について角度差を求め、骨盤後方回旋角度と股関節伸展角度、骨盤後方回旋角度と股関節外転角度の相関関係を調べた(有意水準5%)。【結果】股関節伸展角度では骨盤の後方回旋角度が大きくなると伸展角度が小さくなる者が9名中7名であった。股関節外転角度では骨盤の後方回旋角度が大きくなると外転角度が大きくなる者が9名中8名であった。骨盤後方回旋角度と股関節伸展角度、骨盤後方回旋角度と股関節外転角度共に相関関係は認められなかった。角度差は骨盤後方回旋角度では2.4±1.0°、股関節伸展角度では1.2±1.3°、股関節外転角度では2.1±1.4°となった。【考察】歩行における骨盤・股関節の運動連鎖は骨盤の後方回旋が大きくなると股関節の伸展角度は小さくなり、外転角度は大きくなることが示唆された。骨盤の後方回旋が大きい場合、外転角度が大きくなることより立脚側から遊脚側への重心移動は前外側への移動が大きくなり、蹴り出し機能が大きくなっていることが考えられる。骨盤の前方回旋が小さい場合は反対の動きが生じており、蹴り出し機能が小さくなっていることが考えられる。骨盤・股関節の動きに左右差があることは歩行における左右の機能が異なっていることを示唆しており、歩行分析においても左右の機能の違いを考慮した分析が必要であると考える。今回の検討では角度の最大値のみで検討を行なったが、他の歩行のパラメーターを用いた検討も今後の課題と考える。
著者
望月 沙紀 渡邊 昌宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-231_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】臨床において、下肢の神経徴候のない急性・慢性の腰痛症患者に対して大腿筋膜張筋とハムストリングスにストレッチを実施することで、疼痛の軽減だけではなく、姿勢や歩容の改善が即時的に得られると言われている。また、ストレッチにより筋を含めた組織柔軟性の維持・向上、筋運動疲労回復の促進、疼痛緩和、精神的リラクセーションが期待されると言われている。しかし、腰痛症患者の筋の柔軟性が腰痛に関わるかどうか明確になっていない。そこで、本研究の目的は筋の柔軟性と腰痛の関係を明らかにすることとした。【方法】対象者は、腰痛あり13名と腰痛なし11名の合計24名(20±2歳)の成人女性とした。医師の診断や主観的判断で神経症状、内科的疾患を示す場合は除外した。アンケートにて腰痛あり群となし群に分けた。その後、柔軟性テストにて伏臥位上体そらし(顎床間距離)、トーマステスト(床膝間距離)、体幹捻転(膝床間距離)、SLR(股関節屈曲角度)、エリーテスト(臀踵間距離)、立位体前屈(指床間距離)の順に測定を行った。次に柔軟性テストの順で対応する筋にスタティック・ストレッチを実施し、その直後に再度測定を行った。ストレッチは、各筋に対して30秒間保持、休憩10秒を挟み片側に対し計2回行い、反対も同様に実施した。解析には、実施後測定値から実施前測定値の差を計算し、柔軟性による変化を算出した。統計学的検討は、腰痛のあり群・なし群と各柔軟性テストの差に対応のないT検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】床膝間距離は腰痛のあり群がなし群に比べ、右はストレッチ介入後の測定差に有意差が認められ(2.56±1.72cm、P=0.066)、左には有意な傾向が認められた(2.70±1.98cm、P=0.022)。その他の筋の柔軟性に関しては腰痛のあり群となし群には有意差は認められなかった。【結論(考察も含む)】大腰筋は筋力低下により伸張されると骨盤後傾、腰椎後弯が生じ、短縮が生じると骨盤前傾、腰椎前弯姿勢が生じると報告されており、腰椎の過前弯・過後弯によって腰痛が生じることが明らかとされている。今回、腰痛がある場合には腸腰筋は伸張されやすかったことから、腸腰筋の短縮が認められていたと推察された。また、筋連結の観点から腰痛は腸腰筋と直接関連すると報告されている。これらのことから神経症状がない腰痛者は腸腰筋の柔軟性が低下しており、ストレッチ介入によって伸張されやすいと考えられた。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には、本研究の目的・意義および本研究で得られた情報は個人が特定できないように処理し、データと結果は研究目的以外に用いることが無いことを書面にて説明し、同意を得た。また、本本研究への協力は個人の自由とし、実験の途中でも不利益を受けることなくいつでも撤回できることを説明し実施した。
著者
小島 伸枝 杉本 寿司 谷本 智美 藤井 美穂 伊藤 俊一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-95_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【目的】 腹横筋,腰部多裂筋,骨盤底筋,横隔膜の筋が作用することにより腹腔の円柱効果が得られ,腰椎骨盤領域の支持性が高まるという諸家の報告がある.これらを背景に体幹の動的安定性トレーニングとして骨盤底筋群へ,または骨盤底筋群と腹横筋等の協調した収縮を得るための介入に関する報告は少なくない.一方骨盤臓器脱は妊娠・出産や繰り返される腹圧上昇課題によって骨盤内臓器を支持する靭帯や筋が脆弱化することで発症する疾患とされる.このことから骨盤底筋群の機能不全を背景とした骨盤臓器脱(以下POP)患者の多くが,腰椎骨盤領域の支持性が低下することで腰部疾患既往をもつと考えられるが,本邦における報告は少ない.そこで今回我々は重症POP患者の腰部疾患の既往歴を調査したため報告する. 【方法】 対象は平成28年4月1日から平成29年12月31日までにPOP手術目的で当院女性総合診療センターに入院した患者のうち,書面同意が得られた182名とした.対象の年齢,治療期間(当院女性総合診療センターの外来初診日から手術日),BMI,POPの診断名,既往歴を診療録から後方視的に調査した.尚既往歴は入院時に看護師が問診により聴取したものである. 【結果】 対象者の平均年齢は69.0±7.61歳,平均治療期間は165±359日(range2-2206日),平均BMI24.3±3.0kg/m2であった.POPの診断名は子宮脱+膀胱瘤が63名,子宮脱55名,膀胱瘤40名,直腸瘤7名,膀胱瘤+直腸瘤5名,子宮脱+直腸瘤4名,POPとその他の疾患合併が8名であった. 腰部疾患既往がある対象者は10.9%(20名)であり,のべ数で腰椎椎間板ヘルニア3.8%(7名;子宮脱+膀胱瘤4名,子宮脱4名),腰部脊柱管狭窄症3.2%(6名;子宮脱+膀胱瘤2名,子宮脱4名),腰椎症0.5%(1名;子宮脱+膀胱瘤),腰椎すべり症1.6%(3名;子宮脱+膀胱瘤1名,子宮脱+直腸瘤1名,子宮脱1名)であった.その他腰椎圧迫骨折は3.8%(7名;子宮脱+膀胱瘤3名,子宮脱4名),後縦靭帯骨化症0.5%(1名;子宮脱+膀胱瘤)であった.  【考察】 本研究の対象者は手術目的での入院であり,骨盤底筋群の機能が破たんした時点(手術適応時点)での定点調査において腰椎疾患を既往にもつ対象は10%に留まった.腰椎疾患は前屈障害,伸展障害いずれの傾向もなく,下垂臓器にも偏りは認めなかった.このことから骨盤底筋群のトレーニングを含む体幹動的安定性への画一的な介入は,未だ議論の余地があると考える.一方POP手術は術式によっては載石位をとるため,既往歴の聴取は術後トラブル回避により入念に行われるが,問診では非特異的腰痛を有する患者を抽出できていない可能性があり追加検討が必要と考えている. 【倫理的配慮,説明と同意】この研究は個人が特定できない方法で公開すること、途中で研究不参加の意思を表明しても患者の不利益にならないことを説明し、本人に対し書面で同意を得た。
著者
竹下 真弥 北口 拓也 佐藤 のぞみ 平林 伸治 堀部 秀二
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0522, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)損傷は男性に比べ女性の受傷率が4~6倍高く、受傷機転の70~80%が損傷者単独で行う非接触型損傷という特徴がある。女性の非接触型受傷率が高い要因の一つとして、膝周囲筋の筋バランス指標であるハムストリングス筋トルク/大腿四頭筋筋トルク比(以下H/Q比)が男性に比べ低値であることが関与するとの報告があるが、これはH/Q比に男女差があることを述べたもので、実際にH/Q比が非接触型ACL損傷の発生に関わるかを報告したものは少ない。そこで今回我々は、H/Q比が非接触型ACL損傷の危険因子となるのかを検討することを目的に、ACL損傷者の術前健側下肢が受傷時の患側の筋力や筋バランスを反映しているものと仮定し、接触型損傷者と非接触型損傷者の術前健側H/Q比を比較、検討し若干の知見を得たので報告する。【方法】2005年1月から2007年3月の期間に当院にてACL再建術を施行した症例の内、受傷時Tegner Activity Scaleが 6以上である女性68名を対象とし、受傷機転により接触群、非接触群に分類した。各群の内訳は接触群9名(平均年齢22.3±7.1歳)、非接触群59名(平均年齢22.4±9.8歳)で、両群に年齢、Tegner Activity Scaleの差はなかった。等速性筋力(角速度60deg/sec)をcybex6000にて測定し、術前健側の膝屈曲、伸展ピークトルクの体重比(%)とH/Q比(屈曲ピークトルク/伸展ピークトルク×100%)について、接触群と非接触群で比較した。統計学的処理はMann-WhitneyのU検定にて行い、危険率5%未満を有意水準とした。【結果】体重比は屈曲筋力が接触群112.5±24.8%、非接触群102.6±20.2%、伸展筋力は接触群211.0±27.5%、非接触群218.9±32.3%で両群間に有意差が見られなかったのに対し、H/Q比は接触群51.9±10.0%、非接触群46.9±7.7%で非接触群が有意に低下していた(p<.05)。【考察】今回の結果より、体重比には屈曲筋力、伸展筋力ともに差がなかったのに対し、女性の非接触型ACL損傷群のH/Q比は接触型より低値であることが明らかとなり、女性の非接触型ACL損傷は膝周囲の筋力ではなく、筋バランスが関与していることが示唆された。今後H/Q比の改善を目的としたリハプログラムの考案及び効果判定について検討する必要があると考えられた。また、今回の対照群は受傷機転が異なるもののACL損傷者であり、今後は健常者を対照群とした比較を行うことで、危険因子としてのH/Q比のカットオフ値を算出する必要があると考えられた。
著者
遠藤 雅之 大友 篤 小林 舞子 小野寺 真哉 伊達 久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1253, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】慢性疼痛は,3カ月間以上の持続または再発,急性組織損傷の回復後1カ月以上の持続,あるいは,治癒しない病変の随伴がみられる疼痛である。急性疼痛から慢性疼痛に移行する上で、局所的要因から生じたものが長期間経過することにより全体的要因に変化し、痛みを複雑化させてしまう。慢性的な痛みは、身体機能を低下、また、抑うつや不安を引き起こし、睡眠を妨げ、日常活動の多くを阻害しうるといわれている。 慢性疼痛を抱える人の約18%がうつ病を合併しているとの報告もある。うつ病になることで治療に対する意欲低下などの問題が生じ、理学療法などの治療に影響を与えることがある。痛みが長期化することで抑うつ傾向となり、更なる痛みの増悪につながってしまうといった痛みの悪循環を引き起こしてしまう。 慢性疼痛による腰痛関連機能障害は心理・社会的因子が深く関与しており、治療とリハビリに対する患者の反応に早期に影響を及ぼすといわれている。また、腰痛の発症原因に関する研究では、仕事の満足度や精神的ストレスなどの要因も腰痛の発症に影響しているとの報告がある。腰部疾患として臨床上、数多くの疾患がある。その中でも腰椎椎間板ヘルニアは現代病と言われており、10代から60代に多く、勤労者が占める割合が高いとの報告がある。今回、腰椎椎間板ヘルニアにおける罹病期間とうつ症状、NRSとうつ症状の関係を検討する。【方法】当院を受診し理学療法を施行した65歳未満の腰椎椎間板ヘルニア患者154名(男性81名 女性73名) 年齢(男性43.25±11.88歳、女性44.74±11.85歳)を対象に、自己評価抑うつ性尺度(SDS:self rating-depression-scale)、罹患期間、数値的評価尺度(NRS:numerical rating scale)、仕事の有無・合併症の有無・睡眠の質を測定した。罹患期間を短期群(≦12ヶ月) 中間群(13-36ヶ月) 長期群(37ヶ月≦)の3つに分類した。また、NRSも同様に低値群(0-5) 中間群(6-7) 高値群(8-10)に分類し、罹患期間・NRSをそれぞれ独立変数、SDSを従属変数とした共分散分析を行った。共変量は性別、年齢、合併症の有無、仕事の有無、睡眠の質とした。【説明と同意】本研究をするあたり、対象者に検査者が説明し理解を得られ同意を得た。【結果】罹患期間を3群に分けたときのSDSは短期群で76名(調整後平均値37.46[95%CI:35.64-39.28])であり、中間群で40名(40.47[95%CI:38.14-42.81])、長期群で38名(43.92[95%CI:41.24-46.60]) (傾向性p値=0.000)となり、罹患期間が長くなればSDSが上昇した。また、NRSを3部位に分けたときのSDSの低値群は52名(36.67[95%CI:34.50-38.84])であり、中間群は54名(40.98[95%CI:39.10-42.86])、高値群は48名(41.98[95%CI:39.31-44.65]) (傾向性p値<0.01)となり、NRSが高値になると、SDSが上昇するとことがわかった。【考察】本研究結果より罹患期間の長期化とうつ症状に有意差がみられ、また、痛みの強さとうつ症状にも同様に有意差がみられた。罹患期間の長期化と痛みの強さがそれぞれ、うつ傾向を高める要因であることが明らかになった。このことから局所的要因から生じたものが長期間経過することにより全体的要因に変化し、痛みとうつ症状を高めるといった慢性疼痛サイクルのような痛みの悪循環が生じていることがわかった。理学療法を施行する上で慢性疼痛患者自身の心理的側面を考慮する事が大切であると思われる。痛みが長期化・痛みの強さが増悪することで心理面の問題が強まり、理学療法の介入が困難になる。機能訓練を中心とする病院が多い傾向であるが、理学療法介入時には心理的側面などに対する他覚的所見へのアプローチも必要であると考える。慢性疼痛患者はうつ傾向にあり、痛みに対する訴えが強い。そのため、理学療法施行する際には、慢性疼痛患者が抱えている心理的な問題を考慮する必要がある。【理学療法学研究としての意義】慢性疼痛では、理学療法施行するにあたり、心理的側面の考慮が必要である。
著者
塚田 雅弘 新居 美紗子 明本 聡 山科 彩乃 池田 大佑 瀧内 敏朗
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0526, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】成長期腰椎分離症は椎弓の関節突起間部の疲労骨折と考えられており,その発生には活発なスポーツ活動が深く関わる。MRIによる早期診断が可能になったことで,骨癒合を目的とした保存療法の成績は向上しているものの,実際には治療期間すなわち運動離脱が長期に及ぶ者,またその期間の心身の負担に耐えられず骨癒合を放棄してドロップアウトする者も少なくない。近年,骨折治療に低出力超音波パルス(low intensity pulsed ultrasound:LIPUS)が使用されるようになり,疲労骨折への効果も報告されている。当院では2010年より本症に対して従来の理学療法とLIPUSの併用を開始し,これまでの治療期間を約40%短縮した事を報告した。また,治療期間の短縮にはLIPUSを用いた理学療法の実施頻度が関与する可能性を示唆したが,効果的な治療法を提示するには至らなかった。彼らが望む一日も早い運動再開には,固定や運動量の管理法,また受療とLIPUSの照射法などを具体的に提示し徹底させることが重要である。本研究の目的は,本症の治療期間に関わる因子を明らかにし,効果的な治療法を検討することである。【方法】対象は2013年1月から2014年9月までに初期の腰椎分離症(X線上分離を認めず,MRI T2強調像で椎弓根部に高信号変化を認める)と診断された18歳以下の84名88椎弓のうち,治療を完結した48名48椎弓(男性45名,女性3名,14.3±2.1歳)とした。2椎弓以上の分離4名,治療途中での脱落16名,定期通院中の16名は除外した。治療は外固定,運動量制限,運動療法,LIPUSを通院毎に1回20分(日本シグマックス社製アクセラス)に統一した。全対象者外来対応で,1ヵ月毎にX線,2ヵ月毎にMRIを撮影した。これ以外の通院に関しては患者自身が決定した。X線で分離がなく,MRI所見の消退が認められた時点でスポーツ完全復帰を許可し,ここまでを治療期間とした。すべての診断は同一整形外科医が行った。全対象者の治療期間中央値を境界に2群に分類し,年齢,性別,身長,体重,BMI,分離椎弓高位,分離椎弓根,腰痛自覚から診断までの週数(以下,診断週数),治療開始時および復帰許可時の柔軟性評価3項目(立位体前屈で指先接地の可否,腹臥位で殿部と踵部の接触可否,踵接地状態でのしゃがみ可否),治療開始1ヵ月時点でADL上の疼痛有無(以下,疼痛),診断から復帰許可までの治療回数,治療期間を治療回数で除して得られた日数(以下,治療間隔)を調査し比較した。また,治療期間を従属変数,群間比較で有意差を認めた因子を独立変数としてロジスティック回帰分析を実施した。さらに,ロジスティック回帰分析で抽出された有意な項目でROC曲線分析を行い,カットオフ値を求め,検査特性を算出した。有意水準は5%とした。【結果】全対象者の治療期間中央値は63.5日で,A群(男性24名,14.0±2.3歳,中央値59.5日,四分位範囲55.8-61.3日)と,B群(男性21名,女性3名,14.7±1.9歳,中央値122日,四分位範囲75.8-164.0日)に分類した。より早期に復帰を果たしたA群は,B群に比べ治療期間,治療間隔,診断週数が有意に短く,疼痛を有する者は有意に少なかった。ロジスティック回帰分析の結果,治療間隔(オッズ比0.67,95%信頼区間0.51-0.89,p<0.01)と疼痛有無(オッズ比5.19,95%信頼区間1.19-22.7,p<0.05)が有意に選択された(モデルχ2検定p<0.01)。Hosmer-Lemeshowの検定結果はp=0.82,判別的中率は77.1%であった。ROC曲線分析から得られた治療期間を鑑別する治療間隔のカットオフ値は4.8日(感度62.5%,特異度87.5%,曲線下面積0.809)であった。【考察】本症の一般的な治療期間(3~5ヵ月)やLIPUS併用での治療期間(2~4ヵ月)を鑑みて今回の対象者の治療成績は概ね良好であり,A群に割り付けられた者は,特に優良な成績を得た者と判断した。本結果から,治療期間には治療間隔および治療開始後1ヵ月時点での疼痛が関与することが示唆された。治療間隔の短さ,すなわち高頻度にLIPUS併用理学療法を実施することが治療期間短縮に関わるという従来の推察が支持された。集中的な受療,LIPUS照射によって治癒が効果的に促進される可能性が示唆された。また,今回得られたカットオフ値(4.8日)は,今後具体的な指示を可能にする有益な知見と考えられる。さらに,ADL上で疼痛が1ヵ月以上持続すると治療期間が延長する可能性が示された事で,固定や運動量に関わる生活指導の重要性が確認された。【理学療法学研究としての意義】本症の治療期間に関わる因子について知見を示した。治療期間短縮,治療完遂者増加の一助になる可能性があるものと思われる。
著者
塚田 雅弘 新居 美紗子 明本 聡 瀧内 敏朗
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100265, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】成長期腰椎分離症は、椎弓の関節突起間部の疲労骨折と考えられており、その発生には活発なスポーツ活動が深く関わっている。近年、MRIでの早期診断が可能となり保存療法の成績は向上しているものの、病態などにより治療期間が長期に及ぶ症例も少なくない。活動期間が限られる成長期のスポーツ選手は、一日も早い確実なスポーツ復帰を望んでおり、そのための保存療法確立が重要な課題である。骨折の治療では近年、低出力超音波パルス(low intensity pulsed ultrasound : LIPUS)の臨床利用が広がっている。LIPUSの骨折治癒促進効果は、これまで多くの臨床試験や基礎的研究により証明されているが、本症に対する臨床利用、治療成績の報告は散見される程度である。当院では2010年7月より本症患者全例に対し、従来の保存療法と患部へのLIPUS治療併用を開始し、これまでの治療期間を約40%短縮した。本研究では、症例数を増やしてLIPUS効果の検証を進めるとともに、照射頻度と治療期間との関係を調査し、より効果的な治療法を検討することを目的とした。【方法】2009年4月から2012年9月までに当院を受診し、MRI T2強調像で椎弓根部に高信号変化を認め、初期の腰椎分離症と診断された18歳以下の患者のうち、治療が完結した84例86椎弓を対象とした。全例共通の治療として、従来からの保存療法であるコルセットでの外固定、運動量の制限、運動療法を実施した。LIPUS治療の有無は、当院に治療機器が導入された2010年7月以前の受診か、それ以後の受診かによって決定した。治療機器導入後は対象を限定せず全例にLIPUS治療を併用した。治療機器は日本シグマックス社製アクセラスを用い、通院毎に1回、患部に20分照射した。MRI T2強調像で高信号変化の消失を治癒の条件とし、それまでを治療期間とした。すべての診断は同一の整形外科医が一人で行った。通院治療回数や頻度は全対象者自身が任意に決定した。従来の保存療法とLIPUSを併用して治癒に至った62例64椎弓(男性59例、女性3例、年齢14.5±1.6歳)を超音波群、従来からの保存療法のみで治癒に至った22例22椎弓(男性21例、女性1例、年齢15.1±1.4歳)を対照群として治療期間を比較した。また、照射頻度による影響を検討するため、超音波群を照射頻度が週1回以上であった高頻度群32例33椎弓(男性30例、女性2例、年齢14.3±1.7歳)と週1回未満であった低頻度群30例31椎弓(男性29例、女性1例、年齢14.6±1.5歳)に分け、治療期間を群間比較した。統計処理は、対応のないt検定、χ²独立性の検定を用い、有意差判定基準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】治療開始にあたり、対象者および保護者に口頭での説明と、書面による同意を得て実施した。【結果】超音波群と対照群および高頻度群と低頻度群の年齢、性別、分離椎弓高位、分離椎弓根(右、左、両側)の分布は有意な偏りを認めなかった。平均治療期間は、超音波群98.1±50.8日で、対照群の175.8±89.4日に比べ有意に短く(p<0.01)、その短縮率は、44.2%であった。また、高頻度群の治療期間は82.8±33.8日で低頻度群の114.3±60.6日に比べ有意に短かった(p<0.05)。【考察】本症の保存療法に際し、LIPUSを併用すると、従来の治療期間を有意に短縮することが明らかとなった。その短縮率は44.2%であり、LIPUSが本症分離部の治癒促進に有効である事が示唆された。照射頻度による比較では、週1回以上照射した症例がそれ未満の症例より有意に治療期間が短かったことから、高頻度に照射することが、患部治癒をより効果的に促進する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】成長期腰椎分離症分離部に対するLIPUS照射の高い有効性を示唆した。また、照射頻度による検討も加えており、より効果的な治療法の確立に向け、新たな知見を示した。
著者
波多野 元貴 鈴木 重行 松尾 真吾 後藤 慎 岩田 全広 坂野 裕洋 浅井 友詞
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100755, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 スタティック・ストレッチング(static stretching:SST)は、柔軟性の改善をもたらすとされ、臨床場面やスポーツ現場などで広く用いられる。他方、SST後は最大発揮筋力や単位時間あたりの筋力発揮率であるrate of force development(RFD)などに代表される筋パフォーマンスの低下が生じるため、最大限の筋力発揮を要するパフォーマンスの前にはSST実施を避けるべきであるとする報告が多い。また、SST後の筋パフォーマンス低下の要因のひとつとして、筋電図振幅の減少など神経生理学的な変化が報告されている。SST後の発揮筋力や瞬発的なパフォーマンスの変化を検討した先行研究を渉猟すると、少数ながらSST後に動的な運動や低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、筋パフォーマンスの低下を抑制できる可能性が示唆されている。しかし、SST後の運動負荷による筋パフォーマンス低下抑制と神経生理学的変化の関連性について比較検討した報告はない。よって、本研究はSSTおよびその後に行う低強度・短時間の等尺性収縮が最大等尺性筋力、RFDおよび筋電図振幅に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 被験者は健常学生7名(男性4名、女性3名、平均年齢21.4±1.0歳)とし、対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位をとり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)と表面筋電計(Mega Electronics社製ME6000)を用いて測定を行った。評価指標は6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮時の最大等尺性筋力、筋収縮開始時から200 msec間の時間-トルク関係の回帰直線の傾きであるRFD、等尺性収縮中の内・外側ハムストリングスの筋電図平均振幅(root mean square:RMS)とした。実験は、まず6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行い、15分間の休憩の後、膝関節を痛みの出る直前の角度まで伸展し、300秒間保持することでハムストリングスに対するSSTを行った。その後は、直ぐに6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST群)、または30%maximum voluntary contraction(MVC)の強度で6秒間の等尺性収縮を行った後に6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST-30%MVC群)のいずれかを行い、被験者はこの2種類の実験をランダムな順番に行った。統計処理は反復測定2元配置分散分析および対応のあるt検定を行い、有意水準は5% とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は本学医学部生命倫理審査委員会および共同研究施設倫理審査委員会の承認を得て行った。被験者には実験の前に実験内容について文書及び口頭で説明し、同意が得られた場合のみ研究を行った。【結果】 最大等尺性筋力は、SST群では介入後に有意に低下し(介入前:64.5±19.7 Nm、介入後:57.0±18.7 Nm)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:63.9±20.3 Nm、介入後:65.70±19.8 Nm)。また、介入方法と介入前後との間に交互作用を認め、両群の介入後の値に有意な差を認めた。RFDはSST群で介入後に有意に低下し(介入前:238.5±61.6 Nm/msec、介入後:160.0±63.8 Nm/msec)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:215.0±88.5 Nm/msec、介入後:194.7±67.3 Nm/msec)。また、外側ハムストリングスのRMSは、SST群で介入後に有意に低下し(介入前:280.0±92.3 μV、介入後:253.9±97.0 μV)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:270.6±62.3 μV、介入後:258.9±67.1 μV)。内側ハムストリングスのRMSは、両群とも介入前後の値に有意な差を認めなかった。【考察】 本研究結果より、SST後には最大等尺性筋力、RFD、外側ハムストリングスのRMSの低下が生じるが、SST後に低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、これらの低下を抑制できることがわかった。先行研究にて、筋活動が低下した状態で30%MVCの等尺性収縮を負荷すると、筋紡錘の自発放電頻度が増加することが示されている。本研究では外側ハムストリングスのRMSの変化が最大等尺性筋力およびRFDの変化に同期していることから、SST後に低下した神経生理学的な興奮性が等尺性収縮の負荷によって高まり、筋パフォーマンス低下が抑制されたものと推察する。【理学療法学研究としての意義】 本研究から、理学療法士がスポーツ現場でウォームアップとしてSSTを行う際に危惧してきた筋パフォーマンス低下が、低強度・短時間の等尺性収縮により抑制できる可能性が示唆された。理学療法士が頻繁に行うSST効果に関する基礎的データの集積は、理学療法介入の科学的根拠に基づく理学療法介入の確立・進展につながるとともに、有効なSST実践に向けた方法論構築に寄与するものと考える。
著者
片田 昌志 松村 福広 伴 光正 安中 正法 亀山 祐 穂高 桂
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-119_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【目的】大腿骨転子部骨折に対する髄内釘挿入は,大転子のリーミングにより中殿筋損傷が危惧される.しかしながら,従来の治療成績は筋力が加味されていないことが多く運動機能との関連も不明瞭である.本研究の目的は,大腿骨転子部骨折術後12か月の股関節外転筋力と運動機能の関連性を知ることである.【方法】2016 年10 月から2017年12 月までに髄内釘を用いて治療を行った大腿骨転子部骨折133例のうち下記除外基準に該当しない24例を対象とした。除外基準は術後12か月に追跡調査が困難であった者,重篤な合併症を有する者,重度認知症により筋力測定が困難であった者,既往歴に運動麻痺または下肢骨折を有する者とした.平均年齢は75.3歳(42~90歳),男性6例,女性18例であった.骨折型は中野3D-CT分類で2partA:4例,2partB:2,3partA:2例,3partB:8例,3part C:3例,4part:1例,TypeⅡ:4例であった.調査項目は術後12か月の股関節外転筋力のトルク体重比(Nm/kg),歩行再獲得率,Harris hip score, Time up and go(以下TUG)とした.なお,歩行再獲得率は受傷前の歩行様式と同じ水準が獲得できた者を歩行再獲得者とした.統計解析は股関節外転筋力の患側値と健側値の比較に対応のあるt-検定,股関節外転筋力の患健比(%)と歩行再獲得率にはMann Whitney検定,股関節外転筋力の患健比とHarris hip score,TUGの関連性にはSpearman相関係数を用いた.統計ソフトSPSSを用い,有意水準は5%未満とした.【結果】術後12か月の股関節外転筋力は患側値0.6±0.4Nm/kg,健側値0.7±0.3Nm/kgであり,患側の股関節外転筋力が有意に低下していた(p<0.01).歩行再獲得率は67%(16例/24例中)であり,歩行再獲得に至らなかった者は股関節外転筋力の患健比が有意に低下していた(P<0.05).Harris hip score,TUGと股関節外転筋力は有意な相関はなかった.【結論】髄内釘挿入時のリーミングによる中殿筋損傷は20~50%と報告(澤内.2017,McConnell.2003)されているが,大腿骨転子部骨折術後の股関節外転筋力の報告は少なく,経過観察時期も一定では無い.本研究の結果から術後12か月の股関節外転筋力は有意に低下しており,長期的にみても筋力低下が残存することが分かった.また,大腿骨転子部骨折術後の歩行再獲得率は41~70%と報告されており(東原.2008),本研究も同様の結果であった.興味深いことは筋力と運動機能の関連性である.従来から使用されているHarris hip scoreやTUGは良好であっても,股関節外転筋力の低下がみられた.股関節外転筋力の低下があっても他の筋力で代償されれば全身的な運動機能は問題にならないが,他の筋力による代償が困難になった場合,股関節外転筋力の低下が表面化する可能性が推察される.本研究の限界として統計学的に母集団数が少なく,中野3D-CT分類別に統計解析を行えなかったことである。今後は骨折型,術後X線所見も含めた調査が課題となる.【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言を遵守した上で十分な説明を行い,同意を得た.
著者
酒井 章吾
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1201, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】超音波診断装置では,骨格筋量の指標である筋厚測定に加え,骨格筋の質の指標となる筋エコー輝度(以下,筋輝度)の測定が可能である。筋輝度は筋内脂肪などの非収縮性組織を反映し,筋輝度が筋力と負の相関を示すことが報告されている(Fukumotoら2011)。筆者らは骨格筋の質的評価が重要であると考えている。足関節内反捻挫では,受傷時の急激な伸張による筋損傷や疼痛による不動,関節の腫脹などによって神経筋の活動が低下し,長腓骨筋に代表される足関節外反筋の筋力低下が生じるとされる(Konradsen 1998)。本研究の目的は,足関節内反捻挫を繰り返した脚の筋力,筋厚,筋輝度を足関節内反捻挫の既往のない脚と比較することで,その特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,足関節内反捻挫を繰り返し受傷した経験(受傷回数7.3±2.9回)を持つ男性(I群)7名7脚(年齢22.0±1.3歳,身長170.4±5.9cm,体重62.5±9.3kg)と内反捻挫の既往がない健常男性(N群)6名12脚(年齢21.8±1.5歳,身長174.5±10.6cm,体重61.0±10.7kg)とした。足関節外反筋力の測定は,Biodex System3(Biodex Medical Systems)を使用し,等速性(120°/s)の求心性・遠心性筋力の最大値を体重で除した値を算出した。超音波診断装置(Noblus;Hitachi,Ltd)による長腓骨筋の評価は,腓骨頭と外果を結んだ線の近位25%の部位で長腓骨筋の画像を描出した後,筋厚および筋輝度を算出した。筋輝度はImage J(NIH社製)を用いて,0から255の256階調で表記される8bit-gray-scaleによって算出され,値が大きいほど非収縮性組織が多いことを示す。統計学的解析は,SPSS statistics20にて,筋力,筋厚,筋輝度の比較に対応のないt検定を使用した。危険率5%未満を有意とした。【結果】足関節の求心性外反筋力(Nm/kg)はI群0.34±0.11,N群0.53±0.18,遠心性外反筋力はI群0.48±0.13,N群0.72±0.25であり,I群で求心性36%,遠心性33%の有意な低下を示した(p<0.05)。筋厚(mm)はI群24.59±1.7,N群26.28±2.8であり有意な差はなかった。筋輝度はI群102.96±16.97,N群77.46±5.34であり,I群で25%の有意な高値を示した(p<0.01)。【結論】N群に比べI群では有意に筋力が低値を示したにも関わらず,筋厚は群間で差がなかった。I群では長腓骨筋内の筋内脂肪などの非収縮性組織の割合の増加が,足関節外反筋力の低下に関与している可能性が示唆された。
著者
湯田 智久 大住 倫弘 前岡 浩 森岡 周
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1328, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Complex regional pain syndrome(CRPS)患者や脳卒中患者の障害側上肢には浮腫が生じ,浮腫は関節可動域制限や疼痛と関連することが報告されている(Shimada 1994,Isaksson 2014)。浮腫の原因は自律神経障害や静脈欝血とされることが多いが,明確な成因や治療手段は明らかにされていない。Moseley(2008)は,身体所有感が浮腫に関連することを示唆しているが,これらの関連は調査されていない。そこで本研究では,身体所有感の生起プロセスの調査を行う実験手法とされているラバーハンド錯覚(Rubber Hand Illusion:RHI)を用いて,身体所有感の変化が手容積に与える影響について調査することを目的とした。【方法】対象はRHIが未経験の健常成人21名(男性12名,女性9名,平均年齢26±3.85歳)とした。RHIとは隠された本物の手と偽物の手(Rubber Hand:RH)が同時に刺激されると,RHが自己の手のように感じる身体所有感の錯覚現象である。今回は2分間(1Hzの速度)絵筆による触刺激を隠された本物の左手とRHに同時に与える同期条件,交互に刺激を与える非同期条件,RHのみに刺激を与える視覚条件の3条件(各7名)に振り分けた。手容積の測定は,RHI前後で手容積計を用いて行った。客観的な錯覚の評価として,Skin Conductance Response(SCR)と脳波を測定した。SCRはProcomp2(ソートテクノロジー社)を用い,右第2,3指に貼付した電極間の電位差を測定し,RHI後にRHへ針刺激を与える場面を見せ,その直後から5秒間のSCRの最大振幅とした。SCRの振幅が大きい程RHへの錯覚が強く,身体所有感が低下していることを表している(Armel 2003)。脳波は高機能デジタル脳波計Active two system(Bio semi社)を用い,拡張10-20法に準じた電極配置による64電極にて安静座位,RHI時の60秒間を測定した。解析対象chはC3,C4とし,RHI時のα帯の平均パワー値を安静時のα帯の平均パワー値で除し,そのLog値をα帯の変化量とした。なお,Log比が負の値である程身体所有感の低下を表している(Evans 2013)。また,自律神経活動の変化の指標としてRHI前後で皮膚温,情動喚起の指標としてRHI後に不快情動の測定も行った。皮膚温はProcomp2(ソートテクノロジー社)を用いて,左第2指掌側で30秒間5set計測し,その平均値とした。不快情動はNumeral Rating Scaleを用いて測定した。統計解析は,各パラメータの条件比較を一元配置分散分析(多重比較検定法Bonferroni法)を用いて行った。また,手容積変化率との関連要因を検討するために,全被験者の各項目間の相関分析をPerson積率相関係数にて求めた。その後手容積変化率を目的変数に,C4Log比,SCR,皮膚温変化量,不快情動を説明変数として重回帰分析(変数増減法)を行った。有意水準は5%未満とした。【結果】手容積は条件内比較で有意差を認めなかった。手容積の変化率(%)は同期条件で0.31±1.41,非同期条件で-0.42±1.66,視覚条件で0.6±0.6であり,条件間においても有意差を認めなかった。SCR,C3Log比,C4Log比は条件間で有意な差を認めなかったが,同期条件のSCRで最も高値を示した。相関分析において,手容積変化率は皮膚温変化量(r=.44,p<.05),不快情動(r=.55,p<.01),C4Log比(r=.5,p<.05)と正の相関を認めた。また,皮膚温変化量はC4Log比と正の相関(r=-.44,p<.05),SCRと負の相関(r=-.53,p<.05)を認め,C4Log比は不快情動と正の相関(ρ=.61,p<.01),SCRと負の相関(r=-.46,p<.05)を認めた。重回帰分析の結果では,不快情動(標準偏回帰係数:0.47,p<.05)が抽出された。【考察】SCR,脳波で条件間の差を認めなかった。Honma(2009)らは本研究の視覚条件と同様の条件にて身体所有感の錯覚が生じることを報告しており,本研究では同期条件以外の被験者でも錯覚が生じていたことが考えられる。これらは手容積変化率で条件間の差を認めなかった要因として考えられる。しかし,相関分析でC4Log比と手容積の間に関連を認めていることから,本結果はRHIの実施方法の差異ではなく,身体所有感の低下が手容積の減少に関連することを示している。また,C4Log比と不快情動に相関を認め,重回帰分析で不快情動が抽出されたことは,身体の錯覚に関連した不快情動の喚起は手容積の増大に影響することを示唆している。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,浮腫の発生要因として末梢の影響以外にも,自己の手に対する知覚的側面や情動的側面が影響することを示唆しており,浮腫に対する理学療法介入の一助になると考える。
著者
槌野 正裕 濱邊 玲子 山下 佳代 辻 順行 高野 正博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0570, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 近年,排泄障害に関する研究が進み,排泄障害における骨盤底機能障害の関与が示唆されている.また,臨床の現場では,排泄障害を有する患者において,脊椎の視診において,腰椎の生理的前彎の減少や骨盤の後傾など,姿勢制御機構の障害が示唆される症例を多く経験する.今回われわれは,排便障害を有する患者における骨盤底機能と姿勢に関して調査を行ったので報告する.【対象と方法】 2004年4月から2005年4月までの期間で,排便障害を主訴として当院を受診した70歳以下の42例(男性13例,女性29例,平均年齢54歳±16歳)を対象とした.方法は,まずDefecography(排便造影)検査を通して,骨盤底機能障害の指標となるPerineal Descent (以下PD)を,擬似便を直腸内に注入した後ポータブルトイレ上座位にて,安静時,肛門収縮時,怒責時の3動態における腰部骨盤帯部の単純X線側面像を撮影し,その画像上で恥骨下縁と尾骨下縁を結んだ線から肛門縁までの距離を測定した.更に肛門内圧を行い,左下側臥位にて,圧センサー(スターメディカル社製直腸肛門機能検査キットGMMS-200)を用いて,安静時の肛門内圧(以下静止圧)と外肛門括約筋随意収縮時の肛門内圧(以下随意圧)を測定した.姿勢に関しては,仰臥位にて安静時の腰部骨盤帯部MRIT1 saggital像を撮影し,その画像上で腰椎前彎角度と仙骨角度を計測した.診断には安静時におけるPDが50mm以上を骨盤底機能障害群(以下E群),PDが50mm未満の骨盤底機能正常群(以下C群)として統計学的に比較した.なお統計学的解析にはMann-Whitney’s U testを用い,P値<0.01は有意とした.【結果】 C群25例(男性11例、女性14例、平均年齢53±16歳),E群17例(男性2例、女性15例、平均年齢54±15歳)では,両群間で平均年齢と年齢分布に有意差はなかった.C群と比較してE群は女性に多かった.肛門内圧に関して,静止圧,随意圧は, C群では91.5±34.9,273.4±143.7,E群では62.1±33.7,140.8±108.1で,ともにC群に対してE群で有意に低下していた.姿勢に関しては,腰椎前彎角度,仙骨角度ともにC群が39.8±8.5,37.0±6.6,E群が31.4±8.5,30.9±6.3で,ともにC群に対してE群で有意に減少していた.【考察】 排便障害を有する患者のなかには骨盤底機能が障害されている症例が存在し,それらの症例において認められる肛門内圧の低下は排便障害の一因となっていることが示唆された.さらに,骨盤底機能障害を有する症例において認められる腰椎前彎角度および仙骨角度の減少は,姿勢と骨盤底機能との関連性を示唆するものであり,骨盤後傾位における骨盤底筋群への伸張負荷の増大など,姿勢制御機構の障害による骨盤底機能障害発生の可能性が考えられた.
著者
山際 清貴 小野 晋 島田 雅子 小関 博久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100328, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】学生という立場から専門職業人への移行は、生涯のなかでも大きなライフイベントのひとつであるといえる。入職後、速やかに環境に順応し職場適応することは、理学療法士としての人生を円滑にスタートするための重要な要素であると考えられる。なお、組織への新規参入者のほとんどが、この職場適応の過程においてリアリティショック(RS)に直面することが報告されている。今回我々は、新人PTが直面するRSの要因とサポート状況および克服手段について調査を行い、円滑な職場適応の一助となり得る方策を見出すことを目的として検討を行った。【方法】対象は、2012年3月にA専門学校を卒業した66名(男性38名、女性28名、平均年齢25.1歳)とした。上記の66名に対して、電子メールにて無記名式のアンケートを送信し回答を得た。アンケートの構成は、性別と年齢の基本属性の他に「RSの有無」「RSを受けた内容」「RSを受けた時期」「RSを受けた際のサポート源の有無」「サポート源の役職」「サポートの手段」「RSへの立ち向かい方」についての7項目について調査した。このうち「RSを受けた内容」「サポートの手段」「RSへの立ち向かい方」に関しては自由記載にて回答を求め、類似した内容をKJ法にてカテゴリー化した。RSの定義は「新卒の専門職者が数年間の専門教育を受け実際に職場で仕事を始めるようになって、予期しなかった苦痛や不快さを伴うしばしば耐えがたい現実の場面に合ったときに感じる困惑の状態」とした。依頼文と共にアンケートの前文に記載し、十分にRSの定義を理解してから回答するように促した。【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として、回答は任意であり、取得したデータの取り扱いについては個人を特定しないことを明記した。また、個人情報の取り扱いに関しては十分な注意を払うこと、アンケートの返信をもって研究への同意を得たとみなす旨を記載した。【結果】アンケートの返信数は25名(男性17名、女性8名、平均年齢24.2歳、回収率37.9%)であり、回答に不備のあるものはなかった。入職してから現在までに「RSを受けた」と自覚した者は13名(52.0%)であり、「サポートしてくれた人物の有無」に関しては、12名(92.3%)が「いた」と回答した。その内訳は、プリセプターが9名(69.2%)、同期のスタッフが9名(69.2%)、プリセプター以外の上司が7名(53.8%)、同級生が5名(38.5%)、家族が2名(15.4%)、その他が2名(15.4%)、患者が1名(7.7%)であった。なお、「RSを受けた時期」は、4月が3名(23.0%)、5月と6月がそれぞれ5名(38.5%)であり、7月以降に受けた者はいなかった。「RSを受けた内容」に関しては25件のコードを抽出し、サブカテゴリー「知識の量(5)」「治療の技術(5)」「評価の技術(4)」を大カテゴリー[PTとしての資質]とし、同様に「第三者との関わり(5)」「コミュニケーション(2)」を[対人技能]、「多忙(3)」「給与の安さ(1)」を[職場環境]と命名し分類した。同様に、「RSに対するサポートの手段」に関しては21件のコードを抽出し、サブカテゴリー「一緒に患者を担当(8)」「フィードバック(5)」を大カテゴリー[実技面のサポート]とし、同様に「傾聴(6)」「声掛け(2)」を[心理面のサポート]と命名し、「RSの克服手段」に関しては15件のコードを抽出し、サブカテゴリー「文献学習(3)」「先輩PTへの相談(4)」を大カテゴリー[前向きな克服手段]とし、同様に「発想の転換(4)」「気分転換(2)」を[内的な変容]と命名し分類した。【考察】新人PTは、日々の業務の中で自身の知識の乏しさや技術の未熟さに代表されるようなPTとしての資質面に限らず、第三者との関わりの難しさや多忙であることなどにも戸惑いを感じ、高いストレス環境の下で業務を遂行していることが示唆された。新人看護師のサポート源としては、同僚、先輩看護師、上司・友人、家族が重要な役割を占めると報告されている。本研究においてもほぼ同様の傾向を示しており、入職後3ヵ月までの期間において、新人PTは個別指導を担当するプリセプターからの日常業務の進め方や理学療法の実践に必要な知識や技術についてのサポートを受ける機会が最も多いことが示唆された。これらは、入職したばかりで不慣れな環境に置かれた新人医療者にとっては、職種を問わずプリセプターの存在が最も身近で重要な存在であることを意味している。すなわち、新人PTが円滑に職場適応を果たすためには、当事者の努力のみならずプリセプターを主とした周囲のスタッフの教育力や支援の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】RSの存在や要因が明確になり、RSによる精神的健康の低下や早期離職などの予防策を立てる一助となり得ることは、新人PTと施設の双方において有益であると考えられる。