著者
田中 浩介 ニシワキ ガストン 浦辺 幸夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0149, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】 関節位置覚、運動覚に代表される固有受容感覚は、力学受容器であるメカノレセプターからの神経入力により四肢や身体部位の位置関係や関節の動きを感じる感覚のことをいう。メカノレセプターは筋、腱、関節包、靭帯、皮膚などに存在しており、固有受容感覚の感知には複数の受容器が関与すると考えられる。本研究の目的は、皮膚への刺激が膝関節位置覚に与える影響を確かめることである。【方法】 対象は、膝関節に特別な既往のない20名の健常成人(男子10名、女子10名)であった。膝関節位置覚の測定は、コンピューター制御で作動する特製の装置(固有運動覚・固有位置覚測定装置,センサー応用社.日本)を用いた。測定肢は右脚とした。端座位にて膝屈曲90°を開始角度とし、設定角度は膝屈曲15°とした。開始角度から10°/secで他動的に下腿を動かし、設定角度に達した時点で5秒間停止させた。この停止中に下腿の位置を対象に記憶させ、その後下腿を開始角度に戻した。再び下腿を他動的に伸展方向に動かし、対象は設定角度に達したと判断した時点でスイッチを押した。この時の角度と設定角度との差の絶対値(Absolute Error, AE)を算出した。測定時は、外部からの刺激をアイマスクとwhite noiseの流れるヘッドフォンで遮断した。皮膚刺激には、ニトリート社製の50mm幅エラステイックバンテージを使用した。テープは、坐骨結節と踵骨後面中央を結んだ線の50%の長さを膝伸展位で線上の中央部に貼付した。テープの張力は、バネ秤を用いて4kgとした。テープの有無により位置覚測定を3回ずつ行い、AEの平均値の差を検定した。またテープ長とAEの相関の検定を行った。【結果】 テープなしのAE(平均±SD)は3.38±1.97°であり、テープありのAEは2.90±1.41°であった。テープの使用によりAEは小さくなる傾向がみられたがWilcoxonの符号付順位検定を用いた差の検定では差を認めなかった。貼付したテープ長は37.6±1.6cmであり、AEとの間に負の相関を認めた(r=-0.63)。【考察】 本研究では、皮膚にはパチニ小体、ルフィニ終末などのメカノレセプターが存在することから、テープにより皮膚感覚を刺激することで位置覚の精度が増すと考え、ある程度そのような傾向が示されたが、有意差を認めるには至らなかった。固有受容感覚には筋紡錘が最も重要な働きをしているといわれており、皮膚のメカノレセプターは位置覚に大きく関与しない可能性が示唆された。しかし、使用したテープが長いものほどAEは小さくなる傾向がみられた。感覚点のうち触・圧点は、大腿部で1cm2あたり10点程度であるといわれており、テープの長さの違いにより刺激した感覚点の数が異なったためであると考えられる。
著者
立石 貴之
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3P1539, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】呼吸困難感のある患者の呼吸パターンは横隔膜を中心とした腹式呼吸よりも頚部・背部筋を中心とした胸式呼吸が優位になる印象がある.腹式呼吸に比べて換気効率が悪いといわれている胸式呼吸に移行しやすい理由の詳細は不明であるが、鰓弓神経由来の顔面・三叉・舌咽・迷走神経に支配される筋がやむにやまれず優位に働かざるを得ない状況に陥るのかもしれない.また、藤田は、僧帽筋は副神経からも支配されており、水棲脊椎動物の鰓弓を動かす筋と同じ由来を持つものと考えられると述べている.そこで今回、僧帽筋のマッサージが呼吸機能に及ぼす影響について検討することを目的とした.【方法】対象は健常男性16名(平均年齢28.8±5.8歳)とした.被験者には実験の趣旨を説明し、了解を得た.呼吸機能検査として、CHESTAC-55V(CHEST社)を用い、閉鎖回路法(He希釈法)にて、機能的残気量(以下FRC)、残気量(以下RV)、全肺気量(以下TLC)を測定した.測定肢位は両手部を大腿部に置き、背もたれに依存した椅子座位とした.呼吸機能検査を3回実施し、次に僧帽筋に対して柔捻法によるマッサージを腹臥位にて10分間実施し、その後さらに呼吸機能検査を3回実施した.また、マッサージ前後の僧帽筋の筋硬度の変化を確認するため、NEUTONE TDM-N1(トライオール社)を用い、マッサージ前後に3回測定した.測定部位は肩峰と第7頚椎棘突起の中点とした.各パラメータは平均値を代表値とした.統計処理にはt検定、Pearsonの相関係数を用い、危険率5%未満を有意とした.【結果】マッサージ前のFRC(3.20±0.47L)、RV(1.61±0.25L)に比して、マッサージ後のFRC (3.06±0.50L)、RV(1.48±0.23L)は有意に低下していた.マッサージ後の僧帽筋の筋硬度はマッサージ前に比して有意に低下していたが、マッサージ前後の筋硬度とFRCの変化量の相関係数は0.40(P=0.13)であり、有意な相関関係は認められなかった.【考察】松本ら(2004)は肺気量の減少と呼吸困難感の緩和との関係は肺気腫では密接であると報告しており、今回の結果は僧帽筋のマッサージが呼吸困難感を緩和する一つの手技となりうることを示唆すると思われる.また、今回の結果は僧帽筋の筋硬度の低下により肩甲骨が下制し、胸郭がより呼気位になった要因が大きく影響していると思われるが、筋硬度とFRCの変化量に有意な相関関係が無いことを踏まえると、系統発生学的に呼吸に強く関連していた僧帽筋のマッサージが呼吸パターンにおける神経生理学的な変化を引き起こした可能性もあるかもしれない.今後、健常女性、呼吸器疾患患者を対象とした同様の研究を継続していきたい.【まとめ】健常男性において、僧帽筋のマッサージはFRC、RVを有意に低下させる.
著者
野田 将史 佐藤 謙次 斉藤 明子 日詰 和也 印牧 真 黒川 純 岡田 亨
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0486, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 ブリッジ運動は下肢筋群の筋力強化として臨床で広く活用されており,これに関する報告は散見される.しかし,両脚ブリッジ運動における股関節外転および膝関節屈曲角度の違いが下肢筋群筋活動に及ぼす影響は明らかにされていない.本研究の目的は,両脚ブリッジ運動において最も効率良く筋力強化を行う肢位を検討することである.【方法】 対象者は,下肢疾患の既往の無い健常成人15名(男性9名,女性6名,平均年齢27.4歳,平均身長166.4cm,平均体重62.7kg)であった.測定方法は,表面筋電計はマイオトレース(Noraxon社製)を用い,大殿筋・中殿筋・内側ハムストリングス・外側ハムストリングスの4筋を導出筋とした.電極貼付部位は,大殿筋は大転子と仙椎下端を結ぶ線上で外側1/3から二横指下,中殿筋は腸骨稜と大転子の中点,内側ハムストリングスは坐骨結節と脛骨内側顆の中点,外側ハムストリングスは坐骨結節と腓骨頭の中点とした.十分な皮膚処理を施行した後,各筋の筋腹に電極中心距離2cmで表面電極を貼り付け,動作時における筋電波形を導出した.アースは上前腸骨棘とした.測定値は最大随意収縮(MVC)で正規化し%MVCとした.MVCの測定はダニエルズのMMT5レベルの測定肢位において5秒間の等尺性最大収縮とした.測定条件は,MVC測定後5分間の休息を設け,次の条件における各筋の筋活動を1肢位あたり2回測定しその平均値を分析に用いた.測定時間は5秒間とし中3秒間を解析に用いた.尚,条件の測定順序は無作為とした.測定肢位は,両足部内側を揃え股関節軽度内転位とし膝関節120度屈曲位でのブリッジ運動(股内転膝屈曲120°),膝関節90度屈曲位でのブリッジ運動(股内転膝屈曲90°),膝関節60度屈曲位でのブリッジ運動(股内転膝屈曲60°),両足部を肩幅以上に開き股関節外転20度とし膝関節120度屈曲位でのブリッジ運動(股外転膝屈曲120°),膝関節90度屈曲位でのブリッジ運動(股外転膝屈曲90°),膝関節60度屈曲位でのブリッジ運動(股外転膝屈曲60°)の6肢位とした.また,運動時は股関節屈曲伸展0度になるまで挙上するよう指示し,測定前に練習を行い代償動作が出現しないよう指導した.統計学的分析にはSPSS ver.15を用い,一元配置分散分析および多重比較により筋毎に6肢位の%MVCを比較した.また,有意水準は5%とした.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得た上で,各被験者に研究に対する十分な説明を行い,同意を得た上で行った.【結果】 各動作における%MVCの結果は以下の通りである.大殿筋では,股外転膝屈曲120°は股内転膝屈曲60°と股内転膝屈曲90°よりも有意に高値を示したが,その他の有意差は認められなかった.中殿筋では,すべてにおいて有意差は認められなかった.内側ハムストリングスでは,股外転膝屈曲120°は股内転膝屈曲60°と股外転膝屈曲60°と股内転膝屈曲90°と股外転膝屈曲90°よりも有意に低値を示した.股内転膝屈曲120°は股内転膝屈曲60°と股外転膝屈曲60°よりも有意に低値を示した.その他の有意差は認められなかった.外側ハムストリングスでは,股内転膝屈曲60°は股内転膝屈曲90°と股外転膝屈曲90°と股内転膝屈曲120°と股外転膝屈曲120°よりも有意に高値を示した.股外転膝屈曲60°は股内転膝屈曲90°と股外転膝屈曲90°と股内転膝屈曲120°と股外転膝屈曲120°よりも有意に高値を示した.股内転膝屈曲90°は股外転膝屈曲120°よりも有意に高値を示した.その他の有意差は認められなかった. 【考察】 今回,各動作時における%MVCの結果から,大殿筋では股関節内転位よりも外転位,膝関節軽度屈曲位よりも深屈曲位の方が有意に高値を示した.内外側ハムストリングスでは,膝関節深屈曲位よりも軽度屈曲位の方が有意に高値を示した.この結果から,ブリッジ運動を行う際は,大殿筋に対しては股関節外転位+膝関節深屈曲位,ハムストリングスに対しては内外転を問わず膝関節軽度屈曲位に設定することで効率が向上されることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 臨床で頻繁に処方する両脚ブリッジ運動の最も効率よい肢位が判明することで,患者への運動指導の際その肢位を活用し運動指導することができる.
著者
山本 昌樹 林 省吾 鈴木 雅人 木全 健太郎 浅本 憲 中野 隆
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100444, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】上腕筋は,上腕骨前面下半部に単一の筋頭を有するとされるが,Gray’s Anatomy(2005)においては「2 〜3 部からなる変異が見られる」と記載されている.一方,Leonello et al.(2007)は,「上腕筋は,全例において浅頭と深頭の2 頭を有する」と報告している.我々は,第16 回臨床解剖研究会(2012)において,上腕筋が3 頭から構成されることを明らかにするとともに,肘関節屈曲拘縮との関連について報告した.今回,これら3 頭の形態的特徴と機能について考察する.【対象および方法】愛知医科大学医学部において,研究用に供された解剖実習体15 体24 肢を対象とした.上肢を剥皮後,上腕二頭筋,腕橈骨筋,長・短橈側手根伸筋を展開した.上腕筋を起始部より分離して筋頭を同定し,筋頭の走行や配列を詳細に観察した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,死体解剖保存法に基づいて実施し,生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究・教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】全肢において,上腕筋は,三角筋後部線維から連続する筋頭(以下,外側頭),三角筋の前方の集合腱から連続する筋頭(以下,中間頭),上腕骨前面から起始する筋頭(以下,内側頭)に区分することができた.外側頭は,上腕骨の近位外側から遠位中央に向かって斜めに,かつ,浅層を走行して腱になり,尺骨粗面の遠位部に停止していた.中間頭は,最も薄く細い筋束であり,内側頭の浅層を外側頭と平行して走行し,遠位部は内側頭に合流していた.内側頭は,最も深層を走行し,停止部付近においても幅広く厚い筋腹から成り,短い腱を介して尺骨粗面の近位内側部に停止していた.これら3 頭は,上腕中央部においては,外側から内側へ順に配列していた.しかし肘関節部においては,外側頭と中間頭は浅層に,内側頭は深層に配列していた.また,内側頭の縦断面を観察すると,一部の線維が肘関節包前面に付着する例が存在した.これらの例において肘関節を他動的に屈曲させると,内側頭とともに関節包の前面が浮き上がる様子が観察された.【考察】上腕筋を構成する3 頭は,内側から外側へ配列しているだけではなく,各頭が特徴的な走行や形態を呈するため,それぞれ異なる機能を有することが推測される.上腕筋外側頭は上腕骨の近位外側から遠位中央へ,一方の上腕二頭筋は近位内側から遠位中央へ斜走する.そのため肘関節屈曲時,上腕筋外側頭は前腕近位部を外上方へ,一方の上腕二頭筋は内上方へ牽引すると考えられる.すなわち肘関節屈曲時,外側頭と上腕二頭筋は共同で,前腕軸の調整を行うと考えられる.また外側頭は,3 頭の中で最も遠位に停止し,肘関節屈曲における最大のレバーアームを有するため,肘関節屈曲における最大の力源になることが示唆される.さらに,外側頭は三角筋後部線維から連続するため,三角筋の収縮によって,作用効率が変化する可能性がある.換言すれば,外側頭の作用効率を高めるためには,三角筋後部線維を収縮させた上で肘関節屈曲を行うことが有効であると思われる.内側頭は,肘関節部において深層を走行し,幅広く厚い筋腹を有する.したがって,肘関節屈曲時に収縮して筋の厚みが増すことによって,外側頭のレバーアームを維持または延長し,その作用効率を高める機能を有すると考えられる.また,肩関節の腱板が上腕骨頭を肩甲骨へ引き寄せる作用と同様に,内側頭は,尺骨滑車切痕を上腕骨滑車に引き寄せ,肘関節の安定性向上に寄与すると考えられる.さらに,内側頭が関節包前面に付着する例があることから,肘関節運動に伴う関節包の緊張度を調節する機能が示唆される.換言すれば,内側頭の機能不全によって,関節包前面のインピンジメントや肘関節屈曲拘縮が惹起される可能性が推測される.中間頭は,最も薄く細いため,その機能的意義は小さいと思われる.しかし,上腕中央部においては外側頭と並走し,遠位部においては内側頭に合流することから,外側頭と内側頭の機能を連携する,文字通り‘中間的な’役割を担うと考えられる.上腕筋は,3頭を有することによって,肘関節屈曲における前腕軸の調整,作用効率の向上,肘関節包の緊張度の調節など複合的な機能を担うと考えられる.また,肘関節屈曲に関しては,主として外側頭が機能することが示唆される.【理学療法学研究としての意義】根拠に基づく理学療法を行うためには,とくに筋骨格系に関する機能解剖学的かつ病態生理学的な研究が不可欠である.本研究は,上腕筋の筋頭構成を詳細に観察し,肘関節運動に対する関与について考察を加えたものであり,肘関節拘縮の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える.
著者
加藤 太郎 福井 勉
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100042, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】我々は前回大会にて呼吸運動時の体幹皮膚の変位量について報告した。呼吸運動時に体幹皮膚は上腹部皮膚の前面が最も大きく動き、続いて下胸部皮膚の前面、上胸部皮膚の前面の順となり、また体幹側面皮膚は体幹前面皮膚と比べて動きは少ないが、その順序性は前面と同様に上腹部皮膚の側面が最も大きく動き、続いて下胸部皮膚の側面、上胸部皮膚の側面の順となったことを報告した。このような皮膚の運動特性から、皮膚誘導による呼吸介助手技に応用するためには、さらに各部位皮膚の変位方向を明らかにする必要がある。本研究は呼吸運動時の体幹皮膚の変位方向を明らかにすることを目的とし皮膚上マーカーを体幹に貼付した状態での呼吸運動を分析検討した。【方法】対象は健常成人男性10 名(年齢29.4 ± 4.3 歳、身長170.2 ± 5.5cm、体重67.7 ± 8.5kg)であった。測定機器は3 次元動作解析装置VICON MX(VICON社製)を用いた(カメラ8 台、計測周波数100Hz)。マーカー貼付位置は正中列と側方列(左右)と正中・側方中間列(左右)(以下、中間列とする)とし縦5 列に分け、各列に8 個のマーカーを貼付し合計40 個のマーカー(直径16mm)を格子状にした。正中列は胸骨柄上部、剣状突起、および両上前腸骨棘間の中点を基準とし、胸骨柄上部と剣状突起の間を1/3、2/3 に内分する点および剣状突起と両上前腸骨棘間中点の間を1/4、2/4、3/4 に内分する点とした。側方列は後腋窩と、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の中点を基準とし、この間を1/7、2/7、3/7、4/7、5/7、6/7 に内分する点とし左右に貼付した。中間列は胸骨柄上部と後腋窩の中点と、上前腸骨棘を基準とし、この間を1/7、2/7、3/7、4/7、5/7、6/7 に内分する点とし左右に貼付した。各列ともに頭側から尾側に向かって順に1 〜8 マーカーとし、1、2 マーカーは上胸部、3、4 マーカーは下胸部、5、6 マーカーは上腹部、7、8 マーカーは下腹部の皮膚の動きを表すものとした。マーカーと肋骨との位置関係は上胸部マーカーは第1 〜3 肋骨の上位肋骨、下胸部マーカーは第4 〜6 肋骨の中位肋骨、上腹部マーカーは第7 肋骨以下の下位肋骨の位置に相当している。測定肢位は床上での背臥位とし両上肢の位置を90°外転させ両手掌を頭部後面に位置させたハンモック肢位とした。測定は5 回の深呼吸を1 試行とし5 試行実施した。呼気と吸気の相分けは身体の水平面において剣状突起マーカーが頭側方向へ最も動いた時を最大吸気位とし、最も尾側方向へ動いた時を最大呼気位とした。各呼吸の最大呼気と最大吸気間の各マーカーの変位量を算出した。上胸部、下胸部、上腹部、下腹部の各部位のX 軸(左右)、Y軸(上下)、Z軸(前後)方向への変位量について一元配置分散分析および多重比較法(Bonferroni検定)を用い解析、検討した。統計処理はSPSS ver.18.0Jを使用し危険率1%未満を有意水準とした。【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。全対象者に事前に本研究内容を書面および口頭で十分な説明を行い署名にて同意を得た。尚、本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会の承認の下で実施した。【結果】各部位の方向別変位量に有意差を認めた。上胸部はY方向の動きが最も大きかった。またX方向の動きがYとZ方向と比べ有意に小さかった。下胸部はYとZ方向の動きが大きかった。またX方向の動きがYとZ方向と比べ有意に小さかった。上腹部は他部位と比べ全方向へ動きが大きく、変位量の大きさはZ、Y、X方向の順であった。下腹部は全方向へ動きが小さく、Z方向の動きがX、Y方向と比べ有意に大きかった。【考察】呼吸運動時の各部位皮膚の変位方向は、上胸部は上下方向、下胸部は上下、前後方向、上腹部は全方向への動きが大きく、上位肋骨から下位肋骨に向かうほど左右方向への動きが大きくなった。この上位肋骨相当の上胸部皮膚が上下方向への動きが大きく、中位肋骨相当の下胸部皮膚、下位肋骨相当の上腹部皮膚へと下位に移るほど左右方向への動きが大きくなった結果は、肋骨頭関節と肋横突関節を結ぶ軸方向により決まるpump handle motionとbucket handle motion の胸郭の生理的運動方向が反映されたと考えられる。本研究結果から皮膚誘導による吸気時呼吸介助手技を行う場合に、上胸部皮膚は上方向へ、下胸部皮膚は上・前方向へ、上腹部皮膚では上・前方向に左右方向への動きを加えることが有効であると考えられる。以上より、各部位の皮膚運動特性を明らかにすることは、理学療法における皮膚誘導を用いた手技に応用できると考えられる。本研究結果は皮膚運動特性を考慮した皮膚誘導による呼吸介助手技が行える可能性とその方法を示唆していると考えられ、臨床応用の基礎となり得る。【理学療法学研究としての意義】本研究により皮膚誘導を用いた呼吸介助手技が行える可能性を示唆でき、その誘導する量と方向に応用できると考える。
著者
熊谷 匡晃 岸田 敏嗣 稲田 均
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cd0839, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 股関節疾患に伴う跛行としてよく経験するデュシャンヌ跛行は股関節外転筋力の低下で起こると定義されており,経験則的にそのように捉えてしまうことが多い。しかしながら,筋力に問題がないにも関わらず跛行がみられるなど,MMTの結果との不一致を感じることがあり,単なる股関節周囲筋の筋力評価では解釈に難渋することがある。実際には疼痛,関節拘縮(股関節内転制限),脚長差,大腿骨頚部の短縮や骨頭の外上方変位などの骨形態異常による力学的要因などの原因で起こっている可能性もある。本研究の目的は股関節内転制限および外転筋力が跛行に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】 対象は2010年7月~2011年6月までに当院を受診し,大腿骨近位部骨折および変形性股関節症により手術を施行され,転院または退院時に杖なし歩行が可能となった21名とした。疾患内訳は大腿骨近位部骨折16名,変形性股関節症5名であった。荷重時に体幹の代償が見られない正常歩行群をN群(男性1名,女性9名,平均年齢72.9±12.1歳),荷重時に体幹を患側へ傾けるデュシャンヌ跛行群をD群(男性1名,女性10名,平均年齢65.3±9.9歳)の2群に分けた。検討項目は,1)N群とD群における股関節外転筋力,2)N群とD群における股関節内転角度,3)股関節内転角度の違いによる跛行出現率,とした。股関節外転筋力については,徒手筋力測定装置(酒井医療社製,EG‐200)を使用し,側臥位での股関節外転筋力を最大等尺性収縮で3回測定し,平均値を体重で除して標準化(kgf/kg)した。統計処理は両群間の外転筋力と内転可動域の検定にはウェルチのt検定,股関節内転角度の違いによる跛行出現率にはχ2検定を用い,有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 被検者には,事前に本研究の主旨と内容について説明し,同意を得た。【結果】 患者背景として年齢,性別には両群間で有意差を認めなかった。1)股関節外転筋力は,N群0.17±0.04kgf/kg,D群0.15±0.07kgf/kgで有意差は認められなかった。2)股関節内転角度は,N群14±3.2°,D群6.8±5.1°であり,N群で有意に内転域が大きかった。3)股関節内転角度の違いによる跛行出現率は,股関節内転が5°以下では100%,10°では40%,15°以上では22.2%と内転域の増大とともに跛行出現率が有意に低下した。【考察】 股関節疾患の術後症例において,股関節内転角度の減少がデュシャンヌ跛行の出現に影響を及ぼすことが明らかとなった。一方,股関節外転筋力はデュシャンヌ跛行の直接的な関連因子とは言えなかった。しかしながら,徒手筋力計を用いた等尺性の筋力は時間的要素や空間的要素が考慮されていない出力のみの評価であり,必ずしも筋機能の低下を示しているとは言及できず,今後の検討を要する。股関節内転制限の原因として,変形性股関節症に対するTHAの場合は,骨頭を引き下げることによる外側軟部組織の緊張増大,手術侵襲による筋スパズムおよび術創部の伸張刺激,皮下の滑走性低下などが考えられる。一方,大腿骨近位部骨折の場合は,変股症とは異なり筋の変性はないため,基本的には術後の筋攣縮が考えられる。本研究の結果より,股関節内転角度が5°以下のケースで全例跛行を認めたことは,可動域とデュシャンヌ跛行が関連する可能性を示した上で意義深い。正常歩行における股関節の内転角度は踵接地から足底接地にかけて約4°必要とされているが,立位では外転筋の遠心性収縮の強要とともに筋内圧が高まるため,背臥位で測定した内転角度以下になる可能性が考えられる。デュシャンヌ跛行の原因を筋力の観点からみると,体幹を患側に傾けることは骨頭から重心線までの距離を短くし,弱い筋力で歩行する代償運動と言えるが,股関節内転制限の場合は,骨盤が外方移動できない状態を体幹の側屈で相殺しているという反応と解釈される。つまり,外観は同じでも原因は全く異なる病態であるため,それらを見極める理学療法士の観察力や適切な評価が大切であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 股関節は腰椎や骨盤アライメントとの関連の中で評価することが大切であるが,代償運動を見逃さず,局所としての股関節機能の評価が適切にできることも大切である。エネルギー効率がよく安定した歩行を獲得するためには,股関節内転制限も含めた適切な評価と運動療法を展開していくことが重要である。変形性股関節症に対するTHAと大腿骨近位部骨折に対する人工骨頭置換術では,手術内容はほぼ同様であるが,外傷と変性疾患の違いや年齢,脚長差など患者背景に影響を及ぼす因子が存在するため,今後は症例数を増やした上で疾患別の比較検討についても加えていきたい。
著者
石井 伸尚 末竹 真将 奥野 裕佳子 武島 玲子 冨田 和秀
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0828, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに】COPD患者に対して,換気効率の良い呼吸法を提示しながら有酸素運動を行うと,運動耐容能が改善することが明らかになってきた(Collins 2008)。呼吸筋酸素消費量の少ない呼吸方法は,運動時に呼吸筋の酸素消費量を軽減し運動耐容能の増加に寄与する可能性がある。そこで,我々は呼吸筋酸素消費量の少ない呼吸法をフィードバックする機器の開発を進めている。しかし,随意呼吸における胸腹部運動比と呼吸筋酸素消費量の関係は不明な点が多い。本研究の目的は健常者を対象として,随意呼吸における胸腹部運動比の違いによる呼吸筋酸素消費量(oxygen consumption of respiratory muscles:VO2resp)を測定し,胸式呼吸と横隔膜呼吸のVO2respの差異を比較することとした。【方法】対象は健常男性9名(20.7±1.3歳)とした。測定肢位はリクライニング60度の車椅子坐位とし呼吸筋以外の筋活動が少なくなるように配慮した。VO2respの測定は,容量約12Lの死腔を用いた再呼吸負荷デバイスと呼気ガス分析器を接続し,分時換気量(VE),1回換気量(TV),酸素消費量(VO2),体重あたりの酸素消費量(VO2/W),呼吸数(RR)を測定した。測定条件は安静呼吸3分間,胸式呼吸1分,横隔膜呼吸1分とし,各測定間は十分な休息をとった。胸腹部バンドセンサーを使用し,各条件での胸腹部の動きを記録した。胸腹部運動比は1回換気量における胸部と腹部の変化量の合計を100%とし,そのうちの胸部変化量の占める割合として規定した。胸式呼吸と横隔膜呼吸におけるVO2respは,VO2resp=(随意呼吸時VO2/W-安静呼吸時VO2/W)/(随意呼吸時VE-安静呼吸時VE)と相対的な変化量として算出した。統計処理は反復測定分散分析を行いそのうちVO2/Wの安静時から随意呼吸時の変化量とVO2respは対応のあるt検定を行い,解析にはSPSS,Statistics22を使用し,有意水準を5%未満とした。【結果】胸腹部運動比(%)は安静呼吸28.4±7.5,胸式呼吸65.3±13.3,横隔膜呼吸14.0±5.2となった。RR(回/min)は安静時11.9±4.9,胸式呼吸9.6±2.7,横隔膜呼吸9.7±2.6,VE(L/min)は安静時7.9±2.1,胸式呼吸13.9±5.2,横隔膜呼吸13.2±4.0,TV(ml)は安静時735.6±228.1,胸式呼吸1481.7±289.7,横隔膜呼吸1379.3±239.8であった。VO2/W(ml/kg)の安静時との変化量は胸式呼吸0.645±0.878,横隔膜呼吸-0.213±0.954であり,横隔膜呼吸で有意に低下した(p<0.05)。VO2respは胸式呼吸0.093±0.141,横隔膜呼吸-0.057±0.201であり,横隔膜呼吸で有意に低下した(p<0.05)。【結論】横隔膜呼吸は,呼吸筋酸素消費量の少ない随意呼吸方法であることが明らかになった。今後,呼吸負荷増加時や運動時における横隔膜呼吸の効果について検証を進める必要がある。
著者
太田 恵 池添 冬芽 金岡 恒治 佐久間 香 長谷川 洋介 藤田 千早 沼澤 拓也 舞弓 正吾 市橋 則明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF1065, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】老化に伴う退行性変化として骨格筋の萎縮が起きることは周知の事実であり,リハビリテーションの分野では高齢者における筋の機能の維持および向上が重要な課題のひとつとなっている.この筋萎縮の評価法のひとつとして,近年,超音波画像診断装置による筋厚測定がよく用いられている.超音波画像診断装置は,MRIやCTと比較して,安価で簡便であり,信頼性と妥当性も高いことから,超音波画像診断装置を使用した研究が多くなされている.しかしながら,超音波法を用いて筋厚の加齢変化を調べた先行研究の多くは四肢の筋を対象としており,体幹筋,特に腹筋群について言及した研究は少ない.また,筋萎縮に関する横断研究の場合は,加齢による影響だけでなく,身長や体重,BMIといった体格の差異による影響も考慮する必要がある.しかしながら,腹筋群の筋厚にはどのような体格要因が関連するのかについては明らかではない。そこで本研究では,超音波画像診断装置を使用して腹筋群の筋厚を測定し,年齢や体格との関連について明らかにすることを目的とした.【方法】被験者は,健常成人120名(男性60名,女性60名)とした.男性被験者の年齢は33.1±18.1歳(20~84歳)であり,身長は170.5±6.8cm,体重は67.2±11.8kg,BMIは23.0±3.1であった.女性被験者の年齢は57.2±19.2歳(20~83歳)であり,身長は154.2±7.1m,体重は52.0±9.0kg,BMIは21.9±3.4であった.いずれも独歩または歩行補助具を使用し自立歩行が可能な者とした.筋厚の測定には超音波診断装置を使用した.対象筋は,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋とした.測定肢位は安静背臥位で,いずれも安静呼気時に測定した.測定部位は腹直筋が臍から外側4cmの部位,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋は臍高位の腋窩線から内側2.5cmの部位とし,いずれも右側を測定した.腹筋群の筋厚と年齢,身長,体重,BMIとの関係について,各筋厚を目的変数とし,年齢,身長,体重, BMIを説明変数として,男女別にそれぞれ重回帰分析を用いて検討した.いずれも有意水準は5%未満とした.【説明と同意】本研究の目的と方法について,すべての被験者に対し口頭および文書にして十分に説明し,同意を得た.【結果】腹直筋の筋厚の平均値は男性12.8±3.3mm,女性8.3±2.4mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ筋厚に影響を与える有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.58,女性-0.71),自由度調整済決定係数は男性0.59,女性0.59であった.外腹斜筋の筋厚の平均値は男性8.6±2.9mm,女性5.4±1.9mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.56,女性-0.61),自由度調整済決定係数は男性0.48,女性0.43であった.内腹斜筋の筋厚の平均値は男性12.2±3.9mm,女性8.1±2.5mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.66,女性-0.43),自由度調整済決定係数は男性0.44,女性0.23であった.腹横筋の筋厚は男性4.4±1.2mm,女性3.3±0.9mmであった.重回帰分析の結果,男女ともにいずれの説明変数も筋厚に影響を与える因子として抽出されなかった. 【考察】本研究では,腹筋群における筋厚と年齢,身長,体重,BMIとの関連を明確にするため,若年者から高齢者までの男女の筋厚を測定し,重回帰分析を用いて検討した.その結果,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋厚については,年齢が影響を及ぼす因子として抽出されたが,腹横筋の筋厚では年齢は抽出されなかった。このことから,腹筋群のなかでも腹横筋の筋厚は加齢変化が少ないことが示唆された.また,身長,体重, BMIといった体格はすべての腹筋群の筋厚において影響を及ぼす因子として抽出されなかった.骨格筋の筋萎縮の程度を横断的に比較検討する際,四肢筋の筋厚については体格の差異を考慮し,体格要因で補正した筋厚が用いられることがある.本研究の結果,腹筋群の筋厚については体格による違いを考慮する必要性は少ないと考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究により,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋厚は,加齢に伴って減少するが,腹横筋の筋厚は加齢変化が少ないことが示された.また,腹筋群の筋厚は体格要因による影響は少ないことが示唆された.本研究の結果は腹筋群の筋萎縮の程度を評価する上で考慮すべき重要な知見であると考える.
著者
古居 俊一 白岩 加代子 川勝 修就 長谷 いずみ 金井 秀作 田中 聡 大塚 彰
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3264, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】踏み台昇降運動は、臨床場面において、糖尿病や呼吸器・循環器不全の患者の運動療法の1つとして用いられている。また、臨床場面以外でも高齢者に対して転倒予防や健康増進を目的として用いられている。しかし、踏み台昇降に関しての、台の高さや昇降速度の設定については、疾患や対象者によって異なり、それぞれに対応して運動強度を決定している。わが国における運動強度は、一般にAmerican College of Sports Medicine(ACSM)の基準を参照していることが多い。しかしながら、ACSMで示されている運動強度は昇降用計算式によって求められた概算値である。本研究では、踏み台昇降運動について、日本人健常者を対象に実測値による運動強度とACSMで示されている運動強度が一致するか検討した。【方法】対象は心肺機能及び身体機能に特に問題の無い大学生14名(男性10名:平均年齢21.4±0.5歳、平均身長169.0±2.5cm、平均体重68.6±4.9kg、女性4名:平均年齢21.0±0.8歳、平均身長158.1±2.8cm、平均体重48.5±.1.7kg)である。運動課題は、15cm、25cmの各高さの踏み台を120歩/分の速さで昇降運動を行った。踏み台昇降運動を行う際には、呼吸代謝測定装置VO2000(S&ME社製)を用いて酸素摂取量の測定を行った。踏み台昇降運動は9分間行い、測定開始後2分と測定終了前2分間を除いた5分間を踏み台昇降運動の代謝量として解析に用いた。また、安静時酸素摂取量については、運動負荷を与えず、椅子座位姿勢にて3分間測定した。測定開始後30秒と測定終了前30秒を除いた2分間を安静時代謝量として解析に用いた。解析方法は、VO2000より得られた記録を呼吸代謝解析ソフトM-graphを用いて解析した。各高さにおける運動強度について、安静時酸素摂取量を基に算出した実測値運動強度と1MET=3.5ml/kg/minを基に推測値運動強度を算出した。ACSMが提示する昇降用計算式から求められた運動強度と比較するとともに、実測値運動強度と推測値運動強度においては、対応のあるt検定を用いて統計学的処理を行った。測定値は平均値±標準偏差で示し、危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】予め、被験者には本研究の目的および内容について説明を行い、文書にて同意が得られた者を対象とした。【結果】安静時酸素摂取量は、4.1±0.8ml/kg/minであった。踏み台昇降運動の運動強度は、高さ15cmでは、ACSMが提示する運動強度は5.8METsであるのに対し、実測値運動強度は4.7±1.1METs、推測値運動強度は5.3±0.5METsであった。高さ25cmでは、ACSMが提示する運動強度は7.9METsであるのに対し、実測値運動強度は6.4±1.4METs、推測値運動強度は7.1±0.5METsであった。実測値運動強度と推測値運動強度には統計学的な有意差は認められなかったものの、実測値運動強度は推測値運動強度やACSMの概算値よりも低い傾向を示した。【考察】日本人健常者において、実測値運動強度は、推測値運動強度とACSMで示す運動強度より強度が低い結果となった。この結果から、ACSMを指標として運動処方を行った場合、あるいは1MET =3.5 ml/kg/minで運動強度を求めた場合は、実際には目標とする運動強度に達していない可能性が示唆される。高齢者を対象としたエネルギー消費量の計測を行った研究では、1MET=3.5ml/kg/minで計算した強度と実測による強度で比較した場合、実測による強度の方が低い結果を示し、高齢者の運動処方には十分注意が必要であると述べられている。また、女性を対象とし、肥満者と非肥満者の歩行時のエネルギー消費を比較した研究では、肥満者のほうが歩行速度に関わらず、非肥満者よりも有意にエネルギー消費が大きいとの報告もみられる。酸素摂取量に関しては、体格や心理的状態なども影響することから、1MET=3.5ml/kg/minやACSMで示す概算値を日本人健常者にそのまま適応するのは適切ではないと考えられた。したがって、日本人を対象とした運動強度の概算値を作成する必要があると思われる。【理学療法学研究としての意義】ACSMで提示している運動強度と実測値から求めた運動強度に違いが認められたことは、今後運動処方する際の注意事項として有意義な基礎情報になると考えられる。
著者
宮本 実範 福本 祐士 橋本 尚典 立石 広志
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-18_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに,目的】大腿骨転子部骨折(以下,TF)術後の歩行能力回復に影響する因子は,年齢,受傷前移動能力,認知機能,骨折型,筋力,疼痛などが報告されている。その中で,TF術後では,大腿骨頸部骨折(以下,FNF)と比較し,骨膜刺激の影響などで疼痛が強く遷延しやすい骨折とされている。先行研究では,術後疼痛に関して,FNFを含めた大腿骨近位部骨折での比較や術後早期の報告はされているものの,TF術後のみで退院時の歩行時痛に関して検討した報告はほとんどない。そこで本研究では,TF術後において退院時の歩行時痛に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。【方法】 対象は,平成27年10月から平成30年4月の間に,初回のTFを受傷し,外科的治療後に当院回復期病棟にてリハビリテーションを実施した下記の除外基準に該当しない対象者(n=28)とした。除外基準は,受傷前の移動が自立していない者,認知症や重篤な合併症,複数骨折のある者とした。調査項目は,性別,年齢,骨折型,既往歴(呼吸器疾患,心血管疾患,脳血管疾患,糖尿病,高血圧)の有無,退院前歩行時痛のNumerical Rating Scale(以下,退院時NRS),退院時FIM,退院時歩行自立度,退院時歩行形態,在院日数,入院時Alb値,術後Hb値,術後CRP値,術後ラグスクリュースライディング量(以下,術後LSS量)とした。骨折型は,医師により術前のレントゲン・3DCTを基に安定型・不安定型に分類し,術式を決定した。術後LSS量は,平中による簡易中心法を用いて,術後1週と術後2~3ヶ月のレントゲンを比較した。統計処理には,R2.8.1(CRAN,freeware)を使用し,退院時の歩行時痛に及ぼす因子を検討する為に,退院時NRSを従属変数,その他の評価項目を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を施行した。有意水準は5%未満とした。【結果】 重回帰分析の結果(p<0.001,R=0.78,R2=0.61),退院時の歩行時痛に影響を及ぼす因子は,骨折型(β=0.46,p<0.001),術後LSS量(β=0.45,p<0.002),糖尿病の有無(β=0.39,p<0.005)であった。【結論(考察も含む)】 本研究の結果より,退院時の歩行時痛には骨折型や術後LSS量,糖尿病の有無が影響することが示唆された。TF術後の不安定型や術後LSS量の拡大は,術後の髄内整復位や骨膜刺激,内側骨皮質の骨癒合不全,後壁損傷による股関節周囲筋群の安定性低下,ラグスクリューによる筋膜刺激,頚部短縮からの外転筋効率低下による歩行時側方動揺などが歩行時の疼痛に影響を及ぼすことが考えられる。また,糖尿病の罹患では,術後の回復遅延に影響を及ぼすことや高血糖状態と骨粗鬆症の関連,糖尿病性神経障害から疼痛が遷延しやすいことが考えられる。退院時の歩行時痛が遷延する場合,レントゲンなどから骨癒合の状態,骨癒合不全に影響を及ぼす疾患を配慮する必要性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究であり,田岡病院倫理委員会の承認を得て,対象者に対して研究に対する説明を行い,同意を得て実施した。
著者
川崎 卓也 坂井 泰 柿崎 藤泰 竹澤 美穂
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DbPI1348, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 横隔膜は胸腔と腹腔を隔てる膜状の横紋筋であり,呼吸運動の主動作筋としての機能と,下部体幹の安定化に関与するという二重作用を有する.付着部位が胸骨部,肋骨部,腰椎部からなるドーム状の形状をしており,その走行から重力の影響を受けやすい筋肉であると考えられる.その為,姿勢変化に伴って横隔膜自体の形状も変化し,呼吸時には特異的な運動が生じてくると考えられる.臨床上,体幹機能を評価する際に,呼吸運動や下部体幹の安定性に関与している横隔膜の動きを体表から評価する事も多い.今後の横隔膜機能評価法を確立するため,本研究では姿勢変化に伴う呼吸時の横隔膜運動の質的な検証を行った.【方法】 対象は健常成人男性10名(平均年齢±標準偏差26.6±4.5歳)とした.測定肢位は背臥位と座位の2通りとした.背臥位はベッド上での解剖学的肢位とし,座位は股関節,膝関節90°屈曲位の姿勢となるように座面高を調整した背もたれ座位とした.その際,両上肢は乳頭レベルの高位で腕を組んだ姿勢とした.測定機器は超音波診断装置(東芝メディオ製および日立メディコ製)を使用した.測定項目として,横隔膜筋厚はBモード法(周波数:7.5MHz)を使用し,横隔膜変位量はMモード法(周波数:3.5MHz)にて測定した.測定部位として,横隔膜筋厚は,右中腋窩線上で,第7肋間から第9肋間で,横隔膜が最も明瞭に描出される部位とした.横隔膜変位量に関しては,右鎖骨中線と前腋窩線との中点で,肋骨弓の下縁より横隔膜後方部の変位量を計測した.呼吸パターンは安静呼吸と努力性最大吸気とした.そして安静呼気時の横隔膜の状態を基準とし,安静吸気,努力性最大吸気の横隔膜筋厚,横隔膜変位量を測定した.また,テープメジャーにて剣状突起部での胸郭周囲径を測定した.測定はそれぞれ3回ずつ行い,その平均値を用いた.統計解析は姿勢変化を要因とした一元配置分散分析を行った.横隔膜筋厚,横隔膜変位量,胸郭周囲径についてPearsonの積率相関係数を算出し,有意水準は5%未満とした.なお,予備実験での検者内信頼性ICC(1,1)は,横隔膜筋厚で0.87~0.99,横隔膜変位量で0.47~0.97であった.【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿い,対象者には研究内容に関して十分な説明の上,同意の得られた者を対象として実施した.【結果】 安静呼気,安静吸気,努力性最大吸気の横隔膜筋厚は背臥位で1.84±0.29mm,1.97±0.30mm,3.00±0.76mm,座位で1.97±0.36mm,2.58±0.42mm,3.40±0.83mmであった.また,安静呼気を基準とした安静吸気での横隔膜変位量と,努力性最大吸気での横隔膜変位量は背臥位で17.26±7.74mm,52.47±13.00mm,座位で12.10±3.24mm,34.78±10.10mmであった.胸郭周囲径の変化量では安静呼気を基準に,安静吸気と努力性最大吸気は背臥位で0.80±0.59mm,3.57±0.72mm,座位で1.03±0.49mm,3.65±0.84mmであった.姿勢変化を要因とした一元配置分散分析の結果,安静吸気時の横隔膜筋厚と,努力性最大吸気時の横隔膜変位量に有意差を認めた(p=0.001,p=0.003).背臥位,座位ともに横隔膜筋厚,横隔膜変位量,胸郭周囲径との間に相関関係は認められなかった.【考察】 本研究結果から,背臥位では座位と比較し横隔膜の変位量が増大する傾向が示された.背臥位では努力性最大吸気時の横隔膜変位量が有意に大きい一方で,座位では横隔膜は重力によって吸気時に尾側へ変位しやすいはずであるが,背臥位と比較し変位量は少なかった.これは背臥位では腹部内容物が頭側へ移動する際に生じる圧力による影響が大きいと考えられる.座位では背臥位と比較し横隔膜筋厚と胸郭周囲径が増大する傾向が示された.これは横隔膜変位量減少の代償とも考えられるが定かではない.今後,肺機能検査を含めた検討を行っていく必要があると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 横隔膜機能評価法を確立するために,背臥位と座位における横隔膜筋厚と横隔膜変位量の関連性について検討を行った.様々な因子を含む体幹機能を漠然と定量化することは不可能であるが,呼吸運動と下部体幹の安定化の二重作用を有する横隔膜の機能評価法が確立できるならば,体幹機能評価の一つとして利用できるのではないかと考える.
著者
井尻 朋人 宮下 浩二 浦辺 幸夫 武本 有紀子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0270, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】 肩関節の筋力低下は、腱板などの肩甲上腕関節の筋力低下のみならず、肩甲骨の安定性の低下によるものが少なくない。肩甲骨の安定性には前鋸筋が大きな役割を果たしており、安定性が低下している例に対しては前鋸筋のエクササイズを行うが、その有効性は明らかではない。本研究は、前鋸筋の筋力強化により肩関節の筋力が増加するという仮説のもと、その効果と有効性を分析した。【方法】 肩関節に疾患を有さない健常男性を対象とし、15名をエクササイズ群、12名をコントロール群とした。エクササイズ群に前鋸筋エクササイズであるElbow push up plusを1日20回×3セット、1週間行わせた。エクササイズ前と1週間後に肩関節の屈曲、外転、内旋、外旋および肩甲骨の外転筋力を測定した。肩関節の筋力の測定は徒手筋力検査法に準じ、マイクロFET2(HOGGAN Co.)を用いて得た力(N)にレバーアーム長を乗じてトルク値として算出した。肩甲骨外転筋力はマイクロFET2で得られた値とした。エクササイズ前の筋力を基準値100とし、1週間後の値を算出し、エクササイズ前後で比較した。また、コントロール群もエクササイズ群と同様に初日と1週間後で筋力測定を行い比較した。統計処理は対応のあるt検定を用い、危険率1%未満を有意とした。【結果】 エクササイズ群は1週間後に右肩関節屈曲106±5、外転110±10、内旋117±17、外旋105±9、肩甲骨外転119±20であり、左肩関節は屈曲108±9、外転113±12、内旋113±10、外旋104±8、肩甲骨外転114±12であった。コントロール群は1週間後に右肩関節屈曲101±5、外転101±6、内旋100±6、外旋101±4、肩甲骨外転100±2であり、左肩関節屈曲101±6、外転99±5、内旋99±5、外旋102±4、肩甲骨外転99±3であった。エクササイズ群は両肩関節屈曲、外転、内旋、肩甲骨外転で有意に筋力が増加したが、外旋では有意な筋力の増加はみられなかった。一方、コントロール群ではすべての筋力において有意な増加はみられなかった。【考察】 肩関節は肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節を中心に構成されており、前鋸筋の筋力低下による肩甲骨の不安定性は、肩関節の筋力低下の要因となる。Elbow push up plusは前鋸筋の筋力強化エクササイズであり、肩甲骨の安定性の向上を目的としている。今回の研究ではその効果により肩関節の筋力が増加したと考えられる。Elbow push up plusによって肩関節屈曲、外転、内旋筋力が増加した理由については、それらの運動が前鋸筋の作用である肩甲骨後傾、上方回旋、外転を伴うためであると考える。本研究の結果は、肩関節の筋力の評価や理学療法の処方において有効な情報になりうる。
著者
柳澤 史人 財前 知典 小関 博久 金子 千秋 小谷 貴子 松田 俊彦 藤原 務 古嶋 美波 加藤 宗規
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3404, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】近年、肩回旋可動域を測定するpositionにおいて、肘関節90°屈曲位(以下1st)、肩関節90°外転・肘関節90°屈曲位(以下2nd)、肩関節・肘関節90°屈曲位(以下3rd)という言葉は定着してきている.しかし、関節可動域についての報告は散見されるものの、各positionにおいて発揮できる筋力について報告されているのは少ない.上記の3つのpositionでの内・外旋筋力を比較・検討したのでここに報告する.【方法】対象は肩関節疾患既往がなく、ヘルシンキ宣言に基づき研究内容を十分に説明し同意を得た健常成人17名(男性10名、女性7名、平均年齢24.5±7.5歳)である.肩関節1st・2nd・3rd positionにおける等尺性最大肩内旋・外旋筋力を検者の手掌に等尺性筋力測定器(アニマ社製μTasF-1)を装着した状態でmake testにて測定した.測定肢位は被検者を端坐位として肘を台上に置き、前腕回内外中間位・手指軽度屈曲位とした.検者は測定器を被検者の前腕遠位部にあてるとともに、対側の手で被検者の肘を固定することにより代償を最小限にして測定を行った.各検査とも検査時間は5秒間、30秒以上の休憩をおき2回ずつ行った.なお各positionの測定順はランダムに実施した.統計的手法としては、連続した2回のtest-retest再現性について級内相関係数(ICC(1,1))を用いて検討し、各positionの比較は2回の高値を採用して一元配置の分散分析と多重比較(Tukey HSD)を用いて検討した.統計はSPSS ver15用い、有意水準は1%以下とした.【結果】等尺性内外旋筋力平均値は、1回目・2回目の順に1st外旋6.29・6.72kg、1st内旋8.64・9.05kg、2nd外旋4.11・3.94kg、2nd内旋5.98・5.94kg、3rd外旋3.78・3.84kg、3rd内旋7.62・7.73kgであった.2回のテストにおけるICCは0.914~0.983であった.外旋は一元配置の分散分析に主効果を認め、多重比較では1st-2nd、1st-3rdで有意差を認め1stが高値を示したが、内旋では主効果を認めなかった.【考察】今回の結果、2回のtest-retestの再現性はいずれも高いことが示唆された.また、各positionでの比較では、内旋筋力にて有意な差は認められなかったが外旋筋力においては2nd・3rdと比較し、1stでの外旋筋力に高値を示すことが示唆された.しかし、今回の測定では外旋で差を呈した要因の特定は困難であり、今後は筋電図を用いた検討などを重ねていきたい.
著者
宮前 茜 新井 悠里江 井上 大介 青柳 恵三子 後閑 浩之
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1217, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】立位時に唯一の支持面である足底には、身体運動遂行と状況変化に対応して足底の感覚情報を集積する多数のメカノレセプターが存在する。足趾把持練習によるバランスの向上にはメカノレセプターの賦活が関係し、メカノレセプターは筋伸張と速度変化によって活動頻度が増加するといわれている。今回タオルギャザーにおいて、筋を伸張させかつ快適な速度で実施、さらに肢位を坐位と立位で行い、肢位の違いによる固有受容覚及びバランスへの影響を検討することを目的とした。【方法】対象は同意が得られた当院スタッフ健常者16名で平均は25.8±3.0歳。測定項目は固有受容性テストの変法(以下PPT)、functional reach(以下FR)、片脚立位の30秒間の総軌跡長と外周面積をAnima社製重心動揺計にて計測し、これらを介入前後に計測した。PPTは立位の施行内容を坐位の姿勢で変法として考案した。方法は閉眼坐位で左右どちらか一方の脚の股関節を最大屈曲し、最初の位置に戻す方法で実施した。逸脱した距離を2.5mm刻みで測定し、回数は14回で3回目以降の平均値を採択(ICC=0.851)した。介入はタオルギャザーを実施し、両足75回/分の速度で足趾の伸展を意識し20秒間実施、1分の休憩を挟んで3セット実施した。学習効果を配慮し、同一対象者で坐位と立位での介入・計測に2日以上の間を空けた。PPTの挙上した下肢と、介入肢位の順序は無作為に決定した。統計処理は対応ありのt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】PPTの逸脱した距離は介入肢位が坐位、立位ともに介入前に比べて介入後に有意に減少した。片脚立位での総軌跡長は、介入肢位が立位でのみ介入前に比べて介入後に有意に減少した。FRにおいては介入肢位に関わらず介入前後で有意な差は認められなかった。【考察・まとめ】タオルギャザー実施後に介入肢位が坐位と立位の両方でPPTの逸脱した距離の減少が有意に認められたことから、介入肢位には関係なく下肢全体のメカノレセプターの賦活の可能性が示唆された。また介入肢位が立位において片脚立位での動揺が制御され総軌跡長が減少したのは、立位が荷重肢位であり、足底圧増大や重心移動が加わることによる姿勢保持のための筋出力が増大したためと考える。このことからタオルギャザー介入肢位は坐位よりも立位の方が有用である可能性が示唆された。
著者
中村 友貴 前川 美幸 矢代 梓 野中 紘士 森 潤一 秋山 純一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0851, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】我が国における認知症患者は2010年時点で約200万人とされてきたが,今後高齢者人口の増加とともに認知症患者数もさらに増加し,2020年には325万人まで増加すると推定され,認知症の対応が重要である。日常生活を行う上で,認知症は学習能力・理解力を低下させ,理学療法を行う上で阻害因子となる。現在,ビタミンD3による認知症・学習効果に関する詳細な基礎的研究はみられない。ビタミンD3は腸管からカルシウムの吸収を促進したり,尿からのカルシウム排泄を抑制したりすることで,血中カルシウム濃度高めるという作用が知られている。また,適度な血中カルシウム濃度の安定化は精神活動に良い影響を与えると考えられている。そこで,ビタミンD3が血中カルシウム濃度を介して,学習能力にも影響を与えるのではないかと考え,本研究を行った。マウスに各種濃度のビタミンD3の経口投与を行い,受動的回避試験による学習効果と明暗弁別回避学習の習得や空間記憶に関与するとされる脳内セロトニン濃度の変動について検討を行った。【方法】本実験は,生後26週齢のICR系雌性マウス40匹を使用した。マウスを無作為に4群に分け,それぞれ10匹ずつの①コントロール群(無処置群),②ビタミンD3(2ng)投与群(以下2ng群),③ビタミンD3(10ng)投与群(以下10ng群),④ビタミンD3(20ng)投与群(以下20ng群)とした。②~④群に対して1日1回,ラットの体重20gに対して各種濃度のビタミンD3の経口投与を行った。経口投与開始,1週,2週後に各群10匹ずつを用いて受動的回避試験を実施した。受動的回避試験とは暗室に進入した際に電気刺激を与えることで,暗室への進入を痛みである恐怖と関連付けて記憶させて,暗室への進入に要した時間と試行の回数により学習効果判定を行う試験である。試験後,麻酔の腹腔内大量投与により屠殺し,大脳の採取を行った。受動的回避試験の結果とELISA法による大脳のセロトニン濃度測定により評価を行い,ビタミンD3の経口投与が学習能力に与える影響について比較検討を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本動物実験は,吉備国際大学動物実験委員会の承認を得て行った。(承認番号A-11-03)【結果】各群間で受動的回避試験の結果を比較したところ,1週目ではコントロール群と比べて10ng群で有意に高い学習効果を示し,次いで20ng群で有意に高い学習効果を示した。しかし,2週目ではコントロール群と比べて10ng群にのみ学習効果の有意差が認められた。さらに,脳内のセロトニン濃度測定をコントロール群と比較したところ,1週目では10ng群,20ng群の順に有意に高い値を示した。さらに2週目においても,10ng群,20ng群の順に有意で高い値を示した。1週目と2週目の比較では有意に同様の高い値を示し,ビタミンD3の経口投与での持続的な効果が認められた。以上より,ビタミンD3が学習能力に有意性を与 えることが確認された。また,マウスに対してのビタミンD3の適量は低濃度投与群の10ngであることが明らかであった。【考察】受動的回避試験と大脳セロトニン濃度の測定結果より,ビタミンD3の経口投与が学習能力の向上作用を持つことが強く示唆された。脳内セロトニンは,明暗弁別回避学習の習得や空間記憶機能に関与するとされる。本研究は,明暗の弁別という受動的回避試験と大脳セロトニン濃度測定により学習効果判定を行ったために,高い学習効果が得られたと考えられる。また,ビタミンD3が学習能力に与える効果の至適濃度の存在が認められた。至適濃度以上の高濃度のビタミンD3投与では高カルシウム血症状態になったためではないかと考えられる。高カルシウム血症状態が精神活動の不安定化が引き起すとされており,このことが学習能力に悪影響を与えたのではないかと考えた。今後の展望として,ビタミンD3投与による学習効果向上が認められたことから,ビタミンD3の経口投与が認知症の予防や治療にも応用できるのではないかと考えられる。今後,Y字型迷路試験や水探索試験のように学習・記憶行動の様々な評価法で学習効果判定を行うことで,ビタミンD3経口投与による学習効果の更なる有効性が確認出来るのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】マウスを用いてビタミンD3経口投与による学習効果に与える影響について,受動的回避試験と脳内セロトニン濃度測定により検討した。その結果,ビタミンD3経口投与が学習効果の向上作用を持つことが明らかになった。高濃度のビタミンD3経口投与では高い学習効果が得られなかったことから,ビタミンD3の経口投与には至適濃度が存在することが示唆された。ビタミンD3の経口投与により学習効果が改善されることで,理学療法の各種治療が効率的に行えると考える。
著者
世古 俊明 隈元 庸夫 高橋 由依
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101430, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】大殿筋、中殿筋は股関節の肢位の違いによって筋線維走行や筋線維長が変化し、発揮される筋活動や運動作用の逆転が起こり筋機能も変化する。そのため立位保持や歩行など運動機能を考える上で関節角度の変化に伴う筋の作用や筋力発揮の特性を解明することは運動療法で重要となる。とりわけ大殿筋と中殿筋のトレーニングは関節可動域制限などの理由にて股関節屈曲位での実施となることが多々みられる。本報告の目的は、股関節の肢位の違い及び運動の違いが大殿筋、中殿筋の筋活動に及ぼす影響を筋電図学的に検討し、その機能を考察することである。【方法】対象は健常者9 名(全例男性、平均22.5 歳、169.7cm、65.0kg)とした。施行運動は等尺性股関節伸展運動(股関節伸展運動)と等尺性股関節外転運動(股関節外転運動)の2 種類とした。施行条件は股関節の屈曲角度の違いとして、側臥位での股関節屈曲90 度位(90 度位)、股関節屈曲0 度位(0 度位)、股関節伸展15 度位(−15 度位)の3 条件とした。90 度位のみハムストリングスの影響を最小限とするため膝関節90 度屈曲位とした。筋活動の測定には表面筋電計(Tele Myo G2、Noraxon社製)を用いた。右側の大殿筋上部線維(UGMa)、大殿筋下部線維(LGMa)、中殿筋(GMe)、大腿二頭筋(BF)、腰部背筋(LE)を導出筋とし、得られた筋活動を徒手筋力検査判定5 の筋活動量で正規化し、これを%MVCとして算出した。なお筋電図は生波形を全波整流し、筋電図解析ソフトにて解析した。また施行運動での股関節伸展筋力と股関節外転筋力を施行条件ごとに徒手筋力測定器(MICROFET2、Hoggan Health社製)で計測し、体重で除した値をそれぞれの筋力値として採用した。筋電図と筋力値の測定は同期化し、被験者の施行運動中は検者と別の検者が体幹を固定して測定の再現性に努めた。各筋の%MVCを施行運動の違いで、筋力値を施行条件の違いで比較検討した。統計処理はt-test、Welch検定、Wilcoxon-t検定、Holmの方法を用いて有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に則り、十分な配慮を行い、本研究の目的と方法、個人情報の保護について十分な説明を行い、同意を得た。【結果】UGMa、LGMaの%MVCは−15 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。UGMa、LGMaの%MVCは90 度位で股関節伸展運動時よりも股関節外転運動時に高値を示した。GMeの%MVCはすべての施行条件で施行運動の違いによる差を認めなかった。BFの%MVCは0 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。LEの%MVCは90 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。股関節伸展筋力値は施行条件の違いで差を認めなかったが、股関節外転筋力値は90 度位、−15 度位よりも0 度位で高値を示した。【考察】UGMa、LGMaは筋走行の特性から股関節伸展位では伸展作用、屈曲位では外転作用を有することが考えられている。今回、大殿筋の筋活動量が−15 度位では股関節伸展運動時に、90 度位では股関節外転運動時に筋活動量がそれぞれ高値を示したことは、この解剖学的筋走行の影響を筋電図学的に裏付ける結果になったと考える。また股関節伸展筋力値が施行条件で差を認めなかった。この股関節伸展運動時の筋活動量と筋力値の結果は、UGMa、LGMが90 度位では筋長が伸張位となるため活動張力よりも静止張力に依存し、−15 度位では筋長が短縮位となるため静止張力よりも活動張力に依存していた可能性を示唆するものと考える。また骨盤の代償動作を固定していたとはいえども90 度位での股関節伸展運動時にはLEが伸張位となり骨盤を介した股関節伸展運動の固定筋として活動しやすく、UGMa、LGMaによる伸展運動を効率的に発揮させていた可能性も考えられた。GMeがすべての施行条件で股関節外転運動時と股関節伸展運動時の筋活動量に有意差を認めない一方で股関節外転筋力値が0 度位で高値を示したことは、股関節深屈曲位よりも浅屈曲位でより活動すると筋電図学的に報告されている大腿筋膜張筋の影響が考えられ、膝関節屈曲角度要因とともに今後の検討課題となった。【理学療法研究としての意義】股関節屈曲角度の違いによる筋活動の違いとして、中殿筋は今後の検討課題が明確となり大殿筋は筋活動特性の一知見が筋電図学的に得られた。この知見は臨床での運動療法時や動作分析時における基礎的情報になると考える。
著者
吉住 浩平 永井 良治 金子 秀雄 吉野 絵美 梅田 泰光 大木 誠竜
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P1114, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】月経時において仙腸関節痛を訴える女性は多い.一般に仙腸関節の疼痛に関して、その不安定性が大きな影響を与えていると考えられている.今回、月経時と非月経時の仙腸関節の安定性について比較し、仙腸関節不安定性の有無についての検討をおこなった.【方法】対象は健常女性13名(平均年齢25.4±3.3歳).仙腸関節痛の評価として、仙腸関節痛の再現テストであるPosterior Pelvic Pain Provocation test(以下、PPPP)を実施し、疼痛発生の有無を聴取した.仙腸関節の安定性の評価として下肢伸展挙上運動(以下、 ASLR-t:Active Straight Leg Raise test)を用いた.ASLR-testにおいて主観的運動強度(6段階評価、0:非常に楽である~5:不可能)を聴取するとともに、20cm挙上位における股関節屈曲運動の随意的最大等尺性収縮トルク(以下、股関節屈曲トルク)を等速度運動器(Chattex社製KIN/COM500H)を用いて測定した.測定時期は月経時、非月経時で、股関節屈曲トルクの測定は4秒間の等尺性収縮時の最大トルクを計測した.左右とも4回行い、PPPPにて疼痛を認めるものに関しては疼痛側を、疼痛を認めないものに関しては任意の一側のASLR-tから得られたデータの最大値、最小値を除いた値の平均値を採用した.また、個人差を考慮して得られた股関節屈曲トルクを下肢長、体重で正規化(Nm/Kg)した.計測に先立ち、被験者に本研究の趣旨を口頭、書面にて説明し、研究参加への同意を得た.統計処理に関して主観的運動強度についてはWilcoxon符号付順位和検定を、股関節屈曲トルクについてはt検定を用いた.なお、有意水準は5%未満とした.【結果】主観的運動強度と股関節屈曲トルクに関して有意な差を認めた(p<0.05).ASLR-test時の主観的運動強度は非月経時に1.0点、月経時に2.1点であり、月経時において有意に主観的運動強度の増加を認めた.股関節屈曲トルクは非月経時1.12Nm/kg、月経時は0.92Nm/kgであり、月経時において有意に低値を示した.なお、月経時のPPPPに伴い仙腸関節痛が発生したのは13名中8名であった.【考察】仙腸関節の安定性の評価としてASLR-testは妥当性・信頼性共に高いテストである.今回得られた結果より、月経時に仙腸関節の不安定性が存在する可能性が示唆された.このため月経時の仙腸関節痛に関して、仙腸関節の不安定性という機械的因子も関与している可能性があると考えることができる.