著者
田端 洋貴 藤田 修平 脇野 昌司 辻本 晴俊 中村 雄作 阪本 光 上野 周一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0842, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】当院では2015年10月よりロボットスーツHAL FL-05(以下HAL)を導入し運用を開始している。近年HALに関する報告は散見するが,神経難病に対する効果についての報告は僅少である。そこで当院における神経難病患者に対するHAL導入効果を検討したので報告する。【方法】HAL導入基準は,歩行補助具の有無や種類に関わらず,見守りまたは自立して10m歩行可能な神経難病疾患とした。対象は11例(男性5名,女性6名),平均年齢54.8±18.3歳で,対象疾患は,脊髄小脳変性症7例,筋ジストロフィー1名,筋萎縮性側索硬化症1名,多発性硬化症2名であった。1患者当りのHAL歩行練習実施時間は,着脱を併せて1回60分,アシスト量は被験者が快適に感じ,且つ理学療法士が歩容を確認しながら適宜調整した。歩行練習には,転倒防止の為にAll in oneを使用し,実施回数は1患者当り平均12.4±3.7回であった。測定項目は,歩行評価として10m最大歩行速度,バランス評価としてTimed Up and Go test(以下TUG)をHAL実施前(HAL前)とリハビリ終了後(HAL後)に測定した。統計学的分析にはWilcoxonの符号付き順位検定にて有意水準は5%未満とした。【結果】10m最大歩行速度は,HAL前0.75±0.31m/s,HAL後0.99±0.38m/s,歩幅は,HAL前0.45±0.11m,HAL後0.51±0.11m,歩行率は,HAL前95.7±28.8 steps/min,HAL後113.2±27.2steps/minであった。TUGはHAL前25.9±24.4s,HAL後17.4±9.7sであった。HALによるリハビリにより歩行速度や歩幅,歩行率などの歩行パフォーマンスと,バランス指標であるTUGにおいて有意な改善を示した。歩行速度の向上には歩幅と歩行率の改善が寄与するとされ,HALは荷重センサーにより重心移動を円滑に行わせ,律動的で一定の正確な歩行リズム形成により歩行率を高め,歩容などが改善した結果歩行速度が向上したと考えられた。また歩行速度の向上に求められるトレーニング要素としてはトレーニング量があり,HALが歩行アシストする事で身体にかかる負担が軽減された事により,歩行速度向上に繋がる十分な練習量の獲得が,過用・誤用症候群の出現なく達成出来たものと考える。【結論】神経難病は多くが進行性で,確立した治療法が無く,早期からのリハビリテーションによる機能維持が重要である。今回の結果から,HALによる歩行練習により歩行能力,バランス能力に改善効果を認めた。この事は,ADLやQOLの維持・向上につながり,神経難病に対する有効なリハビリテーションツールの1つとして非常に意義のあるものと考える。今後は,より効果の高い具体的な介入方法などを検証し,有効的なHALの使用方法の確立を目指していく。
著者
栗駒 かおり 池 康平 畑 知宏 久木 はる奈 堀 晋之助 河合 春菜 服部 暁穂 山田 めぐみ
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P3052, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】 有酸素運動として一般的にはウォーキング(速歩)、ジョギング、サイクリング、水中運動等が挙げられる.しかし、臨床では心疾患及び骨・関節疾患等の身体的なリスクがある場合において、自転車エルゴメーター(以下エルゴ)及びリカンベントを用いることが多い.それらを使用するにあたり、それぞれの特性を把握しておくことは重要である.しかし、エルゴとリカンベントを比較した報告は少ない.そこで我々は、双方に心肺運動負荷試験(以下CPX)を実施し、駆動姿勢の変化が有酸素運動に及ぼす影響について検討した.【方法】 対象は同意を得た健常成人10名(男性6名女性4名、年齢24.6±5.4)とした. エルゴを使用し、起立座位及び、リカンベント様姿勢にて回転数60rpmのRamp負荷法(男性20watts/min、女性15watts/min)でCPXを施行した.呼気ガス分析はミナト医科学社製エアロモニターAE300Sを用いた.比較項目は、運動開始から嫌気性代謝閾値(AT)までの負荷増加に対する酸素摂取量(AT-V(ドット)O2)・時間(AT-Time)・負荷量(AT-Load)とした.また、同様に呼吸性代償点(RC)までの、酸素摂取量(RC-V(ドット)O2)・時間(RC-Time)・負荷量(RC-Load)・ATからRCまでの酸素摂取量(AT- RC V(ドット)O2)、及びボルグスケールも算出・比較した.統計処理はスチューデントのt検定を用いて検討した.有意水準は5%未満とした.【結果】 CPXから得られた双方の各指標は有意な差を認めなかった.また、V(ドット)O2及びボルグスケールは有意差を認めなかったが、リカンベント様姿勢での施行が高値傾向であった.【考察】 本研究において駆動姿勢の変化は、CPXの各指標には有意な差を認めなかった.このことから、身体的なリスク(肥満、高齢者、長時間の端坐位が困難な腰部疾患や体幹が不安定な片麻痺)を有し、エルゴ使用困難な場合、リカンベントを使用することで、エルゴと同様の有酸素運動が実施出来ることが示唆された. しかし、ボルグスケールや動員筋活動に影響すると言われているV(ドット)O2はAT及びRCにおいて有意な差を認めないが、リカンベント様姿勢が高値傾向であり、被検者からは下肢の疲労の訴えが多かった.その原因として、リカンベント様姿勢は体幹が固定され下肢を中心とした運動が多い、また、駆動時の下肢の運動方向がエルゴでは従重力位に対し、リカンベント様姿勢は水平方向であったため、筋活動に違いを生じたのではないかと考える.このことから、リカンベントの使用は有酸素運動に限らず機能訓練にも有効であると考えられる.本研究では双方の下肢筋活動量は測定していないが、今後それらを比較・検討する必要がある.【まとめ】 本研究により、エルゴ使用時の駆動姿勢の変化は双方ともに同様の有酸素運動効果が得られると示唆された.
著者
永渕 輝佳 中田 活也 玉木 彰 永井 宏達 永冨 孝幸 木村 恵理子 濱田 浩志 二宮 晴夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1325, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】私達は第48回日本理学療法学術大会において筋温存型MIS-THAであるanterolateral-supine approach(AL-S)と筋切離型MIS-THAであるposterolateral approach(PA)の進入法の違いによって股関節外転,伸展,外旋の筋力回復はAL-Sのほうが早いことを報告した。また,Gremeaux(2008年)らは,THA術後の筋力回復において大腿四頭筋と下腿三頭筋へ低周波を行うことによって,膝伸展筋力の改善があると報告しているが,股関節周囲筋への電気刺激による筋力への影響を検討した報告はみられない。そこで今回,THA術後早期の下肢への電気刺激(Electric muscle stimulation:EMS)が術後下肢筋力,達成度に与える影響を明らかにすること目的に検討を行った。【方法】当院において変形性股関節症(股OA)を原因疾患として初回片側THAの施行症例で脱臼度Crowe分類III度以上の股OA,非手術側が有痛性の股関節疾患を罹患している者を除外した70例を対象とした(全例女性・平均年齢63.0±7.6歳)。これらの内訳は,AL-S群32例(62.8±7.2歳),PA群32例(63.0±8.2歳),PAの電気刺激群(EMS-PA)6例(60.8±5.5歳)であった。身長,体重,BMI,手術時年齢は3群間に統計学的有意差は認めなかった。手術はすべて同一の術者が行い,術後は3群ともに同一のクリニカルパスを使用し,術翌日より理学療法士による関節可動域練習,筋力増強練習,歩行練習,ADL練習を実施した。EMS-PA群においては手術側の大殿筋に対して術後3日目より週5日を3週間行った。電気刺激の周波数20Hz,肢位はベッド上背臥位とし,関節の動きを含まないような収縮を20分間行い,不快感や痛みを訴えた場合は中止した。電気刺激装置はホーマーイオン社製オートテンズプロIIIを使用した。検討項目は股関節外転,屈曲,伸展,外旋,内旋,膝関節伸展,屈曲筋力とし,術前,術後10日(10D),21日(21D),2カ月目(2M)に測定した。筋力測定にはHand-Held Dynamometerを使用し,同一の検者によって行い,得られた値からトルク体重比(Nm/Kg)を算出した。達成度は手術日からのStraight Leg Raiseが可能,片脚立位(SLS)が可能,杖自立,独歩自立になるまでの日数を調査した。統計学的検討は筋力推移の比較には分割プロット分散分析3×4,進入法(AL-SとPA,EMS-PA)×時期(術前,10D,21D,2M)を行った。術前に有意差を認めた項目は共分散分析を行い,交互作用を認めた項目は多重比較検定を行った。達成度の検討は一元配置分散分析を用い,有意差を認めた項目は多重比較検定を行った。全ての検定の統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会による承認を受けた上で実施した。全対象者に対し,事前に十分な説明を行い,研究参加への同意と同意書への署名を得た。【結果】筋力推移の比較では股関節外転(p<0.01)屈曲(p<0.05)外旋(p<0.01)伸展(p<0.01)筋力において進入法と時期の要因間に交互作用が認められた。各時期の3群間の比較では股関節外転は術後10DではAL-SがPAより高く,21D,2MではAL-S,EMS-PAがPAより高かった。股関節外旋は術後10DではAL-SがPA,EMS-PAより高く,EMS-PAがPAより高かった。21DではAL-SがPA,EMS-PAより高く,2MではAL-SがPAより高かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。伸展は10DではAL-SがPAより高かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。達成度は,SLS可能日数,杖歩行自立までの日数は3群間に有意差が認められ,両項目ともにAL-S群がPA群より有意に早かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。EMSは全例,途中で中止することなく行えた。【考察】電気刺激療法の効果としては筋機能の改善,疼痛緩和,組織修復促進,血管新生,血管透過性の促進などが報告されている。Simon(1990年)らは大殿筋への電気刺激により臀部の血流が増加したと報告しており,今回の電気刺激の強度,頻度から考えると大殿筋に関与している股関節伸展や外旋筋力がPAに比べ回復していたのは,電気刺激により血流増加による疼痛緩和や動員される運動単位の増加,type2繊維の筋収縮を促すことが筋機能の向上に繋がったのではないかと考える。外転筋力に関しては,短外旋筋は関節の後方安定性に寄与していると言われており,EMS-PAがPAより外旋筋力が高かったことからEMS-PAの股関節の安定性が向上し外転筋力が改善したのではないかと考える。本研究の結果より,THA後の電気刺激は安全に行うことができ,術後の筋力回復に有用であることが示された。【理学療法学研究としての意義】THA術後早期の下肢への電気刺激が術後下肢筋力,達成度に与える影響を明らかにすることで,術後早期のリハビリテーションにおける個別プログラム立案の一助になると考えられる。
著者
生友 尚志 田篭 慶一 三浦 なみ香 中川 法一 増原 建作
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0527, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】人工股関節全置換術(THA)後1年間の筋力の推移を報告した研究はほとんどない。本研究の目的は,THA術前から術後1年間の股関節外転(股外転)筋力と膝関節伸展(膝伸展)筋力の推移を明らかにすることである。【方法】対象は当クリニックにて初回片側THAを施行した女性64名とした。対象者は全例が片側の変形性股関節症であり,平均年齢は63.6±9.4歳,罹病期間は7.7±6.6年,Harris Hip Scoreは61.7±11.3点であった。手術は全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術前後のリハビリテーションは同一の理学療法士が主に担当し,1日2回計2~3時間程度週6日実施した。術後2日目より歩行開始し,筋力トレーニングは対象者の回復状況に応じて実施した。股外転筋力トレーニングは,術後3か月までは創部への過負荷を避けるため高負荷な股外転運動は実施せず,ゴムバンドを用いた運動を中心に実施した。術後3か月以降は側臥位や荷重位での股外転運動などの積極的な股外転筋力トレーニングを追加して実施した。膝伸展筋力トレーニングは術後早期より積極的に術側下肢への荷重練習を実施し,段差昇降運動や自転車エルゴメーターなどを実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月,1年時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,両側の股外転と膝伸展の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は,術前,術後3週,3か月,6か月,1年時とした。測定方法は,股外転は背臥位にて股外転0度で大腿遠位外側部にて測定,膝伸展は端座位にて膝関節屈曲約80度で下腿遠位前面にて測定した。測定には固定バンドを使用し全て同一検者にて行い,約3秒間の最大等尺性筋力をそれぞれ2回測定し,その最大値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また各筋力の患健差の推移を検討するために患健比(患側トルク体重比/健側トルク体重比×100)を算出した。統計解析は,各筋力の測定時期におけるトルク体重比の比較には,Friedman検定と多重比較検定を用いた。患健比の推移の比較には,測定時期,筋力間を要因とした二元配置分散分析を用いた。全て有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭ならびに書面にて本研究の趣旨を説明し,研究参加の同意書に署名を得た。【結果】股外転筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は0.70±0.26Nm/kg,0.93±0.27Nm/kg,術後3週は0.67±0.23Nm/kg,0.89±0.22Nm/kg,術後3か月は0.87±0.26Nm/kg,1.01±0.24Nm/kg,術後6か月は0.95±0.25Nm/kg,1.06±0.24Nm/kg,術後1年は1.04±0.28Nm/kg,1.10±0.29Nm/kgであった。股外転筋力の患健比は,術前は75±17%,術後3週は75±15%,術後3か月は86±16%,術後6か月は90±13%,術後1年は95±12%であった。膝伸展筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は1.07±0.39Nm/kg,1.42±0.44Nm/kg,術後3週は1.00±0.28Nm/kg,1.44±0.40Nm/kg,術後3か月は1.30±0.36Nm/kg,1.56±0.40Nm/kg,術後6か月は1.39±0.39Nm/kg,1.57±0.41Nm/kg,術後1年は1.48±0.40Nm/kg,1.62±0.41Nm/kgであった。膝伸展筋力の患健比は,術前は76±18%,術後3週は70±13%,術後3か月は84±15%,術後6か月は90±16%,術後1年は92±16%であった。Friedman検定の結果,両筋力ともにトルク体重比は測定時期によって有意な差がみられた(p<0.01)。多重比較検定の結果,患側のトルク体重比は術前と術後3週では有意な差は無く,術後3か月,6か月,1年では術前と比較して有意に高かった(p<0.05)。分散分析の結果,患健比の測定時期,筋力間の要因による交互作用はみられなかった。両筋力ともに測定時期間では患健比の有意な差がみられたが(p<0.01),両筋力間では患健比の有意な差はみられなかった。【考察】本研究の結果より,患側の股外転筋力と膝伸展筋力ともにTHA術後3週時には概ね術前の水準まで回復しており,術後3か月以降は術前と比べて有意に改善を示し,その後術後1年まで改善し続けることがわかった。また,患健比は両筋力ともに測定時期間での有意な改善はみられるが,術後1年間の推移については両筋力間に有意な差はみられなかった。先行研究では,THA術後早期において他の股関節周囲筋の筋力に比べて膝伸展筋力の回復が遅延することが報告されている。しかし,本研究により術後1年間においては股外転筋力と膝伸展筋力の回復には差がないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,THA後1年間の股外転筋力と膝伸展筋力の推移の参考値の1つとなり,THA術前後のリハビリテーションにおいて意義があると考える。
著者
中本 佳代子 小口 健 石垣 智也
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1662, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】リハビリテーションにおける患者の転倒転落事故(以下,転倒転落)は,療法士の不注意等が原因である事例がある。その背景には療法士個人が有する要因や就労特徴があるものと考えられるが,そのような調査はこれまで散見される程度であり,また個人の就労特徴やストレス,職務満足に着目した検討は行われていない。そこで本研究では,転倒転落に関連し,療法士個人に起因する要因を,就労特徴や職務満足に着目し検討することを目的とした。【方法】療法士個人に起因する転倒転落について,2015年度の転倒転落インシデント31件(患者影響レベル0~3a),アクシデント0件(3b以上)から内容を分類した。調査対象は,当院療法士(理学療法士,作業療法士,言語聴覚士)68名であり,個人の就労特徴や職務満足度を問う22項目のアンケート調査を行った。内容は,職種,年齢,役職,勤続年数,配偶関係,朝食摂取の有無,通勤時間,病院出勤時刻,睡眠時間,有給休暇取得状況,業務の課題・制約,職場ストレス,職務満足度,私生活について等である。回答は当該項目の有無,7件法(全く感じない~非常に感じる)によるリッカート方式で求めた。統計解析は各アンケート回答項目のデータ分布から,「どちらともいえない」以上を有とする二値型データ(有無)に加工し,転倒転落有群と無群の比較をカイ二乗検定にて行った。その後,転倒転落有を目的変数とし,カイ二乗検定で有意差を認めた3項目(睡眠時間がとれている,上司が個人的な相談を聞いてくれる,同僚が個人的な相談を聞いてくれる。)を説明変数としたStepwise法によるロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。【結果】2015年度転倒転落インシデントは48件あり,うち療法士に起因するものは31件であった。質問紙回収数は62(回収率91%),回答職種は,理学療法士43名,作業療法士13名,言語聴覚士6名,経験年数6.4±5.3年であった。カイ二乗検定の結果,転倒転落有群において,睡眠時間がとれている(P<.05),上司が個人的な相談を聞いてくれる(P<.05),同僚が個人的な相談をきいてくれる(P<.05)と回答する者が有意に少なかった。ロジスティック回帰分析における,転倒転落への独立関連要因は,睡眠時間がとれている,オッズ比0.14(95%CI:-3.8~-0.17)(P<.05)。個人的な相談を職場の上司は聞いてくれる,オッズ比0.09(95%CI:-4.75~-0.08)(P<.05)であった。(判別的中率76.8%)。【結論】療法士の不注意等で引き起こされた転倒転落インシデントには,一般的に考えられているような療法士の経験年数の少なさではなく,睡眠を適切量とれているか,または上司に適切に相談ができるかといった就労特徴や,職場満足に関する要因が重要である。そのため,経験年数を問わず,継続的な医療安全教育の実施と,相談がしやすい職場環境づくりが必要といえる。
著者
信迫 悟志
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-68, 2021 (Released:2021-12-24)

発達障害を有する児に理学療法が貢献する可能性はあるか?近年,発達性協調運動障害(DCD:Developmental Coordination Disorder)についての関心が高まっている。DCDとは,微細運動・粗大運動・バランスといった協調運動技能の獲得や遂行に著しい低下がみられる神経発達障害の一類型である。学齢期の小児の有病率はおよそ5-6%とされ,これは自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)が約1%,注意欠陥多動性障害(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)が約5%であることを鑑みると,決して稀ではないことが分かる。DCDは他の神経発達障害,すなわちASD,ADHD,そしてディスレクシアなどの学習障害とも頻繁に併存することを考慮すると,運動の不器用さで学校生活や日常生活に困難を抱える児は非常に高い割合で存在すると考えられる。また男女比は2対1,4対1,ないし7対1と報告されており,男児に多い。そしてDCDと診断された児の50-70%が青年期・成人期にもその協調運動困難が残存するとされており,DCDの病態理解と有効なハビリテーション技術の開発は,喫緊の課題となっている。DCDの病態としては,教師あり学習を担う内部モデルや模倣学習に寄与するミラーニューロンシステムといった脳機能に問題を抱えていることが分かってきている(Nobusako et al. Front Psychol 2018;Nobusako et al. Front Neurol 2018)。また運動時の特徴として視覚に依存する傾向があることや内部モデルが寄与する運動主体感にも問題があることが明らかにされつつある(Nobusako et al. Brain Sci 2020;Nobusako et al. Cogn Dev 2020)。こうした病態理解を背景に,DCDを有する児に対するハビリテーションとして,Cognitive Orientation to daily Occupational PerformanceやNeuromotor Task Trainingなどの活動・参加指向型アプローチ,アクティブビデオゲームトレーニング,運動イメージトレーニングといった介入の有効性が示され始めている。また閾値下振動触覚ノイズ刺激による確率共鳴現象を利用した介入も,DCDを有する児の不器用さを軽減する新たな物理療法として期待されている(Nobusako et al. PLoS One 2018;Nobusako et al. Front Neurol 2019)。しかしながら,DCDを有する児が抱える困難は,運動の不器用さに留まらない。DCDを有する児では,運動の不器用さから自己肯定感や自尊感情の低下および孤独感の増加といった心理面の悪化が生じやすい。また周囲の大人からの批判,心ない言葉,間違った指導,そして友達関係の悪化(嘲笑やいじめの対象となりやすい)といった環境要因が加わることによって,しばしば内在化問題(抑うつ症状や不安障害)に発展する(Nobusako et al. Front Neurol 2018)。内在化問題は,さらなる運動学習困難を引き起こすだけでなく,重症となれば,引きこもりや自決にもつながり得る。DCDやDCDを併存する発達障害を有する児に関わる理学療法士は,この悪循環について十分に理解し,運動と運動学習の専門家として,保護者や教育と連携して,この悪循環を断つ努力をしていかなければならない。そういう意味で,発達障害を有する児に理学療法が貢献する可能性は十二分にあるし,むしろ貢献していかなければならない。
著者
馬場 直義 森 篤志
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI1196, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 ジストニアは姿勢異常や捻転、不随意運動など日常生活動作を行う上で大きな阻害因子となる運動障害を主徴とする。梶はジストニアを「異常な反復性または捻転性の筋収縮により特定の動作や姿勢が障害される病態」と定義している。有病率はパーキンソン病の約1/5の頻度で、病変の広がりにより局所性・分節性・全身性に分類される。その特徴として特定部位への知覚入力やその変化が異常な筋収縮を改善させる知覚トリックが挙げられる。この知覚現象は運動の制御に際して固有知覚入力に対する運動出力の不適合が存在することを反映しており、外的な知覚入力により不適合が補正されると考えられている。 今回、パーキンソン病により分節性に右上肢下肢にジストニアを呈し、特に足関節に強い内反をきたし、知覚トリックによる即時的な補正が有効ではなかった症例を経験した。そこで即時的効果による補正ではなく、感覚の学習によって知覚入力に対する運動出力の不適合が補正され、ジストニアの異常な筋収縮が改善されるかについて検討した。【方法】 端座位をとらせた対象者の足底と床の間に素材や形状は同じだが硬さの異なる2種類のスポンジを挿入し、足底(一部、足背)と接触させ、足関節の底屈・背屈、内返し・外返しを自動運動で行わせることにより、スポンジの硬さを識別する課題を実施した。研究方法は課題介入期、通常の理学療法による非介入期がそれぞれ10日間のBA法とし、各40分間で週5回の介入とした。 課題において対象者はプラットホームにて端座位を保持し、左右の足底面は十分に床に接地可能な状態とした。スポンジの硬さを比較する部位の組み合わせは、左右の足底、右足足底の内側と外側、右足足底前足部と踵部、右足足底前足部と右足足背の4パターンとし、それぞれ20回、2種類のスポンジの硬さの違いを識別させた。スポンジは3種類(硬い・中間・軟らかい)の硬さの異なるものを用意し、段階的にその組み合わせを変え難易度を上げていった。 介入前、介入期後、非介入期後の3回、足関節の関節可動域測定(自動)、足底の二点識別測定、Mini Mental State Examination(以下MMSE)、自画像描写、内省報告の各測定結果を分析した。【説明と同意】 対象者とご家族には発表の趣旨と目的を説明し、書面にて同意を得た。【結果】 介入期後では介入前より関節可動域で右足関節背屈が10°改善。二点識別測定では1~3mmの認識距離の短縮。MMSEでは24/30点から30/30点と短期記憶に改善がみられた。自画像描写においては右上肢の書き損じがなくなり、四肢が描かれて具体的となった。内省報告では介入前は右下肢を「捨ててしまいたい足」といった内容であったが、介入後は「足の中からあぶくが出てくる」とより具体的な内省をされるように変化した。歩行に関しても介入前は内反足にて立脚時に前足部外側のみの接地しか出来なかったが、介入後はほぼ足底全面の接地が可能となった。 非介入期後では介入後より関節可動域で右足関節背屈が5°改善。MMSEでは26/30点と若干の短期記憶に低下みられた。内省報告は「大事にしなければね」などと愛護的な言葉が聞かれるようになった。二点識別測定、自画像、歩行には著明な変化はみられなかった。【考察】 ジストニアは姿勢異常や捻転、目的動作に対する不随意運動を主徴とし、本態は外界からの感覚情報や脳内の運動指令を統合して、適切な運動準備状態を作成する過程の異常であると考えられる。その特徴の1つに知覚トリックが挙げられる。知覚トリックは本来であれば必要でない感覚刺激を行うことにより、障害された運動感覚連関に何らかの補正が行われることで成立すると考えられている。本症例では知覚トリックによる即時的効果はなかった。しかし「特定部位への知覚入力やその変化が異常な筋収縮を改善させる」といった知覚トリックの知見をもとに、対象者に足底でスポンジの硬さの違いを識別させ、感覚の学習によりジストニアによる異常な筋収縮が改善するかという目的で理学療法介入を行った。その結果、足関節背屈可動域の拡大、二点識別測定での認識距離短縮、歩容の改善に繋がった。これは、学習により足部からの適正な情報入力が可能となったことで運動感覚連関の適正化が図られたことによるものと考えられる。また、非介入期後においても改善の持続が認められたことより、介入による学習効果が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 ジストニアに対する先行研究は少ない。今回、即時的効果ではなく、感覚の学習によりジストニアの異常な筋収縮が改善する可能性が示唆された。今後は症例を重ねて検討していく必要がある。
著者
村澤 実香 金井 章 今泉 史生 蒲原 元 木下 由紀子 四ノ宮 祐介 河合 理江子 上原 卓也 江﨑 雅彰
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1788, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】スポーツ場面における重篤な外傷の一つとしてあげられる前十字靭帯損傷(以下,ACL損傷)の発生率は女性では男性に比べ2から8倍高いといわれている。女性に多い理由として,Q-angleが大きい,全身弛緩性を有する者が多い,膝外反位を呈するものが多いことなどが報告されている。受傷機転には,ジャンプ着地動作,減速動作,カッティング動作などが指摘されている。その中でもジャンプ着地動作において,Noyesらはドロップジャンプテスト(以下DJT)では,女性において股関節内転,膝関節外反角度が増加したと報告しているが性差による動作パターンの影響についての検討はなされていない。そこで本研究では,DJT着地時における下腿内側傾斜角度に性差が及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名(男性16名,女性24名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。DJTは,高さ30cmの台から前方に飛び降り,両脚での着地後に両手を振り上げ真上にジャンプし,再び着地し立位姿勢となるまでの動作とした。計測は測定前に充分練習した後3回施行し,台から飛び降りた際の着地時における左膝関節最大屈曲時を解析対象とした。真上にジャンプできなかったり,着地後にバランスを崩した場合は再度測定を行なった。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,関節角度,下腿内側傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜),関節モーメント,足圧中心,床反力,上前腸骨間距離,重心の高さを算出した。関節モーメントは得られた値を体重で除し,上前腸骨間距離と重心の高さは得られた値を身長で除して正規化した。筋力は股関節屈曲,伸展,外転,内転,膝関節屈曲,伸展,足関節背屈,底屈の等尺性最大筋力を測定した。筋力は筋力計μtasMT-1(ANIMA社製)を用いて計測し,得られた値を体重で除して正規化した。統計学的手法は対応のないt検定を用いた。【結果】男女の比較では(男性群,女性群),下腿内側傾斜角度(-1.7±3.9,8.2±5.6°),上前腸骨間距離(0.15±0.1,0.16±0.1mm/cm,),骨盤前傾角度(12.1±7.0,19.6±7.8°),股関節内転モーメント(0.7±2.2,4.5±4.4 Nm/kg),重心の高さ(3.6±0.4,3.9±0.2mm/cm)が女性群で有意(P<0.05)に高値を示した。脊柱屈曲角度(27.5±11.9,12.2±11.7°),胸郭前傾角度(40.0±14.0,31.8±9.5°),股関節外転角度(-5.1±3.5,-0.3±5.7°),足部外転角度(7.0±4.1,-1.3±4.4°)が男性群で有意に高値を示した。筋力(N/kg)は,股関節伸展(5.6±1.2,5.0±1.2),股関節外転(4.4±0.9,3.6±0.9),股関節内転(4.2±1.0,3.3±1.1),膝関節屈曲(1.5±0.2,1.0±0.2),膝関節伸展(2.9±0.5,2.5±0.5),足関節背屈(3.1±0.6,2.6±0.5),足関節底屈(8.7±1.8,7.0±1.3)の各筋力が男性群で有意(P<0.05)に高値を示した。【考察】女性は男性に比べて骨盤前傾角度が有意に高値を示し,脊柱屈曲,胸郭前傾角度が有意に低値を示した。一般的には,ジャンプ跳躍高を上げるためには,重心位置を低くする必要があるが,今回女性は男性と比較して重心位置は有意に高くなっていた。このことは女性は男性と比較し,股関節屈曲筋力以外の下肢筋力が有意に低値を示していたことから,重心位置を低くすることが困難であるためと考えられた。そのため,骨盤前傾角度を増加して,大殿筋とハムストリングスの張力を高めジャンプ跳躍動作に対応していると考えられた。また女性において,股関節内転モーメントが有意に高値を示したのは,上前腸骨間距離で表される骨盤幅の広さが要因と考えられ,それに伴い下腿内側傾斜角度も増加したと考えられた。そのため着地時には下腿内側傾斜角度を軽減させるために股関節外転角度を増加させ,床反力が股関節中心の近くを通るような着地を指導する事が予防において重要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】DJT着地時における性差が下腿内側傾斜角度に及ぼす影響を検討することにより,ACL損傷の予防の一助となることが考えられた。
著者
荒川 典子 秦 和文 栗原 加奈 川嵜 卓也 倉林 均 間嶋 満
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0051, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】視床障害の臨床症状として,感覚障害,不全片麻痺,運動失調症が代表的であるが,不随意運動としてジストニアが出現することも知られており,その頻度は17%程度とされている.今回,視床出血後に生じたジストニアが歩行及びADL能力改善の阻害因子となった3症例の理学療法を経験したので,その内容と経過について報告する.【症例紹介及び理学療法経過】<症例1>57歳男性,右視床出血.第2病日から脳外科病棟にて起立・歩行練習開始.第13病日リハ科転科.転科時のgrade(上肢/手指/下肢)は左6/10/10.左深部感覚脱失.第30病日頃から歩行・応用動作時,左上下肢にジストニアが出現し,同時に左肩関節痛も見られるようになった.歩行・階段昇降時に出現するジストニアと左肩関節痛に対して,疼痛及びジストニアが誘発されない肢位・運動強度での動作練習を実施.この際,左上下肢の深部感覚障害もジストニア発現に関与していると思われたため視覚フィードバックを用いた.第74病日,T字杖での監視歩行が室内で可能となり自宅退院.左深部感覚に改善はなく,左上下肢の痺れも残存.<症例2>68歳男性,右視床出血.第2病日から脳外科病棟にてベッド上座位開始.第6病日から端坐位,第19病日から起立,第22病日から歩行練習開始.第31病日リハ科転科.転科時のgradeは左10/10/10.左深部感覚中等度鈍麻.歩行・起立時に左上肢近位部・体幹にジストニア出現し,歩行時には左短下肢装具・膝装具を使用しても中等度の介助を要した.歩行時のジストニアに対し,運動療法と並行して薬物療法施行.第36病日からは歩行練習を中止し,下肢筋力強化,ジストニア抑制肢位で視覚フィードバックを用いた起立練習を実施.第53病日から平行棒内歩行,第66病日から四点杖歩行開始.第99病日,室内での四点杖による歩行が自立し,自宅退院.左深部感覚に改善なし.<症例3>64歳女性,右視床出血.発症当日から脳外科病棟にて起立練習開始,第5病日から歩行練習開始.第6病日リハ科転科.転科時のgradeは左11/11/10.左深部感覚重度鈍麻.左上下肢・体幹にジストニアを認め,歩行にはT字杖を用い,更に軽介助を要した.ジストニア抑制肢位での起立練習を実施.第32病日,独歩にて自宅退院.左深部感覚は中等度鈍麻.【まとめ】ジストニアの発症には深部感覚障害に基づくものと,大脳皮質-基底核間の運動制御ループの破綻によるものとの二つの生理学的機序が想定されている.ジストニアは強い筋収縮を伴う運動や精神的負荷で誘発されやすいことが知られており,今回の理学療法においてはジストニアが誘発されない範囲の負荷での反復運動を施行し,筋力強化や動作能力の向上を図ることが有効であることが示唆された.また,深部感覚障害によるジストニアの発現も考慮し,運動時のジストニア出現の自己抑制を目的とした,視覚フィードバックを利用することも重要であると思われた.
著者
廣田 新平 柴 喜崇 荻野 裕 高瀬 幸 畠山 莉絵
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.EcOF2106, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 近年,要介護者数は増加し,家族が介護を行う割合も高くなっている(荒井,2002).特にパーキンソン病(以下,PD)は60歳代での発症率が高く(Adams,2009),直接,死因となる疾患でないため,長期介護が必要となり,在宅介護での家族の介護負担が大きな問題になっている. 介護負担に関連する要素の一つである睡眠障害はうつ(兼坂,2007),蓄積疲労感(山田,1999)とも関連しており,主介護者の睡眠障害は長期間の介護を行う上で重要視すべき問題である.実際に,睡眠障害はPD患者だけでなく,主介護者でもみられ,主介護者とPD患者の睡眠障害には関連があることが報告されている(Pal,2004).本研究の目的は3年間のPD患者の症状変化が主介護者の睡眠障害に与える影響を明らかにすることとした.【方法】 特発性PD患者14名(Modified Hoehn & Yahr StageIII~V)と同居中の主介護者を対象に調査した.調査項目は睡眠障害の指標としてPittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)(/21点),PDの重症度はUnified Parkinson`s Disease Rating Scale(UPDRS)(/202点),うつ病の評価はGeriatric Depression Scale15(GDS15)(/15点)を用い,その他,年齢,性別,介護サービス(訪問リハ,通所介護事業,通所リハ)の合計利用時間などの基本情報の調査も行った.なお,PSQIは6点以上で睡眠障害ありと判断される(Doi,2000).PSQI,GDS15は主介護者,患者を対象とし,調査を行った.1年目をベースラインとし,3年後に同項目の追跡調査を実施し,ベースライン調査時の値と追跡調査時の値の3年間の差を変化量とし算出した.また,PSQI,UPDRSに関しては下位項目の変化量を算出し検討した.それぞれの変化量の相関はSpearmanの順位相関係数,変化の相違はWillcoxon検定にて検討した.なお,有意水準は5%とした.【説明と同意】 参加者には本研究内容を口頭及び書面にて十分説明を行い,自署により同意を得た.【結果】 睡眠障害ありであったものは,全体対象者14名中,ベースライン調査時の主介護者6名(42.9%),PD患者9名(64.3%),追跡調査時の主介護者11名(78.6%),PD患者10名(71.4%)であった.ベースライン調査時,追跡調査時で主介護者のPSQI合計点,下位項目に有意な悪化はみられなかった.一方,PD患者でもベースライン調査時,追跡調査時でPSQI合計点,下位項目に有意な悪化はみられなかったが,下位項目[睡眠剤の使用]のみに悪化傾向がみられた(P=0.07). 主介護者のPSQI合計点の変化量とPD患者PSQI合計点の変化量の間に中等度の有意な相関がみられ(r=0.56,P=0.04),PD患者のUPDRSの変化量とPD患者のPSQIの変化量,PD患者のUPDRSの変化量と主介護者のPSQIの変化量の間には相関はみられなかった.一方で主介護者のPSQIとPD患者のGDS15の変化量の間に中等度の有意な相関がみられた(r=0.61,P=0.02). 3年間の変化量でみるとUPDRS合計点は15.4±20.8(点)と有意に悪化したが,GDS15は主介護者&#8331;0.07±2.6(点),PD患者&#8331;0.5±3.7(点)と,悪化はみられなかった.一週間の介護サービス時間は変化量3.1±5.6(時間)であり,有意に増加していた.【考察】 PD患者だけでなく,主介護者にも睡眠障害は多くみられた.主介護者とPD患者のPSQIの変化量に相関がみられ,PD患者自身の睡眠障害の変化が主介護者の睡眠障害に影響を及ぼすことが示唆された.また,主介護者の睡眠障害はPD患者のうつ症状の悪化に影響をうけることが示されたが,PDの総合的な症状の悪化による影響は見られなかった.PD患者のUPDRSとPSQIの変化量に相関はなく,睡眠剤の使用・介護サービス時間の増加から,PD患者は症状に伴う,睡眠障害の悪化を睡眠剤,介護サービスの利用で対処していると考えられる.また,主介護者は睡眠障害があるにも関わらず,睡眠導入剤などの医学的介入を行っていないことが推測された.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,主介護者はPD患者と同様に睡眠障害があるが,PD患者に比べ睡眠障害への対処が十分でないことが示唆された.しかし,主介護者の睡眠障害はPD患者の睡眠障害,うつ症状の悪化に影響を受けるため,PD患者の睡眠障害やうつ病の症状の軽減を図ることで,主介護者の睡眠障害は軽減すると考えられ,主介護者の睡眠に対してもPD患者の睡眠障害,うつ症状を軽減することが重要であることが明らかになった.
著者
剱物 充 小泉 益朗 永山 善久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0666, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】出生体重1000g未満の超低出生体重児は、近年の出生数増加と救命率の向上の一方、いかに障害なき生育に導くかが課題の1つといわれている。我々は、超低出生体重児の運動発達の経緯を調査し、理学療法(以下PT)施行上の要点について検討したので報告する。【方法】対象は平成16年10月から平成18年10月までの2年間に当院新生児医療センター(以下NICU)に入院した超低出生体重児41例中、脳性麻痺の診断を受けず、独歩獲得までフォローできた19例である。方法は以下の3点について調査した。1)対象群をNICU入院中からPTを開始した群と対照群に分類し、周産期状況として在胎週数、出生体重、入院期間、IMV施行日数、アプガースコア(1分)、同(5分)、そして呼吸窮迫症候群と新生児慢性肺疾患の罹患率を比較した。2)対象群を在胎27週未満と27週以上の2群に分類し、独歩獲得時の修正年齢を比較した。また対象群を出生体重750g未満と750g以上の2群に分類し、同様に独歩獲得時修正年齢を比較した。3)対象群をNICU入院中からPTを開始した群と外来でPT開始した群、そしてPT施行なしの3群に分類し、頸定、肘這い位、寝返り、床上座位、四つ這い移動、つかまり立ち、つたい歩き、独歩の各発達指標到達時の修正年齢を比較した。尚、2群間の比較にはマン・ホイットニ検定を、3群間の比較には一元配置分散分析法を、そして独立性の検定にはフィッシャーの直接確立計算法を用いた。【結果】1)周産期状況の比較では、出生体重においてNICU入院時PT開始群(n=5,607.2±92.0g)と対照群(n=14,833.1±116.5g)との間で有意差が認められた(p<0.05)。その他の項目では有意差は認められなかった。2)独歩獲得時修正年齢の比較では、在胎27週未満群(n=11)と27週以上群(n=8)の間に有意差は認められなかった。また、出生体重750g未満群(n=10)と750g以上群(n=9)との間にも有意差は認められなかった。3)NICU入院時PT開始群(n=5)、外来時PT開始群(n=5)、PTなし群(n=9)の3群間における各発達指標到達時修正年齢についても有意差は認められなかった。【考察】独歩を獲得する超低出生体重児の運動発達は、各発達指標の到達状況からみると比較的順調な経緯を辿るといえる。しかし運動発達に関するハイリスク児としてPTが開始される場合、筋緊張や姿勢・動作パターンなど様々な問題点を体験する。Lailaによれば在胎32週未満の児では、特に縦方向への移動において、満期産児と比べバランス反応における筋出力で問題を生じるとしている。一方、これらの状況には精神発達遅滞(以下MR)の関与を窺わせる例も存在する。Shepherdによれば、MR自体の重症度にも依存するが、早期の介入が発達を刺激する効果を持つとし、腹臥位の重要性や、固有感覚入力による運動促通などについて指摘している。PTではこれらの点を考慮し、両親を巻き込みながら支援していくことが要点の1つではないかと考えられる。
著者
佐藤 成 中村 雅俊 清野 涼介 高橋 信重 吉田 委市 武内 孝祐
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-52_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】スタティックストレッチング(SS)は関節可動域(ROM)などの柔軟性改善効果が期待でき,臨床現場やスポーツ現場で多用されている.しかし近年では,特に45~90秒以上のSSにより筋力やパワーなどの運動パフォーマンスが低下することから,運動前のウォームアップにおいてSSを行うことは推奨されていない.しかし,実際のスポーツ現場では20秒以下のSSが用いられる場合が多いと報告されており,20秒以下のSSは運動パフォーマンス低下を生じさせない可能性がある.しかし20秒以下のSSの即時効果を検討した報告は非常に少なく,さらにその持続効果を検討した報告はない.そこで本研究では,柔軟性改善効果の指標としてROMと弾性率,運動パフォーマンスの指標として求心性収縮筋力(CON)と遠心性収縮筋力(ECC)を用いて20秒間のSSの即時効果と持続効果を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常成人男性20名の利き足(ボールを蹴る)側の足関節底屈筋群とした.足関節底屈筋群に対する20秒間のSS介入前後に足関節背屈ROM(DF ROM),弾性率,CON,ECCの順に各々測定した.先行研究に従ってSS介入後の測定は,①介入直後に測定する条件,②介入5分後に測定する条件,③介入10分後に測定する条件の計3条件を設けた.対象者は,無作為に振り分けられた条件順にて3条件全ての実験を行った.DF ROM,CON,ECCの測定は多用途筋機能評価訓練装置(BIODEX system4.0)を用いて行った.なお,CONとECCの測定は足関節底屈20°から背屈10°の範囲で,角速度30°/secに設定して行った.弾性率の測定は超音波診断装置(Aplio500:東芝メディカルシステムズ株式会社)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,腓腹筋内側頭(MG)に対して行った.統計学的検定は,SS介入前後および条件(直後条件,5分条件,10分条件)間の比較は繰り返しのある二元配置分散分析(時期×条件)を用いて検討した.さらに,事後検定として,SS介入前後における条件間の比較はBonfferoni法,各条件におけるSS介入前後の比較は対応のあるt検定を用いて検討した.【結果】DF ROMに有意な交互作用(p=0.004, F=6.517)と,時期に主効果を認めたが,MGの弾性率,CON,ECCには有意な交互作用及び主効果を認めなかった.事後検定の結果,DF ROMは全条件において介入前と比較して介入後に有意に増加した.またDF ROMは介入直後と比較して介入10分後に有意に低値を示した.【考察】本研究の結果より,20秒間のSSはDF ROMを即時的に増加させるために有効であり,その効果は10分後まで持続するが,5~10分の間で減弱することが明らかとなった.また,20秒間のSSは弾性率,CON及びECCに影響を及ぼさないことが明らかとなった.【結論】20秒間の短時間のSS介入は等速性筋力を低下させずにROMを増加させるが,弾性率を変化させることが出来ないことが明らかとなった.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学の倫理審査委員会も承認を受けて実施された.また,本研究はヘルシンキ宣言に則っており,実験開始前に対象者に本研究内容を口頭と書面にて十分に説明し,同意を得た上で行われた.
著者
前島 のりこ 丸山 剛 岸本 圭司 鶴巻 俊江 清水 朋枝 石川 公久 吉田 太郎 江口 清
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3P3178, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】脊髄は脳に比べ、血管の構造上梗塞は起こりにくいとされている.当院では、ここ2年で4例の脊髄梗塞症例を経験した.1例は、現在入院中である.当院で経験した症例と過去の文献を検討し、予後予測の妥当性と予後に向けたPTとしての対応を検討する.【対象】2007年4月~2008年10月の期間の脊髄梗塞症例4例.症例1(入院中症例):60歳、男性.胸部下行大動脈瘤人工血管置換術後に発症.病変はTh8-11、脊髄灰白質前方(左優位).左優位の対麻痺.MMT IP2/1、Quad3-/2-、TA3/2.車椅子移乗中等度介助レベル.現時点でリハ期間2か月.症例2:68歳、男性.腹部大動脈瘤人工血管置換術後に発症.病変はTh11/12以下脊髄円錐部、対麻痺.下肢筋力MMT2.車椅子移乗自立で自宅退院.リハ期間は8か月.症例3:63歳、女性.大動脈弁閉鎖不全術後4日目、約1時間に渡る心停止後に発症.病変はTh8-12、脊髄前方1/2.対麻痺.下肢筋力MMT1-2.車椅子移乗一部介助レベルで他院へ転院.当院リハ期間は5か月.症例4:72歳、女性.特発性、後脊髄動脈症候群、Brown-Sequard型.病変はTh11-L1、左後索.感覚性失調症状を主とした左下肢麻痺.発症時は下肢筋力MMT2-3、発症後5カ月でMMT4以上.深部感覚障害は改善傾向も、失調症残存.屋内両松葉杖歩行、屋外車椅子駆動自立にて、自宅退院.入院リハ期間は約2か月半、現在は週1回当院で外来フォロー中.独歩も数mであれば見守りで可.【考察】文献では、脊髄梗塞において予後不良となる因子として大動脈疾患由来、両側性の障害、発症時の麻痺が重度、女性、梗塞巣が灰白質と白質に拡がっていることなどが挙げられている.また、予後良好因子は、片側性で梗塞巣が前角に限局していること、発症時のまひが軽度に加え、Brown-Sequard型であることが挙げられている.症例2,3ともに予後不良因子のうち2つ以上該当しており、車椅子レベルであった.症例4は、Brown-Sequard型で文献通り予後は良好に推移している.症例1は、予後良好因子と予後不良因子を併せ持つ症例である.過去の報告より、大動脈疾患由来の前脊髄動脈症候群の症例では、4例中3例が車椅子レベルとなっている.以上から、機能的には何らかの形で歩行可能となるが、実用的には車椅子レベルであると予測する.プログラムとしては、歩行練習を実施しながら、車椅子移乗練習などの車椅子動作練習を中心に立案し、自宅改修等の環境調整についても検討の必要が考えられる.【まとめ】脊髄梗塞の病因や病変部位、発症時の状態から、ある程度の予後予測ができる可能性が示唆された.PTとして予後を適切に判断し、予後に応じたプログラムの立案・実施と、早期から他職種と連携し環境調整を進めていくことができればと考える.
著者
福山 勝彦 小山内 正博 関口 由佳 二瓶 隆一 矢作 毅
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0282, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】骨折や変形性関節症術後などの骨関節疾患において、部分荷重が増加すると両松葉杖から片松葉杖に移行させる。通常、片松葉杖は健側上肢に持たせるが、時として健側上肢機能が低下していることで患側上肢に松葉杖を持たせることを余儀なくされる場合がある。今回の研究は、健側に片松葉杖を持ったときと、患側に片松葉杖を持ったときの歩行時筋活動量を比較しその特徴を調べ、早期にどの筋を優先的にトレーニングしなければならないかを検討することを目的とした。【対象・方法】健常成人女性15名(20~27歳、平均21.5歳)を対象とした。右側を患側と設定し、全荷重歩行(自由歩行)、左手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Lt松葉杖)、右手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Rt松葉杖)をメトロノームを用い、同じ歩行スピードで歩行させた。片松葉杖歩行の前に部分荷重2/3の練習を行わせ、十分歩行練習をさせた後に測定を行った。 筋電計(Mega electronics社製ME-3000P)を用い、右側大殿筋(G-max)、中殿筋(G-med)、大腿四頭筋(Quad)、外側ハムストリングス(L-ham)、内側ハムストリングス(M-ham)、下腿三頭筋(Gastro)、前脛骨筋(TA)、股関節内転筋群(Add)を導出筋とし、電極を運動点中心に20mm幅で貼付した。立脚相における各筋活動量の積分値を求め、全荷重歩行を100%として正規化し、Lt松葉杖、Rt松葉杖における筋活動量について比較検討した。【結果】全荷重歩行とLt松葉杖歩行の比較において、Quad、L-ham、M-ham以外の筋で有意に筋活動量の低下がみられた。(p<0.01) Lt松葉杖歩行とRt松葉杖歩行の比較においては、G-max、G-med、Gastroの筋活動量が有意に増加し、全荷重歩行時以上の筋活動がみられた。(p<0.01) その他の筋において有意差はみられなかった。【考察】Pauwelsの式を応用すれば、患側に松葉杖を持ったときの中殿筋は、健側に持ったときよりも3倍以上の筋力が必要であると考えられる。しかし実際には、骨盤を患側に傾斜し体幹を側屈した、いわゆるDuchenne-Trendelenburg徴候様の歩行となり、重心の患側移動が起こることでいくらかは軽減される。今回の実験では、約1.5倍程度の増加であった。股関節伸展モーメントは、床反力による上体の崩れ防止と支持機能のために作用する。患側に松葉杖を持つことは、支持基底面を減少させ、バランスが崩れやすい状態となっている。これをコントロールするために、大殿筋の筋活動が増加したものと推察する。 これらのことから患側に松葉杖を持った場合、立脚相後期において、より強い推進力と足関節制御機構が必要となり、下腿三頭筋の筋活動が増加したものと思われる。 以上の結果から、患側上肢に片松葉杖を持つことを余儀なくされる場合には、早期より中殿筋、大殿筋、下腿三頭筋を中心とした筋力トレーニングを行う必要性が示唆された。
著者
原口 仁美 石崎 仁弥 西島 涼 橘 竜太郎 小野内 雄 松岡 健
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1273, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】黄川らはスポーツ活動時の体重支持における大腿四頭筋の重要性から,体重当たりの膝関節伸展筋力を体重支持指数(weight bearing index:以下WBI)として表わすことを提唱し,以後,WBIは下肢傷害予防やトレーニング処方をするための客観的な筋力評価方法として応用されている。また,山本らは立ち上がり動作を用いた下肢の筋機能評価法を考案し,WBIと立ち上がり動作に高い相関があると報告している。そのため臨床では,身体能力判定目的で膝伸展筋力測定を行う場面が多い。しかしながら,各種トレーニング,動作訓練等を行っても,実際の歩行・ADL場面になると,獲得した筋力が動作遂行に繋げられず苦慮するケースが多い。山中らによると足底の感覚が敏感で,中殿筋・大腿四頭筋・腓骨筋の筋力が強いほど,片脚立位姿勢が安定していたとしており,筋力と感覚には強い相関があると報告している。また,弘瀬らは,立位姿勢は視覚・前庭・体性感覚系からの感覚入力に基づき頚部・体幹・四肢の抗重力活動によって行われていると報告している。そこで,末梢(足底)知覚の詳細なテストが可能な,モノフィラメント知覚テスターを用い,知覚異常の有無と膝伸展筋力および片脚時間との関係について検証したので報告する。【方法】対象は平衡機能,下肢・体幹機能に問題のない男女20名(男性13名,女性7名)とした。また対象者に表在感覚検査(酒井医療株式会社社製,モノフィラメント知覚テスター)を施行し,知覚異常を認めた10名(平均年齢26.67歳,平均身長168.89cm,平均体重63.33kg),知覚異常を認めなかった10名(平均年齢24.80歳,平均身長167.30cm,平均体重64.00kg)の2群に分けた。異常のない群をI群,異常を認めた群をII群とした。表在感覚の評価として,腹臥位になり足部をベッドから出した状態で,足底にモノフィラメントが軽くたわむ強度で刺激を加え,3回の刺激のうち一度でも感じたものを正常とした。また足底の7箇所を刺激部位とし,それぞれ番号を付け,その部分に刺激を感じたらその番号を言ってもらうように指示した。フィラメントはNo.2.83(Green),No.3.61(Blue),No.4.31(Purple),No.4.56(Red),No.6.65(Red)の5本を使用した。片脚立位時間の計測は,平行棒内で上肢の支持をなくし,開眼・利き足(ボールを蹴る足)にて30秒を上限として2回測定し,最高値を採用した。膝伸展筋力は下腿下垂した端坐位,体幹垂直位で5秒間の最大等尺性収縮筋力を2回測定し,数値の高い方を採用した。測定にはハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製,等尺筋力測定装置μ-Tas F-1)を使用し,最大値を体重比百分率(%)に換算して行った。測定に際し,代償を防ぐため上肢は腕組みとし,対側足底は床面接地させた状態で測定を行った。統計処理にはSPSSを用い,群間の比較には対応のないt検定を,膝伸展筋力と片脚立位時間の関係にはPearsonの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。結果は平均±標準偏差で表記した。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者には動作を口頭で説明するとともに実演し,同意を得たのちに検証を行った。【結果】年齢,体重,身長に両群間で有意差は認めなかった。膝伸展筋力はI群(平均57.21±13.40),II群(平均67.53±17.91)でありI群が有意に高値を示した(p<0.05)。I群の膝伸展筋力と片脚立位時間(平均36.09±23.47)で中等度の相関(r=0.561,p<0.01)を示した。またII群の膝伸展筋力と片脚立位時間(平均40.81±20.88)に高い相関(r=0.794,p<0.01)を示した。両群間の片脚立位時間に有意差は認めなかった(p<0.15)。【考察】感覚障害の有無が,膝伸展筋力,いわゆる筋出力に影響を及ぼしている事が示唆された。これは,筋力評価・トレーニングを行う場合には,末梢からの入力系障害についても考慮する必要性があることを示す結果となった。また,膝伸展筋力と片脚立位時間で高い相関を示した事は,感覚機能を代償するために筋力に依存している事を示しており,先行研究と同様の結果であった。今後は,性差・年齢による変化の有無,知覚異常部位との関連性についても検証したい。【理学療法学研究としての意義】知覚異常を有する群で,膝伸展筋力と高い相関を示したことから,膝伸展筋力に依存することが示された。これは,足底知覚異常検査を行うことの必要性を示すものである。筋力評価・トレーニングを行うにあたり,出力系に主眼をおく方法だけでなく,入力系の評価・トレーニングも重要であると考える。今後,運動器疾患のみでなく,多くの臨床の場で検証を深めたい。
著者
溝口 靖亮 赤坂 清和 乙戸 崇寛 服部 寛 長谷部 悠葵
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-197_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【目的】 バレーボール競技における腰痛は障害の多い部位の一つである.またスポーツ実施者における腰痛発生率は18歳以降で上昇するとされており,予防対策は18歳未満より始める必要がある.本研究では高校バレーボール選手に対するフィジカルチェック(FC)の結果を基に腰痛予防のための選択的トレーニングを行い,その効果について検討することを目的とした.【方法】 対象は2017年7~10月に埼玉県大会に出場する県立高校8校でバレーボール部に所属する18歳未満の男女123名であり,全例にFCを実施した.FCとして船橋整形外科式Kraus-Weber test,Ito test,heel-buttock distance,finger-floor distance(FFD),Side-FFD,フルスクワット,トーマステスト,胸腰椎回旋ROM,肩ROMを実施した.各FCに基準値を設け,かつ先行研究を基に各FCに対応する腰痛予防トレーニングを設定した.除外基準は現在腰痛を認める者,FCの基準を満たしている者とした.高校毎に封筒法を用いて,トレーニングを行う群(I群;36名)と通常の部活動を行う群(C群;40名)の2群に群分けした.I群はFCのフィードバックとFCに対応するトレーニングとして最大2種類を本人が選択し,部活動の一環(週4~5回)として実施した.C群は通常の部活動を実施した.介入期間は4週間であり,期間内のI群におけるトレーニング遵守率と両群の腰痛発生数,腰痛発生時期,腰痛誘発方向および腰痛強度(NRS),腰痛発生後に部活動を休んだかについて調査した.腰痛関連項目について記述統計ならびに群間比較を行い,腰痛発生数における群間の相対危険度(RR)をSPSS statistics25を用いて検討した(有意水準5%).【結果】 I群のトレーニング遵守率は100%であった.腰痛発生数はI群3名(8%),C群11名(28%)であり,I群で腰痛発生数が有意に低く(p=0.03),全例練習中に発生し,部活動を休むことはなかった.またRRは1.26(95%CI:1.02~1.57)であった.また,腰痛強度は2群間で有意差はなかった(p=0.09).腰痛誘発方向・部位では,I群で屈曲1例,伸展2例で全例真ん中と回答し,C群では屈曲3例,伸展7例,左回旋1例で真ん中5例,右3例,左2例,左右1例と回答した.【結論】 トレーニング遵守率が高かった理由は,FCにより選手が自分の身体機能を認識し興味を深めたこと、選手が希望するトレーニングを選択できるようにしたこと、トレーニング内容が簡単であったこと等が要因と考える.一般的な腰痛予防トレーニングにおいては教育と並行して運動を実施することが効果的であるとされている.本研究においてもFCよるフィードバックとFCの基準に満たない高校バレーボール選手に対して選択的トレーニングを行うことで腰痛発生の減少に寄与できる可能性が示唆された.一方で,腰痛発生者においては疼痛を抱えながら競技を継続しており,かつ腰痛誘発方向や部位が異なるため,重症化する前に的確に問診した上で治療を行う必要がある.【倫理的配慮,説明と同意】埼玉医科大学保健医療学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号: M-73)