著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 松本 美里 中前 あぐり 辻本 晴俊 菊池 啓
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1573, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】抗パーキンソン病薬などの服用に伴って生じるジスキネジアは,精神的・身体的苦痛を伴うにも関わらず,その理学療法的な介入法は報告されていない.今回,理学療法の介入により,ジスキネジアの症状が改善した一症例を経験したので報告する.【症例】59歳,女性.39歳時に若年性パーキンソン病と診断され,抗パーキンソン病薬を投与.15年前よりジスキネジアを呈する.Hoehn-Yahrの分類;stage3,On-Off徴候(+).ジスキネジアのAbnormal Involuntary Movement Scale(AIMS)の四肢と体幹の動きの3項目の合計は11/12.Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)のジスキネジアの項目は 8/13.出現時,発汗異常(+),歩行不可. なお学会発表の承諾は得られている.【ジスキネジアの観察】仰臥位では左右の胸鎖乳突筋の交互収縮が,頸の屈曲・伸展・左右回旋を呈し,それと連動して四肢の不随意運動が見受けられた.また体幹は左回旋・屈曲とその戻りであった.また頚部・上部体幹は常に空間に挙上していた.座位でも,頸部の不随意運動が大きく,体幹前屈・回旋し,連動して四肢の不随意運動が見受けられた.【理学療法的介入】ジスキネジアの観察から,頸部の関節角度を検知する自己受容系の感覚器としての胸鎖乳突筋により頭頸部の動きが生じ,頚部からの体性感覚入力が活発となり,変動する姿勢反射により異常姿勢を伴う不随意運動を呈する.そして,過剰な共同収縮筋群の支配神経の緊張が亢進する.神経緊張があったのは,副神経以外に長胸神経・肋間神経・尺骨神経であった.それらの神経の緊張は,Martinの報告による脳炎後パーキンソニズムのサルのpallidal postureに似た頭部,躯幹の姿勢異常が見られたことを考慮すれば,胸鎖乳突筋の律動的な動きの見られるブラキエーション時のインパルスを伝導する神経群と一致しており,これらの神経緊張の軽減にて,胸鎖乳突筋のコントロールが可能であることを確信した.手技は解剖的考察により,各神経の伸張を行った.また触知し易い尺骨神経は愛護的に圧も加えた.治療時間は,10分程度であった.【結果】介入後のAIMSは2/12,UPDRSは1/13と著明に改善し,ジスキネジアは消失し,自立歩行は可能となる.ジスキネジアの抑制時間は12時間程度であった.【考察】今回のジスキネジアの改善は,Langworthyの提唱するように,無目的と考えられた不随意運動が感覚刺激に対する反応の異常であること,またSteinの振戦の神経機構模式図より,過剰な筋収縮と感覚性フィードバックの遠心性・求心性インパルスの伝導路である末梢神経系と胸鎖乳突筋の運動神経である副神経の緊張を改善することで,胸鎖乳突筋の運動細胞の周期的興奮性の抑制が得られたためと考えられる.最後に,ジスキネジアの完治は理学療法的介入では困難であるが,継続した介入により,出現時間の短縮や症状の緩和は可能であると思われる.
著者
福利 崇 渋谷 佳樹 中川 慧 青景 遵之 橋詰 顕 栗栖 薫 河原 裕美 大鶴 直史 弓削 類
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100979, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】我々は,日常生活の中で無意識に他者の姿や行動を観察していることが多い.他者が行っている動作の模倣やイメージをする際は,他者の視点に立って,姿や動作の特徴を注意深く捉える必要があるが,これはリハビリテーションの臨床現場においても共通している.神経心理学において,他者の視点に立つことを意味する視点取得(perspective-taking)という概念があり,この概念に関して様々な観点から研究されている.脳イメージング研究では,fMRIを用いて脳活動部位を同定した研究は数多くみられるものの,時間的な側面から検討した研究は少ない.そこで本研究では,時間・空間分解能力に優れた脳磁図を用いて,部位と時間の両側面から,視点取得における脳神経活動を検討した.【方法】対象は,視覚に異常のない右利きの健常者13 名とした.スクリーン上にランダムに呈示される,左右どちらか一側の上肢または下肢を拳上した全身像の視覚刺激に対する誘発脳磁場活動を,306ch全頭型脳磁計(ELEKTA社, Neuromag System)を使用し,記録した.全身像は,対象者に正面を向けた像(正面像)と背面を向けた像(背面像)から構成し,それぞれ一側の上肢または下肢を挙上した像を作成した.課題は,スクリーン上に呈示された全身像がどちらの上肢または下肢を挙上しているかを解答する本課題と,全身像が挙上している上肢または下肢がスクリーンの右側か左側かを解答するコントロール課題とした.解答は両側示指のタッピングとし,LEDセンサーを用いて各課題および条件の反応時間を計測した.対象者には,各課題において解答に該当する側の示指をできるだけ速くタッピングし,かつ正確に解答するよう指示した.脳磁場測定は,サンプリング周波数を1001Hz,バンドパスフィルターを0.5 ‐30Hzにそれぞれ設定し,実施した.各課題において,正面像と背面像に対する脳活動をそれぞれ約80 回加算した.解析には,グラジオメーターを用い,後頭領域(20ch)と左右の後頭頂領域(各30ch)において各センサー位置におけるRMS(root mean square)を算出し,各領域におけるareal meanを算出した.得られたareal mean波形のピーク値と潜時を,領域別に算出し,課題間で比較した.また,空間フィルター法(sLORETA)を用いて,課題ごとのピーク潜時における各格子点での電流値を算出し,MRI上に空間的に分布表示した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,本研究の趣旨や目的,方法について説明を行い,同意を得た上で実施した.なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:1139)【結果】課題間での平均反応時間は,正面像,背面像ともに,コントロール課題と比較して本課題で有意に延長した(p<0.01).脳磁場活動は,全身像呈示後100ms付近で後頭領域に,さらに200ms付近で右後側頭頂領域において,正面像,背面像ともに明瞭な活動が認められた.100ms付近の成分は,正面像および背面像ともに課題間で活動の有意差はみられなかったのに対し,200ms 付近の右後側頭頂領域における活動は,正面像において,コントロール課題と比較し,本課題で振幅の有意な増加が認められた(p<0.05).また,背面像においても,有意には至らなかったものの本課題において200ms付近の活動が増加する傾向が認められた.【考察】本課題における反応時間がコントロール課題に対して有意に延長したことは,視点取得に際し,より複雑なプロセスを踏んでいることを示している.本課題の全身像の視点取得において,fMRIを用いて右後側頭頂領域が活動したとの報告がある.本研究においても視覚刺激後200ms付近で右後側頭領域に明瞭な反応が認められ,その活動は複雑な視点取得を必要とする本課題で有意に増加した.脳波を用いた先行研究では,視覚刺激後約300ms付近で頭頂付近で観察されるP300 が物体認知や判断を表す成分といわれているが,本研究でみられた右側頭頂領域の200ms付近の成分も,全身像の左右弁別に関与する可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,他者の視点に立って全身像の特徴を捉えようとしている際の脳活動の経時的変化に関連した,部分的な基礎的知見を与えるものである.
著者
佐藤 輝 吉田 英樹 前田 愛 松本 健太 向中野 直哉 川村 真琴 小西 杏奈 島田 瑞希 高桑 奈緒美 鳴海 萌 天坂 興 原 幹周 小田桐 伶 前田 貴哉
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0668, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】低負荷(最大随意収縮(MVC)の20%程度)で実施される等尺性収縮後の筋弛緩法(PIR)と対象者の随意的努力を必要としない神経筋電気刺激(NMES)では,筋ポンプ作用に基づき筋血流量が改善する可能性が指摘されており,臨床では筋・筋膜性疼痛や浮腫の改善などに活用されている。しかし,PIRやNMESが筋循環動態に及ぼす影響の詳細は十分に検証されていないのが現状である。以上から本研究では,PIRとNMESが筋血流動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】健常者16名を対象とし,仰臥位を保持した対象者の右上腕二頭筋(BB)に対して3つの条件(条件1:PIRを実施する条件,条件2:NMESを実施する条件,条件3:コントロール条件)を無作為順序で日を改めて実施した。条件1では,対象者は,右BBに対するPIRとして,右肘関節90度屈曲位かつ右前腕90度回外位にて20%MVCでの右BBの等尺性収縮を10秒間実施し,その後,右肘関節完全伸展位かつ右前腕90度回外位にて20秒間右BBを弛緩させた。この右BBの収縮と弛緩の計30秒間を1セットとして,10セット5分間を連続で実施した。PIR終了後,対象者は安静仰臥位をさらに15分保った。条件2では,対象者は,右BBに対するNMES(波形:対称性矩形波,電流強度:肘関節の僅かな屈曲運動は起こる程度,周波数:30 Hz,パルス幅:250 μsec,オン・オフ時間:各5秒)を20分受けた。条件3では,対象者は安静仰臥位を20分保持するのみとした。各条件の実施中,筋血流量の指標として右BBの酸素化ヘモグロビン量(oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン量(deoxy-Hb)を測定し,各条件開始時の測定値を基準として各条件での5分後(条件1のPIR終了時)及び20分後(各条件の終了時)でのoxy-Hbとdeoxy-Hbの経時的変化を多重比較検定にて検討した。【結果】条件1(PIR)では,oxy-Hbの明らか変化は認めなかったが,deoxy-Hbは条件開始5分後(PIR終了時)で有意に増加し,条件開始20分後でも有意に増加した状態であった。一方,条件2(NMES)では,oxy-Hbは条件開始5分後及び20分後で増加傾向を示したが,deoxy-Hbは同時点で減少傾向を示した。条件3では,oxy-Hb,deoxy-Hbともに経過中での明らかな変化を認めなかった。【結論】本結果は,PIRではdeoxy-Hbが増加するのに対し,NMESではoxy-Hbが増加する可能性を示しており,両者の筋循環動態に及ぼす影響の違いが明らかとなった。PIRのような低負荷随意運動では筋収縮に必要なATP産生は好気的代謝系に依存するのに対し,電気刺激に伴う筋収縮では嫌気的代謝系に依存する(Hamada, 2003)。このため,PIRでは酸素需要が高まりoxy-Hbと比較してdeoxy-Hbが増加するが,NMESでは酸素需要がPIR程には高まらないため,deoxy-Hbと比較してoxy-Hbが増加したと推察する。PIRとNMESはともに筋血流量を改善する可能性があるが,筋循環動態に及ぼす影響は対照的であり,臨床では目的に応じた使い分けも考慮すべきである。
著者
藤田 真帆 波留 健一郎 岩松 友里香 小濱 顕士 志戸岡 茜 渡辺 將平 髙田 和真 川元 大輔 長津 秀文 横山 尚宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0851, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】握力は容易に測定できる上肢機能の重要な指標の一つである。先行研究で高齢者の体力測定の結果から,握力と大腿四頭筋の筋力との関連や,スポーツ選手は握力と下肢筋力に相関があるとの報告をしている。四肢周径は骨格筋の肥大や萎縮を簡易に評価でき,筋力との関係性があると述べている。InBody570を用いた身体組成計は骨格筋量や脂肪量などを簡便に計測することが可能であり,測定器の妥当性や信頼性に関する報告は散見される。しかし,握力と四肢周径,骨格筋量との関係性は一定の見解が得られていない。我々は運動習慣のない若年者を対象に3者の関連性を分析し,臨床的意義があるか検討した。【方法】対象は運動習慣のない健常成人男性20名(年齢:20.8±1.7歳,身長:169.5±5.5cm,体重:62.9±12.6kg,利き側:右)とした。全対象にInBody570(BIOSPACE社製)を用い,右腕(RA),左腕(LA),右脚(RL),左脚(LL)の筋肉量を測定した。握力はデジタル握力計(竹井機器工業社製)を使用した。肢位は立位で,左右の上肢を体側に下垂させた状態で最大握力を測定。四肢周径はメジャーを使用,仰臥位で計測した。前腕周径は最大膨隆部(FC),上腕周径は肘屈曲位で最大膨隆部(AC),大腿周径は膝蓋骨上縁10cm(TC),下腿は最大膨隆部(CC)を測定した。統計処理は左右別に握力と四肢周径,部位別筋肉量との関連についてピアソンの相関係数を用いて分析した。有意水準は5%未満とした。【結果】左握力(39.7±6.5kg)はLA(2.6±0.4kg),LL(8.2±0.9kg),左FC(25.3±2.4cm),左AC(28.2±3.9cm),左TC(44.6±4.4cm),左CC(35.7±2.8cm)とすべての項目で有意な相関を示さなかった。右に関しては握力(41.4±6.5kg)と右FC(25.6±2.1cm)(r=0.45,P<0.05),握力と右AC(29.0±3.8cm)(r=0.45,P<0.05),握力とRA(2.6±0.5kg)(r=0.47,P<0.05),握力とRL(8.2±0.9kg)(r=0.58,P<0.01)に有意な相関が認められた。握力と右TC(45.1±4.4cm),握力と右CC(35.9±2.9cm)において,有意な相関が見られなかった。【結論】右握力は,右FC,右AC,RA,RLで相関を認めた。周径は筋肥大の指標となることが知られており,利き手に関しては握力で上肢の筋量と筋力を予測できる可能性が示された。右TC,右CCとは相関を認めなかった。これは握力が下肢の筋肥大に必ずしも反映されない事が考えられた。さらに先行研究では,筋量よりも筋力の方が相対的に低下するとの報告があり,右握力はRLとの相関を認めたが,右TC,右CCと相関がなかったと考える。左の握力は全項目で相関がなかった。利き手に関する研究で,握力は上肢周径など軟部または機能的測度では利き手優位の傾向が現れやすいと報告しており,そのため相関がなかったと考える。これらの結果から,運動習慣のない若年者は握力が下肢筋力を測る指標になりえない事が示唆された。
著者
原田 和宏 齋藤 圭介 津田 陽一郎 井上 優 佐藤 ゆかり 香川 幸次郎
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0742, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】中枢神経疾患に伴う易疲労(rapid fatigability)は臨床的に重要な症候であり、客観的評価と併せて主観的疲労の程度と質についても検討がなされている。脳血管障害(以下、脳卒中)既往者も疲労に悩まされることは理解されており、国外のレビューでは疲労の有訴率が発症1年前後から3~4割になり、機能的な予後に悪影響を及ぼすと指摘されている。有訴率の算出はうつ気分の者を除外した対象を用いて行われ、脳卒中既往者は対照群の2倍以上の有訴率となることが報告されている。脳卒中後の中枢性疲労や末梢性疲労に関する研究の中で、本邦では主観的疲労の実態資料が依然少ない。本研究は、脳卒中既往者における主観的疲労の実態を把握するために、地域高齢者の調査結果を基に疲労の有訴率について検討することを目的とした。【方法】調査対象は中国地方にある1町の住民で入院・入所中を除く65歳以上の在宅高齢者全員2,212名であった。調査は心身機能や活動状況を内容とし、2005年12月に留置方式で行った。当該調査は岡山県立大学倫理委員会にて了承され、対象には同意を得た。回収された1,864票から基本属性、ADL状況、関連質問の有効回答が確認できた者のうち、いつもうつ気分であるとした者を除外した1,229名を集計対象とした。主観的疲労はスエーデン脳卒中登録Risk-Strokeに従い、「日頃、しんどいと感じますか(4件法)」等で評価した。脳卒中既往者は「脳卒中既往の有無」と「加療中の病気」の質問から選定した。有訴率はクロス集計一元表にて求め、統計処理は多項確率の同時信頼区間に従い95%信頼区間(以下、95%CI)を推定後、脳卒中既往者以外の者と比較した。また脳卒中既往者において主観的疲労との関連変数を検討した。【結果】脳卒中既往者として選定できた者は51名(男性78.4%)で平均76.5歳、対照群と仮定したそれ以外の者は1,178名(同40.6%)で平均74.9歳であった。ADL状況では要介助者は脳卒中既往者の35.2%、対照群の11.8%であった。疲労の有訴率は脳卒中既往者が37.3%(95%CI: 22.0-53.4)で、対照群の16.0%(同: 13.6-18.5)と比し2.3倍高く、統計的に割合の差が認められた。脳卒中後にそれまでよりも早く疲れを感じるようになったとする回答者は67.4%(同: 48.4-81.9)であった。脳卒中既往者の主観的疲労と属性・ADLとの関連は認めなかった。【考察】今回は高齢者に限定された資料であったが、脳卒中既往者の疲労の特徴は有訴率において北欧での地域ベースの調査結果と類似し、対照群の2倍以上で、その程度は属性等との関連が少ないという知見に整合した。この結果から脳卒中後の易疲労は看過できないことが再認識され、障害の評価として重要でないかと考えられた。
著者
新井 真 清水 洋治 吉田 匡志 窪田 智史 竹井 仁
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3447, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】スポーツ動作中のジャンプ着地における、膝伸展機構への過剰な牽引力や脛骨前方移動による靭帯のストレスを誘引する要因の一つとして、着地時の大腿四頭筋の過活動がある.大腿四頭筋の過活動の抑制にはハムストリングスの筋活動が重要であり、両筋のバランスを評価する指標として大腿四頭筋とハムストリングスの筋力比(H/Q比)がよく用いられる.H/Q比と着地動作の研究では、筋電図や床反力を比較したものは多いが、着地時の矢状面での関節角度について言及したものは少ない.そこで本研究では、膝屈曲・伸展筋力の測定からH/Q比を求め、その値とジャンプ着地時の矢状面における下肢・体幹の屈曲角度との関係を検討することを目的とした.【方法】対象は、健常男性15名(平均年齢21.8歳)とした.ヘルシンキ宣言に基づき、実験の趣旨を説明し書面にて同意を得た.着地課題は30cmと40cm台からの右下肢片脚跳び後の左下肢片脚着地とした.上肢の影響を取り除くため、両手で体幹側部を把持させた.また、飛び降り動作の滞空時間を統一するため、台上での片脚踏切から着地までを0.5秒に規定した.この動作を側方からビデオカメラで撮影し、Frame-DIASIV(DKH社製)を用いて着地時の足・膝・股・体幹の角度を解析した.膝関節の最大屈曲時の各関節角度を着地時の角度とし、静止立位時の角度との変化量を求めた.等速性膝屈曲・伸展筋力は等速性筋力測定装置(BIODEX SYSTEM3)を用いて測定し、角速度は60°にて求心性収縮と遠心性収縮を各5回測定した.この値からH/Q比を算出し、関節角度との相関をSPSS16.0Jを用いて検定した.【結果】着地時の関節平均角度[°]は30cm、40cm台でそれぞれ足関節背屈27.0±7.7、29.8±6.0、膝関節屈曲99.6±13.8、92.8±12.5、股関節屈曲56.1±17.0、65.0±18.7、体幹前傾17.3±13.8、22.2±13.9であった.また、H/Q比[%]はジャンプ着地時の収縮様式を用い、膝屈筋の求心性筋力、伸筋の遠心性筋力の値を用いたところ平均40.9±9.8であった.H/Q比(x)と各関節角度(y)の関係は、30cm台における足関節背屈(y=1.42x+33.81,R2=0.60,p=0.03)、40cm台における股関節屈曲(y=0.96x+25.07,R2=0.40,p=0.01)、体幹前傾(y=0.59x-1.39,R2=0.30,p=0.04)にそれぞれ正の相関がみられた.【考察】30cm台においてH/Q比と足関節背屈角度との間に正の相関があることからH/Q比が低値なほど、背屈が小さくなることが示唆された.また40cm台での着地において、H/Q比と体幹前傾・股関節屈曲角度に正の相関がみられた.このことからH/Q比が低値なほど、体幹がuprightな姿勢で着地動作を行うために後方重心になり、膝伸展モーメントが増大し、大腿四頭筋に過負荷がかかる可能性が示唆された.よって、低い台からの着地における外力吸収は足関節が主であり、高い台では股関節屈曲・体幹前傾が参加することで姿勢を制御していると考える.
著者
河野 健一 森山 善文 矢部 広樹 西田 裕介
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1464, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】糖尿病性腎症は透析導入の原因疾患として最も多く,それに廃用性,加齢性変化も加わるため,透析導入時点で身体機能が低下している者も少なくない。加えて,経年的な透析治療は,異所性石灰化による関節可動域制限や関節痛,慢性的な低蛋白血症や骨格筋機能の低下,身体活動量の低下を引き起こす。当該患者は,急性疾患等への罹患を契機に身体機能や運動能力が低下し要介護状態に陥りやすく,健康寿命の喪失に至る。これは,透析医療に関する医療費以外の社会保障費を増大させ,また,患者やその家族の生活の質を低下させるという点において重大な問題である。透析患者に対する運動指導を中心とした理学療法は,糖尿病等の予防的管理だけでなく,経年変化として運動能力の低下を防ぎ,健康寿命を延伸することにも重要な意義を持つ。そこで,本研究の目的は,一定期間内に運動能力の低下する危険性の高い透析患者を把握すべく,評価指標とその基準値を明らかにすることとした。【方法】対象は,初期評価時に歩行ならびに日常生活が自立した維持血液透析患者180例とした。患者背景因子(年齢,性別,糖尿病やその他合併症の有無,透析歴,透析管理状況),栄養状態(geriatric nutritional risk index,GNRI),炎症状態(c-reactive protein,CRP),身体機能(握力,除脂肪量),運動能力(歩行速度,歩行周期変動係数,short physical performance battery,SPPB)を初期と1年後の2回評価した。1年後にSPPBの得点が3点以上低下した状態を運動能力低下と定義し,運動能力低下を従属変数,その他評価指標を独立変数とし,単変量解析,多重ロジスティック回帰分析を実施した。また,独立した関連因子に対してROC解析を行いカットオフ値,感度,特異度を算出した。【結果】歩行速度が運動能力低下の独立した危険因子であった(OR=0.168,95%CI=0.037~0.762)。また,そのカットオフ値は0.84m/sec(感度0.71,特異度0.68,曲線下面積0.68)であり,0.84m/sec以下の歩行速度の患者は,そうでない患者と比較し,1年後に運動能力が低下する危険性が5.38倍高く(OR=5.381,95%CI=2.058~14.073,p=0.001),年齢,性別,透析期間,糖尿病の有無,栄養状態,炎症状態にて補正後も同様の結果が得られた。【結論】歩行速度の遅い透析患者ほど,1年間という比較的短い期間において運動能力が低下する危険性が高いことが明らかとなった。基準値として0.84m/secを参考とし,これを下回る患者に対して,運動指導を中心とした理学療法の必要性が示唆された。
著者
野嶋 素子 中山 裕子 小川 幸恵 保地 真紀子 和泉 智博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0293, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】腰椎疾患においてL4/5とL5/S椎間は障害が多い部位である。L5神経根は前脛骨筋,中殿筋を優位に支配し,これまでに下垂足に伴い股関節外転筋力は低下し,歩行に影響することが報告されている。一方でS1神経根は下腿三頭筋,大殿筋を優位に支配しているが,S1神経根障害における臨床像と歩行能力の報告は少ない。本研究の目的はL5,S1神経根障害における筋力低下・感覚障害および歩行について調査することである。【方法】対象は2011.4~16.9に,L4/5またはL5/Sの単椎間ヘルニアで,内視鏡を含むヘルニア摘出術を施行したL4/5椎間板ヘルニア59名(以下L4/5群),男性43名,女性16名,平均46.9±14.4歳と,L5/S椎間板ヘルニア49名(L5/S群),男性31名,女性18名,平均40.0±11.7歳である。検討項目は,術前の前脛骨筋(以下TA),中殿筋(GME),ハムストリングス(HA),腓骨筋(PE),下腿三頭筋(TS),大殿筋(GMA)のMMT,感覚障害の有無とその部位,歩行速度,Timed Up and Go Test(以下TUG)であり,カルテより後ろ向きに調査した。またMMT3以下を筋力低下とし,L4/5群の筋力低下がある26名(以下L4/5-P群),男性19名,女性7名と,低下がない33名(L4/5-N群),男性24名,女性9名,L5/S群の筋力低下がある29名(L5/S-P群),男性18名,女性11名と低下がない20名(L5/S-N群),男性13名,女性7名に分類し,歩行に関する項目について比較した。統計解析はt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】L4/5群の筋力低下の割合は重複を含め,TA12名(20%),GME10名(17%),HA2名(3%),PE5名(8%),TS15名(25%),GMA5名(8%)であった。TAに筋力低下を認めた12名中5名(42%)にGMEの低下が見られ,4名は同時にTSが低下し,更に2名はGMAも低下していた。感覚障害はL5領域29名(49%),S1領域14名(24%)に,両領域12名(20%)に認めた。L5/S群の筋力低下は,TA6名(12%),GME9名(18%),HA7名(14%),PE3名(6%),TS22名(45%),GMA12名(24%)であり,TSに低下を認めた22名中12名(55%)にGMAの低下が見られ,そのうち3名はGMEに,更に2名はTAも低下していた。感覚障害はL5領域23名(47%),S1領域27名(55%),両領域17名(35%)に認めた。歩行速度はL4/5-P群1.4±0.4 m/s,L4/5-N群1.5±0.4m/s,TUGは10.6±2.9秒,9.7±2.6秒であり両群に差を認めず,L5/S-P群とL5/S-N群は,歩行速度が1.3±0.4m/s,1.5±0.4m/s,TUGは12.4±4.9秒,9.7±2.0秒であり,両群間に有意差を認めた。【結論】L4/5群ではTAの筋力低下に伴いGMEが低下,L5/S群もTSと同時にGMAが低下している症例が見られ,L4/5群では更にTS,L5/S群ではGMEの低下も一部認めた。感覚障害についても混在例が存在していた。これらは神経支配のオーバーラップによる障害の影響等が考えられるが明らかではない。L5/S-P群は,L5/S-N群に比べ歩行能力の低下を認めた。S1神経根障害による筋力低下は歩行障害を生じやすいため詳細な理学療法評価が重要である。
著者
中村 雅俊 池添 冬芽 梅垣 雄心 小林 拓也 武野 陽平 市橋 則明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101053, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】ハムストリングスのストレッチング方法は主観的な伸張感により,近位部を伸張するには股関節屈曲位での膝関節伸展,遠位部を伸張するには膝関節伸展位での股関節屈曲が推奨されている.しかし,これら2種類のストレッチング方法の違いが近位部と遠位部の伸張性に及ぼす影響について客観的な指標を用いて比較した報告はなく,科学的根拠は乏しいのが現状である.そこで本研究は剪断波超音波診断装置を用いて,これら2種類の異なるストレッチング方法がハムストリングスの各部位における伸張の程度に及ぼす影響を検討し,ストレッチング方法の違いによって近位部と遠位部を選択的に伸張できるかを明らかにすることを目的とした.【方法】対象は整形外科的疾患を有さない健常男性15名(年齢23.8±3.2歳)とし,利き脚 (ボールを蹴る) 側の半腱様筋(ST)と大腿二頭筋長頭(BF)を対象筋とした.対象者をベッド上背臥位にし,骨盤後傾を防ぐために反対側下肢をベッドから下ろして骨盤を固定した状態で他動的に股関節90°屈曲位から痛みを訴えることなく最大限,伸張感を感じる角度まで膝関節伸展を行うストレッチング(KE),膝関節完全伸展位から痛みを訴えることなく最大限,伸張感を感じる角度まで股関節屈曲を行うストレッチング(SLR),股関節90°屈曲・膝関節90°屈曲位の安静時の3条件での筋の伸張の程度を評価した.筋硬度の測定には超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製 Aixplorer)の剪断波エラストグラフィ機能を用いて,STとBFそれぞれ大腿長の近位1/3(近位),1/2(中間),遠位1/3(遠位) の筋硬度を無作為な順番で測定した.筋は伸張されると筋硬度が増すことが報告されているため,伸張量の指標として筋硬度を用いた. 統計学的処理は,STとBFにおける各部位の安静時とKE,SLRの条件間の違いをScheffe法における多重比較を用い検討した.また安静時に対するKEとSLRの変化率を求め,各部位におけるKEとSLRの変化率の違いと近位,中間,遠位の部位による違いについてScheffe法における多重比較を用い比較した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を十分に説明し,研究に参加することの同意を得た.【結果】STの筋硬度について近位部は安静で39.6±31.8kPa,KEで398.4±125.8kPa,SLRで354.3±109.4kPa,中間部は安静で61.0±23.2kPa,KEで507.9±71.5kPa,SLRで472.6±81.5kPa,遠位部は安静で66.5±29.3kPa,KEで504.3±103.6kPa,SLRで478.4±151.2kPaであった.BFにおける近位部は安静で30.6±12.8kPa,KEで361.4±91.8kPa,SLRで343.3±92.6kPa,中間部は安静で45.4±32.3kPa,KEで386.4±147.6kPa,SLRで392.3±98.8kPa,遠位部は安静で54.1±22.4kPa,KEで490.5±112.3kPa,SLRで425.8±109.5kPaであった.多重比較の結果,STとBFともに近位,中間,遠位部の全ての部位において安静条件と比較してKEとSLRで有意に高値を示した.また安静時に対するKEとSLRの変化率を比較した結果,STとBFの全ての部位においてKEとSLR間で有意差は認められなかった.安静時からの変化率について近位,中間,遠位の部位間で比較した結果,STとBFのKEとSLRともに部位による有意差は認められなかった.【考察】本研究の結果,KEとSLRの2つのストレッチング法はともにSTとBF両筋の全ての部位を伸張することが可能であった.さらに,KEとSLR間では全ての部位で有意差が認められなかったことより,どの部位でも両ストレッチング方法による伸張の程度に違いはないことが明らかとなった.また,近位,中間,遠位部の比較においても有意差が認められなかったことより,部位による違いはないことも明らかとなった.これらの結果より,二関節筋であるSTとBFを伸張する場合にはKEとSLRの方法による違いはなく,両ストレッチングとも全ての部位において同じ程度のストレッチング効果が得られること,すなわちこれらストレッチング方法の違いによって近位部と遠位部を選択的に伸張することは困難であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】股関節を屈曲した状態から膝関節を伸展するストレッチングと膝関節完全伸展位から股関節を屈曲するストレッチングの両ストレッチング手技ともにハムストリングスの近位部,遠位部を一様に伸張する効果があることが明らかとなった.
著者
生野 公貴
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-74, 2021 (Released:2021-12-24)

神経リハビリテーション分野における物理療法は,近年その適応の幅を大きく拡大させている。脳卒中における運動障害に対する神経筋電気刺激,歩行障害に対する機能的電気刺激(Functional electrical stimulation:FES),亜脱臼に対するFES,痙縮に対する振動刺激,感覚障害に対する経皮的電気神経刺激,脊髄損傷における上肢に対するFES,下肢に対するFESサイクリング,多発性硬化症におけるFESなど,神経疾患に対する物理療法はすでに各国の診療ガイドラインでも取り上げられているほか,数多くのシステマティックレビューが報告されている。しかしながら,研究間の異質性が高いためにその詳細な適応と方法論,効果については未だ不明な点が多く,臨床意思決定を不十分なものにしている。さらに異なる水準の問題として,病態メカニズムに基づく治療戦略の整合性が担保されているかという問題がある。そこで,本シンポジウムでは神経疾患における運動障害に対する物理療法を取り上げ,10年後の臨床意思決定をより有益なものに改変すべく,物理療法における臨床エビデンスと病態に基づく治療戦略の双方から考えていきたい。 運動障害においては,下肢Fugl-Meyer Assessmentスコア21以上が良好な移動能力のカットオフ値とされており(Kwong, et al., 2019),その機能障害の改善は我々理学療法士にとって重要な役割の一つである。運動障害は,脳損傷,とりわけ皮質脊髄路の損傷による一次的な影響のほかに,ICU-acquired weaknessや廃用症候群やサルコペニアなど二次的な影響によって結果として随意運動能力は障害されるため,いわゆる上位運動ニューロン障害としての運動麻痺として結論づけることなく,多角的な評価によって運動障害の病態を把握する必要がある。特に急性期においては,中枢神経系の不活性化のみならず重度運動麻痺による不動によって生じる二次的な筋萎縮や低栄養によって生じる筋消耗が問題となる。この時期には,筋萎縮の予防(Nozoe, et al., 2018)や感覚入力としての電気刺激が二次的障害を軽減させるうえで合理的な方法であろう。回復期では,運動機能の底上げと活動レベルの向上が必要となる。電気刺激による介入では,随意性の改善には有効とされるものの活動レベルまで汎化する報告は少なく(Sharififar, et al., 2018),臨床的には症例の問題点に沿って動作練習と併用した介入が重要となる。この時期には,詳細な病態評価により,物理療法によって改善可能性の有無を見極めることが重要である。生活期では,欧州における5年の追跡調査にて発症後2年後には6か月後よりもADL,上肢,下肢,体幹機能全てに機能低下が生じるという報告があるように(Meyer, et al., 2015),いかにして機能低下を防ぎつつ,さらなる生活範囲の拡大につなげるかが重要な課題である。その中の一つの取り組みとして,短期入院での高強度集中プログラムによる機能改善の可能性が示唆されており(Ward, et al., 2019),物理療法は重度麻痺者の運動を援助するツールとして重要な役割を担っている。このように,すべての病期において物理療法が効果的に作用できる場面は多く,さらなるエビデンスが蓄積されればより効果的な意思決定に結びつくものと期待される。 物理療法は決して徒手では生み出せない物理的エネルギーを治療に応用する治療法であり,物理療法にしか出せないメリットを存分に生かすことが重要である。そのため,この10年では神経疾患で生じる種々の障害・症状の病態理解とそれに基づく最も効果的な手段としての物理療法の適応の是非に関するエビデンスの構築が何より重要であろう。また,それらを実臨床の環境に落とし込んだ実務的な研究によって得られる臨床エビデンスの蓄積も重要な課題といえる。
著者
真鍋 由美子 石崎 祐子 高木 菜波 窪田 幸生 竹井 仁
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0624, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】臨床では、大殿筋の簡便な強化方法として、ブリッジ動作が用いられる。しかし、ブリッジ活動では、大殿筋だけでなく脊柱起立筋やハムストリングスなどの体幹背面の筋も活動する。実際にブリッジ動作を行うと、大殿筋と比較してハムストリングスが優位に活動していると感じることがある。本研究では、足関節の肢位を変化させることで、ブリッジ活動におけるハムストリングスの活動に変化が見られるか検討したので報告する。【方法】対象は、実験の趣旨を説明し、同意を得た健常者17名(男性9名・女性8名、平均年齢27.8歳、平均身長165.8cm、平均体重58.0kg)とした。運動課題は、3条件(1.足関節中間位による足底接地、2.足関節背屈位による踵接地、3.足関節底屈位による足先接地)によるブリッジ動作とした。3条件とも、背臥位にて上肢を体幹前面で組み、股関節を50度とした膝立て位を開始肢位とした。ブリッジ動作は、肩甲骨を床に接地した状態にて肢位の安定が得られてから5秒間保持し、10秒の休憩を挟んで5回反復した。3条件の順番は無作為とした。ブリッジ動作中に、バイオモニターME6000(日本メディックス)を使用し、表面筋電図を記録した。被験筋は、蹴り足側の外腹斜筋・腹直筋・大腿直筋・前脛骨筋・腰腸肋筋・大殿筋・大腿二頭筋長頭・腓腹筋外側頭とした。表面筋電から全波整流平滑化筋電図を求め、後に2~4回目のブリッジ動作中の1秒間の積分筋電値を算出し、3回の平均値を解析に用いた。解析にはSPSS(ver.14)を用い、条件1の積分値に対する条件2と3それぞれの積分値の割合を算出し、分散分析と多重比較検定を実施した。有意水準は5%未満とした。【結果】条件1と比較して条件2の背屈位では、前脛骨筋(平均7.35)が有意に増加し、大腿二頭筋長頭(0.65)が有意に低下した。条件1と比較して条件3の底屈位では、外腹斜筋(平均1.28)・腹直筋(1.22)・大腿直筋(1.44)・前脛骨筋(3.59)・腰腸肋筋(1.29)・大殿筋(1.5)・大腿二頭筋長頭(1.98)・腓腹筋外側頭(5.33)の全筋で有意に活動が増加した。【考察】ブリッジ活動には、殿部を持ち上げるために膝関節と股関節の伸展が必要である。しかし、条件2では、前脛骨筋の筋収縮によって脛骨が前方に引き出されて大腿骨は尾側に引かれ、さらに、腓腹筋が伸張されることで膝関節に屈曲の力が加わる。このことで、ブリッジ活動による膝伸展に伴う股関節伸展が制御され、股関節伸展作用を持つハムストリングスの活動が低下したと考える。一方、底屈位では、肩甲骨と足部がなす支持点の距離が中間位に比べて長くなり、かつ殿部を挙上する高さが中間位に比べて高くなるため、位置エネルギーも増加する。また、中間位に対して足関節の安定性を増やす必要も増え、全ての筋活動が大きくなったと考える。よって、ハムストリングスの活動を抑制するためには、足関節背屈位でのブリッジ動作が有効であることが示唆された。
著者
佐藤 剛章 山本 昌樹 野田 恭宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0256, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】高齢者の下肢外傷後は,膝関節拘縮を呈することが多く,受傷前の関節可動域(ROM)を獲得できない症例も経験する。今回,大腿骨骨幹部骨折の術後症例において,大腿骨前脂肪体(PFP)と内側広筋(VM),外側広筋(VL)との癒着瘢痕形成によって膝関節伸展拘縮を呈した症例を経験した。超音波検査装置(エコー)を用いた癒着瘢痕部位の同定と,エコーの動態観察による運動療法が奏効した。本症例における理学療法経過と,エコー所見を踏まえた病態について報告する。【方法】症例は70歳代の女性で,受傷前の日常生活活動が自立し,畑仕事も可能で,下肢の機能障害を認めていなかった。自宅敷地内にて転倒受傷し,他院へ救急搬送され,受傷1週間後に髄内釘による観血的骨接合術が施行された。術後3週(受傷4週間後)で当院に転院となり,当院での初期理学療法評価は,ROMが膝関節屈曲100°,伸展-15°,徒手筋力検査(MMT)が膝伸展4,Extension lagが陽性。VMとVL,PFPに圧痛を認め,膝関節屈曲時に大腿内側に伸張痛を呈していた。視診・触診において,膝蓋骨高位と外側偏位が確認され,膝蓋骨の長軸移動が制限されており,膝蓋大腿関節でのROM制限が顕著であった。大腿遠位部をエコーにて観察すると,全体的に高エコー像を呈していた。膝関節屈曲時のエコーによる動態観察では,VM及びVL,PFPの側方移動が低下していた。VMとVL,PFP間での動きが乏しく,これら組織間での癒着瘢痕形成や滑走性低下がうかがわれた。運動療法は,VMとVLの柔軟性改善を目的に,同筋の反復収縮やストレッチングを実施した。VMとVL,PFP間とでの癒着剥離と滑走性改善を目的に,膝蓋骨上部の軟部組織の持ち上げ操作と大腿四頭筋セッティングを実施した。さらに,膝関節屈曲最終域で,大腿遠位部軟部組織の側方グライディング操作を実施した。【結果】当院運動療法開始後2週で,膝関節屈曲が135°まで改善した。伸張痛は,内側から外側に変化し,VLを中心に治療を行ったがROMの改善が得られなかった,大腿骨顆部外側付近のエコーにて,プローブによるコンプレッションテストでは,膝関節屈曲最終域で動きの少ない一部のVLが存在し,同部の癒着瘢痕と柔軟性低下がうかがわれた。運動療法開始後9週の膝関節屈曲が160°,伸展0°,MMT膝伸展5,Extension lag陰性となった。独歩やしゃがみ動作も可能となり退院となった。【結論】本症例の初期エコーではPFPとVM間の癒着によって,膝関節屈曲時のVMの側方移動,屈曲135°以降ではVLの癒着瘢痕と柔軟性低下によるVLの側方移動の低下が観察できた。本症例ではVMとVL,PFP間の癒着瘢痕と柔軟性低下に対して介入することで膝関節屈曲制限の消失に至った。エコーによる動態観察は,癒着瘢痕部位の同定や状態を視覚的に把握でき,理学療法評価の客観性と治療効果の検証に有効な手段であると考える。
著者
西沢 喬 田高 智美 種田 智成 田中 優介 今井田 憲 川井 純子 植木 努 曽田 直樹
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101734, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】一般的に腰部脊柱の安定性の改善が腰痛疾患の治療成績を向上させるするとされており、腰部の疾患にとって腰部脊柱の安定性の確保は重要である。腰部脊柱の安定性に関与する筋には、腹横筋や内腹斜筋、多裂筋などがあり、それらが同時収縮することで、胸腰筋膜の緊張増加と腹腔内圧の増加をもたらし腰部の安定性向上につながるとされている。また同時収縮が関節のスティフネスを増加させて、マルアライメントの改善に影響するとの報告もあり、体幹筋の同時収縮が腰部安定性に重要である。そのため体幹筋の同時収縮により腰部安定性向上を目的とした運動が一般的に行われている。しかし実際に行われている運動が同時収縮しているかどうかの検証やどの運動が効果的なのかなどの報告は少ない。そこで今回我々は、腰部安定性向上を目的とした運動における多裂筋と内腹斜筋の筋活動を計測し、同時収縮の指標であるco-contraction index(以下CI)を用い、その運動の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は腰部に疾患のない健常成人男性15 名(平均年齢29.4 ± 5.0 歳、平均身長173.8 ± 4.3cm、平均体重64.3 ± 8.3kg)とした。筋活動の測定には表面筋電図(Myosystem G2)を用い、測定筋は左側の多裂筋(正木らに従い第5腰椎レベルで第1・2 腰椎間と上後腸骨棘を結んだ線上)、内腹斜筋(赤羽らに従い腹直筋、鼠径靭帯、臍から上前腸骨棘を結ぶ線に囲まれた領域で鼠径靭帯に平行)の2 筋とした。測定課題は1)四つ這い位から右上肢と左下肢を水平まで挙上した肢位(以下四つ這い)、2)背臥位で後頭部に手を組ませ膝関節約90°屈曲位となるよう膝を立てた姿勢から体幹と下肢が一直線になるように殿部を拳上した肢位(以下お尻上げ)、3)長坐位で体幹約45°後方に傾斜させ上肢を床面に対して垂直に接地した姿勢から、体幹と下肢が一直線になるように殿部を拳上させた肢位(以下逆ブリッジ)、4)左側を下にしたサイドブリッジ(以下サイドブリッジ)、5)端坐位での腹式呼吸最大呼気位(以下腹式呼吸)の5 つの肢位とした。各条件において波形が安定した、3 秒間の筋活動をサンプリング周波数1000Hzにて記録した。得られたデータは最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化し、各条件での筋活動を%MVCとして算出した。同時収縮の評価はFalconerらの方法を用いて多裂筋と内腹斜筋のCIを算出した。統計学的分析にはSPSS12.0Jを用い、各肢位間における筋活動及びCI値の比較に関して、一元配置分散分析後、多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて承諾を得た。また本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。(承認番号120705-1)【結果】多裂筋活動は四つ這い27.3 ± 12.6%、お尻上げ30.3 ± 11.7%、逆ブリッジ33.3 ± 12.0%、サイドブリッジ24.3 ± 7.3%、腹式呼吸6.4 ± 8.0%であった。内腹斜筋活動は四つ這い14.1 ± 10.0%、お尻上げ3.8 ± 3.2%、逆ブリッジ10.0 ± 7.3%、サイドブリッジ32.0 ± 20.2%、腹式呼吸42.1 ± 38.4%であった。多裂筋活動では腹式呼吸が他の動作に比べ有意に低かった(P<0.05)。内腹斜筋活動では、 お尻上げが逆ブリッジ以外の動作に比べ有意に低かった(P<0.05)。また腹式呼吸がサイドブリッジ以外の動作に比べ有意に高かった(P<0.05)。CIでは、四つ這い57.8 ± 30.0%、お尻上げ24.6 ± 21.1%、逆ブリッジ44.8 ± 25.0%、サイドブリッジ76.6 ± 11.8%、腹式呼吸33.6 ± 24.7%であった。サイドブリッジが四つ這い以外の動作に比べて有意に高かった(P<0.05)。【考察】今回の結果においてCIはサイドブリッジが四つ這い以外の動作に比べ有意に高かった。サイドブリッジは、前腕と足部外側で支持するため、他の課題に比べ支持面が小さくまた関節自由度が少ない、加えて支持面からの重心位置が遠くにあることから課題の中で最も腰部の不安定な肢位であることが考えられる。先行研究より腰部の不安定性が筋活動を増加させることが報告されており、このためサイドブリッジで多裂筋と内腹斜筋の同時収縮が高まったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】サイドブリッジは、体幹筋の同時収縮に優れており、腰部安定性に対する有効な運動となりえる事が示唆された。また、体幹筋の同時収縮を知ることで、腰部安定性の評価や運動効果の指標に貢献できると考える。
著者
笹川 徹 長谷川 恭一 山元 佐和子 吉田 博子 青木 雅裕 山形 沙穂 中村 睦美
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF1005, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】Timed “up and go” test(以下TUG)は、主に高齢者の歩行、バランス機能を評価する指標であり、日常生活活動(以下ADL)の低下や転倒の危険の度合いを知ることができる検査である。TUGはリハビリの効果判定に広く使用されており、判定基準の研究も多数報告されている。しかし、TUGで規定されている椅子条件は、背もたれおよび肘掛け付の椅子であり、臨床においては、この条件に合う椅子を用意することは困難であることが多い。また、肘掛けの有無による検討はされているが、背もたれの有無による検討はまだされていない。本研究の目的は、このTUGに用いられる椅子の背もたれおよび肘掛けの有無により、結果にどのような相違があるかの検討を行い、TUGで用いられている椅子以外でも容易に本検査が行える可能性を検討する。【方法】対象は、60歳以上の杖歩行可能な男性21名、女性29名の計50名(健常者4名、内部疾患7名、運動器疾患31名、脳血管疾患8名)とした。とした。対象の年齢・身長・体重の平均値(標準偏差)は、74.4(6.6)歳、身長155.6(8.8)cm、体重56.5(12.1)kgであった。開始坐位は、背もたれおよび肘掛けの使用有無で4条件とし、各々の実施順番は無作為とした。TUGは、座面高44cmの背もたれおよび肘掛け付椅子を使用した。背もたれを使用する場合は背もたれに寄りかかり、使用しない場合は体幹前後傾の無い状態で行うこととした。肘掛けを使用する場合は肘掛けに両上肢を乗せ、使用しない場合は両手を膝の上に置いた状態で行った。杖使用の場合は、どちらの条件でも杖使用側のみ杖を床についた状態で行うこととした。被験者は、検者の合図で立ち上がり、前進し、3m先の目印の所で方向転換し、元の椅子に戻って腰掛けることとした。被験者にこの課題動作を説明し、やり方が十分理解されたことを確認してから実施に移った。検者は、これらの一連の動作に要する時間を計測した。歩行速度は、結果の変動を少なくするため、“転ばない程度でできるだけ早く”と指示した。統計解析は各分析項目についてPASW(VER.18)を用いて一元配置分散分析を有意水準5%で実施した。【説明と同意】本研究に先立ち、対象者に対し、研究の目的・方法・予測される危険等について説明を行い、書面による同意を得た。【結果】椅子各条件でのTUG結果の平均値(標準偏差)は、背もたれあり・肘掛けありで15.36(7.72)秒、背もたれなし・肘掛けありで15.43(7.66)秒、背もたれなし・肘掛けなしで15.86(8.77)秒、背もたれあり・肘掛けなしで16.25(9.37)秒だった。一元配置分散分析の結果、椅子4条件のTUG結果に有意差は無かった。【考察】今回の実験では椅子各条件でのTUG結果に有意な差は見られなかった。この結果は、背もたれおよび肘掛けの有無において差が出ない可能性があることを示唆し、本検査が背もたれおよび肘掛けの有無に関係なく行える可能性があることを意味する。肘掛けの有無については、Siggeirsdottirらの肘掛けの有無による検討結果である肘掛けのない椅子は肘掛け付の椅子よりも有意に立ち上がりにくいと報告している結果に反する。この要因として、条件を統一しても上肢に疾患があり肘掛けを使用できないものや、杖使用者では、肘掛け使用条件でもほとんど肘掛けに頼らず立ち上がることが影響したと考えられる。松本らは、膝押し群、座面押し群、肘掛け押し群で比較した結果、膝押し群と座面押し群および肘掛け押し群に有意差が認められ、座面押し群と肘掛け押し郡には有意差は認められなかったと報告し、上肢使用に対して具体的な教示をすることが必要であるとしている。また、Siggeirsdottirらは高さ46cmの椅子よりも42cmの椅子はTUG結果が有意に遅いと報告している。差が見られなかった他の要因としては、身長や下腿長の差による開始時の足底接地の有無等も影響していることが考えられる。これらの原因により、立ち上がり方に多様性があることが影響していることが考えられる。今後は、更にサンプル数を多くし、疾患別による検討や下腿長や座面高および杖使用による影響を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】椅子各条件で有意差が無いという結果は、背もたれの無い椅子でも、TUG結果に影響はせず、多数検討されている判定基準を用いることが可能である可能性があることを示唆する。これにより、臨床において、背もたれの無い椅子でもTUGを行うことができ、歩行の自立や転倒リスク予測を行うことができる。
著者
小林 量作 地神 裕史 椿 敦裕 古西 勇
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3352, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】 Timed Up & Go Test(以下,TUG)は,最初にMathiasら(1986)がGet Up & Go Testとして「肘付き椅子から起立,3m歩行,180°方向転換,3m歩行,着座」の質的・主観的な5段階評価法として開発し,次にPodsiadloら(1991)が至適速度の所要時間を計測する方法に改変したものである.現在,TUGは複合的な動作能力の測定として国際的に用いられている.しかし,各運動相の時間が全所要時間にどの程度影響しているか明らかになっていない. 本研究の目的は,TUGの5つの運動相の時間を測定して,全所要時間への各運動相の占める割合を明らかにすることである.【方法】 対象は日常生活に影響するほどの骨関節障害のない在宅中高齢者,大学生,地域スポーツ参加者115名である.男性28名,女性87名,年齢は45歳から86歳まで,平均68.4±7.6歳である.方法は,椅子座面を離殿したら計時を開始,起立相,歩行往路相,方向転換相,歩行復路相,着座相の5つの運動相に分け,椅子座面に着座して計時を終了とした.各運動相の所要時間は赤外線センサーとコンピュータを連動した機器を作製し,床上約15cmの赤外線を下腿部が横切ることで0秒~9.99秒~99.9秒まで自動計時できるようにした.原則2回測定して早い時間を採用した.全ての被験者からは書面による同意書を受けている.【結果】 1. 全所要時間平均6.4秒,起立相0.4秒,歩行往路相1.9秒,方向転換相1.2秒,歩行復路相2.1秒,着座相0.9秒であった. 2. これを全所要時間に対する各運動相の割合は起立相5.9%,歩行往路相29.5%,方向転換相18.6%,歩行復路相32.2%,着座相13.9%であった. 3. 各運動相を3つに統合すると起立着座19.8%,歩行往復61.75%,方向転換18.6%となった.【考察】 これまで,TUGは起立・歩行・方向転換・着座の複合的な動作能力として考えられてきたが,本研究からは、各運動相が等しい割合ではなく,大まかに起立・着座が2割,歩行が6割,方向転換が2割と考えられ,歩行速度を強く反映していることがいえる.そのためる先行研究によるTUGと歩行速度との有意な相関はこれらの割合の影響を受けたためと考える.後半の歩行復路相及び着座相が歩行往路相,起立相よりも遅くなるのは,椅子に腰かけるために減速することや体幹を回旋しながら着座することで時間を要していることが考えられる.また、自宅のような狭い空間でのTUG測定を考えた場合、計算上3m直進歩行路を1mに短縮すると、起立・着座速度が33.4%,歩行速度が35.1%,方向転換速度が31.5%になる.このようなことから狭い空間でのTUG測定が可能なTUG1m版の検討も意義あると考える.
著者
提嶋 浩文 曽田 武史 松本 浩実 射塲 靖弘 尾崎 まり 萩野 浩
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0265, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】高齢者は転倒すると骨折に至る危険性が高いことが知られている。要介護の約10%は骨折,転倒に起因するものであり,転倒危険因子を調査することは,転倒予防の観点からも重要である。転倒要因は,内的要因,外的要因に区別される。内的要因には筋力やバランスなど身体機能に関するもの,転倒歴などが含まれ,これらに関する先行研究は散見される。一方,外的要因には履物や環境整備等が挙げられる。履物に関する研究において,一般的にスリッパは靴と比較して転倒率が高いとされているが,動作時のスリッパと靴の違いを比較,検討した報告は多くはない。今回の目的は靴とスリッパの違いが歩行に与える影響を3軸加速度計と表面筋電図を使用して分析し,転倒との関係性を検討することである。【方法】対象は整形疾患,中枢疾患の既往のない健常人15名(男8名,女7名,年齢23.8±1.7歳,身長166.2±8.1cm,体重56.5±7.4kg)とした。市販の靴とスリッパを使用し,裸足で着用した。歩行加速度の分析には3軸加速度計MVP-RF8-BC(MicroStone社),歩行時の筋活動の分析には表面筋電図Bagnoli-8 EMG System(Delsys社)を使用した。全被験者に対して14mの自由歩行を練習1回,測定を2回実施し,いずれも2回目のデータを採用した。また前後2mを除く,中間10mの歩行時間も計測した。3軸加速度計はベルトにて第3腰椎棘突起部に設置し,前後,左右,上下3軸の体幹加速度を測定した。得られた加速度信号の波形を無作為に1000個のデータを選択し,Root Mean Square(RMS)にて解析を行い,歩行速度に依存するため,速度の二乗で除した。また,無作為に10歩行周期のデータを選択し,Auto Correlation(AC),Coeffecient of Variance(CV)にて解析を行った。表面筋電図は右側の前脛骨筋,内側腓腹筋を測定筋とし,フットセンサーを踵部に設置し,筋電図と同期させた。得られた筋電図波形から,歩行時の立脚期,遊脚期の筋電位平均を求め,最大随意収縮時の筋電位で(MVC)で除して,最大筋力に対する活動の割合(%MVC)を算出した。統計分析は対応のあるt検定を用い,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿って,被験者には研究の目的および方法を説明し,理解と同意を得た。【結果】歩行速度の平均は靴1.31±0.1m/sec,スリッパ1.25±0.1m/secと有意差が認められた。歩行時の動揺性の指標となるRMSは左右成分で靴0.68±0.13に対してスリッパ0.79±0.17,上下成分で靴1.27±0.26に対してスリッパ1.37±0.27とスリッパが有意に高値となった。歩行の規則性の指標となるACは1歩行周期間の分析では前後成分で靴0.65±0.08に対してスリッパ0.59±0.12とスリッパが有意に低値となった。1歩行周期時間の変動率を示すCVは靴2.52±0.62,スリッパ3.03±0.87とスリッパが有意に高値を呈した。歩行時の立脚相,遊脚相における内側腓腹筋,前脛骨筋の%MVCは両群間に有意差を認めなかった。【考察】スリッパは靴と比較して左右,上下方向のRMSが高値となった。RMSが大きくなると動揺性が大きくなり,不安定な歩容になると報告されている。靴と比較してスリッパは側方の支持性が乏しく,片脚支持期の安定性の低下につながり,体幹加速度の動揺性が増大したことが考えられる。また,スリッパでは前後方向へのACは低値を示し,また1歩行周期時間の変動率を示すCVに関してもスリッパが高値を呈した。スリッパは規則性の低下を示す結果になったと考えられる。高齢者に関してCVは転倒群で有意に高値を呈し,転倒のリスクを推測する評価方法として有効であると報告されている。以上のことから履物の違いは歩行速度や歩行時の安定性,リズムに影響を及ぼすことが示唆された。高齢者の転倒は歩行中に生じやすく,歩行の規則性,安定性の低下は転倒につながることが多く,さらに加齢に伴う身体機能の低下,合併症の存在,バランスを崩した際の代償機構の破綻があるとよりスリッパ着用時の転倒リスクが高くなることが考えられる。しかしながら,本研究は若年成人を対象としており,加齢や運動機能の程度によって履物の違いがどれほど影響するのか,さらに検討する必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】履物の違いが歩行に与える影響を転倒との関連性について検討した。転倒の原因である外的要因に関する転倒リスクを明確にし,転倒予防の啓発につながることが考えられる。
著者
成田 大一 尾田 敦
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0877, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】靴は足部を保護するばかりではなく,足部機能を向上させるものであるが,理学療法場面において,前者のほうが優先され,また着脱が容易ということからもバレーシューズを履いている状況が多々見受けられる。そこで靴の選択の第一段階として,足部機能を支持する構造のある紐靴(スポーツシューズ),足部機能を支持する構造があり着脱の容易なマッジクテープの靴,足部機能を支持する構造のないバレーシューズという3つの条件の違いにより運動課題の成績がどのように変化するかを明らかにすることを目的として本研究を行った。【対象および被検靴】健常女性16名の32足を対象とした。被検靴は市販されている22.5cm,23.5cmのスポーツシューズ(某M社製),マジックテープの靴(某P社製),バレーシューズ(某A社製)である。なお足囲サイズはスポーツシューズとバレーシューズはEE,マジックテープの靴はEEEである。【方法】運動課題として,片脚立位での重心動揺集中面積(以下,SD Area)の測定と下肢の機能的運動能力テストであるFunctional Ability Test(以下,FAT)を用いた。SD Areaはアニマ製Gravicorder GS1000のフォースプレート上に上述の3条件にて開眼で片脚立位となり左右別々に測定した。FATは(1)片脚幅跳び,(2)片脚8の字跳躍,(3)片脚横跳び,(4)片脚段差昇降,の4種目からなり,上述の3条件にて行わせた。なおこれら3条件の順番および種目の順番は無作為とした。統計処理は左右32足での3条件におけるSD AreaおよびFATの4種目の成績をTukey検定を用いて比較し,危険率5%未満を有意とした。【結果と考察】SD Areaによる比較では,平均値においてバレーシューズの成績がやや低かったが,有意な差は認められなかった。この結果から,バレーシューズと比較してスポーツシューズやマジックテープの靴は靴底が厚く,足底からの感覚情報のフィードバックの制限が大きいと考えられるが,足部機能を支持する構造を有しているため,足部の能力を発揮させやすく,有意差が現れなかったのではないかと考える。FATによる比較では,全体としてスポーツシューズの成績が最も高かった。この結果はスポーツシューズの足部機能を支持する構造に起因するものと考える。しかし,同じく足部機能を支持する構造を有するマジックテープの靴ではスポーツシューズに比べ,片脚幅跳びと片脚8の字跳躍という前方への強い蹴り出しを必要とする課題において有意に成績が低かった。このことは靴底の摩擦力の違いによるものではないかと推測され,摩擦力を考慮した上で靴を選択していくことの必要性が示唆された。バレーシューズはスポーツシューズと比較して片脚8の字跳躍以外の3種目において有意に成績が低く,またマジックテープの靴と比較して片脚段差昇降において有意に成績が低く,運動には適しているとはいえないと思われた。
著者
加藤 典子 市橋 則明 坪山 直生
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0110, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】股関節内転筋群は恥骨筋、薄筋、長内転筋、短内転筋、大内転筋で構成され、非常に大きな容量をもち、また外転筋群の1、5倍の仕事量をもつとされている。しかし、内転筋群の機能や歩行に与える影響など運動学的に検討した報告は少ない。内転筋群は全て閉鎖神経支配であり、恥骨筋は大腿神経との2重神経支配である。今回、閉鎖神経を切除された2症例を経験し、内転筋群が股・膝関節筋力に与える影響と歩行などのADLに及ぼす影響を検討したので報告する。【症例紹介】A氏42歳 H.11卵巣癌と診断される。手術・放射線治療されるも再発繰り返し、H.14.11骨盤内臓器と共に右閉鎖神経切除される。B氏55歳 H.6子宮頚癌と診断される。手術・放射線治療されるも再発し、H.14.12骨盤内臓器と共に右閉鎖神経切除される。理学療法はそれぞれ手術後5日、13日後から開始し、Closed Kinetic Chain トレーニングを中心に、退院時までそれぞれ11週・9週間施行した。【評価】手術後A氏10週、B氏8週後に両下肢筋力を測定した。Power track (NIHON MEDIX社製)を使用し等尺性筋力を測定した。以下A氏、B氏の順で健側に対する%(健側比)で表す。股関節90度屈曲位での股関節屈曲筋力は88・78%であったが、股関節0度伸展位(膝屈曲位)での屈曲筋力は58・53%と大きく低下した。股関節伸展筋力は61・48%であったが、外転筋力は90・87%と比較的保たれていた。股関節90度屈曲位での外旋筋力は29・25%と最も低下し、股関節0度伸展位での外旋筋力は59・46%であった。一方、股関節内旋筋力は股関節90度屈曲位94・95%、0度伸展位100・89%とほとんど影響なかった。膝関節伸展筋力は87・62%、屈曲筋力は48・38%と低下していた。内転は軽度屈曲位で重力除去肢位において可能(MMT2レベル)ではあったが、測定不可能であった。股関節伸展位からの屈曲は手術後それぞれ19日後、32日後まで不可能であった。膝屈曲位保持は不安定であり、患側片脚ブリッジは退院時においても困難であった。歩行に関しては理学療法開始初期においてはつたい歩きレベルであり、右立脚期の短縮がみられたが、退院時には屋外歩行獲得可能となった。B氏にwide baseがみとめられた以外の破行はみられなかった。他のADLにおいても退院時には全て自立していた。【考察】本2症例の検討により、閉鎖神経が切除されてもほとんどADLに支障はなく、他の筋で代償可能であると考えられる。各筋力評価から、股関節内転筋は内転以外の作用として、股関節外旋(外閉鎖筋の関与も考えられるが)と股関節伸展位からの屈曲に重要な作用があると考えられた。膝関節筋力の低下がみられたことより、膝関節屈伸時の近位関節の固定筋として内転筋群の役割も重要であることが示唆された。
著者
丹保 信人 三根 幸彌 小野 健太 青山 多佳子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1290, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】シンスプリントは下腿の代表的なスポーツ障害であり、一般的に運動に伴う下腿遠位内側部の疼痛と圧痛が主訴とされる。理学療法においては足部への介入が中心となることが多く、足底板を使用した介入の報告も多くなされている。今回、股関節・体幹機能に着目した理学療法が奏効したシンスプリント症例2例を経験した。シンスプリントに対する理学療法の一つの視点として有用ではないかと考えられたため以下に報告する。【方法】1.対象対象はシンスプリントと診断された17歳女性(症例A)と16歳男性(症例B)の2例。2例ともに患側は右であった。競技種目は症例Aはバスケットボール、症例Bは野球。理学療法開始前、症例Aは約2ヶ月間、症例Bは約1ヵ月間、他院にて外用薬を処方され経過観察されていた。2.理学療法評価項目股関節・体幹機能評価として股関節周囲筋筋長検査、股関節周囲筋筋力評価(Manual Muscle Testing:MMT)、フロントランジ、胸骨下角の4項目を実施した。また、疼痛の状態をNumerical Rating Scale(NRS)を用いて評価し、疼痛の経過を記録した。前述の股関節・体幹機能評価より得られた問題点に対して運動療法プログラムを立案し、伝達した。3.その他服薬、外用薬の使用はしなかった。装具や足底板についても同様に使用しなかった。【説明と同意】本人に対して本研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た.また、本研究を進めるにあたり竹田綜合病院倫理委員会の承認を得た。【結果】1.初期理学療法評価症例A:理学療法開始時は疼痛によりランニングが困難であり(NRS5)、歩行時にも疼痛が自覚されていた(NRS1)。下腿遠位内側部に圧痛と腫脹を認めた。股関節周囲筋筋長検査は患側大腿筋膜張筋が陽性。MMTは患側腸腰筋3、中殿筋後部線維が2+。患側フロントランジでは患側下肢にknee in-toe outが観察され、患側への骨盤回旋も伴った。胸骨下角に非対称性は観察されなかった。症例B:理学療法開始時は疼痛によりダッシュが困難であった(NRS4)。下腿遠位内側部に圧痛を認めた。股関節周囲筋筋長検査は患側大腿筋膜張筋が陽性。MMTは患側腸腰筋、中殿筋後部線維が2+。患側フロントランジでは症例Aと同様に患側下肢のknee in-toe outと患側への骨盤回旋が認められた。胸骨下角は患側に狭小化が認められた。2.理学療法介入伝達した運動療法内容は硬化筋ストレッチ、中殿筋後部線維筋力増強運動、股関節・体幹筋協調運動(コアエクササイズ)であった。各運動療法の方法や負荷は来院時の評価結果や疼痛の状態に合わせて適宜変更した。理学療法介入中は、運動や日常生活上で患部に疼痛が出現する動作を、本人と相談の上可能な限り制限した。症例Aは2週に1回で計3回、症例Bは週1回で計4回の外来理学療法をそれぞれ実施した。 3.最終評価結果 症例A:下腿遠位内側部の疼痛は消失し部活動にも完全復帰した。大腿筋膜張筋筋長検査は陰性化した。患側腸腰筋、中殿筋後部線維のMMTは4となった。患側フロントランジでのknee in-toe outはわずかに残存したが患側への骨盤回旋は消失した。症例B:下腿遠位内側部の疼痛は消失し部活動にも完全復帰した。大腿筋膜張筋筋長検査は陰性化した。患側腸腰筋、中殿筋後部線維のMMTは4となった。患側フロントランジでのknee in-toe out、患側への骨盤回旋はともに消失した。【考察】シンスプリント2例に対し、股関節・体幹筋の硬化、筋長の変化とそれに伴う弱化に着目し理学療法を行った。大腿筋膜張筋の硬さと、拮抗する中殿筋後部線維の弱化により、疼痛出現近似動作であるフロントランジでは股関節内旋が優位となっていた。また患側への骨盤回旋を伴うことから体幹筋による骨盤コントロールが不十分であることも疑われた。これらのことから、股関節・体幹における複合的な機能障害の結果としてknee in-toe outが生じやすくなっていると考えた。理学療法評価から得られた問題点に対しては、股関節・体幹を協調する機能的複合体として捉え、運動療法プログラムを立案、伝達するように考慮した。症状の消失に至った理由としては、運動療法を通して股関節・体幹機能に改善が得られたことにより、knee in-toe outを防止する効率の良い下行性運動連鎖が獲得されたためではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】シンスプリントに対する理学療法においては、足部からの上行性運動連鎖だけではなく、股関節・体幹からの下行性運動連鎖の影響を考慮することの重要性が示唆された。