著者
高氏 涼太 河野 奈美
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.EdPF1048, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】人類が二足歩行を行うようになった時から、腰痛は逃れることの出来なくなった健康障害の1つであり、多くの現代人がこの腰痛に悩まされている。平成19年の有訴者率において腰痛は最も高い症状であり、日常生活や労働を行う上で問題となるため、腰痛予防を行うことは重大な課題となる。厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」を策定し、作業環境を含め作業姿勢や重労働者のコルセット使用、作業前体操等推進しているものの、農作業に携わる場合の腰痛予防は十分行われているとは言えない状況である。今回、農業を行っている人を対象とし、農作業時に生じる腰痛動作を明らかにし、農作業時の腰痛予防策を検討したので報告する。【方法】対象は、福井県JA全国農業協同組合連合会に依頼し同意が得られた職員および、兼業農家とし、選択式および記述式調査票を配布し後日回収した。調査項目は、年齢、性別、身長、体重、腰痛経験の有無、ここ1年間の腰痛の有無、農作業時の腰痛状況、また、生活状況を把握するために生活様式や食事について質問した。統計処理はSPSS 15.0J for Windowsを用い腰痛と各要因との関係についてχ2検定を用いて行った。【説明と同意】福井県JA全国農業協同組合連合会および、兼業農家に依頼し、本研究の目的と調査内容を説明し同意を得た。【結果】調査票を配布した70名中、記入漏れのない53名(有効回答率76.8%)、男性38名、女性15名、平均年齢49.5歳(23~73歳)であった。腰痛経験ありと回答した人は53人中44人となり男性32名、女性12名、平均年齢49.5歳(30~73歳)、腰痛経験率83.0%であった。さらに、ここ1年間の腰痛率は75.0%で、男性71.9%、女性83.3%と男女差はみられなかった。主な生活場所は和室88.0%、洋室12.0%、就寝場所は布団74.0%、ベッド26.0%と和式生活が多かったが、食事する場所は、76.0%が椅子と回答した。食事は3食取っていると回答した人は82.0%で、1週間に3.9回魚や肉を摂取していた。生活状況や食事と腰痛経験の有無との関係について有意差はみられなかった。腰痛発症状況は、急性腰痛症などで急激に痛みを呈した8名、急性腰痛症を経験していなくとも徐々に痛くなった22名は、腰痛の頻度に関係なく我慢できる痛みと回答していた。腰痛が生じる環境は屋外での作業71.0%と多く、寒い時に腰痛が出ると回答した人は50.0%であった。農作業で初めて腰痛が生じた動作は前屈や中腰姿勢で13名、重量物の取り扱い動作で6名であった。腰痛経験者の農作業の内容として、水田35.0%、畑作24.0%、林業16.0%であった。【考察】今回の調査結果から、腰痛経験の有無と生活状況と食事との関係について有意差が見られなかったため、農作業時の動作が主な原因と考えられる。農作業による腰痛率は約83.0%と高く、従来言われている前屈や中腰といった姿勢、重量物の取り扱い動作などによるものがほとんどであった。さらに、軽トラックに乗るときに腰痛を生じていることが明らかとなった。これは、普通の車に比べ、乗車空間が狭く、乗車時に体幹の回旋動作が要求され腰への負担が大きくなることで腰痛が発症すると考えられることから、乗車時の腰への負担の少ない動作指導も必要と考える。農作業動作では、水田において田植えと稲刈りの時期に腰痛があると回答した人が多くみられた。田植えでは特にうせという作業、収穫期では稲刈り、米袋を運ぶという作業において腰痛が生じていた。畑作では、肥料運びといった種付けの時期や、収穫時で腰痛が生じると多く回答していた。林業では、傾斜での動作・作業時に腰痛を生じると回答した人が多く見られた。農作業時の姿勢は、作業環境を変えることの出来ない状況であることや腰部への負担が継続的にかかるため、同一姿勢での作業は1時間以内にしたり、休憩をしたりする指導は必要と考えられる。しかし、一般的な腰痛予防対策では不十分であり、今後さらなる調査を実施し、腰痛と農作業関連動作について詳細に検討していく予定である。【理学療法学研究としての意義】農作業時の腰痛予防に対し、理学療法士が地域に積極的に参加して指導することが望ましいが、現状では十分に行われていない。本研究によって、腰痛が生じる農作業時期や内容が一部明らかとなったことで、今後、農作業者の腰痛に対する指導内容のヒントとなるものと考える。
著者
高橋 昌二 小原 利紀 吉川 美穂 川上 正人 中島 一彦
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E1131, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】座位姿勢の保持と変換は、健常者や軽度要介護者では少ない労力で済むためあまり意識せずに行える。重度要介護者では運動および感覚機能障害により、骨盤後傾し脊柱後彎した仙骨座りとなる場合が多い。仙骨座りを呈する症例では、身体を動かすあるいは姿勢のバランスを保持するための身体部位の位置決めや力の入れ方がわからなくなることが多く、座位で行う諸活動を拙劣にする要因になる。今回、支持基底面、支持基底面を通る重心線、筋活動など力学原理からなる身体力学(以下、ボディメカニクス)を応用した車椅子座位姿勢の保持と変換の動作練習を実施し、効果を検討したので報告する。【方法】障害高齢者の日常生活自立度B2で、座位姿勢の保持と変換が全介助または一部介助、通常は可でも健康状態低下時に要介助となる患者36名を対象とした。日常生活で使用する車椅子に座り、身体各部を意図的に動かし全身の協調による少ない筋力でも安定・安楽となる肢位が認識できるよう動作練習を実施した。保持は、先ず後傾した骨盤を垂直にするため体幹前面筋群および股関節屈筋群の協調的な収縮で股関節屈曲90度を保持しながら足底を床につける。次に後彎した脊柱を体幹全体で垂直方向に引き上げた最大伸展位から少し屈曲し、安定・安楽な肢位を認識する。変換である座り直しは、先ず安定を図るために上下肢による支持基底面の横幅を広くとる。次に座位バランスの保持を最小限の筋力で行うために、身体重心線が支持基底面内に収まるよう上体前傾を基本に、肩、肘掛けに置く手、床に接する足が側方から見て垂直に近づく位置とする。最後に力の方向として、上体前傾しつつ、手で肘掛けを真下に押すことにより上肢で殿部を挙上し座面との摩擦を軽減、足で挙上している殿部を前後左右に動かす。体幹と上下肢の位置を少しずつ変えて安定・安楽に座り直せる肢位を認識する。【結果】改善25名。不変11名。筋力が全身的に重度低下、活力と欲動が過度に低下した症例では改善が認められなかった。【考察】仙骨座りが改善し、座位姿勢の保持と変換が連動できるようになると、視野が広がる、テーブルや洗面所に体幹と上肢が接近する、上肢を挙上しやすくなる効果があるので、食事や整容を上手で綺麗に行うというニーズに応えることができる。なお、仙骨座りを呈する症例は健康状態が低下しやく、低下した場合は動作練習をその都度実施し改善を図る必要がある。【まとめ】重度要介護者でも心身機能が悪化していなければ、ボディメカニクスを応用した動作練習で仙骨座りを改善し、車椅子座位の活動向上に有効と考えられた。
著者
中泉 大 淺井 仁
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0962, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】ハムストリングスは二関節筋であり,下肢伸展挙上(以下SLR)時に伸張され,起始部(坐骨結節)に加わる張力により骨盤が後傾すると言われている。Bohannonら(1984年)は上前腸骨棘と上後腸骨棘とに皮膚反射マーカーをつけ,動画により骨盤後傾を測定した。その結果,SLR角度が増えると骨盤後傾角度も増えることを明らかにした。しかし,SLR時に皮膚が伸張されると,皮膚反射マーカーによる角度測定の信頼性が低くなる可能性があるので,方法論の吟味が必要である。一方,Muyorら(2011年)やLópez-Miñarroら(2012年)は,最終可動域でのハムストリングスの伸張性と体幹前屈時の骨盤傾斜角度との関係を報告している。しかし,ハムストリングスの短縮程度が強いほど,SLR時の骨盤傾斜角度に対する影響が可動域の初期あるいは中間域からも出現する可能性がある。そこで,今回我々は骨盤の後傾度合が上後腸骨棘部から受ける荷重量によって間接的に評価できるのではないかと考え,ハムストリングスの伸張性とSLRの角度を変えた場合の骨盤後傾に伴う荷重量の変化との関係を検討した。研究仮説は以下の通りである:ハムストリングスの伸張性の制限が強いほど小さなSLR角度で骨盤後傾に伴う荷重量が増える。【方法】被験者は神経学的,整形外科的疾患を有していない18~24歳の20名(男性10名,女性10名)であった。ハムストリングスの伸張性により被験者をH群(最大SLR角度80°以上)とR群(最大SLR角度75°以下)とに分けた。実験手順は以下の通りである。(1)ハムストリングスの伸張性は,他動的SLR角度によって評価された。ハムストリングスの伸張効果を避けるために,SLRを左右それぞれ1回ずつ測定し,検査側はSLR角度の小さい側,もしくは左右の角度が同じ場合は左側とした。(2)骨盤部の荷重量の測定は,荷重センサーを取り付けた測定板上で背臥位にて行われ,上後腸骨棘部を荷重センサー部に一致させた。上前腸骨棘上をベルトにて測定板に固定した。開始肢位(SLR0°)での荷重量を0とし,測定角度は5°から最大SLR角度までを5°刻みに設定され,これをランダムな順番で試行した。一回毎の試行手順:測定角度まで検査側下肢が他動的に動かされ,測定角度で3秒間保持されているときの荷重量を測定した。測定条件は非検査側の大腿部の固定のあり,なしの2つである。それぞれの条件での測定は別の日に実施された。得られた荷重量を体重で除した値(%荷重量)をデータ分析に用いた。統計処理にはSPSS Statisitics19.0を用いた。下肢固定の有無の影響を検討するために,すべての被験者がSLRを行うことのできた55°までのデータについて,対応のある反復測定2元配置分散分析が用いられた。下肢固定の有無による主効果が認められなかったため,以下の分析は下肢固定なし条件でのデータを用いた。SLR角度に対するR群とH群との%荷重量の違いを検討するために対応のない反復測定2元配置分散分析を行い,交互作用が認められた場合,角度毎の%荷重量の差を対応のないt検定を用いて分析した。有意水準は5%とした。【結果】R群は9名で,最大SLR角度は55°~75°に,H群は11名で,同じく80°~90°に,それぞれ分布した。両群ともにSLR角度と%荷重量との関係は2次式で近似できた(R群r=0.996;H群r=0.998)。SLR角度55°までの角度と%荷重量との関係においてR群とH群との間に交互作用が認められ,R群とH群とではSLR角度に対する荷重の程度が異なることが示された。角度ごとに両群の%荷重量を比較すると25°および35°以降ではR群の%荷重量が有意に大きかった。【考察】両群ともにSLR角度と荷重量との関係は2次式で近似できたことから,今回の方法の妥当性が確認された。R群ではH群に比べ,小さい角度から%荷重量が有意に大きかったことから,ハムストリングスの伸張性が低下すると,小さいSLR角度から骨盤後傾による代償が行われると考えられた。また本研究では下肢固定の有無による有意な影響はなかったため,下肢固定の有無による骨盤後傾への影響はない可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】これまでハムストリングスの伸張性はSLR最大角度によって評価されていた。しかし本研究の結果から同じSLR角度でもハムストリングスの伸張性によって骨盤後傾の程度に違いがある可能性が示唆された。そのためハムストリングスの伸張性は,最大SLR角度に加えて,SLR角度と骨盤の動きとの関係から評価する必要があることが示された。
著者
大野 善隆 松井 佑樹 須田 陽平 伊藤 貴史 安藤 孝輝 横山 真吾 後藤 勝正
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-147_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】運動量に応じて骨格筋量は変化するが、その分子機構には不明な点が多く残されている。運動時に骨格筋は乳酸を産生し、分泌する。骨格筋には乳酸受容体が存在するため、乳酸は骨格筋にも作用すると考えられる。近年、培養骨格筋細胞を用いた実験において、乳酸によるタンパク合成シグナルの活性化ならびに筋細胞の肥大が報告されている。しかしながら、生体レベルでの骨格筋量に対する乳酸の影響は未解明である。そこで本研究では、乳酸がマウス骨格筋量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 【方法】実験には雄性マウス(C57BL/6J)を用い、足底筋とヒラメ筋を対象筋とした。マウスを実験1:対照群と乳酸投与群、実験2:対照群、筋萎縮群および筋萎縮+乳酸投与群、に分類した。筋萎縮群と筋萎縮+乳酸投与群のマウスには、2週間の後肢懸垂を負荷し、筋萎縮を惹起させた。乳酸投与群と筋萎縮+乳酸投与群のマウスには、乳酸ナトリウム(乳酸)の経口投与(1000mg/kg体重、5回/週)を行った。対照群と筋萎縮群には同量の水を投与した。全てのマウスは気温約23℃、明暗サイクル12時間の環境下で飼育された。なお、実験期間中マウスは自由に餌および水を摂取できるようにした。実験開始後2、3週目(実験1)および1、2週目(実験2)にマウスの体重を測定した後、足底筋とヒラメ筋を摘出した。筋重量測定後、体重あたりの筋重量を算出した。また、乳酸の経口投与が血中乳酸濃度に及ぼす影響を確認するために、乳酸の単回経口投与後にマウスの尾静脈から採血し、簡易血中乳酸測定器を用いて血中乳酸濃度を測定した。実験で得られた値の比較には、一元配置分散分析または二元配置分散分析および多重比較検定を用いた。 【結果】本研究で用いた乳酸の経口投与は、マウスの体重に影響を及ぼさなかった。また、乳酸の単回投与後に血中乳酸濃度の一過性の増加が認められた。実験1において、足底筋ならびにヒラメ筋の重量は乳酸投与により増加した。実験2では後肢懸垂により足底筋とヒラメ筋の重量は減少した。一方、乳酸投与は後肢懸垂による筋重量の減少を一部抑制した。 【考察】乳酸は筋肥大および筋萎縮予防の作用を有すると考えられた。細胞外乳酸濃度の増加が培養骨格筋細胞を肥大させることが報告されていることから、乳酸経口投与による血中乳酸濃度の増加が、筋重量の増加に関与していると考えられた。 【結論】血中乳酸濃度の増加は筋重量の増加に作用することが示唆された。本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費(17K01762、18K10796、18H03160)、公益財団法人明治安田厚生事業団研究助成、日本私立学校振興・共済事業団「学術研究振興資金」、公益財団法人石本記念デサントスポーツ科学振興財団「助成金」、豊橋創造大学大学院健康科学研究科「先端研究」を受けて実施された。 【倫理的配慮,説明と同意】本研究の動物実験は、所属機関における実験動物飼育管理研究施設動物実験実施指針に従い、所属機関の動物実験委員会による審査・承認を経て実施された。
著者
玉木 彰 大島 洋平 解良 武士
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DcOF1088, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】呼吸理学療法では,胸郭柔軟性の改善を目的に,胸郭伸張法,肋骨の捻転,胸郭の捻転,シルベスター法などの徒手的な胸郭可動域練習を実施している。これらの治療対象は呼吸器疾患のみならず,神経筋疾患や脳血管障害患者など幅広く,呼吸理学療法におけるコンディショニングの一つとしてプログラムに組み込まれることが多い。ところで,これらの胸郭可動域練習によって期待できる治療効果としては,胸郭柔軟性の改善だけでなく,換気量の増大,胸郭周囲筋の筋緊張抑制,リラクセーションなどが挙げられているが,これらの効果を裏付ける根拠となるデータは殆どないのが現状である。そこで本研究では,徒手的な胸郭可動域練習の効果を明らかにする目的で,治療前後における肺・胸郭のコンプライアンスや呼吸運動出力などを分析し,胸郭可動域練習の生理学的意義について検討した。 【方法】対象は健常な成人男性13名とした。年齢は22.1±2.8歳,身長は176.1±5.4cm,体重は66.5±9.7kgであった。各対象者に対し,初めにスパイロメーター(ミナト医科学社製AS-407)を用いて肺活量(VC)を測定した。測定は3回行い最大値を採用した。次に背臥位となり安静時の一回換気量,呼吸数などの換気パラメーターおよび,呼吸運動出力の指標として気道閉塞圧(P0.1)を測定した。方法は気道閉塞装置(Inflatable Balloon-Type™ Inspiratory Occlusion)に流量計とマスクを直列に接続し,対象者の口から息が漏れないよう,測定担当者が固定した。さらに最大吸気位からゆっくり力を抜いて段階的に息を吐かせ,各肺気量位における肺容量と気道内圧の関係から圧量曲線を求め,肺・胸郭のコンプライアンスを測定した。これらの測定を以下に示す胸郭可動域練習の治療前後で同様の手順で実施した。 治療として実施した胸郭可動域練習は,全て背臥位における徒手胸郭伸張法,肋骨の捻転,胸郭の捻転の3種類とした。手技方法は,「呼吸理学療法標準手技(2008)」に掲載されている方法に準じて両側の胸郭に対し実施した。治療時間は実際の臨床を想定し,各手技の実施時間を約2分間,合計約6分間とした。統計解析は,治療前後における各測定項目について,対応のあるt検定を実施し,有意水準は5%未満とした。【説明と同意】全ての被験者には,本研究の主旨を口頭および書面で説明し,同意を得た上で測定を実施した。【結果】肺活量は治療前後でそれぞれ,4.98±0.57L,5.01±0.61Lと有意な増加は認められず,また圧量曲線から求めた肺・胸郭のコンプライアンスは治療前後でそれぞれ,5.22±1.59L/cmH2O,5.65±1.86 L/cmH2Oと有意な改善は認められなかった。一方,安静時のおける一回換気量も治療前後で変化が認められなかったにも関わらず,呼吸運動出力を示すP0.1(1.81±0.45cmH2O,1.18±0.45cmH2O)や呼吸数(14.21±4.33回/分,12.76±3.59回/分),吸気時間(1.96±0.54秒,2.64±0.84秒),呼気時間(2.32±0.55秒,2.84±0.78秒),吸気呼気時間比(0.85±0.11,0.93±0.13)には治療前後で有意な改善が認められた。【考察】本研究では,呼吸理学療法におけるコンディショニングとして実施されている胸郭可動域練習の生理学的意義について,呼吸機能や肺のコンプライアンス,呼吸運動出力の面から検討した。その結果,肺活量や肺のコンプライアンスには治療前後における改善は認められなかったが,P0.1や吸気時間,呼気時間などにおいて有意な改善が認められた。P0.1は中枢からの呼吸運動出力を反映すると考えられ,横隔神経活動との相関があることから,呼吸努力を間接的に捉えることができるため,呼吸困難に関する研究の指標として使われている。したがって,従来は胸郭可動性を改善することで胸郭柔軟性(胸郭コンプライアンス)や肺活量(肺のコンプライアンス)の改善などが得られると考えられてきたが,本研究の結果から,胸郭可動域練習の生理学的意義は呼吸運動出力の低下,すなわち呼吸困難の軽減やリラクセーション効果であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,これまで実施されてきた胸郭可動域練習の効果に関する生理学的意義を明らかにするものであり,今後の呼吸理学療法のエビデンス作りに寄与するものである。
著者
兵頭 正浩 入江 将考 濱田 和美 花桐 武志
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A-79_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【背景】肺癌患者の筋肉量減少は予後不良因子と報告されているので,体重減少のみでなくサルコペニアの評価は臨床的に有用である.しかし,身体組成と予後との関連は不明な点が多い.本研究の目的は,早期肺癌患者と比較することで,進行肺癌患者の身体組成の特徴を明らかにすることである. 【方法】 2017年4月から2017年12月までに当院において,肺癌に対し胸腔鏡下肺切除術を施行した症例と進行肺癌に対する薬物療法の初回導入時にリハビリ介入を行った症例のうち,身体機能・組成評価を実施出来た症例を対象とした.身体機能は,6分間歩行距離(6MWD)と等尺性膝伸展筋力(下肢筋力)を,身体組成は,生体電気インピーダンス法を用いて四肢骨格筋量(SMI),細胞位相角(PA),体水分均衡(ECW/TBW)を測定した(何も手術前,化学療法開始前).早期肺癌群(早期群)と進行肺癌群(進行群)において,臨床データ,身体機能・組成を比較した.統計分析は,Fisherの正確検定またはt検定を用い,有意水準は5%とした. 【結果】 研究期間内の呼吸リハ実施例の80例中,51例が解析対象となった(早期群:40例,進行群:11例).2群間の比較の結果,有意差があったのは,Performance Status(p<0.01),6MWD(p<0.01),下肢筋力(p=0.01),PA(p=0.01),ECW/TBW(p<0.01). 一方, 年齢,BMI,SMIには有意差を認めなかった. 【結論】 早期群と比較して進行群は,予後不良因子とされているPS,PAが有意に劣っていた.一方,SMIやBMIは有意差を認めなかった.これは進行群でECW/TBWが有意に高いことから分かるように,筋の過水和がその一因であったと考えられる.身体機能が有意に低かったことからも,進行群における筋質の低下が結果に影響を及ぼしていた可能性がある.肺癌患者におけるサルコペニア評価には,単に筋肉量だけに着目するだけでなく,ECW/TBWも考慮することが重要であった.また,身体機能を併せて測定することで身体組成が正しく評価できることが示唆された. 【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に沿い研究計画書を作成し,当院の研究審査委員会(登録番号:15000-161)の承認(承認番号:2015-0005)を得ている.対象者全員に十分な説明を行い,同意を得て評価及び呼吸リハビリテーションを実施した.なお,ヘルシンキ宣言に準じ倫理的配慮に基づきデータを取り扱った.
著者
安井 健 鷲尾 智子 横田 一彦 粟井 直子 中原 康雄 緒方 直史 芳賀 信彦
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1569, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】副腎皮質ステロイドは自己免疫疾患をはじめ広く使用される薬剤であるが,投与期間が長期に及ぶことが多く,入院期間も長くなりがちである。副作用としての筋力低下は,遅発性に近位筋優位に生ずる点,生化学的検査所見の乏しさと確定診断の困難さ,発症の個人差などから見落とされやすく,ベッドを用い,階段の使用などに制限のある入院生活においては,転倒などの問題が顕在化してから主科よりリハ依頼があることがほとんどであった。当院では,理学療法を必要とする対象者の実態を把握し,もれなく早期から介入することを目的に,病棟と連携した試みを行っており,その内容と経過を報告する。【方法】対象病棟は,アレルギーリウマチ内科および呼吸器内科の専有病棟で,対象者は,ステロイドの長期加療(パルス療法と後療法,中等量(0.5mg/kg/day)以上からの漸減投与など)により長期入院が予定され,かつ,加療前の段階では歩行が自立しており,運動器障害による理学療法(PT)の介入の必要性が低いと考えられる患者である。この中で,病棟看護師のスクリーニング評価によって筋力低下が疑われた場合,看護師がリハサイドに報告するとともに主科にリハ依頼を提案,依頼のあった患者に対してPTを行った。スクリーニング評価の内容は,①近位筋の筋力評価(SLR,ブリッジ,頭部拳上,ベッドフラットからの起き上がり,ベッド端座位からの起立の各動作の可否やできた回数を,加療前と加療開始後4週毎に評価),②筋力低下の自覚症状を聴取,または患者からの自己申告,の2項目で,家屋状況の聞き取り(階段の有無,ベッド等の所有状況,しゃがみ立ちの必要性など)を補助項目とした。また患者への啓蒙のため,パンフレットを作成して対象者へ配布した。【倫理的配慮,説明と同意】リハ医学に関する後ろ向きの疫学研究に関して,東京大学医学部倫理委員会の承認を得ている。【結果】平成25年4月1日~10月31日に対象病棟を退院した患者のうち,ステロイド加療にて1か月以上入院した患者は28名(男8名,女20名,平均年齢60.0±15.6歳)であった。このうち,入院中を通して歩行が自立していたのは21名(男5名,女16名,平均年齢60.2±15.3歳),その中でPTが介入したのは6名(すべて女性,平均年齢57.8±15.0歳)で,すべてスクリーニングを通して依頼があった患者であった。歩行が自立していなかった7名は,入院前から有する運動器障害や呼吸障害の増悪,術後の廃用などの理由で既にリハ依頼があり,すべてにPTが介入していた。スクリーニングで選定された6名はすべて,上記①では問題を呈さなかったが,ステロイド加療開始後1ヶ月前後(平均36.2±20.5日,中央値28日,最大値77日,最小値23日)で自覚症状を呈し,PTの介入に至った。すべて自宅退院したが,自宅環境では,6名中5名において,階段昇降や床からの起立動作が必要であるなど,入院環境とのギャップがあった。診断のために%クレアチン尿の計測を行った症例はなかった。骨格筋の状態を,CT画像による大腿部や股関節周囲筋の筋量の変化で確認できた症例が1名あり,腸腰筋および大殿筋の明らかな萎縮を示していた。PTによる筋力評価は,起立や階段昇降の動作方法の介入中の変化や,入院前に行っていた方法との比較により行った。PT開始時の筋力低下の程度にはばらつきがあり,介入頻度は週2~5日で適宜調整した。退院時,6名中4名は入院前レベルの筋力まで回復せず,動作方法の指導や在宅環境調整を必要とした。【考察】スクリーニング症例はすべて,入院生活上では歩行に制限がなく,今回の関与がなければPTが介入することなく自宅退院となり,退院後の生活に困難さを生じた可能性がある。スクリーニングにおいては,とくに筋力低下の自覚症状の出現に着目することが有用である。生化学的検査所見に乏しいが,CT画像で筋量の推移を評価できる場合がある。PTによる筋力の評価では,全身性疾患や,呼吸・循環器系の障害をもつ症例には計測機器を用いた最大筋力の測定にはリスクを伴うため,起居動作や階段昇降における動作方法とそれに要する筋力に着目することが有効で,退院時指導の際にも有用である。【理学療法学研究としての意義】病棟看護師と連携することで,ステロイド筋症が疑われる患者へのPTによる早期かつ適切な対応が可能となり,円滑な自宅退院に寄与できる。
著者
野間 俊司 伊東山 洋一 中村 智哉 市坪 明子 工藤 理沙 千代田 愛美 永田 英二 松崎 智範 河崎 和博
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3O1084, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】脳卒中片麻痺が装具を装着する際、片手でベルトを角環に通す動作は意外と難しい。また、利き手が麻痺した症例なら更に装着は困難となる。そこで角環の上部に隙間を空け、ベルトを通しやすくし、かつ、抜けにくい機能を持ったリングを発案した(以下イージーリングと称する)。それを片麻痺の症例に用い、角環とイージーリングとの装着時間を各々測定し、イージーリングが装具装着を容易にさせるか見ると共に、装着を容易にする事はどのような効果が得られるのか考察する事が目的である。【方法】イージーリングの効果の実証には症例が普段使用している装具にて行った。まず、角環での装着時間を計測しその後、角環をイージーリングへ付替え装着時間を各々3回計測し平均をとった。また、計測は装具を装着し終えた時点から測定を始めベルトを通し終えるまでとした。有効性を見るにはウィルコクソンの符号付順位和検定を用いた。【説明と同意】症例は、右片麻痺25例、左片麻痺25例で内訳を以下に示す。 年齢:31歳~85歳(平均72.5±9.7歳)性:男性25例、女性25例 発症からの日数:28~1017日(平均179±188.6日) 全例シューホーンAFOを使用 下肢BRS:<&#8544;>:0例(0)<&#8545;>:15例(7)<&#8546;>:19例(10)<&#8547;>:14例(8)<&#8548;>:2例(0)<&#8549;>:0例(0)( )は健手麻痺 歩行能力:自立17例 監視14例 小介助7例 多介助12例 不能0例 前記の症例に対して既存の角環と新たに完成したイージーリングとで各々の装着時間を計測し、どちらが装着し易いか比較検討する事が目的である事を説明し、リングの付替えに同意を得た例を対象とした。また、高度の認知症や高次脳機能障害を持つ例は除外した。【結果】1 角環での装着時間は、左片麻痺では13.3~166.1秒(平均45.0±46.3秒)右片麻痺では、19.8~300.0秒(平均66.0±60.5秒)であった。イージーリングでの装着時間は、左片麻痺では7.8~140.1秒(平均32.2±37.6秒)右片麻痺では9.2~149.2秒(平均39.3±32.2秒)であった。装着時間では、イージーリングの方が、左片麻痺でー4.1~―36.2秒(平均-13.8±9.0秒)装着時間が短く、右片麻痺ではー5.6~―150.8秒(平均-26.7±30.3秒)装着時間が短縮し、右片麻痺の症例で効果が明らかであった。 2 有効性を見るのに統計を用い検討したところ、左片麻痺では全例イージーリングの有効性(P<0.01)が認められ、右片麻痺に於いてもイージーリングに有意な差が認められた。(P<0.01) 3 角環からイージーリングに付替える事は、全例で承諾を得ており測定終了後は、元の状態に戻す事を説明していたが角環に戻す例は1例もいなかった。【考察】今回、角環の上部に隙間の開いたイージーリングを新たに創作し、装具装着時間を計測したところ、全例で装具装着時間が短縮し角環に比べイージーリングの方が装着し易いという結果を得た。装着が容易になった理由は、差込みから折返しまでベルトを持ちかえる必要が無くなった事が大きい。また、これらの症例の中には装具を作成して以来、初めて自力でベルト装着できた症例も含まれており注目に値する。片麻痺患者にとって装具の選択は重要であり、装具の選択要因には安定性や歩容で決定される事が多い。しかし、これに加えて装具の装着能力をも考慮しなければならない。現在、医師や理学療法士が装具を処方する際は装具の機能性や歩容を優先する傾向にあるが、症例の立場に立って装着し易さといった面も視野に入れて、装具の処方がなされる機会が増える事を切望すると共にイージーリングが装具を処方する際の選択肢の一つになれればと思う。【理学療法学研究としての意義】どんなに優れた機能を持った装具でも、自力装着できなければ症例の持つ真の歩行能力を見落とす可能性がある。在宅療養になった際、特にこの点は重要で、自力装着できなければ裸足で歩く事になり、転倒のリスクが増す事となる。それに対して装具装着を容易にし、安定した歩行を獲得させる事は、転倒のリスクを減少させ、歩行能力の維持・拡大のみならず健康維持にもつながる。その事は、在宅療養を継続するのに重要な因子であり今回完成したイージーリングは在宅療養の継続に貢献できるものと考える。また、イージーリングは下肢装具以外にもコルセットや他の装具にも活用が期待でき、装着の煩わしさを軽減させるため、本人のみならず介護者にとっても利便性が広がる可能性を持つものと考える。
著者
庄﨑 賢剛 今村 知之 中道 剛 松井 良一 柴田 和哉 松永 圭一郎 玉利 光太郎 原田 和宏 元田 弘敏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101575, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 現在、腰痛の約80%が原因不明の非特異的腰痛であり、アライメント異常は腰椎椎間関節・腰仙関節などにストレスが生じ、腰部・骨盤帯の不安定性による機能障害や疼痛を引き起こす可能性が考えられる。そのため、理学療法において腰部・骨盤帯に関連する仙腸関節の可動性の評価は重要である。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、新鮮死体用いた報告、生体に直接Wire・ボールを挿入しカメラやX線を用いた報告、MRIを使用した報告などがある。しかし、これらの方法では侵襲やコストの面から臨床応用は困難であると思われる。加えてこれらの報告は腰椎前屈・後屈・股関節屈曲での他動的測定姿勢位で行われており、骨盤周囲筋を動員し自動運動時の測定肢位での研究は見当たらなかった。そのため、本研究では安静立位と自動運動時の骨盤前傾・後傾時にそれぞれX線撮影し、仙腸関節の可動性の定量化と信頼性を検討した。【方法】 信頼性の検討では健常成人男性15名を対象とし(年齢:27.9±4.6歳、身長:168.4±5.9cm、体重:60.8±9.0kg)、仙腸関節の定量化の測定では健常成人男性62名とした(年齢:28.7±5.7歳、身長:169.7±5.9cm、体重:64.0±9.3)。X線撮影は安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位の3つの姿勢にて、腰椎・骨盤における矢状面を立位の左側方からX線を照射し撮影を行った(L→R画像を撮影)。骨盤の動きは検査者が徒手的に骨盤前後傾の動きを誘導した。その際、体幹が前傾・後傾することなく、正中位を保持し、両膝が屈曲位とならない範囲での姿勢を保つように指導した。被験者に動きを十分学習させた後、骨盤周囲筋を最大に動員した自動運動の最終域で姿勢を保持させ撮影を行った。再現性に関しては同様の方法で、その後1か月以内に2回目の撮影を行った。得られた画像はDICOM形式医用画像Viewer(Radis Version 1.2.0)を使用してパソコン上に描写し、その画像処理を行った後、GNU画像編集プログラム(GIMP2.6.7)を使用して、骨盤傾斜角、腰仙角(第1仙椎上縁と水平線との角度)を計測した。本研究では、仙腸角は腰仙角から骨盤傾斜角を引いたものと定義した。骨盤傾斜角はASISとPSISとを結ぶ線と水平線とのなす角度とし定義した。X線撮影に関しては当院の医師の指示の基、診療放射線技師が行った。統計学的解析はSPSS Statistics Ver.20 を用いた。信頼性に関しては、相対信頼性として級内相関係数(ICC)を算出し、また絶対信頼性を検証するために測定の標準誤差、最小可検変化量(MDC)を算出した。そして、安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位において各被験者の各姿勢における平均値を算出した。また仙腸関節の可動性として各姿勢での仙腸角の差の絶対値の平均を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て(承認番号11-31)、各対象者に対し研究の主旨を書面と口頭で十分に説明し、同意書に署名が得られた方を対象とし実施した。【結果】 仙腸角について安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位におけるICCは全て0.99となり、MDCは安静立位0.86°、骨盤前傾立位1.38°、骨盤後傾立位1.11°となった。62名の仙腸角の平均値を算出すると安静立位20.04±6.80°、骨盤前傾立位19.29±6.85°、骨盤後傾立位22.25±6.90°であった。仙腸関節の可動性は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°(最大値9.82°、最小値0.12°)、安静立位と骨盤後傾立位では3.91±2.75°(最大値13.43°、最小値0.13°)という結果になった。骨盤前傾の際、腸骨に対し仙骨が後屈した者は38名(-3.23±2.40°)、前屈した者は24名(3.19±2.63°)であった。骨盤後傾の際は仙骨が前屈する者は37名(5.13±2.73°)、後屈する者は25名(-2.10±1.64°)であった。【考察】 今回の結果ではICCは0.99となり、相対信頼性が良好であることが確認できた。またMDCは0.86°~1.38°となり、仙腸関節の可動性がMDC以上の値となり、「誤差以上の変化」が見られた。今回、仙腸関節は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°、安静立位と骨盤後傾位では3.91±2.75°の可動性が見られた。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、竹井らは一側の股関節最大屈曲位にて仙腸関節は2.3°前屈位となり、両側の股関節屈曲では仙腸関節の動きは認められないとし、Sturessonらは股関節90°屈曲の際に-1.0°~ -1.2°の仙骨の後屈が見られたと報告している。本研究においては仙腸関節の可動性は先行研究を超える値が示された。その原因として、本研究での測定は骨盤周囲筋を最大限に動員した自動運動の測定肢位で行われたことなどが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回考案したX線を用いた仙腸関節の測定法での信頼性の確認と仙腸関節の可動性に関する新たな知見は臨床応用に繋がる可能性がある。
著者
稲吉 直哉 白倉 祥晴
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-166_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】頸椎症性筋萎縮症(以下Keegan型頚椎症)は上位近位筋の筋力低下を主症候とし、感覚障がいがないか軽微なことが多い。Keegan型頚椎症は自然回復の報告も多いが、高齢になるほど、回復率も下がるとする報告や徒手筋力テスト(以下MMT)2以下では手術の方がよいという報告などがあるが、手術療法、保存療法のどちらが良いか一定の見解は示されていないことが現状である。また保存療法の報告はあるが、運動療法の報告は特に少ない。そこで今回、Keegan型頚椎症に対する運動療法により症状が改善されたので報告する。【症例紹介】84歳代男性。左利き。鍋の焦げを取るためスポンジで強く擦り、翌日より右肩痛と挙上困難感出現。2週間ほど様子を見たが、疼痛は緩和したが右肩挙上困難感が残存し、当院受診。手術の希望はなく、外来リハビリテーション開始した。X線、MRI所見では、C3/4、C4/5、C5/6、C6/7に椎間板の軽度膨隆を認めた。棘上筋の変性は認めたが連続性は保たれていた。神経内科診察により、他の運動ニューロン疾患は否定された。【介入方法】初期理学療法時、主訴は右肩挙上困難のみで疼痛・しびれ・感覚障がいの訴えはなかった。Shoulder36V.1.3:45点、MMT右肩屈曲1、肘屈曲4、ほかの筋群には著明な筋力低下なし。右肩関節可動域(以下ROM)屈曲Active10°、Passive160°、肘屈曲Active・Passiveともに制限なし。頚部のROMは左側屈・左回旋制限が認められた。右肩屈曲動作時には右肩甲帯の挙上が認められ、右僧帽筋上部線維、右肩甲挙筋に圧痛が認められた。また座位姿勢はHead Forward姿位であった。介入当初より右肩屈曲Passive ROM制限予防のため、右肩関節のROM-ex、僧帽筋上部線維、肩甲挙筋に対し、横断伸長法を実施した。右肩三角筋の萎縮を認めたため、三角筋に対し低周波療法(Inter Reha社)を実施した。低周波療法実施肢位は背臥位、redcord(Inter Reha社)を使用し、頸椎はNeutral position位になるよう、頸椎牽引を行い、右上肢は自重を免荷した。低周波が流れるタイミングで自動介助運動を行った。刺激強度は疼痛のなく三角筋の収縮が確認できる強度で5秒間通電し、5秒間休息を1セットとし、20分間実施した。また頚椎のHead Forward姿位改善のため、頚部深部屈筋群のエクササイズを行った。リハビリテーション介入5週目から徐々に右肩関節屈曲可動域Activeが徐々に改善が認められ、介入10週目で右肩関節屈曲可動域Active 90°まで回復。また右肩屈曲90°保持も可能となった。頚部のROMも側屈、回旋ともに左右差はほぼなくなった。この週より自動介助運動の肢位を背臥位から右肩上の側臥位へ変更し、三角筋の収縮が触知できるようになったので低周波療法から中周波療法へと変更した。介入13週目Shoulder36V.1.3 :116点、MMT右肩屈曲3、右肩ROM屈曲Active120°であった。【結論】乾は1)Keegan型頚椎症の予後予測では発症期間が6ヶ月未満、MMT3以上が予後良好であり、また、年齢も高齢になればなるほど予後不良となると報告している。齋藤2)は罹患期間が長く、筋萎縮が顕著であれば筋萎縮から手術により圧迫が解除されても筋が線維化し回復が望めない可能性があると報告した。そのため筋萎縮から線維化を防ぐため低周波・中周波療法を実施した。また、安藤3)は保存的治療・予防には頚椎の良い姿勢を保持することが重要と報告している。今回はHead Forward姿位改善のため、緊張筋である僧帽筋上部線維、肩甲挙筋に対し、筋緊張緩和を行い、頚部深部屈筋群の促通を実施し、良肢位保持へと誘導した。Keegan型頚椎症は筋萎縮から線維化防止と頚椎良肢位保持のため、電気療法と運動療法の併用は検討の余地があると考えられる。【参考文献】1)乾義弘 新原著レビュー:頚椎症性筋萎縮症に対する保存的および手術的治療の臨床成績とその予後予測因子 20122)齋藤貴徳 近位型頚椎症筋萎縮症 20163)安藤哲朗 頚椎症の診療 2012【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、当院倫理委員会にて承認を得た。患者にはヘルシンキ宣言に基づいて文書と口頭にて意義、方法、不利益等について説明し同意を得て実施した。
著者
三上 恭平 川崎 翼 白石 眞 加茂 力
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1070, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】パーキンソン病(PD)の体幹前屈(前屈)の姿勢異常(PA)は難治性で,病態背景も不明な点が多い。DohertyらはPDのPAの病態背景の一つに,姿勢の自覚に関わる固有感覚の統合異常を挙げているが,PAを呈するPD患者の姿勢の自覚についての報告は少ない。また近年PAには,前頭葉の機能低下との関連性も報告されている(Nocera JR, et al., 2010)。本研究では,1)前屈を呈するPD患者のPAの自覚の有無と修正の可否,2)前頭葉機能がPD患者の前屈と関係するかの2点を検討した。【方法】2014年6月から7月に当クリニックに来院したMini Mental State Examination(MMSE)24点以上のPD患者で,前屈の姿勢異常角度が10度以上の27名を対象とした(75.1±8.1歳。男性11名,女性16名)。前屈の自覚の評価は,立位で「前に曲がっていると感じるか」の問いに「感じる」を自覚あり,「感じない」を自覚なしとした。前屈の角度は静止立位および口頭で垂直位への修正を求めた修正立位の静止画を撮影しImage Jを用いて解析した。前頭葉機能評価にはFrontal Assessment Battery(FAB)を用い,川畑の分類に基づき12点をカットオフ値として低値群と高値群に分類した(川畑。2011)。PDの重症度分類にはHohen and Yahr(H-Y)Stageを用い,運動機能評価にはUnified Parkinson's diseases Rating Scale(UPDRS)PartIIIを用いた。統計解析は,前屈の自覚有り群,無し群およびFAB低値群と高値群の2群間における前屈角度,UPDRS Part III,H-Y Stage,MMSEの値の差を,対応のないt検定にかけて解析した。なお,統計分析の有意水準は全て5%とした。【結果】27例中17例が前屈を自覚し,自覚あり群(41.6±21.9度)では,自覚なし群(22.6±13度)より有意に前屈角度が大きかった(P=0.019)。自覚なし群の7例(70%)は,口頭指示による姿勢の修正が可能であった。FAB低値群は,高値群よりも体幹屈曲角度が有意に大きかった(P=0.04)。一方,FAB低値群と高値群の間でMMSE,H-Y Stage,UPDRS Part IIIに有意な違いはなかった。【結論】前屈の角度が高度であれば自覚はある。しかし,その角度が低い例では姿勢の修正が可能であるにも関わらず,前屈を自覚していないため修正できない。さらに体幹屈曲角度にはFABで示される前頭葉機能が一因として関わっている可能性があり,前屈姿勢の改善のためには,運動機能のみならず前頭葉機能を考慮したリハプログラムが必要である。
著者
西上 智彦 池本 竜則 山崎 香織 榎 勇人 中尾 聡志 渡邉 晃久 石田 健司 谷 俊一 牛田 享宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P1018, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】前頭前野は記憶の形成などに大きく関与しており,慢性疼痛患者においても神経活動にModulationが引き起こされていることが明らかになっている.同部位の機能低下は注意力の低下,社会的認知能力の低下,意欲の低下を惹起している可能性があり,慢性疼痛患者においても治療をより難渋する要因となる.しかし,痛み刺激に対する前頭前野の脳血流量がどのようなタイミングで応答しているかについては未だ明らかでない部分も多い.また,前頭前野における脳血流の変化と痛みとの関係も明らかでない.本研究の目的は痛み刺激に対する前頭前野における即時的な脳血流変化を脳イメージング装置を用いて検討することである.【方法】対象は事前に研究目的と方法を十分に説明し,同意が得られた健常成人15名(男性9名,女性6名,平均年齢27.3±3.0歳)とした.痛み刺激は温・冷型痛覚計(ユニークメディカル社製,UDH-300)を用いて,49°Cの熱刺激をプローブにて右前腕に30秒間行った.痛み刺激終了後に痛みの程度をvisual analog scale(VAS)にて評価した.脳血流酸素動態は近赤外光イメージング装置(fNIRS,島津製作所製,OMM-3000)にて測定した.測定部位は前頭前野とし,国際10-20法を参考にファイバフォルダを装着した.測定開始前は安静とし,酸素動態が安定した後に測定を開始した.解析対象は測定開始からの10秒間(ベースライン),刺激開始からの10秒間(初期),刺激開始10秒後からの10秒間(中期),刺激開始20秒後からの10秒間(後期)の酸素化ヘモグロビン(oxyHb)のそれぞれの平均値とした.統計処理は多重比較検定を行い,ベースライン,初期,中期,後期のoxyHbの有意差を求めた.また,初期,中期,後期のoxyHbとVASの相関関係をそれぞれ求めた.加えて,痛みが少ない下位5名(VAS:25.8±8.3)と痛みが強い上位5名(VAS:72.2±5.6)の2群間の初期,中期,後期におけるoxyHbを比較した.なお,有意水準は5%未満とした.【結果】VASは平均51.6±20.6(14-83)であった.多重比較検定にて左側のBrodman area10(BA10)のoxyHbがベースライン,初期より後期において減少していた.初期,中期,後期のoxyHbとVASの相関関係は認めなかった.また,痛みが強い群は痛みが少ない群より初期における左右のBA10,中期における左側のBA 10のoxyHbが減少していた.【考察】痛み刺激によって前頭前野BA 10の脳血流量は即時的に減少した.また,痛みの感じ方が強い場合,BA10の脳血流量は有意に減少していた.基礎研究では関節炎モデルラットにおける電気生理学的解析にて,扁桃体が内側前頭前野の活動を抑制することが報告されている.以上のことからヒトにおいても,強い痛み刺激は,即時的に前頭前野の神経活動を抑制させる可能性が示唆された.
著者
玉利 誠
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-73, 2021 (Released:2021-12-24)

ハンスフィールドによって世界初のCT装置が開発された1970年代以降,脳画像は医師が行う診断に活用されてきた。また,2000年代には拡散テンソル画像を用いて脳の白質線維を仮想的に描出する手法(拡散テンソルトラクトグラフィー)が開発され,白質線維の構造的損傷と臨床症状との関連について多くの知見が得られるようになった。さらに,近年では安静時に生じるBOLD信号を定量することにより,脳領域間の相関関係を評価することが可能となったことから(Resting state fMRI),脳卒中後に生じる各種症状と脳の構造的および機能的ネットワークとの関係について解明が進められている。 一方で,脳卒中患者に対する理学療法の歴史に目を向けると,過去には脳損傷後の脳機能は不可逆的であると考えられてきたことや,臨床現場において脳活動をリアルタイムに可視化することが困難であったことなどから,脳画像を理学療法に活用しようという機運が高まるまでには長い時間を要したようである。近年では脳画像を症状の理解や予後予測に役立てようとする理学療法士も増えており,今般の理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則改定において医用画像評価が必修化されたことなどからも,今後は「理学療法士による脳画像評価の確立」や「脳画像解析技術を用いた理学療法の効果検証への挑戦」が重要であると考える。 そこで本講演では,上記2つのテーマを神経理学療法の未来に向けて取り組むべきものとして掲げ,その達成に向けて解決していくべき課題について議論を深めたい。 1)脳画像評価の確立に向けて 脳画像を評価するためには脳の機能局在と画像形態を理解することが何より大切であるが,評価とは性質(quality),重要性(significance), 量(amount), 程度(degree), 状態(condition)などを総合的に判断して価値づけることであるため,単に脳画像を観察できるだけでは理学療法士としての脳画像評価に至らないと思われる。脳損傷時には白質の単独損傷・皮質の単独損傷・白質と皮質の複合損傷などのパターンが考えられることから,損傷領域が担う機能のみならず,白質線維で接続される他領域の機能低下の可能性も考慮する必要がある。そのため,主要な白質線維の機能を理解するとともに,その走行を脳画像上にイメージできることも重要となる。また,脳卒中後の回復には脳の構造的損傷の程度のみならず,半球間の機能的結合性の程度も影響することが知られているため,目前の患者の症状を脳画像(構造画像)のみで強引に解釈しないよう留意することも必要である。さらに,脳卒中後の回復メカニズムについては,皮質脊髄線維の興奮性から皮質間ネットワークの興奮性へ,そしてシナプス伝達の効率性へと比重が経時的に変化する可能性も示唆されていることから(回復ステージ理論),脳画像の撮像時期と患者の経過日数の関係について考慮することも重要となる。 2)脳画像解析技術を用いた理学療法の効果検証への挑戦 脳画像の解析には構造的解析と機能的解析の2つのアプローチがある。近年ではフリーウェアのソフトも多く,マニュアルも充実していることから,理学療法士も比較的容易に脳画像解析に取り組める時代となった。構造的解析には灰白質の体積を定量するVoxel-based morphometry(VBM)や白質線維の損傷程度を定量する拡散テンソルトラクトグラフィー(DTT)などがあり,機能的解析には前述したResting state fMRIなどがある。これらはMRIを有する施設であれば容易に取り組めるため,画像解析に取り組む理学療法士の育成に努めるとともに,多施設での大規模調査へと発展させ,理学療法の効果検証や脳画像評価に寄与する知見を創出していくことが重要と考える。
著者
松村 将司
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0189, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】良性発作性頭位めまい症(以下,BPPV)は,内耳の耳石器や半規管の障害で発症する疾患である。今回,めまい発症から10日間歩行不可能だったが,徒手的治療によって即時的にめまいが改善し,歩行可能となった症例を担当したので報告する。【方法】症例は60歳代男性である。現病歴は,10日前に運転していたところ突然めまいが出現し,運転困難となり当院に救急搬送され入院となった。その後,MRI,聴力検査など実施したが大きな問題はなく,投薬治療が実施された。しかし,移動は車椅子のみで歩行不可能であった。なお,理学療法の処方は入院10日後であり,診断名はBPPVであった。既往歴は,約1カ月前に追突事故にあっていたが,現在は症状はなかった。主訴は,目の前が回り起き上がれない,右を向くとめまいがする,であった。動作を観察すると,起き上がり時には頸椎を動かさないように,非常にゆっくりと真っ直ぐ起き上がっていた。理学療法を始めるにあたり,BPPVに対する耳石置換法が未実施だったため,担当医と相談の上,実施の許可を得た。本症例は,既往歴に追突事故があったため,最初に頸椎のSecurity testを実施したが,問題は認められなかった。次に,右を向くとめまいがするとの訴えがあったため,水平半規管型BPPVを疑い,Supine roll testを実施した。しかし,若干の気持ち悪さが誘発されるのみであった。そのため,後半規管型BPPVに対するDix-Hallpike testを実施したところ,左のテスト時に著明な回旋性眼振を数秒認め,同時にめまいが誘発された。これより左後半規管型BPPVの可能性が示唆された。【結果】治療として後半規管に対する耳石置換法であるEpley法を左に対して実施した。1セット実施した結果,眼振は消失し,めまいも軽減された。そのため,引き続き3セット実施したところ,めまいはさらに軽減し,起き上がりがスムーズに行えるようになり,直後に軽介助から近位監視レベルでの歩行が可能となった。2日目の再評価では,右を向いた際のめまいが残存していた。Supine roll testでめまいが誘発されたため,水平半規管に対するLempert roll法を実施した結果,めまいは軽減した。3日目には症状改善し独歩可能となっていたため,日常生活での注意事項などを指導し,翌日退院となった。【結論】本症例の場合,水平半規管様のめまいの訴えであったが,実際には後半規管に対するテストで陽性となった。これに対しEpley法で即時的に眼振,めまいが改善し歩行可能となったが,翌日には再び水平半規管様の訴えがあった。BPPVでは耳石置換法による治療後,他の半規管に耳石が入り込むことがあり,また,水平・後半規管に耳石が存在する混合型もある。本症例も両者のどちらかであった可能性があると考える。理学療法士が前庭の理学療法を理解をしていることで,今回のように事前に医師と相談でき,適切な理学療法実施につながると考える。
著者
徳川 貴大 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0487, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 ストレッチングは関節可動域(Range of Motion:以後ROM)の改善のために広く用いられている.ストレッチングの中で,スタティックストレッチング(Static Stretching:以後SS) はROMを改善するが,即時的な筋力低下を引き起こすという報告が多数ある.SSのほかのストレッチング法として,ホールドリラックスストレッチング(Hold Relax Stretching:以後HRS)がよく用いられている.HRSはSS中に伸張した肢位で対象筋の最大等尺性収縮を行うストレッチング法である.HRSについて,SS同様ROM改善に効果があるという報告があるが,最大筋力発揮に対する即時的な影響に関する報告はほとんどなく,SSとHRSの最大筋力発揮に対する即時的な影響の比較は検討されていない.本研究の目的はSSとHRSが最大等尺性筋力発揮に及ぼす即時的な影響を明らかにすることである【方法】 対象は下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性20名(年齢22.0±1.2歳,身長171.6±4.6cm,体重62.6±10.4kg)の利き脚(ボールを蹴る側)とした. 腹臥位・膝関節完全伸展位で足関節を等速性筋力測定装置のフットプレートに固定した.上記の装置を用い,足関節底背屈0°位で3秒間の足関節底背屈等尺性筋力を測定し,最大発揮筋力は各々の最大値とした.筋力測定時,表面筋電図を用いて,腓腹筋外側頭,腓腹筋内側頭,ヒラメ筋,前脛骨筋(以後LG,MG,Sol,TA)の4筋の筋活動を記録した.サンプリング周波数は1500Hzとした.筋電図処理は全生波形を全波整流化し,50msの二乗平均平方根を求めた.SSとHRSの即時的な影響を検討するため,ストレッチングの介入前後に測定した.HRSは上記の測定と同様の装置を用い,腹臥位・膝関節完全伸展位で対象者が伸張感を訴え,痛みが生じる直前の足関節背屈角度で15秒間SSを行った直後に5秒間底屈方向に最大等尺性収縮を行い,その後10秒間同じ角度でSSを行った後,底屈30°まで戻すというHRSを4セット,計2分間施行した.SSはHRSと同様に,対象者が伸張感を訴え,痛みが生じる直前の足関節背屈角度で30秒間SSを行った後,底屈30°まで戻すSSをHRSと同様に4セット,計2分間施行した.また,HRSとSSは 1週間以上2週間以内の間隔をあけて測定を行った.統計学的処理はWilcoxon検定で,HRS前後とSS前後の底背屈トルクと各筋の筋活動量の比較を行った.Mann-Whitney検定で,HRS前後とSS前後の底背屈トルクの変化率と各筋活動量の変化率の比較を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を説明し,書面にて研究参加の同意を得た.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得た.【結果】 底屈トルクはHRS前後で197.6±41.2Nmが187.4±43.3Nmとなり,有意に低値を示した.SS前後で195.4±39.7Nmが170.7±36.5Nmとなり,有意に低値を示した.背屈トルクはHRS前で51.7±11.6Nmが55.4±11.0Nmとなり,有意に高値を示したが,SS前後では有意な変化を示さなかった.底屈時の筋活動量では全ての筋において有意な変化を示さなかった.背屈時の筋活動量はHRS前後でLGは31.3±13.2μVが29.1±12.2μV ,MGは29.7±8.7μVが 27.9±7.8μVとなりHRS後はHRS前と比較し有意に低値を示し,SolとTAは有意な変化を示さなかった.SS前後でLGは32.7±11.1μVが28.9±10.8μV,MGは30.2±8.4μVが27.3±8.9μV ,TAは384.7±111.2μVが344.9±102.4μVとなりSS後はSS前と比較し有意に低値を示し,Solは有意な変化を示さなかった.底屈トルクの変化率はHRS前後が-5.9±11.2%で,SS前後が-12.7±5.0%となり,SS前後はHRS前後と比較し有意に大きく筋力が低下した.底屈時のSolの筋活動量の変化率はSS前後が-5.8±14.3%で,HRS前後が2.5±16.0%となり,SS前後はHRS前後と比較し有意に筋活動量が減少した.一方LGとMGとTAの変化率は有意な変化は示さなかった.背屈トルクと全ての筋の背屈時の筋活動量の変化率は有意な差を示さなかった.【考察】 本研究結果より,2分間のHRSとSS後ではともに即時的に底屈筋力は減少し,SS後の方が大きく減少することが明らかになった.これはSolの底屈時の筋活動量がSSの方が大きく低下していることによると考えられる.そしてHRS後では即時的に背屈筋力が増加することが明らかになった.HRS後では背屈時の拮抗筋であるLGとMGの筋活動量が減少したことが関与していると考えられる.またSS後ではHRSと同様に背屈時にLGとMGの筋活動量は減少しているが,主動作筋であるTAの筋活動量も減少しているため背屈筋力に差が生じなかったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,2分間のHRSとSSはともに即時的にストレッチングを行った筋の筋力を低下させるが,SSの方がより即時的に低下させることが明らかになった.本研究結果は場面に適したストレッチング方法を選択する際の重要な判断材料の一つになると考えられる.
著者
橋﨑 孝賢 木下 利喜生 左近 奈々 児嶋 大介 森木 貴司 上西 啓裕 関口 岳人 西村 行秀
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1275, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】Ehlers-Danlos症候群(EDS)は,皮膚,関節,血管など結合組織の脆弱性を引き起こす遺伝性疾患である。今回,複数下肢関節不安定性を有するEDS症例に装具作製を行い,有効な効果を得たので,装具処方の工夫や経過をふまえて報告する。【症例提示】46歳女性。平成9年,スノーボードで転倒,右膝外傷,関節鏡検査し保存的加療を実施。43歳頃より両膝関節に強い荷重時痛が頻発した。平成24年12月,後頚部痛出現し,頚椎すべり症指摘され平成25年7月初旬に手術考慮され当院整形外科受診,EDSを疑われた。8月中旬に手術目的で当院入院。術前よりリハビリテーション紹介となり,翌日頚椎除圧固定術施行。術後歩行時に両側反張膝,右膝外反位が著明となり右膝痛強く,歩行困難となった。歩行獲得のため両側長下肢装具作製開始した。【経過と考察】活動性や美容面を考慮し装具を作製した。当初は膝装具での対応を試みたが荷重時の足関節不安定性が著明となるため長下肢装具(LLB)を選択した。軽量化と強度を考慮し剛性の高いカーボン素材とポリエチレンを使用しチタン素材の支柱と膝継手で連結した。この装具により両膝・足関節の不安定性は除去できたが,右膝外反矯正は不十分であった。さらに膝継手の内側にパッドや足部に内側ウェッジを追加することで外反は矯正され良肢位となり歩行の安定と疼痛や不安定性が除去できた。これにより自覚症状や歩容の改善が得られ独歩で自宅退院した。本症例のように膝関節の不安定性だけではなく足関節や多関節の不安定性が強い場合は,膝装具での矯正が困難な場合が多い。活動性が高い症例においてLLBは外見や重量から敬遠されがちであるが,患者の状態や要望を十分把握するのみではなく,医学的にも適切な装具を医師,義肢装具士らと協力し作製していく必要があると考えた。