著者
齊藤 大樹 開 光太朗
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0920, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】脳性麻痺者では,痙縮による姿勢筋緊張亢進が正常発達を阻害している。神経筋電気刺激(以下:NMES)は,痙縮抑制や筋萎縮予防及び改善を目的として実施される物理療法であり,脳性麻痺患者を対象とした痙縮や筋緊張の変化についての報告はほとんど見当たらない。また,NMESによる筋緊張抑制には,拮抗筋刺激(相反性抑制)を利用したIa-NMESおよび痙縮筋直接刺激(自己抑制)を利用したIb-NMESが知られている。先行研究では,脳性麻痺者の痙縮に対して,Ia-NMESとストレッチを行い,筋緊張抑制に少し効果があったとされているが,健常人においてはIa-NMESとIb-NMESを比較した場合Ib-NMESのほうがストレッチ前処置としては効果が高かったと示されている。今回,通常行っている可動域練習(ROM)と比べ各NMESを与えることで痙縮の改善が得られるのかを検証した。【方法】対象はGMFCSIIIレベルの成人脳性麻痺者1名(19歳)とし,対象筋はヒラメ筋とした。介入期間は1ヶ月半とし,足関節可動域練習,Ib-NMES,Ia-NMESの3つの介入をそれぞれ日を分けて行ない,セッションごとの即時効果を検証した。NMES刺激は総合電気治療器ES-520,刺激電極5cm×9cmの粘着パッド使用し,設定は周波数20Hz,刺激強度12~14mA,刺激時間10分間,立ち上がり2sec,持続4sec,減衰0.5sec,休止4secとし,刺激はIb-NMESはヒラメ筋,Ia-NMESは前脛骨筋に与えた。足関節可動域練習は徒手による持続的伸張を下腿三頭筋に伸張反射が出現しない速度で最終可動域付近まで行い,一回につき20秒,休息2秒,5分間実施した。評価は足関節背屈角度,Modifield Ashwonh Scale(MAS),筋硬度,足関節背屈抵抗トルクの測定を各介入前,介入後に実施し,結果値は3回測定した結果の平均値を採用した。【結果】足関節背屈角度とMASにおいてはROM後は抵抗が少し低下,背屈角度改善し,Ib-NMES後は抵抗増加,背屈角度低下し,Ia-NMES後は抵抗が少し低下したが,角度は大きく変わらなかった。ヒラメ筋の筋硬度はROM後は変化が少なく,Ib-NMES後は増加し,Ia-NMES後は少し低下した。足関節背屈抵抗トルクはROM後はやや低下し,Ib-NMES後は増加,Ia-NMES後は少し低下した。【結論】今回,ヒラメ直接刺激はIb抑制による緊張緩和を期待していたが,反対に電気刺激により緊張している筋を余計に緊張させてしまった。一方,拮抗筋である前脛骨筋刺激はIa相反抑制により,ヒラメ筋の緊張低下に効果があったと考える。しかし,足関節背屈角度は有意な変化が少なかった。この要因としては,痙縮抑制が生じても長年の痙縮持続による筋短縮や関節構成体自体の拘縮が存在しているため,角度変化については限りがあるのだと考える。今回,一例であるが即時効果が得られる可能性が示唆されたため,運動療法の介入前に電気刺激を実施し痙性を抑制させることで,その後の正常な運動パターン学習を行いやすくする可能性が考えられた。
著者
黄 啓徳 田中 齊太郎 泉 唯史 森谷 敏夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F4P2297, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 高齢社会が進む昨今、高齢者がADLやQOLを保ち続けるためには、機能的自立度を維持・向上することが、不可欠である。特に、歩行能力は機能的自立度の大きな要因となっており、例えば、歩行速度の改善により、死亡率が改善することが報告されている(Hardy et al. 2007)。また、高齢者における歩行制限は、転倒・骨折、寝たきり、認知症などの問題に関連し、ADL低下(Guralink JM.1995)などの予測因子になる。このことから、高齢者の歩行能力の維持・向上は大きな課題といえよう。 近年、筋力が低下した高齢者や糖尿病などの疾患保有者に対する運動療法として、筋電気刺激(以下EMS)が着目されている。EMSの特徴は、運動弱者に対しても、弱い強度で、選択的に速筋線維を動員する(Hamada et al. 2003)ことで、筋肥大を引き起こす可能性が示唆されている。 本研究では、通所リハビリテーション(以下デイケア)を利用する高齢者に対し継続的にEMSを行い、機能的自立度、特に歩行能力に及ぼす影響を検証することを目的とした。【方法】 実験参加者は当院併設のデイケア施設の利用者のうち、10m以上の歩行が可能な18名(mean ± SE, age = 76.3 ± 1.9 yr, 介護度 = 1.9 ± 0.2 )とし、EMS群10名(通常のデイケアプログラムに加えて、EMSを行う群)とCON群8名(通常のデイケアプログラムのみを行う群)にランダムに振り分けた。EMS群は1日20分週3回のEMSを下肢4箇所(大腿四頭筋、ハムストリングス、前脛骨筋、下腿三頭筋)に対して8週間行った。 EMS群、CON群とも8週間の実験期間の前後に、10m歩行テスト(通常歩行の歩行速度・歩調・歩幅)、チェアスタンドテスト(5回の立ち上がり)、関節可動域(膝関節屈曲角度・股関節屈曲角度)、握力、ファンクショナルリーチテスト、ステッピング、開眼片脚立位、膝伸展筋力の体力テストを行い、機能的自立度を評価した。【説明と同意】 本研究に対しては、実験計画書を当院倫理委員会に提出、承認を得た。また、実験参加者に対しては口頭および文章にて本研究の趣旨、研究内容、期間等を説明し、同意書にて署名をし、本研究の同意を得た。【結果】 EMS群では、10m歩行テスト中の歩行速度、歩幅、歩調、チェアスタンドテスト、膝関節屈曲角度、股関節屈曲角度、握力、ステッピングについて、実験後の体力テストにおいて、実験前に比べ、有意に上昇した(p<0.05)。また、それ以外の項目に関しては、有意な変化は見られなかった。 一方、CON群は、すべての項目について、有意な変化は見られなかった。【考察】 本実験では、EMS群においてのみ、歩行速度の有意な増加が確認された。歩行速度=歩幅×歩調で表されることをふまえると、歩行速度の増加は、歩幅、歩調の両方の増加によるものであると示唆された。また、歩幅の増加は、チェアスタンドテストで表される筋パワーの増大と関節可動域の改善によるものと示唆される。一方、歩調の増加は、ステッピングによって表される敏捷性の改善によるものと示唆される。 このことにより、通常のデイケアのプログラムにEMS20分を週3回・8週間付加することにより、歩行速度を中心とした機能的自立度の改善の可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】 本実験では、通常のデイケアプログラムのみを行った群では、実験前後の変化が確認されなかった。このことは、通常のデイケアプログラムのみを8週間行うことにより、機能的自立度が維持されることを示唆している。だが、電気刺激を短期間(8週間)付加することにより、機能的自立度の維持だけではなく、一部の機能において向上することが認められた。 脳血管疾患、転倒・骨折、関節症、認知症などの理由で、通常の運動療法では、機能的自立度の改善に必要な運動強度に達しない高齢者は少なからず存在する。そのような高齢者に対してEMSは、能動的な運動療法が困難な高齢者に対しても、今後非常に有用な手段になると考えられる。
著者
四宮 克眞 田野 聡 高岡 克宜 野口 七恵 松村 幸治 濵 敬介 鶯 春夫 田岡 祐二
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1290, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】両側人工股関節全置換術後(以下THA)より不良姿勢を呈した症例に対し,姿勢修正のために腰椎と骨盤の分離および連動運動の観点から2週間運動療法を実施するも著変みられなかったため,身体イメージを修正する介入を実施したところ,静的姿勢に変化を及ぼしたので報告する。【症例提示】80代女性。2014年5月左 THA施行,同年8月右THA施行し,当院に9月下旬より入院し運動療法を施した。現在,歩行器歩行監視レベル。ROMは股関節屈曲,伸展,内転,外旋に著明な制限あり。背臥位では骨盤前傾,腰椎前弯位(ベッド面より2横指),立位では過度な骨盤前傾,腰椎前弯位(壁より3横指)を認め,中間位への矯正を指示すると腰椎前弯を助長する結果を招いた。そこで,身体イメージに崩れが生じていると仮説し,症例が描いている身体イメージを明確にするため,紙面上に立位の絵を描写させた結果,腰椎を最凸部にした円背姿勢を描いた。次に,セラピストが描いた腰椎前弯と中間及び後弯位の立位との比較を行った結果,後弯位が自身の立位と答えた為,身体イメージを修正する介入を実施した。【経過と考察】介入開始時,「お尻が出て猫背です。」と実際の姿勢と差がみられたため,視覚と体性感覚情報を用いた介入を行い,視覚情報では,腰椎前弯と中間及び後弯位を図示して,その差を言語表象させた。さらに端座位で各肢位を実演し,矢状・前額面から腰椎と骨盤との位置関係を言語表象させた。体性感覚情報では,背臥位,立位にて腰椎部にスポンジで圧刺激を行い同部位へ体性感覚情報に対する注意を増大させた後に,再度自動運動にて各肢位を再現させた。その結果,背臥位で腰椎・骨盤中間位(ベッド面と接し),立位で骨盤前弯位が減少(壁より1横指)した。本人も,「腰が以前みたいに前に反っているのではなく,しっかり背中がついている。」と改善を表す言語表象がみられた。今回,高齢の両側THA患者の静的な不良姿勢を身体イメージの修正により改善できたことを確認した。
著者
石井 圭
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B-27, 2020 (Released:2021-03-31)

人が生きていく上で随意的に体を動かす能力は重要である。体を動かすためにはどのような生体制御システムが必要だろうか? 運動制御システムは当然必要だが,それだけでは不十分である。筋活動を継続的に行うためには血中の酸素を用いてエネルギー合成をする必要があるため,心臓から血液を送り出し,筋肉への血流量を増やして酸素を供給する。このように循環系を制御するシステムは,運動を支える重要な生体制御システムの一つである。 運動時の循環制御システムの一つはセントラルコマンドである。例えば,自発的に体を動かそうとすると高位脳中枢から信号が下降し,運動系だけでなく,自律神経を介して循環系を見込み的に制御する。セントラルコマンドによる見込み制御は運動意図や運動努力に伴い生じると考えられている。しかし,循環制御におけるセントラルコマンドの実質的な役割やその神経機構の詳細は不明であった。 我々はセントラルコマンドによる骨格筋血流量の調節に焦点をあて研究に取り組んできた。その結果,セントラルコマンドは血管拡張作用の交感神経を介して運動に応じた骨格筋血流量調節を行うことを明らかにした。これにより酸素を必要とする骨格筋に効率的に血液を供給することに貢献していると考えられる。また,セントラルコマンドに関与する脳領域も探索してきた。一つは中脳にある腹側被蓋野が考えられる。この領域は運動時に活性化し,刺激により運動と同期した循環応答が生じた。さらに,我々は運動の計画にも関係すると考えられている前頭前野領域がセントラルコマンド特有の応答(運動開始前および運動努力に応じた活性化)を示すことを明らかにした。この応答形式は一次運動野等の応答とは異なるものであった。 本シンポジウムではこれらの研究成果を紹介し,臨床応用へ繋げるためにどのように展開すべきか考え,議論したい。
著者
新野 浩隆 横山 明正 神谷 晃央 盧 隆徳 内田 成男 島岡 秀奉 牛場 潤一 正門 由久 木村 彰男
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0296, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】 近年、座位や背臥位での駆動が可能な、アシスト機能付き多機能エルゴメーター(ストレングスエルゴ、三菱電機エンジニアリング社製、以下S-Ergo)が臨床応用され、脳卒中片麻痺患者に対する痙縮軽減や機能改善の運動療法にも応用され、歩行訓練への有効な手段となる可能性がある。我々も健常者におけるS-Ergo駆動時の筋活動について過去の関連学会で報告した。しかし、脳卒中片麻痺患者のエルゴメーター運動時の筋活動や歩行能力変化について検討した報告は数少ない。そこで今回、我々は脳卒中片麻痺患者においてエルゴメーター駆動後の歩行能力の変化について検討を行なったので報告する。【対象】 対象は、当研究に同意が得られた脳卒中片麻痺患者10名(男性7名、女性3名)。平均年齢59.4±15.5歳、発症からの期間は平均1080±1811日であった。内訳としては、脳出血5名、脳梗塞5名、右片麻痺4名、左片麻痺6名、下肢Brunnstrom recovery stage(以下、下肢Brs-st)はIIが1名、IIIが3名、IVが3名、Vが3名であった。歩行能力は全例、近位監視~修正自立レベルであった。【方法】 エルゴメーター駆動前後の10m歩行時の所要時間と歩数をそれぞれ2回ずつ計測。エルゴメーター駆動前2回の歩行時の所要時間と歩数をそれぞれ平均し100%とし、駆動後の値から変化率を算出し、下肢Brs-st毎の平均をとった。S-Ergo駆動は、ペダルを時計方向(以下、正回転)と反時計方向(以下、逆回転)に回転させた2種類の駆動を行なった。駆動肢位は座位で最大膝伸展角度を30°とし、運動負荷はアイソトニックモードで3Nmとした。駆動速度は60rpmとし、ピッチ音によりタイミングを制御した駆動を10分間行なった。なお、各施行は1日以上の間隔をあけた。【結果】 所要時間では、正回転においてBrs-stIIが115%、Brs-stIIIが102%、Brs-stIVが110%、Brs-stVが88%、逆回転ではBrs-stIIが87%、Brs-stIIIが99%、Brs-stIVが95%、Brs-stVが93%であった。また、歩数では、正回転においてBrs-stIIが107%、Brs-stIIIが99%、Brs-stIVが105%、Brs-stVが92%、逆回転ではBrs-stIIが88%、Brs-stIIIが95%、Brs-stIVが95%、Brs-stVが95%であった。【考察】 今回の結果より、全てのステージにおいて逆回転で所要時間・歩数が減少する傾向が見られた。歩数の減少つまり歩幅の増大により、下肢のクリアランスが改善されたことがうかがえ、それに伴い所要時間が減少したとものと考えられた。今後は、各ステージの症例数を増やし、S-Ergo前後での歩行パターンの違いによる検討や、歩行中の筋活動の検討等を行なっていきたい。
著者
谷川 智也 新田 佳也子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-206_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】 近年、自転車エルゴメーター(以下、エルゴメーター)が脳卒中片麻痺患者の機能回復運動として有用であることが報告されている。また、先行研究において新野等は慢性期の脳卒中片麻痺患者において自転車エルゴメーター施行後の歩行における効果を述べている。しかし、回復期脳卒中片麻痺患者を対象とした検証は少ない。本症例はT杖歩行自立しているが、「もう少し早く歩きたい」との訴えがあった。そこで今回、回復期脳卒中片麻痺患者においる自転車エルゴメーター駆動後の歩行能力の変化について検討を行ったので報告する。【方法】 対象は50歳代女性。左片麻痺。発症から3ヶ月経過。Brunnstrom recovery stage上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ。脳卒中機能障害評価法(以下、SIAS)運動機能5項目(2,1C,3,4,1)で、感覚は表在・深部ともに中等度鈍麻。歩行はプラスチックAFO使用し屋内T杖歩行自立。片脚立位は左2.04秒、右4.19秒。10m歩行(最大速度)は18.71秒であった。 エルゴメーターは、COMBI WELLNESS社製2100Uを用いた。負荷量20W、運動時間は5分間で運動強度は年齢推定予測最大心拍数(220-年齢)の60%の値と自覚的運動強度(Borg2~3)を指標とし、リズミカルに駆動でき、連合反応を生じない回転速度(50rpm)とした。以上の内容を通常の理学療法に加え12日間施行した。評価として自転車エルゴメーター施行前後において、片脚立位時間と10m歩行時間を計測した。統計方法は片脚立位時間と10m歩行時間の結果から、それぞれt検定にて比較検討した。【結果】 片脚立位時間は左4.01秒、右5.71秒に改善を認め、さらに左右共に施行前に比べて施行後は有意に時間の延長を認めた。(P<0.05)10m歩行時間(最大速度)は15.81秒となり、施行前に比べて施行後は有意に時間の短縮を認めた。(P<0.05)【考察】 片脚立位においては、エルゴメーターによって固有感覚受容器への刺激が増大し、それに伴って協調的な筋収縮と弛緩のタイミングを強化できた為と考える。また、吉田らは脳卒中片麻痺患者におけるエルゴメーターは体幹筋やバランス促通に効果があるとしており、10m歩行においては、協調的な活動が強化できたことで歩行速度や立位バランスに影響をもたらしたものと考える。 今回の結果から、回復期脳卒中片麻痺患者における自転車エルゴメーターの活用が歩行能力向上に有効であることが示唆された。 【倫理的配慮,説明と同意】本報告は、ヘルシンキ宣言に則り実施し、対象者には研究内容の説明を口頭と書面にて実施し、署名にて同意を得た後に実施している。
著者
正能 千明 荻野 拓也 我妻 朋美 小塚 和豊 大林 茂 小川 真司 原 行弘
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2166, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 リズミカルな下肢のペダリング運動が、健常人の上肢筋を制御する脊髄の反射弓と皮質脊髄路の興奮性に影響を及ぼすことは報告されている。しかし脳卒中片麻痺患者における報告及び実際の上肢機能(パフォーマンス)への影響に対する報告は無く、これを明らかにすることは機能訓練を行う上で重要と考えた。今回、脳卒中片麻痺患者に対する自転車エルゴメーター駆動が麻痺側上肢の痙縮及びパフォーマンスに与える影響について、駆動前後での上肢機能と神経生理学的評価により検証した。【方法】 対象は当院リハビリテーション科に入院あるいは通院中である慢性期の脳卒中片麻痺患者5名(男性3名、女性2名、平均年齢:50±21.9歳)。疾患の内訳は脳梗塞1名、脳出血4名で、左片麻痺4名、右片麻痺1名、発症からの期間は平均2619日(273~8408日)、Stroke Impairment Assessment Set-Motor(SIAS-Motor)上肢近位3:1名、4:1名、上肢遠位1b:5名。利き手は右4名、左1名。Modified Ashworth Scale(MAS)は前腕・手関節・手指grade1~2。本研究への除外条件は重度の高次脳機能障害と手関節・指関節の関節可動域制限、運動の支障となる重度な合併症を有するものとした。 上記対象者5名に対し、自動車エルゴメーター駆動前後に上肢の機能評価と神経生理学的評価を行った。 自転車エルゴメーター(コンビ社製エアロバイク75XL)の設定条件として、乗車姿勢は肘関節屈曲位にて両手でハンドルを保持した座位で、座面はペダルが最下位の時膝関節軽度屈曲となる高さとした。負荷は運動時間10分間、運動強度は年齢推定予測最大心拍数(220-年齢)の60%の値と自覚的運動強度(Borg2~3)を指標とし、リズミカルに駆動でき、連合反応を生じない回転速度(50rpm)とした。 評価方法として、上肢機能は(1)麻痺側手関節・手指の自動関節可動域を測定した。測定肢位は端座位とし、テーブル上に20cm台を置き両肘関節を前腕回内位にて接地した。測定方法は、手関節背屈・掌屈をゴニオメーターにて測定し、手指屈曲・伸展可動域は第2・第5指の指腹―手掌間距離にて測定した。(2)SIAS-Motor上肢近位・上肢遠位評価、(3)手関節・指関節MASの評価を行った。 神経生理学的評価は、誘発電位・筋電図検査装置(日本光電社製Neuropackμ)を用い、(1)麻痺側手関節の自動背屈時、長橈側手根伸筋(ECRL)と橈側手根屈筋(FCR)の表面筋電図を記録した。手関節自動背屈5秒間保持を6セット施行し、5秒間中の2秒間を導出してroot mean square(RMS)値を求めた。RMS6セットの平均値よりECRLとFCRのRMS比(主動作筋/拮抗筋比=ECRL/FCR比)を算出した。(2)麻痺側FCRのH波を導出し、さらに最大上刺激で得られたM波の振幅との比(H/M比)を算出した。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に従い、対象者に研究目的・内容・方法を事前に口頭で説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 上肢機能評価では、自転車エルゴメーター駆動後全ての症例において、手関節掌背屈の自動関節可動域は15~35°増加、指腹-手掌間距離は0.5~2.5cm改善が認められた。SIASとMASでは明らかな変化は認められなかった。神経生理学的評価では、自転車エルゴメーター後ECRL/FCR比は11.11~83.55%の増加が認められた。また5名中FCRのH波を誘発できた3名のH/M比は自転車エルゴメーター後、8.2~27.36%減少を認めた。【考察】 今回の結果から、脳卒中片麻痺患者に対しリズミカルな下肢のペダリング運動は、上肢の自動可動域向上、主動作筋(ECRL)の促通、健常人と同様にFCRのH反射減弱の結果が得られた。 H/M比は脊髄反射弓の興奮性を示し、一般的に痙縮患者において増加すると言われている。リズミカルな下肢のペダリング運動は麻痺側上肢脊髄前角細胞の活動を抑制し、痙縮を減弱する作用があると考えられる。また主動作筋/拮抗筋比の増大より相反抑制が増強し、動作効率の改善により上肢の随意運動が向上したと推定できる。また、上肢と下肢の機能的連関が示唆されたが、メカニズムは不明瞭な点が多く、今後その解明が課題であるとともに、更に症例数を増やし検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、慢性期の脳卒中患者に対する運動療法として、自転車エルゴメーター駆動は、麻痺側上肢の痙縮を即時的に抑制し、相反抑制を増強する効果がある事が示された。また自転車エルゴメーター駆動後、更に上肢の随意性促通訓練、巧緻性訓練等を連続して行う事は相乗効果を生み、訓練効果が期待できる可能性があると思われる。
著者
福井 悠貴 小原 謙一 平野 圭二 亀山 愛
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1084, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Gait Solution(以下,GS)付短下肢装具の報告は多いが,GS付長下肢装具についての報告は少ない。本研究は,短下肢装具での歩行練習が可能な脳卒中片麻痺患者に対して,GS付長下肢装具での歩行練習を行い,その効果を検証することで,GS付長下肢装具が治療用装具として利用できる可能性について検討することを目的とした。【方法】対象は,発症から107病日(転院後58病日)経過した左被殻出血右片麻痺の50歳代男性である。介入時の状況は,Brunnstrom stage上肢II手指I下肢IIであり,麻痺側上肢屈曲群筋緊張亢進,下肢股関節内転・内旋に軽度筋緊張亢進が認められ,膝・足クローヌス陰性であった。また重度失語症のため精査困難であるものの,麻痺側下肢重度感覚障害が疑われた。寝返り,起き上がり,座位は自立であり,立ち上がり,立位は見守りで可能であった。歩行は,GS付短下肢装具とロフストランドクラッチ使用にて分回しの歩容を呈し,2動作前型歩行であった。麻痺側振り出しの促通のために腸腰筋に皮膚刺激を与え,骨盤代償制動のため軽介助を要した。研究デザインは,経過による回復の影響を除くためにABA型シングルケースデザインを用いた。介入期(A1・A2)はGS付長下肢装具での歩行練習後GS付短下肢装具での歩行練習を実施し,非介入期(B期)はGS付短下肢装具のみで歩行練習を実施とし,他の理学療法はA期B期ともに共通して行った。実施回数は各期7回とした。装具は,長下肢装具(膝継手:リングロック,足継手:外側Gait Solution継手,内側タブルクレンザック継手)と,短下肢装具(長下肢装具をカットダウンしたもの)を使用した。GS付長下肢装具は,背屈角度はフリー,底屈制動はGSの油圧強度設定で2.5~3とした。GS付短下肢装具では,背屈角度は歩容状態に応じて0~10度,油圧設定は3~4とした。歩行補助具には,A期B期共通してロフストランドクラッチを使用した。評価指標として,麻痺側立脚相に与える影響を検討するため,GS付短下肢装具歩行における麻痺側立脚相後期股関節伸展角(肩峰-大転子線と大転子-大腿骨外顆中心線のなす角)と立脚相中期体幹屈曲角(鉛直線と肩峰―大転子線のなす角)及び非麻痺側歩幅を採用した。解析は,歩容の動画をデジタルビデオカメラにて側方から撮影し,高度映像処理プログラム(Dartfish teamPro Data 6.0)を用いて各評価指標の解析した。解析結果より介入による効果の検討のためにA1・2期それぞれの初期と終期間で比較した。さらに,非介入であるB期における変化を調査するためにA1終期とA2初期間で比較した。【結果】短下肢装具装着歩行時の各評価指標の平均値を(A1初期,終期,/A2初期,終期)の順に示す。麻痺側立脚相後期股関節伸展角(度)は(4.3±1.2,7.1±1.6,/3.6±1.5,7.0±1.5)であり,麻痺側立脚相中期体幹屈曲角(度)は(10.9±2.1,7.8±0.8,/11.1±0.5,9.0±0.9)であった。非麻痺側歩幅(cm)は(27.3±2.3,30.0±1.4,/26.0±1.4,32.5±1.5)であった。本結果から,介入A1,A2期は,7回の介入により全指標で改善を認めた。さらに,非介入であるB期における各指標の変化を検討するためにA1終期とA2初期を比較した結果,全指標で数値が悪化していた。これらのことから,GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,歩容の改善に効果があることが示唆された。【考察】山本ら(2014)は,GS付長下肢装具では,体幹前傾への影響が少ないため股関節伸展しやすく,立脚終期の股関節伸展の拡大に繋がると述べている。本症例においても,GS付長下肢装具歩行練習後に測定項目の改善が認められ,短下肢装具での歩容改善に影響したと考えられる。本研究結果から,GS付長下肢装具を歩行練習で用いることにより,脳卒中片麻痺患者に対する歩容改善に向けた治療用装具としての機能を持つ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,短下肢装具での歩容改善に効果があることが示唆されたことは,下肢装具を用いた効果的な歩行練習を検討するうえで意義がある。
著者
高田 祐輔 中谷 知生 山本 征孝 堤 万佐子 田口 潤智 笹岡 保典 藤本 康浩 佐川 明 天竺 俊太
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bb0768, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 近年、治療用装具として長下肢装具を積極的に活用することの有用性が認識されつつある。脳卒中片麻痺患者の歩行練習に際し、長下肢装具を使用する利点の一つとして、ターミナルスタンス(以下Tst)における股関節伸展・足関節背屈運動が保障されると考えられており、先行研究においても短下肢装具装着下に比べ足関節背屈運動の可動域が拡大することが明らかとなっている。しかし長下肢装具を装着することによる、股関節伸展運動への影響についてまとまった報告はこれまでなされていない。そこで今回、長下肢装具を装着することが麻痺側立脚期の股関節伸展角度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、短下肢装具装着下との比較検討を行ったのでここに報告する。【方法】 対象は当院入院中の脳卒中片麻痺患者6名(左片麻痺3名・右片麻痺3名、男性3名、女性3名、平均年齢69±10歳)とした。発症日からの平均経過日数は155±39日で、下肢Bruunstrom Recovery Stageは3が4名、4が2名であった。すべての対象者が当院にて長下肢装具作成後カットダウンを行っており、計測時点では短下肢装具を用いた歩行トレーニングを行っていた。作成した下肢装具はいずれも足継手に底屈制動・背屈フリーの機能を有する川村義肢社製Gait Solutionを使用していた。計測は長下肢装具、短下肢装具それぞれ前後3mの予備路を設けた10mを自由速度で歩行する様子を、矢状面から三脚台に固定したデジタルカメラにて撮影した。すべての対象者は杖を使用し、計測時は転倒防止のため理学療法士が見守った。デジタルカメラは床面から1.2mの高さの位置に歩行の進行方向と垂直になるように、歩行路から4m離れた位置に設置した。股関節角度は倉林らの報告を参照に股関節点(上前腸骨棘点と大転子最外側突出点を結ぶ線上で大転子最外側突出点から1/3の位置)をとり、上前腸骨棘、膝関節外側裂隙を結んだ線のなす角とした。対象者には上記3点にマーカーを貼り付け、静止立位時の角度を基準にそこからの増減角度を計測した。計測は2回実施し、画像解析ソフト(NIH ImageJ)を利用し得られた3歩行周期分の平均角度を、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い統計学的処理を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属施設長の承認を得て、対象者に口頭にて説明し同意を得た【結果】 Tstでの股関節伸展角度は、長下肢装具装着下では5.8±2.3°であり、短下肢装具装着下では-0.9±2.1°であった。すべての対象者が長下肢装具装着下ではTstにて股関節伸展位を保持でき、短下肢装具装着下と比べ股関節伸展角度が有意に増大していた。短下肢装具装着下ではTstで股関節伸展位を保持できた者は3名(1±0.4°)であり、屈曲位となった者が3名(-2.7±0.9°)であった。【考察】 脳卒中片麻痺患者の歩行の特徴の一つとして、Tstにおける股関節伸展運動の不足が挙げられる。吉尾らは、股関節伸展運動の不足により股関節屈筋群が十分に伸張されず、遊脚初期に必要な筋力の発揮が困難となると述べている。当院において長下肢装具を積極的に使用する目的の一つは、不足する股関節伸展運動を補い、力学的に有利なアライメント下で歩行練習が行えるという点にある。しかし、実際に短下肢装具装着下と比較しTstでの股関節伸展角度が増大しているのかについては目測の域で終わってしまうことが多かった。今回の調査から、すべての対象者において長下肢装具装着下のTstの股関節伸展角度は有意に拡大し、長下肢装具の有する役割が明らかとなった。一方、短下肢装具装着下ではTstにて股関節伸展位を保持することが可能な者と不可能な者の2群に分けられた。一般的に長下肢装具におけるカットダウンの基準は、立位での麻痺側下肢の支持性、歩行時の下肢アライメントなどが挙げられている。今回、股関節屈曲位となった3名について運動学的見地からはカットダウンの時期でなかった可能性があるが、病棟での生活動作においても使用することを目的に短下肢装具へと変更していた。理学療法場面においては、より有利なアライメント下での歩行練習としては長下肢装具が適していると考えられるが、カットダウンについては症例の個別性も配慮する必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究は長下肢装具を装着することで、短下肢装具と比較しTstでの股関節伸展角度が有意に増大することを示したものである。このことにより、脳卒中片麻痺患者の歩行練習において長下肢装具を使用することの利点がより明確にされたものと考える。
著者
原田 徳士 田中 優貴 亀村 真也 田中 誠人 廣島 玲子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0410, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】日常生活の中で強い運動を行った後に,疲労で体が動かしにくいと感じる,または筋肉痛が起こるといった筋疲労を経験することがある。筋疲労が起こると,筋が発揮できる力が減り,俊敏性や巧緻性も低下し,パフォーマンスが一過性に低下する。また,筋疲労は筋肉痛を引き起こし,更なるパフォーマンスの低下が起こる。しかし,筋疲労とパフォーマンスの関係について調べた先行研究は少ないため,本研究では高強度運動によって大腿四頭筋に筋疲労を起こし,筋疲労がパフォーマンスに与える影響について検討した。【方法】本研究の対象者は21歳の健常男性10名で,全員より研究参加の同意を得た。まず運動前に測定を行い,次に大腿四頭筋に筋疲労を起こすため無酸素運動を中心とした運動5種類を実施し,運動終了直後に運動前と同項目で測定を行い,24時間後に再度同項目を測定した。測定項目は,パフォーマンスの指標として等速度性筋力測定機器(Biodex)を用いて大腿四頭筋の筋力測定,自転車エルゴメータによる最大無酸素パワーの測定,俊敏性の測定として反復横跳びを行った。これらの測定後に筋疲労の指標としてBorg Scale,大腿四頭筋に対する疼痛評価としてVASを行った。筋疲労を起こすための運動は,先行研究よりレッグプレス,レッグエクステンション,ジャンプスクワット,自転車エルゴメータ,ランジ歩行を行った。【結果】Borg scaleでは,運動前(6.9)に比べ運動直後(16.3)と翌日(12.1)に有意な上昇がみられた。VASでは,運動前(0)に比べ運動直後(6.99)と翌日(6.33)に有意な上昇を認めた。最大無酸素パワー,反復横跳びでは運動直後は低下したが,翌日には運動前レベルまで回復した。大腿四頭筋筋力は運動前に比べ運動直後と翌日ともに有意に低下を示した。【結論】本研究ではBorg ScaleおよびVASの結果より大腿四頭筋に筋疲労・筋肉痛(運動直後の原発性筋肉痛と翌日の遅発性筋肉痛)が生じたと考える。最大無酸素パワーおよび反復横とびでは運動直後は筋疲労・筋肉痛のためパフォーマンスは低下したが,翌日には運動前レベルまで回復していた。この理由として,運動時の姿勢や運動戦略の変更,大腿四頭筋以外の筋の代償によりパフォーマンス低下を補ったと推測した。また,反復横跳びは大腿四頭筋以外に股関節外転筋,大腿二頭筋,体幹の筋が働くとの報告があり,本研究でも翌日はこれらの筋が代償したと推測した。次に,Biodexは大腿四頭筋に特化した筋力測定を行うため他の筋による代償は不可であり,翌日の測定でも筋疲労・筋肉痛が継続していたため筋力低下が示された。以上より,パフォーマンスは筋疲労が生じると直後には低下するが,その後はパフォーマンスの種類によって運動戦略の変更や代償により筋疲労の影響を抑えることができることが示唆された。
著者
大迫 絢佳 若杉 樹史 梅田 幸嗣 笹沼 直樹 児玉 典彦 内山 侑紀 道免 和久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-160_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】 多系統萎縮症(multiple system atrophy:以下, MSA)は, 進行性の神経変性疾患であり, 小脳性運動失調, 自律神経障害, パーキンソニズムが生じると言われている. MSAにより生じるパーキンソニズムは, レボドパ製剤に対する反応性が乏しく歩行障害の進行が早いと述べられている. 本症例はパーキンソニズムが優位に出現するMSA with predominant parkinsonism (MSA-P)であり, 小刻み歩行を呈していた. MSA-Pの歩行障害に対する理学療法の報告は少ないが, トレッドミル歩行がパーキンソン病患者の歩行障害に有効であるという報告は数多く見受けられる. そこで今回我々は, MSA-P患者の小刻み歩行に対しトレッドミル歩行訓練を実施し歩行能力の改善が得られたため報告する. 【症例紹介】患者: 80歳代男性.診断名: MSA-P.現病歴:診断3ヶ月前に動作緩慢や発話困難自覚.診断2ヶ月前より嚥下障害や排尿障害,起立性低血圧が生じ精査後にMSA-Pと診断された. Mini Mental State Examination 24/30点であり,固縮・姿勢反射障害・小刻み歩行を呈していた.すくみ足は認められなかった.投薬はドパコール600mg/日,ドプス600mg/日であり起立性低血圧を是正後の薬剤,投薬量の変更はなかった.【経過】理学療法はトレッドミル(Senoh社製)の歩行速度を2.0-2.5km/hに設定し, 聴覚刺激を入れながら1日5-8分間, 週5日4週間実施した. トレッドミル歩行訓練前後の理学療法評価(介入前→介入後)では, 膝関節伸展筋力は左右共に著変なかった. バランス評価は, Mini-BESTestで, 12→17点(内訳: 予測的姿勢制御3→4点, 反応的姿勢制御1→1点, 感覚機能2→4点, 動的歩行6→8点) であった. 歩行能力は歩行器歩行監視→杖歩行監視となった. 10m歩行(杖歩行)は17.41→11.88秒, 歩数は29→20歩であった. Timed up and go testは28.38→17.35秒, 歩数は33→18歩であった. FIMは71→81点(内訳: 清拭2→5点, 更衣(上)4→5点, 更衣(下)4→5点, トイレ動作4→6点, 排尿管理4→5点, 排便管理1→2点, ベッド・車椅子移乗5→6点, トイレ移乗5→6点, 歩行5→6点)であった. 【考察】 本症例はトレッドミル歩行訓練を実施後,10m歩行, Mini-BESTest, TUGにおいていずれもMinimal Clinically Important Differences(他疾患の値も含む)を上回って改善した.Mehrholzら(2010)はトレッドミル歩行訓練は歩行速度・歩幅の改善が生じると述べており, 本症例も同様の結果を示した. 岡田ら(2004)はトレッドミル歩行では床面が移動するため支持基底面が受動的に後方に変位し, 前方への重心の移動量が増大すると述べている. 本症例もトレッドミル歩行を繰り返した結果, 患者は律動的に前方へ重心移動される機会が増え, 歩幅の増大やMini-BESTestの改善につながったと考える. 歩幅が増大したため歩行速度も上昇し歩行能力の改善に至ったと考える. 本症例より, MSAによるパーキンソニズムを呈した小刻み歩行に対しても, トレッドミル歩行は歩行能力の改善に有効であることが示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】本報告は, 対象者に十分な説明を行い同意を得て実施している.
著者
丸山 翔 伊藤 千晶 安藤 道晴 若山 佐一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0098, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年,注意の向け方により新しく獲得する運動過程に大きな影響を与える可能性が示唆されている。注意とは「意識の焦点化と集中」と定義され,学習者の能動的な注意をどのような対象に向けるかという注意の焦点をいう。従来,運動学習の過程において,一つ一つの身体部位(以下 身体内部)の動きに注意を払いながら運動を行うことが大事であった。このように意識的に運動を制御する過程が,歩行のような自動的な運動を獲得するために必要な過程だと考えられていた。つまり,言語教示を与える際に,自身の身体内部に対し注意を向けるInternal focus of attention(以下IF)が有効だと考えられていた。しかし,Wulfら(1998)は注意の焦点を自身の身体と接するものなどである身体外部,外部環境に対し向けるExternal focus of attention(以下EF)の方がIFに比べて運動学習の効果が高く,自動性を高めると述べている。これは,従来の考えとは異なる見解である。また,先行研究の多くはスポーツスキルの学習で検証しているものが多く,理学療法分野で検証している先行研究はほとんど見つからなかった。そこで本研究の目的は,理学療法分野において,言語教示により注意の向け方を変えることで動的バランスを獲得していく運動学習の過程にどのような影響があるのか比較・検証することとする。【方法】対象者を若年健常者39名(男17名,女22名,年齢23±1.93歳)とし,ランダムに,control(以下CON)群15名,IF群12名,EF群12名の3群に群分けした。同一の課題を3群で実施し,群によって異なる言語教示を行った。運動課題は,動的バランスを測るY Balance Test(以下YBT)を測定した。指示内容は,対象者に課題を実施してもらう際に,CON群には注意に関する口頭指示は与えず,IF群には身体に注意を向けるような口頭指示を与え,EF群には外部環境に注意を向けるような口頭指示を与えた。測定回数は,初回1回,練習5回,保持テスト1回の計7回とした。YBTとは,立位で下肢を3方向(前方・後方外側・後方内側)にどれくらいリーチできるかを測るバランステストである。方法は,開始肢位を直立姿勢とし,リーチする下肢を浮かせながら目的方向へのばし,浮かせたまま直立姿勢に戻る。その時のリーチ距離を測定する。この動作を3方向各々に実施してもらう。3方向の総合値をYBTの計算式に沿って数値化する。計算式は以下の通りである。{(前方リーチ距離+後方外側リーチ距離+後方内側リーチ距離)/(棘果長×3)}×100初回と保持テストでの変化量を比較した。統計は,群間比較はTukeyの検定で解析し,その後effect sizeを求めrと表記した。有意水準はp<0.05とした。統計ソフトは,SPSS16.0Jを使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理審査規定に基づき,書面および口頭にて説明し,同意を得て行った。【結果】群に対する多重比較法の結果,CON群とEF群で有意差あり(95%CI:5.07-13.52,r=0.75 large effect size)。IF群とEF群で有意差あり(95%CI:0.75-9.65,r=0.68 large effect size)。CON群とIF群では有意差なし(95%CI:-0.13-8.32,r=0.49 medium effect size)。【考察】注意の向け方により,健常者の動的バランスにどのように影響するかCON群,IF群,EF群で比較した。その結果,EFの有利性が示唆された。EFの言語教示により,EF群の方がCON群と比較し有意に学習効果があった。これは,先行研究での,EFは運動の制御過程への意識的な干渉を少なくし,自動的な運動制御を促進するという考えを支持する結果となった。IF群とCON群とでは,結果に有意な差が見られなかった。今回,IF群は言語教示により適切な身体内部の動きを獲得したことによりCON群に比べ学習効果が得られやすいと考えていた。しかし先行研究にて,IFのように運動の制御過程に意識的に介入すると自動的な運動を妨害することが示唆されている。その結果,IF群では自動性が阻害され学習効果が打ち消し合ってしまったと考えられる。CON群に関しては,適切な身体内部の動きを獲得できず,無意識にIFで運動制御をしてしまうため,学習効果が得られにくいと考えられる。今後は,測定日から1ヶ月後に保持テストを実施し,長期でもEFの学習効果が永続されているかも含め,検証していく。【理学療法学研究としての意義】臨床場面では,IFによる言語教示が多いように思える。そこで,先行研究に基づき言語教示をIFからEFに変えることでパフォーマンスが向上するのであれば,理学療法の治療において今までにない切り口になり,臨床的な介入の効果を向上させる可能性がある。
著者
浅井 直樹
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-69_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】脊髄損傷(以下SCI)の歩行再建は、再生医療の実現を控えて注目を浴びている。再生医療関連の研究では、術後のリハビリテーション(以下リハ)の有無やその性質によって麻痺の改善にも差が出ると報告している。このような背景からリハの内容にも関心が集まっているが、完全型SCIに対する歩行再建のリハについての実践報告は少ない。今回、Th12の完全型SCI一症例に対し、歩行再建を目的にロボットを併用した集中的トレーニングを行った。【症例紹介】20代女性、外傷によりSCIを受傷し、残存高位はTh12であった。歩行再建に向けた介入を開始した受傷後5か月時点でAmerican Spinal Injury Association(以下ASIA)の下肢運動スコアは右1/左1ポイントで、両側股関節屈曲筋の筋収縮を触れるのみでその他の下肢筋に随意収縮はみられなかった。ASIA感覚スコアは触痛覚ともに右38/左38ポイントで、S4, 5領域の感覚運動機能は脱失し、ASIA Impairment Scale(以下AIS)ではAの完全麻痺であった。車いすベースでのADLは自立し、歩行は長下肢装具での平行棒内歩行が監視レベルで可能であった。【経過】受傷後約2週でリハ目的に転入院し、一般的な対麻痺者に対する理学療法(ROM、筋力強化、起居動作、ADL、車椅子操作練習等)を行った。ADLがおおむね自立した受傷後5か月時点から外骨格型ロボット装具(ReWalk、ReWalk Robotics)を用いた立位歩行練習を開始した。その後自宅退院し、外来にてReWalkを用いた歩行練習と、自宅で長下肢装具を用いた立位練習を行った。受傷後7か月ころに随意的な膝伸展運動が両側に発現し、経過とともに随意運動の拡大を認めた。受傷後12か月ころに集中的なリハを目的に再入院し、再入院後はReWalkを用いた歩行練習のほか、短下肢装具での立位歩行練習、ペダリング機器や低周波機器、水治療法を併用したリハを実施した。受傷後15か月ころの退院時のASIA下肢運動スコアは右2/左2ポイントで、膝伸展筋の収縮を触れ、キーマッスル以外にも大腿筋膜張筋や中殿筋、内転筋群にも随意収縮を触知できた。感覚機能およびS4,5領域の運動感覚機能には変化がなく、AISはAであった。歩行能力は、短下肢装具とピックアップ歩行器での手添え介助歩行が可能となった。【考察】完全型SCIの麻痺の予後は一般的に不良だが、本症例は先行研究に照らしても顕著に改善した。脊髄の神経可塑性は、練習する運動課題の種類や質とその反復に強く依存すると言われている。本症例においては、リハの内容や質的な面として、歩行様の運動課題や、ロボットを利用した正常歩行に近い歩行練習が有効であったと考えられた。また、量的側面としては、多様な課題を高頻度に実施し、ロボットの定常的な運動を繰り返すことができる機械的な特性が有利に働いたと推察された。【倫理的配慮,説明と同意】本症例に対する介入は神奈川リハビリテーション病院倫理委員会の承認のもと実施したものである(承認番号krh-2014-2)。本報告に際しては症例に対して書面と口頭で説明を行い、同意を得た。
著者
川﨑 智子 平山 哲郎 多米 一矢 西田 直弥 小関 泰一 藤原 務 稲垣 郁哉 小関 博久 石田 行知 柿崎 藤泰
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0994, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】頚椎は胸郭上に位置しており,頚椎肢位や運動は胸郭のコンディションに依存する。特に胸郭は,前額面において左側方に偏位している割合が多いとの石塚ら2011)の報告があり,その要因から考えても頚椎肢位や運動に影響を及ぼすことが十分予測される。日常の臨床のなかで,胸郭の定型的な形状の定着により,頚椎肢位や運動のバリエーションの低下を引き起こす現象も多く観察している。そこで本研究では,頚椎側屈運動における水平面上の胸郭形状変化と左右座圧分布を観察するため,3次元動作解析装置と床反力計を用いて胸郭形状と頚椎運動の左右特性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,整形外科的疾患の既往がない健常成人男性10名(平均年齢27.7±3.6歳)とした。頚椎側屈運動における上下部胸郭前後径変化を観察するため,3次元動作解析装置VICON-MX(VICON社製)を用いた。赤外線反射マーカー貼付位置は,頭部マーカーを前後左右の計4点,上下部胸郭マーカーをそれぞれ左右第3胸肋関節の中点と剣状突起(A点),A点を背面に投影した棘突起上の点(B点),A点を通る水平線上に左右等距離に位置する点(C点,各3点)の計16点とした。また,同時に座圧分布を床反力計(Zebris社製)を用いて計測した。測定肢位は上肢をscapular plane上で腋窩レベルまで挙上した安静座位とし,上肢の影響を最小限に,また肩甲帯や体幹による代償が生じないよう考慮した。測定課題は安静呼気位における頚椎最大右側屈,頚椎最大左側屈の2条件とした。メトロノームに合わせて3秒間で最終域に達するよう指示し,実施前に十分な練習を行った。得られた標点の位置データから上部胸郭前後径をB-C点間,下部胸郭前後径をA-C点間の距離としてそれぞれ算出した。また,左右座圧分布は得られた床反力データからそれぞれ相対値を算出した。統計処理は安静時における上下部胸郭前後径と座圧分布の左右比較,頚椎右側屈と左側屈時における上下部胸郭前後径と座圧分布の左右差の比較に対応のあるt検定を用いて検討した。解析には統計ソフトウェアSPSS18J(SPSS社製)を使用し,有意水準はそれぞれ5%未満とした。【結果】安静時,頚椎右側屈,左側屈において,上部胸郭前後径と座圧分布の左右における変化に一様の傾向が示された。上部胸郭前後径と座圧分布は,安静時において全例で右側と比較して左側が有意に大きかった(p<0.01,p<0.01)。また,その差は頚椎右側屈時において有意に減少し,左側屈時においては有意に増加した(p<0.01,p<0.01)。しかし,下部胸郭前後径は,安静時において全例で左側と比較して右側が有意に大きかったものの(p<0.05),頚椎側屈時においては有意差がみられなかった。なお,頚椎最大側屈角度には左右で有意な差がみられなかった。【考察】本研究の検討から,全例において胸郭は左側方偏位していることが安静時座圧分布より観察され,石塚ら2011)の報告と同様の特徴が示された。また,胸郭形状においても臨床で観察される定型的な非対称性がみられた。この特徴が定着した状態で頚椎側屈運動を行うと,頭部質量の側方移動にともない,右側屈時には上半身質量中心の正中化が生じ,左側屈時には左側方偏位の増大が生じることがわかった。また,上半身質量中心の左側方偏位は上部胸郭形状の非対称性を増加させるものと考えられる。これらのことから,上部胸郭の定型的な形状や側方偏位の定着は,頚椎肢位や運動の多様性に影響を及ぼすことが考えられる。また,その結果として生じる頚椎運動の左右特性にともない,上部胸郭形状に一様の変化をもたらすことが示唆された。上部胸郭の可動性低下や上半身重心のコントロール機能低下は,頚椎側屈運動の制限因子となることが考えられ,疼痛やメカニカルストレスの原因となることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の検討から,頚椎側屈運動における上部胸郭形状と座圧の変化には左右特性が存在することが示された。これは健常人においてもみられる特徴であり,ヒトに共通する形態や運動特性が存在することが考えられる。これらの強調や逆転は,整形外科疾患における病態や機能低下の一要因となることが考えられ,頚椎疾患をはじめとするあらゆる運動器疾患に対する理学療法に応用できるものと考えられる。
著者
松澤 明黎 井澤 康祐 伊藤 慎也 長谷川 雄也 水口 淳 佐藤 亜紀 城 由起子 松原 貴子
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0720, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】我々は痛いときに痛み部位に手を当て,軽く擦ったり圧迫したりすることで痛みを和らげようとする。このような皮膚への軽微な触刺激(touch)による鎮痛効果については,従来,gate-control theory(Melzack,Wall 1965)による仮説が唱えられてきたが,推論の域を出ず解明には至っていない。近年,ヒトにおいてはtouchによる熱痛覚感受性低下が報告され(Mancini 2015),また,動物実験においてもtouchが内因性オピオイドを介してC-fiberなど侵害受容ニューロンへの特異的な抑制作用を惹起する可能性が示されおり(Watanabe 2015),その鎮痛機序に中枢性疼痛修飾系の関与が推察される。そこで本研究は,ヒトを対象にtouchによる鎮痛効果を,痛覚感受性に加え中枢性疼痛修飾系の機能指標であるtemporal summation(TS)を用い調べた。【方法】対象は健常成人16名(男性8名,女性8名,年齢21.0±1.1歳)とした。Touchは,上肢への軽擦(T-touch)および自覚しない圧(P-touch:圧覚閾値の90%強度,平均3.1±1.6N)と電気(E-touch:1.0Hz,平均2.5mA)刺激の3条件とした。評価は熱痛閾値,圧痛閾値および熱痛・圧痛のTSとし,各touch前・中に測定した。TSは,熱痛閾値+3℃の温度ならびに圧痛閾値の125%の圧力で刺激を10回加え,各疼痛強度をvisual analogue scale(VAS)で測定し,1~10回目までのVAS値の傾き(熱痛TS,圧痛TS)を測定値とした。統計学的解析はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準はBonferroniの補正により1.6%未満とした。【結果】touch前と比べ熱・圧痛閾値はともにT-touchとP-touchにより有意に上昇し,熱痛TSはT-touchとE-touch,圧痛TSはT-touchにて有意に減衰した。【結論】今回,touchにより,これまでに報告されている熱痛覚感受性だけでなく圧痛覚感受性も低下し,さらに両TSの減衰を認めた。TSは近年広く用いられている痛みの定量評価指標の一つであり,TSの減衰は上行性疼痛伝達系の感作抑制や内因性オピオイドを介した鎮痛効果を反映していると考えられる。一方,動物実験においてtouchは低閾値Aδ,C-fiberを興奮させ,無髄C-fiberの求心性入力によって引き起こされる体性心臓交感神経性C-反射を抑制することが示されており,さらにこの効果はオピオイドの拮抗薬であるナロキソン投与により減弱することが報告されている(Watanabe 2015)。これらのことから,touchは内因性オピオイドなどが関与する中枢性疼痛修飾系を作動させ,表在性の熱痛覚感受性だけでなく深部組織の痛覚を反映する圧痛覚感受性までも低下させることで疼痛を緩和する可能性が示唆された。本研究の限界点として,touch条件による鎮痛効果の違いやtouchによる広汎な鎮痛効果については明らかでなく,臨床応用に向けて更なる検討は必要である。
著者
木口 大輔 坂根 照文 田内 秀樹 首藤 貴 吉野 一弘 片木 祐志 渡辺 好隆 門田 詩織
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1203, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】暗い色が明るい色に比べ重く感じるという重さ判断に及ぼす色の違いは様々な分野で述べられているが、報告されている先行研究は少ない。そこで、リハビリテーションで使用されている重錘バンドの色に着目し検討した。【方法】参加者:2006年9月から2006年10月の間に当院に入院し、リハビリテーションを受けた患者22名とした。男性9名、女性13名、平均年齢63.8±16.0歳であった。手続き:OG技研社製1kgの重錘バンドで通常販売品のGF-115黄色と、同社製で特別注文品である濃紺色で1kgの重錘バンドを使用した。重錘バンドは長さ435mm×幅120mmであった。当院で行なわれている通常のリハビリテーションの一環として下記の実験を行なった。実験は午前10時頃から開始された。まず、参加者に現在の下肢の疲労感を尋ねた。疲労感は、「非常に疲れている」、「かなり疲れている」、「やや疲れている」、「あまり疲れていない」、「全然疲れていない」の内から1つ選択させた。次に参加者を端座位にさせ、両側下腿遠位部に重錘バンドを巻き、膝関節完全伸展位を左右の足で交互に5秒間ずつ保持させた。これを10分間行なわせた。このリハビリテーション終了直後に、下肢の疲労感をリハビリテーション開始前に行なわせたのと同じ評定用紙に回答させた。続いて、リハビリテーションで使用した重錘バンドの重さの印象を「かなり重い」、「やや重い」、「どちらともいえない」、「やや軽い」、「かなり軽い」の内から1つ選択させた。このリハビリテーションを4日間行なった。黄色と濃紺色の2種類の重錘バンドを、交互に使用した。参加者の半数については黄色の重錘バンドでリハビリテーションを始め、次の日には濃紺色の重錘バンドでリハビリテーションを行なった。残り半数の参加者は濃紺色の重錘バンドでリハビリテーションを始め、次の日には黄色の重錘バンドでリハビリテーションを行なった。【結果】下肢の疲労感は、「かなり疲れている」から「全然疲れていない」の5段階尺度を、それぞれ5点から1点と得点化し、リハビリテーション開始前と終了直後の差を求め、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。その結果、重錘バンドの色の違いの効果はp>.05で、有意ではなかった。リハビリテーション後での疲労感に色の違いは影響しなかった。重錘バンドの重さ判断は、「かなり重い」から「かなり軽い」の5段階尺度を、それぞれ5点から1点と得点化し、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。その結果、重錘バンドの色の違いの効果はp<.05で有意であった。暗い色がより重く感じられた。【考察】リハビリテーションにおける重錘バンドを利用した筋力トレーニング場面において、重錘バンドの色の違いは、下肢の疲労感には影響がないが、重さの印象に影響があった。一般的に重錘バンドは、重量別に色分けされ販売されていることが多いが、明度の高い色の使用が望ましいことが示唆された。
著者
奥村 真帆 福田 章真 斎藤 貴 牧浦 大祐 井上 順一朗 酒井 良忠 小野 玲
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1453, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】がん患者における術前の筋肉量低下は,術後の合併症や,生存率に影響を及ぼすと報告されている。近年,一般高齢者において筋肉量低下に関連する因子の一つに睡眠障害が注目されている。がん患者は高い確率で睡眠障害を発症するため,睡眠障害が筋肉量低下に関連していることが予測されるが,現段階ではこれらの関連は明らかとなっていない。本研究の目的は,術前の消化器がん患者における睡眠障害と筋肉量低下との関連性を調査することである。【方法】本研究の解析対象は,2016年6月から2016年9月の間に手術施行予定の患者の中で,術前に評価可能であった胃がん,食道がん,大腸がん患者40名(年齢70.5±7.5,男性31名)とした。筋肉量低下の診断は,Asian Working Group for Sarcopeniaの基準に従い,男性:骨格筋量指標<7.0kg/m2,女性:骨格筋量指標<5.7kg/m2から診断した。筋肉量の測定には,インピーダンス測定機器Inbody430(バイオスペース社製)を用いた。睡眠障害の評価には,日本語版Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)を用いた。睡眠の質,入眠時間,睡眠時間,睡眠効率,睡眠困難,眠剤の使用,日中覚醒困難の7つの各項目を0-3点の4段階に分類した。また,PSQIの各項目の総合得点が6点以上を睡眠障害有とした。その他に,年齢,性別,身長,体重,教育歴,同居人の有無,CRP,アルブミン,ヘモグロビン,performance status,がん種,合併症(Carlson Comorbidity Index),喫煙,飲酒,clinical stage,身体活動量(International Physical Activity Questionnaire),認知機能(Mini-Mental State Examination),抑うつ(Geriatric Depression Scale短縮版),栄養状態(Mini Nutritional Assessment-Short Form)を測定した。筋肉量(低下群vs.維持群)の比較は,Fisherの正確確率検定,t検定,Mann-Whitney U検定を用いた。PSQIに関しては,各下位項目と睡眠障害の有無のそれぞれについて検討した。p値が0.1未満であった項目を独立変数とし,筋肉量を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。すべての検定において,有意水準は5%未満とした。【結果】対象者の12名(30%)が筋肉量低下群であった。筋肉量低下群は,筋肉量維持群と比較して,体重が軽く(51.79±7.44kg vs. 65.60±9.83kg,p<0.05),入眠時間が長かった(p=0.03)。体重,入眠時間に加え,単変量解析にてp<0.1であった栄養状態を投入し,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,体重(オッズ比0.79,95%信頼区間0.68-0.93)と入眠時間(3.23,1.08-9.68)が術前の筋肉量低下に関連していた。【結論】本研究では,睡眠障害のうち入眠時間が,消化器がん患者における術前の筋肉量低下と関連していることが示唆された。術前に入眠時間を評価・管理することが,筋肉量低下の進行を予防する可能性がある。今後は,睡眠障害と筋肉量低下の因果関係について検討する必要があると考える。
著者
橋本 重倫 土田 拓輝
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B-33_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】 体幹失調を呈する患者に対して理学療法では、固有感覚情報による大脳半球の代償により運動協調性改善を図っていく事が推奨されている。古典的な方法として、腹部圧迫による弾性包帯緊縛法により正常歩行に類似した運動パターンを再現することが出来るとされている。また固有受容性神経筋促通法(PNF)による運動の再学習も有効とされており、難易度としては単純な屈曲・伸展から開始し、抵抗運動を加え、さらに運動パターンを複雑化していくことで、神経筋の再教育を行っていく。しかしながら、固有感覚情報を入力し、体幹筋群を刺激しながら歩行練習を行なうことは徒手的な介入では困難であることを臨床場面で経験する。勝平らは抗力を具備した継手付き体幹装具トランクソリューション(以下、TS)を開発し、骨盤前傾と体幹伸展を促しながら持続的な腹筋群の活動を促すことを可能にした。TSの特徴である、抗力により骨盤前傾、体幹伸展および腹筋群の活動を促すという機構は体幹失調に対する抵抗運動により筋収縮を促通しつつ、正常歩行を再現するという治療戦略と類似している。 そのため、本研究の目的は、体幹失調患者の歩行におけるTS装着の有効性を検討することとした。【方法】 対象は、A病院回復期病棟に入院している橋出血により失調歩行を呈した患者1名とした。はじめに10m歩行速度と歩数を計測した後、TSを装着し、80m歩行練習を実施した。TSを装着した歩行練習の直後およびTSを外した後に、再度10m歩行速度・及び歩数を計測した。介入期間として5日間連続で測定及び介入を実施し、即時効果及び持ち越し効果を検討した。【結果】 初日の介入前の10m歩行速度および歩数は18.3秒29歩であったの対し、TSを外した後は14.4秒24歩と介入による即時効果を認めた。翌日の介入前の計測においても14.6秒26歩と持ち越し効果を認めた。介入後においては、毎日即時効果を認めたが、持ち越し効果は3日目までは認めていたが、その後は停滞及び一時速度低下しながらも、最終的には13.0秒22歩まで改善した。【考察】 TS装着により、失調歩行患者への歩行速度に対する即時効果および翌日以降への持ち越し効果が認められた。歩行中に持続して抗力による腹筋群の促通が図れることにより、体幹動揺軽減及び垂直性が保たれることで歩行パフォーマンスが向上すること、固有感覚情報の入力に伴う正常運動の反復及び腹筋群の筋力強化により、装具を外した後も学習効果の持続が期待できることが示唆された。失調に対する治療用装具としての可能性を示唆されたことは新しい知見となると考える。しかしながら、単症例での報告であり、介入期間も短い為、今後更なる症例数・介入期間の検討が必要である。【倫理的配慮,説明と同意】竹川病院倫理委員会の規定に則り、説明と同意を得て実施している。
著者
米元 佑太 信迫 悟志 兒玉 隆之 森岡 周
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0428, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 身体に対して加わる外乱の予測が行われている際に,外乱後の姿勢を安定させるためにそれに先行する筋活動が生じる.これを予測的姿勢制御(Anticipatory postural adjustments:APAs)と呼び,APAs時における筋活動や重心動揺の変化についてはこれまで明らかにされている.誘発電位を用いたJacobsらの研究(2008)によると,外乱前の皮質活動がAPAsには必要であることが示されている.一方,機能的近赤外分光法を用いた研究(Mihara et al 2008)では,前頭前野,補足運動野(SMA),右後頭頂葉がAPAsに関与していると示された.しかし,これらの機器では外乱に対する脳活動の時間関係と活動部位を同時に同定することは難しい.そこで本研究は,この問題を解決できる多チャンネル脳波計を用い,身体外から加わる外乱の予測の有無が脳活動に与える影響について検討することを目的とした.【方法】 対象者は同意を得た右利き健常大学生男女10名(21.1±1.8歳).身体への外乱は,先端に1.34kgの重りを付加した振り子によって肩の高さまで挙上した手掌面に加えた(Santos et al 2010).開眼で外乱を加えた場合を視覚的予測あり条件,閉眼で外乱を加えた場合を視覚的予測なし条件とし,両条件で外乱を100回加えた.またコントロール条件として開眼,閉眼それぞれの立位も2分間設定した.高機能デジタル脳波計ActiveTwoシステム(BioSemi社製)を用い課題中の脳活動を計測した.データ処理にはEMSE Suite プログラム(Source Signal Imaging)を使用し,0.1Hz-100Hzの帯域パスフィルターをかけ,瞬目によるアーチファクトを除去した.身体に外乱が加わった時点をトリガーとし,視覚的予測あり条件,視覚的予測なし条件それぞれに対し外乱前800msの範囲で加算平均を行った.その後sLORETA解析を用い,視覚的予測あり条件と開眼立位、視覚的予測なし条件と閉眼立位の脳活動の差を統計処理した.有意水準は5%未満とした.また,今回用いた外乱方法を採用している先行研究(Santos et al 2010)において,APAsによる最初の筋活動が外乱の220ms前であったことから,視覚的予測あり条件ではこの区間より以前にAPAsに関連する皮質活動があると考え解析を行った.これに加えてmicrostate segmentationとGlobal Field Powerを用いて解析区間を決定した.【説明と同意】 課題施行前に研究内容について対象者が十分に理解するまで口頭で説明し,同意を得た.【結果】 視覚的予測あり条件では,外乱前700msec~300msecの区間に持続的な背外側前頭前野(DLPFC),右後頭頂葉,眼窩前頭皮質,前帯状回の有意な活動を認めた(p<0.01)。また,これらの区間では持続的ではないものの運動前野(PMC),一次体性感覚野,前頭眼野にも有意な活動を認めた(p<0.01).一方,視覚的予測なし条件では解析を行った全ての区間でSMA,前帯状回,一次運動野(M1)に有意な活動が認められた(p<0.01)。【考察】 視覚的予測あり条件において持続的なDLPFCの活動が認められたことは、DLPFCが注意の分配に働くこと,そしてその能力が姿勢制御に関わることが関係していると考えられる。一方,右後頭頂葉は感覚野と視覚野からの情報を統合し,自己の身体図式の生成に関与することや,視空間的注意の配分や持続に関わることが知られており,今回の活動もこれらが反映している可能性が示唆された.また,PMCは外発的な運動プログラミングに関わっており,視覚座標系での認知後,自己の身体図式を用い,運動プログラムの修正に関与したと考えられる.さらに前帯状回は課題の遂行機能制御とその注意の制御に関与し,眼窩前頭皮質は多様な入力情報と出力情報を統合する高次機能を担うことから,これら両者の関わりによって,予測的姿勢制御における注意や行動の制御に働いたと考える.一方,視覚的予測なし条件で活動したSMAは先行研究においてAPAsに重要であると述べられているが,SMAは内発的な運動プログラミングを行う領域でもある.先のPMCとの働きの違いは外乱の提示方法の変化によって生じたと考えられる.視覚的予測なし条件においても研究の性質上外乱が加わることは予測されていたため,記憶を用いて内発的に運動をプログラミングし,運動準備していたことが想定される.M1の活動増加はこの運動準備のための活動であると推察される。これらの結果からAPAsは予期的な反応だけでなく,状況に応じた注意の持続や配分,感覚情報の統合,運動プログラムの修正といった皮質機能が必要であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 セラピストはAPAsの異常に対し,治療的介入によって正常な活動を引き出そうとしている.本結果はAPAsには皮質機能が関与していることを明らかにしたものであり,これら領域を効果的に活性化させることが姿勢制御を向上させる手続きになることを示唆した.
著者
今泉 裕次郎 池田 さやか 小野 晴久 廣田 美樹 本村 環 堀江 淳 河島 博通 林 真一郎
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0130, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,炎症性サイトカインによる全身性炎症の影響により,心血管疾患や骨格筋機能異常など多くの併存疾患を合併する。糖尿病についても,健常者と比較して1.5倍のリスクを有し,また,COPD患者の約50%に複数のメタボリックシンドロームの要素を合併するとも言われている。しかし,これら先行研究は,欧米人を対象としたものであり,本邦におけるCOPDと糖尿病の関係を検証した先行研究は少なく,未だ,十分に解明されているとはない。そこで本研究の目的は,生活習慣病の中でも国民病と言われている糖尿病に着目し,糖尿病有病者における閉塞性換気障害の有病率を調査すること,更に,糖尿病有病者の呼吸機能を検討し,COPD早期発見の取り組みが必要であるかを検討することとした。【方法】対象は,当院健康管理センターにて呼吸機能検査を実施した863名(男性683名,女性180名,平均年齢51.8±8.3歳)とした。対象のうち,既に何らかの呼吸器疾患の診断がされている者,気管支喘息の既往,および親族に気管支喘息を有する者,呼吸機能検査がうまくできなかった者,データ使用に同意が得られなかった者は解析対象から除外した。調査項目として,呼吸機能はFVC,%FVC,FEV1.0,FEV1.0%,%FEV1.0を指標とし,栄養状態はBMIとした。問診では,糖尿病の有無,喫煙習慣の有無(ブリンクマン指数を算出)を聴取した。なお,本研究の「糖尿病有り(糖尿病有病者)」の定義は,既に確定診断がなされ,定期的に通院加療を受けている者とした。また,「閉塞性換気障害有り(閉塞性換気障害有病者)」の定義は,FEV1.0%が70%未満である者とした。統計学的分析として,閉塞性換気障害と糖尿病の関係は,χ2独立性検定で分析した。糖尿病有病者と非有病者の呼吸機能,BMI,ブリンクマン指数の比較は,Levenの等分散の検定後,Studentのt検定,またはWelchのt検定にて分析した。統計学的有意水準は5%とし,統計解析ソフトは,SPSS version20を使用した。【結果】対象者863名中,閉塞換気障害有病者は67名であり,有病率は7.8%であった。一方,糖尿病有病者は67名であり,糖尿病有病者の閉塞性換気障害有病者は11名で,有病率は14.9%であった。閉塞性換気障害の有無と糖尿病の有無の関連は,有意な関係性を認め(χ2=5.203,p=0.031),糖尿病有病者は,非有病者に対して閉塞性換気障害の合併が,2.3倍(95%CI=1.104-4.691)であった。次に,糖尿病の有無による呼吸機能の比較は,FVC(3.80±0.60L vs 3.54±0.57L;p=0.001),%FVC(109.54±11.9% vs 103.06±13.59%;p<0.001),FEV1.0(2.95±0.48L vs 2.69±0.51L;p<0.001),%FEV1.0(115.90±13.50% vs 111.52±16.44%;p=0.013),FEV1.0%(77.69±5.39% vs 75.70±7.03%;p=0.005)で,糖尿病有病者が有意に低値を示した。BMI(23.29±3.22 vs 24.98±3.83;p<0.001),および,ブリンクマン指数(304.89±375.98点vs 558.81±616.78点;p<0.001)の比較では,糖尿病有病者が有意に高値を示した。【考察】近年,COPDの国際ガイドラインGOLDは,COPDは肺疾患だけでなく全身性炎症疾患と位置づけ,他の慢性疾患と深く関与していると報告している。本研究においても糖尿病と気流制限との間には有意な関係性を認めた。また,糖尿病有病者で閉塞性換気障害を有する者の割合が高く,糖尿病有病者の中に,より多くのCOPD患者が潜んでいる可能性のあることが示唆された。また,糖尿病有病者の呼吸機能は,有意に低下しており,これらの要因として,第一に喫煙習慣の関与が考えられる。本研究においてブリンクマン指数が,糖尿病有病者で有意に高かったことを考慮すると,糖尿病と閉塞性換気障害の両者の共通趣向背景として,喫煙習慣がみられ,共通のリスク要因になったものと考える。本研究により糖尿病と閉塞性換気障害の関係が明らかになりに,糖尿病有病者に対しては,「閉塞性換気障害を有するリスクがある」ことを留意する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】糖尿病を有する者の呼吸機能,特に閉塞性換気障害に関する詳細が明確となった。COPDの早期発見の一助として,糖尿病患者に対して潜在的COPD患者であることのリスクを,想起する必要性を提示できた有意義な研究となった。