著者
鎮西 康雄
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-11, 2000-03-15 (Released:2016-08-09)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

Blood-sucking insects have bio-active substances in the salivary glands. These substances have activities on host blood coagulation system, hemostasis and blood vessel. Recently many of those molecules were isolated and characterized, and some of their genes have been cloned. We extracted and purified multiple hemoproteins from the salivary glands of reduviid bug, Rhodnius prolixus, and the cDNA of these proteins were cloned. We clarified that one of these proteins with a molecular weight of approximately 20,000 (designated as Prolixin-S) is not only an anticoagulant that inhibits an intrinsic coagulation factor (IX/IXa), but also a relaxant of vascular smooth muscle. We found that Prolixin-S binds with the smooth muscle relaxant nitric oxide NO that is synthesized in the salivary glands, and is injected into host during blood sucking, then release NO and relaxes the host blood vessel. That is, Prolixin-S reversibly binds with NO and function as a NO carrier.
著者
加藤 大智 Jochim Ryan 佐古田 良 岩田 祐之 Gomez Eduardo Valenzuela Jesus 橋口 義久
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第61回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.26, 2009 (Released:2009-06-19)

吸血性節足動物の唾液は、抗凝固、血管拡張、発痛抑制、抗炎症などの作用をもつ“生理活性物質のカクテル”で、これを宿主に注入することにより効率よく吸血行為を行っている。本研究では、中米から南米北部におけるシャーガス病の主要なベクターであるサシガメTriatoma (T.) dimidiataの唾液腺遺伝子転写産物の網羅的解析により、新規生理活性物質の探索を行った。T. dimidiata唾液腺からmRNAを抽出、それを鋳型にcDNAライブラリーを作製し、無作為に464クローンの遺伝子転写産物の塩基配列を決定した。その結果、361クローン(77.8 %)が分泌タンパクをコードしており、このうち、89.2 %が低分子輸送タンパクであるリポカリンのファミリーに属するタンパクをコードしていた。特徴的なことに、分泌タンパクのうち、52.1 %がT. protracta唾液の主要なアレルゲンとして同定されているprocalinに相同性を示しており、このタンパクが吸血の際に重要な役割を果たしていることが示唆された。この他に、T. dimidiataの主な唾液成分として、コラーゲンおよびADP誘発性の血小板凝集阻害物質、トロンビン活性阻害物質、カリクレイン・キニン系の阻害物質、セリンプロテアーゼ阻害物質などと相同性を持つタンパクを同定することができた。本研究で得られた結果は、吸血性節足動物のユニークな吸血戦略を理解する上で有用な知見をもたらすものと考えられた。また、得られた遺伝子クローンから作製することができる組換えタンパクは、研究・検査試薬および新薬の素材分子として活用できるものと考えられた。
著者
加藤 大智 Jochim Ryan 佐古田 良 岩田 祐之 Gomez Eduardo Valenzuela Jesus 橋口 義久
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.61, pp.26, 2009

吸血性節足動物の唾液は、抗凝固、血管拡張、発痛抑制、抗炎症などの作用をもつ"生理活性物質のカクテル"で、これを宿主に注入することにより効率よく吸血行為を行っている。本研究では、中米から南米北部におけるシャーガス病の主要なベクターであるサシガメ<I>Triatoma (T.) dimidiata</I>の唾液腺遺伝子転写産物の網羅的解析により、新規生理活性物質の探索を行った。<I>T. dimidiata</I>唾液腺からmRNAを抽出、それを鋳型にcDNAライブラリーを作製し、無作為に464クローンの遺伝子転写産物の塩基配列を決定した。その結果、361クローン(77.8 %)が分泌タンパクをコードしており、このうち、89.2 %が低分子輸送タンパクであるリポカリンのファミリーに属するタンパクをコードしていた。特徴的なことに、分泌タンパクのうち、52.1 %が<I>T. protracta</I>唾液の主要なアレルゲンとして同定されているprocalinに相同性を示しており、このタンパクが吸血の際に重要な役割を果たしていることが示唆された。この他に、<I>T. dimidiata</I>の主な唾液成分として、コラーゲンおよびADP誘発性の血小板凝集阻害物質、トロンビン活性阻害物質、カリクレイン・キニン系の阻害物質、セリンプロテアーゼ阻害物質などと相同性を持つタンパクを同定することができた。本研究で得られた結果は、吸血性節足動物のユニークな吸血戦略を理解する上で有用な知見をもたらすものと考えられた。また、得られた遺伝子クローンから作製することができる組換えタンパクは、研究・検査試薬および新薬の素材分子として活用できるものと考えられた。
著者
佐々木 均 早川 博文
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.383-384, 1986
被引用文献数
2 2

キボシアブ属の稀有種であるマルヒゲアブ(Hybomitra hirticeps)雌成虫1頭を, 北海道当別町青山にある当別町有牧野において, 炭酸ガス誘引の蚊帳トラップにより, 1985年6月に採集した。これは, 本種の北海道における新記録である。これまでの採集地を総括して, 本種の地理的分布を図示した。
著者
山内 健生 田原 研司 金森 弘樹 川端 寛樹 新井 智 片山 丘 藤田 博己 矢野 泰弘 高田 伸弘 板垣 朝夫
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.297-304, 2009
被引用文献数
18

島根県で唯一の日本紅斑熱汚染地域である弥山山地(島根半島の西端)とその周辺地域において,マダニ相の調査を実施した.旗ずり法では7,497個体が採集され,次の12種に分類された:タカサゴキララマダニ,タイワンカクマダニ,ツノチマダニ,キチマダニ,タカサゴチマダニ,ヤマアラシチマダニ,ヒゲナガチマダニ,フタトゲチマダニ,オオトゲチマダニ,タネガタマダニ,ヤマトマダニ,アカコッコマダニ.弥山山地ではヒゲナガチマダニとフタトゲチマダニがそれぞれ12〜4月と5〜8月に優占し,両種の採集頻度は弥山山地から離れるにつれておおむね低下した.弥山山地は島根県で唯一のニホンジカ生息地であるため,ニホンジカの体からもマダニ類を採集した.その結果,819個体が採集され,次の4種に分類された:フタトゲチマダニ,オオトゲチマダニ,ヤマトマダニ,タヌキマダニ.ニホンジカから4〜6月に採集された全マダニ個体数の87.6%をフタトゲチマダニが占めていたことから,弥山山地のニホンジカはフタトゲチマダニの主要な宿主であると考えられた.
著者
和田 芳武
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.54-60, 1970
被引用文献数
4 4

コガタアカイエカの成虫は羽化, 交尾, 吸血, 産卵など一連の活動を主として夜間に行ない, その間に挿しはさまれる昼間には適当な場所に休止するという日周行動を営むが, その様相を解明する目的で1967年夏岡山県倉敷市近郊において色々な成虫休息環境を対象に1.5m立方の蚊帳をかぶせて定量的に採集する方法を用いて時間的観察を行なつた.その結果と, 前報の成績や今回の実験室内の羽化時刻, 雄の外生殖器反転の時間的経過, 吸血から産卵までの所要時間の観察結果などをまとめて次のような推定を行なつた.1)水田などの発生源における蛹から成虫への羽化は主として夜間, 深夜をピークとしておこり, 交尾は次の第2夜以後に行われ, 雌は第3夜以後に吸血し, 2日おいて第6夜以後に産卵する.成虫は原則として夜間は交尾, 吸血, 産卵などの活動をし, 一時的な休止を行うにすぎないが, 昼間は適当な休息場所で静止して過ごす.2)発生源の水田の稲叢には, 夜間は主として新たに羽化した雌雄のみが休息し, 雌はそのまま第2夜まで昼間休息するものが多いが, 雄は新たに羽化したものは翌朝までにかなりのものは飛び去り, 昼間休息しているものは成熟したあと再び帰つて来たものが多い.3)吸血源の近くの茂みには, 夜間吸血後の雌が翌朝まで多数休止している.その茂みが適当であればそのまま昼間も休息するが, おそらく通風や光が多すぎると朝には飛び去る.4)雌雄共, 甘蔗やイチゴの畑のように, 背の低い広葉で深い茂みには高密度に昼間休息する.そこには昼間あらゆる生理期の雌雄の成虫が採集され, 夜間にも若干の残留個体が見出される.
著者
松島 加奈 岩佐 光啓
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.61, pp.71, 2009

北海道十勝地方と大雪山において、オオクロバエミヤマクロバエの発生動態と生活史を明らかにすべく、2007年5月から2008年10月までの2年間、平地(70m)、2箇所の鶏舎(70m, 160m)、日勝峠中腹(500m)、日勝峠頂上(1000m)で、2008年6〜10月には大雪山黒岳(1850m)で調査を行った。ハエの捕集には腐肉を用いた予研式トラップを使用し、成虫と幼虫を捕獲した。幼虫は羽化のためにトラップ近くに置いた羽化トラップに移した。採集した成虫は種を雌雄に分けて同定し、個体数、翅の摩耗度、卵巣発育段階、受精嚢の精子の有無を調べた。捕集されたクロバエ類は7種で、最も優占したのがミヤマクロバエで、次いでオオクロバエだった。2箇所の鶏舎では、クロバエ類の捕集数に大きな違いが見られた。ミヤマクロバエは平地と500mでは10月に最も多く捕集され、1000mと黒岳(1850m)では7〜9月に最も多かった。8月の黒岳(1850m)では羽化がみられた。卵巣は、1000〜1850mで7〜10月に成熟した個体で占められ、交尾率も高かった。平地と500mでは 10月に多くの個体が卵巣成熟していた。オオクロバエは、平地と鶏舎では6月に最も多く捕集され、500m、1000m、 黒岳(1850m)では7、8月に多い傾向がみられた。8月の500mでは羽化がみられた。卵巣成熟した個体は、平地から1000mでは6月から8月までみられ、黒岳(1850m)でも7〜9月の間に多くの個体が卵巣成熟し、交尾率も8〜10月には高くなる傾向にあった。2種の生活史と垂直移動について考察する。
著者
渡辺 護 荒川 良 山口 勝幸
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.275-277, 1990-09-15 (Released:2016-08-26)

The distribution of larvae of Hirosia iyoensis was surveyed at the forest floor along a small branch of the Oyabe River of Toyama Prefecture. A total of 129H. iyoensis larvae was collected from leaf litter and soil at six different stations within 200m of the blood-sucking sites (a wide space opened at the main course of the Oyabe River) for H. iyoensis. Most of the larvae were collected within an 80m area of the blood-sucking sites. A total of 102 larvae was also collected at four stations with different altitudes (5,25,50 and 75m above the surface of the stream). The number of larvae collected tend to decrease in accordance with the elevation. This survey suggested that the breeding-places of larvae of H. iyoensis were the forest floor near the bloodsucking site of adults.
著者
千種 雄一 大竹 英博 松田 肇
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.345-349, 1998
参考文献数
26
被引用文献数
3 5

フィリピン共和国・東ミンドロ州・カラパン市のホテルの一室にて43歳の健康な男性が飲みかけの缶ビールを飲もうとした時に口唇に異物感を覚え吐き出した。缶ビールの注ぎ口に多数のニクバエ科の1齢幼虫を見い出した。幼虫及び室内を飛んでいたニクバエ科の雌成虫を捕獲して精査した結果, ツノアカニクバエSarcophaga ruficornis (Fabricius)であった。本報はビール等の飲みかけのアルコール飲料によっても消化器ハエ症を起こす可能性のあることを指摘する。
著者
斉藤 一三 佐藤 英毅 湯沢 文男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.147-150, 1988
被引用文献数
1

The blackflies fauna was surveyed at 68 stream sites in Tochigi Prefecture, Japan, in April-May 1983. A total of 2,794 larvae and 993 pupae belonging to 20 species were collected from 61 sites in Tochigi. The predominant species were Simulium uchidai (21% of the total), S. japonicum (21%) and Prosimulium yezoense (11%). The widely distributed species were S. japonicum (56%), S. uchidai (49%), S. subcostatum (45%) and S. suzukii (30%). Six species (S. iwatense, P. yezoense, S. japonicum, S. subcostatum, S. uchidai and P. kiotoense) were collected from the low land (lower than 500m above the sea level) to the high land (higher than 1,000m).
著者
佐々木 均 本多 寛子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.64, pp.70-70, 2012

北海道内における吸血性アブ相を把握するとともに,蔓延する牛白血病対策の基礎資料を得る目的で,2011年7月7日から同年9月15日までの期間,隔週1回,計5回(9月1日は雨天のため中止),北海道檜山管内江差町にある元山牧場(41°52'9.1"N, 140°11'14.6"E)で,ボンベから1,500ml/min.放出される二酸化炭素を化学的誘引源とするNZIトラップを用いて吸血性アブ類の捕獲調査を行い,ニッポンシロフアブを最優位種 (5,551個体,58.57%)とし,ヤマトアブ (2,862個体,30.20%),キンイロアブ(540個体,5.70%)と続く,5属12種合計9,478個体を得た.1トラップ1時間当たりの捕獲数は,7月中旬と8月中旬にピークを示しその後減少する双峰型の消長を示したが,ニッポンシロフアブは 7月中旬に,ヤマトアブは8月中旬にそれぞれピークを持つ単峰型の消長を示し,種によってピークの時期が異なる傾向を示した. 7月21日,8月5,19日には,朝8:30から16:30まで1時間毎に捕獲された個体を回収して日周活動性を調査したが,気温の上昇に連動する形の消長を示した.得られた種類は,これまでの調査で記録された種のみであったが,種構成の変遷と発生消長についてはこれまで調査されておらず,本調査によって短い発生期間ながら,時期によって牛白血病媒介種として防除対象となる種が 7月 8月の2ヶ月はニッポンシロフアブ,8月中旬はヤマトアブと異なることが明らかになった.
著者
米島 万有子 渡辺 護 二瓶 直子 津田 良夫 中谷 友樹 小林 睦生
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.63, pp.51, 2011

国内最後のマラリア浸淫地として知られた滋賀県琵琶湖東岸地域において,現在の蚊の発生状況を把握するために,2008年からCDC型トラップを用いて蚊の捕獲調査を行っている.2010年は,琵琶湖に注ぐ犬上川流域を縦断的に,また内湖である西の湖周辺を対象として,地点間による蚊相と捕獲数の差異を明らかにするために調査を行った.方法は,ドライアイス1kgを誘引剤としたCDC型トラップを用いて,6月18日から10月2日まで,3週間毎に2日間連続で行った.調査地点は,犬上川の上流から下流にかけて12地点,西の湖沿岸およびそれに注ぐ蛇砂川流域に10地点を設定した.その結果,シナハマダラカ,コガタアカイエカ,アカイエカ,カラツイエカ,ヒトスジシマカ,ヤマトヤブカ,オオクロヤブカ,ハマダライエカ,フトシマツノフサカの10種類が捕獲された.犬上川流域では,全捕獲数21,233個体のうち約92%がコガタアカイエカ(19,585個体)で,次いでアカイエカが約7%(1457個体),シナハマダラカが0.2%(57個体)であった.トラップの設置地点間を比較すると,犬上川上流および下流ではコガタアカイエカの捕獲数が多いのに対し,中流部では少なかった.また,上流部ではアカイエカの割合が低かった.一方,西の湖周辺では総計40,347個体のうち、約97%がコガタアカイエカ(38,998個体),アカイエカが約2%(608個体)そしてシナハマダラカが約1%(462個体)捕獲された.地点間の比較では,コガタアカイエカは特に西の湖沿岸に多く,シナハマダラカは蛇砂川流域で多いことがわかった.このように地点間比較から,捕獲数および蚊相にはトラップ設置場所によって差異が認められる.この差異について,環境省生物多様性情報システムの第5回植生調査データを資料とし,GIS(地理情報システム)を用いて,トラップ周囲の植生構成比との関係から検討した.また,2009年度の調査データを基に作成した吸血飛来のポテンシャルマップと2010年度の蚊の調査結果がどの程度一致したのかを検証した.
著者
高木 正洋
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.61, pp.7, 2009

日本の疾病媒介蚊研究は、多くの先人により業績が積み上げられてきた。国内や台湾などで繰り広げられたマラリア防遏事業に関わっての媒介蚊研究から数えれば、その歴史は今やほぼ一世紀である。特に第二次世界大戦後の1950年頃からの進捗はめざましく、日本衛生動物学会もこの時期に大いなる充実を果たした。中でも山田信一郎博士らに始まり戦後に跨る日本脳炎の疫学とその媒介蚊の研究の成果は、広範かつ組織的に行われた研究スタイルと共に、世界に誇るべき学術的果実のひとつといってよいであろう。<BR> それから約半世紀、日本の環境は大きく変わった。それに伴って蚊媒介性感染症と媒介蚊の発生様相も劇的に様変わりしてきた。国内のマラリアや日本脳炎は駆逐、或いは激減した。しかし一方では、温暖化の進行と軌を一にして、デング熱やチクングニャ熱を媒介するヒトスジシマカの北方への分布拡大が確認されている。また海の向こう、熱帯を中心として数々の感染症とその媒介蚊が相変わらず我々を取り囲んでおり、しかもその間を半世紀前とは比較にならない規模で人と物が行き交うという現実もある。今の日本は不気味な空白のただ中に置かれている、という表現が当たっているように感じるのである。間断無き侵入監視の強化とともに、1960年代に負けない活発な研究を、グローバルな視点で再構築することが何よりも大切な時期にさしかかっているのではないだろうか。<BR> このシンポジウムは、上記のような認識に立って企画された。我々には、日本における媒介蚊研究の隆盛期以来ずっと今日まで日本の蚊学を支え、余人及ばぬ造詣を蓄えられた先輩があり、他方、気鋭の蚊学者による国際的な評価に能うべき研究成果も次々に挙がってきている。ここでは、それらの蚊学者のうち5名の会員にお願いし、媒介蚊の研究は過去どのように進展してきたかについて学び、加えて今、そして未来に向けグローバルな視野に立った蚊研究は何をすべきなのだろうかを、二、三の疾病を例にあげて討議を試みる。<BR> この討議が今後斯学の発展に寄与するだけではなく、多くの疾病流行地での研究向上に資すること、そして疾病対策や媒介蚊駆除戦略の再検討に役立つことを期待している。
著者
加納 六郎 二田原 正憲 粟谷 壽郎
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.14-20, 1954
被引用文献数
1

之まで日本に於いて報告されているCulex属, Culiciomyia亜属の蚊は2種あつて, その1つはアカクシヒゲカCulex pallidothorax Theobald, 1905であり, 他はキョウトクシヒゲカCulex kyotoensis Yamaguiti et Lacasse, 1952であり, いずれも暖地性の種で, 九州及び本州西南部に多産し, 東北地方及び北海道からは未だ発見されていない.なお琉球諸島には近似種リュウキュウクシヒゲカCulex ryukyensis Bohart, 1946を産する.著者等及び林滋生氏, 小出春記氏は, 1948年以来, 本州(伊香保, 富士山麓, 三ツ峠, 湯河原, 熱海, 箱根, 日光菖蒲カ浜等)及び九州(鹿児島県, 宮崎県等)に於いて, 成虫, 幼虫共に明かにCuliciomyia亜属の特徴を示し, しかも以上3種のいずれにも該当しない蚊を多数採集している.之を諸外国産の近似種と比較検討したが, 該当するものはなく, 之までに記載のない種と考えられるので, 茲に新種として記載し, 和名をヤマトクシヒゲカとする.なお学名の種小名sasaiは, 第二次大戦中から戦後にかけて, マラリヤ及び蚊の研究面における大なる進歩に著しい貢献をされた東京大学助教授佐々学博士の名を記念したものである.