著者
田中 景子 飯島 洋一 高木 興氏
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.215-221, 1999-04-30
被引用文献数
2

エナメル質ならびに象牙質の脱灰病変に,重炭酸イオンを作用させることによって,再石灰化の過程にどのような影響を及ぼすかをin vitroで検討した。試料には50歳代の健全小臼歯を用いた。脱灰は0.1M乳酸緩衝液(Ca 3.0mM, P 1.8mM, pH 5.0)で7日間行い,続いて再石灰化溶液(Ca 3.0mM, P 1.8mM, F 2ppm,pH 7.0)に7日間浸漬した。この再石灰化期間中,8時間ごとに再石灰化溶液から取り出し,30分間,4種の異なった重炭酸イオン溶液(0.0, 0.5, 5.0, 5O.OmM)に浸漬した。薄切平行切片を作成し,マイクロラジオグラフによってミネラルの沈着を評価した。エナメル質では重炭酸イオン濃度の増加に伴って,病変内部に再石灰化が発現する傾向が認められたが,統計学的な有意差はなかった(p=0.09)。一方,象牙質では表層に限局した再石灰化が認められた。特に5.0mM群では著明であったが,エナメル質と同様,統計学的な有意差は認められなかった(p=0.08)。エナメル質と象牙質で異なる再石灰化の所見が発現した理由は,重炭酸イオンの浸透性の違いによるものであると推察される。
著者
林 祐行 冨田 耕治 大塚 千亜紀 大和 香奈子 一宮 斉子 吉岡 昌美 和田 明人 中村 亮
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.734-744, 1996-10-30
参考文献数
10
被引用文献数
20

小学校6年生児童116名を対象とし,永久歯齲蝕発病と3歳児健康診査における乳歯齲蝕罹患状況との関係を調査した。統計学的分析は,永久歯齲蝕に関与すると考えられる生活習慣および3歳児乳歯齲蝕罹患型の9項目を説明変量,DMFを目的変量とした数量化I類によって行った。この結果,最も関与の大きい項目は乳歯齲蝕罹患型であり(偏相関係数=0.181,順位1位),乳歯齲蝕罹患型を説明変量に加えることで,重相関係数は0.287から0.355に上昇した。また乳歯齲蝕罹患と他の説明変量として使用した生活習慣の間に内部相関は認められなかった。このことから,乳歯齲蝕の罹患状況が永久歯齲蝕発病に比較的大きな影響を与えていると考えられ,乳幼児期における健康指導・教育の重要性が示唆された。
著者
大石 憲一 北川 恵美子 森田 学 渡邊 達夫 松浦 孝正 伊藤 基一郎
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.57-62, 2001-01-30
参考文献数
23
被引用文献数
13

岡山県歯科医師会会員および準会員1,046名を対象に,平成10年7月6日から19日までの2週間,郵便調査法による抜歯の理由調査を行った。回収率は38.1%(399名)で,以下の結果を得た。1. 抜歯総数は4,594本であった。回答者1人あたりの週平均抜歯本数は5.76本であった。2. 理由別にみた割合は,歯周病によるものが46.1%,う蝕によるものが42.1%であった。3. 抜歯された患者の平均喪失年齢は,う蝕によるものが53.3歳,歯周病によるものが58.8歳であった。また歯種別では,第三大臼歯を除くと,上顎第一小臼歯,上顎第二大臼歯,下顎第二大臼歯の順で平均喪失年齢が低かった。4. 年齢層別の抜歯理由は,45歳までの年齢層では,う蝕による抜歯の割合が男女とも第1位であった。しかし,46歳以上の中・高年齢層では,歯周病による抜歯の割合がう蝕による抜歯の割合とほぼ同じか,それを上回った。5. 昭和61年度の調査と比較して,う蝕から歯周病への抜歯の主な理由の変遷,抜歯された患者の平均年齢の上昇,および歯科医師1人あたりの抜歯本数の減少がみられた。
著者
森田 一三
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.688-706, 1996-10-30
参考文献数
34
被引用文献数
16

80,70,60歳世代の者について保有歯数に影響を及ぼす過去の食事・生活習慣や口腔の状況について世代別に調査検討を行った。80歳世代については愛知県常滑市における8020調査,70,60歳世代については岐阜県山岡町における住民歯科健康診査の合計319名を調査対象とした。その結果,80,70および60歳世代のいずれも共通して影響するものと,世代ごとに影響が異なる因子に分けられた。すなわち80,70,60歳世代に共通して保有歯数に影響していたものは,男性の小学生時の「母親のしつけ」,20歳時の「甘味嗜好」,40歳時の「歯肉出血」,60歳時の「歯肉腫脹」,「歯磨回数」,女性の40歳時の「歯肉腫脹」,60歳時の「歯肉腫脹」であった。一方,世代で変化するものとして,男性では20歳時の「歯肉出血」,40歳時の「間食回数」,「かかりつけの歯科医院」が80歳世代に比べ70,60歳世代への影響が大きく,40歳時の「歯磨回数」が60歳世代に比べ80,70歳世代への影響が大きかった。また,女性では小学生時の「歯磨回数」が60歳世代に比べ80,70歳世代への影響が大きく,60歳時の「甘味嗜好」が80歳世代に比べ70,60歳世代への影響が大きくなっていた。
著者
鈴木 奈央 米田 雅裕 内藤 徹 吉兼 透 岩元 知之 廣藤 卓雄
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.2-8, 2008-01-30
被引用文献数
6

福岡歯科大学では,口臭クリニック受診患者に対して初診時に自己記入式の口臭問診票を用い,口臭の診断と治療に役立てている.本研究では,これまでに得られた回答結果をまとめて臨床診断別に分類し,患者の自覚症状や生活習慣について検討した.その結果,仮性口臭症患者では,口臭を意識したきっかけが「自分で気づいた」である者が真性口臭症患者に比べて多く(ρ<0.05),また口臭を意識するために社会生活や対人関係に支障をきたしている傾向が認められた.口腔内自覚症状では,口腔由来病的口臭患者に歯肉出血や齲蝕などの歯科的項目に高い訴え率が認められ,仮性口臭患者では「痛い歯がある」や「変な味がする」など感覚的な訴えが特徴的に認められた.生活習慣に関する質問では,仮性口臭症患者に集中できる趣味をもたない者が多くみられ(ρ<0.05),また半数以上が口臭以外にも身辺に悩みがあると回答した(ρ<0.05).さらに仮性口臭症では「あなたのまわりに口臭の強い人はいますか」という質問に対して「はい」と答えた者が真性口臭症よりも少なく(ρ<0.01),仮性口臭症患者には実際の口臭を知らない者も多いことが示唆された.今回口臭問診票の結果を検討したところ,臨床診断別に特徴のある回答が得られ,これらが患者情報の把握と口臭の診断や治療計画に役立つことが明らかになった.
著者
瀧口 徹 カンダウダヘワ ギターニ ギニゲ サミタ 宮原 勇治 平田 幸夫 深井 穫博
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.513-523, 2008-10-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,発展途上にあって多宗教,多民族国家の一つであるスリランカにおける社会経済的要因と糖分摂取,歯磨き習慣,フッ化物歯磨剤および定期的歯科受診の4つの歯科保健行動との関連を分析することである.対象の西プロビンスは同国の9省(プロビンス)のうち管内の市町村間で最も社会経済的多様性がある.スリランカ国のうち最も都市化した西省の21小学校の12歳児男女949名が無作為抽出され,無記名自記式質問票を担任の監督のもと各家庭に配布し回収した.性別,地域差,民族,父母学歴,職業,収入,児童数,因子分析による社会経済的6因子,歯科保健情報源,および定期的歯科受診の10分類の要因系と前述の4種類の歯科保健行動との関連を多重ロジスティック回帰分析により分析し4つの歯科保健行動の要因系の違いを比較した.その結果,オッズ比が2.0以上を示した要因はタミール族がショ糖含有食品を制限していることが最大オッズ比(exp(-B)=5.44)を示し,次いでオッズ比が大きいものは最多民族であるシンハラ族のフッ化物歯磨剤使用(2.34)および歯科保健情報源としてのテレビ(2.32),生活必需品充足度(因子分析第1因子)と食間でのショ糖添加(2.16),シンハラ族の定期的歯科受診(2.11)であった.高有意性(p<0.001)を示す関係は6つあり,女性の歯磨き励行,生活必需品充足度と食間でのショ糖添加,ショ糖添加紅茶飲用およびフッ化物歯磨剤使用,定期的歯科受診と食事時・食間のショ糖追加摂取および歯磨き励行との関係であった.また2つ以上の歯科保健行動にかかわる指標は,民族,父親の学歴,生活必需品充足度および定期的歯科受診の4つであった.以上,本研究により性差,民族,父の学歴,生活必需品充足度および定期的歯科受診の5つが歯科保健計画策定,キャンペーンや活動に際して注目すべき要因であることが示された.
著者
エカナヤケ リラニ メンディス ランジット 安藤 雄一 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.771-779, 1999-11-30
参考文献数
15

ここ10年以上,スリランカでは児童・生徒の口腔の健康増進を目指して,プライマリーヘルスケアアプローチに基づく数多くの保健計画を実施してきた。また,厚生省は文部省との協力のもと,小学校教師に対し口腔保健の基礎を教育し,口腔保健教育のやり方を訓練してきた。さらに,国民の口腔健康増進のためにマスメディアも重要な役割を担ってきた。しかしながら,これらすべての計画や活動の目標が望ましい行動をもたらすための,口腔保健に関する基礎知識を与えることであるにもかかわらず,児童・生徒の口腔保健知識やその実践の現状を評価することはほとんどなされてこなかった。そこで,この研究は青年を評価対象とし,口腔保健に関する知識,意識,行動の様相を把握し,あわせて,歯磨き頻度に影響を与える要因を調べることを目的に行われた。無作為に抽出された2市および8村の公立学校に在学する11年生(平均年齢15.7歳)492名が,担任の監督下にアンケートを回答した。生徒の大部分はう蝕と歯同病の予防に関する知識は持っていたが,これらの原因についてはいくらかの考え違いがあった。知識と意識に関する平均スコアは,いずれも村の生徒より市内の生徒のほうが有意に高かった。ロジスティック回帰分析の結果,性,居住地,口腔保健知識,および口腔保健に関する情報を受けたかどうかの4項目は,(保健行動の1つである)歯磨き頻度と有意に関連していることが示された。以上の所見より,村の生徒の口腔保健に関する知識,意識,行動は市内の生徒より劣っている,したがって,村の生徒向けに口腔保健計画を改善することによって,口腔保健に関する知識と行動のレベルを高める努力がなされるべきであるという結論を得た。
著者
岡崎 好秀 東 知宏 田中 浩二 石黒 延技 大田原 香織 久米 美佳 宮城 淳 大町 耕市 松村 誠士 下野 勉
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.310-318, 1998-07-30
被引用文献数
11

カリオスタットと齲蝕の関係について数多くの報告があるが,歯周疾患との関係については少ない。学童期における歯肉炎の多くは,不潔性歯肉炎であり,齲蝕と同様プラークが原因である。そこで中学生437名を対象に,齲蝕活動性試験カリオスタット^[○!R]および唾液潜血テストサリバスター潜血用^[○!R]を行い,齲蝕歯数(D歯数)・歯肉炎との関係について調査した。1)カリオスタット24時間判定結果(24H)においては,D歯数・歯肉炎と高度の相関関係が認められた(p<0.001)。また,歯肉炎の程度より3つに群分けし,カリオスタット(24H)との関係をみたところ,有意な分布の差が認められた(χ^2検定p<0.001)。2)カリオスタット48時間判定結果(48H)においては,D歯数・歯肉炎との間に相関関係が認められた(p<0.05p<0.001)。しかし歯肉炎の群分けにおいては,カリオスタット(48H)に有意な分布の差が認められなかった。3)サリバスターはD歯数と有意な関係は認めなかった。しかし歯肉炎とは相関関係が認められた(p<0.05)。歯肉炎の群分けにおいては,サリバスターには,有意な分布の差が認められなかった。4)カリオスタット(24H)とサリバスターの間には,有意な関係が認められなかった。5)カリオスタット(24H)を用い, 1.0以上を基準として歯肉炎をスクリーニングし敏感度・特異度を算出すると,それぞれ0.34,0.83となった。サリバスターで+以上をスクリーニング基準とすると0.55,0.55であった。歯垢を試料とするカリオスタットは,口腔衛生状態を反映し,齲蝕だけでなく,歯肉炎とも関係が深いことが考えられた。
著者
小木 冴理 犬飼 順子 中垣 晴男 向井 正視
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.591-598, 2010-10-30

現在,市販キャンディには代用甘味料が含有されているものが多くなってきたものの,う蝕原性のスクロースが含有されているものも多く,その実状は報告されていない.そこで,本研究では,25種の市販キャンディ類に含まれる糖類について,スクロース量,グルコース量,その他の糖量およびpHを測定した.試料は蒸留水で10倍希釈し,全糖度は手指屈折糖度計を,スクロース・グルコースはバイオケミストリ・アナライザーを用いて測定した.その結果,フルーツはスクロース,グルコースとも含有量が多く,フルーツはのど飴と比較して有意に多い値を示した.さらに,のど飴はスクロース,グルコース以外のその他の糖がフルーツと比較して有意に多く含まれており,う蝕誘発の原因となる糖が少なかった.また,糖類含有量は商品によりばらつきが大きかった.pH値はほとんどの試料で5.4を下回り,フルーツが最も低かった.したがって,キャンディを摂取する場合ノンシュガー等表示されたものを選択するとよいと考えられる.しかし,スクロース値が低いものでもpH値が低いため摂取方法には注意が必要であり,適切な間食の指導により,キャンディを選択できる能力を身につけることが必要であると結論された.
著者
木村 浩之 合田 恵子 武田 則昭 平尾 智広 福永 一郎 影山 浩 實成 文彦
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.37-47, 2001-01-30
被引用文献数
11

香川県下の従業員数50人以上の事業所を対象に,産業歯科保健活動の効果的展開を図ることを目的として,産業歯科保健活動に関する調査を行った。その結果,歯科健康診断は33事業所(14.0%)で行われているにすぎず,産業歯科保健の認識および知識は十分ではなかった。産業歯科保健の充実を図る予定については,積極的な回答は数%と少なかった。産業看護職(保健婦・看護婦・准看護婦)雇用の有無別では,雇用している事業所が雇用していない事業所に比較して歯科健康診断の実施割合が高く,産業歯科保健の認識および知識の全項目とも「知っている」と回答する割合が高かった。産業歯科保健の充実を図る予定では,産業看護職を雇用し,かつ歯科健康診断を実施している事業所において積極的な回答がみられた。歯科健康診断を実施している事業所では,事後措置などについては比較的実施されていたが,歯科健康診断措置後のフォロー(把握)をしているのは8事業所(24.2%)と少なかった。実施していない事業所では,その理由として歯科健康管理は「個人の問題だから」とするのが48事業所(26.4%)と最も多く,産業歯科保健の充実を図る予定に消極的であった。本研究では,事業所における歯科保健活動が不十分である実態が明らかになった。また,産業看護職を雇用している事業所が,産業歯科保健活動に積極的に取り組んでいることがうかがわれ,産業看護職の活用が産業歯科保健活動推進の一要因になりうることが示された。さらに,事業所の現場スタッフである雇用主および衛生担当者の歯科健康管理のあり方についての認識の向上も望まれる。
著者
梅谷 健作 玉木 直文 森田 学
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.581-588, 2011-10-30
参考文献数
33
被引用文献数
2

ブラッシングが脳を活性化させるということが報告されている.本研究では,術者によるブラッシングが患者の自律神経系に与える影響を評価すること目的とした.測定項目は,心拍変動解析による自律神経の活動,ストレス指標の唾液アミラーゼ活性とSTAI(State-Trait Anxiety Inventory)による状態不安の程度の3つとした.対象者は健常男性15名(年齢32.3±9.5歳)とし,ブラッシング処置を15分間行った.処置前に心拍変動,唾液アミラーゼ活性と状態不安を測定し,ベースラインとした.処置中の15分間は,心拍変動解析を継続して行った.処置終了後,再び処置前と同じ3項目を測定した.その結果,心拍変動解析においては,副交感神経の活動の指標であるLnHF(Lnは自然対数)の値がベースラインと比較して処置の終盤(処置開始後10〜15分の5分間)と処置後に有意に上昇した.自律神経の活動の指標であるLnTPはすべての時点で有意に上昇したが,交感神経の活動の指標であるLn(LF/HF)にほとんど変化は認められなかった.状態不安の得点は処置の前後で有意に減少したが,唾液アミラーゼ活性の値は減少傾向にあったものの統計学的な有意差はなかった.以上の結果から,ブラッシングによる適度な刺激が,中枢神経系に作用した結果,副交感神経の活動に変化が生じたものと考察された.副交感神経活動の指標であるLnHFが上昇し,状態不安の得点が減少したことから,術者によるブラッシングには患者をリラックスさせる効果がある可能性が示唆された.
著者
葭原 明弘 清田 義和 片岡 照二郎 花田 信弘 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 = JOURNAL OF DENTAL HEALTH (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.241-248, 2004-07-30
参考文献数
25
被引用文献数
7

日常の楽しみごととして食事をあげる高齢者は多い.本調査では,食欲とQOLの関連をほかの要因を考慮しながら評価することを目的としている.本調査の対象者は70歳の高齢者600人である.QOLを総合的にあらわす指標としてフェイススケールを用いた.生活満足状況について5つの顔の表情を示し,一番実感に近いものを選択してもらった.食欲については質問紙法により情報を得た.さらに,身体的要因,健康行動,社会的要因,口腔内症状について情報を得た.フェイススケールの結果にもとづき,食欲,口腔内症状の合計数およびほかの全身的要因との関連をロジスティック回帰分析により評価した.その際,従属変数をフェイススケールの分布にもとづき2種類のモデル(モデル1,モデル2)を作成した.いずれのモデルにおいても食欲,口腔内症状の合計数,老研式活動能力指標,睡眠時間および性別を独立変数に採用した.その結果,モデル1では,食欲(オッズ比:2.77,p<0.05) ,口腔内症状の合計数オッズ比:1.25,p<.05) ,老研式活動能力指標オッズ比:1.25,D<0.01)が統計学的に有意であった.一方,モデル2では,食欲(オッズ比:3.23,p<0.001),老研式活動能力指標(オッズ比:1.24,D<0.001) ,睡眠時間(オッズ比:1.72,n<0.0l)が統計学的に有意であった.食欲は,モデル1とモデル2において,また,口腔内症状の合計数はモデル1において有意な関連が認められた.この結果は,地域在住高齢者では,食欲とQOLが有意に関連していることを示している.さらに,口腔内症状の改善がQOLの向上には必要であると考えられた.
著者
瀧口 徹 カンダウダヘワ ギターニ ギニゲ サミタ 宮原 勇治 平田 幸夫 深井 穫博
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.524-533, 2008-10-30
参考文献数
13
被引用文献数
2

本研究の目的はスリランカの12歳児DMFTの多寡に有意な歯科保健行動要因と社会経済的要因を確定し,重要な少数の予測要因に絞ることである.データはスリランカ国の西プロビンスの949名の学童からなる.3名の歯科医師がWHOの基準によって歯科健康診査を行った.DMFTを0と1以上の2区分にした指標を多重ロジスティック回帰分析(MLRA)の従属変数として用いた.MLRAの独立変数は4種類の歯科保健行動(4-DHBs),すなわちショ糖含有の食品もしくは飲料,歯磨き習慣,フッ化物歯磨剤使用,定期的歯科医療機関受診等,10種類の社会経済的要因からなっている.その結果,変数減少法によるMLRAで最終モデルと各変数のオッズ比が得られた.DMFTの分布は指数関数的な減少傾向を示した.男女間および3民族間のDMFTの違いは有意でなかった.フッ化物歯磨剤がDMFTに関連した最も影響力の強い保健行動であり,一方,最も重要な社会経済的要因は民族の違いであった.4-DHBsの組合せの違いは伝統的な宗教的な慣習や嗜好に由来するように思われ,う蝕に対して時に相加的効果,時に相殺的効果を及ぼすと考えられる.対象プロビンスとスリランカ全体の経済的発展に伴って将来のう蝕が増加する可能性は関連データの不足のため否定できない.それゆえ,今回明らかになったう蝕の要因をモニタリングし,西プロビンスの非常に低いDMFTの原因を解明するための疫学的研究が必要である.
著者
吉岡 昌美 本那 智昭 福井 誠 横山 正明 田部 慎一 玉谷 香奈子 横山 希実 増田 かなめ 日野出 大輔 中村 亮
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.552-558, 2005-10-30
参考文献数
15
被引用文献数
2

徳島県の山間部に位置するK村では, 平成5年度より村内の保育園, 幼稚園, 小中学校において週5回のフッ化物洗口と年度2回の歯科健康診断を実施している.本研究では, フッ化物洗口を開始してからの児童生徒のう蝕有病状況の経年的変化をまとめ, 特に, 小学校6年生での歯群別のう蝕有病状況について詳しく調べた.さらには, 小学校1年生での乳歯う蝕の状況, 歯の萌出状況と6年生での永久歯う蝕経験との間の関連性について調べた.以上の結果, フッ化物洗口開始後のう蝕有病状況の経年的変化において, 永久歯う蝕は小学校低学年で早期に減少傾向が現れ, 次いで高学年, 中学生へと移行していることがわかった.小学校6年生での歯群別のう蝕有病状況から, 第一大臼歯のう蝕有病率が大幅に抑制されたことが, 全体のう歯数低下につながっていることが示唆された.一方, フッ化物洗口開始後も小学校1年生での乳歯未処置う歯の本数や乳歯の現在歯数が小学校6年生でのDMFTと有意に関連することがわかった.このことは, 就学前からのフッ化物洗口は第一大臼歯のう蝕罹患を抑制するのに効果的なう蝕予防施策であるが, さらに永久歯う蝕の抑制効果を期待するためには, 乳歯う蝕を指標としたう蝕リスクの高い幼児への介入が必要であることが示唆された.
著者
大川 勝正
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.23-32, 2012-01-30
参考文献数
22
被引用文献数
1

カフェインは,コーヒー,紅茶,緑茶および烏龍茶などの飲料に含まれるよく知られた成分の一つである.それらの成分は加温して飲まれることが多い.われわれのこれまでのin vitroでの試験において,そのような加温されたカフェイン液(HC)が,短時間で,口腔常在細菌種と比較して多くの誤嚥性肺炎起因菌種の生存率を低下させ,口腔細菌叢を改善する可能性が示された.そこで,HCが実際に口腔細菌叢に影響を及ぼすかどうかを調べるため,健常者を被験者として単群のブラインド化されない介入試験を実施した.この結果,水による洗口では,介入前後で嫌気性細菌の割合が増加傾向を示した.このとき,Prevotella属割合も増加しており,増加した嫌気性細菌にはPrevotella属が含まれるものと推察した.なお,HCによる洗口では,そのような増加は認められなかった.HCは介入前後で嫌気性連鎖球菌の数および割合が有意に増加傾向を示し,連鎖球菌以外の嫌気性細菌の減少の可能性が示唆された.しかし,嫌気性細菌のFusobacterium属およびPrevotella属の割合は,増加傾向であった.これらの結果から,HCは洗口直後の口腔内の細菌の状態に変化を及ぼすものと推察された.また,HC洗口後の好気性細菌数では,洗口前と比較して増加する被験者が多くおり,バイオフイルムの剥離を促している可能性が示唆された.
著者
山中 すみへ 太田 薫 野村 登志夫 高江洲 義矩
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.186-194, 1999-04-30
被引用文献数
6

水銀やクロムなど歯科用金属によるアレルギー発現を調べるための検査法として,パッチテストが一般的であるが,刺激性と感作性の判別は容易ではない。本論文では,モルモットを用いて,歯科用金属の皮膚刺激性および感作性を評価した。まず皮内注射により皮膚刺激性を調べたところ,水銀が最も刺激性が強く,次いで白金や銅,クロムが強く,銀やニッケルは比較的刺激性が弱かった。また感作性試験では,感作陽性対照物質のDNCBや銀,スズ,クロムは,Buehler法よりもMaximization法で鋭敏な感作性を示したが,水銀はBuehler法でのみ感作陽性を認め,試験法による差異がみられた。貼付惹起の際に,アルミニウム製Finn Chamberを用いて水銀や白金の感作性試験を行うと,アルミニウムとの反応で刺激性が増強されるので不適当であった。さらに銀とパラジウム,クロムとニッケルの間では交叉感作性が認められたが,スズとパラジウム,水銀と金,水銀と白金との間では交叉性はみられなかった。水銀を連続繰り返し惹起すると,陽性率が上昇したことから,水銀との繰り返し接触で感作性が強くなることが考えられた。しかし惹起の間隔が長くなると,陽性率の低下傾向から水銀の感作性は持続的ではないことを示した。金属の皮膚刺激性および感作性を評価し,水銀とクロムは「中等度」,銀とスズは「弱」の感作性物質に分類できた。
著者
阿部 和正 北川 純 中久木 一乘
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.343-350, 2014-07-30

タバコの煙はさまざまな疾患のリスクファクターである.歯科保健指導の担い手である歯科医師のタバコ問題への理解は,社会的に重要であることから,禁煙の啓発活動には歯科医師の考え方の把握が不可欠である.そこで,日本歯科医師会ならびに47都道府県歯科医師会を対象にタバコ問題に対する考え方の現状について,アンケート調査を行った.対象は各都道府県の歯科医師会とし,調査は2012年10月に実施した.集計の結果,各都道府県歯科医師会館で開催される学会,セミナー・研修会および展示会会場での完全禁煙率は約90%と予想より高かった.しかし,それぞれのロビーでは約70%と低く,各懇親会会場ではさらに低い48%であった.会員喫煙率の調査率は実施予定も含めて12%ときわめて低く,禁煙への関心は低いものと考えられた.受動喫煙防止に関する「健康増進法」の認知度は94%と高かったが,「世界保健機関(以下WHOと略す)たばこ規制枠組条約(略称:FCTC)」は56%と認知度が低かった.同様に行った2003年および2004年の調査と比較したところ,9年間で歯科医師会敷地内および建物内の完全禁煙率は顕著に上昇していた.これらの結果から,各歯科医師会の禁煙に対する意識は大幅に進展しているものの,いまだに喫煙可能な場所が存在することや歯科医師会会員の喫煙率を把握していないことなど,改善すべき点が残されていると考えられる.