著者
松井 求 岩崎 渉
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究計画ではまず、生態学と情報学の新たな複合領域である「機能インフォマティクス」を創成する。本領域が収集する情報は(i) 環境コンテキストと微生物メタゲノム、(ii) 微生物機能情報に紐づけられた個々の種のゲノム情報、(iii) メタボロームと代謝パスウェイ遺伝子の共起関係、のように従来の解析に用いられる情報よりも圧倒的に多様かつ多量である。そこで、高次元・大規模な環境コンテキスト情報から「微生物が発現する機能と環境の相関」を明らかにするための新規情報処理技術を開発する。次に、集積された情報に本技術を適用し、領域が設定するモデル圃場の「ポストコッホ機能生態系モデル」を創成する。
著者
長谷川 公一
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2004

本論文では,現代日本の〈環境運動〉とそれが担うべき〈新しい公共圏〉について,環境社会学のパースペクティブから考察する。//政治・経済の諸改革の閉塞状況は「失われた10年」と呼ばれて久しいが,それとは対照的に,1990年代以降,日本の市民社会の成熟をうながし,環境問題に関する公共圏を少しづつ開き,活性化させようとする動きがあることに注目する。四大公害訴訟や大阪空港公害訴訟・新幹線公害訴訟に代表されるような,被害者および被害者支援運動中心の批判・告発型の運動から,環境問題・環境政策をめぐっても,政策志向的な,さらにはコミニュティ・ビジネス志向的な運動への大きな転換の動きがある。北欧諸国やドイツ,アメリカ合州国などと比較して,日本の環境政策の政策決定過程はなお閉鎖的ではあるが,〈新しい公共圏〉は,〈市民〉に向かって次第に開かれつつある。//〈公共圏〉とは〈公論形成の場〉,〈社会的合意形成の場〉であり,公共的な関心をもつ人びとが集って,対話をつうじて〈公益〉とは何かを討議し,社会的実践を行い,〈公共性〉と〈共同性〉という価値を実現し,政治教育を行う場である。旧来の閉ざされた公共圏に代わるこのような規範的な公共圏のあり方を,本論文では〈新しい公共圏〉と呼ぶ。//制度化に成功し,セカンド・ステージを迎えた環境社会学も,〈現場〉の運動の変化に対応して,政策分析能力・政策決定過程の分析能力,さらには,政策形成能力と政策構想能力を高めていくべきである。//環境経済学や環境法学と比較したとき,環境社会学の独自なパースペクティブは環境運動の分析にある。本論文は,1960年代の公害反対運動・住民運動から現在に至るまでの日本の環境運動の構造と動態を分析したものである。環境基本法や特定非営利活動促進法の制定,国際化・情報化などを契機に,日本の環境運動や環境NGO/NPOも,組織性と専門性,政策志向性を強めつつある。ヨーロッパやアメリカでは,とくに1980年代後半以降,政府・行政,企業とのあいだで,環境運動が従来のような敵対的な関係にとどまることなく,〈コラボレーション〉という,〈(1)対等で,(2)領域横断的で,(3)プロジェクト限定的で,(4)透明で開かれた協働作業・協働関係〉を構築しつつ,とくに従来国家や産業界との間での対立的なイッシューの典型だった原子力政策・エネルギー政策の分野においても,さまざまな政策転換の試みがなされている。//環境運動は未来志向的な〈例示的実践〉であり,〈先導的試行〉であるがゆえに,環境運動と公共圏の動態に焦点をあてた本論文は一つの現代社会論でもありうる。//全体は,4部からなる。//第I部「環境社会学の問題構成」は,環境社会学の全体的な動向を射程とした学問論である。とくに執筆者の依拠する「環境問題の社会学」に焦点をあてて,課題提示に努めた。//日本でも,ヨーロッパ諸国などと同様に,1990年代に環境社会学の組織化と制度化がすすんだ。内外の研究動向をふまえ,ほぼ2000年代以降を環境社会学の〈セカンド・ステージ〉と規定することができる。近年環境社会学会は急激に会員が伸びつつあるが,環境社会学と既存の社会学との間の距離が拡大するにつれて,環境社会学はアイデンティティ・クライシスに陥りかねないことを指摘し,セカンド・ステージの課題として,環境社会学の問題構成の特質,課題・方法・価値前提を,現場との関係で「政策科学化」が,主流の社会学との関連で「理論的深化」が,隣接の環境研究との関連で「学際化」が,海外の研究者との関係で,海外に発信する「国際化」が課題であると指摘する。おもに環境経済学や環境法学,既存の社会学との関係を考察し,政策科学化の必要性と意義を論じる。(第1章)。//では,環境社会学の学問的アイデンティティをどこに求めるべきか。環境問題の多様化がしばしば指摘されるが,共通の構造として,環境問題のダウンストリーム性を指摘することができる。生産・流通・消費,あるいは生産活動と生活過程中心のこれまでの社会科学および社会学のあり方に対して,環境社会学,とくに「環境問題の社会学」のアイデンティティは,排出・廃棄など,消費以降の〈ダウンストリーム〉へのまなざしにあることを説き,「〈ダウンストリームの社会学〉としての環境社会学」を提唱する(第2章)。//第II部「環境運動の社会学」は環境運動に関する理論的・概括的考察を課題とする。//まず,1960年代後半以来の日本の環境運動を,利害当事者としての地域住民を中心とする生活防衛的な住民運動と良心的構成員としての〈市民〉が普遍主義的な価値の防衛をめざす市民運動とに大別し,産業公害・高速交通公害・生活公害・地球環境問題の4類型を整理し,産業公害から地球温暖化問題に至る歴史と問題構造を概括する。現時点で,被害が顕著な〈現場〉をもたず,影響が不可視的であることに着目し,地球温暖化問題への対応の構造的な困難さを社会学的に説明する(第3章)。//ヨーロッパやアメリカと比較したとき,日本の環境運動の展開にとって,最大の隘路は人的資源・経済的資源の動員の困難さという壁である。オルソンのフリーライダー問題の提起をふまえて,フリーライダーを抑制しうるような目的的誘因・連帯的誘因の提供の意義と動員のあり方,環境NPOの予防的・監視的機能について考察する(第4章)。//環境経済学・環境法学に代表される社会科学的な環境研究のなかで,環境社会学のパースペクティブの独自性は環境運動の分析にある。〈現場〉の環境運動が,環境社会学の誕生とその後の展開過程に対してもちえた国内的・国際的文脈での意義を整理・検討し,近年の社会運動論の研究動向をふまえ,社会運動論の資源動員論・政治的機会構造論・文化的フレーミング論を統合する〈社会運動分析の三角形〉モデルを提唱する(第5章)。//〈現場〉の環境運動が急速に政策志向性を高めつつあるなかで,政策志向的な分析能力を高め,社会学独自のオールタナティブな政策提案を志向することは,環境社会学にとっても喫緊の課題である。社会学の政策科学化が遅れた構造的要因と,政策科学化することの社会的意義を述べ,政策科学としての環境社会学の可能性を展望する(第6章)。//第III部「環境運動の展開」は,環境運動の画期をなした1970年代から今日までの4事例に即し,それぞれの運動過程とそれらが関与していた公共圏の特質と限界を分析する。//70年代の典型事例として,国家による公共性の独占を批判し,新幹線の「影」としての騒音振動公害を集団訴訟によって社会問題として提起した新幹線公害訴訟の公共圏創出の意義と,司法消極主義の壁,弁護団主導化などの運動論的な課題を分析する(第7章)。//チェルノブイリ事故後の1987年,都市部の主婦層を中心に高揚した反原発運動は80年代の典型事例である。自己表出性とネットワーク性を重視し,日本における「新しい社会運動」の典型的な特質を備えていた。その構造と動態を分析し,そのような特性ゆえに一過的な高揚にとどまらざるをえなかったことを明らかにする(第8章)。//新潟県巻町の原発建設をめぐる住民運動は,1996年に日本初の住民投票を実現し,原発建設を事実上中止に追い込んだ。90年代の成功した環境運動の代表である。この運動がなぜ成功しえたのかを,青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設建設反対運動との対比のなかで,政治的機会構造・資源動員・フレーミングに注目して分析する(第9章)。//2000年代の典型事例として,原子力発電のような政府・事業者との対決型イッシューをめぐっても,環境運動が政策志向性を高めてきたことを国内外のグリーン電力の展開例をとおして分析する。とくに執筆者が提唱者となった,日本初のグリーン電力運動の背景と成功の要因,意義を,政治的機会構造・資源動員・フレーミングに注目して分析し,政府セクター・営利セクター・市民セクター間の相互浸透の必要を説く(第10章)。//第IV部「市民セクターと公共圏の変容」は,環境運動の変容と成熟,それに対応する環境問題と環境政策をめぐる公共圏の構造転換に焦点をあてた現代社会論である。//公共圏・公共性が今日,なぜ新たな社会学的焦点となりつつあるのか,社会学的な公共性論をふりかえり,公共哲学復権の意義と背景を論じ,パブリックの概念の変容と環境運動の社会的インパクトに注目しながら,公共性の5つの位相を抽出する(第11章)。//現代の環境運動の焦点は,リスク回避とスケール・デメリットの回避にある。小規模分散型の自然エネルギーに依拠した分権的な社会の構築をめざす,アメリカやヨーロッパの環境運動や持続可能な街づくりの事例を紹介し,その今日的な意義を総括する(第12章)。//NGO/NPOに代表される社会運動の制度化・政策志向化に焦点をあて,日本における1990年代の市民セクターの変容を,組織化の進展,市民オンブズマン活動,住民投票の戦略,コラボレーション,国際化・情報化のインパクトに着目して概括する(第13章)。//終章では,組織化・制度化・専門化の時代を迎えた環境運動の今日的な課題を整理し,人びとを新しい公共圏に誘う回路として,(1)例示的実践の提案と先導的試行,(2)コラボレーション,(3)地方からの変革,という三つのキーワードを提起し,本書全体をしめくくる。
著者
田口 康大
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、人間と社会との関係についての分析を経ながら、これまでの基礎教育理論を批判的に再構築することにある。その際の分析の中心となるのは、1.人間は欲望や情動といった自己の非理性的側面とどう関わっていけるか、2.人間は他者の感情とどう関われるか、3.道徳と感情との関係、これら三つの問題である。具体的には、公的生活と私的生活との関係、自己と他者との関係において人間がいかに振舞い、振舞ってきたかについての考察である。常に変遷する人間の振舞いと、自己や他者、社会の意味合いについての変化についての考察は、今日の人間観及びそこからよってくる教育観を批判的に相対化することを可能とするとともに、歴史の変化を踏まえたいかなる教育理論の構築に貢献することが可能であると考える。以上のような目的の元、本年度は「折衷主義哲学」の思想史的変遷についての研究を重点的に行った。日本に限らず、世界的にも折衷主義哲学は軽視されてきたが、今日の社会状況下で、プラグマティックな側面をもつ折衷主義哲学は評価しなおされ始めている。目の前にいる他者とのコミュニケーションから始まる思考の重要視、抽象的な概念に自分を適合させるのではなく、実際のコミュニケーションの経験から得られた自己の見解の暫定的な保持の重要視、そのような他者との実践と経験を重んじる理論は、過度の抽象的思考に囚われ、他者なきナルシズム的な人格の増加の一途をたどっている社会状況、およびそれを背景とした教育の営みを再考するうえで示唆を与えうると考えられる。
著者
山口 晃人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

代表制民主主義の危機が叫ばれる現在、より良い立法システムを探究することは急務である。本研究では、選挙デモクラシーに代わりうる二つの代表者任命手続きを検討することで、立法システムの改善を目指す。第一の代替案は選挙ではなくくじ引きで代表者を選ぶロトクラシーであり、第二の代替案は優れた知識・能力を持つ人々のみが統治するエピストクラシー(知者の統治)である。実社会においても学問上においても選挙デモクラシーは自明視され、ごく最近までこれら二つの代替案の可能性は真剣に検討されてこなかった。本研究ではこれら二つの代替案との比較を通じて、優れた意思決定手続きの条件を明らかにする。
著者
藤城 光弘 池田 祐一 熊谷 英敏 山下 裕玄 森田 啓行 浅岡 良成
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

Wntシグナル制御機構:R-spondin-LGR4/5/6-ZNRF3/RNF43系を標的とした 抗癌剤としてのR-spondin活性阻害剤、腸管粘膜再生促進剤としてのR-spondin代替え低分子化合物の同定を目指し、 低分子化合物ライブラリーをスクリーニングした。その結果、再現性を持ってR-spondin 阻害活性を有する化合物を60種類、R-spondin 様活性を有する化合物を1種類同定した。その後の解析により、R-spondin 様作用を有する化合物はZNRF3/RNF43を介して作用することが確認され、消化器疾患再生医療領域における有望な創薬シーズになりうることが示唆された。
著者
金子 豊二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

1.ティラピアの消化管でK+とNa+が主にどの部位でどの程度吸収されるのかを検討するため、消化管を複数の部位に分け、経時的に内容物を採取し、K+とNa+の濃度を測定した。その結果、胃から腸の前半部にかけてK+濃度が大きく減少した。また、時間経過に伴って胃内のK+濃度が徐々に低下した。このことから、餌料として口から摂取されたK+はまず胃に滞留している間にその多くが吸収され、腸の後半へ移行するにつれてさらに吸収が進むことが示唆された。2.消化管内のK+輸送に関わると考えられる輸送分子について、定量PCRによって組織別発現解析を行った。その結果、胃においてK+の吸収を担うとされるHKAおよびHKAと共役するカリウムチャネルKCNQ1が胃に特異的に発現していることが示された。一方、腸においてはK+、Na+、Cl-を輸送するNKCC2およびNa+とCl-を輸送するNCCbが特異的に発現していた。従って、胃においてはHKAとKCNQ1が、腸においてはNKCC2 とNCCbが、K+輸送に寄与すると考えられた。次に、これらの輸送分子に対する絶食の影響を検討した結果、胃における発現が確認されたHKAおよびKCNQ1の発現が、絶食条件下において低下する傾向が見られた。それに対し、腸において発現が確認されたNKCC2およびNCCbの発現は絶食条件において変化はみられなかった。3.ティラピアの胃を用いてサックを作製し、実際にイオンがどの程度輸送されているのかについて検討した。胃のサック実験は、採取した胃に調製した内液を入れたものを糸で吊るして培養液 (L-15) に浸し、1時間インキュベートした。その結果、内液のK+濃度の低下がみられた。さらに内液のpHの低下も認められたことから、胃内腔のK+と胃腺細胞内のH+が交換的に輸送されることが示唆された。
著者
三井 純
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

多系統萎縮症(MSA)患者群と健常対照者群に対して,血漿コエンザイムQ10濃度測定を行い,MSA患者ではCOQ2変異の有無にかかわらず血漿コエンザイムQ10濃度が有意に低いことを見出した.また,MSA患者からiPS細胞を樹立し,iPS細胞由来の神経細胞の分化誘導を行ったうえで機能解析をした.複合ヘテロ接合性にCOQ2変異をもつMSA患者では,ミトコンドリア呼吸機能ならびに抗酸化機能が低下していること,またCOQ2変異を持たないMSA患者でもアポトーシスが増加していることを認めた.これらの知見から,コエンザイムQ10の補充がMSA患者にとって有益である可能性が示唆される.
著者
遠藤 貢
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、再編期にある「アフリカの角」地域の調査を実施することを通じ、2020年段階に向けた「アフリカの角」地域の国際関係を読み解く。そして、それと相互作用の中に展開するアフリカ大陸側の旧来の「アフリカの角」を構成してきた国々における新たな政治的ダイナミズムを明らかにする。現在の動きを示している「アフリカの角」地域の動静を丹念に追う作業を実施する。加えて、域内再編がもたらす国内秩序への影響を、より理論的に分析するための理論的可能性を検討する。その際には、政治体制変動研究の知見を生かし、国際政治と国内政治の関係性を読み解く理論枠組みの構築を目指す。
著者
山迫 淳介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

多くの生物において、分布の拡大と分断は、その進化の道筋を解明する上で非常に重要である。とくに海洋は、陸上動物にとって大きな障壁となると考えられており、重要な分断要因の一つである。しかし、カミキリムシのような穿孔性昆虫では、幼虫の入った木材が海流によって運ばれることにより、海洋を超えて分散したと考えられる種が少なからず存在する。本研究では、飛翔能力が欠如しているにも関わらず、台湾から琉球列島の島嶼部を経て日本の沿岸域に広域な分布を示すウスアヤカミキリ属を用いて、海洋を超えた遺伝子流動を検証し、その進化史解明に取り組んだ。平成28年度は、昨年度に引き続き、台湾から日本の各地で遺伝子解析用サンプルの収集を行い、ミトコンドリアDNA(DNAバーコード領域を含むCOI領域)の塩基配列の決定を行った。さらに、次世代シークエンサーを用いた一塩基多型の検出も行い、これらの遺伝子情報に基づいて集団遺伝学的解析を行った。その結果、台湾から日本にかけて分布するウスアヤカミキリ属では、海洋を超えた遺伝子流動が頻繁に起きており、遺伝子流動は地理的な距離のみならず、黒潮の流れにも強く影響を受けていることが明らかとなった。一方で、これまで7種7亜種に区別されてきた本群は、本結果からいずれも種レベルでは未分化で、すべて同一種にするべきとの結論を得た。これは、ウスアヤカミキリ属においては、海洋は分散障壁とはなっておらず、むしろ海流を利用することによって広域な分布を獲得した一方で、その種分化は、その後も頻繁に起きる遺伝子流動によって妨げられてきたことを示唆する。本研究結果は、黒潮流域における生物の分散、進化、またその起源を考察する上で、興味深い例を提供すると考えられる。
著者
佐藤 寿昭
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

採用者は「社会問題」と呼ばれる様々な問題を人々が議論し、合意を形成する際、それはいかにして達成されるのかという問いのもと日本のマンガ作品の性表現規制論争を事例に研究を進めている。平成28年度は①2010年の東京都青少年条例改正案をめぐる論争の分析、②日本のマンガの性表現規制を支えるレトリックの歴史的変化の研究を進めた。①2010年の東京都青少年条例改正案をめぐる論争の分析では、「相手のクレイムの一部を自説に取り込むことで相手のクレイムとは異なる結論を申し立てる」という反論戦術が同論争を方向づけた要因の一つであることを指摘した。競技ディベート論で「リンク・ターン」と定義されるこの反論戦術は対立するクレイム申し立て者の間で前提を構築し対立点を明確にする。本研究ではこの反論戦術を社会問題の論争分析の方法論である社会問題の構築主義アプローチに位置づけた。この成果は2016年11月発行『情報学研究』第91号に論文として掲載された。②戦後日本においてマンガの性表現を規制するに際してどのようなレトリックが用いられてきたのか、その歴史的変化を分析した。第一に戦後すぐ「社会問題」となった「子どもに悪影響を及ぼす」いわゆる「悪書」規制論争からマンガの性表現が特定的に「問題」とされていった経緯、第二に1990年代当初は公共の場における広告批判に用いられていた「女性の性の商品化」というレトリックがマンガの性表現批判にも用いられるようになっていった過程、第三に国際会議を端緒として国内で用いられるようになった「児童ポルノ」というカテゴリーにマンガの性表現を含めるか否かという論争の三点を中心に分析した。この時、それぞれの論に反対する過程でマンガの性表現を「日本固有の文化」として主張するレトリックが徐々に構築されていった。それぞれの分析結果は2017年度中に個別に論文化する予定である。
著者
石田 健 宮下 直 服部 正策 山田 文雄 石井 信夫 前園 泰徳 亘 悠哉 川崎 菜実
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

多様な固有種のいる生態系に、国際自然保護連合が「最も危険な外来種100種」に指定しているジャワマングースによる被害の出ていた奄美大島において、マングースの餌ともなる外来種クマネズミ、両種に捕食される鳥類とイシカワガエル、動物個体群に大きく影響するスダジイ堅果結実量、の動態を調べ、生態系管理の基礎情報を得た。研究成果をふまえ、国内外で外来種管理の重要性と可能性を説明した。
著者
星野 太佑
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究では、乳酸が運動による骨格筋ミトコンドリア増殖のシグナル因子となるのか明らかにすることを目的とし、研究を行った。まず、マウスへの運動前のジクロロ酢酸摂取が、運動中の体内の乳酸濃度を低下させることを確認した。そのDCA摂取を用いて、マウスに乳酸濃度の低い運動を継続して行うトレーニングを4週間行わせた結果、同じ強度でも乳酸濃度の低い運動トレーニングを行った群では、通常のトレーニングによって引き起こされるミトコンドリアの増加が抑制されることが明らかとなった。このことは、乳酸がミトコンドリア増殖のシグナル因子になりうる可能性を示唆するものである。
著者
北田 暁大
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は「社会と名指される集合的対象を、特定化し、その集合的状態の変化・改善を、何らかの統制された方法を用いて目指す社会的実践(social practice)」としての「社会調査(social survey)」の歴史・社会的機能を、19世紀末~20世紀半ばのアメリカ社会学、行政、財団の動向に照準して分析するものである。この作業は、現代にいたる量的/質的の区分の誕生や統計的手法の採用の起源を確証し議論を活性化させると同時に、欧州と異なる”social”概念のアメリカ的用法の解明に寄与し、近年注目を集めている「社会的なもの」をめぐる議論のブラッシュアップにも繋がるであろう。
著者
住谷 昌彦 四津 有人 大住 倫弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

【目的】運動器慢性疼痛患者では,運動恐怖により運動発現過程で知覚運動協応の破綻が生じていることが報告されているが、その定量的評価は確立されていない.本研究では,到達・把握運動の3次元動作計測から取得される運動学的データを用いて運動恐怖による知覚運動協応の変容を定量的に分析することを目的とする。【方法】上肢の運動恐怖を伴う慢性疼痛患者を対象とし、健肢と患肢それぞれについて3次元動作解析を行った。3 次元位置磁気計測システムを用いて、到達・把握運動の運動軌跡を計測した。到達運動における運動速度の時系列変化を算出し,運動開始から運動速度がピークに達するまでの区間(加速期),運動速度のピークから運動終了までの区間(減速期)に分割した。太さの異なる目標物に対する把握動作の指最大開大幅と手運動速度を計測し、目標物の太さに依存する運動量に応じた運動恐怖の変化を動作解析により客観化できるか評価した。【結果】患肢運動は健肢運動に比して明らかに速度が遅く、指最大開大幅も小さかった。この傾向は、目標物の太さに応じて増悪した。ただし、目標物の太さが大きくなると健肢では指最大開大幅が大きくなり、目標物の太さに応じたこのような傾向は患肢でも維持された。【考察】患肢でも目標物の太さに応じた指最大開大幅は変化したことから生理的な運動表象の立案は行われていると考えられる。一方、目標物の太さに応じて加速期の運動が特に障害され指最大開大幅が不自然に小さくなっていること特に障害されていることから運動実行までの過程で運動恐怖が修飾していることを示唆する。これらの結果から、知覚-運動協応の中枢神経系における内的モデルに運動恐怖による修飾回路を組み入れることに成功した。
著者
柳本 史教
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

平成30年度は以下の研究項目を実施した. 1. 平成29年度に実施したシアリップ形成試験結果の分析:複数の温度,負荷応力で実施したシアリップ形成を伴う脆性亀裂伝播試験に手えられた破面を非接触型3次元形状測定機を用いて解析した結果を分析し,シアリップ厚さの定量化を行った. 2. 亀裂先端近傍応力場決定因子の解明:従前より実施していた有限要素解析を用いた亀裂先端近傍応力場の解析を引き続き実施し,非定常効果や速度による影響を取りまとめた. 3. 脆性亀裂アレスト予測理論モデルの開発:上記1,2の成果およびこれまで実施してきた研究の内容を統合し,物理的根拠に立脚した脆性亀裂アレスト予測数値モデルを開発し,その妥当性を検証した.その結果,従来の理論モデルのような非現実的な家庭を導入することなくアレスト現象を再現することができることが示された. 4. 透明樹脂を用いた3次元構造中の亀裂伝播観察:実験難易度,コストの観点から実験趣旨を変更することなく透明度が高い弾性体であるアクリル樹脂を用いた高速き裂に対する3次元構造因子の影響について実験的に調査を行った.なお,当初想定していた3次元Application phase有限要素解析は計算コスト上現実的ではないことが研究途上で明らかになったことから実施せず,3次元効果についてはシアリップ形成試験結果を整理することに注力した.上記のうち,1の成果及び2,3の成果をそれぞれ取りまとめ2連報の論文としてすでに破壊力学に関する国際論文誌に投稿している.また,4については破壊に関する国際学会22nd European Conference on Fractureにて発表を実施済みである.
著者
金子 勝
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.1-58, 1982-08-05
著者
西林 仁昭 中島 一成 吉澤 一成 坂田 健
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究代表者らがこれまでに達成した知見を踏まえて、「温和な反応条件下でのアンモニア合成反応法の開発」と「温和な反応条件下でのアンモニアの分解反応の開発」に取り組んだ。前者では、トリホスフィン(PPP)型三座配位子やPCP型ピンサー配位子を持つ窒素架橋2核モリブデン錯体を設計・合成し、それらを触媒として利用した触媒的アンモニア生成反応を検討した。その結果大幅な触媒活性の向上を達成した。後者では、フェロセニルジホスフィンを配位子として有する窒素架橋2核モリブデン錯体の設計・合成に成功し、酸化還元による架橋窒素分子の窒素―窒素三重結合の開裂及び再結合を可逆的に制御できることを見出した。
著者
川上 浩一 近藤 滋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

川上は、ゼブラフィッシュにおいては成魚のストライプパターン形成異常変異Hagoromoの原因遺伝子であり、マウスにおいては指形成異常変異Dactylaplasiaの原因遺伝子であるhagoromo遺伝子(Dactylin遺伝子)の産物の機能解析を.行った。すなわち、マウスDactylin遺伝子産物の生化学的解析を行い、特異的なターゲット蛋白質をユビキチン化し、蛋白質分解経路へ導く働きをするSCFユビキチンリガーゼの構成成分であることを明らかにした。近藤は、ゼブラフィッシュストライプパターン形成を制御する普遍原理の研究をさらに発展させた。縦じまと横じまをもつ近縁な熱帯魚種間でのパターン変化を説明する新しい理論を考案し、簡単なパラメーターの変化でパターンが変化しうることを証明した。これは、熱帯魚の体表面のストライプパターンが、「反応拡散システム」で作られるという近藤の従来からの仮説を強く裏付けるものである。
著者
山崎 好裕
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1993

博士論文