著者
井上 克己 山中 将 増山 知也 成田 幸仁
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

歯車の損傷は大きい経済的損失をもたらし,人命に直接関わる事故に繋がる恐れがある.したがって,そのリスクマネージメントは極めて重要である.一方で,エネルギー消費の低減やリデュース設計のため,歯車装置には小型軽量化と長期信頼性の確保という,相反する要求が科せられている.これに応えるために,使用状態における歯車の損傷確率を評価し,信頼性を考慮した寿命を推定することが不可欠である.本研究は,平成16年度から3ヵ年にわたり,浸炭歯車へのリスクマネージメントの適用を目指して以下の項目を実施した.1.材料中の介在物分布から寿命を推定するシミュレーション法の開発2.歯車試験に基づくシミュレーション法の妥当性の確認3.損傷確率を考慮して浸炭歯車の伝達荷重と寿命を評価し保証する方法の確立.最終年度である今年度は,浸炭歯車のピッチング強度を推定する方法の確立を目的とした研究を行った.歯面の損傷事例に関するこれまでの報告を精査し,面圧強度を律するクライテリオンとして,材料中の介在物に加わるせん断応力とモードIIの応力拡大係数の2種類を導入した.また,かみ合いによる歯面上の負荷点の移動に基づいて歯の応力分布を計算する有限要素プログラムを発展させ,ピッチング強度とピッチング発生位置をシミュレートするためのプログラムを開発した.このプログラムを用いてピッチング強度シミュレーションを行い,クライテリオンとしてせん断応力が適することを明らかにした.シミュレーションの結果,これまでの損傷事例報告に近いピッチング強度が得られた.この成果は近く学会発表する予定である.
著者
倉元 直樹
出版者
東北大学
雑誌
教育情報学研究 (ISSN:13481983)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.113-124, 2005-03

様々な機会に北米の大学入学者選抜の実情に関する訪問調査を行ってきた。今回、UVAの訪問では、アドミッション・オフィスの実際の諸活動の視察を目的とした。その結果、選抜委員会、大学説明会、キャンパス・ツアーに参加することとなった。競争選抜的な米国の大学の典型であるが、新入生の入学者選抜は早期専願選抜と一般選抜の2種類で、書類選考となっている。大半は機械的に合否が決まる。今回、観察が許された選抜委員会は、特殊なケース、すなわち、合格基準に達しないが、即不合格とできない者が対象であった。うち、2例について、まとめた。大学説明会には30名ほどの参加者があった。そのほとんどが父兄同伴であった。キャンパス・ツアーは約1時間掛けて徒歩でキャンパス中心部の主だった場所を見学して回るという企画であった。選抜委員会は主観的な議論が印象的であった。広報活動はわが国の大学の方が進んでいる部分もあるとの印象を受けた。
著者
室井 努
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.87-98, 1994-09-30

幕末・明治期の河竹黙阿弥の歌舞伎脚本の言語の性格をみるために、「〜ます」の音便等による語形変化を調査した。全般的には旧語形を用いており、南北以来の類型を踏襲しているが、明治期の作品には「なさいます」「下さいます」の使用階層が登場し、その一方で「ございます」の登場が遅れるなど、他の後期江戸語資料でみられるような、各々の変化の時間差を反映した事象も確認できる。
著者
斎藤 靖二
出版者
東北大学
雑誌
東北大學理學部地質學古生物學教室研究邦文報告 (ISSN:00824658)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.55-67, 1966-03-30

The Paleozoic System distributed in the Setamai district, southern Kitakami massif, is classified on the ba-5is of rock facies as follows; Toyoma Formation Permian Kanokura Formation Sakamotozawa Formation ~Unconformity~ Nagaiwa Formation Onimaru Formation Carboniferous ~Unconformity~ Odaira Formation Arisu Formation Orikabe Formation The Orikabe, Arisu, and Odaira Formations are composed chiefly of "schalstein" and black slate. The acidic to andesitic pyroclastics intercalated in the Orikabe Formation indicate the former existence of volcanic activities. The Arisu Formation and the lower part of the Odaira Formation are composed mostly of andesitic pyroclastics, which decrease in thickness upwards to the middle part of the Odaira Formation. This shows that intense volcanism was periodic during deposition of those formations. The formations other than mentioned above do not show such intense volcanic activity. The Paleozoic System of this area is folded and faulted into blocks and thus their structures are complicated. The Hizume-Kesennuma tectonic line which extends in NNW-SSE direction is situated in the western part of the area and the eastern margin is defined by the grandodiorite which metamorphosed the sedimentaries in contact ther with. The most striking feature of the geology of this district is the structural differences between the Carboniferous and the Permian Systems. This unconformity was discovered by Minato (1942) at the base of the Permian Sakamotozawa Formation in the Setamai district who said that it represents the "Setamai folding" of thee Late Carboniferous. The folding axes of the Carboniferous System trend nearly N-S, whereas that of the Permian System is generally NNW-SSE in direction, being parallel with the Hizume-Kesennuma tectonic line. The Permian System is distributed in the northeastern, southeastern and central parts of the district and along the tectonic line. In the central part, in general, the Permian strata form a large-syncline, with NNW-SSE trend plunging to the south and parallel with the tectonic line. On the other hand the Carboniferous System which is restricted in distribution to the eastern side of the tectonic line, is developed on the outerside of the large-syncline. In the east of Komata it occurs in the Permian System as a block uplifted by faulting. The Orikabe Formation is distributed along the western wing of the syncline extending from Orikabe to Okuhinotsuchi in north to south direction though it is separated into several blocks by faults. The Arisu Formation is developed on the outerside of the Orikabe Formation which follows the syncline. The Odaira Formation is distributed generally farther to the outerside than the lower formations though it is directly overlain with unconformity by the Sakamotozawa Formation at the west of Mt. Odaira, and is bordered by the Onimaru Formation on its outerside. Concerning the Carboniferous System it seems that each of the formations is developed on the westward and eastward sides of the central part of the area in ascending order, and all of them are covered with unconformity by the Permian Sakamotozawa Formation. Furthermore, the Carboniferous System sometimes develops a large-anticline and gently dipping fluted homoclines, features which cannot be seen in the intensely folded Permian System. It seems that these evidences reflect not only the lithofacies but also the geologic structures of the Carboniferous System before the deposition of the Sakamotozawa Formation. The differences of the geologic structures between the Carboniferous and the Permian Systems, as mentioned above, are the results of the "Shizu folding" and the "Setamal folding" of Minato (1942). Therefore it is supposed that a large-anticline with axis of nearly N-S trend might have been formed and denuded in the Setamai district before the deposition of the Sakamotozawa Formation. The geological structures must have been fairly complicated, but concerning the details more precise investigation must be undertaken.
著者
大関 真之 一木 輝久
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

機械学習アルゴリズムの多くは勾配降下法に基づき、その都度パラメータを更新する。その更新に際して極小の谷に落ち込むことがしばしばある。その回避のために熱揺らぎに相当するガウスノイズを導入する、シミュレーテッドアニーリング法、さらには量子揺らぎを導入する量子アニーリング法が物理学サイドからは提案されている。現在投稿中の論文は、深層学習における量子揺らぎの導入によってもたらされる効果の検証を行ったものである。量子揺らぎの導入により、トンネル効果によって極小の谷を超える効果を期待することはもちろんであるが、有限の量子揺らぎにより、谷の中における谷の形状の探索が可能であることが判明した。この形状の探索により、機械学習アルゴリズムの性能指標として最も重要な汎化性能が向上することが判明した。数値実験として極めて汎用的なオープンデータセットについて検証を行ったところ、良好な汎化性能を獲得した。この汎化性能の起源について、解析的検討を行ったところ、極小の周りの揺らぎをガウス分布の形で取り入れており、MM勾配降下法を採用すると、エントロピー勾配効果法として知られる海外の有力グループの手法を系統的に導出することができた。またこの手法は計算リソースを大半に割くため、MM勾配降下法だけでなく簡易的な手法にする他のタイプの近似を導入する可能性についても検討を行った。特に励起状態への遷移を考慮した離散的ノイズを導入すると、対応するフォッカープランク方程式に補正項が加わり、確率分布の形状による改善効果がもたらされることが判明した。この成果も突如得られたものであるため、最終年度である次年度に出版をする予定である。
著者
齋藤 智寛
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

後世の禅宗諸派で祖師と仰がれた六祖慧能の言行録『六祖壇経』と、その関連資料についての考察をおこなった。特に『壇経』に収録される詩歌に着目することで、本書の成立問題と、本書の「心」や「本性」に関する考え方を検討した。その結果、『壇経』の散文部分と詩歌の部分とがしばしば不整合であり編集の痕跡を残すこと、「鏡の臺」や「心地」などの比喩表現が同時代の禅僧とはややちがった『壇経』独自の心性論を反映していることが明らかになった。
著者
岩田 美喜
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、18世紀のイギリス演劇に描かれる「非標準的な英語」を喋る人物たちに焦点を当て、ことばを通じた地理的/政治的/社会(階級)などによる〈他者化〉の現象を探るものである。18世紀は英語の標準化が進んだ時期であり、演劇という文芸ジャンルはそれ以外の英語を用いる者を「周縁」として前景化するはたらきを持っていた。だが、本研究ではさらに一歩踏み込んで、周縁的存在とされるアイルランド人劇作家たちが自ら差異化のシステムを助長するような作品を書いたケースを分析し、また日本における言語を通じた差別化の問題を比較文化的に論じるなど、一枚岩的には成り得ない「言葉と差別」の実相を明らかにした。
著者
永松 謙一
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

脳外科手術における脳機能局在同定を、簡便に網羅的に行うためのスクリーニング方法として、脳表を赤外線カメラで撮影して脳の活動に伴う脳表温度変化をとらえるという、リモートセンシング技術を応用した新たな手法の実用化を試みた。本研究期間内には安定して脳活動部位を検出・同定することは出来なかったが、今後の研究への足がかりとなると思われた。
著者
鎌倉 慎治 越後 成志 鈴木 治 松井 桂子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

種々のリン酸オクタカルシウム(OCP)・コラーゲン複合体(OCP/Col)を用いてその骨再生能について検討し、(1)OCP/Colは細胞の増殖や接着を促進し、(2)小型動物の埋入試験でOCPの含有量に依存して骨再生能が向上し、生じた新生骨の骨質は経時的に増強し、正常骨組織に匹敵する力学特性を示すこと、(3)大型動物での種々の埋入試験によってその十分な骨再生能を確認し、これら一連の成果によって世界初のOCP/Colを用いた臨床研究を実現するに到った。
著者
酒井 聡樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

これまでの研究では、集団間で送粉者が異なることによって、花の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因でも変化しうるのではないだろうか。1.昼夜:昼夜で送粉者が変化することがあるため。2.花齢:花齢が進むにつれて、訪花要求量(残存胚珠・花粉)が減少するため。本研究では、これらの昼夜・花齢によって花の香りが変化するのかどうかを量・質に着目して調査し、それが雌雄繁殖成功に与える影響を明らかにする。質のデータを付け加え3年分の結果を報告する。【実験方法】ヤマユリ(ユリ科・花寿命約7日)を用いて以下の調査を行った。1.香りの時間(昼夜・花齢)依存変化 2.送粉者の昼夜変化 3.繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行い、雌成功:種子成熟率・雄成功:花粉残存数を比較)【結果】1.昼に比べ夜の方が香りは強くなり、花齢が進むにつれて香りは弱くなる傾向にあった。時間によって組成比は様々に変化したが、最も類似度が高かったのは夜の香り.同士を比較したものだった。2.昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。3.雌成功・雄成功共に、昼夜での違いはなかったが、雌成功は昼夜どちらかの送粉者のみで十分だったのに対し、雄成功は昼夜両方の送粉者に訪花される必要があった。ヤマユリの花の香りが夜に強くなるのは、暗闇によって減少する視覚効果を補うためであり、昼夜両方の送粉者を呼ぶという戦略をとっているのは、主に雄繁殖成功を高めるためではないかと考えられる。
著者
松崎 寛
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.75-86, 1994-09-30

日本語の音配列上の制約は漢語や外来語を受け入れてきた歴史とともに変化してきており、語種区分と出現位置の制約との間には密接なつながりがある。本稿では『分類語彙表』収録語3万語の定量的データをもとに和語・漢語の音配列規則を検証するとともに、新たに生じつつある外来語の音配列規則について考察する。
著者
青山 夕貴子
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

海鳥散布プロセスの検証〈付着メカニズムの解明〉海鳥散布プロセスの検証の一部として、種子の付着がおこるのは巣材に種子が含まれているからではないかという可能性に注目した。海鳥が巣材として用いる植物体に種子が含まれている場合、単に繁殖地にある植物種が付着するというだけでなく、海鳥の種による巣材選好性によって散布される植物種に違いが生じると考えられる。また巣材に接している時間は長いため歩行中の接触だけでは付着しない種子も付着する可能性がある。クロアシアホウドリ、オナガミズナギドリ、アナドリ、カツオドリの巣材を分析した結果、すべての海鳥種の巣から多様な植物種の種子が検出された。特に地上繁殖種であるクロアシアホウドリとカツオドリの巣には多様な植物種の種子が含まれており、捕獲調査でこれらの種の羽毛から検出されている植物種の種子はすべて巣材に含まれていることが分かった。一方オナガミズナギドリやアナドリのような巣穴繁殖種の巣材は比較的少数種の種子しか含まれていなかった。海鳥散布プロセスの検証〈海鳥による陸地利用〉海鳥が島間移動をすることを確かめるため、父島列島および母島列島周辺の島に海鳥がとまっているかどうかを海上から観察した。その結果、特にカツオドリは頻繁に繁殖地以外の陸地を利用していることが分かった。このことは、少なくともカツオドリは頻繁に島間移動を行っており、種子を島間散布する能力があることを示している。海洋等フロラ成立過程の再検討〈付着散布可能な種子の解明〉海鳥によって付着型種子散布をされる植物種をリストアップするため追加的な捕獲調査を行った結果、昨年度までの調査では検出されなかったケツメグサやタツノツメガヤの種子が見つかった。これらの種子は非常に小さいため昨年度までの調査では見落とされていた可能性がある。1.5~2mm以下の小型種子は海鳥の付着散布に非常に適していると考えられる。