著者
尾畑 伸明 齊藤 公明 浦川 肇 日合 文雄 田崎 秀一 有光 敏彦 青本 和彦 千代延 大造
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,古典確率解析において'素'過程の役割を担っているブラウン運動とポワソン過程を量子ホワイトノイズ解析の枠組みにおいて統一し,従来の伊藤解析を拡張した。具体的な項目は以下のとおりである。(1)正規積ホワイトノイズ方程式。ホワイトノイズ作用素論の根幹にあるシンボルの理論を深化させた。それによって,拡張された確率微分方程式のの解の存在・一意性・滑らかさを詳細に調べた。(2)ホワイトノイズの高次冪とレヴィラプラシアン。ホワイトノイズの2乗とレヴィラプラシアンの関連を明らかにし,レヴィラプラシアンに付随する確率過程を直積分によって構成した。(3)複素ホワイトノイズ。シーガル・バーグマン同型をホワイトノイズ作用素に対して通用する形に拡張し,核型性に依存しない作用素シンボルの特徴づけ定理を証明した。作用素のユニタリ性の判定条件を証明し,正規積ホワイトノイズ方程式の解がユニタリになるための必要十分条件を導いた。(4)物理への応用。散逸過程を記述する種々の方程式の相互関係を組織的に研究し,数理的諸問題を明らかにした。フォック空間系列に関連して,特異なボゴリューボフ変換が現れるのを確認した。(5)代数的確率論からの視点。「量子分解」によるグラフの隣接作用素の漸近的スペクトル解析を確立させた。新しい例を構成し,極限分布のみたす必要条件を導いた。この制限を乗り越えて,q-変形ガウス分布を議論するための予備的考察を行うとともに,別のタイプの極限定理も証明した。
著者
大槻 憲四郎 藤巻 宏和 中村 教博 松澤 暢 三浦 哲 山内 常生 松沢 暢 三浦 哲
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

近い将来に危惧される宮城県沖大地震を予知するため、民間・地方自治体から深度1000m前後のボアホールと温泉を計10カ所前後借用し、遠隔自動受信による「深層地下水観測システム」を構築した。精密な水温・水位・ラドン濃度・炭酸ガス濃度を観測し続け、岩手・宮城内陸地震を含む7個の地震のpre-およびco-seismicな変動を捉えた。
著者
佐藤 大介
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、近世から近代移行期の奥羽両国における地域間交流を、地元に残された古文書史料の調査分析を通じて解明した。その結果、これまで存在が確認されていなかった新たな峠道の整備事例を確認し、その動きが地域のリーダー層を中心に国境や領主支配領域を超えた地域間連携によって実現していたことを明らかにした。さらに、このような民間の交通網整備が明治初年の東北地方の運輸政策の直接の前提となったことを解明した。
著者
渡辺 正夫 鈴木 剛
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

アブラナ科植物B.campestris(syn.rapa)の自家不和合性は、1遺伝子座S複対立系によって制御されており、S遺伝子の表現型が雌雄で一致したとき、自己花粉が拒絶され、受精に至らない。この現象は、柱頭上での自己・非自己の認識反応である。しかしながら、従来の研究が、S遺伝子を中心とした研究であったことから、S遺伝子の下流、つまり、SP11のシグナルをSRKが受容した後に機能するシグナル分子は、M遺伝子を除けば、ほとんど明らかになっていない。これまでの研究過程で単離したB.rapa自家和合性変異系統を材料として、自家不和合性系統との分離世代に対して、様々な分子マーカーを用いて、原因遺伝子単離を試みた。予備的な実験から、この自家和合性は、単一の遺伝子変異によるものではないことを明らかにしているので、QTL解析を導入することで変異を規定する原因遺伝子の数と存在位置を特定し、寄与率の高い遺伝子から単離を開始した。B.rapaに使用できる分子マーカーについては、SSRマーカーが種を超えても保存されていることから、SSRマーカーをベースとして、マーカー探索を開始した。さらに、ファインマッピングに利用されることが多いAFLPマーカー、シロイヌナズナマーカーとの同祖性の利用、国際コンソーシアムのアブラナゲノム情報の利用の可能性の検討を開始した。分離世代の表現型と分子マーカーとを組み合わせて、GTL解析を行い、染色体上のどのよう力の寄与が大きいかを検討する。その領域について、シロイヌナズナ、アブラナゲノム情報とリンクさせることを開始した。以上の実験を開始して数週間後に、本研究が廃止決定なったことから、研究を中止した。
著者
長尾 大輔 玉井 久司 喜多 英敏 田中 一宏 岡崎 文保 斎藤 幸恵
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

非球形粒子として雪だるま型あるいはダンベル型の異方性複合粒子を 合成した。本複合粒子は、粒子を形作る有機ポリマーと、そのポリマー内部に埋め込まれた球無機成分に外場応答性を与えれば、外場に応答する異方性複合粒子も合成できる。このような特徴を有する異形複合粒子に対して磁場、電場等の外場を適切に 印加すると、異方性粒子が向きを揃えた状態で集積することを顕微鏡観察により実証した。
著者
雪江 明彦
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究においては, 以前完成させた結果を出版することが一つの目的だった. 直近に完成した三つのプレプリントのうち二つは, 今回の研究期間中に出版することができた. 三つめは改訂中である. その結果を得る過程において, ジョルダン分解の概念を拡張する可能性に気がついた. それを遂行するのが, もう一つの目的であった. それはプレプリントという形では実現していないが, 研究は進行していて, 近い将来プレプリントになる予定である.
著者
磯部 彰
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

明清時代以来、宝巻は民間秘密宗教の経典として見られて来た。そして、反体制の出版物であったがゆえに、原刻本は多く禁書とされたため、写本や清末民国の重刻本が残るにすぎず、出版文化史からは研究しにくい分野であった。しかし、実際に、中国やアメリカに残る明代の宝巻を調査すると、古宝巻は教派系と呼ぶ民間宗教経典と故事系と称する民間文学作品に大別され、明代前期以前は教派系宝巻が主流であったことが判明した。本計画研究の、前半2年間は、明代及び清初の教派系宝巻の原刻本の所在調査とその書誌研究に重点を置き、従来知られてはいなかった『普覆週流五十三参宝巻』という黄天道の教派系宝巻を発見し、その内容及びその製作者が華北の宣府(宣化県)出身で、出版は北京城内にあった経舗の一つ、党家に依託したことを明らかにした。後半2年の研究では、明刊教派系宝巻を刊行した版元の性格について分析を行なった。明代の宝巻は、かなりの種類が北京城内で出版され、版元は党家などの経舗が受け負い、施主は弘陽教の宝巻などが巻頭に記すような皇妃・宮女、皇親・官僚、或は、地方の地主や郷紳などが資金を提供しつつ、各教派の宗教活動を支援していたらしいことがわかった。経舗では、北蔵などの官版も印刷を受け負っていたので、宝巻と官版宗教経典とは版本としての体裁も似通うか、同類に属していた。つまり、版元から宝巻の性格を考えた時、明代から清初にかけて、経帖装の教派系宝巻は、王朝の出版統制の網にはかからず、禁圧されることになるのは、清の雍正時代以降のことであった。
著者
石井 光夫 鈴木 敏明 倉元 直樹 荒井 克弘 夏目 達也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

・本研究は,中国,韓国,台湾,香港,シンガポールなど,いわゆる中国文化圏に属する東アジア諸国・地域を対象に,大学入試の多様化という視点から,その制度や改革動向を調査分析したものである。・我が国が過度の受験競争などへの対策として「選抜方法の多様化」「評価尺度の多元化」を方針の下に大学入試改革を展開してきた経緯から,同じような問題を抱え,改革を試みているこれらの国・地域の大学入試と我が国のそれとを比較検討することによって,我が国の入試改革に参考となる視点を得ることが本研究の狙いであった。・本研究では,実地調査や文献調査によって1)一般選抜における選抜方法・判定基準,2)特別選抜(推薦入学や我が国のAO入試に類似する大学独自の選抜等)における選抜方法・判定基準,3)高等学校との連携協力(広報活動,高大連携活動)のそれぞれの項目を柱に,政策方針,制度改革等のあらましを把握したのち,とくに「入試の多様化」という観点から,改革の背景や経緯,改革の具体的措置,個別大学の入試実態等を明らかにするとともに,各国・地域における共通性や特徴,問題点などを整理分析した。・報告書においては,とくに入試多様化を精力的に進める中国,韓国,台湾について,その共通点と相違点を比較分析し,我が国入試改革にとっての新たな視点をいくつか提示した。結論としては,我が国及びこれらの国・地域では同じような動機・目標を持って入試の多様化を進めており,多様化の度合いにおいては我が国は進んでいるとみられるものの,学力の担保,公平性確保のための情報公開になお課題をもつことを指摘した。また,我が国の入試改革にみられない「教育格差・社会経済的に恵まれない層への配慮」といった観点を韓国や台湾などの例によって指摘した。
著者
志柿 光弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では米国との関係におけるプエルトリコ、日本との関係における沖縄という二つの事例について、「一定の地理空間を歴史・言語・文化的な同質性の基盤として有するが、独自の主権国家を形成することはせず、歴史・言語・文化的同質性の範囲を越えたより大きな主権国家内にとどまり、あるいは統合されることを選択している人間集団が構成する政治単位」としての「国家内地域」という概念を措定し、これを上記の事例に適用し、その有効性の検証を試みた。プエルトリコについては、地理的空間を基盤に持っていること、アメリカ合衆国とは明らかに異なる歴史的・言語的・文化的特性を有していること、しかし、分離独立を支持する住民は少数であり、アメリカ合衆国の主権下に止まることを住民は望んでいることから、「国家内地域」概念が有効性を持つと考えられる。また、沖縄については、地理的空間を基盤にしており、日本本土とは異なる歴史的・言語的・文化的特性を有しているが、明治維新以来の同化政策の結果、その差異はプエルトリコの場合ほどには顕著とは言えない。しかし、分離独立の可能性は持っており、「国家内地域」概念の適用は可能である。何れの事例についても、「民族」や「エスニック集団」という概念では、現状を十分に説明できないが、「国家内地域」概念を導入することによって、より客観的で冷静な理解が可能となる。
著者
掛川 武 長瀬 敏郎 中沢 弘基 関根 利守 長瀬 敏郎 中沢 弘基 関根 利守
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、初期地球の海洋に隕石が衝突し、そこでアミノ酸が生成され、そのアミノ酸が地球内部で重合し、やがて生命に進化したことを実験的に検証する課題である。隕石の海への落下実験に成功し、世界で初めて衝撃環境でのアミノ酸生成に成功した。地殻内部での高温高圧条件でアミノ酸重合にも世界で初めて成功し、タンパク質前駆体のペプチドを生成した。
著者
首藤 伸夫 三浦 哲 今村 文彦
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

標準的には、津波は海底地震にともなって発生するものとされており、その初期波形を断層パラメーターに基づいて計算するのが現在の一般的な手法である。しかし、断層運動と海底地盤の変動の大小とに一定の関係が存在するという保証はない。(1)2枚の断層からなる1983年の日本海中部地震では、断層運動から推定される津波と現実の津波の間に矛盾があった。その最大の難点は、現実の津波が深浦地点で約2分、能代辺りで約10分早く到達することである北断層では主断層と共役である方向に副断層の存在した可能性があり、これを考慮すると深浦への到達時間は説明できた。南断層では、通常の地震計では記録できない地盤変動が生じたとすると能代周辺の津波到達時間を説明できた。しかし、この時、何故この第1波が能代の検潮記録に記録されなかったかの疑問が残る。当時の写真から第1波のソリトン波列への発達が確認され、検潮所の水理特性により記録されないことが確認された。(2)1992年のニカラグァ津波では、陸地で感じられた地震動が震度2(気象庁震度階)であった。津波発生のメカニズムを検討した結果、地震動を伴ってはいたが、津波地震とするのが適当であることが判った。(3)1993年の北海道南西沖地震で発生した津波の内、北海道西岸を襲った津波第1波は、その襲来が早かった。断層位置から発生した津波は、現実の津波より5分ほど到達が遅い。断層と海岸の間で、地震とは直接関係の無い津波発生機構があった事が強く示唆された。(4)地震動を伴わない津波発生の内、犠牲者3万人を越えると言われている1883年クラカトア島陥没による津波発生を再現した。発生箇所での急激な陥没を不安定を起こさずに計算できる手法を開発した。
著者
鴨池 治 金崎 芳輔 秋田 次郎 吉田 浩 北川 章臣
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本年度の研究では、以下の3点の実績が得られた。1.はじめに、確定拠出年金の導入は実質的には退職金の前払いであり、その導入を決断した企業は年功賃金制のような賃金後払いの方法で従業員の勤労意欲を引き出すことを(部分的に)断念したに等しい。こうした企業は勤労意欲を引き出す手段として効率賃金を採用する可能性が高いが、この方法が広汎に採用されると、労働市場は高賃金が支払われる内部市場と低賃金が支払われる外部市場に階層化し、全く同じ能力を持つ労働者の生涯効用に格差が生じることになる。2.つづいて、厚生労働省のホーム・ページから2000年8月末に「確定拠出年金企業型年金承認規約代表企業一覧」を入手した。このリストにある1,993の企業から株式公開企業520社、さらに東証1部上場企業337社を抽出した。次に、日経テレコン21の記事検索により401k年金導入の記事が掲載された企業93社を探し出した。最後に、東洋経済新報社の株価CD-ROMより新聞掲載前後の株価データを入手し、401k年金導入のニュースに対して、株価(企業価値)がどう変化するかのイベント・スタディを行った。その結果、確定拠出年金導入の公表は当該企業の株価を高める効果は確認できなかった。3.最後に、『家計調査』の2002年から2006年までの貯蓄・負債編の公表集計表のデータを用いて日本における確定拠出年金制度の家計貯蓄に与えた効果を回帰分析した。年金型貯蓄/総貯蓄比率を被説明変数とした回帰では、勤労者でより所得の大きな世帯で拠出限度額の改定が総貯蓄に占める年金資産額を増やす可能性が示された。しかし、総貯蓄/所得比率を被説明変数とした回帰では勤労者でより所得の大きな世帯で、拠出限度額の改定が総貯蓄を侵食している可能性が示されている。いずれのケースにおいても、所得の小さな世帯においては確定拠出年金制度が年金型貯蓄および、総貯蓄を増加させているという効果は確認できなかった。
著者
佐藤 隆之
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

わが国では、被疑者取調べをめぐって、これまで、被疑者の黙秘権に焦点を当て、その侵害の有無によって、その適否を判定する方法が採用されてきた。しかしながら、どのような場合に被疑者の意思が圧迫され、また、緊張・疲労の結果、供述に関する意思決定が歪められたといえるか自体、必ずしも判断が容易ではなく、他方で、裁判例に対しては、明示的に取調べを拒否しなければ、被疑者の同意があるとされているのではないか、という批判も向けられるなど、被疑者の権利・自由の現実的な侵害のみに基づく従来のアプローチが、十分機能していない状況にあったといえるように思われる。本研究は、そのような状況を踏まえ、被疑者取調べの適正さを確保するために、取調べの方法・条件を客観的な準則として明確化し、それからの逸脱の有無・程度を基準にして、その適法性を判定する手法を採用する可能性を探ることを目的とするものである。この点、本年度の研究では、在宅被疑者の取調べに着目して、被疑者の同意がある場合にも、その取調べに応ずるか否か、供述をするか否かを決定する自由に対する配慮という観点から、その限界が導かれ得ることを示した。従来、宿泊を伴う取調べや徹夜の取調べに関する最高裁判例は、被疑者の供述の自由を、捜査上の必要と比較可能な利益と捉えていると批判されてきたが、取調べに応じるという被疑者の同意が有効である場合にも、なお取調べを規律する余地があることを認めているという新たな理解を提示できたことは、取調べ準則制定の可能性を拓く重要な基礎と位置づけることが可能だと思われる(被疑者の意思の自由に対する配慮という観点は、逮捕・勾留されている被疑者の取調べの場合にも同様に妥当すると考えられる)。
著者
竹田 雅好 桑江 一洋 塩沢 裕一 土田 兼治 田原 喜宏
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

ディリクレ形式の理論は, 対称マルコフ過程を解析するための重要な道具として発展してきた. ディリクレ形式の理論はL-2理論であり, そのため特異なマルコフ過程を扱うことができる. しかし, マルコフ過程論はある意味でL-1理論である. そのギャップを埋めるために, マルコフ過程に強フェラー性や緊密性を仮定することで, 半群の増大度に対するL-p独立性を示した. 時間変更で生成される対称マルコフ過程に対してL-p独立性を応用することで, 加法汎関数の指数可積分性や大偏差原理を証明した. 熱核評価がポテンシャル項の摂動で保たれるための必要十分条件も与えた.
著者
鈴木 正敏
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

トリチウム影響の総合的理解やリスク評価に資する基礎的検討を行なうために、トリチウム水と比べて生物学的半減期が長く、トリチウム内部被ばくの長期化に関与する有機結合型トリチウム(OBT)の持続処理による細胞影響を検討する。核酸以外にもアミノ酸、脂質、糖に由来するOBTを幅広く解析に利用することでトリチウム影響に関連する知見を包括的に収集し、トリチウム水処理による細胞影響との比較によってOBTが及ぼす細胞影響への寄与についても検討する。
著者
市江 雅芳 関 敦仁 関 和則 半田 康延 藤居 徹 山本 澄子 大澤 治章
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、治療的電気刺激が片麻痒患者の歩行能力を改善するメカニズムを、筋音図・筋電図・動作解析を用いて明らかにすることが当初の目的であった。しかし、測定用マイクロフォンの質量が大きく、慣性による雑音が生じることが判明した。これは根元的な問題であるため、片麻痺患者の歩行動作時筋音図測定は断念せざるをえなかった。そこで、臨床研究は治療的電気刺激の効果確認に留め、測定システム更新後の布石として筋音図の基礎的な研究を行うこととした。1.2チャンネル表面電極式電気刺激装置を用いて、慢性期脳卒中患者5名に対し治療的電気刺激を行った。刺激部位は、大腿四頭筋および総腓骨神経で、交互刺激を1回15分間、一日2回行った。治療期間は約3ヶ月であった。その結果、歩行速度に改善が認められ、膝伸展力にも増加が認められた。2.筋音図計測の基礎実験を健常被験者で行った。大腿直筋および外側広筋、内側広筋を対象に、筋電図および筋音図の特性の違いを検討した。その結果、筋電図よりも筋音図において、膝の回旋肢位による違いが鮮明に現れることが判明した。また、筋電図は収縮力の増加に伴い比例的に積分筋電図が増加する現象が確認されたが、筋音図は、最大膝伸展の80%において、積分筋音図が減少する現象が認められた。3.次に等尺性筋収縮時における筋音図と筋電図の周波数特性を比較検討した。膝関節伸展時の大腿直筋の筋活動を、筋質図と筋音図により測定し、これらをFourier変換とWavelet変換を用いて周波数解析を行った。その結果、筋電図は筋の電気的活動そのものをとらえているが、筋音図は筋コンプライアンスの変化に伴う筋の固有振動周波数の変化をとらえていることが判明した。4.今後、質量の少ない筋音図測定装置を開発すれば、脳卒中片麻痺者の歩行が治療的電気刺激によって改善する筋に関する要因を明らかにすることが出来ると考えられる。
著者
市川 聡
出版者
東北大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

悪性リンパ腫の発生・進展と免疫機構の間には密接な関連が想定され,一部の悪性リンパ腫では自然退縮が報告されているが,具体的なメカニズムは明らかとされていない.viableな検体を必要とする分子生物学的解析において,自然退縮を来したリンパ腫の解析は困難であったが,今回,申請者はホルマリン固定後の組織検体を用いたデジタルオミックスアナライザー遺伝子発現解析により,リンパ腫自然退縮例における遺伝子発現の差異を明らかとすべく研究を計画した.自然退縮に関連するとして同定できた遺伝子群は,有力な予後予測因子となり得るのみならず,長期寛解を誘導できる新たな治療標的になると期待される.
著者
田宮 元
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成28年度に完成した遺伝子×遺伝子ならびに遺伝子×環境相互作用のための高次元変数選択法ソフトウェアを、実際のゲノムコホートデータをテストデータとして適用して、この手法の妥当性を検証し、適宜修正を行ってきた。具体的には、前向きゲノムコホートで取得された健康診断データを応答変数として横断的解析を行い、次に、疾患二値データや前向きデータへの適用を順次試みた。手順の詳細は以下のとおり。1)環境暴露データの取り込み。宮城県住民を対象とした東北メディカル・メガバンク機構の前向きゲノムコホートで取得されていた環境暴露データについて、各変数のコーディングを行った。2)ゲノムワイドSNPジェノタイプデータの取り込み。この前向きゲノムコホートで取得されていた100万程度のSNPsのジェノタイプデータを取り込んだ。特に、SNPのクラスタリングエラーが相互作用検索時に深刻な偽陽性を生むことが知られているので、各SNPのクラスタリングに関するQCデータを利用し、低いクオリティのデータを事前に排除出来る工夫を行った。3)相互作用解析の実行。上記のデータをテストデータとして高次元変数選択法ソフトウェアにかけ、横断的な健康診断データを応答変数にして遺伝子×遺伝子ならびに遺伝子×環境相互作用の検索を実施した。これによって検出された相互作用候補を、機能的情報などから詳細にアノテーションを行い、データベース化した上で、追試研究に提供した。4)疾患二値データ(罹患・非罹患)の利用。上記集団において前向きに取得された疾患データや健康診断データを利用し、これらの応答変数に対して効果を持つ相互作用を検索し、上記の手順を繰り返すことによって、疾患感受性に寄与する相互作用候補をリストアップした。
著者
森田 果 尾野 嘉邦
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

日本の法学研究では,実証研究が少しずつ出現し始めてはいるものの,観察データに依拠したものが主で,実験データを利用した実証研究は少ない。そこで本研究は,実験データに基づいた実証研究を展開することを主要な目的とする。米国においては,どの裁判官がどの判決文を執筆したかが明らかなことから,裁判官の属性や当事者の属性が判決にどのような影響を与えるのかについての研究が盛んである。これに対し,日本では,このようなデータが存在しないことから,同様の研究が難しい。そこで,本研究では,日本においても実施可能な,実験を活用した司法政治の実証研究の手法を探っていく。
著者
牧野 能士 熊野 岳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

石垣島においてヤエヤマサソリ、青森県浅虫においてウミグモのサンプリングし、研究室・飼育施設にて飼育を行う。再生過程を観察するため、幼体を対象とした胴体の切断を実施する。胴体切断後、切断部の再生過程を顕微鏡で毎日同時刻に観察する。特に、脱皮時において再生芽様な組織が観察されるか注視する。ウミグモとサソリの胴体を切断前後の遺伝子発現比較解析を行い、再生過程においてHRJDの発現量上昇が誘導されるか調査するとともに、ウミグモとサソリ再生過程で発現量が変動する再生関連遺伝子候補を網羅的に同定する。