著者
尾園 絢一
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

インド最古の文法書『パーニニ文典(アシュターディヤーイー)』を残した文法学者パーニニ(紀元前4世紀)が定式化する言語を古インドアーリヤ語(いわゆるサンスクリット)の歴史的展開の中に位置づけることはインド学における長年の課題であった。そこで課題の達成を目指して,本研究はパーニニが教える動詞語幹形成法,特に重複現在語幹形成法を古インドアーリヤ語の古層(ヴェーダ語)の実例と照合し,文法学者パーニニがどの文献にみられる語形・語法を念頭において文法規則を立てたのかを調査,同定した。
著者
〓 永湖
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-74, 1994-09-30

従来の談話分析は、研究の対象となりやすい話し手の表現を中心に行われた。本稿では、談話の構造で、聞き手の行動の中に見られる談話を潤滑にするための要素の一つである「相づち」を分析する。その結果、相づちの表現は「聞いているという信号」「理解しているという信号」など六つの機能を持っていることが分かった。また談話の流れの中で果たす相づちの機能に重点をおくことによって、新たな談話の型を見出し得ることを示した。
著者
瀬谷 貴之
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

本年度の研究は、解脱上人貞慶が勧進状を起草し、その弥勒信仰から、強く関与したとされる興福寺北円堂鎌倉再興事業の実態について主に明かにした。まず、解脱上人貞慶関係の基本史料(『讃仏乗抄』『祖師上人御作抄』『解脱上人小章集』など)について調査・再検討した。その結果、北円堂再興造営は、貞慶により南都仏教に宣揚・確立された、釈迦(舎利)=弥勒という思想・信仰に基づくものであることがわかった。その理由としては、次ぎの(1)〜(3)が挙げられる。(1)北円堂本尊弥勒仏の頭部には、唐招提寺舎利を込めた弥勒菩薩像を納めた厨子が、板彫五輪塔に挟まれ納入される。(2)弥勒仏脇侍の無着像は宝筐とされる布に包まれた持物を持つが、これは本来舎利瓶とみられる(これについては同じく脇侍の世親像についても言える可能性が高い)。(3)北円堂それ自体の特徴として、屋根に頂く大きな火炎宝珠形があるが、これも当時の宝珠形舎利容器と共通する。そして、これら北円堂再興造営に、釈迦・舎利信仰の強い影響がみられ、造形に反映されているという事実は、現在、興福寺南円堂に安置される鎌倉初期の四天王像が、本来の仏師運慶一門によって制作された北円堂像ではないかとされる学説の有力な手掛かりとなる。なぜなら同四天王像のうち多聞天像は、その持物である舎利塔をことさら高く掲げる。また一般に多聞天(北方天)は、陰陽五行説に基づき身色を黒色系とするが、現南円堂像は、その身色を白肉色とすることを特徴とし、これも当時の南都仏教界において、貞慶によって唱えられていた舎利の色を「白玉色」とする思想に影響を受けたものとみられる。以上のことから、現南円堂四天王像は・貞慶の思想的影響を受けた北円堂像の蓋然性が濃いのだが、その詳細については今後の研究課題としたい。
著者
三村 均 柴田 雅博 秋葉 健一
出版者
東北大学
雑誌
東北大學選鑛製錬研究所彙報 (ISSN:0040876X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.182-190, 1989-03-25

The chemical stability of pollucite (CsAlSi_2O_6) has been studied under hydrothermal conditions in relation to the leachability of cesium. At room temperature, the leachability of cesium from pollucite in the neutral pH region was very low. Under hydrothermal conditions (100 and 200℃) in sodium or potassium chloride solution, cesium leached out due to an ion exchange reaction forming new phases such as analcime (NaAlSi_2O_6) and leucite (KAlSi_2O_6) through an isomorphous substitution mechanism. In the presence of calcium or magnesium chloride, the pollucite phase recrystallised with the formation of anorthite (CaAl_2Si_2O_8) and clinochlore (Mg_5Al_2Si_3O_<10>(OH)_8) at the surface of the original pollucite and with the cesium leaching into solution. (Received November 7,1988)hydrothermal stabilitypolluciteleachabilitycesiumion exchangeanalcimeleuciteisomorphous substitutionrecrystallizationanorthiteclinochlore.
著者
長谷川 公一 青木 聡子 上田 耕介 本郷 正武
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

「持続可能な都市形成」が議題設定され、NGOメンバーなどの間で社会的な認知が進み、政策決定過程にフィードバックし、形成・遂行された政策がどのように中・長期的な波及効果をもちうるのか。本研究は、ソーシャル・キャピトルをもっとも基本的な説明変数として、環境NGOメンバーと地域社会に対するその社会的効果を定量的に分析した。都市規模・拠点性などから仙台市、セントポール市(米国)に拠点をおく環境NGOの会員を対象に行った郵送調査結果の分析にもとづいて、仙台市の環境NGOのソーシャル・キャピトル的な性格・機能の強さに対して、セントポール市の環境NGOは、政策提案志向型の専門性の高い団体を個人会員が財政的に支援するという性格が強く、ソーシャル・キャピトル的な性格は弱いことが明らかとなった。
著者
森 勝義 高橋 計介 尾定 誠 松谷 武成
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

1.マガキ液性因子の同定マガキの生体防御機構に関わると推測される液性因子を生化学的に特定した。まず、血リンパから210kDaのサブユニットからなるホモ二量体の420kDaのフィブロネクチンの精製に成功した。また、血リンパに少なくとも3種類存在すると考えられたレクチンのうち、約630kDa(22kDaと23kDaのサブユニットからなるヘテロポリマー)のEレクチンと約660kDa(21.5kDaと22.5kDaのサブユニットからなるヘテロポリマー)のHレクチンを精製した。さらに、殺菌因子として消化盲襄から17kDaのリゾチーム分子を精製し、食細胞による食菌後の殺菌に強く関与するミエロペルオキシダーゼがマガキ血球で初めて同定された。2.各因子の特性と細胞性因子との関係マガキフィブロネクチンはヒト、ニジマスフィブロネクチンとは血清学的に交差性はなかったものの、共通の細胞認識領域を持つことから、創傷部への細胞の誘導接着への積極的関与が推察された。Eレクチン、Hレクチンを含むそれぞれの活性画分に細菌に対する強い凝集作用が認められると同時に、凝集活性の見られない他の多くの細菌への結合も確認され、レクチンの幅広い異物認識機能が明らかになった。しかし、細菌への結合とそれに続く食作用のこう亢進との関連で期待された、オプソニン効果は見られなかった。精製された消化盲襄由来のリゾチームは、その特性からこれまで報告してきたリゾチーム活性を示した分子であり、外套膜由来リゾチームも同一成分であると考えられた。一方、至適pHが異なり、従来のリゾチームが示したのとは異なる細菌に対しても細菌活性を示す成分が消化盲襄に局在し、リゾチームとの関係に興味がもたれた。リゾチーム活性は血球には認められていないが、食菌後の殺菌を担う次亜塩素酸合成を仲介するミエロペルオキシダーゼの存在が証明され、細胞性の殺菌機構の一端が明らかとなった。
著者
増田 聡 村山 良之 佐藤 健
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、自然(災害)科学の研究成果として公開が進むハザード情報が、「行政やプランナー、地域住民からどのように受け止められ」、「今後の都市計画制度や防災まちづくりに如何に反映されるべきか」について、地震災害を中心に、重層的リスク・コミュニケーションをキー概念に据えて、人口減少期を迎えた我が国の市街化動向を踏まえた検討を行い、(1)地域コミュニティにおけるリスク・コミュニケーションと行動変容の課題と、(2)自治体内リスク・コミュニケーションを核とする防災都市計画の実態を明らかにした。
著者
メジアニ ヤーヤムバラク
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

トランジスタ内に生じるプラズラモン共鳴を利用したテラヘルツ(THz)帯動作デバイスの研究開発が活発化している。プラズモンの共鳴周波数は電子密度、ドリフト速度、およびゲート長によって定まる。プラズモン共鳴は、THz帯電磁波(THz波)放射源となるとともに、プラズモンの非線形性によって、注入THz波によるプラズモン励起によって整流効果が得られることが理論的に示されている。本研究では、小型集積化プロセス技術が利用可能な半導体材料を用いて開発した回折格子状HEMTをTHz帯電磁波の検出器として利用し、実験的にTHz波検出とその構造・材料依存性を明らかにした。
著者
才田 いずみ INMAN David HARRISON Ric 松崎 寛 川添 良幸 大坪 一夫 HARRISON Richard
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

1995〜1996年度の2年間,メルボルン大学の上級日本語学習者と東北大学日本語教育学専攻の学生との間で,コンピュータ通信による日本語の「文通」を行った。メルボルン側は授業の一環だが,東北側は研究協力やボランティアという形で参加者を得た。両年度ともメルボルンからのメールの働きかけに東北側が応えるという方法で進めた。原則として2週間の日本語授業を1まとまりとして,1限めに読解、,2限めにコンピュータラボでの関連ビデオ試聴やインターネットでの関連新聞記事読解,3・4限でディスカッション,という活動を二巡したところで日本に電子メールを送る。95年度は,東北から返事が来たら,その要約を日本語で書いて提出する,という課題も与えられたが,96年度は学習者のレベルが95年度よりも低めだったため,返信の要約は課されなかった。書き送ったメールは成績評価の対象となった。この活動による学習効果については,日豪双方の学生からの面接調査,日本語の伸びについての学習者の自己評価,担当教師の所見に加え,学習者の通信文の分析から検討した。95年度の学習者の場合,かなりの上級者だったので,日本語で文章を綴ることに対する慣れとコミュニケーションスキルの獲得が促進されたこと,日本語を読む速度が早くなったことなどが自覚された。学習意欲の維持・発展の面でも、真のコミュニケーションを取り入れたことが,通常の作文等の活動に比べ積極的な効果をもたらすことがわかった。また,メールの文章の分析からは,誤用に対しての即効は期待できないながら,化石化して矯正しにくくなっていると見られた誤用が徐々に改善されていく例や,内容的に深いコミュニケーションを行おうとして普段よりも誤用が多くなる例が観察された。後者の学生の場合、通りいっぺんのことを書き連ねるタスクでは力を伸ばすことができないほど能力が高いのだが,そうした学習者には、本プロジェクトのような活動は格好のものと言える。一方,1996年度の学習者は,日本語能力の点で,1995年度に比べて1ランク下に位置する者が中心だったため,95年と同じような形態で通信活動をさせたのでは,タスクの負担が大きくなりすぎて,動機を高めるよりもむしろ負担感とフラストレーションを与えることになると判断された。そこで,1学期の途中からは,1.クラスで勉強したテーマに関する感想,2.そのテーマに関するオーストラリアの事情の紹介,3.東北大学の学生に対する質問,という3つの部分でメールを構成せよ,というガイドラインを学習者に与えることにした。これによって学習者たちは,メールの談話上の構成を整える負担から解放されることになった。こうした枠組みは,逆に言えば,学習者が思うところを自由に綴る機会を制限することにもなるが,96年度の学習者の場合は,たくさん書くということに慣れない時期に,ガイドラインがあったことはよかったようである。学習者レベルが異なると,この通信活動が学習者に与えた実質的・精神的な効果とが大きく違ってくる。まだ詳しい分析は完了していないが,かなり上級のレベルでは,読み手がいて返信をくれるということが「書く」という大きな負荷を乗り越える原動力になりうるが,中の上の学習者にはそれだけでは不十分だと言えよう。95年度の特徴の1つで,豪日双方の参加者に大変好評だったインターネットによる「テレビ会議」も,96年度は人数の点で実施不能となったのだが,96年度の学習者たちにこそ,テレビ会議のような動機維持に貢献する副次的な活動が必要だったのかもしれない。96年度には「漢字Emailer」の機能を強化し,写真や映像が送受信できるようなシステムを作成したが,試用段階での問題点が解決したのが12月だったため,実質的な運用に入ることができなかった。それほど日本語力のない中級学習者の場合には,リアルタイムの「テレビ会議」よりも,繰り返し自分のモニター画面で見ることができる「漢字Emailer」によるパッケージのほうが有効であろう。97年度からは,学習者レベルに対応した通信タスクの与えかたに工夫を加えていくと共に,こうしたプロジェクトの推進力となりうる方策のデザインについても検討を重ねる予定である。
著者
Nurhadryani Yani Maslow Sebastian Yamamoto Hiraku
出版者
東北大学
雑誌
Interdisciplinary Information Sciences (ISSN:13409050)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.211-222, 2009-08
被引用文献数
4

In recent years the Internet has changed dramatically. The 'Web 2.0' with its new technologies such as Twitter, Facebook, or YouTube is now an important tool for social-networking with significant implications for both, the online and offline realms of society and politics. At the same time, while the development of new information and communication technologies (ICTs) has advanced in an unprecedented speed, the spread of such technologies was accompanied with significant political changes in Indonesia since 1998, marking the collapse of the Suharto-regime and the move towards a democratic governance system. After more than three decades of authoritarian rule, 'democracy 1.0' has marked a fundamental reform process creating new political parties and allowing the free expression of opinion. While ICTs played a visible yet limited role in this transition process towards a mature democratic system, the role of 'Web 2.0' technologies is increasing, especially in election times facilitating the formation of public opinion while connecting citizens to the political process. In systematically analyzing the development of ICTs in Indonesia this study wishes to explain the role that new information technologies play in the political process of this country since 1998, while paying special attention to the most recent parliamentary and presidential elections of 2009. In studying the role of ICTs in political transformation processes and democratic development represents a widely unexplored question in the scholarship addressing the political developments in Southeast Asia. Therefore, this study attempts to address this important new field of research through taking a closer look at Indonesia while applying new theoretic insights generated from the discussion of the concepts of e-government, e-governance, and e-democracy and the links that bind them, online and offline.
著者
松崎 寛
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.83-94, 1993-09-30
被引用文献数
1

外来語音韻の定着度は表記の問題と大きく関係する。本稿では17種の辞典類の外来語表記を調査し、ゆれをグラフ化した。その結果、ある拍が外来語音寄りか日本語音寄りかは語によりかなり異なることが数量的に再確認された。音韻認定の問題は語例により結論が大きく左右する。少数の語例から一方的な論を展開するのは危険である。
著者
長田 礎
出版者
東北大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2022-08-31

2019年のニッケル酸化物超伝導の発見は、高温超伝導機構の解明に向け、新しい道筋を与えた。しかし、ニッケル酸化物で起きる超伝導は、これまで正孔ドープした化合物に限られており、電子ドープ型化合物の合成報告はまだない。これは、母物質において、ニッケルがすでに Ni1+という異常低原子価状態をとっており、直接的にAサイトを4+イオンで部分置換することが困難であることに起因する。本研究では、酸化物ヘテロ構造による界面電荷移動を利用して、ニッケル酸化物の電子ドープを試みる。
著者
中村 健二
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は,磁気変調型磁気ギアとモータ/発電機を融合した,磁気ギアードモータ・ジェネレータの開発を目的として,解析および実験の両面から種々の検討を行った。まず,アキシャルギャップ型とラジアルギャップ型の比較では,磁気ギアードモータの場合には偏平構造であってもラジアルギャップ型の方が性能が良いことが明らかになった。これは本来デットスペースとなるギア内側の空間に,モータを配置することができ,空間利用率が向上したためである。次いで,ラジアルギャップ型磁気ギアードモータの試作試験を行った。その結果,試作した磁気ギアードモータのトルクは要求トルクを上回ることが実証された。
著者
長岡 龍作
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、美術を、何かの代替物を意味する「表象」として捉え、超越者と人間との交感を意味する「感応」との関わりを探求した。そのために、(1)仏の感応そのものの表象、(2)仏の感応を呼び起こす場、(3)仏の感応を呼び起こす場の表象、の各柱を設けて調査ならびに分析をおこなった。(1)については仏像・絵巻・宗教説話、(2)については寺院や経塚の立地、(3)については庭園や屏風という具体的な事例を調査し、その成果に則して、美術の宗教的な機能の特性についてあきらかにした。
著者
深澤 百合子 土谷 信高
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

エミシの鉄の実態とは古鉄リサイクルによる鉄の再生、再利用を特徴として行われていたということができる。古代においても古鉄は広範囲に流通し、古鉄流通網がすでにあった可能性がある。古鉄を再生加工し、日常生活の必需品に作りかえる技術を持っていた。密貿易あるいは交易において、それを仕切る有力者が存在し、古鉄は再分配されている可能性も考えられる。また、鉄は禁止される以前から流失しており、規制、禁止をしても鉄は抜けて流失するということがエミシ社会でも生じており、考古学資料を解釈するために禁鉄モデルは有効であることが検証できた。
著者
野家 啓一
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

マッハの「物理学的現象学」は、物理学の体系からあらゆる形而上学的カテゴリー(実体、因果、絶対運動など)を排除し、世界を形作る原的所与である感性的要素の複合体を思考経済の法則に則って記述することを通じて物理法則を探究しようとする試みである。この構想を支えているのは、19世紀の科学研究を領導したヘルムホルツ流の「力学的自然観」への根本的批判であり、マッハのニュートン力学に対する概念批判は、アインシュタインの相対性理論に道を開くと同時に、科学哲学の分野においてはウィーン学団による論理実証主義の成立を促し、後の分析哲学の展開に先鞭をつけた。他方でマッハの「現象学」概念はフッサールに影響を及ぼし、彼の超越論的現象学の形成に寄与した。両者に共通するのは、根源的所与である「現象」の純粋記述に徹するという方法的態度である。しかし、マッハの物理学的現象学は、あくまでも自然的態度を基盤とした「世界内在的」現象学にすぎなかった。フッサールはマッハの立場を生物学主義として批判し、「現象学的還元」の手続きを導入することによって,超越論的現象学の確立を至った。以上のことから、マッハの物理学的現象学は、一方では「言語論的転回」を通じて分析哲学へと変貌し、他方では「超越論的転回」を経てフッサールに始まる現象学運動に道を開いたと言うことができる。その意味で、マッハの業績は今世紀の哲学を代表する二大潮流の原点に位置するものであり、20世紀哲学史はこのような観点からマッハを軸にして書き換えられる必要がある。
著者
山崎 仲道 中塚 勝人 小田 幸人 後藤 芳彦 橋田 俊之 土屋 範芳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

水および二酸化炭素を金属鉄あるいはニッケルとともに水熱条件にさらすと水と二酸化炭素の両者から酸素が金属に引き抜かれ、結果として水から活性に富んだ水素が発生すると同時に二酸化炭素も活性化する。この両者が反応して有機化合物が生成する。この原理を確認し、平成14年度では反応条件と生成物の解析から中性条件では、一酸化炭素を経由するフィッシャートロプシュ反応を主反応とし、メタンからヘキサンまでのアルカン類の生成を確認した。また酸性条件では酢酸を中心としたカルボン酸の生成を、また金属のかわりにマグネタイトを還元剤として使えば、エタノールの生成をそれぞれ確認した。工業化を考えた場合、メタンおよびカルボン酸を高収量で得られることを見出した。工業化では焼却炉あるいは発電所からの廃ガスを直接利用することになる。14年度では反応のプロセスを探求すると同時に工業化のための大量処理を仮定した流通系の連続処理プロセスの小型テストプラントを作成し、非平衡下での反応を調べた。バッチ式オートクレーブを使った平衡系の反応、いいかえれば理想系での実験に比べて流通型オートクレーブは、自然界での現実の反応に近く、また大量処理のための工業化プロセスの主体をなすものであるが、科学的には未踏領域ともいわれる複雑反応系である。ここでは加熱パイプの内部に旋盤による屑状態の鉄を置き、これに塩酸と二酸化炭素を200℃加熱下で流通させ、生成有機物の気体・液体を相互に分離し、それぞれを分析する方法をとった。マイルドな水熱条件下で水起源の活性水素をつくり、二酸化炭素を同時に活性化せしめ、炭化水素を合成、反応条件による反応選択性の可能性を見出し、ついで収量・収率から流通式の非平衡反応で工業化の可能性を提示するという一連の計画を遂行し、流通式非平衡装置の設計・製作および装置の特性試験を行い、それを使って流通系による工業化の可能性を得ることができた。
著者
鈴木 睦 山下 善之
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

アミノ酸の連続分離濃縮を目的として、イオン交換樹脂の移動層型向流接触装置を作成し、その濃縮分離特性を数値シミュレーションおよび実験によって検討した。アミノ酸はその等電点より低いpHにおいては陰イオンとして存在し、陽イオン交換樹脂に吸着される。そこで、移動層内に塔頂から塔底に向かってpHが大きくなるようなpH匂配を形成しておくと、塔頂に向かって行くフィード液中のアミノ酸は、等電点を越えたところで陽イオン交換樹脂に吸着され、下方に運ばれてpHが大きくなると脱着する。この過程が繰り返される事により、塔内のアミノ酸はその等電点に近いpHを持った位置に濃縮してくることになる。まず濃縮特性を調べるために、L-ヒスチジン水溶液をフィードとし塔内のアミノ酸濃度の経時変化を高速液体クロマトグラフィで測定した。この際、フィードの流量は一定としたが、固相の流速は塔の中心部が目的のpHになるように制御した。測定結果をみると、ヒスチジンの濃縮が見られ、その位置も数値シミュレーションとも一致していた。次に分離特性を検討するために、L-ヒスチジンとL-シスチンとの2成分のアミノ酸を含む水溶液を用いて同様の実験を行なった。実験の結果、2種類のアミノ酸はそれぞれカラムの違う位置で濃縮し、分離可能なことが確認された。また、各成分の濃縮位置は、数値シミュレーションの結果とも一致した。