著者
近藤 清兄
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.80-91, 1991-09-30

韓国人留学生の日本語には様々な癖が見てとれる。漢字音・漢字語についてこれを見たとき, 複数の誤りが重なりあうことによって聞き手の了解を著しく妨害しうるとの教訓を得る。本論文では誤りのタイプを詳細に分類し, 具体例の観察を通じて日本語教育の場での対処法をも考えていこうとする。
著者
田中 英道 森 雅彦 松本 宣郎 吉田 忠 鈴木 善三 岩田 靖夫 池田 亨 芳野 明
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

宇宙の体系、天体の考察は当然歴史的な変遷の中で、人間の外界に対する思想行為として、深く芸術に影響を与えてきた。芸術そのものが近代のように、科学、哲学と分離している時代と異なり、一体化した時代にあっては、宇宙観、天体観がそこに表現されざるを得ない。例えばカトリックの総本山であるヴァチカン宮の、ミケランジェロによるシスティナ礼拝堂天井画には『旧約聖書』の「天地創造」の場面が描かれているが、これは基本的には「ユダヤの宇宙論」に基づいている。第一に指摘すべきことは聖書の記録が「宇宙」という観念を知っていたかどうかであるが、世界は有機的統一体ではなくて別の現象の集まりに過ぎず、それらの共通の創造主の意のままに制御されている。つまり聖書の世界にはユニヴァースやコスモスという言葉はない。理論的にはそのような形で芸術に表現されることになる。ミケランジェロの場合、神が闇と光を創造し、月と太陽をつくり、人間を生じさせた場面を描いたとき、そこには宇宙論的な統一体はないことになる。確かに創造された人間の姿は、決して、最初から宇宙の中で調和のとれた存在として描かれているものではない。しかし『創世記』(1-31)で天地創造の話の終わりに「はなはだ善かりき」という使い方があって、宇宙の優位性を語っている。聖書の世界像ははっきり地球中心的であるが、ギリシアの天体観は様々な形をとったが、太陽中心説でさえ存在した。これらの知識が総合されて芸術に含まれている。このような宇宙観、天体観がまずどのようなものであったかを根本的に検討することが、我々の研究課題であった。単に西洋のキリスト教的観念だけでなく、ユダヤの宇宙論、ギリシャの天体観などを多角的に検討し、またイスラム、インドさらには中国などの宇宙観と比較し、それぞれがどのような共通性と相違があるか、研究成果の中で取り入れることが出来た。様々な分野の分担者がそれをまとめる作業を行った。
著者
静谷 啓樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目標は、Diffie-Hellman公開鍵配送方式を破る問題(以下この問題をDHと書く)と離散対数問題(以下DLPと書く)の相互関係を明らかにすることである。このテーマに関して現在までに分かっていることは、次の2点である。(i)DHはDLPに多項式時間Turing帰着する。(ii)特別な場合または特別な仮定のもとではDLPはDHに多項式時間Turing帰着する。しかし、一般にDLPがDHに帰着するかどうかは不明である。すなわち、一般にはDHとDLPの等価性は知られていない。本研究では、主に標数pの有限素体上でDHとDLPを考察し、DHとDLPの中間に入るような難しさをもつ2つの鍵共有方式:Open Diffie-Hellman scheme及びParity-Sensitive Diffie-Hellman schemeが存在することを明らかにした。特に後者を破る問題をPSDHと書くと、PSDHについては次が成り立つ。(1) DHはPSDHに多項式時間で帰着する。(2)DHを解く能力があれば、PSDHは誤り率2^<-q(|p-1|)>で解ける。ここにqは多項式である。(3)PSDHは多項式時間でDLPに帰着する。(4)DLPは平均的多項式時間でPSDHに帰着する。要するにDHとDLPの間の難しさのギャップは、(2)の誤り率という尺度で表現できることを指摘した。これはDHとDLPの関係の解明という20年余りの未解決問題に対する一つの成果である。この結果は国際学術論文誌上で公表すべく準備中である。
著者
三島 敦子
出版者
東北大学
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.93-104, 1996-09-30

仙台市立国見小学校の国際教室におけるフィールドワークを通し、外国人児童にとって理解しにくい「学習言語」を調査した。漢字や片仮名が読めないことが教科学習の大きな障壁になることがわかった。教科書の中に何度も出ている語でも理解できない語があった。教科書にルビをつける、片仮名を指導する、「学習言語」を指導するなどの支援が考えられる。
著者
堀 元 秋田 次郎 三宅 充展 鴨池 治 芹澤 成弘 林山 泰久
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1)非家父長的利他性、すなわち、他者の判断基準を尊重した上で、他者が望ましい状態にあることを自らも望ましいとする他者への配慮、に由来する効用の相互依存関係の分析を非定常モデルへ拡張した。2)最適な自己資本比率規制を分析するために、自己資本比率が銀行収益に及ぼす効果を検討し、銀行の期待自己資本収益率と銀行の破綻確率の間にはトレードオフが存在することを証明した。3)アロンソ型離散土地市場モデルを分析し、競争均衡を計算するための有限アルゴリズムを導出した。4)地球温暖化問題に対処する「京都メカニズム」が京都議定書でとりまとめられたが、京都メカニズムには先進国と発展途上国の利害対立等、多くの問題が指摘されている。京都メカニズムの問題のうち特に争点となっているCDMについて分析を行った。5)環境を利用することから生じる総価値を補償的偏差および等価的偏差の概念で定式化し、総価値が利用価値および非利用価値の加法分離形で表現できることを示し、利用価値は、直接的利用価値および純間接的利用価値に分離可能であることを示した。6)制度・経済システムといったものに付随する「本質的な不確実性」は、伝統的なリスクによる分析を越えるものとして、ナイト流不確実性として捉えることが出来る。不確実性が高まれば留保価格が低下する、というこれまでのフレームワークでは説明できなかった主張を証明した。7)所有と経営が分離している企業とオーナーが経営上の意思決定を行うことの出来る企業を比較すると、役員に対して金銭的報酬を通じて株主の利益を追求するインセンティブが与えられているのは後者であるということを実証した。8)メカニズムに戦略的虚偽表明を防止するという条件を課した場合、純粋交換経済モデルにおいて、パレート効率性と最小消費保証条件の間にトレードオフが存在することを証明した。
著者
大北 全俊
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

HIV感染症を主とするpublic healthに関する事象について、その隠れた政治哲学的枠組みを明確にするとともに、今後の議論のための哲学的・倫理学的枠組みを構築することを目的とする研究である。結論として、public healthに関する哲学的・倫理学的議論の枠組みとは、個人と集団それぞれの位相、および規範的な議論の位相とpublic healthの権力作用を記述する位相、これらを多層的に併せ持つものであることを明確にした。
著者
麦倉 俊司 高橋 昭喜 松本 和紀 隈部 俊宏 隈部 俊宏
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

磁気共鳴画像法撮影では、直径50 cm程度の非日常的かつ狭小な装置中で、30分間以上体動しないでいる必要がある。閉所恐怖症あるいは若年小児患者では安静が保てないため呼吸、脈拍モニター装着下で、鎮静薬、静脈麻酔薬で鎮静をはかって検査を施行されている。最近開発された密封ゴーグル型スクリーンとヘッドフォン装着下にDVDを視聴すれば、MRI装置の中にいるという視覚、聴覚情報を遮断でき、閉所恐怖症あるいは若年小児もMRI検査を完了する事が可能となった。本研究からDVDバーチャル・リアリティーによって、薬物などによる鎮静が不要な「患者にやさしいMRI検査」となりうることが検証された。
著者
小野 哲也 池畑 広伸
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

環境中の変異原物質が少量づつ長期間にわたって働いた時のリスクが大量で1回作用した時に比べどのように変わるかを理解するために、マウスの肝臓と皮膚、睾丸のDNAへの突然変異誘発効果を指標として調べた。使用したマウスは大腸菌のlacZを含んだラムダゲノムDNAを導入されたMutaマウスを用い、変異原としてはX線と紫外線(UVB)を用いた。4GyのX線を1回照射してから16週後の突然変異頻度は肝で(12.76±2.12)×10^<-5>、睾丸で(13.26±3.22)×10^<-5>であった。同じエイジの非照射マウスの自然突然変異はそれぞれ(7.63±1.41)×10^<-5>、(7.14±1.07)×10^<-5>であったので誘発された分は5.13×10^<-5>、6.12×10^<-5>と計算された。一方、1回0.15GyのX線を週3回づつ、6ヵ月間(総計11.7Gy)照射後16週目でみた突然変異頻度は肝と睾丸でそれぞれ(17.36±5.01)×10^<-5>、(17.18±3.66)×10^<-5>であり、同じエイジでの自然突然変異頻度は(10.73±1.39)×10^<-5>、(9.06±1.04)×10^<-5>、で、誘発された量は6.63×10^<-5>、8.12×10^<-5>であった。これらの値から1Gy当たりに誘発された量を比較してみると少線量多数回照射では1回照射の時に比べ肝でも睾丸でも約45%に減少している。これは変異原に曝される時に少量づつを繰り返して行われた時のリスクは1回で曝露された時のリスクに比べ半減することを示唆している。しかもその量は肝でも生殖細胞でも変わらない。生殖細胞での値は以前にRusselらが数百万匹のマウスを使って得られた値である1/3にほぼ類似した値である。次に皮膚組織での影響を知るべく紫外線による突然変異誘発効果を調べた。0.5kj/m^2までのUVBは皮膚の紅斑を起こさず、しかも突然変異を誘発することを確認した。この線量を1日1回づつ4日連続して照射した所約250×10^<-5>の突然変異頻度が得られた。これは0.5kJ/m^2を1回照射した時の1J/m^2当たりの変異誘発率に比べると約70%であり、紫外線による突然変異誘発についても、分割された曝露は1回曝露でのリスクより少なくなることが示唆された。ただし、ここで行った実験は予備的なものであり、線量や曝露間隔などについてさらに検討する必要がある。
著者
三ツ矢 幸造
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

ヒトDNAに書き込まれた全遺伝情報は,新聞記事に換算するとおおよそ30年分にも及ぶ。このゲノムDNAは「生命の設計図」とも表現されるが,そもそも親から子へ,親細胞から娘細胞へと伝達される情報は,すべてDNAに書き込まれているわけではない。例えば,卵子には一束のDNA以上のものが含まれている。つまり,クロマチンには「遺伝暗号」あるいは「遺伝子コード」と表現されるいわゆる遺伝情報に加え,膨大なDNA情報が適切に利用されるための第2の暗号が隠されていると考えることもできる。これは,DNAメチル化やヒストンの化学修飾に代表される「エピジェネティックコード」とも呼ばれ,近年になって大変な注目を集めている。本研究課題においては、維持メチル化酵素であるDnmt1に結合能を有する新規のヒストンユビキチン化酵素(XNDs)を欠失したマウスES細胞とノックアウトマウスを樹立し、XND95を特異的に欠失させたES細胞だけでなく,胎生初期に致死に至るノックアウトマウス個体においても大規模な脱メチル化が認められることを明らかにした。また、母親と父親由来の遺伝子が区別されるゲノムインプリンティングが完全に消失することを明らかにした。このように、個別的かつ包括的なDNAメチル化状態とヒストン修飾の解析を精力的に進め、DNAメチル化とヒストン修飾の機能的な役割分担を明らかにすることにより,エピジェネティクスの分子基盤の本質に迫る大変に貴重な知見が得られた。
著者
高瀬 圭 太田 信 森本 玲 清治 和将 佐藤 文俊 芳賀 洋一 山内 清 佐藤 美帆
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

3DCTデータを基に、実際のカテーテル手技訓練の実用に耐える副腎内静脈分枝を含んだ実物大副腎静脈血管モデルが作成された。バイポーラーラジオ波焼灼針では、10-25mmの副腎腺腫は、3通りの穿刺パターンにて完全焼灼可能であることと、脂肪組織介在下での周辺臓器安全性が示された。IVR臨床治療を施行し、主要評価項目である血中および蓄尿中アルドステロンを正常化が得られ、研究当初の臨床応用目標が達成された。モデル解析にて医療経済的にも有利であるとの結果を得た。
著者
樺島 博志
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

前年度,ミュールハイム=ケアリッヒ事件の憲法判例を取り上げ,原発設置許可手続における市民の手続的参加権の保障が基本権保護義務の内容となりうることを明らかにした。本年度は,前年度の研究成果を公表し,さらに計画に従って考察を進めた。まず,憲法判例の前置手続として提起された行政裁判を検討した。この事件は,行政行為の執行差止の仮処分をもとめて争われたものであり,迅速手続であったからこそ,憲法訴願においては手続的参加権が主として争われ,実態的基本権侵害の存否について正面から判断は下されなかったものと考えられる。この行政裁判所の判決を検討したあとで,当憲法判例以降に係属したミュールハイム=ケアリッヒ原発関連の行政裁判に考察を進めた。同原発の設置に関する許可処分に対しては,複数の訴訟が提起され,下級審では,許可処分を適法と認めるものと,無効とするものとに,判断が分かれた。最終的には,連邦行政裁判所で無効が確定した。いずれの判断も,裁判所による原発設置の技術的評価にかかわっており,行政裁判において行政庁の判断を裁判所はどの程度尊重すべきか,逆に裁判所はどこまで技術的判断を下すことができるのか,という観点から判例を検討した。ドイツにおける実地調査は,本務との関係で当初の計画ほど十分に出来なかったが,年度末に近い二月に実施し,同事件に実際にたずさわったコブレンツ行政裁判所のルッツ判事にインタヴューを行うことが出来,ミュールハイム=ケアリッヒ原発問題について,事件の争点と全体状況に関して有益な知見を得ることができた。ドイツでの実地調査が遅れたこと,計画期間中に二度の転勤が重なったことから,最終的な研究報告をまとめるにはいたっていないが,判例の翻訳等,逐次Web上で公開する予定である(URL:http://www/law.tohoku.ac.jp/~kabashima/)。
著者
里見 進 末永 智一 藤盛 啓成 後藤 昌史
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究により、複数の微小組織サンプルの呼吸活性指数を15分以内に高精度で計測できる臨床応用可能なシステムを構築することに成功した。開発したシステムを活用することにより、糖負荷前後における分離膵島の呼吸活性の変動指数が移植後の膵島グラフト機能と有意に相関し、有用な移植前評価法となり得ることが判明した。さらに本システムは、新規膵島分離酵素剤や新規膵島培養デバイスの構築に極めて有用であることも明らかとなった。
著者
沼崎 一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、日本人男性とフィリピン人女性との国際結婚家庭を研究対象として、異なる文化を持つ夫婦が、それぞれの生まれ育った文化を持寄り、組み合わせて、どのような新しい日常生活文化(食生活、年中行事、親族関係など)を生み出しているのか、それをどのように子供たちに伝えているか、さらに、どのような影響を地域社会に与えているといった問題について、「モザイク文化」という視点から記述分析することである。本研究では、仙台在住のフィリピン人妻の会の女性たちが中心となって、仙台七夕祭「動く七夕」パレードに参加して演じている「フィリピン・ダンス」に注目し、これは、それ自体が複数の異なる文化要素を組み合わせた「モザイク文化」であると同時に、一つの新たなモザイク片として、仙台七夕祭を「モザイク化」し、さらに仙台と故郷とを結ぶフィリピン人親族ネットワーク文化をも「モザイク化」していることが明らかとなった。仙台という枠組のなかだけで考えるならば、「フィリピン・ダンス」は、フィリピン人妻たちにとってフィリピン人アイデンティティーの確認とフィリピン文化の呈示という目的のエスニシティの表出と捕らえることもできよう。しかし、それは一面的な把握に留まる。なぜならば、フィリピンと仙台とを結ぶ親族ネットワークの文脈においては、「同じ」ものが、国際結婚家庭というアイデンティティーの表示や日本文化の呈示という目的の二文化性・多文化性の表出でもあるからだ。「同じ」モザイク片が、異なる次元では、異なる意味を持ち、異なる役割を果たしているのである。
著者
堂浦 克美 逆瀬川 裕二 照屋 健太 逆瀬川 裕二 照屋 健太
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

プリオン病とアルツハイマー病では、難溶性蛋白質(プリオンとAβ)が脳組織内に沈着して神経細胞障害がおこる。インビトロ及びインビボにおけるアミロイド親和性化合物の構造活性相関解析研究を通じて、治療学の側面から両疾患に共通する病態発生のメカニズムの存在を検証した。その結果、難溶性凝集体としての物性は似ているものの、プリオンとAβでは凝集能や毒性に関与する立体的化学構造は異なっていることが明らかとなった。また、両疾患でアミロイド親和性化合物のインビボでの効果がほぼインビトロでの効果と相関しており、インビトロでの作用メカニズムの共通性から、プリオンとAβの産生や病態発生には共通なメカニズムがあり、アミロイド親和性化合物はこのメカニズムを抑制することにより治療効果を発揮しているものと考えられた。
著者
長根 篤子 畠山 寛彰 吉田 宏 丸茂 町子 三条 大助
出版者
東北大学
雑誌
東北大学歯学雑誌 (ISSN:02873915)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.125-131, 1986-12-01

顎顔面口腔領域における電撃痛・知覚麻痺・灼熱痛・穿刺痛・味覚異常・嚥下痛・痙攣など(以下知覚異常として記す)の訴えは, 日常の臨床において時折遭遇するものである。しかし, それらの病因は種々で診断が困難なことも少なくない。そこで, 今回, 我々は, 知覚異常の診断に関する基礎的データを得るために, 過去4年間に東北大学歯学部附属病院を受診した新来患者の中で上記の知覚異常を主訴とした患者111例につき, 主訴と病因との関連性を検討した。その結果, 111例中女性78例(70.3%)男性33例(29.7%)で, 電撃痛, 知覚麻痺各々32例(28.8%), 灼熱痛21例(18.9%), 以下穿刺痛, 味覚異常, 嚥下痛, 痙攣量の順であった。年齢別では50歳代が31例(27.9%), 60歳代が22例(19,8%), 40歳代が18例(16.2%)であり, 特に40〜60歳代の女性が54例(48.6%)であった。来院までの罹病期間は1年以上が47例で最も多く, 次いで1ヵ月以内が24例であった。部位別分類では味覚異常を除く各主訴とも複数の部位に症状が発現し, 全体では舌部, 頬部, 眼窩部, 口唇部に多発した。また111例中59例には心疾患, 胃腸病, 高血圧, 肝疾患, 貧血などの全身疾患が認められた。臨床診断は実に様々なものがあり, しかも不明の症例が21例(18.9%)あったことから, 器質的な異常のみならず心因的背景がある場合も考えられ, 診断の困難性が伺われた。
著者
佐藤 成 貝羽 義浩 橋爪 英二
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

血管吻合における自動吻合器開発を目指し、ステント型形状記憶合金と微小突起ステンレス板を用いた血管端々吻合法を考案し、動物実験にてその開存性、有用性を検討した。高さ70μm、直径30μmの微小円錐(300μm間隔)を有する厚さ60μmステンレス板を作成し梯子状の形態にした。Z字ステント型の形状記憶合金を人工血管に縫い付けておき、冷却し軟化させた後にシースに装填、吻合部に挿入後プッシヤーにて誘導し、加温復元させた。外周よりステンレス板を密着させて、微小突起で摩擦力を生じ長軸方向に十分な固定力を得られるようにした。ブタ大動脈(5頭)へ、中枢側吻合は当吻合法で、末梢側は手縫いで人工血管を移植した。吻合時間、4週例の開存性を検討した。遮断解除直後の吻合部からの出血は中枢側ではほとんど観察されず、末梢側の針穴からのものが多く、軽く圧迫することにより止血が得られた。平均吻合時間は、我々の考案した吻合法188.8±50.8秒、手縫い法848±77.8秒で、全例4週開存が得られ、吻合部に仮性動脈瘤などの異常所見は認めなかった。内腔は平滑で形状記憶合金はneointimaにて覆われ、ステンレス板は周囲組織に強固に密着していた。抗張力試験では、吻合直後で350g、350g、650g、吻合後4週例では2300g、2950gで、耐圧試験では、吻合直後、吻合後4週とも500mmHgの加圧で吻合部に異常をきたしたものはなかった。我々が考案した血管端端吻合法は、3分程度と短時間で施行でき、かつ、開存性、安全性も問題なく十分に有用と考えられた。
著者
日野 秀逸 吉田 浩 尾崎 裕之 関田 康慶 藤井 敦史 佐々木 伯朗
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、第1に高齢化社会に対応した福祉・経済社会システムの事例研究として、最も福祉水準が高い北欧のリーダー的存在であるスウェーデンを事例として取り上げた。ここでは、日本との対比もしながら、スウェーデンの1990年代改革を分析し、スウェーデンの福祉国家再生・発展における地方分権と協同組合の役割を検討した。第2に、高齢者福祉に関する地域モデルの構築に関し、具体的には宮城県の市町村の福祉財政に焦点を当て、介護保険制度における介護者の意識と実態に関する研究として、在宅サービス提供者に対するアンケート調査を行った。その結果、「介護の社会化」、「在宅サービスの市場化」などに介護者の意識が変化していること、介護サービスに関するニーズが変化していることなど、行動学の面から介護者の現状が明らかになった。第3に、福祉NPOの実態を調べるため、阪神高齢者・障害者支援ネットワークの事例を通してNPOにおける<市民的専門性>の形成について検討した。また、神戸のコミュニティ・ビジネスと社会的企業に関して、神戸市において、主として対人サービスを行うコミュニティ・ビジネスに関してフィールド・ワークを行った。その結果、神戸のコミュニティ・ビジネスが、幅広いソーシャル・キャピタルを基盤として成立している一方、行政委託への依存体質が強いことなどが明らかとなった。第4に、高齢社会における財政の役割を、財政社会学の観点から評価を行った。現代国家はいずれも憲法やその他の法律上では公共の福祉を尊重しているが、日本においては、福祉政策に適した財政システムと、現実の福祉政策との間に大きなギャップが存在する。こうした現象の説明として、新制度学派の説く制度の「補完性」原理は有益ではあるが、国家の相対的自律性を説明するには不十分である。ドイツ財政学から生じた「財政社会学」はこの点を既に指摘していた。深刻な財政危機が生じている現在の日本で、財政社会学の再評価は不可欠である。第5に高齢社会における世代間の不均衡の問題を定量的に検討するため、社会保障をはじめとした世代間の拠出、受給の状況、生涯純受給の格差について、所得再分配調査のデータに基づき世代会計の手法を援用して検討した。その結果、今後100年間の政府の財政収支を均衡させるためには、将来世代に現在世代に比して1.5倍あまりの一世帯当たり約4,900万円の追加的な負担が必要であるという結果も得られた。この世代間の格差を公平にするため、より早い時点で受益を削減する改革が将来世代に望ましく、2005年で改革する場合は、およそ35%の受益を削減すれば良いという結果が得られた。また2期間の世代重複モデルを用いて高齢化と財政政策、社会保障政策を動学的にシミュレートした結果によると、短期の減税、ベビーブーム世代の存在の中で高齢化、世代間所得移転政策の存在は、資本蓄積に大きくかつ長期のネガティブな効果を及ぼすことがわかった。
著者
三村 均 山岸 功 秋葉 健一
出版者
東北大学
雑誌
東北大學選鑛製錬研究所彙報 (ISSN:0040876X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-7, 1988-09-30

The selective removal of Cs and Sr from high-activity-level water (HALW) has been studied by the use of various zeolites. The rate of adsorption of Cs and Sr increased with a decrease in size of zeolite particles, and the adsorption reached almost 100% after 5 h and 10 h of shaking for Cs and Sr, respectively. High distribution coefficients of Cs (K_<Cs>=10^4〜10^5) were obtained in the solution/zeolite ratio (V/m) region of about 300 to 1000. The presence of sodium ion fairly affected the distribution of Cs^+ and Sr^<2+>, and K_d values decreased with increasing concentration of Na^+. While the presence of boron almost had no effect on the distribution of Cs ; high K_<Cs> values (K_<Cs>≧10^5) were obtained below 5000 ppm of boron. Distribution coefficients of Cs and Sr were also independent of the equilibrium pH in neutral and alkaline regions at the ionic strength of 0.1. The removal of Cs and Sr from simulated HALW was effectively achieved by the use of mixed zeolites, and the K_d value was 7.0×10^3ml/g at the mixing ratio of 48/52 of X/chabazite.high-activity-level watercesiumstrontiumadsorption ratedistribution coefficientboronmixing ratiomixed zeolite
著者
植木 貞人
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1990年11月の噴火開始以来実施してきた精密重力測定データには,地下のマグマの運動とは無関係な種々の"雑音"が含まれている.そこで,今年度は,これらの雑音の特性を解明し,その影響を定量的に評価するための研究をおこなった.具体的な内容は以下のとおりである.1.火山活動静穏期の重力変化を明らかにするため,1995年8月,重力計3台を用いて重力測定を実施した.2.このデータをも含めて,CG-3型重力計の感度係数の誤差を見積もった.その結果,CG-3型重力計の感度係数には公称値の1〜14x10^<-4>の誤差があり,個々の機械によって大きく異なっていること,G型重力計に比較して数倍誤差の大きなものもあることが初めて明らかにされた.このことは,火山地域のような重力差の大きな地域における測定では,使用する重力計が異なること100μgalにも達する測定差が生じるということを意味しており,重力変化を論じるためにはその補正が不可欠であることを示している.3.これまで溶岩ドームの成長による地形変化の影響を定量的に見積もってきたが,本年度は新たに,山麓での火砕流堆積物による谷の埋設,山腹でのガリ-の発達による地形変化の影響を,デジタルマップを作成して定量的に見積もった.その結果,山腹・山麓部の地形変化による影響は,測定誤差をやや上回る20μgal程度であることが判明した.4.地下水変動の影響を解明するために,地下水面自動測定システムを整備した.しかし,まだ実験中であり,実際の地下水変動データに基づくその影響の評価は,来年度の課題として残された.地下水変動の影響が定量的に評価できれば,地下のマグマの運動に起因する真の重力変化を抽出することが可能になる.