著者
小宮 正安
出版者
横浜国立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、数あるヨーロッパの都市の中でなぜウィーンのみに「音楽都市」というイメージが具わり現代に至っているのかというテーマについて、観光事業を切り口として文化史的にアプローチした。とりわけ研究の最終年度にあたる今年度は、包括として次の4点を明らかにした。・ ハプスブルク帝国は、統一ドイツの覇権を巡ってプロイセンと熾烈な競争を展開し、その際「ドイツ芸術の護り手」として自らの優位を広く知らしめるため、ドイツ美学の中でもとりわけ重んじられていた音楽に着目し、首都ウィーンを「音楽都市」としてアピールした。・ この流れがオーストリア共和国にも受け継がれた。共和国は、国のアイデンティティを確保し、観光立国として繁栄させるために、「音楽都市ウィーン」のイメージを広め、数多くの観光客を誘致することを必須の課題とした。・ 特に第二次世界大戦以降、共和国が自治権を取り戻し、中立国として再出発するに及び、「音楽」による平和的文化交流の場として「音楽都市ウィーン」のイメージがクローズアップされるようになった。さらに1960年代以降における観光産業の隆盛により、「音楽都市ウィーン」のイメージはさらに強固なものとなった。・ ただしマス・トゥーリズムヘの迎合一辺倒ではなく、利便性に富んだ資料館や図書館を作ったり、音楽をテーマにした企画展を開催したりと、専門家や音楽愛好家のニーズにも応える幅広い政策が、官民の協力によっておこなわれている。これは我が国の文化事業にとっても、重要な示唆となる状況に他ならない。
著者
西沢 昭男
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学教育紀要 (ISSN:05135656)
巻号頁・発行日
no.12, pp.110-123, 1972-10
被引用文献数
1

The purpose of this article is to treat, from different points of view, the revolutionary style of Debussy, and to show what place he occupies in the history of modern music. The writer of this aritcle wishes, firstly, to classify the characteristic aspects of Debussy's method of harmony and through his method of harmony, to reveal one of the techniques which enabled him to produce such sensitive and colorful musical effects. Secondly, the writer tries to explain how the classical, traditional theory of cadence had found a way of servival despite the great upheavals which had taken place in the world of modern music. Also how in the modern mothod of harmony, the control of the tune has become of secondary importance, while the principle of the overtone has still functioned. Lastly, the witer wishes, through an examination of the way in which Debussy solves the tune problem in his composition, to define the position of Debussy in the transitional stage between classical and modern music.
著者
小林 憲正 DEMARCLLUS Pierre
出版者
横浜国立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

分子雲中の星間塵アイスマントル中での有機物生成の検証のため,高エネ研で新規開発中のデジタル加速器を用い,模擬アイスマントルへの重粒子線照射実験を計画し,その準備を行った。星間塵アイスマントルでの有機物生成を調べる場合に問題となるのが,極低温環境で組成の既知のアイスを作製した後に,これに照射することと,その反応過程の追跡法である。アイスマントルを構成する分子としてH_20,CO,CH_3OH,NH_3などが主と考えられるため,種々の混合比のアイスを作るためのクライオスタットとガス混合機のデザインを行った。ガス混合機に関しては,この装置に用いる高精度のバルブや圧力計を選定し,購入,組み立てまでを行った。クライオスタットチャンバーに関しても,高エネ研において改造中である。アイスへの照射実験の予備実験として,東京工業大学のタンデム加速器を用い,想定される出発材料(一酸化炭素,アンモニア,水)の混合気体に3MeV陽子線を照射した時のアミノ酸生成について定量的に調べた。照射後,生成物を酸加水分解した後,陽イオン交換HPLC法によりアミノ酸の定量を行った。気相での陽子線照射実験においては,一酸化炭素・アンモニア・水蒸気および一酸化炭素・アンモニアの混合気体のいずれも,照射開始後すぐに霞の生成が見られた。このことは,高エネルギー粒子線の作用により高分子態の有機物が気相中で直接生成することを示唆するものである。各照射生成物の加水分解物中に、多種類のアミノ酸が検出された。アミノ酸の生成量は照射量に比例した。このことからも,混合気体からのアミノ酸の生成は,従来想定されていたようなストレッカー反応のような多次的反応ではなく、照射により直接気相中で固体のアミノ酸前駆体が生成したと考えられる。この結果は,アイスへの照射実験においても照射により直接,高分子態の有機物が生成する可能性があることを示唆する。
著者
四方田 千恵 白水 紀子 赤松 美和子
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

「台湾文学における日本表象の相互性について―日本・韓国・中国文学を視野に入れて―」というテーマのもと、台湾から楊智景(中正大学)、黄美娥(台湾大学)などの気鋭の研究者を迎え、3年間で3回の国際ワークショップを行った。さらには日本統治時代を舞台とした甘耀明の大作『鬼殺』の翻訳を刊行し、甘耀明を迎えての国際シンポジウムも行い、研究成果を社会に還元した。その他、7回の国際学会を含む国内外の学会で合計13回の報告を行うなど研究成果を積極的に公開した。
著者
鈴木 拓央
出版者
横浜国立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

本研究では、外出時に薬の飲み忘れや飲み過ぎを検知するため、スマートフォンに内蔵されたセンサーを使用して食事や睡眠の未来の状態を予測するアルゴリズムを開発した。加速度センサーやジャイロセンサー、環境光センサー、タッチパネル等で計測したデータは、主成分分析により互いに相関のない特徴データへ変換したあと、ベイジアンネットワークへ入力した。しかし、目標とした正答率70%を達成することはできず、上記のセンサーだけでは食事の状態を正確に予測できないことを明らかにした。
著者
松本 尚之
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、民政移管後のナイジェリアを事例とし、アフリカにおける民主主義の実践について、政治人類学の視点から考察した。特に、民族・宗教・地域対立を乗り越え政治参加の平等性を保証する方策として、同国において重要視されている「輪番制」と「均等配分制」という2つの政治慣習について、フィールドワークに基づく分析を行った。連邦政治から地方政治に至るまで、2つの政治慣習の実際の運用を調査するとともに、それら運用に対する人々の解釈・言説を収集した。それによって、国民の融和を目的とした政治慣習の可能性と問題点を分析し、「輪番制」と「均等配分制」が政治的競合における秩序産出に果たす役割について論じた。
著者
西 栄二郎
出版者
横浜国立大学
雑誌
Actinia : bulletin of the Manazuru Marine Laboratory for Science Education, Faculty of Education and Human Sciences, Yokohama National University
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-6, 2003-03-31

A new species of chaetopterid polychaeta, Spiochaetopterus manazuruensis n. sp., is described from sandy mud shallow bottom of Manazuru, Sagami Bay, Pacific coast of Honshu, Japan. This is the fifth species of Spiochaetopterus to be described from Japan. The species is described and figured and differentiated from other species of the genus with which it might be confused. Based on SEM observations and ones in the literature, the specialized A4 (chaetiger 4 of anterior region) chaeteae are compared with those of other 14 named and unnamed species of Spiochaetopterus. In this feature, in its small size, and in having only 2 middle segments, S. manazuruensis n. sp. appeares to be most similar to northern European S. bergensis Gitay, 1969, but differs from it in the presence of a larger, irregular brown pigmentation on each side extending from the prostomium to the peristomium, and in details of the structure of the A4 modified chaetae.
著者
元井 直樹
出版者
横浜国立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究課題では、人間の代替作業を実現する人支援システム構築のために様々なタスクを実現可能にする遠隔・自律融合人支援システムの開発・研究を行うことを目的とし、研究・開発を遂行した。本課題において得られた成果としては、主として次の三点が挙げられる。(1)道具を用いたタスク実現のための運動制御手法および内界センサと外界センサのセンサフィージョンによる未知道具のパラメータ推定手法を確立した。(2)遠隔・自律融合システムにおける機能分離に基づく異自由度ロボット間バイラテラル制御器設計論を確立した。(3)対象物とシステムとの接触状況に柔軟に対応可能な力ベース可変コンプライアンス制御手法を確立した。
著者
加藤 千香子 橋本 順光 松原 宏之 小玉 亮子
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、まず世紀転換期における特徴的な国民規範形成のプロセスの検証がなされた。日本における「青年」の構築と組織化、アメリカでの性にかかわる問題、ドイツにおける「少子化」問題、イギリスでの黄禍論や「武士道」概念といった焦点を浮かび上がらせ、それらが同時代の世界との緊密な関係のうえに登場したことが検証された。他方、国民規範が企図した社会秩序の安定化については、必ずしも果たされたわけではないことも明らかにされた。
著者
村崎 恭子
出版者
横浜国立大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

(1)本年度は本研究にとって最も悲しい年になってしまった。樺太アイヌ語の最後の話し手であり、本研究の唯一の情報提供者であった浅井タケさんが、平成6年4月30日未明に入院先の東札幌病院で亡くなったのである。(2)そのため、本年度の2回にわたる調査旅行は、1回目は浅井タケさんの最後を見届け、身寄りのなかったタケさんの供養をすることに使い、2回目は調査した地域で状況取材と資料整理のために使った。(3)ついに話し手が絶えてしまった樺太アイヌ語の記述的研究は、今やこれまで過去20年にわたって私が収集した樺太アイヌ語資料のすべての整理とまとめしか不可能となった。(4)1988年から1993年までに調査した浅井タケさんの収録資料の一部をまとめて「樺太アイヌ語口承資料2」を研究成果報告書として印刷した。(5)1960年から1994年まで34年間にわたって収集した樺太アイヌ語音声資料をまとめて整理しコンピューターによるテープリストの作成に着手した。(6)これらのデータのまとめは平成7年度に新規申請した「樺太アイヌ語の記述的研究(3)-音声資料の整理と保存、データベース作成の試み-」で行う予定である。
著者
川崎(梅野) りんこ
出版者
横浜国立大学
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.37-41, 2013

16世紀末フィレンツェで生まれ、ギリシャ悲劇の再現をめざしたオペラは、17世紀にヨーロッパ中に広まり、フランスではルイ14世の保護のもと、フランス独自のオペラが隆盛を極めた。ルイ14世治下のフランスでは、ギリシャ神話の登場人物メデを題材にしたオペラが4 本作られている。メデは自分を捨てた夫に憤激し、恋敵とその父、および自らの子どもを殺して復讐した人物である。本論文は、絶対王政、男性優位の時代にありながら、王や夫に反逆するメデの物語が何度も舞台化されたことに着目し、当時のフランス社会の状況を検証しつつ、作品研究の方法を用いて4本のオペラ台本を分析し、時代による女性表象の変遷を考察する。 オペラは常に王侯貴族や裕福な市民階級の傍らにあり、恋愛劇を通じて支配層のイデオロギーや女性観を表してきた。ヨーロッパ社会は古典ギリシャ時代から男性優位であったが、ルネサンス以降の近代に女性の地位はよりいっそう低下した。ルネサンス期に誕生した新興芸術であるオペラはその影響を受け、当時の女性観を反映した物語を作ったと考えられる。古代から文学や音楽、版画や絵画の題材に取り上げられてきたメデは、男性的秩序を脅かすものとしてヨーロッパが忌避してきた「女性的なるもの」を体現して繰り返し表現され、女性に対するヨーロッパの主要な言説であるミソジニーとともに、人々の心性の底流に潜む女性に対する恐怖、畏怖を表している。Operas first appeared at the end of the 16th century in Florence and these Operas reproduced Greek Tragedies. In the 17th century, operas became popular throughout Europe. In France, operas flourished under the patronage of Louis XIV. Four operas were produced at the time based on the story of Medea, a woman in Greek mythology, who got furiously angry with her husband who had abandoned her and took revenge by killing her rival in love, the rival's father and her own children. The present study investigated changes in the female image in different periods, by analyzing the scripts of these four operas and the condition of the French society of the time. Why was the opera, Medea, staged repeatedly in spite of the absolute monarchy and the male-dominated society of the time? Usually, royalty and titled nobility, as well as the rich bourgeoisies went to the opera. Operas expressed the ideology and views of women of the ruling class through romantic dramas. European society had been male-dominated since the ancient Greek Era and the status of women in the society further declined after the Renaissance. Operas were a new art form that appeared in the Renaissance period and they were affected by the currents of the times. The stories supposedly reflected views of women in those days. Medea, which had been often chosen as a theme in literature, music, prints and pictures, expressed femininity that was abominated and avoided in Europe, because it threatened the male-dominated order. The theme of Medea expressed fear and awe of women that existed at the bottom of people's minds, such as Misogyny, which has been a major idea on women in Europe.
著者
高見沢 実
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

現行のゾーニングは「ユークリッドゾーニング」として20世紀に普及したが、近年、用途分離の弊害等が大きな課題となり、米国ではニューアーバニズムの計画論が制度に取り入れられるようになり、先進的ゾーニングの普及段階へと入った。本研究の前半部ではこの制度化のプロセスを体系的にとらえるとともにゾーニング技術進化の内容を整理した。日本ではゾーニングをはじめ都市計画制度が未だ中央集権的であり、人口減少時代の新たな計画論に対応するためには都市計画制度そのものの地方分権の中でゾーニングを使いやすくすることが重要ととらえ、全国自治体を対象にアンケート調査を実施し分析・考察したのが後半である。
著者
天川 晃 我部 政男 木村 昌人 古関 彰一 福永 文夫 増田 弘 雨宮 昭一
出版者
横浜国立大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

今年度は沖縄でのヒアリングを含め2度の合宿と4回の研究会を行ったほか、総括班主催のシンポジウムにも参加した。研究分担者ごとの研究進捗状況に若干の差異はあるが、総括班シンポジウムで増田・木村の2名が各自の研究報告を行なった。具体的活動成果として、第一に9月に沖縄で行なった沖縄占領関係者に対するヒヤリング調査をあげることができる。政治、経済、教育関係者とのヒアリングを行い、占領下の沖縄の実情を聴取し、沖縄と本土各府県の占領との比較研究に関する多くの示唆を与えられた。また我部のアレンジによって沖縄の研究者・研究機関との情報交換を行なうとともに現地での関係文献の収集も行なった。第二に、司法制度と法曹関係者の人的研究は政府間関係の観点からも追放の影響の観点からも重要な検討課題であり、古関を中心に司法制度と弁護士会関係の資料収集を行った。古関は9月にできなかった沖縄の司法関係者とのヒアリングも別個に行なった。第三に、地方レベルの占領関係資料の収集を継続し外務省・終連関係資料、内務省関係資料、府県知事の伝記資料などを収集・分析した。第四に、木村を中心に全国の商工会議所を中心とする調査を継続し地方経済エリートの交替を政治過程の関係をマクロ的に観察した。研究班としての研究成果のとりまとめは総括班の成果報告と調整を計りつつ行なう予定であるが、福永の民政局の政党政策に関する分析、増田の平野力三の公職追放過程の研究など、研究分担者が部分的に成果の公表を行うことができた。また、天川が『学術月報』に「府県から見た占領改革」を執筆し研究班の研究の一端を紹介した。