著者
榑沼 範久
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

京都学派の著名な哲学者である下村寅太郎(1902-1995)は、1973年の定年退職後も著述活動とは別に、自身の研究談話会「プリムツァール会」で広大な思索をテープに残していた。「真の著作遍歴は著作以外にあるとすらいえる」、「テープの存するかぎり潜在的著作と称してもよいであろう」とは下村自身の言である。だが、『下村寅太郎著作集』(1988-1999)の完結から20年以上が過ぎた現在でも、この「潜在的著作」は公刊されていない。入手可能で可聴状態にあるテープを文字化し、選択・編集・校閲を経て刊行を目指す本研究は、下村の未知の側面の発見にとどまらず、思想史研究にとって重要な学術資料の集成になるだろう。
著者
大野 かおる
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究の目的は、第一原理計算において、全ての物質現象を支配する電子励起状態を扱える根本的な理論方程式と新しい計算手法を確立し、その第一原理計算ソフトTOMBOを完成させて普及することである。第一原理計算ソフトは欧米で開発されたものが主流の中、研究代表者は世界唯一の全電子混合基底法プログラムTOMBOを開発し、多体摂動論のGreen関数法では1次のバーテックス補正を入れた世界初のGWΓ自己無撞着計算を行い、光吸収スペクトル世界最高精度0.1 eVを達成した。任意の電子励起固有状態を扱える拡張準粒子理論も発表し、世界初の電子励起状態を出発点とするGW近似や時間依存GW動力学シミュレーションを行う。
著者
丸山 千歌
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学留学生センター教育研究論集 (ISSN:18810632)
巻号頁・発行日
no.14, pp.145-158, 2007

Recently, Foreign language education such as English education and Japanese education, are focusing more on practical communication skills. Taking into account the strong relationships between language and culture, we need to discuss how and to what extent of the element of culture should be included into the language classroom. This discussion should be approached from various aspects such as texts, class activities, teachers, and learners. This paper reports qualitative analysis on the relationship between Japanese learners and the Japanese reading materials through the Personal Attitude Construct Analysis, developed by Naito (1993). It reports what kind of effect the Japanese learner receives from the Japanese texts, and inspects the usefulness of the Personal Attitude Construct Analysis.
著者
蒲生 重男
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学理科紀要. 第二類, 生物学・地学 (ISSN:05135613)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.1-21, 1991-10-31

Eleven specimens of serolids (Crustacea, Isopoda, Flabellifera, Se-rolidae) were collected by the Japanese Antarctic Research Expedition (JARE) from the Antarctic Sea during 1973-85. Examination of the materials has resulted in the finding of four known species, Serolis polita PFEFFER, S. pagenstecheri PFEFFER, S. (Ceratoserolis) trilobitoides EIGHTS, and S. (C.) meridionalis VANHOFFEN, Some brief notes and illustrations are given for the species.
著者
上野 顕子 鈴木 敏子
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学教育紀要 (ISSN:05135656)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.95-106, 1994-10-31
被引用文献数
1

本調査で,「家庭生活」領域を履修することになっている中学1年生の親とのコミュニケーションの実態と背景を探ったところ次のような結果が得られた。1.6割以上の生徒は,親を理解者としている。そして,父親よりも,母親を理解者としてとらえている。一方,約4割の生徒は,親を理解者ととらえていない。2.約半数の生徒は親と毎日コミュニケーションをとることを望ましいと考えているが,約4割の生徒は日常の親子のコミュニケーションに対して消極的である。3.実際のコミュニケーションについて,挨拶,共有行動,話し合いからみてみると,父親よりも,母親とコミュニケーションをよくとっていることが明らかになった。4.コミュニケーションのとり方には,性別,家族構成,きょうだいの人数,父の帰宅時間,母の職業の有無,子どもが週に習い事・塾へ通う日数,コミュニケーションに対する意識などが影響していることがわかった。以上の結果から,「家庭生活」領域における「家族関係」の扱い方を考えると,次の2つのポイントがあると思われる。第1は,第二次性徴期にいる中学生に,家族の題材を積極的に取り上げてみてはどうかということである。というのは,約4割の生徒は親を理解者としてとらえていない,また,約4割が親子のコミュニケーションは気が向いたときとればよい,特に必要ない,と考えているという結果が得られたが,それは,第二次性徴期に入った中学生が,親に反抗しつつ自立していこうとする姿のあらわれではないかと考えられる。だからといって,この段階の生徒に親子関係についての学習をさせることは難しいので題材設定をしないというのではなく,むしろ積極的に取り上げて,生徒自身に自分が第二次性徴期にいることを自覚させるとともに,そのような自分と親との関係が客観的にとらえられることこそ大人への第一歩であるということを考えさせてみてはどうだろうか。第2は,コミュニケーションのあり方は,現代社会に生きる家族員それぞれの生活や意識が一つの重要な要因となっていることが明らかになったことから,生徒が中学生という自分の発達段階や現代の家族の抱える問題を客観的にとらえられるようになることが必要であると考えられる。特に父子関係が母子関係より希薄になる要因に焦点を当てることによって,社会的な問題をとらえることができるだろう。それらを通して,自分にとって家族とは何か,家族と自分にとってのよりよい家族関係とは,ということを主体的に考える学習過程にしていけるのではないかと思われる。
著者
西 栄二郎 KUPRIYA-NOVA E. KUPRIYANOVA E.
出版者
横浜国立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

オーストラリア産多毛類と日本産多毛類を中心とする底生生物の生物相を比較しながら、外来種の調査を行った。オーストラリア沿岸の付着生物(カキやイガイなど)の隙間に棲む多くの種類が外来種の可能性があることが確認できた。また、オーストラリア産、日本産、米国西海岸産の数種の比較で、外来種ではなく、それぞれ別個の種である可能性があることがわかった。今後、これらの外来種なのか別個の種なのか判明していない種の起源や移入・伝播経路等をDNA解析により明らかにしていく予定である。また、海洋研究開発機構との共同研究により、深海産の多毛類について新記録種が見つかった。この種はDNA解析により既知種との類縁性が考えられるものの、剛毛などの外部形態に差異があることから新種(未記載種)の可能性がある。今回は採集された個体数が少なく、外部形態の差異が変異なのか固定形質なのか判別できないため、新種または既知種との判断は行っていない。今後の調査により同種が採集された場合には種の位置付けが確定されると思われる。横浜港など東京湾内や相模湾内の底生生物調査とともに、淡水産生物の調査も行った。淡水には特異な進化を遂げた種が分布し、その分布域に外来種が入り込むことで、多くの淡水産種が分布を狭めたり、絶命に瀕する例が知られている。そのため、淡水産の種とそれに影響を及ぼす可能性がある種を調査・研究することを目的とした。欧州の洞窟に棲む種やタイの淡水・汽水に棲むカンザシゴカイ科、日本の洞窟内淡水に生息するホラアナゴカイ科などを調べた。それぞれ現在も良好な分布が確認されたが、今後もモニタリングすることにより、その分布域の減少に注視する必要があると思われる。
著者
岡田 守弘 井上 純
出版者
横浜国立大学
雑誌
横浜国立大学教育紀要 (ISSN:05135656)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.45-66, 1991-10-31

本研究では,キャンバス上に「何が描かれているのかわからない絵画」,すなわち抽象的表現による絵画を見るとき,鑑賞者は具象画を見る際と同様の基準でその絵画を鑑賞し評価するのか否かを,2つの実験を通して検討した。研究1では,絵画鑑賞に伴う感情の因子を抽出し,具象画と抽象画の与える印象の違いについて検討した。実験は,10枚の絵画(具象画5枚,抽象画5枚)を7件法のSD法尺度で評定するものであった。その結果,絵画鑑賞に関わる因子として,先行研究に準ずる4因子が抽出された。具象画と抽象画の印象の違いは,個性とバランスの因子において顕著であり,「具体的なフォルムの崩壊」が鑑賞者に直接的に影響を与えているものと考えられる。研究2では,主に,芸術性評価要素の構成が検討された。実験は,研究1にほぼ準ずる形で行われた。その結果,具象画では芸術性評価がやわらかさや,好みなど美的評価に基づいてなされ,抽象画ではおもしろさや個性に基づいてなされていることが見いだされた。本研究の結果から,ひとくちに絵画と言っても,具象画と抽象画とでは鑑賞者の側でもその鑑賞基準と評価基準が異なるものと思われ,その原因は「具体的なフォルムの崩壊」に求めることができると考えられた。