著者
苑田 亜矢
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、コモン・ローの刑事訴訟手続の中心的特徴である陪審の一類型で、 刑事事件につき正式起訴の決定にあたる大陪審の起源である起訴陪審が、 12世紀のイングランドで成立した原因を、 当時の教会法および教会裁判手続の観点から解明することにある。 本研究においては、 起訴陪審を成立せしめた1166年のクラレンドン法と、 起訴陪審成立の原因を究明するための鍵の一つとされている1164年のクラレンドン法第6条の内容を分析するとともに、 12世紀のイングランドの国王裁判所と教会裁判所で用いられていたそれぞれの訴訟手続の実態を、 裁判実務関連史料に基づいて考察した。 その結果、 以下の諸点を明らかにすることができた。第一に、 当時の教会裁判所において、 糾問手続が、 別の型の手続と並んで用いられていた可能性があること、第二に、12世紀に権限を拡大しつつあった大助祭は、教会裁判官として、糾問手続を用いた裁判を行なっていたとみられること、第三に、当時のイングランドにおいて、大助祭の権利濫用が批判されていたこと、 第四に、 以上のことが、 国王裁判所における起訴陪審成立に関連があると考えられうること、以上の四点である
著者
吉村 豊雄
出版者
熊本大学
雑誌
文学部論叢 (ISSN:03887073)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.1-10, 1999-03-20

小稿の目的は、簡単にいえば、近世幕藩体制下の武家が「自己破産」しないのは何故か、江戸版「社会更正法」とでもいうべき近世武家の更正・財政保障システムの実態の一端を紹介することにある。
著者
若曽根 健治
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

(1)ドイツの13世紀から18世紀におよぶ長い歴史をもつウァフェーデ(Urfehde[報復放棄の誓約])とその制度は、大きく三つの形態と段階を経てきた。(a)「騎士的ウァフェーデ」は貴族領主層相互のフェーデ(権利の要求を掲げた敵対関係とこれに伴う実力の行使)の過程で捕らえられた騎士が報復放棄の誓約を捕らえた側におこなった。(b)「騎士的市民的ウァフェーデ」は、市民勢力の興隆の中で騎士と市民とのフェーデ終結において交わされた。(c)「市民的ウァフェーデ(市民的都市司直的ウァフェーデ)」は、都市司直(都市参事会)にとって望ましくない行為のゆえに司直に捕らえられた市民が司直に交わした、復讐断念の誓約である。また市民的ウァフェーデにおいては、包括的抽象的に言い表わされた理由(例えば「逸脱」・「違反」等)によって捕捉され、ウァフェーデが誓約された。とりわけ市民的ウァフェーデは14、15世紀に広く展開し、都市・市民の社会的規律化に著しく寄与した。(2)この市民的都市司直的ウァフェーデの盛行は、市民の正当な告訴行為を妨げることが少なからずあった。このことが、カール五世刑事裁判令(カロリーナ・1532年)20条からわかる。都市司直もしくは裁判官から被った拷問によって受けた損害(「恥辱、苦痛、経費および損失」)の賠償を市民が裁判所に訴え出ようとするときに、司直もしく裁判官は、市民に、「ウァフェーデに助力」することによって妨害してはならない、と。帝国の裁判所は皇帝法(ローマ法)に基づく裁判制度の改革によって、裁量と恣意による都市刑事司法の弊害に対応しようしとしていた。
著者
雙田 珠己 鳴海 多恵子
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、1.肢体不自由児と保護者を対象とした衣生活教育プログラムの実践2.子どもたちの衣生活を改善する修正衣服の検討である。衣生活支援活動は、肢体不自由特別支援学校の高校生と保護者を対象に、前者には着装に関する授業を行い、後者には既製服を障害に合わせて修正する技術指導を行った。また、被験者5人の着脱動作に合わせて既製ジーンズを修正し、着脱時の生理的負担が軽減されることを確認した。
著者
佐藤 哲彦
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、我が国における犯人特定技術、すなわち捜査技術の近代化過程において、どのような技術が適用されてきたのか、それによってどのようなことが行われてきたのかということを、実際の資料に即して、批判的アプローチの観点から検討することにある。昨年度に引き続き本年度も、主として明治・大正・昭和初期の捜査技術資料、捜査関係者の手記などを収集、またこれらに加えて特に捜査技術の基礎を構成した医学的・心理学的文献を収集、これらをディスコースの観点から分析した。それによると、まず当初の予測通り、捜査技術の近代化-それは一面では捜査技術の西洋化あるいはその輸入ともいえるものであるが-において、医学的・心理学的知識が重要な役割を果たしているということが挙げられる。それはたとえば、「性」という考え方の周辺に捜査対象者を位置づけようという努力に結実する。しかしながら昨年度の研究で示唆されたように、それは単なる技術の輸入あるいは翻訳ではない。それはむしろ、近代化(西洋化)に伴う社会変動と同調し、その表出として位置づけられる一方で(輸入・翻訳の側面)、過度な社会変動を抑制すべく配置された統治技術の一端として位置づけられるものである(統治性の側面)。この場合、過度な社会変動とは、常識カテゴリーの混乱を含意する。たとえば、放火や殺人において、犯罪者の語りは、いずれにしても、捜査員の語りの間接話法として位置づけられるべく捜査上の仮説が提起される。このような仮説は、捜査上合理的とされる価値に基づいて編成される。すなわち、「認知上の平常な価値」(H・ガーフィンケル)による合理性である。したがって、近代的捜査技術は、その「価値」に見合う形で西洋の科学的知識を目的論的に摂取したものと位置づけられる。すなわち、近代的捜査技術は従来の秩序の輪郭を自己言及的に再生産するための技術として位置づけられるのである。
著者
木村 弘信 原岡 喜重 河野 實彦 八牧 宏美 高野 恭一 岩崎 克則 古島 幹雄 山田 光太郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1)一般超幾何関数およびOkubo方程式の研究,2)Painleve方程式をはじめとする非線形可積分系の研究が本課題の目的である.GL(N,C)の正則元の中心化群の共役類はNの分割によって決まるが,一般超幾何関数は,このようにして得られる極大可換部分群の普遍被覆群の指標をラドン変換して得られるGrassmann多様体Gr(n,N)上の関数である.この積分表示の被積分関数から定義される代数的なde Rham cohomology群を具体的決定を行った.この問題はn=2の場合には一般的に,またn>2のときにNの分割が(1,...,1)や(N)の場合にすでに解決していたがそれ以外の場合には未解決であった.今回,分割が(q,1,...,1)の場合にcohomology群のpurity, top cohomology群の次元,具体的な基底の構成を与えた.この結果は関数を特徴付けるGauss Manin系を決定するときに重要である.また,分割が(N)の場合,すなわちgeneralized Airy関数の場合にde Rham cohomologyに対する交点理論を整備し,その交点数をskew Schur関数を用いて明示的に決定する研究を行った.このときに,特異点理論におけるflat basisの類似物が重要な役割を果たすことが示された.アクセサリパラメータを持たない方程式については,Okubo方程式についての結果を用いることによって,解の積分表示を持つことが示された.この積分表示はGKZ超幾何関数の積分表示の特別な場合になっており,その枠組みでの明確な位置づけと不確定特異点をもつ方程式を含む総合的な理解はこれからの課題である.Painleve方程式については,解全体をパラメトライズする解析的な空間である初期値空間の研究において,この空間にSymplecticな構造がはいること,初期値空間の幾何学的構造がPainleve方程式を本質的に決定してしまうことが示された.さらにPainleve方程式に関する不思議な現象が発見された.Painleve II型方程式は自然数によって番号付けされるひとつの系列の有理関数解を持つことが知られているが,この有理関数解を係数とするgenerating functionを作るとそれはAiry関数の無限大での漸近展開から得られることが分かった.
著者
粂 和彦
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年、さまざまなモデル動物を用いた新しい睡眠研究が発展しているが、特にショウジョウバエが注目され急速に進行している。われわれは睡眠が極端に減少したショウジョウバエのfumin変異を発見して解析を続けている。まず変異の原因遺伝子をクローニングしたところ、哺乳類でもコカインなどの覚醒物資の標的となるドパミントランスポーターであったことから、ショウジョウバエの覚醒制御機構には哺乳類との類似性があり、モノアミン系が関与していると考えられた。次に脳の遺伝子発現を網羅的に解析したところ、ドパミン系に関与する遺伝子群には変異株と野生型で発現量の変化はなく、逆にグルタミン酸系に関与する一群の遺伝子群に発現量の変化が認められた。これは、従来知られていなかったドパミン系とグルタミン酸系のクロストークの可能性が示唆した。変異株の寿命を調べたところ、通常の飼育条件では野生型と差はないが、高栄養の食餌を与えると、活動量が老化とともに上昇し寿命が短縮した。さらにカフェインを与えると、野生型よりも大きく活動量が増えて睡眠時間が短縮して、寿命も短くなった。通常の条件では寿命に差がないことから、これらの二つの結果は、ショウジョウバエの睡眠には一定の必要量が存在し、それよりも睡眠が短くなると、寿命にも影響するが、最低限の量が確保されれば、寿命には影響しないことを示唆した。今後、睡眠と寿命、さらには高栄養の三つの関係についての研究を深めることで、これらの生理学的な意義についての示唆が得られると考えられる。
著者
佐藤 哲彦
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

薬物政策は国によって異なっているが、本研究は日本、イギリス、アメリカ、オランダの政策の違いが何に根ざすのかを分析した。その結果、かつてのイギリスや現在のオランダの政策が薬物使用者を社会の成員として認める近代的な秩序を構想し、医療やリハビリテーションなどを中心として使用者を処遇する一方、日本やアメリカは成員の同質化を基にした社会秩序を志向し、使用者を秩序外に隔離排除する処遇をしていることが明らかになった。
著者
太田 明子 (中川 明子)
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

平成17年11月に全国の全自治体を対象として、以下に示す歴史的建造物保存活用に関するアンケート調査を実施した。すなわち、1.歴史的建造物の保護を担う担当部署、2.歴史的建造物の保護に携わる専任職員の設置状況、専任職員の専門領域、3.市民団体との協働の度合い、4&5.歴史的建造物保存活用のメリット、6.自治体自身の歴史的建造物保存活用への取組に対する自己評価について質問した。その結果、全体の約6割の自治体からの回答を得た。特に都道府県レベルでは8割の自治体から回答を得、現在、これらの調査結果を集計しつつあるところである。故に、正確な結果はまだ得られていないが、データ入力の過程で、歴史的建造物に専門的に関わっている自治体職員は京都府、奈良県などのごく一部の自治体を除き、殆ど存在しないことは既に判明している。1997年、「建築文化財専門職の設置」の要望書が日本建築学会から各都道府県及び政令指定都市宛に出されているにもかかわらず、状況が殆ど改善されていない様子が明らかになったことは大変残念なことであり、再度、何らかの提言を行う必要があると考える。一方、自治体が、地域住民やNPO等と協働することによる、歴史的建造物の継承に踏み出し始めていることも判明し、この分野でも地方が自らの知恵を出し、活動する時代になっていることが明らかになっている。また、この作業と平行し、全国の自治体のHPから歴史的建造物に関する情報をどれだけ得られるか検証しつつあるが、市町村合併が振興している最中であるため、確認に時間がかかっている。今後、速やかの上記の結果をまとめ、HP上で公開する必要がある。また、これまでまとめた、フランスの歴史的建造物に関わる人材育成の様子、保存理念に関する研究と合わせ、今後の日本の文化財行政に対する提案を行う予定である。
著者
吉田 勇
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1 平成の町村合併は各町村の入会権の調整にどのような影響を与えたかを検証するために、一の宮町・阿蘇町・波野村が合併した阿蘇市誕生のケースと、合併協議が行われながらも合併に至らなかった小国町・南小国町のケースを比較しながら調査研究した。2 阿蘇市のケースでは、一の宮町と阿蘇町では入会権をめぐる事情に違いがあった。最も大きな違いは、一の宮町には昭和の合併時に財産区が設置されていたが、阿蘇町には財産区は設置されていなかったことである。今回の合併に際しては、旧財産区はそのまま新市に引き継がれるが、新しい財産区は設置しないという方針が合意された。財産区は設置しないが、集落の入会権の使用・処分の権利関係については、実質的な変更が加えられなかった。阿蘇市は、入会原野の貸付についても分収についても、旧阿蘇町と牧野組合との旧来の配分割合をそのまま確認している。波野村の場合には、古くから草原は畑と一体的に個人分割的に利用されてきており、村有入会地がなかったために、今回の合併に向けた入会権の調整は必要ではなかった。3 小国町と南小国町のケースではこれまでの両町の入会政策に大きな違いがあった。小国町は1950年代に入会原野の払い下げ政策(近代化政策)を積極的に進め入会原野の経済的な高度利用(造林化)を目指したのに対して、南小国町は、入会地の集落による共同利用を尊重してきたことである。この政策の違いが、現在でも、南小国町の入会原野はほとんど町有地であるのに対して、小国町には共有地が多いことにうかがわれる。しかしながら、この違いは合併協議の過程では話題になったもようであるが、両町の合併協議を妨げたわけではないというのが関係者の証言であった。
著者
内野 香織 堀口 彰史 ウエンティ トゥ フォン 長谷部 俊之 ウチノ カオリ ホリグチ アキフミ ハセベ トシユキ Uchino Kaori Horiguchi Akifumi Nguyen Thi Thu Huong Hasebe Toshiyuki
出版者
熊本大学
雑誌
熊本大学政策研究
巻号頁・発行日
vol.1, pp.123-144, 2010-03-26

本稿は、持続可能な地域社会の形成というテーマの中でも、条件不利地域といわれる中山間地域のうち熊本県球磨郡五木村の振興、とりわけそこに住む村民が持続的に生き生きと暮らすにはどうするべきかという問題意識に立脚し、その対応策を提言するものである。
著者
山田 秀
出版者
熊本大学
雑誌
熊本法学 (ISSN:04528204)
巻号頁・発行日
vol.116, pp.247-274, 2009-03-20

以下の論述は、固より試論に過ぎないが、ポパー思想のより十全な理解に幾分でも資するとすれば、これにすぐる幸いはない。同時に本稿は又、伝統的自然法論ないし哲学的カトリック社会倫理学への興味の喚起をも狙っている。
著者
稲田 隆司
出版者
熊本大学
雑誌
熊本法学 (ISSN:04528204)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.1-21, 1997-09-20

本稿では、身柄拘束実務の適正化のための一方策であるイギリスのレイ・ビジター制度に着目し、これについて若干の検討を加えることを目的とする。
著者
李 詠青
出版者
熊本大学
雑誌
熊本大学社会文化研究 (ISSN:1348530X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.231-246, 2007-02-28

The Japanese writer Haruki Murakami's works are widely translated by over 35 countries in the world nowadays. This study is focused on the comparison of Chinese translations between the Taiwanese (traditional Chinese) and Chinese (simplified Chinese) translation. "Kafka on the Shore" is the main text in this study. The translation of katakana is the most important assignment. Author tries to investigate the foreign readers' understanding and reception through the different translations. Meanwhile, exploring the difference and mistranslation of the two translation works is also one of the purposes in this study.

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著者
田村 実
出版者
熊本大学
雑誌
熊本地学会誌 (ISSN:03891631)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.5-10, 1963-09