著者
森 光昭
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

統一後、ドイツ人の外国人に対する寛容さが減ったと言われる。本研究では様々な極右事件に関する資料を収集し、極右暴力事件の実態を解明しながら、この最終的な目標に関する分析を行った。1998年のフランクフルト書籍見本市におけるマルティン・ヴァルザーの演説は、統一後のドイツの変化を象徴する事例であると言える。極右暴力事件そのものに関しては、統一後、劇的に増えた。統一前の1980年代と比較すると何倍にも増加している。しかし、1993年をピークにして1994年には、劇的に減少した。その結果、ボンのドイツ連邦政府を始め関係当局は一過性の減少であると胸をなでおろした。連邦憲法擁護庁の「憲法擁護報告」は、その後も、全体として減少傾向が続いているとしている。しかし、子細に憲法擁護報告書を検討すると、違った結果に到達する。憲法擁護報告書は器物損壊事件を1996年まで暴力事件に分類してきた。ところが、1997年の報告書からは別の方式を採用している。つまり、もはや器物損壊を暴力事件として取り扱っていない。従来方式で、つまり一貫性のある統計処理にもどると、暴力事件は減少傾向にあるとはいえない。特に、1998年は大副に増えていることが分かる。極右暴力を含め、ドイツの状況は関係者が安堵できる状況からは程遠いのである。
著者
木村 円
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は"神経筋難病の幹細胞/遺伝子治療法の開発"、特に難病・筋ジストロフィーをターゲットに定め、病的骨格筋に治療用蛋白質"dystrophin"を導入する(replacement therapy)ことである。治療研究に用いるウイルスベクターの作成及びその機能の確認をおこなった:マーカー遺伝子(LacZ,eGFP)、複数の短縮型dystrophinとdystrophin/eGFP fusion遺伝子、骨格筋への特異的分化誘導を促す因子(MyoD,Pax7)などである。CMV,RSV,CAGなどの非特異的プロモーター以外に、骨格筋特異的なHuman Skeletal a-actin gene promoter (HSA),CK6(modified Creatinin Kinase promoter 6),MHCK7などを用いた。2)調節型myoDをマウス由来線維芽細胞に導入し、ex vivoおよびin vivoで骨格筋への分化誘導を行い、mdxマウスへの短縮型dystrophin遺伝子導入に成功した。(19.Kimura et al2008)3)作成した治療用ベクターをモデル動物(mdxマウス)に直接筋注した。長期的な発現を確認し、特に生理学的評価として骨格筋の収縮性・耐性の評価としてspecific forceとcontractionに対する耐性試験を行った。(11.Kimura et al 2010)4)またプロモーターの調節領域の詳細な検討のために、それぞれの発現カセットを含むベクターを用いTgMラインを作成した。骨格筋、心筋、多臓器の発現活性を検討し、プロモーター領域の組み合わせによる治療応用の可能性を提言した。(2.Suga et al 2011)
著者
上田 裕市 坂田 聡 平原 成浩
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

音声特徴量の可視化と定量化に基づく構音障碍診断支援・発声訓練ツールの構築を行った。可視化においては、音声画像化処理技術を用いて、音素歪みを視覚イメージとして表現し、それらを定量化する機能を持つ機能を持たせた。また、自己発声を模擬する合成母音を目標音として発声訓練を行うツールを試作した。診断機能については、口腔外科臨床現場での評価実験を開始する。一方、構音学習ツールは数校の聾学校で試用されている。
著者
小林 一郎 田中 尚人 星野 裕司 ギエルム アンドレ マルラン シリル 本田 泰寛 岩田 圭佑 永村 景子
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は,高齢化・過疎化の著しい中山間地の農村を対象に,歴史的構造物や文化的景観を含む土木遺産を基盤とした,地域コミュニティと基礎自治体の協働による持続可能な観光支援システムを構築することを目的とする.そのために,地方分権により既存の道路ネットワークと農村の持つ利点を活かした観光支援政策,事業の先進地であるフランスに範を求め,同地と地理的・歴史的に共通点を多く有する熊本県,鹿児島県の中山間地域の農村を事例として,日仏の事例分析を行う.さらに,フランスにおける現地事例調査,国内における実践的地域づくり活動を通して,農村観光支援のための政策,人材育成,道路ネットワークの活用手法を提案する.本研究の研究対象地は,全て農業を主産業として発展してきており,道路や橋梁,運河,水利施設などを社会的資産としてストックしてきている.フランスにおける先進事例分析として文化的景観保全調査を行い,観光支援に繋がる社会的資産を分析,評価する.さらに,自立した農村観光を成功させている基礎自治体の政策立案・実施システムについて調査する.国内では,文化的景観保全調査及び,先進事例分析を受けて,日本でも実施可能な政策としていくための,地域コミュニティと基礎自治体の協働による地域づくりとして実践する.さらに,このシステム開発に有用と考えられる,研究者,行政担当者,実務者の交流を行う.研究の成果として,フランスの文化的景観制度ともいえるシット制度について,策定手法,住民参加の意味合い,歴史・景観の価値共有手法を整理した.この文化的景観保全地域の現地踏査を行うとともに,海外事例との比較調査を実施し,さらにフランスにおける景域保全計画策定への地域住民参画について整理した.日本においては,各地において,着地型観光の担い手となる観光ボランティアガイド導入の支援を行い,農業や各地の生活・生業の持続可能性に着目した地域内外の交流促進に資する視点・手法の提供を行った.
著者
冨田 智彦 安成 哲三 斉藤 和之 吉兼 隆生 日下 博幸 安成 哲三 斉藤 和之 吉兼 隆生 日下 博幸 山浦 剛 橋本 哲宏 坂元 勇一
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究計画では、我が国の夏季水資源管理にとって重要な梅雨降水の年々変動特性、関連する大規模大気循環場、そして西太平洋における大気海洋相互作用の役割を議論する。主な研究成果は、(1)黒潮域の大気海洋相互作用が10 年規模の梅雨前線活動に及ぼす影響を明らかにした点、(2)エルニーニョ/南方振動現象が梅雨前線の北進中にその活動度をいかに変質させるか、を解明した点、そして(3)梅雨前線活動に2-3 年周期、3-4 年周期、そして新たに6 年周期変動の卓越を見出し、各時空間変動特性を明らかにした点、の3 点である。
著者
澤村 理英
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

Bcslpは、ミトコンドリア内膜に局在する分子シャペロンである。細胞内のエネルギー産生に重要な呼吸鎖複合体のうち、シトクロムbc1複合体(複合体III)の会合・成熟に必須であり、特にRieske鉄硫黄タンパク質(Rip1p)の未成熟複合体IIIへの組込み(複合体IIIの成熟)に必要であることが分かっている。しかし、詳細なメカニズムについては、ほとんど明らかになっていない。このメカニズムを明らかにするため、昨年に引き続き解析を行った。昨年までの研究で、酵母Bcs1pの膜間部に位置するN末端領域44残基のうち、38残基以降がBcs1pの機能に必須であり、特に38番目の残基がある程度の疎水性を有していることが重要であると分かった。本年度は、38番目の残基を親水性アミノ酸(アスパラギン酸とアスパラギン)に置換した変異株(L38DとL38N)からミトコンドリアを単離し、複合体IIIの成熟への影響や未会合Rip1pの局在について、野生型Bcs1 (Bcs1_<WT>)およびbcs1欠失(△bcs1)と比較した。L38DとL38Nのミトコンドリアでは、Bcs1p自身の複合体形成はBcs1_<WT>と変わりないが、複合体IIIについては△bcs1と同じく成熟不全が起こっていることが分かり、未会合のRip1pが検出された。この未会合Rip1pのミトコンドリア内局在を調べたところ、マトリクスに存在していることが明らかになった。つまり、BcslpのN末端領域は内膜を隔ててRip1pのマトリクスから内膜の未成熟複合体IIIへの組込みに重要であることが分かった。また、Bcs1p自身についてもミトコンドリア内の局在を調べたところ、L38DとL38Nの膜間部のN末端領域がBcs1_<WT>とは異なる構造をとっている可能性が示唆された。また、化学架橋剤を用いて、膜間部のN末端領域における相互作用因子について検討したところ、L38DとL38NではBcs1_<WT>町とは異なるサイズの架橋産物が検出されたことから、相互作用様式に違いがあると考えられた。これらの結果は、国内外の学会で発表を行い、論文はBiochemical and Biohsical Research Communicationsに掲載された。
著者
多田 望
出版者
熊本大学
雑誌
熊本法学 (ISSN:04528204)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.1-35, 1996-07-10

要請書による外国への嘱託に続いて、本条約は第二章において「外交官、領事官及びコミッショナーによる証拠の収集」を定める。
著者
松本 尚英 小川 芳弘 中村 政明 島本 知茂
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

光、温度などの外部情報で制御できる新しい物質群を創生した。1、外部摂動により高スピンと低スピン状態間を相互変換するスピンクロスオーバー分子。2、一つの分子が磁気履歴をもつ単分子磁石、単一次元磁石。1では特異な性質を示す新しい錯体群を見出した。(A)イミダゾール含有直鎖上配位子の鉄錯体で一次元集積構造と熱履歴をもつスピンクロスオーバー錯体を合成した。(B)3座配位子鉄錯体に水素結合とπ-π相互作用を導入して熱履歴を実現した。(C)鉄錯体で2段階スピン転移をもち、さらにこの中間状態が異常に安定な錯体を合成した。(D)組成式[Fe(H_3L)]CIXをもつ一連の三脚型鉄錯体を合成した。塩化物イオンとイミダゾール基間の水素結合が2次元層構造を形成する。層間を埋める陰イオンXの大きさ、形状によりスピン転移挙動は大きく変化し、一段階、二般階スピン転移をはじめとする多なスピン転移を陰イオンの選択で実現した。さらに高スピンと低スピンが共存する中間般階ではキラリティが発現した。(E)(D)の系では、掌性の起源をさぐるアイデアが生まれた。もともと三脚型鉄錯体は右巻きと左巻きの分子があるが、高スピン状態では右巻き分子の隣に左巻き分子が水素結合で連結して二次元層構造を形成していた。右巻きと左巻きのキラリティ以外では構造的違いがない。ところが中間状態では、右巻き分子は高スピンのまま、左巻き分子は低スピンへと変化し、光学活性な空間群へと変化したと解釈された。しかしこのときのFlack値は0.5であり、外部摂動によるFlack値の偏りを探る研究の端緒となる。一方、単分子磁石、単一次元磁石の研究では、希土類の磁気異方性を利用して一次元鎖錯体をいくつか合成した。この分子系の分子修飾により新しい単一次元磁石を模索した。
著者
齋藤 和也
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日常生活における歩行は、 周囲の環境に応じて方向転換や歩行停止などに切り替えられる。本研究の目的はこの変換の神経機序を調べることによりパーキンソン氏病で観られる歩行障害の病態生理を解明することである。メダカ成魚において仮想遊泳中の脳活動を光計測することに成功した。また実験モデルとしてメダカ成魚の脳眼球脊髄摘出標本の作製も試みたが、網膜機能の低下などの課題が残った
著者
岩崎 竹彦
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

現在、各地の地域博物館で行われている回想法について、博物館の関与の在り方から3タイプに分類し、それぞれの長所、短所を明らかにした上で望ましい実践方法を提言した。民具がなぜ高齢者の豊かな回想を引き出しうるのかを展覧会を開催することで広く社会に周知すると共に、民具の文化財価値の啓蒙普及に努めた。また、そうした活動を通して回想法は博物館振興につながることを明らかにした。さらに現代人の記憶から時々の社会・時代を象徴するモノが見えてくることを提言し、歴史博物館の現代史展示及び近現代の生活文化にかかる資料収集に有効な事例を収集した。
著者
小林 麟也
出版者
熊本大学
雑誌
熊本史学 (ISSN:03868990)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.54-57, 1958-11-25
著者
篠崎 栄
出版者
熊本大学
雑誌
熊本大学教養部紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03867188)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.50-64 (19-33), 1983-01-31

「正義」をめぐるプラトンの成熟した思考を伝える『国家』を全体として如何に読むべきか。この問いに対して答えるべく以下の小論は書かれた。多くの材料を見事な形で一つの作品に結晶せしめたこの著作を読むに当り、作品全体を貫く問題を見定めておくことの重要さは論を俟たない。筆者は、プラトンのこの問題への取り組みと解決の方向を見取図において正確に示そうと試みた。
著者
篠崎 榮
出版者
熊本大学
雑誌
文学部論叢 (ISSN:03887073)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.1-17, 2003-03-20

In this essay I discuss Plato's conception of justice in the Republic. In the first part I summarize the main idea of Plato's answer to the question 'What is justice?' referring to N.O.Dahl's paper. In the second part I ascertain Plato's conception of justice by focusing on the passage where the duty of descending the cave is imposed on philosophers. In the final part I criticize Plato's conception of governance that politics is the remaking of people's souls and social institutions.はじめにこの論文で私が何を論じるかを述べておきたい。論文は三つの部分からなる。第Ⅰ部では、『国家』篇の全体で、そのテーマである正義がどのように論じられ、<正義とは何か>という問題に対するその回答は如何なるものであるのかを、読み取る。第Ⅱ部では、特に何人かの解釈者にとって作品の整合的読解の試金石になってきた7巻の哲学者に課せられる<洞窟への下降義務>を正確に理解することを通して、正義とは何であったのか、をいっそう明確に読み取る。第Ⅲ部では、この正義についてのプラトンの考え-政治とは社会制度と人間の魂をイデア界の最美の秩序をモデルにして作り直すことであるという見方-を、ハンナ・アレントの批判を手掛かりにして検討する。
著者
北原 弘基
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、巨大ひずみ加工の一種である、繰返し重ね接合圧延(ARB: accumulative roll bonding)により作製した超微細オーステナイトのマルテンサイト変態挙動について検討を行った。昨年度では、超微細粒準安定オーステナイト組織を有するFe-15wt.%Cr-10Wt.%Ni合金は、出発材に比べ、強度および延性が共に増加することを明らかにした。今年度は、超微細粒準安定オーステナイト鋼におけるTRIP(マルテンサイト変態誘起塑性)現象と機械的性質について検討を行った。試料は、Fe-15wt.%Cr-10Wt.%Ni合金とFe-24Wt.%Ni-0〜0.3wt.%Ni合金を用い、Af点以上の873Kで最大6サイクル(相当ひずみ4.8)までのARBを施した。Fe-Cr-Ni合金の4サイクルARB材は、強度・延性とも高い値を示し、降伏点降下減少や応力一定域を有する特異な応力-ひずみ曲線を示した。さらに、その応力一定領域ではリューダース帯が観察された。リューダース帯の進展していない領域では、マルテンサイトの体積率は5.7%であったが、リューダース帯内部では92.4%と大幅に増加していることが明らかとなり、変形部であるリューダース帯内で、加工誘起マルテンサイト変態が生じていることを確認した。このことから、ARB材の大きな延性はTRIP現象によるものであることが明らかとなった。
著者
神野 雄二
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

日本における篆刻や篆刻家の基礎的研究を、調査研究・文献研究・科学的研究の3種の方法により詳細に進めた。篆刻や印学の史的考察、篆刻家の事跡の調査・研究と作品研究を遂行し、論考として発表した。また、篆刻に関わる傍系の文人・芸術家の事跡の調査・研究と作品研究を行なった。日本における篆刻・印学や篆刻家の研究、それらの広い視野に立った体系的な研究はまだ十分なされていなかった。本研究において、日本の篆刻や篆刻家の歴史的・芸術的・文化史的な面の一端を明らかにすることができ、日本の印学の体系化に向けての研究の深化をはかることができた。
著者
木下 尚子 黒住 耐二 新里 貴之 高宮 広土 中村 直子 安座間 充 石丸 恵利子 鐘ヶ江 賢二 神谷 厚昭 川口 陽子 岸本 義彦 新里 亮人 樋泉 岳二 中村 友昭 松田 順一郎 宮城 弘樹 盛本 勲 山崎 純男 山野 ケン陽次郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究は伊江島ナガラ原東貝塚の8回の発掘調査をもとに、沖縄貝塚時代中頃の変化を伊江島において明らかにした。すなわち、遺跡の時期が5世紀から7世紀であること、この時期の沖縄諸島の土器は伝統的な形状を大きく変化させるがその変化は内在的なものであると同時に南九州や奄美地域の影響によって生じたこと、遺跡が南九州や種子島と貝殻を交易するために断続的に使われたキャンプ地であった可能性の高いことを明らかにした。
著者
竹屋 元裕 坂下 直実 菰原 義弘 藤原 章雄
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

クラスAスカベンジャー受容体(SR-A,CD204)欠損マクロファージ(Mφ)を用いた検討で、SR-AはTLR4のLPSとの結合を競合的に阻害し、M2 Mφの抗炎症性機能の一翼を担うことを明らかにした。急性冠症候群では、血中単球にSR-Aが誘導され診断マーカーとなり得ることがわかった。ヒト腫瘍組織の検討では、CD163陽性M2 Mφの浸潤度と膠細胞腫や卵巣癌の悪性度に相関がみられ、M2 Mφと腫瘍細胞がSTAT3を介して相互作用を示すことを明らかにした。天然化合物のcorosolic acidはMφのM2分化を抑制し、MφのM2機能を抑制することで治療効果を示す可能性が示唆された。
著者
谷口 功 FARRELL Nich CHELEBOWSKI ジャン エフ HAWKRIDGE Fr 木田 建二 西山 勝彦 FARRELL Nicholas P WYSOCKI Vick JAN F.Chelbo VICKI H.Wyso FRED M.Hawkr
出版者
熊本大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究では、金属タンパク質の構造変化による機能制御の本質を解明、応用するための基礎を確立するため、日米二つの研究グループの得意な領域を有機的に結合して、金属タンパク質の電極上での直接電子移動を自在に制御し、金属タンパク質の電気化学的性質を明らかにすると共に、界面電子移動反応に関する基礎的知見の増大と新しい概念の創出を目指して研究を進めた。本研究の過去3年間の研究成果は以下の通りである。1.金属タンパク質の界面電子移動制御とその生物電気化学的応用について(1)種々の機能電極の開発によって、ミオグロビン、ヘモグロビン、チトクロムc、フェレドキシンなどの電極上での直接電子移動制御が可能となった。(2)ミオグロビンについては、酸化インジューム電極を用いて、不均一電子移動速度定数と電極表面の親水性の関係を定量的に評価し、金属タンパク質の電子移動制御のための界面機能を一般化した概念を提唱した。また、種々の起源のミオグロビンの電子移動と配位子置換による電子移動反応の影響を明らかにした。さらに、マンガン再構成ミオグロビンやモノアザ及びジアザヘミン置換ミオグロビンを作製してヘム鉄の軸配位子の酸化還元電位および不均一電子移動速度定数への影響を明らかにした。(3)チトクロムcのための機能修飾電極について、フレームアニールクエンチ法で作製した金単結晶電極上にチオール系機能化分子を修飾した電極を作製して、その界面機能を電気化学法、分光学、走査プローブ顕微鏡などを用いて詳細に明らかにした。また、機能化分子の微細な構造の相違が金属タンパク質の電子移動促進効果に大きく反映することを明確にした。(4)フェレドキシンのアミノ酸改変体を作製し、そのレドックス電位や酵素反応速度への影響の定量的な解析から、フェレドキシンの機能をアミノ酸残基レベルで酸化還元電位の制御部位と酵素分子との結合部位などに明確に区別されていることを明らかにした。2.金属タンパク質の構造変化のダイナミクス測定について(1)円二色性(CD)分光電気化学法について、電子移動過程の速度論的な情報を得るストップトフローCD測定のための装置の開発・高度化によって、高機能測定装置を組み立てた。(2)本装置を用いて電子移動過程で金属タンパク質構造のin situ時間分解測定を行い、チトクロムc、フェレドキシンいずれも電子移動に伴う構造変化が多段階的に生じることを明らかにした。(3)電気化学法及び新しいCD分光電気化学法などを用いて電子移動過程に伴うチトクロムc、ミオグロビン及びフェレドキシンの電子移動速度及び電子移動に伴う全体的かつ局部的な構造変化のダイナミクスに関する新しい知見を得た。(4)フェレドキシンの電気化学挙動の温度依存性から、ボルタモグラムのディジタルシミュレーション法による解析を用いてその反応機構に微細な構造変化が存在することを明らかにした。3.フェレドキシンの電子移動制御と光合成モデル生体機能化学反応への応用について(1)フェレドキシンの電極反応を、フェレドキシン-NADP^+-リダクターゼ(FNR)系と共役させ、さらにNADPHを補酵素とする酵素と共役させて、立体選択的精密化学合成へと展開した。具体例として、ピルビン酸からLーリンゴ酸が、さらに、オキソグルタル酸からL-グルタミン酸が得られることを示した。(2)電気化学測定から酵素反応の速度論的解析と反応機構の解明のためのディジタルシミュレーション手法を開発した。4.半人工改変金属タンパク質のユニークな機能発現の分子構造的解明(1)ミオグロビンを用いて、その活性中心を人工分子で置換した半人工再構成分子を作製し、その特性を電気化学的に明らかにした。特に、ヘム鉄の配位子であるヘミンの構造やヘム鉄周りの分子内環境が酸化還元電位やミオグロビンの機能の発現に重要であることが示された。(2)フェレドキシンのアミノ酸変異分子の酸化還元電位の大きな変化は、主に、特定のアミノ酸残基への置換によって生じる鉄-イオウクラスターの歪みによって生じる可能性が、コンピューター分子構造モデル計算による立体構造表示から示唆された。