著者
土橋 卓也
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.49-56, 2020-04-01 (Released:2020-05-27)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

食塩の過剰摂取は,高血圧の発症,重症化はもとより脳卒中,心臓病,腎臓病など心血管合併症発症の要因となり,健康寿命延伸の阻害要因となることは明らかである。日本高血圧学会が2019年5月に改訂した高血圧治療ガイドライン(JSH2019)は,従来「正常高値」としていた血圧区分 130~139/80~89 mmHgを「高値血圧」として管理対象としたこと,降圧目標をより低値としたことより,非薬物療法,特に 6 g/日未満を目標とした減塩の重要性を強調している。また厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2020年版)」でも,一般人の食塩摂取の目標量を男性 7.5 g未満/日,女性 6.5 g未満/日と引き下げ,国民レベルでの減塩の推進を提唱している。さらに,2018年,「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(脳卒中・循環器病対策基本法)が成立したことから,循環器病の一次・二次予防を目的とした減塩の推進はきわめて重要な課題となった。日本高血圧学会では,国民レベルでの減塩を目指して様々なアプローチでの取り組みを行っている。依然として食塩摂取量が多いわが国において,どこまで減塩が可能となるか,今後の取り組みの成果が問われている。
著者
坂本 達昭 細田 耕平
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.142-149, 2015 (Released:2015-12-26)
参考文献数
24

【目的】小学校5年生の給食の食べ残し状況,給食を残さず食べる自信および給食の楽しさとQOL(Quality of Life)との関連性を検討した。【方法】2014年9月から10月にかけて福井県内の小学校9校の5年生607名を対象に調査を実施し,有効回答が得られた566名を解析対象とした。QOLの測定には,6つの下位領域(身体的健康,精神的健康,自尊感情,家族,友だち,学校生活)から構成される小学生用のQOL尺度(Kid-KINDLR)を用いた。児童を給食の食べ残し状況,給食を残さず食べる自信,給食の楽しさについての質問項目の回答により,それぞれ2群に分け,QOL総得点および下位領域の得点をMann-WhitneyのU検定により比較した。【結果】男子においては,給食を残さず食べている児童は,給食を残すことがある者に比べて,また,給食を残さず食べる自信がある児童は,自信がない者に比べて QOL総得点が有意に高かった。一方,女子においては,給食の食べ残し状況および給食を残さず食べる自信の有無により,QOL総得点に差は認められなかった。給食の時間をとても楽しいと感じている児童は,男女ともにQOL総得点および精神的健康,自尊感情,友だち等の下位領域の得点が有意に高かった。【結論】給食の時間を楽しいと感じることは,男女ともに精神的健康,自尊感情,友だち等の下位領域を含めたQOLの良好さに関連することが示唆された。
著者
小島 美世 小川 佳子 中川 圭子 草野 亮子 関 芳美 波田野 智穂 磯部 澄枝 栃倉 恵理 石田 絵美 山﨑 理 堀井 淳一 井上 陽子 鈴木 一恵 田邊 直仁 村山 伸子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.232-242, 2020-10-01 (Released:2020-11-09)
参考文献数
15

【目的】新潟県では,1965年代から脳血管疾患対策として様々な減塩運動を展開してきた。しかし,脳血管疾患年齢調整死亡率は全国平均より高く,食塩摂取量も全国平均を上回る結果だった。そこで2009年度から新たな減塩運動「にいがた減塩ルネサンス運動」に10年間取り組んだ。その取組をとおし栄養・食生活分野におけるPDCAサイクルに基づく成果の見える栄養施策の展開を試みた。【方法】実態把握から優先順位の高い健康課題の抽出と,その背景となる栄養・食生活の要因を分析し,その要因が改善されるよう施策を整理し目標達成を目指した。また,各々の施策の事業効果が目標達成にどう影響を及ぼしているかが見える化できるよう評価枠組を整理した。評価枠組は各施策の事業効果が質的,量的にどう影響を及ぼすかが明確になるよう結果評価,影響評価,経過評価に分け,目標達成に影響を及ぼす施策とその成果が分かるよう施策を展開した。【結果】経過評価に位置付けた,市町村や関係機関での取組が増加した。影響評価に位置づけた,県民の高食塩摂取量に関連する食行動が有意に改善した。結果評価に位置づけた食塩摂取量や収縮期血圧値や脳血管疾患死亡数及び虚血性心疾患死亡数が減少した。【結論】PDCAサイクルに基づく展開と,目標達成につながる評価枠組を整理し枠組順に客観的に評価したことで,施策が目標達成にどのように影響を及ぼしたのかその関連性を見える化することができた。
著者
神田 聖子 仲田 瑛子 小田島 祐美子 中野 都 佐藤 清香 江木 伸子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.78-87, 2020-04-01 (Released:2020-05-27)
参考文献数
36

【目的】日本食品標準成分表2015年版において,調理前(原材料)と調理後食品を用いた献立の栄養価の差を明らかにし,栄養価計算を行う際の留意事項を検討する。【方法】学内の給食管理実習における30日分の昼食献立を対象に,調理を考慮しない「作成時」と考慮した「提供時」について対応のあるt検定またはWilcoxon符号順位検定を用いて1食あたりの栄養価を比較した。食品群別による比較も行なった。【結果】エネルギーの平均値±標準偏差は作成時で 719±70 kcal,提供時で 699±65 kcalであり,提供時で有意に低かった(p<0.001)。提供時で有意に低値となった栄養素は脂質,飽和脂肪酸,カリウム,カルシウム,鉄,ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンCであり,食物繊維のみ提供時で有意に高かった。食品群別にみると,肉類と野菜類で提供時の栄養価の減少が目立った。【結論】作成時と提供時の栄養価には統計的な差があり,栄養価計算は調理後食品で行うことが望ましいとわかった。両者の差は肉類及び野菜類で調理後食品を用いることにより解消できると考える。やむを得ず原材料で栄養価計算を行う際は,カリウム,鉄,水溶性ビタミンの給与栄養目標量を食事摂取基準の110~140%に設定すること,または,肉類の使用量を予定原材料の115%,野菜類を132%にすることで提供時の値に近似することが示唆された。
著者
水谷 令子 岡野 節子 西村 亜希子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.129-135, 1997-06-01 (Released:2010-11-26)
参考文献数
5

調理操作が麺中の水溶性相の食塩含量に与える影響と, 種々の麺料理からの食塩摂取量について実験を行った。結果は次のようである。1) 麺中の食塩量は, ゆで時間が長いものほど短いものより減少した。ひやむぎ, きしめんにおいてはゆで時間による有意差が認められたが, うどんにおいては有意差は認められなかった。2) ゆで上げ後の水洗いは, 食塩濃度を低下させるのに有効であった。洗う回数が増加するに従って, 食塩濃度は低くなったが, 手延べひやむぎを除いて, 1回目の洗いで顕著に低下した。ゆでた麺を5回洗うと, 食塩量は洗う前の, 手延べひやむぎでは20.9%, ひやむぎでは5.6%, うどんでは22.2%, きしめんでは23.5%, 生うどんでは41.0%に減少した。3) ひやむぎ, うどん, きしめんをそれぞれ, つけ麺, かけ麺, 温かけ麺の3つの方法で供した時の正味食塩摂取量は, ひやむぎでは1.81~2.67g, うどんでは1.31~2.28g, きしめんでは1.42~2.52gで, それぞれ調理材料に含まれる食塩の32~47%, 22~39%, 24~42%であった。細い麺 (ひやむぎ) は他の麺より食塩摂取量が多かった。いずれの麺も, つけ麺で食べるほうがかけ麺, 温かけ麺で食べるより正味食塩摂取量は有意に少なかった。温かけ麺はかけ麺より正味食塩摂取量は多かった。4) なべ焼きうどん, みそ煮込みうどん, 伊勢うどんの正味食塩摂取量は, それぞれ2.67g, 2.41g, 1.96gであった。伊勢うどんの食塩摂取量は他のうどんに比べて少なかった。以上の結果は, 栄養指導や栄養調査において, 正確な食塩摂取量を知る上で役立つと考えられる。
著者
小島 唯 阿部 彩音 安部 景奈 赤松 利恵
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
榮養學雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.86-93, 2013-04-01
参考文献数
13
被引用文献数
4

【目的】学校給食の食べ残しと児童の栄養摂取状況との関連を検討すること。<br>【方法】2009年5~6月,東京都公立小学校に通う5・6年生の児童112名を対象に,給食の食べ残しに関する自記式質問紙調査と残菜調査を実施した。残菜調査は,対象者一人につき2回ずつ行い,延べ人数のデータを用いた。残菜調査の結果から,食べ残しの有無により,残菜率0%の児童を完食群,それ以外の児童を残菜群とした。この2群の栄養摂取量の中央値の差について,一般化推定方程式(generalized estimating equation: GEE)を用いて検討した。解析対象の栄養素等は,エネルギー,たんぱく質,脂質,炭水化物,ミネラル5種,ビタミン4種,食物繊維とした。<br>【結果】延べ人数で,218名分の残菜データを得た。そのうち,男子104名(47.7%),女子114名(52.3%)であった。全体で,残菜群が80名(36.7%),完食群が138名(63.3%)であった。残菜率は0.2%~84.3%の間に分布していた。残菜群と完食群のエネルギーの中央値(25,75パーセンタイル値)は,各々 562(435,658)kcal,715(699,715)kcalであった(<i>p</i><0.001)。また,ビタミンCの中央値(25,75パーセンタイル値)は,残菜群で 26(16,35)mg,完食群で 41(41,47)mgであった。同様に,その他すべての栄養素等で差がみられた(すべて<i>p</i><0.001)。<br>【結論】残菜群のビタミンCを除く栄養摂取量は,完食群に比べて2~3割少なかった。残菜群のビタミンC摂取量は,完食群に対して4割程度少なかった。
著者
海老 久美子 中尾 芙美子 上村 香久子 八木 典子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.13-20, 2006-02-01 (Released:2010-02-09)
参考文献数
20
被引用文献数
2

高校1年生野球部員285名を対象として, 栄養・食事指導が体格の向上にどのように関与するかについて調査, 検討を行った。調査対象は, ほぼ同じレベルの実力を有し, 練習時間も同程度である, 15~16歳の1年生野球部員とした。部員は学校単位で, 栄養・食事指導をしない対照群と, 指導を行う指導群に分けた。結果, 指導前では対照群, 指導群の間に差は認められなかったが, 指導後の測定・調査において, 指導群は対照群に比べ, 体脂肪率で有意の低値, 除脂肪量で有意に高値を示した。また, 食事分析調査では, エネルギー量と多くの栄養素の摂取状況において, 指導群は対照群に比べ, 有意に高値を示した。さらに, 指導群には, 指導内容を反映した食事パターンの変化が確認された。このことから栄養・食事指導は対象者に理解され, 実行されたことが示唆された。また, 指導群の除脂肪量の増加量と1日の合計エネルギー摂取増加量, 及び, 午前中エネルギー摂取増加量, 穀類摂取増加量の間にはそれぞれ正の相関が認められ, それぞれの食事量を増やした選手に除脂肪量の増加が多いことが確認された。
著者
荒木 茂樹 伊藤 一敏 青江 誠一郎 池上 幸江
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.235-251, 2009 (Released:2011-03-30)
参考文献数
94
被引用文献数
3 5

Although barley has traditionally been one of the most important food grains, the intake in Japan has been decreasing during the last forty years. Barley provides many essential nutrients (carbohydrates, dietary fiber, vitamins and minerals) and functional components (dietary fiber and polyphenol). Studies on the health benefits of barley have been rapidly increasing in terms of the cholesterol-lowering effect, serum glucose and insulin normalization, decreased body fat accumulation, and blood pressure reduction. It has been scientifically proven that the soluble dietary fiber in barley, β-glucan, might reduce the risk of cardiovascular disease (CVD). It is inferred that two principal mechanisms may contribute to the cholesterol-lowering effects of barley and β-glucan: 1) reduction of cholesterol and bile acid absorption from the small intestine, 2) inhibition of cholesterol synthesis in the liver. Barley and β-glucan have therefore been approved as a potential health benefit against the risk of CVD in the United States and Sweden. Recent clinical studies have suggested that the consumption of barley and its products might reduce many risk factors associated with the metabolic syndrome, namely diabetes, hypertension and dislipidemia. This review presents information that will hopefully increase the awareness of professionals and consumers for the health benefits of barley.
著者
田中 清 桒原 晶子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.219-228, 2022-08-01 (Released:2022-09-17)
参考文献数
42

骨粗鬆症性骨折は,多額の医療費・介護費用を要する疾患である。近年,骨折予防のエビデンスを持った治療薬が多数開発されており,高リスク者に対する使用はおおむね正当化される。しかし医療費は有限の資源であり,それを適正に配分するという観点からは,低~中リスク者に対する高額な薬剤使用には問題がある。 ビタミンD欠乏により,くる病・骨軟化症が起こるが,より軽症の不足であっても,骨折リスクとなる。一方でビタミンD不足者の割合は極めて高い状況にある。ビタミンD不足が骨折リスクであるとの観察研究,ビタミンDにより骨折が抑制されるとの海外からの介入研究は多数報告され,ビタミンD介入による骨折発生数減少は,介入費用を大きく上回る骨折関連費用の削減となることが示されている。またビタミンDには,筋力維持による転倒防止,感染症や一部のがんのリスク減少などの効果も報告されており,ビタミンDの栄養的介入による疾患予防効果の社会的インパクトは,さらに大きい可能性がある。 栄養的介入の疾患に対する絶対的効果は薬物療法より小さくとも,広い対象に適応できるため費用対効果では上回ることもある。しかし,従来わが国においては,栄養的介入の社会的意義はほとんど研究されていない。そこで,本稿ではビタミンDによる骨折予防の社会的意義について述べ,種々の栄養的介入につき,このような視点からの検討が必要であることを示唆した。
著者
高木 絢加 武田 一彦 御堂 直樹 駒居 南保 山口 光枝 永井 成美
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.49-58, 2013 (Released:2013-05-23)
参考文献数
32
被引用文献数
4 3

【目的】温かい飲食物摂取後の,「体の温かさ」や体温の変化を検討した報告は少ない。本研究の目的は,温度の異なるスープをサンプルとして,飲食物の温度が摂食者の主観的温度感覚と深部・末梢体温に及ぼす影響を調べることである。【方法】前夜から絶食した若年女性20名に,異なる日の朝9時に,65°Cスープ摂取,対照として 37°Cスープ摂取,スープ摂取なし(ブランク)の3試行をランダムな順序で実施した。26°Cの実験室で検査衣を着用した安静状態の被検者の,サンプル摂取10分前から摂取65分後までの主観的温度感覚,深部体温(鼓膜温),末梢体温(手先温,足先温),心拍数を測定した。スープ摂取後には嗜好調査を実施した(大変おいしい[10点]~大変まずい[0点])。【結果】嗜好得点は,65°Cスープでは37°Cスープより有意に高かった。摂取後の鼓膜温,足先温,心拍数の変化量は,65°Cスープ, 37°Cスープ,ブランクの順に高値で経時変化した(Sample effect, Sample×Timeとも有意)。各測定時点の多重比較からは,65°Cスープでは,主観的温度感覚は摂取直後で 37°Cスープやブランクと比べて有意に高値であること,鼓膜温は摂取20分後まで,足先温は摂取15分後まで 37°Cスープと比べて有意に高値であることが示された。【結論】37°Cスープとの比較から,65°Cスープ摂取後の鼓膜温や足先温の上昇はスープの温度の影響を受けていると考えられた。3試行の結果から,飲食物に含まれるエネルギー基質や美味しさなどの要因に加え,飲食物の温度自体も主観的温度感覚や体温に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
川上 貴代 平松 智子 田淵 真愉美 我如古 菜月 山本 沙也加 秋山 花衣 岸本(重信) 妙子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.32-39, 2022-02-01 (Released:2022-03-12)
参考文献数
14

【目的】本研究は病院給食におけるハラール対応の現状を調査し,イスラーム教など宗教や食の信念をもつ患者の受け入れ体制の整備や対応の基礎資料とすることを目的とした。【方法】中国地方A県内の病院161施設に所属する管理栄養士を対象に,2019年12月,病院での個別対応食に関するアンケートを郵送し自己記入式アンケート調査で実施した。122施設(回収率75.8%)から回答を得てすべて解析に用いた。解析はχ2 検定,またはFisherの直接法で行った。【結果】宗教への個別対応の実施率は30.3%で病床数が多い病院ほど実施している傾向があった。ハラール対応経験のある割合は,調査対象全体の14.8%であり,既存献立の禁忌食品を除去・代替えして提供する病院が多かった。無効回答を除く120例のうちでハラールについて知っている,または聞いたことがあると回答した者は87.5%であり,ハラールを知っていると答えた者は全く知らないと答えた者と比較して,留意すべき食品として「豚肉」「アルコール飲料」「アルコール類」を選択する者が有意に高く,「醤油」については選択する者が高い傾向であった。【結論】今回,対象とした病院管理栄養士のハラールの認知度は高い一方で,給食における対応経験のある病院は少なかった。ハラール対応の具体的方法に関して,施設間での情報共有や学習の機会を持つことが重要と考えられた。
著者
永原 真奈見 太田 雅規 梅木 陽子 南里 明子 早渕 仁美
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.131-142, 2020-08-01 (Released:2020-09-26)
参考文献数
37

【目的】小学校に入学した1年生が6年生になるまでの6年間における,朝食の食事バランスと生活習慣や不定愁訴を調べ,生活習慣及び不定愁訴と朝食の食事バランスとの関連性を明らかにした。【方法】2011年入学の1年生(n=91)を対象に,起床や就寝,朝食,共食,食事の手伝い,不定愁訴に関する自記式質問紙調査を6年間継続して実施した。学年時別実態及び経年変化を明らかにすると共に,朝食の食事バランスと関連のある生活習慣・不定愁訴について検討した。【結果】朝食の欠食率は1~4年時は3~5%,5・6年時は11~14%に増えており,共食の割合は進級に伴って減少していた。朝食で主食・主菜・副菜がそろった食事をしている児童の割合は1年時が45.1%と最も高く,4~6年時には主食のみの食べ方が増加した。起床時刻や自律起床習慣は,高学年時に顕著な改善はみられず,就寝時刻は進級に伴って遅くなっていた。不定愁訴に関しては,6年時の児童の約90%がだるさや疲れ,イライラやむかつきを感じ,約63%が学校が嫌になることがあると回答した。また,朝食の食事バランスは,起床・就寝時刻,共食,手伝い,疲れ,学校が嫌の項目と関連がみられた。【結論】低学年時に望ましい生活習慣を確立できるよう積極的に介入すること,高学年時にはバランスの良い朝食摂取や睡眠の意義を再教育し,不定愁訴にも配慮することの重要性が示唆された。
著者
田原 遠
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.45-56, 2018-06-01 (Released:2018-07-11)
参考文献数
22
被引用文献数
1

【目的】あいりん地域でよく利用されている料理を参考にして作成した「目安量表」を用いて半定量食物摂取頻度調査法(Semi-Quantitative Food Frequency Questionnaire:FFQと略す)で調査を行った。その妥当性について検討することを本研究の目的とした。【方法】あいりん地域に生活の拠点を置く者を対象としてFFQを実施し,255名(全男性)の参加者を得た。このうち21名については食事記録についても協力が得られたため,この21名を本研究の対象者とした。食事記録より得られた値を基準とし,目安量表を用いたFFQより得られたエネルギー及び栄養素摂取量,食品群別摂取量について相関係数を用いて妥当性を検討した。【結果】エネルギー及び栄養素摂取量における相関係数の中央値は粗値で0.57,エネルギー調整,de-attenuation後では0.56であった。相関係数0.4以上が得られたのは粗値でも,エネルギー調整,de-attenuation後でも33項目中28項目であった。食品群別摂取量における相関係数の中央値は粗値,エネルギー調整後共に0.50であり,相関係数0.4以上が得られたのは粗値,エネルギー調整後共に17項目中12項目であった。【結論】様々な制約はあるものの,この目安量表を用いたFFQは今回の対象者においてある程度有効なツールになり得ることが示された。
著者
横家 将納
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.263-269, 2010 (Released:2010-10-26)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

メッシュ気候値および人口メッシュデータを利用して都道府県別に求めた日最高気温,日平均気温の平年値と幼児,児童,生徒の身長および体重の都道府県別平均値との関係を調べた結果,負の相関が認められた。すなわち,気温の低い地域ほど,身長は高く,体重は重くなるという地域相関が見られた。これら気温と体格との地域相関の原因については,地域による栄養素摂取量の過不足やバランスの違い,ベルクマン・アレンの法則による遺伝的適応などについても考えられたが,気温などの環境要因による食物摂取量への影響などが体格の地域差をもたらしている可能性が考えられた。またこのことは,現代の日本における栄養素摂取量やそのバランスが地域によらず均一化したため,結果的に気温などの環境要因が食物摂取量などに与える影響が体格の地域差として表面化している可能性があると考えられた。(オンラインのみ掲載)
著者
野村 真利香 山口 美輪 西 信雄
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.60-68, 2022-02-01 (Released:2022-03-12)
参考文献数
26
被引用文献数
1

【目的】栄養不良の二重負荷の国際的な議論において,栄養の二重責務行動(Double-duty actions for nutrition)が提案された経緯を検証し,日本からどのような提案ができるか考察すること。【方法】国連ならびに関連機関から発行された報告書・政策文書については公式ウェブサイトによる文書検索を行い,特に栄養の二重責務行動については文献データベース検索を行った。【結果】低栄養と過栄養に対する政策・介入は,それぞれが個別に独立して行われているという反省から,近年では,低栄養か過栄養かのいずれかではなく,複数の栄養不良形態への同時効果的な栄養政策・介入が必要であるという概念,すなわち栄養の二重責務行動の重要性が議論されている。政策立案者は限られた資源(財政,人,時間)を用いて複数の目標を達成することが求められることから,その解決策としていくつかの栄養の二重責務行動が提案されているが,World Health OrganizationならびにLancetが提案した栄養の二重責務行動は母子を対象とした政策・介入が比較的多く,人生早期における介入が重視されていた。【結論】あらゆる栄養不良の解消がうたわれているSustainable Development Goals達成を目指すためには,母子健康手帳や妊産婦健診・乳幼児健診を通じた母子栄養サービス,学校給食・食育,栄養人材育成,国民健康・栄養調査,各種基準・指針など,日本が従来から行ってきたようなより幅広い世代を対象とした栄養政策・介入からも栄養の二重責務行動が検討されるべきである。
著者
森 光寿 立石 小百合 戸谷 永生
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.82-89, 2011 (Released:2011-07-02)
参考文献数
23

【目的】大量調理に使用される揚げ油の劣化に関するデータを収集し,揚げ油劣化の簡便な検査方法について検討する。【方法】大学内食堂で連続的に揚げ作業に使用している油の化学性状分析と色相の測定を行った。【結果】本大学食堂の揚げ油は,1日に3時間,連続9日間使用される場合,酸価(AV)は食品衛生法に定められる範囲内にあり,カルボニル価(COV),極性化合物量(PC),トリアシルグリセロール量(TG),色相はそれぞれ2~10,5~18%,90~98.5%,G1~12となった。AV,COV,PCと色相ガードナーの変化の相関性は高かったが,AV,COV,PC,色相ガードナーとTGの変化は相関性が低かった。【結論】本大学食堂で揚げ調理に使用される油のAV,COV,PCと色相ガードナーの変化はよく相関するため,測定が簡便・安価な色相ガードナーを,揚げ油劣化の進捗を測定する方法として調理現場で利用可能なことが示唆された。
著者
佐藤 陽子 小林 悦子 千葉 剛 梅垣 敬三
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.113-122, 2019-10-01 (Released:2019-11-01)
参考文献数
26

【目的】サプリメントの不適切な利用や健康被害が懸念されている。そこで,若年女性にサプリメントに関する正しい知識を普及するため,実態調査結果を踏まえた啓発リーフレットを作成し,その有用性を検討する。【方法】2015年10月~11月に女子大学・短期大学生230名を対象にサプリメントに対するイメージ,サプリメント利用状況,性格特性,食物摂取頻度について調査した。サプリメントに対するイメージをクラスタ分析にて分類し,得られたクラスタと有意な関連が認められた項目を主として用い,サプリメントに対するイメージを推測するYes/Noチャートを作成後,Yes/Noチャートを活用した啓発リーフレットを開発した。さらに2017年11月に女子短期大学生190名を対象に,啓発リーフレットのユーザビリティ調査を実施した。【結果】サプリメントに対するイメージは3つのクラスタに分類でき,作成したYes/Noチャートにて,この分類のおおよその推測が可能であった。また,啓発リーフレットによる情報提供は,女子短期大学生のサプリメントについての基本事項の認識を変化させることができた。【結論】本研究にて開発したリーフレットは,対象の女性に興味を持って見てもらえ,認識の変化にも寄与できたことから,サプリメントに対する正しい知識の普及に活用できる可能性が示唆された。
著者
大野 公子 野澤 美樹 伊藤 早苗 佐藤 理恵子 石田 裕美 上西 一弘
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.57-65, 2020-04-01 (Released:2020-05-27)
参考文献数
23

【目的】中学1年生女子における鉄欠乏を横断的に把握し,鉄欠乏のリスク因子を明らかにして,鉄欠乏の予防に役立てることを目的とした。【方法】我々は,都内にある私立中高一貫校において,身体組成,血液検査等を継続して実施している。本研究の解析対象者は2012~2017年度に入学した中学1年生女子715名のうち,本研究で使用する全てのデータに不備のない493名である。調査項目は,身体組成,血液検査結果,食物摂取頻度調査,日常生活に関するアンケートとした。なお血清フェリチン 12 ng/ml未満を鉄欠乏群, 12 ng/ml以上を正常群として解析を行い,二項ロジスティック回帰分析を用いて鉄欠乏のリスク因子を検討した。【結果】正常群に比べ,鉄欠乏群は肥満度,体脂肪率,体脂肪量,初経発来者率が有意に高値で,初経後経過月数が有意に長かった(p<0.05)。正常群に比べ,鉄欠乏群は魚や肉を昼食に「食べない」と回答した者の割合が有意に高く,自分の体型に「満足している」と回答した者の割合が有意に低かった(p<0.05)。初経発来してない者に比べ,発来している者は鉄欠乏のリスクが9.44倍高く,魚や肉を昼食に「食べない」者に比べ,「普通に食べる」「たっぷり食べる」者は鉄欠乏のリスクが0.28倍,0.09倍それぞれ低かった(p<0.05)。【結論】中学1年生女子の鉄欠乏を予防するためには,体外への鉄損失量を食事で補うことが必要であり,鉄欠乏のリスクは,昼食に肉や魚を食べる者において低いことが示唆された。
著者
堀川 翔 赤松 利恵 堀口 逸子 丸井 英二
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.129-139, 2012 (Released:2012-04-24)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【目的】小学校高学年向けの食の安全教育に用いるカードゲーム教材「食のカルテット」のルールや内容,受け入れやすさについて利用可能性を検討すること。【方法】2011年9月から11月に,A県1市1町の小学校計6校の5年生,6年生,教職員を対象に,「食のカルテット」の施行及び自己記入式質問紙調査を実施した。「食のカルテット」は,食の安全の内容を中心とした,食に関する全般的な知識を習得することを目標としたカードゲーム教材である。ゲームの実施前及び実施後に「食のカルテット」の内容を10問質問し,ゲーム実施前後の回答を,各問題の正答率はMcNemar検定,合計得点はWilcoxonの符号付き順位検定によって比較した。また,児童及び教職員にゲームの内容やルールについての評価を質問した。【結果】児童294人,教職員28人が質問紙に回答した。「食のカルテット」の内容の問題は,実施前より実施後で正答率が上がったものと下がったものがみられたが,10問の合計得点は実施後が有意に高かった(Z=-3.657,p<0.001)。91.8%の児童がゲームを「とても楽しかった」と回答しており,自由記述(84.0%が回答)でも「楽しみながら・遊びながら学べた」という記述が回答者の34.0%にみられた。教職員の自由記述(63.3%が回答)でも「食に関する知識が身につく」,「楽しみながら学べる」などの意見が得られた。【結論】児童の回答から,「食のカルテット」のルールは児童に受け入れられ,楽しく学べる教材であることが示された。今後は,教材としての効果を検討する必要がある。