著者
藤原菜見
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第35回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.71, 2016 (Released:2021-03-12)

【背景と目的】地域包括ケア病棟は入院日数60 日以内で在宅復帰を目指す病棟である。今回、当院における地域包括ケア病棟においても、入院時の機能から在院日数と退院時の歩行が予測可能か検討をおこなった。【方法】対象は、処方の出た患者28 名。平均年齢79.12(±12.1)歳。在院日数に対しては、1 年齢2 大腿四頭筋筋力3 握力4 上腕周径5 上腕皮下脂肪厚6MMSE7Functional Ambulation Categories(以下:FAC) の7 項目で検討を行った。退院時歩行状態はFAC を用いて、上記1~7 の項目で検討を行った。統計学的解析はJSTAT による変数減少法を用いた重回帰分析を行った。【結果】在院日数について得られた変数は1.2.4.6 であった。しかし、有意水準5%で重回帰式は有意と言えず、R2 は0.23 であった。そのため、今回の項目から在院日数を予測することは困難であった。退院時FAC については、得られた変数は3.6 であり、それぞれ偏回帰係数は0.17 と0.12、標準偏回帰係数は0.64 と0.34 であった。有意水準1%で重回帰式の検定は有意であり、R2 は0.61 であった。【考察】地域包括ケア病棟で入院時の機能から在院日数と歩行自立度の予測が可能か検討を行った。在院日数は、退院に関わる要因として社会的背景などの影響が大きく関わるため、伊藤らが回復期病棟でおこなった検証結果と同様、機能面から予測することはできなかった。一方、退院時の歩行能力については、握力とMMSE で予測可能という結果になった。握力は、全身の筋力を表わしており、入院時から筋力があるものが歩行は自立しやすいと考えられる。また、MMSE は、認知機能のスクリーニング検査であり、認知機能が低下すると、意欲低下や注意・判断能力の低下等の症状が出現し、転倒のリスクにつながる。そのため、歩行自立度に影響を与えたと考えられる。今回、在院日数の予測は困難であったが、今後は社会的背景やFIM 等のADL 評価も含めて、今後も検討をおこなっていきたい。
著者
小嶋 佑亮 鶴井 慎也 風晴 俊之 美原 盤
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.O-109, 2020 (Released:2020-01-01)

【はじめに】地域包括ケア病棟にはポストアキュートとサブアキュートの役割があるが、これからのわが国の診療提供体制から鑑みるとサブアキュートとしての役割が強く求められる。自宅から入院するサブアキュート患者は、何らかの原疾患および障害を抱えていることが多い。 これらの患者に対し入院中理学療法が介入し入院前のADL状況と変わらない状態になったにもかかわらず、自宅復帰できない場合は少なくない。そこで今回、非自宅復帰者の特性について比較・検討した。【方法】2017年6月から2018年12月に地域包括ケア病床に入院し、理学療法士が介入した275名のうち、自宅から直接入院した患者103名を対象とした。対象を自宅復帰と非自宅復帰の2群に分類し、入棟時・退棟時FIM、入院前のADL状況、入院前主な移動手段(歩行・車椅子)、入院目的疾患を調査、比較した。また自宅転帰できなかった患者の要因を調査した。【結果】入棟時・退棟時FIMにおいて運動項目および総点数は非自宅復帰群で有意に低かったが、両群ともFIM の有意な改善を認めた。入院前のADLにおいて非自宅復帰群は、なんらかの介助を要する患者が84.6%と自宅復帰群の50.0%に比較し有意に多く、入院前の移動手段が介助歩行、車椅子であった患者の割合も非自宅復帰群が53.8%で、自宅復帰群34.4%に比較し有意に多かった。 なお、非自宅復帰群は内科系疾患がほとんどで、新規に麻痺などの機能障害を呈した患者はいなかった。自宅転帰できなかった患者のうち、76.9%は家族の受け入れの問題があった。【考察】当該病棟に自宅から直接入院してくるサブアキュート患者のうち、入院前からADL動作能力が低い患者は、在宅転帰しにくいことが示された。理学療法士の努力によりADL能力の改善が図られても、家族の受け入れにより自宅転帰が阻害される。自宅復帰を促進するには家族への働きかけが重要である。
著者
岩田一輝 武井圭一 森本貴之 山本満
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第35回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.50, 2016 (Released:2021-03-12)

【目的】歩数を用いた身体活動(PA)量を継続する自信(SECPA)の評価法を開発し、その信頼性と妥当性を明らかにすることである。【方法】当院教育入院に参加した糖尿病患者30 名を対象に、退院前日にSECPA と岡らが作成したPA セルフ・エフィカシー尺度(SEPA)を評価した。SECPA は、8 日間の歩数の平均を軸に平均±2000 歩・±1000 歩の5 つの階級を設定し、「週3 日以上の頻度でその歩数を継続できる自信」を0-100%で他記式にて評価した。SEPA は、歩行や階段などのPA について時間や階数で5 つの階級を設定し、各階級を遂行できる自信を0-100%で表す評価法である。分析は、SECPA とSEPA 歩行・階段の5 階級の平均値を求め、2 群を比較した。SECPA とSEPA の5 階級平均、およびSECPA の平均歩数以上の階級とSEPA の5 階級平均について相関分析を行った。あらかじめ、健常者20 名に対してSECPA を2 週間の間隔をおいて2 回評価し、α係数と検査・再検査間の級内相関係数を求めた。本研究は、当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】SECPA のα係数は0.93、級内相関係数は0.63 であった。SECPA 各階級の平均は、-2000 歩から順に95%、92%、84%、77%、68%であった。5 階級平均は、SECPA が83±16%、SEPA 歩行が59±30%、階段が69±21%であり、SECPA の方が有意に高かった。SECPA の5 階級平均および平均歩数とSEPA の間に有意な相関はなかった。SECPA の+1000 歩・+2000 歩とSEPA 歩行の間に有意な相関(r=0.37・r=0.47)を認めた。【考察】SECPA の信頼性は概ね確保されたと考えた。SECPA は、過去に達成した平均歩数を軸に対象者個々に階級設定するためSEPA より高くなったと考えた。SECPA の高階級とSEPA 歩行に関連を認めたことから、SECPA が歩行というPA を遂行する自信度を反映した評価法であると考えた。また、SECPA が実際に達成できた平均歩数に対して84%程度であったことは、今後の継続性を反映していることが示唆された。
著者
石井佑穂 水田宗達
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第35回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.281, 2016 (Released:2021-03-12)

【はじめに】生活環境と身体機能の変化により右坐骨部の褥瘡を繰り返した胸髄損傷者に対し褥瘡予防アプローチを行った一症例について報告する。【症例】20 代男性、H18 年に第6 胸髄損傷、外傷性くも膜下出血、右肘脱臼骨折を受傷し、対麻痺、高次脳機能障害を呈した。退院後無職であったが、その後就職し褥瘡再発を繰り返しH24 年9 月他病院で手術を受け完治せず翌年4 月に治療、シーティング目的に当センター転院。症例には口頭にて説明を行い書面で同意を得た。当センター倫理委員会にて承認を得た(H28-2)。【理学療法評価】FrankelA、ROM(R/L)肘関節伸展‐45°/0°、足関節背屈‐15°/‐15°(初期入院時0°/‐5°)。座クッションは特殊空気室構造使用。車椅子乗車姿勢は重心右偏倚、骨盤後傾、左回旋位、胸腰椎屈曲位。体圧は大腿部の接触がなく右坐骨部が高値。駆動時は左上肢リーチに右上肢を合わせるため体幹左回旋での代償と臀部の前方滑りあり。通勤は自走と電車を利用し片道60 分。【方法】背張りで腰部を支持し上部体幹伸展位で座位をとれるように調整した。クッションへの接触面積を増やすため座板での前座高調整、フットサポート高調整を行った。右上肢リーチに左上肢を合わせるように駆動方法指導を行った。体圧分布測定装置で体圧を測定し、臀部の前方滑りはシートと膝窩の距離で測定した。【結果】骨盤中間位の姿勢で座位保持ができ、体圧は大腿部の接触面積が増え坐骨部の圧が減少した。駆動時の前方滑りは調整前右1.0cm 左1.5cm、調整後左右0cm。褥瘡は治癒し退院後再発はない。【考察】退院後の生活変化により足関節背屈制限、座位姿勢の変化、屋外駆動時間の増加が起こり右坐骨部の褥瘡リスクが上昇した。適切な座位姿勢調整、体圧評価、駆動方法指導が褥瘡改善の一助となり、その後の褥瘡リスクの軽減につながったと考えられる。褥瘡予防には身体機能だけでなく生活、環境等の多面的視点が必要である。
著者
長坂 嘉久 深谷 奎太 宮沢 千瑛里 吉原 光 宮田 義潤 小田部 夏子 糸数 昌史
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.F-020, 2020 (Released:2020-01-01)

【目的】発達性読み書き障害は,読み書きの能力が年齢,知能,教育の程度から期待されるレベルより低く,難聴や弱視を持たない場合である.また,先行研究より上肢関節位置覚は発達に伴う再現誤差の減少が確認されているが,手指動作評価はない.これらから書字に影響する関節位置覚評価が必要と考え,本研究では指間距離を赤外線センサを用いて計測し,発達に伴う関節位置覚の検討を行った.【方法】対象は、健常大学生21名,健常小学生23名(低学年児10名,高学年児13名),読み書き障害児9名とした.研究実施にあたり国際医療福祉大学研究倫理委員会の承認(承認番号15-T-13)を得た後に,対象者に十分な説明を行って同意を得た.指間距離は脳活計(ソフトシーデーシー)に接続した赤外線センサ(Leap motion)を用い,センサで得た手の空間座標から母指と示指間の直線距離を算出し,指間距離とした.計測肢位は座位とし,肩関節・肘関節を軽度屈曲した肢位で肘頭を机上の計測用台座に接地させ,前腕を台座に乗せセンサから約15cm上方に手が位置するよう固定した.計測運動は母指および示指のIP関節を伸展位を保持して母指と示指の指腹を近づける運動とした.計測は始めに母指と示指の最大距離を計測して開始肢位を設定し,その半分の距離を計測課題と設定した.計測課題の肢位(A)を5秒間記憶した後,手を開始肢位に戻し,次に記憶した肢位を再現させた(B).AおよびBの指間距離の差分の絶対値(|Δ|)を再現誤差と定義した.統計処理はJSTAT Ver16.1にて,Kruskal-Wallis検定と多重比較検定としてScheffe法を用いた.有意水準は5%とした.【結果】年齢が低くなるとともに,|Δ|は増加した.大学生と低学年児,大学生と読み書き障害児の間で有意な|Δ|の増加が認められた.【考察】先行研究と同様に指間距離においても,発達に伴う再現誤差の収束が認められ,発達に伴う手指などの関節位置覚の精度向上を反映していると考える.
著者
贄田 高弘 今井 稚菜 田島 健太郎 黛 太佑 横澤 美咲 樋口 大輔
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.O-33, 2020

<p>【目的】健常者において、ライデルセイファー音叉を用いた振動覚検査法(RS法)の検者内・検者間信頼性を明らかにすることを目的とした。</p><p>【方法】検者は理学療法士5人(経験年数2 〜10年)とし、被検者は健常成人20人(男性16人、女性4人、29.2±6.2歳)とした。RS法で用いるRS音叉の頭部には0 〜8の目盛りがあり(数値が大きいほど振動が弱い)、被検者が振動を感じなくなった時点の目盛りを読み取った。従来法として、音叉を検査部位に当ててから被検者が振動を感じなくなった時点までの時間(感知法)と被検者が合図した時点から振動が停止した時点までの時間(不感知法)を測定した。音叉は右内果にあてた。検者内信頼性は1 人の被検者に対し、特定の検者1人が1週間以上の間隔をあけて2度、3種の振動覚検査を5回ずつ行った。次に、検者間信頼性は1人の被検者に対し、任意の3人の検者がそれぞれ3種の振動覚検査を5回ずつ行った。ICC(1,2)とICC(2,3)を算出した。</p><p>【倫理的配慮】高崎健康福祉大学倫理審査委員会の承認を得た(3064号)。対象者には本研究の説明し、同意を得た。</p><p>【結果】検者内信頼性で20人に行った各10回述べ200回の検査値は、RS法が7.7±0.6(5 〜8)点、感知法が18.0± 3.7(10.6 〜30.5)秒、不感知法が8.1±2.8(1.3 〜14.1)秒であった。ICC(1,2)はRS法が0.77(95%信頼区間 0.43 〜0.91)、感知法が0.65(0.12 〜0.86)、不感知法が 0.81(0.52 〜0.92)であった。ICC(2,3)はRS法が 0.85(0.69 〜0.94)、感知法が0.85(0.70 〜0.94)、不感知法が0.59(0.61 〜0.83)であった。</p><p>【考察】感知法と不感知法はRS法と比較して検者内信頼性または検者間信頼性で劣っていた。これは、検者内でも音叉を叩く強さが一定でなかったことや、検者間で終了時点の判断にばらつきを認めたことによると推察された。</p><p>【まとめ】ライデルセイファー音叉による振動覚検査は検者内、検者間信頼性共に担保できる方法である。</p>
著者
須藤 沙織 細井 匠
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>安心してリハビリを行うことができる環境を作ることを目指し,2011年3月,「小金井リハビリ連絡会」が正式に発足し研修部が置かれた.研修部では会員が望む研修内容を明らかにするため本調査を行った.<BR>【方法】<BR>小金井リハビリ連絡会会員63名を対象に,郵送自記式質問紙検査法を繰り返すデルファイ法を用いて調査した.調査1では対象者が望む研修内容を5つ以内で自由に記載していただき回収した.また基本属性として年代,性別,所属機関,各職種免許取得からの年数を尋ねた.調査2では集まった研修内容に対する興味の程度について5段階での評価を依頼し回収した.調査3では,調査2で返信のあった方を対象に,調査2における各研修内容に対する本人評価得点と,参加者全員の評点の中央値と四分位範囲を提示した上で,再評価を依頼し回収した.調査3で得られた回答を間隔尺度とみなし平均値を基にランキングを作成した.また対象者に書面にて本研究の主旨と得られたデータは個人が特定されないよう配慮し発表する旨を伝え,同意を得た.<BR>【結果】<BR>調査3で得た30名の回答の中の,38本の研修内容の評点を基にランキングを作成した.30名の職種はPT17名,OT13名,免許取得からの年数は平均9.4±10.0年であった.全体のランキング1位は「腰痛の評価とアプローチ」,2位「脳卒中患者の歩行練習」,同率3位「注意障害へのアプローチ」,「慢性疼痛に対するアプローチ」であった.免許取得からの年数で分類すると3年以下の8名では1位が「画像診断の方法」,同率2位「注意障害へのアプローチ法」「脳卒中患者の歩行練習方法」,「腰痛の評価とアプローチ」等であり,年数10年以上の9名では1位が「臨床動作分析からの治療介入」,同率2位「訪問リハビリの現状と課題」「腰痛の評価とアプローチ」,同率3位「慢性疼痛に対するアプローチ」,「小金井市のサービス提供内容について」等が上位にランクされていた.<BR>【考察】<BR>全体1位となった「腰痛の評価とアプローチ」は職種別、免許取得からの年数別のランキングでも上位にランクしていた.腰痛患者はリハビリテーションの対象となる機会が多いため上位に入ったと考えられる.年数別では,新人は評価等の基礎知識,ベテランでは保険やサービスに関する事が上位となり相違を示した.職種,年数によって求める研修が異なることが明らかとなり,研修を提供する前に,どの層を対象として企画するか熟考する必要がある.<BR>【まとめ】<BR>研修は技術向上のために不可欠だが,ニーズ調査は十分になされていない.対象者の臨む研修内容を明らかにした点は,今後有意義な研修を行う為に貴重な資料となった.
著者
相原 正博 西崎 香苗 廣瀬 昇 久津間 智允 池上 仁志
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.234, 2010 (Released:2010-10-12)

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)の手術方法である人工膝関節全置換術(以下TKA)は,除痛及び下肢アライメントの矯正による他関節の負担軽減など その有効性は高い.横山らは,膝OA患者の立位時の重心動揺検査測定値が増加する傾向にあることを報告している.今回我々は,TKAを施行した患者の術 前・術後において下肢荷重検査を実施し,手術施行によるFTAの変化が重心動揺に及ぼす影響を検討した. 【方法】対象は膝OAと診断された手術患者から12名を無作為抽出し,本研究の同意を得た上で,術前・術後1ヶ月・術後3ヵ月以降の各時期に下肢荷重検査 を実施した.測定方法は,キネトグラビレコーダ(アニマ社製G-7100)を用い,静的立位姿勢の左右下肢別に計測した.測定時間は30秒間,測定回数は 1回とした.測定項目は下肢荷重検査から重心動揺検査の総軌跡長・単位軌跡長などとした.FTAはX線画像より計測し,手術前後のFTA変化量が10°未 満(n=5),10°以上の群(n=5),20°以上の群(n=2)の3群に分け比較検討した.統計学的解析にはt-検定を使用した. 【結果】総軌跡長(cm)の結果では術前と術後1ヶ月の差が10°未満群では-4.01±3.65,10°以上の群-2.43±6.43,20°以上の群 では-27.21±14.88であり,10°未満群と10°以上群に有意差はなかったが,20°以上群では10°未満群,10°以上と比較し,それぞれ有 意差(p=0.02,p=0.02)が生じていた.単位軌跡長(cm/秒)の結果では術前と術後1ヶ月の差が10°未満群では-0.13±0.12, 10°以上の群-0.08±0.22,20°以上の群では-0.91±0.50であり,10°未満群と10°以上群に有意差はなかったが, 20°以上群では10°未満群,10°以上と比較し,それぞれ有意差(p=0.02,p=0.02)が生じていた. 【考察】本研究結果において,手術によりFTAが著明に変化(20°以上)した群では,FTAの変化の少ない群(20°未満)と比較し,術後の総軌跡長と 単位軌跡長において増大傾向がみられた.このことはFTAの著明な変化は立位重心動揺に影響を与えていることを示している.よってTKAの術後理学療法を 行う際には,FTAの術前後変化に留意し,高度にFTAが変化した症例においては,重心動揺が増加している可能性が高く,早期理学療法時には重心動揺計などを用い,適切な立位バランスを評価することが必要であり,この点に着目して理学療法を実施することは歩行・立位バランスの早期改善に有効であるとことが 示唆された.
著者
渡邊 勧
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.46, 2011

【目的】<BR>介護保険サービスにおける通所リハビリテーションは、コミュニティの場としての集団性を活用した参加、活動の向上や、リハ専門職が個別に介入し、ADL維持・向上を目指す場として知られているが、リハ専門職が通所リハビリテーションに従事する通所リハ利用者と実施していない通所介護サービスの利用者とADL推移を比較することで、リハ専門職が従事する意義を検討することとした。<BR>【方法】<BR>調査は通所リハ3施設、通所介護3施設の協力のもと半年間(2010年4月および10月)で行われ、利用者には担当ケアマネージャーを通して研究の趣旨を説明し、同意を得た後、2回の調査を実施した。対象は、調査期間中、健康状態の悪化等により、大幅なADLの低下や入院時の医療リハを受けていない要介護1~5の通所リハ利用者52名(男性23名、女性29名、平均年齢82.6±8.3歳、平均介護度2.3±0.9)及び通所介護利用者30名(男性8名 女性22名 平均年齢88.2±6.1歳、平均介護度2.6±1.1)の計82例を対象とし、2群間におけるFIM得点の推移比較を行った。統計処理は、統計処理ソフトIBM SPSS Statisticsを用い、群間及び6ヶ月後のADL推移をベースライン時と比較した。なお、危険率は5%未満とした。<BR>【結果】<BR>群間おける比較では、年齢(p=0.002)、FIM総合点は通所リハ群97.8±20.5、通所介護群82.4±24.1(p<0.05)、FIMの各項目においては、すべての項目で群間の差が認められた。半年間の変化量については、移乗項目が通所リハ群-0.1±0.9、通所介護群-1.5±2.5(p<0.05)であり、その他の項目には有意差が認められなかった。<BR>【考察】<BR>群間の差は、対象者のニーズからのサービスの振り分けによる差も考えられ、より若く、ADLの高い対象者がリハビリテーションを希望することが一つの要因と推測される。ADLの低下は両群に認められ、より通所リハ群が少ないことから、専門職としての介入効果は関係していると考えられるが、移乗項目以外の項目には有意差が認められなかった。これはセルフケアをはじめとする項目は介護士による介入が多く、実際に在宅のADL向上に結びついていないことで生活の延長である通所介護と差異がなく、リハの特性が生かせていないのではないかと推測する。<BR>【まとめ】<BR>施設リハにおいては、個別リハを対象とした関わりを持てる範囲も限られることから、今後より長期的な調査を実施しながら、ADL全般を他職種と連携したリハビリテーションにつなげる介入の検討に繋げていくリハ専門職の意義が問われると考える。<BR>
著者
保坂 健吾 草葉 隆一 秋元 咲貴子 寺本 洋一(MD) 柳澤 透(MD) 関 勝(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.41, 2007

【はじめに】コンパートメント症候群(以下CS)は、下肢では下腿に好発し筋・神経に阻血性壊死をもたらす疾患である。今回、右殿部・大腿部にCSを呈し、歩行獲得に難渋した症例を経験したのでここに報告する。<BR>【症例紹介】28歳女性、無職独居。併存疾患は、Marfan症候群(軽度の大動脈弁閉鎖不全、両側水晶体脱臼)、境界性人格障害がある。<BR>(現病歴)平成18年11月28日睡眠薬20錠内服しホットカーペット上で昏睡状態となった。9時間後に覚醒したが、右下肢に異常を感じ、自ら救急車を要請し当院に搬送。左頬部、右殿部・足部の褥瘡、右腓骨神経麻痺疑いにて入院加療となった。後日、右殿部・大腿部の腫脹とCK値上昇認め、CT所見より同部位のCS、挫滅症候群と診断された。<BR>(評価)殿部褥瘡はCampbellよる分類グレード3、大きさ14.5×21.0cm、安静時痛あり。関節可動域は褥瘡部伸張痛により右股関節屈曲90°で制限あり。患側MMTは、大殿筋・中殿筋・ハムストリングス2、大腿四頭筋4、前脛骨筋・下腿三頭筋0と筋力低下を認めた。感覚は右坐骨神経領域脱失。平行棒内歩行可能だが、患側遊脚期では下垂足を認め、立脚期では前足部で接地し立脚中期で支持不十分、踏み切りが弱かった。<BR>【経過】第8病日より理学療法(以下PT)開始し、ROMex、筋力強化、起立動作、平行棒内歩行を施行した。第14病日、T字杖歩行へ移行した。第21病日、下垂足に対するプラスチック短下肢装具が完成し、遊脚期のクリアランスが良好となった。第27病日頃より、殿部褥瘡による右大殿筋の収縮時痛が増強し、右踵接地時に過度な体幹の前傾が出現した。第52病日、デブリードマン・縫合術を施行、PT一時中止した。第58病日、PT再開。殿部疼痛消失しており、踵接地時の体幹前傾も改善された。第64病日、股関節伸展を促すためトレッドミル歩行(以下TM)を開始した。第69病日、右単脚支持期の延長、右ストライド長の増加を認めた。第72病日、退院となりPT終了した。<BR>【考察】本症例はCS・挫滅症候群による筋力低下、褥瘡治癒遅延により歩行獲得に難渋した。術後も患側立脚中期では、股・膝関節軽度屈曲位で後方重心となり支持不十分な状態で踏み切りが弱かったことが問題となった。これに対し、TMを実施し、良好な結果が得られた。文献によるとTMは、平地歩行に比べ、立脚期の股関節伸展が強制されやすく、陽性支持反射を促通し、下肢の支持性が向上しやすいとある。この効果は、本症例のような殿部・大腿部CSにより筋力改善困難な症例に対しても、歩容矯正に有効であるものと考えられた。
著者
平塚 沙織
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.60, 2006

【はじめに】前十字靭帯損傷はスポーツ時の受傷が多く、再建術後のスポーツ復帰時期については、術後期間や筋力測定結果が参考になる。今回、術後4ヶ月時の筋力測定データを中心に健側・患側の筋力差を比較検討したので報告する。<BR>【方法】2004年7月から2005年6月に当院で手術を行い、その後術後約4ヶ月で筋力測定した患者40名(男25名、女15名)を対象とした。術式は、半腱様筋腱と薄筋腱を用いたquad-STG法。平均年齢は31.1±10.3歳(13歳から52歳)。受傷機転は、スポーツ外傷37名、その他3名。測定機器は、BIODEX SYSTEM3Cを使用し、術後約4ヶ月時の膝伸展・屈曲筋力を測定した。角測定は60,180deg/secに設定し求心性収縮運動とした。測定結果の最大トルク値における欠損に注目した。また某社が公開している60deg/secでの膝伸展,屈曲筋力の年代別平均値を、一般レベルで特にトルク/体重値に着目し比較した。<BR>【結果】角速度60deg/secにおける膝伸展筋力の欠損は平均37.0±14.9、膝屈曲筋力の欠損は平均27.9±17.0。角速度180deg/secにおける膝伸展筋力の欠損は平均29.8±11.3、膝屈曲筋力の欠損は平均18.4±15.9であり、術後4ヶ月ではスポーツ復帰の目安としている膝伸展筋力最大トルクでの欠損(20%以下)は、殆ど認められなかった。しかし膝屈曲筋力では欠損20%以下の例は多く見受けられた。また某社の平均値との比較では、健側が平均値を上回る例が膝伸展筋力で34例,欠損平均は36.7±15.8。膝屈曲筋力で24例,欠損平均は28.2±19.6。健側患側ともに平均値を上回る例は膝伸展筋力で5例,欠損平均は20.9±7.1。膝屈曲筋力で11例,欠損平均は12.9±13.4。さらに健側患側ともに平均値を下回る例は膝伸展筋力で6例,欠損平均は38.7±8.8。膝屈曲筋力で16例,欠損平均は27.3±12.8だった。平均値比較では数的に膝伸展筋力が膝屈曲筋力よりも強く見えるが、欠損平均を見ると膝屈曲筋力の方が欠損20%以下に近い。また健側患側ともに平均値を下回った例では、上回った例に比べて欠損平均は高い。<BR>【考察】早期にスポーツ復帰するためには、術後早期に左右平均的な筋力がほしい。今回の結果から、膝伸展筋力よりも膝屈曲筋力の方が早期に回復する。また両側の筋力が平均値よりも低い場合健患差は大きくなっていた。これは両側の筋力が弱い程回復が遅くなると考えられた。もしそうであるなら術後ならず、手術以前からの筋力増強が必要であると考えられた。
著者
尾崎 麻子 北原 絹代
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>住民主導の地域づくりは介護予防事業の重要な視点であり、事業推進において住民ボランティアを育成、活用することが求められている。前橋市では介護予防サポーター(以下、サポーター)と名付けたボランティアの養成をしている。本研究の目的は、サポーター活動を5年間継続している女性へのインタビュー内容からサポーターへの参加及び継続のプロセスを明らかにすることである。<BR>【方法】<BR>サポーター活動を5年間継続している60歳代の女性1名を対象にサポーター参加前から現在の生活について半構成インタビューを実施し逐語録を作成した。その内容を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下、M-GTA)を用いて分析した。本研究は介護予防事業主管課の了承を得たうえで「疫学研究に関する倫理指針」を遵守して実施した。対象者には本研究への参加について書面と口頭にて説明し、同意を得た。<BR>【結果】<BR>分析結果から4つのカテゴリーが生成された。サポーター活動を継続している女性は、サポーター参加前に[感謝される体験]や[市の事業という意識]を持っており、サポーターとしての経験の中で[他者との交流から得る感動][地域のサポーターとしての自覚]というプロセスを経て現在に至っていた。<BR>【考察】<BR>[市の事業という意識]から参加へのきっかけになったのは市の事業である安心感や民生委員等の市からの委嘱を受けている者特有の使命感であると思われた。<BR>[他者との交流から得る感動]では市が独自作成したピンシャン!元気体操等を用いてサロンを運営し参加者と交流を持つ中で参加者の変化に感動を得ていた。この感動から、参加者や地域づくりに役に立っている実感を得、地域のサポーターとしての自覚を新たにしていた。この感動から自覚へというプロセスが長期継続に必要な要素として示唆された。介護予防事業を担う理学療法士は、サポーターが参加者との交流を持ち、感動や実感を得られるような活動場所やプログラムの情報提供などを行う中で、サポーターと協働した地域づくりをすることが求められると考えられた。<BR>本研究の対象は1名であり理論的飽和には至っておらず、今後、対象を拡大し比較検討する必要がある。<BR>【まとめ】<BR>前橋市の介護予防サポーターを5年間継続している女性へのインタビュー内容からM-GTAを用いてサポーターへの参加及び継続のプロセスを明らかにした。得られたプロセスから、参加の要因として[感謝される体験][市の事業という意識]、継続の要因として[他者との交流から得る感動][地域のサポーターとしての自覚]が考えられた。
著者
梶谷 卓也 平野 佳代子 澤木 弘之 浜田 誠一郎 平 雅成 永吉 顕 ?梨 晃 萩原 秀彦(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.141, 2011

【目的】<BR> サッカーは,キック動作を多用する下肢を中心とした動きの連続で,下肢外傷の発生頻度は高い.特に,股関節周囲の慢性的な疼痛を訴える選手が多く,その治療と予防には力が注がれている.競技特性として,ポジション別に身体操作に特徴があり,特にサイドプレーヤーでは,左右の下肢へ加わるストレスに違いがある.支持脚と蹴り脚について,大腿四頭筋の筋力や重心動揺など多くの研究がなされているが,両者の差は明らかにされていない.また,股関節機能に対する研究や,ポジション別に左右差を検討した報告は少なく,検討の余地がある.<BR> 本研究では,ポジション別の特性が股関節の機能に与える影響に着目し,利き脚と非利き脚における筋力及び可動域(以下ROM)について検討し,若干の知見が得られたので報告する.<BR>【対象】<BR> 本研究の趣旨を理解し同意を得た,下肢に既往のない高校サッカー選手20名(年齢17.2±0.7歳,身長170.9±6.3cm,体重62.5±6.4kg)とし,各ポジションの競技歴が3年以上の者を選定した.内訳は,センタープレーヤー10名(以下CP群),サイドプレーヤー10名(以下SP群)とした.尚,利き脚はキック動作を多用する側とし,SP群では,全員が利き脚と同側のポジションであった.<BR>【方法】<BR> 股関節外転・内転・外旋・内旋のROMと筋力を,下記の方法で測定した.A)ROM:日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会に準じ,角度計を用いて計測した.B)筋力:徒手筋力計(μTasF-1)を用いて各2回測定し,平均値を求めて体重比を算出した.統計学的処理は,CP群とSP群で各項目の利き脚と非利き脚における差について,対応のないt検定を用い比較検討した(P<0.05).<BR>【結果】<BR> CP群は,全ての項目で有意差は認められなかった.SP群は,筋力で内転(利き脚:0.903±0.15Nm/kg,非利き脚:0.739±0.14 Nm/kg),内旋(利き脚:0.736±0.18 Nm/kg,非利き脚:0.591±0.10 Nm/kg)に有意差が認められ,その他の項目では認められなかった.<BR>【考察】<BR> 結果より,CP群では差はなかったが,SP群において股関節内転・内旋筋力で,利き脚が非利き脚より高値を示した.SP群は,同一脚,特に利き脚でのキック動作を多用し,中でもインフロントキックを用いる局面が多い.インフロントキックは,テイクバックから股関節内転・内旋運動によって,インパクト,フォロースルーへ移行することが特徴的であり,結果との関連性が考えられた.従って,サッカー選手ではポジションの特性により,股関節機能に影響を与えることが示唆された.<BR>
著者
津布久 咲子 吉田 久雄 林 明人
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.290, 2011

【はじめに】ROM制限に対する理学療法の手技は様々であるが、超音波療法については報告も少なく、また肯定的な意見も少ない.今回、超音波療法を運動療法と共に併用することで、高度なROM制限が改善した症例を担当したので、超音波療法の治療効果についての文献も加え報告する.尚、報告に際しては本人より同意を得た.<BR>【症例紹介】54歳男性.診断名:右膝化膿性膝関節炎.H22.5.8夜間に突如、右膝関節痛出現.5.27体動困難となり、当院に緊急入院となった.5.31関節鏡下滑膜切除・洗浄デブリードメント術施行(~6/3まで持続灌流).6.8理学療法を開始.7.7より超音波療法を開始.9.27理学療法を終了.<BR>【治療経過】<B>開始時</B>画像所見:X-P上、骨関節の明らかな異常所見(-) 炎症値:CRP10.1mg/dl 視診:右膝関節の腫脹(+) 触診:右ハムストリングスの短縮(+),右膝蓋大腿関節の可動性は全方向に認められず 疼痛:右膝関節周囲に常時出現 ROM:右膝屈曲60°伸展-20°移動:NWBでの歩行は疼痛により持続困難で、車椅子利用<BR><B>超音波療法開始時(術後5週)</B>炎症値:CRP<0.3mg/dl 触診:右膝蓋大腿関節の可動性は健側と比して頭尾側に1/2程度、内外側に1/3程度と低下していた 疼痛:右膝関節内側裂隙に荷重時痛(+),右膝屈曲時に膝蓋骨下を水平に走る疼痛(+) ROM:右膝屈曲90°伸展-20°移動:荷重時痛のため1/2~2/3PWBでの両松葉杖歩行<BR><B>終了時(術後17週)</B>疼痛:屋外歩行時に荷重時痛(+) ROM:右膝屈曲135°伸展-5 °移動:独歩・一足一段での階段昇降可能<BR>【超音波療法の設定】治療部位:右膝蓋骨下軟部組織 方法:直接法、温熱モード 周波数:1MHz 強度:1.0~1.5W/cm<SUP>2 </SUP>治療時間:10分 連続性:100% 頻度:2~3回/週(計15回)<BR>【考察】今回担当した症例は、高度なROM制限を呈しており、ROM改善に難渋した.ROM制限の要因として、膝蓋骨下軟部組織の柔軟性低下が関与していると考え、同部位の柔軟性獲得を目的に術後5週目より温熱療法を併用した.超音波療法は、物理療法の中でも特に深達性の温熱効果が得られるため、本症例に適応があると考えた.物理療法の温熱効果に関しては、Lehmannらの動物実験から『軟部組織の伸張性向上に温熱療法は有効である』、沖田らの動物実験から『拘縮の治療として温熱療法と運動療法の併用は有効である』とあるが、臨床においては『温熱効果の有用性を示唆する』といった内容の報告に留まっている.しかし、今回の症例ではROMの改善を得て、さらにADLの改善にもつながった.治癒過程における組織学的変化や退院後の活動量増加など他の要因も考えられるが、他の文献と同様にROM改善の一助として超音波療法も有効であるのではないかと考えられた.
著者
小和板 仁 平沼 淳史 浅海 祐介 井口 暁洋 高橋 裕司 齊藤 哲也 大久保 圭子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.275, 2011

【目的】<BR>片麻痺患者の中には非麻痺側への重心移動に抵抗を示し、立位や歩行、トランスファーが困難な症例を経験することがある。本症例も非麻痺側への重心移動時に抵抗を示した。Pusher現象とは症状が違い、視覚アプローチにより非麻痺側への重心移動に抵抗が軽減した一症例を経験したので報告する。<BR>【方法】<BR>79歳男性。意識レベルE4V5M6/GCS。左視床・頭頂葉など多発脳出血により右片麻痺を呈した。Brunnstrom Stage:V-V-V。表在・深部覚ともに軽度鈍麻。高次脳機能障害として空間認知障害などが見られた。坐位での非麻痺側への重心移動は抵抗がなかったが、立位では抵抗が見られた。本症例は坐位・立位において正中位にても左に傾いていると自覚症状があった。視覚・空間認知の評価に対して指鼻指試験及び閉眼立位保持(以下閉眼)、開眼立位は2つの方法(以下開眼鏡なし、開眼鏡あり)にて各条件において体重計を用い左に荷重してくださいと促した時の左下肢荷重量を測定した。また立位にて恐怖感があることから、上記の各条件下での恐怖感をNumerical Rating Scale(以下NRS)にて10段階で評価した。さらに網本らの使うPusher重症度分類を参考にした。<BR>【結果】<BR>Pusher重症度分類0点。指鼻指試験陰性。体重55kg、静止立位での左下肢荷重量30kg、閉眼での荷重量35kg、開眼鏡なしでの荷重量38kg、開眼鏡ありでの荷重量42kg。NRSにて閉眼7/10、開眼鏡なし6/10、開眼鏡あり5/10であった。<BR>【考察】<BR>本症例は左視床・頭頂葉出血により右片麻痺、高次脳機能障害を呈しADL能力の低下を認めた。視床・頭頂葉は上下肢からの情報や前庭からの情報などを統合して空間的に姿勢を保持するための機能があると言われている。結果より本症例は視覚認知は保たれていると思われる。坐位・立位にて正中位でも左に傾いているとのことから、姿勢空間認知に障害があり、非麻痺側への重心移動で抵抗を示したと思われる。諸家の報告ではPusher現象は同部位の障害で出現することがあると報告があるが、本症例ではPusher現象は見られない。Pusher現象を有する症例のアプローチとして視覚アプローチがあるが、症例の中には視覚により症状を増強させるという報告がある。本症例に鏡を使用したところ、結果から視覚アプローチが有効であったと思われる。これは鏡を使うことで姿勢を視覚的に捉えやすくなり、フィードバック機構が働いたためではないかと考え、本症例には視覚アプローチが有効であったと思われる。
著者
浅香 貴広 米山 恭平 高橋 麻美 堀本 ゆかり
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.159, 2017

<p>【背景】</p><p>平山らは、患者の抱える障害や環境など問題点が多様化していることを指摘し、堀本らは対人援助職として理学療法士には理学療法技術のみではなくコミュニケーション能力が必要だと述べている。コミュニケーション能力の重要性は認識されているが、具体的な対応策に言及している論文は少なく、臨床現場の努力に依存しているのが現状である。</p><p>【目的】</p><p>理学療法士及び理学療法学生(以下、学生)が医療面接でどのように情報収集しているか検証する。</p><p>【対象】</p><p>臨床経験年数が5 年以上の理学療法士6 名と、臨床実習中の学生10 名とした。対象者には研究の趣旨を説明し、同意を得た。</p><p>【方法】</p><p>模擬患者を相手に医療面接を行い、その様子をデジタルビデオで撮影した。撮影した動画から音声記録を文字記録に起こし、その内容を1,自己紹介2,現病歴3,訴えや症状4,現在のADL5,以前のADL及び社会的情報6,今後について7,医師のコメントの7つに分類し、所要時間と比率を算出した。</p><p>【結果】</p><p>面接全体の所要時間は理学療法士平均258.8 ± 123.8 秒、学生平均196.4 ± 60.5 秒であった。質問内容の構成比率では、</p><p>5, 以前のADL 及び社会的背景が最も多く(理学療法士34%学生33%)3, 訴えや症状が次に多かった(理学療法士27%学生</p><p>30%)。</p><p>【考察】</p><p>今回、理学療法士及び学生において模擬患者を対象に医療面接を行う様子を分析した。その結果、双方の質問内容の構成には大きな違いは見られず、それぞれ以前の生活スタイルと現在の症状についての質問が多く聞かれた。中平らは臨床実習前の学生に医療面接を行なった結果、質問内容の構成の中で「現在のADL」の比率が大きかったと述べている。本研究の対象は最終学年の臨床実習生であり、学内教育のまとめの段階である。これまでの実習で退院後の生活の重要性について指導され、定着した結果の表れであると推察できる。動画を用いた振り返りは、コミュニケーション能力の向上に寄与できると考える。</p>
著者
横田 直子 横田 直子 小坂 香代子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【はじめに】<BR>心臓リハビリテーションの効果は様々なエビデンスが証明されているが継続できる受け皿が乏しい現状である。通所リハビリテーション(以下デイケア)において慢性期リハビリテーションを継続し効果のあった症例を報告する。学術的発表にあたりご本人より承諾を得ている。<BR>【症例紹介】<BR>70代男性。病前は転勤の多い会社員。診断名:心筋梗塞・多臓器不全(H20.12)EF27%、BNP800-1000pg/ml、血圧96-80/62-50mmHg。H21.6月自宅退院。入浴・更衣のみ軽介助。屋外連続歩行は30M程度。知的レベル高く、治療への意欲強い。<BR>【経過】<BR>H22.12月通所施設の終了に伴い当デイケア利用開始。専門的なリハビリを継続したいとの希望あり。以前レジスタンストレーニング中心の自主トレーニングが原因と思われるBNP上昇があり自主トレ中止となっていた。監視下にて3Mets程度のプログラムから開始し、開始1ヶ月で持久力の向上と安全な運動強度が定着した為、セラバンドを用いた自主トレーニングを指導。教育と情報交換の場としても活用される。H23.6月散歩やバスでの外出を楽しまれるようになる。8月NPOで行っている心臓リハビリテーションを紹介し、デイケアと併用開始。運動負荷試験の結果現行の運動強度のまま継続の方針となる。妻の入院の際も家事や見舞いなど行えていた。9月耐久性の向上に伴いプログラムを追加。同程度の運動時間を延長。調理・園芸・散歩・掃除など楽しまれる。<BR>【結果】<BR>退院後21カ月時点で急性増悪なし。ADLは入浴の洗体を除いて自立。H23.12月の会議にて、執刀医から筋量が増えてほめられたこと、苦しくて20歩で休んでいた道を20-30M歩行後自分でひと息入れて歩き続けられたこと、リスクに配慮して外出できていることがご本人より語られた。また、道行く人に障害者と見てもらえず苦労したことも語られた。<BR>【考察】<BR>包括的心臓リハビリテーションの一環として介護保険下でのデイケアにて慢性期心臓リハビリテーションの継続に関わった。介護サービスの他、医療・NPOなどのサービスと共同して症例を援助できた。急性増悪なく運動耐用能、自己効力感の改善ほか一定の効果を得た。デイケアは慢性期の心臓リハビリテーションの一選択と成りうる。終了期限がなくライフスタイルやQOLに踏み込んで援助を継続する事が可能であり、通院困難による継続不能の要素も除外できる。今後も制度や情報不足の狭間でリハビリテーションの恩恵を受けられない方が少なくなるよう働き掛け続ける必要がある。
著者
舘野 純子 宇賀田 裕介 永井 勝信 瀧谷 春奈 稲葉 沙央莉 猿子 美知 赤池 幸恵 坂 英里子 宮村 大治郎 門手 和義 明石 直之
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.182, 2017

<p>【目的】</p><p>心室性不整脈が頻発する症例に対する運動療法の効果について検討する.【症例提示】</p><p>72 歳,男性.X 年,健診にて心室性期外収縮(PVC)頻発を指摘されていた.X+1 年PVC に対してアブレーション施行するも心外膜側由来のPVC のため焼灼困難と判断し経過観察となっていた.X+3 年7 月22 日,急性心筋梗塞を発症し当院救急搬送.右冠動脈房室枝(#4AV)と後下行枝(#4PD)に完全閉塞を認め,潅流領域の広い#4PD に対して冠動脈インターベンションを施行した.#4AV は潅流領域が狭く,薬物療法継続の方針となった.退院時(7 月26 日)の心機能はEF61%,下壁の壁運動が低下しており,ホルター心電図では総拍数が88463 拍,PVC は総拍数の31%に出現,最大は3 連発であった.</p><p>【運動処方】</p><p>10 月6 日心肺運動負荷試験(CPX)施行.10 月12 日から5 ヵ月間,外来監視型心臓リハビリテーションを施行した.通院頻度は週1-2 回,運動の種類はレジスタンストレーニングと有酸素運動,運動強度は自覚的運動強度とCPX の結果に基づいて処方した。運動療法中は2 段脈が頻発,PVC ショートランの出現歴があり,自覚症状や血圧を管理しつつ介入した.</p><p>【結果】</p><p>開始時と5 ヶ月後のCPX では,PeakVO<sub>2</sub>16.1 →21.4kg/ml/min,MaxLoad84 →113W と改善を認めた.また,膝伸展筋力は体重比0.52 →0.60 と改善を認めた.さらに,週5 回程度の運動習慣がつき,非監視型運動療法への移行が可能となった.【考察】</p><p>心室性不整脈を有する患者に対する運動療法は,一定の見解が得られていない.今回,運動耐容能改善が得られた因子として,骨格筋の強化が図れたことが一要因であると考える.したがって,適切な運動処方や運動指導により,心室性不整脈を有する患者に対する運動療法は運動耐容能改善に効果的であり,非監視型運動療法への移行も可能であると考えられた.なお,本症例報告はヘルシンキ宣言に沿い対象者に同意を得たものである.</p>
著者
藤田 智 塚原 秀明 内藤 勇気 岩瀬 友美 一瀬 裕介 高野 智秀
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.219, 2011

【目的】 各種スポーツ競技においてメディカルサポート活動が普及してきており、障害予防の必要性も認知されてきている。栗生田らはセルフケアを中心とした障害予防教育を早期から現場へ普及させる必要があるとしており、チーム・個人での障害予防への取り組みは、指導者の理解度にも左右されると思われる。今回、栃木県の高等学校野球指導者に対しアンケート調査を行い、各チームの障害予防の取り組み状況について調査を行ったので報告する。【方法】 対象は、栃木県高等学校野球連盟に加盟する計64校の監督指導者を対象とした。栃木県高校野球連盟に説明し同意を得て、役員を通じ調査用紙を各校に送付した。アンケート内容・説明に同意した監督指導者から回収した。調査内容は、1)平成22年度における最高成績(ベスト4以上を上位校。ベスト8,16を中位校。左記以下を下位校)2)全体練習時間におけるウォーミングアップ(以下アップ)、クールダウンの割合。3)コンディショニングなどに関する内容とした。【結果】 回収率は56%(36校)であり、各項目を成績で分けた。全体練習時間の中でアップの割合は、上位校(7校)14%、中位校(10校)18%、下位校(19校)20%。クールダウンの割合は上位校7%、中位校10%、下位校12%。コンディショニングなどの内容のベスト3は、上位校でコア・体幹(100%)、瞬発力(100%)、フォームチェック(86%)。中位校でコア・体幹(80%)、肩チューブトレーニング(80%)、栄養、瞬発力(70%)。下位校で瞬発力(84%)、コア・体幹(79%)、有酸素(68%)であった。【考察・まとめ】 アップ・クールダウンは、上位校ほど全体練習の中での割合は少ない傾向であった。これは監督指導者が技術的なトレーニング内容を重視していることが考えられる。また下位校ほどその割合が長いのは、選手の基礎体力を重視しているか、効率的に行えていない可能性もある。コンディショニングなどに関しては、多くの監督指導者がコア・体幹系に注目している。今後のさらなる検証も必要であるが、栃木県高校野球連盟と連携を取りながらメディカルサポート部として活動していく予定である。
著者
青木 信裕 尾登 誠 橋倉 祐子 下村 哲志 西山 徹 古山 彰 金 明和 森本 晃司 下村 奈央美 圷 清香 服部 考彰 中野 里佳 金谷 千尋
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.55, 2006 (Released:2006-08-02)

【はじめに】 当院では関節リウマチ(以下RA) 患者と家族を対象に「リウマチのリハビリテーション教室」を年2回の頻度で開催している。RA患者の合併症としては間質性肺炎や肺線維症があり、死因のひとつとなっている。RA患者に対して呼吸機能低下を予防する必要性を考え、今回「リウマチの肺合併症と呼吸リハ」というテーマで呼吸機能についての教室を行なったので報告する。【プログラム】1.リウマチの呼吸機能と肺合併症の講演2.呼吸機能改善のリハビリについての講演3.肺機能検査のデモンストレーション4.呼吸訓練、ストレッチ5.呼吸筋トレーニング6.肩甲帯、体幹のトレーニング7.リウマチ体操【方法】呼吸訓練:腹式呼吸+口すぼめ呼吸の指導ストレッチ:胸郭の柔軟性の改善体操の指導呼吸筋トレーニング:呼気の延長を目的としたゲーム4種目を考案し実施。ストロー、ボール、車のおもちゃを使用して楽しみを持たせた。肩甲帯、体幹のトレーニング:肩甲帯・体幹周囲筋のストレッチ、筋力訓練の指導 ストレッチ、体操は各参加者が禁忌肢位を考慮し、可能な運動のみを痛みのない範囲で行なうよう指導した。参加者の中で同意を頂いた方の経皮的酸素飽和度、脈拍数を各プログラムの実施前後で測定した。教室終了後にはアンケートを実施し、呼吸機能のリハビリについての意見を頂いた。【結果】 教室参加23名中、測定に同意頂いた方15名。経費的酸素飽和度が実施前より改善した人の割合は、呼吸訓練60%、ストレッチ60%、呼吸筋トレーニング68%、肩甲帯・体幹のトレーニング10%であった。 アンケートでは、呼吸リハビリテーションを行なったことがある人は31%であり、今回の教室が有意義であったという人が100%であった。呼吸訓練、肩甲帯・体幹のトレーニングについては「自宅で行える」といった声が多く、呼吸筋トレーニングは「楽しかった」という意見が多かった。【考察】 RA患者に対して呼吸リハビリテーションを行い、呼吸機能にアプローチをした報告はほとんどない。結果として短時間の呼吸訓練、ストレッチ、呼吸筋トレーニングで改善が認められていた。RA患者においても早期からの呼吸指導により呼吸機能の低下を予防し、改善に向かうことができると考える。呼吸訓練は継続することが重要であるが、体操の指導のみでは継続的な訓練とならない可能性がある。今回、ゲームの要素を持たせ、楽しみながら呼吸機能にアプローチする方法を紹介することで、「楽しかった」といった声が多く、継続的な自主トレーニングとなる可能性が考えられる。簡便で有用な呼吸訓練を自主トレーニングの中に取り入れることで、RA患者の生命予後にも深く関与する可能性が示唆された。今後、RA患者に対する呼吸訓練の継続的な評価を行なう必要性が考えられる。