著者
長坂 脩平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.191, 2017

<p>【はじめに】</p><p>結帯動作から肩関節下垂位に戻る際に生じる疼痛を主症状とした左肩関節周囲炎と診断された患者に対し、肩甲胸郭関節機能改善に着目してアプローチした結果、疼痛の軽減を認めたためここに報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>40 歳代女性。平成28 年10 月頃誘因なく発症。様子を見ていたが疼痛改善せず、平成28 年11 月下旬に当院を受診されリハビリ開始となる。</p><p>【説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に則り本人へ十分な説明を行い、同意を得て実施した。</p><p>【理学所見】</p><p>疼痛は結帯動作から左肩関節下垂位へ戻る際に左肩関節前方に生じていた。左肩関節屈曲・外転の可動域制限、疼痛は認めず、肩甲上腕関節の副運動も制限は認めなかった。鑑別検査として腱板機能、前方不安定検査を実施したが陰性であった。静止立位では左肩甲骨外転・上方回旋を認め、疼痛出現動作時は外転・上方回旋を生じ、これを徒手的に修正することで疼痛は消失した。またTh3,4,5 レベルでの左胸椎椎間関節、左胸肋関節、左肋椎関節の可動制限を認めた。</p><p>【介入・結果】</p><p>肩甲胸郭関節機能改善を目的に左胸椎椎間関節、左胸肋関節・左肋椎関節の可動制限改善に介入した。介入後、左胸椎椎間関節・左胸肋関節・左肋椎関節の可動性は向上し、静止立位での肩甲骨位置の左右差は消失した。結帯動作から下垂位に戻る動作時に認めた肩甲骨の外転は消失し、肩甲骨への徒手的誘導を加えなくても疼痛は消失した。</p><p>【考察】</p><p>結帯動作時に生じる疼痛は肩関節2nd 内旋可動域低下との相関が報告されているが、本症例の特徴とは一致しなかった。理学所見から本症例の疼痛は肩甲上腕関節の可動性低下・不安定性に由来するものではなく、肩甲骨の機能異常の結果、結帯動作から下垂位に戻る際に肩甲骨に過度の外転が生じていることが原因と考えた。介入として、肩甲骨機能異常に関連する胸郭・胸椎の可動性を改善することで、結帯動作から下垂位へ戻る際の疼痛の消失につながったと考える。</p>
著者
佐久間 孝志 平尾 利行 妹尾 賢和 岡田 亨 白土 英明 老沼 和弘 阿戸 章吾
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第27回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.15, 2008 (Released:2008-08-01)

【はじめに】 股関節の安定化機構として、解剖学的・力学的知見から、股関節深層筋は力学的支持という役割だけでなく、関節運動の誘導を担っている可能性があることが推測される。その中で股関節深層筋のトレーニングはいくつか紹介されているが、いずれも実際に股関節深層筋の収縮を検証している報告は少ない。そこで今回は股関節深層筋である小殿筋に着目し、小殿筋が収縮しやすい股関節肢位および負荷量について検討した。 【対象】 対象は本研究に同意を得た股関節に既往のない健常男性10名とした。 平均年齢25.3歳、平均体重63.8kg、BMI21.8であった。 【方法】 被検者に側臥位をとらせ、膝関節伸展位、股関節内外転・内外旋中間位にて、屈曲30度、0度、伸展10度の3肢位にて等尺性股関節外転運動を行った。それぞれにおいて低負荷運動と高負荷運動を行わせ、各肢位での小殿筋の収縮を測定した。測定には超音波画像診断装置 GE横河メディカルシステム LOGIQ BOOK を用い、MRI画像より大転子と腸骨稜を結んだ線上の近位1/3、および上前腸骨棘と後上腸骨棘を結んだ前方1/3を小殿筋の測定箇所として固定した。また検者は同一としプローブを固定する者1名、抵抗を加える者1名として測定を行った。 得られた画像から安静時と収縮時における小殿筋の厚みを計測し、収縮時の厚みを安静時の厚みで除すことで収縮率を算出した。統計処理はTukeyの多重比較および対応のあるT検定を用い、有意水準5%未満とした。 【結果】 低負荷運動時においては伸展10度での収縮率が屈曲30度、屈曲0度のときよりも有意に高値を示した。高負荷運動時では、股関節屈曲角度の違いによる収縮率の変化はみられなかった。各股関節屈曲角度における低負荷運動と高負荷運動時における収縮率を比較すると、伸展10度のときのみ低負荷運動で有意に高値を示した。 【考察】 今回の結果から、股関節伸展位および低負荷運動にて有意に高い収縮率を認めた。これは小殿筋の走行から股関節伸展位では股関節軸より後方に位置するため、股関節屈曲位よりも股関節伸展位で外転筋として作用しやすくなり高い収縮率を認めたものと考える。また、股関節深層筋には遅筋線維の割合が高いことが報告されていることから、低負荷運動の方が有意に高い収縮率を認めたものと考える。今後、さらに本研究を踏まえ股関節深層筋トレーニングの有効性を検討していきたい。
著者
石谷 勇人 室井 聖史 望月 良輔 石垣 直輝 黒川 純
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.67, 2017

<p>【目的】</p><p>成長期腰椎分離症に対する治療は骨癒合を目的とした装具療法が主に選択され,装具期間中の運動は中止されることが多い.しかし近年では,長期間の運動中止により骨癒合後も競技復帰に期間を要するため,装具期間中に早期理学療法の併用が行われている.本研究の目的は, ジュニアスポーツ選手の腰椎分離症に対する治療として,装具療法と早期理学療法の併用が競技復帰に与える影響を検討することである.</p><p>【方法】</p><p>対象は2012 年から2015 年に腰痛にて当院を受診し,片側L5 分離症と診断され,骨癒合を目的として装具装着を指示されたジュニアスポーツ選手37 名とした.装具期間中に安静にしていた17 名( 装具群) と,早期理学療法として股関節ストレッチ等の運動療法を併用した20 名( 併用群) の2 群に分類した.検討項目は,装具期間,装具療法終了から競技復帰までの期間(復帰期間)を装具群と併用群を比較検討し,各群の癒合率も算出した.競技復帰の定義は,全体練習に参加した日とした.統計処理はMann-Whitney U 検定,χ<sup>2 </sup>検定を用い,有意水準は5%とした.本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施し,対象者に本研究の趣旨,目的等を説明し,同意の上で行った.</p><p>【結果】</p><p>装具期間は装具群96.5日,併用群87.2 日であり,両群間に有意な差はみられなかった.復帰期間は装具群29.3 日,併</p><p>用群19.9 日であり,併用群は装具群よりも有意に短かった(p=0.034).癒合率は装具群76%,併用群75%であり,有意差な差はみられなかった.</p><p>【考察】</p><p>両群とも装具期間に有意差がなく,同等な骨癒合率がみられたことから,早期理学療法の介入は分離部への骨癒合に影響を与えないものと考える.復帰期間において,併用群は装具群に比べて有意に早く練習に復帰していたことから,装具療法と早期理学療法の併用は,柔軟性・筋力が維持でき,装具療法終了後にスムーズなスポーツ動作の獲得が図れることで早期の練習復帰が可能であると考えられる.</p>
著者
仲島 佑紀 小林 雄也 高村 隆 岡田 亨 戸野塚 久紘 高橋 憲正 菅谷 啓之
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.78, 2011

【目的】<BR>少年期の野球肘内側障害(以下、内側型野球肘)において、一般に画像上の異常所見により長期の投球禁止となる場合が少なくない。当院では早期より理学療法を施行することで安静期間の短縮を図ってきた。本研究の目的は少年期の内側型野球肘における、画像所見の違いによる競技復帰への影響を調査することである。<BR>【対象】<BR>2005年1月から2010年8月までに当院を受診した小中学生野球選手で内側型野球肘と診断され、競技復帰までの経過観察が可能であった症例のうち、明らかな画像上の異常所見を認めなかった144例をN群、内側上顆骨端核の裂離を有していた248例をS群とした。画像所見における分類は、当院放射線技師により撮影された初診時X線所見を主治医が診断したものを用いた。医師の指示の下、全例初診時より投球禁止と共に理学療法を直ちに施行した。なお、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の合併例は除外した。<BR>【方法】<BR>N群、S群における競技完全復帰率を算出した。さらに両群を完全復帰群(C群)、不完全復帰群(I群)に分類し、N-C群・N-I群・S-C群・S-I群の初診時と復帰時における身体機能の群内比較を行った。、次に復帰時の身体機能、ならびに復帰までの期間N-C群とN-I群、S-C群とS-I群で比較した。身体機能は肘関節可動域、肩甲帯機能(CAT・HFT)、股関節機能(SLR・HIR・HBD)評価を用いた。統計学的処理にはMann-Whitney U検定、Wilcoxon符号順位検定を用いた。なお本研究には当院倫理委員会の承認を得て行った。<BR>【結果】<BR>完全復帰率はN群82%、S群87%であった。N-C群、S-C群においてCAT・HFT・SLR・HIRが初診時よりも有意に改善していた(p<0.01)。N、S群ともにC群がI群に比しCAT・HFT・SLR・HIRが有意に大きかった(p<0.05)。復帰までの期間はN-C群:7.0±4.4週、N-I群:3.1±2.7週、S-C群:7.8±4.5週、S-I群:3.8±4.7週であった。<BR>【考察】<BR>今回の調査では画像所見にかかわらず競技完全復帰は7~8週で80%以上が可能であった。内側型野球肘の投球禁止期間は緒家により様々だが、安静期間における身体機能改善を目的とした理学療法アプローチは、競技復帰への重要な要素であるといえる。I群は機能改善が不十分かつ復帰までの期間が短く、コンプライアンスの悪い例であったと考えられる。競技復帰において画像所見は必ずしも影響するとは言えず、身体機能も含めた包括的な評価により投球再開を医師とともに協議し、症例に呈示していく必要があると思われる。
著者
佐々木 和優 長 正則 大石 健太 山岸 辰也 今村 仁
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.F-21, 2020

<p>【はじめに】精神疾患を合併した術後症例に関与する機会が増えてきており、精神疾患のリハビリテーション(以下リハ)の知識が必要な場面を多く経験する。しかし、術後リハの報告は精神疾患の合併で除外されやすく報告数が少ない。今回、TKA術後の統合失調症患者のリハを行い、精神的安定と共に機能改善し自宅復帰した一例を経験したため報告する。</p><p>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿って対象者に発表の主旨を説明し同意を得ている。</p><p>【症例紹介】60歳代女性、既往歴は脊髄性小児麻痺(小児期に右肩関節固定術)。現病歴は統合失調症(5年前)。 左変形性膝関節症(2年前)。本年、左TKA目的で入院。</p><p>【経過及び結果】入院時評価は、歩行は独歩自立。主訴は左膝荷重時痛でNRS8/10。全体像は通常の会話可能も内向的。従命反応緩慢であった。TKA翌日リハ再開。 全荷重下での立位訓練時に強い左膝折れを起こし、膝関節展開縫合部皮下断裂の診断。術後14日目に断裂部再縫合術施行。術後は筋力強化練習や慎重な荷重練習と歩行練習を実施。術後38日目から段差昇降練習を実施。術後47日目に自宅退院。退院時評価は、歩行はT字杖自立。 荷重時痛なし。全体像は笑顔が多くなり自らの発言増加。 従命反応良好。自主練習が増えた。</p><p>【考察】本症例は術後、膝折れを起こし、関節展開縫合部皮下断裂を生じた。断裂部再縫合術後は、患者にわかりやすく丁寧に注意点や練習の目的などのオリエンテーションを行い、理解の向上で安全性を高める様に努めた。 統合失調症患者の多くは病識の欠如や理解力の低下を認めるが、症例はリハへの理解が深まり、指導した自主練習が増える等、ポジティブな行動変容が得られたことが、ADLの再獲得、自宅復帰に繋がったと考える。精神疾患合併症例の術後リハは、疾患特有の精神症状の理解とそれに応じた個々の対応をリハ計画に加えプログラムを安全に進めることが重要であると考えられた。</p>
著者
斎藤 広志 小尾 尚貴 山田 祐子 竹内 大樹 兼岩 淳平 多田 智顕
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.F-25, 2020

<p>【はじめに】超音波検査は体表から触知できない深層を可視化でき、患者へ与える負担が少ない検査法である。 今回肩挙上時に疼痛を訴える肩関節周囲炎患者に対して、理学療法評価に超音波診断装置を用いて機能評価、治療介入を行った症例を経験したので報告する。</p><p>【症例】40代女性。2018年12月更衣動作で受傷し、右肩関節周囲炎と診断。</p><p>【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に沿い発表目的を説明し同意を得た。</p><p>【初期評価】右肩ROM自動屈曲100°他動屈曲160°外転90°であった。整形外科的テストはNeer Test陽性。上腕骨頭の超音波動態評価で、肩関節外転時に肩峰と大結節の衝突を認めた。結帯肢位内旋動作の上腕骨頭前方移動量は左右差を認めなかった。Horizontal Flexion Test 陰性であった。肩甲胸郭機能はElbow Push Test陽性。 MMTは肩甲骨外転・上方回旋3肩甲骨下制・内転3であった。JOAスコア67点であった。</p><p>【理学療法経過】超音波動態評価で肩関節外転時に肩峰と大結節の衝突を認めた。また、結帯肢位内旋動作の上腕骨頭前方移動量は左右差を認めなかった。評価上から肩甲胸郭関節機能障害を認めた。以上評価結果から肩甲胸郭関節機能障害から肩峰下インピンジメントが生じていると判断して、肩甲胸郭関節機能に対し理学療法を実施した。理学療法プログラムは前鋸筋トレーニング、小胸筋ストレッチ、側臥位で肩関節外転運動を実施した。 4週間理学療法を実施し、右肩ROM自動屈曲175°外転170°に改善した。Neer Test陰性、超音波動態評価の肩関節外転時の肩峰と大結節の衝突も消失した。MMTは全項目で改善を認めた。肩挙上時痛消失し、JOAスコア97点と改善した。</p><p>【考察】超音波動態評価から上腕骨頭の動態を可視化することで、肩甲胸郭機能に対しての治療を立案でき、疼痛と可動域が改善したと考える。</p>
著者
若林 航輝 石井 文弥 棚橋 由佳 櫻井 敬市 大竹 弘哲
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.O-025, 2020 (Released:2020-01-01)

【はじめに】脳梗塞により右片麻痺,構音障害を呈した症例に対し,建築業への復職を目標に,片脚立位を中心とした立位バランス能力に着目して,腹斜筋群の活動を向上させる座位リーチ練習を実施した.その結果,立位バランス能力の改善に至ったので報告する.【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づいて十分に説明し,同意を得た.【症例紹介】60代男性.MRIにて左内包後脚から放線冠にかけて微小梗塞が認められ,右片麻痺,構音障害を呈した.病前ADLは自立.HOPEは復職したい,不安定な足場でも歩けるようになりたい.第2,3病日ではBrunnstrom Stage(以下Brs)は上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ.感覚は右上下肢触覚軽度鈍麻,深部感覚左右差なし.立位バランスとして,片脚立位は右側3.0秒保持可能,左側保持困難.Berg Balance Scale(以下BBS)42点.Timed Up and Go(以下TUG)右回り10.8秒,左回り10.9秒.歩行は独歩見守り,ワイドベースであり,右足底全面接地.立脚中期に体幹・骨盤帯が右側へ過剰に偏位.【方法】第2 〜6病日では、低緊張筋群に対し,四肢の運動やROM練習を行った.BBS・TUGは改善傾向であったが,片脚立位は介入前後で変化は認められなかった.第7病日より,腹斜筋群に着目して座位リーチ練習を実施した.練習前後で片脚立位保持時間の延長を認めたため,プログラムに追加した.その他に,座位リーチ練習の際に股関節屈曲を追加することで課題難易度を調整し,練習を継続した.【結果】第13,14病日では片脚立位保持時間(R /L,秒)は19.0 /7.0まで改善し,BBS 54点,TUG 右回り7.1秒,左回り7.5秒となった.歩行は右踵接地みられ,右立脚中期での体幹右側偏位は軽減した.【考察】片脚立位は転倒に関連する指標として知られて いる.四肢の運動やROM練習では改善が認められなかったが,腹斜筋群に着目して座位リーチ練習を行うことで片脚立位保持時間の即時的・経時的変化を得られたためその有効性が示唆された.
著者
田中 博之 小野 達也 西﨑 香苗 池上 仁志
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.O-059, 2020 (Released:2020-01-01)

【はじめに】健常者の立ち上がり動作には股関節が100° 以上屈曲することが報告されており、THA等により股屈曲制限が生じている患者では、健常と異なるパターンで立ち上がることが推察される。本研究では、股屈曲制限下での立ち上がり動作の筋電図学的特徴を明らかにすることを目的とした。【対象と方法】対象は健常男性10名(平均年齢26.8±4.1歳)とした。運動課題は、下腿長と同じ高さの座面からの立ち上がり動作とし、股関節装具による股屈曲90°制限下での立ち上がり(以下制限あり群)・装具なしの立ち上がり(以下制限なし群)を各3回施行した。左前脛骨筋、中殿筋、大殿筋、腹直筋等に電極を貼付し、課題遂行時の筋活動および徒手筋力測定に準拠した最大随意収縮(以下:MVC)を表面筋電図計で記録した。立ち上がり動作を3相に分け、MVCより各相の%MVCを算出した。 統計は対応のあるt検定を用いた(p<0.05)。【結果】第1相中殿筋は制限あり群2.8±1.6%制限なし群 1.84±1.0%(p=0.002),大殿筋は制限あり群2.6±1.8%制限なし群2.1±1.3%(p=0.04)であり、他筋に有意差はなかった。第2相は中殿筋が制限あり群1.8±1.0%制限なし群1.3±0.8%(p=0.03),前脛骨筋は制限あり群6.4± 4.3%制限なし群4.1±2.1%(p=0.02)であった。第3相に有意差はなかった。【考察】本検討より、股屈曲制限は、立ち上がり第1 〜2 相に影響することが明らかとなった。立ち上がり動作の初期相で生じる体幹前傾は下肢関節モーメントに影響するため立ち上がり動作において重要な要素であることが知られている。股屈曲制限下での立ち上がりは体幹前傾が減じるため、第1相では大殿筋、中殿筋による股関節外旋、第2相では前脛骨筋による下腿前傾を増大させて身体重心の前方移動を行ったと推察された。
著者
小出 慧
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-24, 2020

<p>【目的】立位や座位での頭部前方位が上肢機能不全を引き起こすと報告されているが,肩関節疾患の症例に対し背臥位にて介入する場合が多い.そこで今回は,背臥位での頭部位置の違いが肩関節運動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】被験者は健常成人男性11名(24.5±1.5歳)とした.課題動作は右側の肩関節最大屈曲動作と肩関節屈曲90° とし,各3回ずつ施行した.背臥位にて頭部の高さ0cm・ 3cm・5cmの3条件を,木材を頭部の下に置く事で設定した.測定機器はデジタルカメラ2台を用い,それぞれ頭頂部と右肩峰が中心となるよう設置した.マーカーを頭頂部・右肩峰・右腋窩から骨盤に下ろした線と第7肋骨が交わる点(以下,側腹部)に貼付した.動作前後の側腹部の高さの変化量,安静位での頭頂部と右肩峰の高さの差を撮影した画像よりImageJにて算出した.また肩関節最大屈曲時の角度を計測した.データ解析は平均値を代表値とし,頭部の高さの3条件間で比較検討した.統計処理はSPSS(IBM社製)を使用し一元配置分散分析及びTukey検定を用い有意水準5%未満にて実施した.</p><p>【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき対象者に対し事前に研究の趣旨を十分に説明し同意を得て実施した.また本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った.</p><p>【結果】側腹部の移動量は3cmが0cmと比べ有意に少ない結果を得た.右肩関節最大屈曲角度は3cmが5cmと比べ有意に大きい結果を得た.安静位での頭頂部と右肩峰の高さの差は3cmが他条件と比べ有意に少ない結果を得た(p<0.05).</p><p>【考察】0cmの条件では頭部位置が低く,過度な胸椎前弯が生じたと考える.5cmの条件では頭部位置が高く,先行研究にて頭部前方移動すると肩関節屈曲可動域制限が生じると述べていることから,本研究でも同様に制限が生じたと示唆される.このことから3cmの条件は姿勢変化が少ないと考えられ,要因として安静位での頭頂部と右肩峰の高さの差が少ないことが示唆された.</p>
著者
足立 陽子 長 正則 田中 聡(MD) 三箇島 吉統(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.45, 2010 (Released:2010-10-12)

【はじめに】Pilon骨折は、軟部組織や足関節可動域に問題が多い骨折として知られ最も重度なRuediの分類タイプIII(脛骨遠位の圧迫と粉砕骨折を伴う)では、足関節拘縮を来たす等治療成績が不良という報告が多い。今回、本骨折の術後理学療法を行い比較的良好な可動域を得たので報告する。【症例紹介】54歳、男性、職業:足場設営。コンテナ(3m)から落下し受傷、当院受診。左Pilon骨折(Ruediの分類タイプIII)・踵骨骨折と診断され、観血的整復固定術及び腸骨骨移植を施行。踵骨骨折、内果骨折部は保存的に加療。術後24日目、退院。術後108日目、全荷重開始。術後138日目、仕事復帰。尚、本症例には症例報告させていただく主旨を説明し同意を得た。 【理学療法経過】理学療法は、術後1日目より左下肢免荷両松葉杖歩行訓練、筋力強化訓練、RICEを開始。術後7日目よりリンパドレナージ、動的関節制動訓練を開始。術後30日目、足関節可動域訓練、過流浴療法を開始。 【初期評価:術後30日】足関節可動域は、患側背屈-5°/底屈30°、健側背屈10°/底屈50°。疼痛は、距腿関節前面及びアキレス腱部の伸張痛。Burwellの判定基準はX線学的評価基準:良、客観的基準:不可、主観的基準:不可。【最終評価:術後318日】足関節可動域は、患側背屈10° /底屈45°、健側背屈10°/底屈50°。疼痛は、起床時の歩き始めと階段降時のアキレス腱部痛。Burwellの判定基準はX線学的評価基準:良、客観的基準:良、主観的基準:良。【考察】Pilon骨折は、脛骨遠位部の栄養血管が中枢側よりに入っている為、血行不全になりやすく周辺軟部組織の浮腫による足関節拘縮を来たしやすい。本骨折の治療原則は、手術による解剖学的整復・強固な内固定・早期関節運動・長期免荷であり、本症例においても同様に治療した。本症例は関節内粉砕骨折の整復に時間がかかり内果部骨折は保存療法となり、術後30日間足関節固定対応を要した。軟部組織変性による拘縮を予防する為、拘縮促進因子である浮腫・疼痛・栄養障害の早急な改善が必要と考え、固定期間中からリンパドレナージ・筋力強化訓練・RICE・動的関節制動訓練を実施した。可動域訓練開始時より、水治温熱療法後のストレッチと運動学に基づく他動的可動域訓練を実施した。また、ホームエクササイズとしてストレッチ及び可動域訓練を指導した。以上の様に疾患の特徴と術後の病期に応じたアプローチを選択し実施する事で、軟部組織の変性による弾性低下・骨格筋の短縮・疼痛を改善させ比較的良好な可動域改善につながったと考えられた。
著者
齋藤 涼平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第36回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.177, 2017 (Released:2019-04-03)

【はじめに】ボクシングのパンチは、ジャブ、ストレート、フック、アッパーの4 種類とされている。今回左フックでの痛みが強いと訴える左肩インピンジメント症候群と診断されたボクシング選手を担当する機会を得た。各パンチ動作の動作分析を行い、患部への力学的負荷を推察し理学療法を実施したので報告する。【症例紹介】症例は30 歳代男性。職業プロボクサー、中量級の日本トップランカー。主訴は左フックの時に左肩が痛い。現病歴、1 年ぐらい前から左肩の痛みが発生、試合後に疼痛が強くなり当院受診し理学療法開始。ヘルシンキ宣言に基づき症例には同意を得た。初期理学的所見関節可動域(Lt)肩関節屈曲160°1st 外旋/60°2nd 内旋/50 °疼痛評価安静時- 動作時痛+( 左フックNRS7/10 左ストレートNRS2/10) 整形外科テスト Neer- Hawkins+ CAT+ HFT+ EPT+【理学療法および経過】3 か月後に試合が決まっておりスケジュールを考え理学療法(週2 回)を行った。1 カ月で肩関節の可動域制限の改善と肩甲骨と胸郭のmobility とstability の向上。2 か月目では、ミット打ちでの強さを向上。フォームによって疼痛がありビデオでのフォームチェック等行った。3 か月目ではよりステップを踏んだ中やスパーリング等の実践を行っていく事で、競技復帰を行った。【考察】シャドーでの動作分析を行った際に、ジャブやストレートやアッパーは両股関節での重心移動や胸郭の動きは、矢状面上の前後/ 上下系になるが、フックでは両股関節と胸郭では回旋系の動きであった。症例はインファイタータイプでステップが少なく、両股関節での回旋が少ない中で肩甲胸郭を固めてしまい肩甲骨の動きが少ない中でフックをすることで、肩甲上腕関節に負荷が増大したと考えられる。【まとめ】ボクシングのパンチの種類の力学的課題を考え、症例の動作分析を行い力学的負荷を推察し、それを軽減するための運動療法を実施することは重要と考える。
著者
山手 千里
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.69, 2006

【はじめに】<BR> 整形疾患において,患側への免荷を余儀なくされることにより,全荷重時期となっても患側下肢への荷重困難となるケースは少なくない.今回,左大腿骨頚部骨折患者において患側荷重を促すため,恐怖心を排除した環境下での課題を導入し,結果が得られたので報告する.<BR>【症例紹介】<BR> 60代,女性.平成17年10月18日,左大腿骨頚部骨折受傷.同年10月20日,手術(CHS)施行された.術後リハは翌日より開始し,患側荷重は術後7日より1/2PWB,術後14日より全荷重可となった.荷重開始時の下肢筋力はMMT4level,足底感覚の左右差はないが,荷重時には「体重をかけるのが恐い。」との訴えがみられていた.全荷重可となった術後14日時の左側下肢荷重量は,安静立位において体重59kg中,15kgと右側へ偏位していた.<BR>【方法】<BR> 1/2PWB開始後より荷重訓練開始し,平行棒にて両下肢へ体重計を設置し,視覚的フィードバックと口頭指示による荷重訓練を行った.術後14日で全荷重可となったが,1週間後も恐怖心の影響があり,患側荷重量の向上が得られなかった.そこで,より患側下肢への荷重を促すため,平行棒にて両下肢へ体重計を設置した状態で,weight shiftを目的としたペグ移動の課題(以下ペグ課題)を施行し,患者には荷重に注意を向けさせず,ペグ課題に集中させた.<BR>【結果】<BR> 荷重訓練開始時,左下肢荷重量15kg,視覚的フィードバックと口頭指示による荷重訓練の左下肢荷重量は20kgであった.ペグ課題開始時の左下肢荷重量は25kgであった.またペグ課題開始時の遂行時間は右から左への移動(以下右→左)で49.61秒,左から右への移動(左→右)で44.83秒であり,課題開始から1週間後,右→左41.94秒,左→右38.74秒であった.課題遂行時の左下肢荷重量は30kg,左下肢への最大荷重量は45kgであった.歩行はT字杖での自立歩行が可能となった.<BR>【考察】<BR> 従来,整形疾患に対する荷重訓練では,視覚的フィードバックによる自己修正を促すか,セラピストの口頭指示による荷重の修正を行うケースが多く見られる.しかし,恐怖心が阻害因子となり,歩行場面では患側への荷重が不十分となり,歩行時のweight shiftが困難となっている.これらの事を考えると,荷重訓練時に恐怖心を取り除いた環境下でweight shiftを必要とする課題を与え,姿勢制御や歩行の安定化へと結びつける事が重要である.今回,weight shiftを目的としたペグ課題により患側下肢への荷重が可能となり,静止立位及び歩行能力が向上したことが示唆された.
著者
飯塚 直貴 加藤 仁志 高橋 宙来 松澤 正
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.210, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】我々は,マッサージ側と非マッサージ側の筋硬度を比較し,マッサージ側の筋硬度が有意に低下したことを報告した(松澤ら,2011).しかし,マッサージの効果の男女差を明らかにした報告は見当たらない.本研究ではマッサージ施行直前,直後の筋硬度の変化量の男女比較を行うことで,マッサージによる筋硬度の変化に男女差があるか検討した.【方法】対象者は健常成人20名(男性10名, BMI22.1±3.0,年齢22±2.1歳.女性10名, BMI19.9±1.8,年齢20.7±0.5歳)とした.対象候補者に対して,予め十分に説明し,書面による同意を得た上で本研究の対象者とした.対象者は,下腿を露出し治療ベッド上に背臥位で10分間安静にした.その後,腹臥位になり左腓腹筋のマッサージを,軽擦法1分間,揉捏法5分間,軽擦法1分間の順で施行した.筋硬度はマッサージ直前,直後,15分後に測定した.測定部位は両側の腓腹筋内側頭最大膨隆部とし,その部位をマークし筋硬度を5回測定しその平均値を採用した.統計学的解析は,マッサージ側と非マッサージ側の変化量を比較するために対応のないt検定を用いて検討した.また,マッサージ前後の筋硬度の変化量の男女差を比較するために対応のないt検定を用いて検討した.【結果】筋硬度の変化量は,マッサージ側が有意に大きかった.また,男性のマッサージ側の筋硬度は直前13.1±3.8N,直後10.9±3.1Nであり,女性のマッサージ側の筋硬度は直前9.7±1.9N,直後8.5±1.5Nであった.男女のマッサージ側の筋硬度の変化量を比較した結果,男性が有意に大きかった.【考察】結果より,マッサージによって筋硬度が低下することが明らかとなり,これは我々の先行研究と同様の結果であった.さらにマッサージを実施した筋の筋硬度の変化の男女差を検討した結果,マッサージの効果は女性と比較して男性の方が大きいことが明らかとなった.生体における標準体脂肪は,男性が15%であり,女性は26%であることが知られている(小澤ら,2009).揉捏法の手技は指掌を皮膚に密着し,筋肉をつかみ圧し搾るようにして動かす手技(網本,2008)であるため,マッサージの効果を得るには筋組織に圧が伝わらないといけないが,女性は筋組織にマッサージの圧が加わる前に脂肪組織に圧がより多く伝わってしまいマッサージの効果が得られにくかったと考えられた. 【まとめ】本研究の結果は,マッサージの効果としては女性と比較して男性の方がより効果が高いことが示唆され,女性に対してマッサージを施行する際には男性と同様の結果が得られない可能性を考える必要がある.
著者
目黒 智康 桒原 慶太 金子 志保 渡辺 学 新井 智之 松永 篤彦
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.80, 2006 (Released:2006-08-02)

【はじめに】本態性振戦は,姿勢時及び動作時振戦だけを唯一の神経症状とする良性の神経疾患である.また,本態性振戦の亜型として書字振戦が報告されている.この書字振戦は書字という特定の動作においてのみ出現する課題特異的振戦であり,書字動作そのものの障害だけでなく,手段的日常生活動作能力の著しい低下に繋がる可能性がある.しかし,書字振戦に対する理学療法の介入効果に関する研究報告は極めて少ない.今回我々は,書字振戦を呈した高齢患者に対して,失調症に対して弾性緊縛帯を適用し,書字振戦が改善する経験を得たので報告する.【症例紹介】症例は85歳の男性で,特記すべき既往歴はみられなかった.現病歴は誘因なく発熱,嘔吐,頚部硬直を伴って意識レベルが低下し,ヘルペス脳炎の診断を受ける.なお,パーキンソニズムや小脳失調性などの神経学的な異常所見は認められなかった.第21病日より理学療法を開始し,第30病日には院内T杖歩行が可能となった.第31病日より書字練習開始した.【初期評価】安静時には振戦はみられないものの,上肢を挙上するとわずかに手指振戦が出現し,さらにこの振戦は書字時に増悪した.感覚機能は正常であり,運動機能は,握力が右16.0kg・左12.5kg,ペグボードテストが右12本・左13本,簡易上肢機能検査(STEF)では右85点・左91点であった.さらに Mini Mental State Examinationによる得点は27点, Functional Independence Measureによる運動項目は91点であった.いずれの評価も著しい低下はみられなかった.【理学療法介入】書字振戦に対する理学療法として,弾性緊縛帯を適用した.方法は,弾性包帯で手関節を固定するように巻き,毎日1時間程度ひらがなの文章を書写する練習を繰り返し,計15日間行った.【結果と考察】書字練習開始時では弾性緊縛帯で手関節を固定した時のみ振戦が減少し書字の不均整に改善を認めたのに対して,退院時には弾性緊縛帯を適用しない状態で書字の不均整に明らかな改善がみられた.先行研究によると,弾性緊縛帯は失調症に対して固有感覚系を介して運動制御を促通する効果があると報告されている.本症例の書字振戦が改善した理由も,弾性緊縛帯により書字の際に手関節の不随意運動が制限され,書字動作時の運動制御を促通した可能性がある.また,弾性緊縛帯による書字の不均整の減少(即時効果)が書字練習時の正しい結果のフィードバックにつながり,さらにはこの学習過程が繰り返し継続されたことが書字という緻密な動作の再学習に効果的に働いたと考えられた.
著者
伊藤 昭 田中 隆晴 上井 雅史 平野 弘之(MD、PhD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第28回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.117, 2009 (Released:2009-08-11)

【目的】平成18年4月に厚生労働省が「医療機能の分化・連携と在宅生活への早期復帰」を掲げた。平成20年8月時の一般病床平均在院日数が18.8日と、平成15年の20.7日に比べ短縮した。在宅リハビリテーション(以下:リハ)を担う診療所リハの役割が重要になってきた。今回、我々は診療所の運動器リハ開設から1年8ヶ月間の運動器リハの来院数の推移、疾患群別来院比率及び天気変化による来院数変化の関係について検討した。 【対象】平成19年6月~平成21年1月の間に運動器リハを行った512例(男性131、女性381)平均年齢が66.2±16.3歳であった。 【方法】平成19年6月~平成21年1月までの月別来院数を集計した。対象の疾患を肩関節疾患群(以下:肩群)腰部疾患群(以下:腰群)膝関節疾患群(以下:膝群)頸部疾患群(以下:頸群)2種類以上の疾患複合群(以下:複合群)骨折後リハ群(以下:骨折群)手術後リハ群(以下:手術群)及びその他群(脳血管障害、難病等)に分け検討した。天気と来院数の変化の関係を気象庁のデーターを参考に検討した。 【結果】平成19年6月の一日平均リハ施行者数が40.3名で、平成20年12月には66.3名となった。対象疾患割合がそれぞれ、肩群8.3%腰群23.9%膝群15.7%頸群8.7%複合群25.7%骨折群1.9%手術群5.3%及びその他群10.5%であった。開設後に手術治療を施行した症例が6例であった。晴れ曇り雨の日及び日内気温変化が7度以上の来院率に有意差がなかった。悪天候日に来院率が上昇した群がその他群及び複合群で、下降した群が肩群及び膝群であった。前日との気圧が10hPa降下したとき肩群及びその他群の来院率が上昇し、腰群が下降した。他の群に変化がなかった。 【考察】平成19年6月から平成20年12月までに一日平均リハ施行者数が64.5%増加した。1998年の厚生労働省調査で日本の有訴率が腰痛、肩こり及び四肢関節痛の順に多く、日常生活及び外出に影響ある者が65歳以上で11%あった。当院の約8割の対象症例に同様の症状を認め、痛みで日常生活に影響する程になると症状の悪化防止・改善目的で来院すると考えられる。天気の変化では悪天候日及び気圧下降でその他群の来院率が上昇した。その他群の内訳が52%が脳血管障害、パーキンソン氏病等の難病疾患で19%が50歳以下の症例であった。他群と異なり付き添い者が多く、若く、ニーズ及びモチベーションが高い為天候に左右されず来院したと考えられる。また、その他群と肩群が気圧変化に伴う疼痛の変化が少ないと考えられた。一方、腰群は佐藤らと同様に気圧降下で痛みが増強し外出を控えたと考えられた。
著者
伊藤 昭 上井 雅史 田中 隆晴 平野 弘之
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第27回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.24, 2008 (Released:2008-08-01)

【目的】肩関節周囲炎の治療期間に関する先行研究及び報告は多い。治療期間と運動療法の頻度及び注射療法の頻度に関する統一見解がない。今回、我々は肩関節周囲炎の治療期間と運動療法の頻度及び注射療法の関係について検討したので報告する。【対象】平成18年6月から平成20年1月の間に当院を受診した肩関節周囲炎患者28例34肩(右肩19肩、左肩15肩)であった。男性4例、女性24例、平均年齢64.7±9.6歳であった。リタイヤ患者及び変形性肩関節症など病変部位が明らかな患者は除外した。【方法】治療期間を、短期間群(1~4ヶ月間通院、n=17)及び長期間群(5ヶ月間以上通院、n=17)の2群に分けた。運動療法を週2回未満施行群(n=21)と週2回以上施行群(n=13)に分けた。注射療法をヒアルロン酸ナトリウム(以下、ヒアルロン注)の注射頻度及びステロイドの注射回数に分けた。ヒアルロン注の頻度がそれぞれ月1回(n=10),2週間に1回(n=13)及び2週間に1回以上(n=11)に分けて検討した。治療開始時と最終時の肩関節屈曲及び外転角度で治療成績を評価した。統計処理にStatcel2を用いた。各群間の比較に対応のあるt検定を用いた。治療期間と運動療法の頻度及びヒアルロン注頻度の相関関係をPearson’sの相関係数検定を用いた。有意水準を1%未満とした。【結果】長期間群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。運動療法の週2回未満群と週2回以上群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。ヒアルロン注の2週間に1度群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。ステロイド注射回数の1回(n=12)と3回以上(n=6)の治療開始時と最終時の外転可動域の間に有意差を認めた(p<0.01)。治療期間と運動療法及びヒアルロン注との間には相関関係が認められなかった。治療期間とステロイド注射回数との間に正の相関関係が認められた(r=0.58)。【考察】先行研究で運動療法とヒアルロン注を併用することで関節可動域の改善と自覚・他覚所見(自発痛、夜間痛、運動時痛及び圧痛)の改善が得られるといわれている。今回の検討では、運動療法が週2回以上おこなっている症例でヒアルロン注を2週間に1度実施し、かつ通院期間中1回のステロイド注射をうけていた症例は有意に関節可動域の治療成績がよかった。治療期間が5ヶ月以上必要でだった。それぞれ治療期間、運動療法の頻度及びヒアルロン注頻度の間に相関関係が認められなかった。この理由として、肩関節の運動痛の強さがあげられる。
著者
齋藤 涼平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.177, 2017

<p>【はじめに】</p><p>ボクシングのパンチは、ジャブ、ストレート、フック、アッパーの4 種類とされている。今回左フックでの痛みが強いと訴える左肩インピンジメント症候群と診断されたボクシング選手を担当する機会を得た。各パンチ動作の動作分析を行い、患部への力学的負荷を推察し理学療法を実施したので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>症例は30 歳代男性。職業プロボクサー、中量級の日本トップランカー。主訴は左フックの時に左肩が痛い。現病歴、1 年ぐらい前から左肩の痛みが発生、試合後に疼痛が強くなり当院受診し理学療法開始。ヘルシンキ宣言に基づき症例には同意を得た。初期理学的所見関節可動域(Lt)肩関節屈曲160°1st 外旋/60°2nd 内旋/50 °疼痛評価安静時- 動作時痛+( 左フックNRS7/10 左ストレートNRS2/10) 整形外科テスト Neer- Hawkins+ CAT+ HFT+ EPT+</p><p>【理学療法および経過】</p><p>3 か月後に試合が決まっておりスケジュールを考え理学療法(週2 回)を行った。1 カ月で肩関節の可動域制限の改善と肩甲骨と胸郭のmobility とstability の向上。2 か月目では、ミット打ちでの強さを向上。フォームによって疼痛がありビデオでのフォームチェック等行った。3 か月目ではよりステップを踏んだ中やスパーリング等の実践を行っていく事で、競技復帰を行った。</p><p>【考察】</p><p>シャドーでの動作分析を行った際に、ジャブやストレートやアッパーは両股関節での重心移動や胸郭の動きは、矢状面上の前後/ 上下系になるが、フックでは両股関節と胸郭では回旋系の動きであった。症例はインファイタータイプでステップが少なく、両股関節での回旋が少ない中で肩甲胸郭を固めてしまい肩甲骨の動きが少ない中でフックをすることで、肩甲上腕関節に負荷が増大したと考えられる。</p><p>【まとめ】</p><p>ボクシングのパンチの種類の力学的課題を考え、症例の動作分析を行い力学的負荷を推察し、それを軽減するための運動療法を実施することは重要と考える。</p>