著者
萩原 文子 中村 とも子 大槻 かおる 寺尾 詩子 大島 奈緒美 井上 早苗 堀 七湖 大塚 敬三
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.98, 2008

【はじめに】日本理学療法士協会や神奈川県理学療法士会の報告では会員の退職や休職の理由として出産や育児が大きな比率を占めているとされている。制度的には男性も育児休業(以下育休)の取得が可能であるが厚生労働省の調べによると2006年度の男性育休取得率は0.57%であり政府目標の10%には程遠い状況である。今回育休の取得経験のある男性理学療法士(以下PT)及び作業療法士(以下OT)より経験談や意見を聴取し,男性の目から見た育児・仕事との両立・制度などの問題点などを明らかにするため,調査を行なったので報告する。<BR>【方法】事前に作成した調査票により面接又はメールにより実施した。<BR>対象者:男性PT3名・OT1名<BR>調査内容:家庭環境・職場環境・育休取得について<BR>【結果】育休取得時年齢:28~40歳 <BR>育休取得期間:2~12ヶ月(平均5.75ヶ月) 3名は妻の育休取得後・1名は妻の産後休暇期間<BR>職場:公的又は準公的施設<BR>職場のPT・OT数:2名~28名(平均11.25名) <BR>休業中の代替者の確保:2施設あり・2施設なし<BR>職場内保育所の設置:4施設共なし<BR>職場での女性の育児休業取得:3施設取得し易い・1施設退職圧力等はなし<BR>リハビリ部門の対応:4施設とも協力的。3施設では代替者の募集が行なわれた。<BR>良かったこと:親としての責任感が持てた。子供とゆっくりとした時間が持て向き合うことが出来た。人としての幅が広がった。病院以外の世界にも目を向けるきっかけとなった。患者さんが帰っていく家庭や地域がみえ,指導へもつながることがたくさんあった。<BR>困ったこと:特になし<BR>要望:育休が取得可能であることや取得によるメリットなどの情報発信をして欲しい。事務職員が制度を理解しスムーズな手続きが行なわれるようになって欲しい。待機児童をなくしいつでも認可保育園に入れるようにして欲しい。<BR>男性PT・OTに対して:育児に深く関ることにより父親として,人として,職業人として多くのメリットがあるのでどんどん取得して欲しい。<BR>【考察】今回の調査は偶然アクセスできた5名のうち協力を得られた4名という非常に少ない数の調査であるが全ての職場が公的又は準公的な施設であった。<BR>職場の規模や職員数・取得期間や時期などは様々であった。<BR>困ったことは全員が特になしと,良かったこととして子供や家族との関係・人としてやリハビリテーションを担う職業人としての向上を挙げており育休取得によりメリットが大きいことがわかった。<BR>女性の育休取得がし易い職場では男性も取得し易いのではないか,保育所の必要性,どうしたら育休をすすめていけるかなど更なる状況把握・育休制度の啓発と代替者の補充が容易になるよう人材バンクなどの整備なども進めていく必要があると思われ,今後も活動を続けていく。<BR>
著者
金城 拓人 粕山 達也 中川 和昌 猪股 伸晃 岡田 みゆき 中澤 理恵 坂本 雅昭 渋澤 克利 渡辺 英輔
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.74, 2009

【目的】<BR>我々は,群馬県高等学校体育連盟バスケットボール専門部との連携により,高校バスケットボール競技に対してメディカルサポート活動(以下,サポート)を行った.我々は,以前より高校野球競技,中学・高校サッカー競技にサポートを行っているが,初めて女子の競技も対象となった.今回,その内容をまとめ,傷害傾向を把握し,今後の方向性を検討した.<BR>【方法】<BR>サポートは,全国高等学校選抜優勝大会群馬県予選会(以下,選抜大会)の準々決勝以降(出場16校,14試合),群馬県高等学校バスケットボール新人大会(以下,新人大会)の決勝リーグ(出場8校,12試合)に行った.スタッフは,理学療法士をボランティアとして参加を募り,会場に4名以上配置した.<BR> サポート内容は,理学療法ブースを開設し,再発予防や疼痛等の症状軽減目的の処置,応急処置を行った.また,コート内にもスタッフが待機した.<BR>【結果】<BR>参加したスタッフは,選抜大会延べ8名,新人大会延べ10名であった.<BR>サポートを依頼した学校数は,選抜大会5校,新人大会6校であった.<BR>依頼件数は総件数52件のうち,選抜大会21件(男子11件,女子10件),新人大会31件(男子19件,女子12件)であった.<BR>対応部位は総件数52件のうち,足関節19件,膝関節14件,手指10件であった.傷害内容は捻挫20件,靭帯損傷9件,突き指9件であった.男女の内訳は,男子の総件数30件のうち,足関節14件,手指10件であった.女子は総件数22件のうち,膝関節13件,足関節5件であった.傷害内容は男子が捻挫15件,突き指7件であった.女子は靭帯損傷7件,捻挫5件であった.応急処置依頼は9件で,うち2件(全て女子)は膝関節靭帯損傷の疑いにて,医療機関への受診につなげた.<BR>対応内容は,テーピング34件,ストレッチング4件,止血処置3件,アイシング3件であった.<BR>【考察】<BR>初めての試みだったが,依頼件数は大会毎に増えていることから,選手や指導者の潜在的なニーズは存在し,今後も増加することが考えられた.<BR>対応部位は下肢関節に多く,ジャンプやカッティング動作の多い競技特性を示した結果となった.対応内容は足関節捻挫に対する,再発予防や症状軽減目的の依頼が大半を占め,不安感や疼痛を抱えている選手が多いことが感じられた.今後のサポートでは,単にテーピング等の技術提供にとどまらず,エクササイズやケアの方法等を積極的に指導することも必要と考えられた.また女子においては,膝関節への対応が多く,靭帯損傷を疑う傷害も高頻度で発生しており,発生予防策の検討も今後の課題と考える.
著者
上井 雅史 伊藤 昭 田中 隆晴 平野 弘之
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.73, 2008

【目的】<BR> プライマリケア診療ではうつ病患者の80% に頭痛、腹痛、腰部・関節・首など骨格筋系の疼痛のような身体症状がみられる。気象各要素と痛みの度合いの関係に関する報告が多い。能力障害、VAS(Visual alanogue scale)および抑うつの相関関係をみる報告もある。しかし、VAS増減値から比較した報告は少ない。今回、我々は当クリニックを受診した患者に対しアンケートを行い、VASの増減、うつ傾向の度合いおよび天候に注目して検討した。これらの結果につき文献的考察を交え報告する。<BR>【対象】<BR> 対象者は運動器疾患を有し運動療法を実施している患者52名(男3名、女49名)であった。アンケート調査の実施に合意を得られたのは30名(男1名 女29名)、平均年齢は72.8±8.1歳であった。データ欠損、回答の拒否などを対象から除外した。<BR>【調査の方法と内容】<BR> 調査期間を2008/2/4より2/10の一週間とした。VAS測定時間を全例午前9時頃に行った。うつの評価にSDS(Self-rating Depression Scale)を用いSDS40未満を正常群、40点以上を抑うつ群とした。疼痛の評価にVASを使用した。疼痛の期間内でのVAS最大値から最小値を引いたものを疼痛の増減値とした。気象データは東京管区気象台の午前9時のデータを用いた。期間内での最大、最小VAS値を測定した。検討項目がVAS増減値とSDS、および天候それぞれのデータの、最大および最小の日時のVAS変化とした。統計学解析にMann-whitney U testを用いた。<BR>【結果】<BR> SDS40点未満の正常群が15例であった。40点以上の抑うつ傾向群15例であった。SDSとVAS増減値(p<0.05)の間には関連性が認められた。SDS40点未満の正常群ではVAS増減値の平均が1.34±0.89であった。一方SDS40点以上の抑うつ傾向群VAS増減値平均が3.80±2.86であった。期間内での気圧、温度および湿度とVAS値の間に相関関係を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 今回の調査でVAS測定を9時としたのは、運動量による変動を極力除外するためであった。抑うつ群にVAS値の増減が有意に高かった。気象条件よりもうつ因子の方が疼痛の増悪に影響していた。現在セロトニン系とノルアドレナリンの下行経路に異常が発生すると機械的な感覚刺激が、不快なまたは痛みを伴う身体症状へと転換されることがわかっている。よって運動器疾患であっても、身体と心理面の疼痛原因の判別が重要で、精神心理面を考慮した評価、治療が必要である。
著者
佐々木 千絵 児玉 雄二
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.47, 2007

【目的】日本における車椅子テニス選手の躍進は目覚しく、ワールドカップ等でも上位に食い込み活躍を見せている。長野県においてもジャパンカップ車椅子テニス大会が開催され、昨年度で第20回を数える。長野県理学療法士会では十数年にわたり、大会期間中の理学療法サービスを実施してきた。今回はスポンサー撤退により、大会が縮小した過去2年間の大会に限定し、車椅子テニス競技の障害特性について報告する。<BR>【方法】大会会場に理学療法室を設置し、治療用簡易ベッド、物療機器、テーピングテープなど用意し、理学療法士を7名程度常勤させ、期間中選手がいつ来室しても対応できる体制をとった。利用が込み合う時間帯は予約制とし、スムーズに運営できるように配慮した。<BR>【結果】過去2年間の大会参加選手のべ112名。理学療法サポート利用選手のべ59名であった。試合前の利用者は11件。試合と試合の間18件。試合後30件であった。障害部位の内訳としては、肩甲骨周囲筋群22件、肩関節6件、利き手肘外側8件、利き手肘内側6件、その他手関節、頚部、腰部等20件であった。症状は筋硬結24件、疲労21件、運動時痛21件、圧痛15件、その他19件であった。障害期は急性期5件、亜急性期3件、慢性期51件であった。対応はマッサージ37件、ストレッチ29件、アイシング8件、テーピング4件、物理療法4件、その他9件であった。<BR>【考察】車椅子テニス競技は、利き手にラケットを握り、車椅子を操作(以下チェアワーク)しながらプレーする競技である。ターン、ダッシュ、ストップなどのチェアワークは勝敗の鍵を握る1つで、練習でも重要視されている。障害発生要因は利き手側の過用症候群のみではなく、チェアワークによる要因も大きいと考えられる。また、車椅子をすばやくターンするときには、上肢のみでなく頚部、体幹、腰等を回旋させているため、頚部・腰等に障害を抱える選手が多いとも考えられる。<BR>【おわりに】障害者スポーツ大会は、スポンサーの有無によりその規模がかわってしまい、かつメディアの注目度はけっして大きくはない印象にある。一方選手の身体特性は元来から有する障害に加え、スポーツ障害を併発しているため、複雑化している場合も多い。当士会では、1998年に冬季パラリンピック大会を支援した経験があり、その事を生かしながら、今後も障害者スポーツの活動を支援してゆきたいと考えている。
著者
鈴木 恭平 我妻 浩二 有馬 慶美 長谷川 俊哉
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.240, 2011 (Released:2011-08-03)

【はじめに】 踵骨脂肪体萎縮は,踵骨周囲の痛みを主症状とし床面の変化により疼痛が増減するのが特徴である.この疾患に対する理学療法介入例の報告は少なく,今回,歩行時の荷重痛緩和を目的とした理学療法を経験したので報告する. 【現病歴・既往歴】 症例は,45歳男性のダンス講師で,診断名は右アキレス腱炎・足底腱膜炎であった.昨秋,長距離歩行にて疼痛が出現し,他院で加療するも疼痛増強のため当院受診となった.既往歴としては,20年前,右アキレス腱断裂し再建術を行った. 【理学および検査所見】 右アキレス腱停止部から踵骨隆起にかけて荷重痛および圧痛を認め,踵骨下面は弾力性に乏しかった.歩行はInitial contact~Loading responseにかけての踵骨への荷重時間が左と比較して短縮し,その際,荷重痛を訴えた.また,荷重痛は床面によって異なり,硬い路面では痛みが増強した.超音波所見(エコー)として,踵骨脂肪体厚に左右差(右<左)が認められた. 【分析】 本症例は,荷重痛のため踵への荷重を避けて歩行しており,その結果,踵への荷重刺激が減少し,脂肪体萎縮を招き荷重痛が生じるといった悪循環を来たしていると推論した.この病態に対し,踵骨脂肪体へ荷重刺激を与え,脂肪厚増加を図り,荷重痛軽減を理学療法の治療方針とした. 【PT経過】 踵骨脂肪体に対し漸増的荷重練習を行った.踵への荷重痛に応じて,軟らかい路面(クッション使用)から硬い路面へと移行し,漸増的に荷重量を増した.靴にも荷重量制御のためにインソールを作成した.また同時に歩容改善のための運動学習を行った.開始後3ヶ月で,エコーによる踵骨脂肪体厚の左右差は解消し,日常生活でも無痛歩行となったためPTを終了した. 【考察】 本症例の荷重痛は,疼痛回避動作の誘因であると推測される.この動作は踵部への適刺激を減少させ,右踵骨脂肪体萎縮を招き,更なる荷重痛を誘発していたと考える.今回の治療帰結については,漸増的に踵への荷重を促したことにより,脂肪体厚が増加した結果,荷重痛が減少したと推測される.今回の経験から,踵骨脂肪体が衝撃緩衝の役割を果たしており,荷重時に踵骨部の疼痛を訴える場合,脂肪体萎縮の病態を有する症例がそこに含まれる可能性が示唆された.
著者
右田 真里衣 山崎 哲司 佐藤 史子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.285, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】進行性核上性麻痺(以下PSP)によりすくみ足が著明で認知機能低下のある方に、在宅でレーザー杖を工夫し単独移動時のすくみ足が軽減したため報告する。尚、報告にあたり書面で本人、ご家族に説明し同意を得た。【方法】症例は84歳女性。平成19年PSP診断。認知機能(注意・記憶)低下有り。ADL自立。移動は主に4点杖歩行や伝い歩きで、すくみ足が著明。その為トイレに間に合わず洗面器に排尿有り。トイレまでの平均移動時間は2分43秒であった。日中は単身状態で移動の介助は得られず、歩行の改善を目指した。すくみ足改善に向け開始前動作や視覚刺激を検討した。開始前動作(足を高く上げる等)は効果はあるが、介助者の促しが必要であった。視覚刺激(床にテープ等)は、直後の効果はあるが数日後には無効であった。次に既製レーザー杖を試行した。これはスイッチを押すとレーザーが床面に出るT字杖で、すくみ足の方に効果がありパーキンソン病友の会で販売されている。しかし、介助者の促しが無いとレーザー杖を使用する事やスイッチを押す事が行えなかった。また、本人にとってやや前方にレーザーが出る為、その距離が却ってすくみ足を助長する事等があり、既製レーザー杖をそのまま適用出来なかった。その為、臨床工学技師の協力で、以前から使い慣れている4点杖にレーザーを取り付け、グリップを握ると本人に合った位置にレーザーが出るよう調整し導入に至った。【結果】本人用のレーザー杖を使用した時の平均移動時間は35秒となり、すくみ足が軽減してトイレに間に合うようになった。また、9週間後にも効果が持続していた。【考察】PSPにより認知機能低下のある方がすくみ足を改善する為には、身体機能だけではなく生活環境の確認も重要であり、今回の症例は自宅内を単独移動する事から、介助者の促しが無い状況で行える事が必要であった。しかし、常に生活環境上にある視覚刺激では効果は持続しなかった。これに関する研究論文等での報告は確認出来なかったが、慣れると注意が向けられず効果が持続しなかったと考える。効果を持続させる為には必要時のみ視覚刺激となるレーザー杖の適応があると考えたが、既製レーザー杖では身体機能的にも生活環境的にも本人が使いこなす事は困難であった。その為、既製レーザー杖を参考にしながら、本人に合わせて操作手順を減らす等の工夫をした事が、レーザー杖の有効性を高めすくみ足の軽減に繋がったと考える。【まとめ】PSP者にレーザー杖を工夫した症例を経験し、身体機能だけではなく生活環境をみる事や、その方に合った用具に工夫する事の大切さを学んだ。
著者
猪爪 陽子 金澤 信幸 玉虫 俊哉 徳間 由美 岸本 和幸 佐合 悦子 高津 由子 武藤 敏男
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.14, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】神経難病は進行性であり,身体運動機能の低下に加え様々な症状を呈し,本人はもとより介護に当たる家族をも苦しめる。当院でも老々介護・一人介護が多く,介護疲れを感じるケースもある。リハビリテーションでは,神経難病の患者様(以下,患者)が少しでも身体運動機能・精神機能を維持・向上させ,自分らしく楽しく暮らせるよう援助していくことが目標となるが,同時に患者を支える介護者・家族の支援(以下,介護者支援)も重要と考える。そこで,介護者支援の取り組みを開始したので報告する。 【方法】介護者支援で必要な事として1.勉強会 2.介護者ネットワーク作りを考えた。勉強会では1)病気に対する正しい知識を得る2)介護力を高める技術や知識を得る3)患者に対する理解を深める,をテーマとし平成21年度に3回実施した。介護者ネットワーク作りでは1)介護者同士のつながりをつくる2)情報交換を通じて新しい力を生み出す3)介護者自身の心の整理を促すことを目標とし,グループワークを中心に22年度に5回開催した。対象者は,神経難病デイケアに通院されている患者家族を中心に声をかけ,医師,看護士,医療ソーシャルワーカー,理学療法士,言語聴覚士,作業療法士で対応した。スタッフ側では事前の学習会や事後ミーティングを行い,参加者には毎回アンケートをお願いし意向調査した。 【結果】勉強会では,延べ参加人数105名(内介護者57名),アンケートから「大変参考になった」「少しの工夫で楽に介護できることがわかりました」等の意見をいただいた。介護者ネットワーク作りでは,延べ参加人数81名(内介護者58名),アンケートから「皆さんの悩みは殆ど自分と同じでほっとした」「接し方を変えてみようかなと思った」等の感想が得られた。また,長期介護を続けられている方の意見に感心し,妻,夫,嫁等立場の違う人の話に共感を示す場面も見られた。介護者とスタッフとの会話が増え,介護者同士で話をしているのを多く見かけるようになった。次年度への要望として「自分自身のためにぜひ開催してほしい」という意見を多くいただいた。 【考察】神経難病患者や家族を取り巻く環境は多様で一様に支援を考えることはできないが,ポイントとして1)誰に何を相談できるのかがわかる事2)自分ひとりではないと思える事3)介護者が自分自身を見つめ直す時間ができる事が重要であると考える。今回の取組みで我々は介護者の思いを知ることができ,コミュニケーションを取りやすくなった。介護者は介護に対する認識が深まり,前向きに取り組もうとされていると考えられる。介護状況は変化するので,勉強会・グループワーク等の支援を継続していく必要があると考える。
著者
羽田野 稔 平野 祥子 宮島 いずみ 深川 新市 浜辺 政晴
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>当院では平成23年4月より365日リハビリテーション体制に移行し日,祝日に休日リハビリテーション(以下休日リハ)を開始した.そこで職員意識調査を通して当院における休日リハに関わる職員の現状を把握し,職員の意識の変化や看護部・リハ科間の連携等の点での影響を知ることで今後の更なるサービスの向上や業務改善に役立てることを目的とした.なお本研究は当院倫理委員会の承認を得た.<BR>【方法】<BR>調査方法はアンケートとし対象は当院回復期病棟に所属しているリハビリテーション科職員55名.配布期間は平成23年10月24日から11月20日.調査内容は,1.患者家族との関わりについて2.病棟職員との関わりについて3.患者への対応について4.患者の治療効果について5.リスク管理について6.休日リハの今後について7.休日出勤の負担についての7項目とした.回答方法は,無記名自記式とし4段階選択・二者択一・自由記載を併用した.<BR>【結果】<BR>55名に配布し54名から回答を得た.1.患者家族との関わりは「変わらない」が72%で最も多かった.2.病棟職員との関わりは「変化があった」が56%で以前と比べてADL場面の情報収集が行ないやすいとの回答がみられた.3.患者への対応は「変化があった」が70%で患者の訴えを傾聴できるとの回答が多かった.4.患者の治療効果は「どちらともいえない」が57%であった.患者の身体能力に対しては一定の効果があると思う一方で患者の精神的・身体的への負担を考えるとどちらともいえないとの回答や、休日リハ実施による治療効果の判定が難しいとの回答が多かった.5.リスク管理は「とても不安」「不安」「少し不安」が67%で人員的に手薄な休日の急変時対応に自信がないという回答が多かった.6.休日リハの今後は継続した方がいいという回答が89%と多かった.7.休日出勤の負担は「変わらない」が59%であったが一方「負担が大きい」「負担である」が30%で家庭との時間調整に苦慮するとの回答もあった.<BR>【考察】<BR>今回の意識調査より患者家族・病棟職員との関わりに変化はなかったものの患者への対応には著明な変化があった.また,職員が休日の患者の急変時対応に自信がない,休日リハ実施による患者の治療効果が主観的にはあまり感じ取れない,休日リハの継続にあたり今以上の休日出勤回数になった際,職員が負担と感じる等の問題点が示唆された.対策は,回復期病棟に所属している職員は定期的に急変時対応を確認する機会をつくる,休日リハ実施後の患者の治療効果を客観的数値に示し職員間で認識を共有する.また,更なる充実した休日リハを実施していく上での休日出勤者の人員確保が今後の課題となると考える.
著者
新井 恒雄 鈴木 陽介 菅原 吉隆 中藤 善次郎 穂坂 邦大 中橋 昌弘
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第26回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.16, 2007 (Released:2007-07-30)

【目的】 第5中足骨基部骨折は足部の中でも高頻度に見られる骨折の1つである。転位の軽度な骨折には、ギプス固定などによる保存的治療が選択されることが多い。しかし、こうした固定は屋内等履物を変える頻度の多い日本人には馴染まない。また、足関節の拘縮や松葉杖使用による活動制限が生じる。今回我々は、この骨折に対しテーピング誘導により、早期から歩行を許可する保存的療法を施行し、良好な成績を得たので報告する。 【方法】 対象は手術適応のない第5中足骨基部骨折8例を対象とした。内訳は男性が5例6足、女性が3例3足、年齢は14歳から65歳平均46.3歳。受傷してからテーピング開始までの期間は0日から15日の平均は6.5日。受傷原因としては転落が3足、転倒が4足、交通事故が2足、いずれも内返しによる受傷であった。 今回テーピングは後足部回内位、外果挙上。前足部は第5列外がえし誘導、第1列底屈誘導を実施した。歩行時の第5列への荷重をMedicapteurs社製Win-podで足圧として確認、測定した。 【結果】 テーピング期間28~67日(平均38.4日)。疼痛除去期間 8~47日(平均38.4日)。骨癒合期間21~41日(平均30.4日)。合併症 可動域制限、偽関節、皮膚症状 なし。テーピング後、立位歩行時の足圧は内側へ移動、足趾の推進機能も働いた。 【考察】 第5中足骨基部骨折患者は足部外側への荷重により疼痛が生じる。外側荷重痛は骨折部に対するメカニカルストレスであり、骨癒合を促すため立位、歩行ではこれを回避しなければならない。そのため足部内側荷重を促す必要があるが、一般的な外反固定のテーピングでは、身体重心や足圧中心をふまえた歩行分析をすることはない。こうした立脚期中の前足部機能が働かない足部機能が低下した跛行は、骨癒合が得られた後も継続することが見うけられる。よって、跛行を防止する為には骨折部へのメカニカルストレスを抑えつつ、最大限足部の機能を働かせる必要がある。テーピング後の歩行では、内側に足圧が移動しながらも前側部、足趾への荷重が促されている。担当医とレントゲンでの骨癒合を確認しながら歩行分析を行いテーピング誘導することで、跛行を回避することが可能になったと考える。 【まとめ】 転位の軽度な第5中足骨基部骨折に対し、テーピング誘導による保存的治療を施行した。松葉杖を使うことなく除痛、早期荷重、良好な骨癒合を得て、骨癒合後の跛行もなかった。第5中足骨基部骨折の保存療法の1つとして、動作分析を行いながらのテーピングは有効な治療法と考える。
著者
川上 恵治
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.3, 2010 (Released:2010-10-12)

【はじめに】認知症で前頭葉症状があり、介助が困難で褥創が多発している症例を担当した。寝返りは退院時まで出来なかったが、歩行が獲得でき介助量が軽減するようになった症例を前頭葉障害、感覚統合の障害の視点から治療したことにより効果が見られたので報告する。 【症例】71歳男性。既往歴:多発性脳梗塞、認知症。2009年8月発熱が続き寝たきり状態となり、重症肺炎で他院入院。8月25日病状軽快し当院転院。褥創が殿部、背部、後頭部,左肘、左踵部にある。8月27日理学療法開始。経鼻経管チューフ゛であったが9月14日全粥、キサ゛ミあんかけを全量摂取となる。妻と二人暮らし、妻は高齢のため自宅復帰困難。 【画像所見】CT(入院時)広範囲に脳萎縮。 【初期評価】(9月8日) 全体像:臥床し四肢でヘ゛ット゛を押し付けヘ゛ット゛柵を把持し離さない。指示が入らず協力動作は得られない。DIV,ハ゛ルーンカテーテル留置。意識状態:JCS 20-IA。発語は少ない。精神面:怒りや拒否はない。運動麻痺:著明でない。深部腱反射:左半身やや亢進。病的反射:陰性。前頭葉症状:覚醒障害、自発性の低下、運動開始の困難。把握反射:陽性。ADL:姿勢はベッド上で仰臥位でいる。寝返り・起座は全介助。座位は手で柵を把持し両下肢で突っ張り重心移動に抵抗。車椅子座位はハ゛ックレストに寄りかからないで座ると、そのまま寄りかからないで座り続ける。足部はフットレストに載せてもすぐ床に降ろす。 問題点:1寝返り・起座全介助。2食事摂取全介助。3把握反射と、押し付け。4多発褥創(殿部、背部)。 【経過】意識状態はJCS 3-_I_移乗・起立は安定した支持物に手を伸ばし動作を開始するようになった。起立は介助すると突っ張って抵抗し困難であったが、本人の動作の開始に合わせて誘導すれば可能となり、歩行もワイドベースで可能となった。11月15日褥創は仙骨部を残し治癒。退院日(2010年1月21日)まで寝返り・起座の協力動作は緊張し柵を把持し、突っ張るので得られなかった。 【考察】 寝返り・起座と、移乗・歩行の違いは、前者は後者に比べ重心移動が大きいことであり、支持面が広い面から狭い面へ変化が大きいことである。症例は認知症、前頭葉症状、固有感覚の障害のため、重心移動と支持面の変化に対応できず姿勢変換が困難である。また、視覚で代償できれば良いが、前者は頭部をベッドに押し付けているため、眼球の動きが制限され困難であり、後者は頭部の押し付けが無いので頭部・眼球の動きは制限されず、視覚からの代償が得られるので動作がし易いと考えた。
著者
小貫 睦巳
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.237, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】身体障害者施設に勤務する理学療法士(以下、PT)はその必置条件がないことから常勤として採用されにくく、知的障害者施設(以下、知障施設)においても同様に非常勤としての関わりとなる事が多い。しかし近年少子化にも関わらず障害児の数は減少しておらず、成人を迎え施設に入所する知的障害者に運動障害を伴うものが少なからずおり運動療法の提供の必要性は高い。更に非常勤としての関わりの中で、職員への運動や医学的知識の啓発の必要性が増してきているように思われる。本研究の目的は、PTが関わる知障施設において、職員の特性やどのような関わりが必要とされるのか、講義とアンケートによりその手がかりを得ることである。【対象・方法】都内の知障施設(入所定員40名)の職員向け研修講義を行った。内容は、1.脳性麻痺の神経学的問題と筋骨格系問題、2.加齢による生理学的変化、3.廃用症候群とその症状、について啓発を促す内容とした。その上で無記名のアンケート調査を行い職員の特性やPTが必要とされる関わりについて明らかにした。アンケートの項目は、a.入所者の運動不足について、b.加齢による身体の変化、c.脳性麻痺の神経学的問題と筋骨格系問題について、d.廃用症候群について、の認識を3段階の順序尺度で問う形式とした。また講義終了後に感想を提出してもらい内容を概括した。本研究は倫理的な配慮としてアンケートへの回答は無記名であり、協力は自由であることを事前に十分説明し協力を求め了解を得て行った。【結果】参加者の内訳は、保育士11名、社会福祉士3名、介護福祉士2名、看護師2名、事務職1名、の計19名 (全職員の76%)であった。アンケート結果は、aが「強く問題を認識」が18、「何となく気づいていた」が1、「何も感じない」が0であった。b、c、dは、「知っていた」「聞いたことがある」「全く知らなかった」のうち、bが10:8:1、cが3:5:11、dが6:6:7だった。感想は、入所者の運動不足について廃用症候群を学んで腑に落ちた、また加齢の医学的知識や脳性麻痺などの運動について理解が深まり支援の現場で活かせそうとの声が大多数であった。【考察】自立支援法は障害者総合福祉法として2013年の施行を目指しているが、その内容についてはまだ具体的に明らかになっておらず、介護予防に該当するサービスの提供や入所者の高齢化に伴う諸問題について意識を高める事は重要である。施設職員は、運動不足や加齢の問題等の一定の知識はあるが、医学に立脚した具体的な知識に乏しいことが明らかとなった。PTは関わりの中で、このような情報を提供し、一緒に生活を見て共に考え、個々の対象者にあったアドバイスを求められていると言える。
著者
藤本 鎮也 佐藤 慎一郎 浅岡 祐之 西原 賢 星 文彦
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>本研究の目的は下部体幹に装着した非拘束慣性センサのデータに基づいて坐位からの歩行動作の相分けを行い,理学療法士の動画観察による相分けと比較し,その妥当性を検証することである。<BR>【方法】<BR>対象は健常若年男性5名(年齢19.5&plusmn;0.5歳)であった。また,評価者として臨床経験年数の異なる理学療法士3名の協力を得た。課題として、肘掛のない椅子の背もたれに軽くもたれた坐位からの歩行動作(Sit-to-walk)を最大速度にて行うよう指示した。慣性センサは,3軸加速度計と3軸角速度計、そして通信用のBluetoothを備えた小型無線ハイブリッドセンサ(WAA-010,ワイヤレステクノロジー社) を使用し,第3腰椎高位の下部体幹に装着し,サンプリング周波数50Hzにて慣性データをパソコン(以下PC)に取り込んだ。同時にPCにUSB接続したWebカメラ(UCAM-DLY300TA,エレコム社)にて側方より動作を録画した。慣性センサデータと動画の同期と取り込みにはSyncRecord Ver.1.0(ATR-Promotions社)を使用した。取り込んだ下部体幹の慣性センサデータの前後方向加速度とPitch方向の角速度変化から運動開始,離殿そして歩き始めの瞬間を特定し出現までの所要時間を算出した。理学療法士の観察による分析は,録画データをPC上で再生し,速度を自由に変えながら3人の理学療法士が運動開始,離殿そして歩き始めを判断し,画面上のタイムコードを読み取り所要時間を計測した。データ解析は,まず理学療法士による分析結果の再テスト法による検者内信頼性および検者間信頼性を検証し,続いて下部体幹センサに基づく結果と理学療法士の分析結果の相関分析を行った。データ処理と解析にはExcel 2010及びSPSS for Win ver.18を使用した。本研究は協力者に研究内容の説明を行い,書面にて同意を得た後、転倒防止や個人情報保護等に配慮しながら行った。<BR>【結果】<BR>理学療法士の分析結果の信頼性は検者内検者間共に高い信頼性を示した(ICC:&rho;=0.99-1.00,p<0.01)。下部体幹装着慣性センサにより特定された全ての結果と理学療法士の分析に基づく結果の間で高い相関が認められた(運動開始r=0.99,離殿r=0.99,歩行開始r=0.99,いずれもp<0.01)。<BR>【考察およびまとめ】<BR>理学療法士の分析結果は,動画の再生速度を変化させながらタイムコードを利用した時間計測を行ったことで信頼性が高まったと思われる。理学療法士の分析結果と下部体幹装着慣性センサの結果が高い相関を示したことは,下部体幹装着慣性センサによる相分けの臨床適用の可能性を示唆するものであると考える。
著者
仲里 到 倉科 巧 前田 伸悟 木村 雅巳 夏目 隆典 武田 尊徳 中村 有希 竹中 良孝 野口 千春 海田 長計
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.134, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】 当院では、理学療法標準プログラムを作成しH21年4月より運用している。理学療法標準プログラムとは、詳細な理学療法プログラムを組み込み、フローチャート・ステップアップ方式を導入した治療プログラムである。当院の特徴として毎年10名以上の新人セラピストが入職している。そこで、経験年数を問わず、提供する理学療法にばらつきが出ず、一定の質を保った理学療法を提供する事を目的に作成された。この理学療法標準プログラムの効果について検証を行った。 【対象と方法】 対象は、H19年4月からH22年12月までの3年間に当院整形外科に入院し、人工股関節全置換術を施行、理学療法介入があった症例のうち、後方視的にデータ収集が可能であり、創傷治癒に関わる術後感染や合併症のある症例は除外した70症例とした。方法は、群間分けを理学療法標準プログラム導入前の症例(以下A群)、50症例51股(男性14名・女性37名、年齢65.3±9.7歳)、理学療法標準プログラム導入後の症例(以下B群)、19例19股(男性6名・女性13名、年齢69.9±9.2歳)とした。入院前基本情報は、年齢、BMIとした。治療効果のアウトカムをT-cane歩行150m獲得までの日数(以下杖歩行獲得期間)、在院日数として、当院における理学療法標準プログラムの効果を検証した。統計処理は、R-2.8.1を用いてマン・ホイットニーのU検定を使用し群間比較を行なった。危険率は5%及び1%とした。なお、当院の倫理委員会より承認を受け実施した。 【結果】 入院前の基本情報としてA群とB群のBMI、年齢に有意差を認めなかった(p>0.05)。杖歩行獲得期間の平均はA群21.3±10.6日、B群10.6±3.0日で有意差を認めた(p<0.01)。在院日数の平均はA群34.2±10.1日、B群27.0±4.3日で有意差を認めた(p<0.01)。 【考察】 B群の杖歩行獲得期間と在院日数は短縮した。理学療法標準プログラムを導入する事で、患者個人の機能的、能力的な評価を着実に行い、期間ごとのステップアップ基準を設けることでリハビリの進行状況が確認できる。そのため、遅延した場合は、再評価を行い適切な治療を選択することで機能、能力が向上し杖歩行獲得期間、在院日数が短縮した。これらの結果より、当院における理学療法標準プログラムは一定の効果が得られたと言える。今後の課題として、経験年数が浅いセラピストとそうでないセラピストで杖歩行獲得期間や在院日数の短縮に有意差があるか検証していく。
著者
渡辺 学 網本 和 新井 智之 廣瀬 隆一(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.17, 2006 (Released:2006-08-02)

【目的】「鏡失認」は、鏡上の物体を探索しその物体が視野内に呈示された後でもその探索行動を変容できない症状で、1997年にRamachandranが初めて報告した。また彼は鏡の利用により半側空間無視が改善する可能性を示唆しているが、その後も定量的な研究は行われていない。今回、半側空間無視に鏡失認を認めた例に対して定量的な評価を行い、次に鏡を利用することで半側無視の改善が得られたので報告する。【対象】症例A:85歳、女性。右頭頂葉皮質下出血、左片麻痺。JCSI-1、Brunnstrom stage上肢II手指I下肢II、左感覚重度障害、同名半盲なし。合併症は、見当識障害、認知障害、注意障害、病態失認、左半側空間無視、Pusher症候群。ADLは全介助、作話あり。症例B:89歳、女性。右側頭頭頂葉皮質梗塞、左片麻痺。JCSI-1、Brunnstrom stage全てVI、左感覚障害なし。合併症は、同名半盲、認知障害、構成障害、注意障害、病態失認、左半側空間無視。ADLは監視レベル。【方法】車椅子の右側に矢状面方向で姿勢鏡を隣接した。検査者は対象者の右前方に位置し、鏡に注意を向けさせそれが何かを呼称させた後、鏡上に映る物体を呼称させた。次に閉眼させ、対象者の前方50cm両眼の下20cm高さで鏡面から水平方向に左50cm(対象者の身体正中線より左側)の所に、ピンク色で直径6.5cmのボールを上方から糸で吊して呈示した。対象者を開眼させ鏡上に映るボールが認識できるか確認してから、「手を伸ばしてボールを取って下さい」と口頭指示した。鏡上を探索し実際のボールが掴めない場合は再び閉眼させ、ボールを10cm間隔で鏡面に近づけて同様の指示した。これを実際のボールを掴めるまで繰り返し、掴めたら今度は10cm間隔で鏡面から離していき、再びボールを掴めなくなる位置を確認しこれを閾値とした(鏡条件)。その後、鏡条件での閾値位置前後でボールの認識とリーチ動作を繰り返し(ミラーアプローチ)、治療前後でAlbertテストを実施した。【結果】鏡条件では、症例Aはボールを鏡面から10cm、症例Bは5cmの位置に近づけるまでは一度実際のボールを見ても鏡像を掴もうとして鏡面を探り、「鏡に浮いていて掴めない」「掴めるわけない」と訴えた。反対にボールを鏡面から離していくと症例Aは40cmで再び鏡上を探るようになり、症例Bは50cm離れても実際のボールを直接握ることができた。ミラーアプローチ前後のAlbertテストは、症例Aは17/40から36/40に、症例Bは38/40から40/40に変化した。【考察】実際の目標をつかめた距離の測定により、鏡失認と半側空間無視の評価を定量的に行う手段となりうる。一方、鏡の利用により半側空間無視が改善する例があり、治療法として有効な手段の一つであると同時に、症例により効果が異なる可能性が示唆された。
著者
中村 睦美
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.245, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】小学校におけるキャリア教育は,初等教育から高等教育に至る系統的・組織的なキャリア教育の基盤として極めて重要な意味を持つ。平成22年度と平成23年度の2回,このキャリア教育の一環として小学6年生を対象とした職業体験学習に理学療法士として参加したので報告する。【方法】キャリア教育の一環として,職業体験学習の講師募集要項が小学校全学年児童を通して保護者に配布され,児童の保護者や地域住人を中心に医師,大学教員,理学療法士,新聞記者,カラーコーディネーター,編集者,絵本作家,フードコーディネーター,獣医,植木職人,映画監督,消防士の12職種13人が講師として集められた。聴講者は小学6年生で,自分が話を聞いてみたい職業を3職種選び聴講することができる。1つの職種につき講義時間は約30分であり,講義の後仕事体験を行った。理学療法士の仕事体験には,車いす駆動,下肢装具装着歩行,松葉杖歩行を行った。なお,今回の発表に際しては当小学校から承認を得ている。【結果】興味をもって自ら「理学療法士」の聴講を希望した児童数は,22年度は77名中19名,23年度は86名中6名で他の職種に比べて少ない印象であった。後日,実際に感想文として提出されたものの中には「話を聞くまでは何をする人か分からなかった。」「車いすや松葉杖体験が楽しかった。」「話を聞いて理学療法士に興味をもち,将来なりたいなと思いました。」と記載されていた。【考察】今回,小学6年生を対象としたキャリア教育に参加して「理学療法士」の認知度の低さを感じた。「理学療法士」という職種を知らない児童が多く,今回はじめて認識したという児童が多い印象であった。2009年に行われた全国の小学生~高校生を対象とした将来なりたい職業の調査では,「理学療法士・臨床検査技師・歯科衛生士」は高校生では男子で9位,女子で5位であったが小中学生では圏外であった。2010年度の理学療法週間事業での取り組み報告によると「理学療法士」の認知度は3割と低いが,低年齢になるほど低くなるとの報告もある。低年齢時から理学療法士への理解を深めることで,理学療法士としての適性を備えた人材の育成や理学療法士の質の向上につながると考えられる。今回このような経験を得て,小学生を対象としたキャリア教育への理学療法士の参加は児童の勤労観・職業観の育成を促すとともに,理学療法士の社会的認識の向上に非常に有用な場になり得ることを実感した。【まとめ】理学療法士の小学校キャリア教育への参加は,児童の理学療法士への理解を深めるとともに職業選択範囲の拡大をもたらすと考えられる。
著者
寺山 圭一郎 小川 明宏 秋葉 崇
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.6, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】パーキンソン病の歩行障害のうち、すくみ足の改善に対しての報告を目にすることはあるが、小刻み歩行の改善に対しての報告は少ない。パーキンソン病での歩行は健常人の歩行と比較して、左右への重心移動が少なく、この結果、振り出しが困難となっている。今回、小刻み歩行を改善するために、重心の左右移動を大きくすることを目的として横歩きによるアプローチを行った。 【対象】当院神経内科に検査目的で入院もしくは外来通院中のパーキンソン病患者6例。男性3例、女性3例。平均年齢75±8.9歳。Yahr分類はIIが3例、IIIが3例で、歩行は自立しているものの、小刻み歩行が認められる症例。なお、全例に対して、本研究の趣旨を説明し本人に同意を得た。 【方法】特に指示はせず、5mの快適歩行を2回実施。この時間と歩数を計測。同時にビデオで撮影。その後、平行棒内で3往復の横歩きを実施。この際、(1)真横になるべく大きく足を出すように。(2)下を向かず、前を向いてなるべく遠くを見るように。とだけ口頭にて指示をした。横歩き後、再度、5mの快適歩行を実施。この時の時間と歩数を計測し、ビデオで撮影。撮影したビデオから動作解析ソフトPV Studio 2Dを用いて、5mの中央付近の任意の一歩の歩幅とその身長比を計測。それぞれを横歩き前後で比較。対応のあるt検定にて統計処理を行った。 【結果】横歩き後、歩行時間は平均8.59±3.10秒から7.20±2.37秒、歩数は平均15.3±4.55歩から13.0±3.85秒に減少、歩幅は平均0.31±0.09mから0.37±0.10mと増大が認められた。また、歩幅/身長も平均0.20±0.05から0.23±0.06と、全てにおいて横歩き後で有意に改善していた(p<0.05)。 【考察】パーキンソン病患者の歩行は、脊柱起立筋において持続性の高い筋活動が認められ、体幹が棒状となっているために、重心の左右移動が小さくなっている。さらに、重心の後方への偏移が特徴的で、前傾姿勢により重心を随意的に前方に移動させ、歩行における下肢のステップを維持するための代償として小刻み歩行が認められる。また、前傾姿勢により骨盤回旋が少ないことも歩幅が短くなる要因として挙げられる。横歩き動作では、下肢を横に大きく出すために、体幹の伸展、側屈を伴った一側下肢への十分な体重移動が必要となり、結果として重心の左右移動が大きくなったと考えられる。また、体幹を伸展位に保つことで、体幹の可動性が向上し、回旋要素が出現したことで歩幅が大きくなったと考えられる。
著者
齋藤 透
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第28回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.6, 2009 (Released:2009-08-11)

【目的】今回は過度な右側弯・前屈姿勢で腰痛、右下肢の痺れを呈する58歳の若年性parkinson病(以下PD)患者を担当した。入院から外来を通じて治療経過を追うと共に、在宅での生活を加味した管理とリハビリ、注意点に対して再考慮したい。 【症例紹介・方法】症例はH8年に字の書き難さで発症。徐々に前屈・非対称姿勢、右側優位の固縮・振戦を認め、H18年よりシルバーカーを使用。同時期より転倒回数の増加並びに腰痛をきたした。報告時はYhar4。今回は薬剤性の意識障害・異常行動のため入院。座位保持は右上肢優位での支持を要し、歩行は二つ折れの姿勢で前方突進はあるが可能。needは「姿勢を真っ直ぐにしたい」ということであった。治療は1回40分、計4回、外来で週1回、数回の運動療法を実施。起居動作、姿勢、歩行をビデオ撮影し、また検査項目としてTimed Up and Goテスト(以下TUG)の治療前後の比較(シルバーカー使用)。治療に繋げる視点から動作の問題点を検討、自宅での練習及び管理状態を調査した。尚、症例より掲載の承諾を頂いた。 【結果】TUGの治療前後は23秒から34秒(2/13)、32秒から40秒(2/23)と増加した。治療前後では立ち上がり方、姿勢、前方突進が改善、腰痛・下肢の痺れは減弱、また転倒回数が減少した。 【考察】結果より時間の延長を認めた要因は、本人が対象姿勢を意識し、ゆっくり動作を行っているためと思われる。非対称姿勢の主要因は右肋骨と骨盤間の伸展活動の低下、二次的要因に右股関節の屈曲内旋固定が見られた。左記に着目し姿勢改善を図ることで運動のbaseとなる全身の筋緊張が整い、体幹の抗重力活動が向上したためと考える。治療場面は背臥位で四肢の運動から体幹の支持性を高め、段階的に立位で体幹を空間で保持をするようにしたことが姿勢に関して認識しやすかったと思われる。自宅での姿勢管理では坐位時は机上に両肘を着き非対称姿勢の管理を喚起し、左殿部に支持面を持つように意識付けし対称的な姿勢に近づけたことが腰痛低下・治療効果の持続に繋がったと考える。 【まとめ】今回対称的な体幹、抗重力活動を再学習し視覚的な情報により再確認し、実際の環境を工夫することで数回のリハビリにより改善が図れた。今後の課題として、治療の期間を考慮し学習をどれだけ持続できるかを検討していきたい。
著者
水澤 一樹
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.70, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】大腿骨近位部骨折(PFF)は転倒による受傷が大半を占め,再転倒による再受傷も多い.そのためPFF患者において転倒リスクの評価は重要と考えられ,PFF患者においてTimed “Up & Go” Test(TUG)は,6カ月以内の転倒予測に役立つとされる(Kristensenら,2007).なお「測定値=真の値+誤差」であるため,評価を行う際はその評価方法の信頼性が重要となる.これまでTUGの再検査信頼性については,様々な対象において報告されているが,PFF患者における報告は少ない.なお信頼性の指標としてはShroutら(1973)の級内相関係数(ICC)が用いられることは多いが,ICCは相対信頼性であり,測定値が含む誤差の種類や量は不明である.そのため本研究の目的は,PFF患者におけるTUGの再検査信頼性について,相対信頼性のみではなく,絶対信頼性とともに検討することとした. 【方法】対象は歩行が可能なPFF患者17名(男性3名,女性14名)とし,年齢は79.4±9.4歳であった.対象には,あらかじめ研究内容について十分に説明を行い,書面にて同意を得た.TUGはPodsiadloら(1991)の原法に従い,受傷後51.6±20.4日目に初回,初回から1週間後に2回目を実施し,各日3回ずつ1名の理学療法士によって測定された.相対信頼性の指標はICC,絶対信頼性の指標は測定標準誤差(SEM)とし,いずれも95%信頼区間(95%CI)まで求めた.まず本研究における検者内信頼性を検討するため,ICC(1,1)を求め,目標のICC値を0.70として,Spearman-Brownの公式から必要な測定回数(k)を求めた.その後にICC(1,k)を求め,目標値である0.70以上の値が得られていることを確認した.そして最後に両測定日におけるk回の平均からICC(1,1)とSEMによって再検査信頼性を検討した.すべての解析にはR2.8.1(Free software)を使用した. 【結果】本研究における検者内信頼性はICC(1,1)が0.98(95%CI:0.97-0.99),SEMが1.71(95%CI:1.47-2.05)であった.Spearman-Brownの公式からk=0.04となり,必要な測定回数は1回と推定された.そのため,両測定日における1回目,2回目,3回目の測定を対象として再検査信頼性を求めると,ICC(1,1)は1回目が0.92(95%CI:0.81-0.98),2回目が0.98(95%CI:0.94-0.98),3回目が0.98(95%CI:0.94-0.99),SEMは1回目が3.67(95%CI:2.74-5.59),2回目が1.99(95%CI:1.48-3.02),3回目が2.00(95%CI:1.49-3.04)であった. 【考察】PFF患者に対してTUGを実施する場合,ICCの結果から再検査信頼性は十分に高いと考えられた.しかし範囲制約性の問題があるため,他の報告とICCの結果を比較する場合にはSEMを含めて判断しなければならない. 【まとめ】PFF患者17名を対象とし,TUGの再検査信頼性について検討した結果,他疾患者と同様に高い信頼性が確認された.