著者
中村 圭子
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究において新たに改良した有機物その場観察法及び非汚染試料作成法により,Tagish Lake隕石中には空洞コアとマントルから成る構造を持つ微粒子が多数存在することが判った。さらに,この粒子を多量に含む切片のラマン及び顕微赤外分光測定を行った。これらの測定の結果,粒子は主にアモルファス炭素とC=O,C-H結合から成る脂肪族カルボン系有機物及び芳香族有機物から成ることが判った。このような有機粒子は,本研究で行った電子顕微鏡その場観察により隕石中で初めて発見されたが,これまで生物学者らが行ってきた有機物のmembrane実験生成物と酷似した形状・組成を呈している。以上のように,本研究では「隕石中有機物の直接観察の成功及びその成因の解明」という大きな成果がもたらされた。研究成果は'Hollow organic globules in the Tagish Lake Meteorite as possible products of primitive organic reactions'と題して、学術雑誌International Journal of Astrobiology(2002) 1., p179-189に掲載された。研究論文発表に伴い、本雑誌出版社のCambridge Pressおよび研究活動のために渡航していたアメリカ航空宇宙局においてプレスリリースが行われ、各メディアによって高い関心をもって受け入れられた。●アメリカCNNテレビ・アメリカCBSテレビ・インタビュー●ワシントンポスト誌・サイエンス欄掲載●ロシア国営新聞イズベスチヤ・サイエンス欄掲載●ドイツ・アストロバイオロジーNow,惑星科学協会・ニュース速報掲載●ニューサイエンティスト誌・ニューサイエンス欄掲載●Yahoo!ニュース・Space.com等 インターネットニュース等掲載
著者
北場 育子
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

地球磁場が気候に与える影響を検証するため、以下の研究を行った。1.複数の地磁気逆転を含む110~70万年前の大阪湾堆積物の古環境解析を行った。本年度は、特に、地磁気の逆転が起こらなかったステージ25の珪藻・硫黄・花粉を分析し、海水準と気候を復元した。また、先行研究による年代モデルの見直しを行い、より高精度な年代軸を入れた。さらに、アリゾナ大学で炭素同位体分析を行い、新たな古環境指標を得た。その結果、全体的な気候変化は、日射量変動に起因する氷体量変化によって生じる海水準変化と調和的な変動を示し、通常、地球の気候はミランコビッチ理論で説明できることを確認した。しかし、ステージ19と31では、最高海面期に日射量変化では説明できない寒冷化が生じていた。この寒冷化は、それぞれ、マツヤマ-ブリュンヌ地磁気逆転期と、ハラミヨサブクロン下限の地磁気極小期に一致しており、約40%以下への地磁気の減少が、約1~4℃の気温低下を引き起こしたことを明らかにした。成果の一部をGondwana Research誌に公表したほか、近日中にScience誌に論文を投稿し、国内外の学会で発表を行った。2.110万~70万年前に生育していたブナ属は、絶滅種を含むため、植物化石に基づく同時代の気候復元は困難であるとされてきた。そこで、この絶滅種の分類学的位置と生育条件を明らかにした。この成果は、第四紀研究に論文を公表し、国内の学会で発表した。3.インドネシアのハラミヨサブクロン下限相当層の花粉分析を行った。この層準では古地磁気強度を得ることが困難であり、地磁気強度と気候の関連を検証するには至らなかったが、地磁気逆転境界付近を境に、環境が大きく変化したことを明らかにした。このほか、共同研究として、新第三紀~第四紀の磁気層序と植生・気候変化に関する研究や、インドネシアのマツヤマ-ブリュンヌ境界付近の人類化石産出層に関する古地磁気・古気候学的研究を行い、論文を公表した。
著者
谷 武幸 ALI Arnaut HORVATH Pete HOPPER Trevo SCAPENS Robe 加登 豊 TREVOR Hopper PETER Horvath ROBERT Scapens ARNAUT Ali HORYATH Pete HOPPER Trero SCAPONS Robe WANGENHEIM S
出版者
神戸大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

平成10年度には、過去2年間の研究を踏まえて、研究成果の総括を行った。研究の成果は、次の3点にまとめることができる.(1) 原価企画の日独比較。3年間のフィールド調査に基づいて、またすでに実施済みの日本企業対象の「原価企画の実態調査」をドイツ企業対象に実施した.これらの比較調査の分析観察結果については、8月に神戸大学でワークショップを開催し、日米の研究者・実務家が参加してディスカッションを行った。このワークショップでのディスカッションをフィードバックして、研究成果をとりまとめ、公刊することにしている。(2) サプライヤーマネジメントの日独比較。これについては、平成9年度に行った日独比較のサーベイ調査をとりまとめ、論文を公刊した。ドイツ企業において、試作から量産までのリードタイムが長くなっている要因をサプライヤーマネジメントの観点から析出できた。(3) グローバル組織の管理会計に関する日英比較。次の諸点が明らかになった。1 日本の多国籍企業は、本社主導でマネジメントコントロールを行う傾向があること2 日本における場合と同様に、業績評価を行うが、それとインセンティブとの関連が希薄なこと3 指揮や指示がハイコンテキストな方式で行われる結果、現地人管理者には不平や不満が少なくないこと4 現地からすれば、不要だと思われるような頻繁で大量の情報を本社が要求すること、そして、それらの情報に基づいた本社からの指示がほとんと行われていないこと5 上記の点を含めて、「マネジメント・コントロール」という用語が世界共通で用いられるにもかかわらず、その意味の理解については、国ごとに相違があり、このことが、多国籍企業のマネジメント・コントロールの実施にあたって,多種多様な問題を生じさせていることなどが明らかになった。
著者
庄司 浩一 牛尾 昭浩 松本 功 川村 恒夫 荒井 圭介 横野 喬
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

昨今のIT農業における実用的なセンサとして,穀粒の衝撃音をイヤホンで感知し,コンバイン上での収穫質量と水分,穀物乾燥機上で水分の推定を行った。コンバインの穀粒タンク内では別途用意した小型の衝突板に,乾燥機では側壁に市販のセラミックイヤホンを装着した。籾およびコムギの収穫時に出力を積算して実際の収穫質量と対応させると,単純な線形回帰でも標準誤差1 kg程度を得た。時系列の信号を周波数領域の音響スペクトルに演算しなおし,任意の2周波数バンドを選択して水分推定を行うと,標準誤差は籾で0.4%,コムギで0.8%を得た。乾燥機でも同様の手法で籾の水分推定を行ったところ,標準誤差0.1%を得た。
著者
沖本 天太 井上 克巳
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では動的環境における多目的分散制約最適化に関する研究を行った.まず,多目的分散制約最適化アルゴリズムとして,すべてのパレート最適解が求解可能な厳密アルゴリズム,パレートフロントの部分集合を求解する非厳密アルゴリズム,パレートフロントの近似解を求解する近似アルゴリズムをそれぞれ開発した.次に,動的環境における多目的分散制約最適化問題を定式化し,この問題を解く効率的なアルゴリズムを提案した.最後に,応用研究として,チーム編成問題及びナース・スケジューリング問題に本モデルを適用した.本研究は,申請書に記載した研究計画どおりに進めることが出来,AI分野の最難関国際会議に複数の論文を輩出している.
著者
藤井 勝
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 日本の伝統的家族理念は、近世の家の理念に求められる。近世の家は家父長制的ではあるが、成員の対等性と和の理念によって支えられた。また公的役割を果たすべき存在として家は理念化されたが、それは永続性の希求という理念を強化した。近世の身分層ごとに家の理念は多様性でありつつも共通の特質をもった。町人層さえも家の理念を発展させたことは、近代以降の産業化・近代化にとって重要な意味をもった。さらに家の理念は、祖先信仰からも儒教倫理から適合的な思想や価値観を提供された。2. 近世の家の理念は近代に引き継がれた。「日本的」なシステムは、明治以降の近代化のなかで解体されたのではなく、むしろ継承・再編されたからである。たとえば近代の儒教はかなり硬直的・統制的となって家の変容を生み出すが、それも近代の政治経済的展開への適応的な再編であった。そして戦後の高度成長期にさえ、「日本型企業社会」のなかに再編された。現代こそ、「日本的」システムの、また家の理念の大きな変容期である。3. 以上の歴史的前提のもとに、現代社会の家族理念は存在する。第一に、現代の家族理念には、現代的な変容と伝統性の保持とが共存している。成員の情緒的感情的結合を重視する一方で、家族の継承性を求める理念は根強く存在している。都市的地域の祖先祭紀でも、夫婦家族に適合的な祭紀が広がる一方で、伝統的祭紀およびその観念を持続させる契機が孕まれている。伝統的な家族理念の解体による「現代家族」的理念の確立という直線的過程を、調査データからは展望できない。第二に、農村では過疎化要因が家族理念に影響を与えている。そのため農村は都市と比較して遅れている、あるいは伝統的な文化的・社会的特質をもつという一般的な仮説は必ずしも適用できない。親子居住をめぐる理念と実態の関係をみても、農村地域では親子同居についての家的理念があるにもかかわらず、結果としては高齢者夫婦(単身)世帯が増加し、そこに独特の家族理念が生ずるという現状がある。
著者
北田 皓嗣
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

MFCAの導入モデルを構築し,そのモデルの利用可能性を明らかにするという3カ年の研究計画に対して,平成23年度には,これまで継続してきたアクションリサーチと事例研究を翻訳の社会学の視点から分析することで,企業の経営志向と環境志向の関係について,企業の資源管理活動に着目することで実践的なレベルでMFCAがどのような役割を果たしているのかについて分析した。このようにMFCAを通じた資源管理実践の変容についてプロセスを明らかにするため,次の2つのように研究を実行した。まずアクションリサーチを通じて,研究計画で掲げていた中小企業へのMFCAの普及の可能性を検討するという目標に対して,MFCA導入のために必要となる経営資源が相対的に不足している中小企業において計算実践を通じて組織構成員の実践的知識を形成しながらMFCAを導入するというプロセスを飽きたかにしたという貢献をすることができた。これによりMFCAを通じた環境と経済の両立の意味について組織で学習する際に,計算実践そのものが役割を果たしていることが明らかになった。もうひとつは,3カ年を通じて継続的に行ってきたサンデンでのMFCAの事例への分析を通じて,MFCAを通じて企業レベルでの環境と経済の両立の実践と組織内での環境担当者の役割や位置づけの変化との関係について明らかにしてきた。MFCAを通じて資源生産性を向上させようとするときに生じる環境保全活動の枠組みと経営活動の枠組みとの間の齟齬について,これまでの研究では管理可能性原則を通じて責任の体系の問題として議論されてきた。これに対して本研究ではMFCAの導入主体である環境担当者の役割に着目することで,MFCAを通じた組織での権力関係の変化を通じて環境と経営の齟齬が解消されるプロセスを明らかにした。
著者
京極 博久
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

最近の研究から, 核小体を除去(脱核小体)した卵核胞期(GV期)の卵母細胞は, 正常に成熟するが, 受精後の前核期の核中に核小体は形成されず, 胚は2~4細胞期で発生を停止することが示された。正常な前核期胚の核中に形成される核小体は, 卵核胞期(GV期)の核小体と同様に緊密な形態をしている。2細胞期以降, この緊密な卵母細胞型の核小体の周囲から体細胞型の核小体が形成され始め, 胚盤胞では完全に体細胞型の核小体となる。本研究では, 前核中の核小体が, それ以降の胚発生に必須であるかを前核から核小体を除去することによって調べた。また, 脱核小体した前核期胚から発生した胚に核小体が再形成される可能性を探った。まず, 顕微操作により雌雄両前核から核小体を除去した後, 体外で発生させ, 胚盤胞への発生率を調べた。また, 2細胞期へと発生した胚を移植することによって産仔への発生を調べた。GV期で脱核小体した胚は発生しなかったが, 前核期で脱核小体した胚は正常に胚盤胞へ発生し, 胚移植により正常な産仔となった。次に, 核小体の形成を確認するために, GFPタグのついた卵母細胞の核小体に特異的な蛋白質NPM2のmRNAを用いたライブセルイメージングと体細胞の核小体に特異的な蛋白質(B23, UBFなど)に対する抗体を用いた免疫蛍光染色を行った。前核期で脱核小体した胚は, 卵母細胞型の核小体なしに, 発生過程で体細胞型の核小体を形成した。以上の結果から, 卵母細胞型の核小体は前核期以降の胚発生に必須ではないこと, 卵母細胞型の核小体がなくとも胚は体細胞型の核小体を形成することが明らかとなった。
著者
江原 靖人 中村 晴信 開發 邦宏
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

インフルエンザウイルス(IV)は現在、パンデミックが最も危惧されているウイルスである。このウイルスの表面はヘマグルチニン(HA)という3量体タンパク質によって覆われている。HAのシアル酸結合部位と高い親和性で結合する化合物は、あらゆる型のIVに対して予防、診断、治療が可能であると考えられる。本研究ではIV上のHAの3つの糖鎖結合部位に同時に結合するような3-way junction糖鎖修飾DNAを合成した。このDNAは、シアリルラクトース基単独に比べ、80,000倍親和性が向上した。この化合物は、高感度・迅速にインフルエンザ感染を診断するシステムや治療薬としての応用が可能であると期待される。
著者
相澤 直樹
出版者
神戸大学
雑誌
人間科学研究 (ISSN:13404474)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.77-88, 2002-11
被引用文献数
1
著者
鎌江 伊三夫 柳沢 振一郎 石井 昇
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

敦賀湾における核事故を想定した医療対応力に関して、北陸・東海・近畿の部の医療機関にアンケート調査を実施した。その結果、ヨウ素製剤の備蓄・重症熱傷や骨髄抑制の治療などの急性期治療は、限定された人数なら対応可能であるが、大規模事故にて多数の被爆者が出た場合は対応が困難であることが推定された。敦賀湾限定の核事故におけるヨウ素製剤投与に関しては、確認された備蓄量11万人分という数量から推測して、準広域にて十分な対応が可能と思われるが、大都市を含む大規模災害となった場合の必要数と供給には2桁ほどの乖離が予想された。広域避難に対しては転送手段・受け入れネットワークにも課題が確認された。また、NBC災害や大規模災害に対する災害対応マニュアルを含めた準備態勢にも問題が見受けられた。一般施設の被災に関して、施設間転送ネットワークや各種災害マニュアルなどは比較的低予算で整備することが出来、ほかの各種災害に援用可能なシステムもあるので、積極的な整備が望まれる。災害拠点病院や県立病院単位でのネットワークは整備されているが、ネットワーク外に置かれている私立病院をはじめとする施設と患者が存在する。特に広域避難に関しては、個々の施設や自治体の対応の限界を超えた問題が多い。行政や関連学会の補助が必要と考えられるなど、今後の対策要件等について明らかにすることができた。避難区域が広域となった場合や大都市が発災中心となった場合、さまざまな医療措置が不足となる事態が想定される。例えば本研究の調査では、人工透析通院数と余剰受け入れ可能数の乖離が確認された。政策における余剰医療設備の適正量の決定は、医療経済的な側面からだけではなく社会安全保障の側面からの検討も必要との示唆を得た。
著者
楫 靖 杉村 和朗 藤井 正彦 守殿 貞夫 黒田 輝
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度は未治療前立腺癌患者5名で協力の同意が得られた.超高磁場MR装置(Signa VH/I3.0T)を用いて,前立腺MRI撮像とMR spectroscopy(MRS)測定を行った.4名で前立腺生検後血腫が残存しており,ヘモジデリンによる磁場不均一化で,MRSでは雑音の多いスペクトルとなった.MRIでも血腫の影響が強かったが,血腫の無い前立腺健常部については導管構造が詳細に描出されており,通常の1.5テスラMR装置の画像よりも細かい構造評価が可能と考えられた.平成16年度は血腫の影響を避けるため生検前患者51名にMR検査を行った.血腫は同定できなかったが,腸管ガス貯留により磁場が乱れ,良質のスペクトルを得られないことがあった.これには検査前夜に下剤を投与することで対応した.スペクトルを解析すると非常に高品質なスペクトルと雑音の多いものが混在していた.対象となった患者の前立腺の体積は大きく全領域を均一に励起できないことが理由と考えられ,現装置の限界であった.質の高いスペクトルが得られたのは,25症例の辺縁域40領域,移行域40領域であった.生検結果と対比させると,MRSで得られた(コリン+クレアチン)/クエン酸比(CC/C)は,辺縁域癌(5領域)で1.94,移行域癌(3領域)で1.84を呈し,健常な辺縁域(0.46)や移行域(1.03)と比べて有意に高かった.CC/Cと病理学的悪性度を表すGleason scoreを対比させると,関連性が示唆されたが有意ではなかった.期間内の研究では,MRSの情報を加味した新たな侵襲性を予測する指標を作成することはできなかった.しかし,均一に励起されている領域のスペクトルの質は,一般の1.5テスラMR装置を使用した場合よりも格段に信号雑音比,スペクトル分解能に優れており,MR装置の改善により前立腺癌の診療に有用な情報をもたらす可能性があると考えられた.
著者
簔原 俊洋
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

初年度の主たる研究実績は、海外における資料調査・収集であった。必要な資料が膨大であることにくわえ、その所在地が分散しているため、まず研究の中心を成す通信諜報(SIGINT)関係の文書を渉猟することにした。その結果、まずメリーランド州の国立公文書館(National Archives II)とヴァージニア州の国家安全保障局資料館(National Security Agency Library)に二カ所にて所蔵されている資料を収集することができた。国立公文書館では、国務省(RG59)、及び国家安全保障局(RG457)の資料を中心に調査を行ったが、その結果、アメリカの通信諜報の歴史や対日諜報の実態について多くを明らかにすることができた。他方、国家安全保障局の資料館では、部分的に秘密指定が解除されているTarget Intelligence Committee (TICOM)の資料、及び解読作業に携わった主要関係者のオーラル・ヒストリー(William Friedman, Frank Rowlett, Laurance Safford)のコレクションを調査し、必要な部分を入手することができた。なお、こうした調査の研究成果は学術論文としてまとめて公表する段階には到達していないが、一般の関心が高いため、2005年1月に、二回に渡って『産経新聞』にて新たに明らかとなった米国の対日通信諜報の実態に関する記事を掲載した。くわえて、この夏には、ある歴史雑誌にも記事が掲載される予定となっている。秋からは、米国に次いで通信諜報関係の資料が豊富であるイギリスにおける資料収集にシフトし、英国立公文書館(旧Public Records Office、現National Archives)にて「対日暗号情報」(通称、BJシリーズ)の調査を行った。しかし、より肝心なブレッチリー・パーク(Bletchley Park)にある国立暗号資料センター(National Codes Centre)での調査はまだ手付かずの状況であり、来年度に持ち越されることになる。なお、2月と3月には、集中して研究報告の機会に恵まれ、リーズ、ケンブリッジ、エジンバラ、アバディーン、ノッティングハムの各大学にて研究の途中経過について公表した。
著者
髙須賀 圭三
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度は、既往調査によって野外で発見したクモヒメバチ一種の産卵行動を飼育下で再現させる系の構築に着手したが、うまくいかず課題を残した。野外で成熟メスを確保することが難しく、羽化させたメスを飼育することで成熟させ供試したが、この手法では産卵しなかった。今後、野外個体による追試を行う必要がある。本種を含め、本研究で発見されたクモヒメバチ二種の野外での産卵行動は、例数の少なさから学術誌への報告は控えている。ただし、植物上に複雑で繊細な不規則網を張る寄主(ニホンヒメグモ)を室内で造網させる系を確立できたことは、今後の進展に寄与する成果である。また、本種を含め計三種で行った交尾実験がいずれも不成功に終わったことは、本研究最大の障害となった。ネガディブデータが今後の研究に活かされることを期待する。初年度から着手したクモヒメバチによるクモの網操作には進展があった。過去二年に行った網の構造比較や造網行動観察などで、ニールセンクモヒメバチが、ギンメッキゴミグモが脱皮前に張る休息網を操作網として強制的に作らせていることは証明できた。本年度は去年度から開始した引張試験による追加試験を行い、操作網の糸の耐荷重が、休息網や円網の糸より遥かに高い一方で、応力では3つの網の間で有意差がないという結果を得た。これらは、休息網に補強の目的はないことと、操作網は、休息網を発現させた上で糸を繰り返し張らせて耐久性を向上させていることを示している。クモの脱皮期間が数日なのに対し、ハチがクモを殺してから羽化するまでに平均10日以上を要したことから、操作網の耐久性にかかった選択圧が、糸張りの繰り返しを進化させたことが考えられる。本研究は、寄生者による寄主操作の適応的意義を物理特性から明らかにした数少ない事例であり、現在J Exp Biolの査読を受けている。また、クモヒメバチによる網操作現象を概説した論文を生物科学に発表した。