著者
有木 康雄 滝口 哲也
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研課題では、スポーツ実況放送の音声認識、及び状況理解を目的としている。状況理解により、スポーツ実況放送のシーンを構造的な単位に分割し、検索のためのメタ情報として利用可能とする。本研究課題では、確率的な枠組みに基づく音声と状況の同時認識、スポーツの進行に伴う状況変化のモデル化、状況に基づく音声認識モテルに特色がある。状況変化モデルは、発話された音声を認識し、発話内容に基づいてイベント推定、及び状況の遷移を行うモデルとなる。ここでは特に発話内容からのイベント推定が重要となる。本研究では、多様な発話を高精度に分類可能なAdaBoostを推定のためのモデルとして用いた。ただし、AdaBoostの出力は確率ではないことから、スコアをsigmoid関数により擬似確率化して用いた。また、AdaBoostを行う際の特徴量として、単語順序を考慮可能な手法であるDTA-Kernel PCAについても研究を行った。状況に基づく音声認識では、状況に応じて変化する言語的・音響的変化に対し、音声認識のモデルを適応する手法について研究を行った。本研究では、それぞれ状況に対応した複数の言語・音響モデルを構築しておき、認識時にモデルを切り替える手法を用いた。状況依存モデルの尤度、及び発話内容からの状況推定の尤度を統合し、最大化することにより、音声認識と状況推定を同時に行った。スポーツ実況放送では、興奮した音声を含む場合があり、興奮音声の認識は通堂の音響モデルでは困難である。研究課題では、さらなる認識性能向上のため、新しい音声認識特徴量、発話スタイルの変動に頑健な音響モデルについても研究を行った。
著者
佐藤 博明 石橋 秀巳
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

火山噴火には爆発的噴火と非爆発的な噴火様式があり,それぞれ防災対策は異なり,噴火様式の違いを生む機構の解明が求められている.この研究では富士火山等について,噴出物結晶組織・組成の分析から,噴火様式を左右するファクターとして浅所でのマグマ脱ガスの程度,及び最終的な浅所火道でのマグマ上昇率が重要であることを示唆した.また,噴火様式を左右する要因である結晶を含むマグマの粘性係数測定をショショナイト,海嶺玄武岩等について行った.
著者
丸山 華
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

1. 研究目的(1) 子どもたちの生活の中で使われる語彙の頻度について明らかにする。(2) 使用頻度の高い語彙から単元のテーマを決定し、年間カリキュラムを開発・提案する。2. 研究方法上記の目的達成のために、具体的に次の4点を行った。・ 外国語活動の授業において各学年約6個の活動を子どもたちに投げかけ、活動に必要な単語を子どもたちに挙げさせるなどして、子どもたちの生活に身近な語彙を集積した。・ 上記で集積した語彙を学年別・カテゴリー別にコンピュータに入力した。その結果をもとに単元を構成し、各学年の年間カリキュラムを作成した。・ 各単元の最後に使用語彙の数や種類について、テストとアンケートを行い、作成したカリキュラムの加除修正を行った。3. 研究成果(1) 高頻度語彙のリスト化児童から挙がった語彙の中で頻度の高かったものをカテゴリーに分けてリスト化した。その結果分かったことは、児童の使用する語彙は教科用図書や児童書で扱われている語彙、そのときに放映されているテレビ番組やニュース、流行に大きく影響を受けているということである。現在、小学校に外国語活動が必修化されるにあたり、教師用の参考資料が多く出版されているが、それらは一般的な語彙であり、実際の子どもの興味関心に当てはまると言い難いことが分かった。例えば、A出版社の「職業」のカテゴリーでは、野球選手、歌手、小説家、アナウンサー、ゲームプログラマーなどが挙がっているが、実際に子どもたちから挙がった職業の中で頻度の高かったものは、サッカー選手、考古学者、弁護士、幼稚園の先生などであった。高学年児童の興味関心は、予想以上に広範囲であり、さらに日本語としても高度な語彙を含んでいる。これらの差異は、地域性・時代性が大きく影響するものであるが、だからこそ目の前の児童の生活語彙を調査し、使用する必要がある。(2) 年間カリキュラムの開発使用頻度の高かった語彙をもとに、1~6年生の年間カリキュラムを作成した。低学年では主にゲームや歌を使いながらの活動、中学年ではごっこ遊び(病院・お店)を中心にした活動、高学年では実際の場面(日本文化の紹介・学校案内)を中心にした活動を配列し、同じカテゴリーの単語をくり返し使うことで英語に親しむことができるようにした。
著者
中江 研
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

生物学者エルンスト・ヘッケルが生物もその原初は鉱物的結晶と同源のものから枝分かれしたものだとするモニスム(一元論)を唱えたことにより、「有機的」という言葉は生物的形態もしくは生物とのアナロジーを超え、水晶などの鉱物の形態に対しても適用されるようになる。その一例が表現主義に分類され鉱物結晶に建築の原型をみるベンツェル=ハブリックの言説に伺える。ル・コルビュジェは「輝く都市」において生物を機械としてとらえた生物学の書物からの引用を掲載しており、一方CIAMにおいて基本となる建築観でそのル・コルビュジエと論争したフーゴー・ヘーリングはオルガンハフトな建築、すなわち器官のような建築をめざすことを主張する。ヘーリングは1920年代初めごろまでは生物の形態を模倣して建築形態をかたちづくることを試みている。しかし1920年代後半から30年代初めごろにかけては、形態の問題としてではなく、人間をひとつの生物として見、その生存するための条件を追及するという計画原論的、環境工学的なものに立脚して制作をおこなうようになる。このころには生理学、衛生学、また心理学の発展にともない、建築においてもそれらの適用がもくろまれようになっていた。これはマルティン・ヴァグナーの言説にも見られる。1931年、ヴァグナーにより『成長する家』設計競技が企画され、彼はそれを取りまとめて1933年に出版している。その中では「住の生物学」という言葉も用いているが、それはひとことで言うならば、それをつかう人間というひとつの生物を安んじ、十分な休息を与え、さらに活力を与える住形式を、科学的にとらえること、といえよう。このように20世紀の初期においては生物学、とくに形態学、生態学、生理学などの発展、展開が、建築の志向するものにつよく影響を与えていると見ることができる。
著者
吉田 典子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

従来のゾラ研究では、ゾラとボードレールの関係が問題にされることはほとんどなかった。それに対して本研究では、自然主義の理論家としてのゾラは反ボードレールの立場を表明しているが、実際は、マネ擁護をはじめボードレールと少なからぬ共通項を持つことを明らかにした。また一般にゾラは、70 年代後半にマネや印象派の画家たちから離反していくと言われているが、本研究では、ゾラとマネの共闘関係は 80 年代初めまで続いており、ゾラの小説とマネの絵画のあいだには多くの相関関係が見られることを示した。
著者
森棟 せいら
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は, ガラス管型を用いることにより, ポリピニルアルコール(PVA)/ナノダイヤモンド(ND)ナノ複合材料を繊維状に成形し, さらに延伸を行うことにより, 超延伸PVA/ND繊維を作製した。作製した超延伸(延伸倍率 : 30) PVA/ND繊維では, PVA微結晶は延伸方向に高配向(配向率95.4%)していることを明らかにした。引張り試験による力学物性の測定をおこなったところ, 未延伸繊維の力学物性はPVA/NDキャストフィルムと同様であった。一方, 超延伸を行うことにより, 力学物性は飛躍的に増加した。ここから, PVAの微結晶配向が繊維の力学物性に大きく影響することが示された. また, 超延伸繊維についてPVA繊維とナノ複合繊維の比較を行うと, NDを1Wt%充てんすることにより, 弾性率は35%, 強度は23%と大きく増加することが明らかとなった。したがって, 超延伸ナノ複合繊維は, PVA微結晶が高配向したことに加えNDの優れた補強効果が発現したことから, 高い力学物性を示すことを見出した。上述の超延伸PVA/ND繊維と同様に, 超延伸PVA/グラフェンオキサイド(GO)繊維を作製した。GOはシート状の形状を有していることから, 繊維内でPVAのみならずGOが配列することにより, さらなる力学補強効果を期待できる。GOをlwt%充てんしたナノ複合繊維は, 超延伸(延伸倍率50倍)を行うことにより弾性率が60GPaに達した。これは, ガラス繊維(弾性率70GPa)に匹敵・追随する値である。さらに, 超延伸PVA/GO繊維は, 優れた熱物性を示すことを明らかにした。GOを充てんしていないPVA繊維と比較して, GOを1wt%充てんしたナノ複合繊維の熱分解温度は, いずれの延伸倍率においても10℃高いことを明らかにした。これは, GOがPVA分子鎖の運動を抑制し, 熱分解に伴う生成物の放出をバリアしたためであると考えられる。
著者
宮川 栄一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

公共財の完成に向けて2人の個人が交互に努力(コスト)を投入し合うというゲームを理論的に解いた。既存研究とは違い,相手がどれだけ公共財の完成に熱心かが不確実にしか分からないというケースを考えた。均衡を1つ求めることに成功した。公共財に必要な努力総量が比較的小さい場合には均衡が一意であることも証明した。均衡において公共財は徐々にしか完成しないことが分かった。必要な努力総量が少ない場合でも公共財の完成に長時間かかる場合があることも分かった。
著者
寺田 努
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

近年,モバイル技術および無線通信技術の発展により,人々が受け取る情報は飛躍的に増大しており,大量のデータから必要なデータのみを抽出する情報フィルタリング技術,必要なデータを的確にユーザに提示する情報提示技術の重要性が高まっている.本研究では,(1)ハードウェア・ソフトウェア連動型の低消費電力・高信頼な状況認識技術として,センサのサンプリングレートを動的に制御する低消費電力化方式や,センサ内で波形のピーク情報を抽出し送信データを削減することによる低消費電力化,(2)外部音の有無や明るさなどの周辺状況に応じて提示情報を適切にフィルタリングする機構およびそれらの機構を一般のアプリケーションプログラマが容易に記述できるモジュール化の実行,(3)上記の機構を容易に組み合わせてアプリケーションを記述できるエンジンであるWearable Toolkitの開発および拡張を行った.さらに,これらの基盤システム開発を応用し,ナビゲーションシステムや技術伝承システム,新たな文字入力システム,MCシステム,バイクレース支援システム,着ぐるみ装着者の支援システム,ダンスパフォーマンスの支援システムなどを開発し,枠組みの提案だけでなく提案機構が実際に運用に耐えるクオリティにあることを明らかにした.成果は学術論文誌やウェアラブルコンピューティング分野のトップカンファレンスであるISWC2010などで複数発表しており,高い評価を受けた.
著者
森山 英樹 三浦 靖史
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

骨折治癒促進法について、特定の分子を対象とした研究が多く行われてきたが、複雑な骨折治癒過程のすべてを促進する分子は見出されていない。本研究では、臨床的に古くから認められいる脊髄損傷後に骨折が早く治癒する事実に基づいて、ある特定の分子を対象としない、従来になかった骨折治癒促進法の基盤となる知見を見出すことを目的とした。脊髄損傷後の骨折が、実際に通常の骨折よりも早く治癒する否か、実験的に骨折治癒過程を検討した結果、脊髄損傷後の骨折の治癒期間は、通常の治癒期間よりも約40%短いことを実証した。そして、骨折治癒を促進する原因を探索した結果、脊髄損傷後の筋緊張亢進であることが明らかになった。
著者
高嶋 克義 平野 光俊 南 知恵子 西村 順二 近藤 公彦 松尾 睦 金 雲鎬 猪口 純路
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

日本の小売企業を対象とする質問票調査のデータに基づいて、小売企業の仕入革新・マーチャンダイジング革新に関する実証分析を進める一方で、アパレル小売企業やドラッグストア・チェーンの仕入革新についての事例研究を行い、その研究成果を論文で公表した。また、これらの研究を通じて、企業間関係、部門間連携、継続的な改善の3つの条件の相互作用を捉え、小売企業の仕入活動革新における企業間関係と部門間連携との関連性についての研究を展開した。
著者
芦田 明美
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度は、これまでの研究成果をまとめ、博士論文執筆に専念し学位論文の提出に至った。本研究により明らかになった結果を以下に記す。1)共分散構造分析による修学阻害要因の検討から、子どもたちは家庭や社会背景に関わる要因が背景となって毎日の修学を続けることが困難になり、突如学校に通うことを辞め、低い教育達成へと繋がることが分かった。また、現在の職業と初等教育の修了有無には明確な関連性が見られなかった。すなわち、最低限の読み書きができればそれ以上の学年を修了するインセンティブがこの地域にはなく、留年の有無にかかわらず子どもたちは学校を辞めてしまう。2)教育開発戦略および政策、プロジェクトの分析から、諸政策は先の初等教育修了阻害要因について触れているものの、具体的な方略や指針などは提示していない。他方、プロジェクトは諸要因に触れ、具体的な活動も提示し実施している。対象地域で実施されたプロジェクトは、修学の継続に貢献し得ると考えられるが、これまでの諸政策およびプロジェクトは、留年を繰り返し退学してしまう子どもたちを想定しており、すぐに学校を辞めてしまう子どもたちの存在は考慮されていない。3)修学実態年代推移の分析から、修学状況は改善傾向にあることが分かった。他方、問題として残っているのは、1990年代前半入学グループから1990年代後半入学グループにかけての、年度末評価における落第の減少の頭打ちである。さらに、1980年代後半入学者には、留年が一度あるか無いか程度の卒業パターンと、入学後1年ないしは2年未満で学校を去る退学パターンが共存する、Enrollment Divideとも呼ぶべき修学実態が見受けられた。しかし、年度が新しくなるほど卒業パターンは増加傾向にあり、退学パターンは減少傾向にある。1年生の状況は他の学年よりも相対的に望ましい状態になく、特に入学初年度1年生は深刻である。
著者
門脇 大
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

主に以下の五点の調査・発表を行った。第一に、平田篤胤『勝五郎再生記聞』に関する発表を行った。口頭発表「『勝五郎再生記聞』小考」(第28回鈴屋学会大会研究発表会、本居宣長記念館、2011年4月)、論文「『勝五郎再生記聞』小考」(「鈴屋学会報」28号、2011年12月)である。十余点の関係資料を整理して、対象作品の特色を明らかにした。また、「産土神」に関わる例話が『玉襷』にとりいれられていることを明らかにした。第二に、弁惑物が同時代にどのように捉えられていたのかを発表した。論文「前近代における怪異譚の思想変節をめぐって」(「アジア・ディアスポラと植民地近代」成果報告書、科学研究費補助金(基盤研究(B)、2009年~2011年)、代表者・緒形康、2012年3月)である。弁惑物『太平弁惑金集談』が出版された四年後に、怪異小説『今昔雑冥談』が出版された。両者の関係を具体的に検討した。さらに『怪談見聞実記』の検討を行った。これらの検討により、怪異譚の思想変節の一端を明らかにした。第三に、弁惑物と心学書に共通する言説を発表した。論文「心学書に描かれた怪異-心から生まれる怪異をめぐって-」(「国文論叢」45号、2012年3月)である。心学書に記されている、怪異現象の正体や原因を人の心に求める話を検肘した。さらに、弁惑物との比較・検討を行い、両者に共通して見られる怪異否定の論理を明らかにした。第四に、近世怪異小説における弁惑物の位置づけを発表した。論文「弁惑物の位相」(「国文学研究ノート」49号、2012年3月)である。弁惑物、近世怪異小説に関する先行研究を整理して、弁惑物がどのような作品群であるのかを明らかにした。また、弁惑物の周辺分野を明示した。第五に、上記の一から四の調査・発表に加えて、前年度以前の研究成果を博士論文「弁惑物の研究-近世怪異小説をめぐって-」(神戸大学、2011年12月)にまとめて発表した。
著者
尾崎 武 一井 隆夫
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学農学部研究報告 (ISSN:04522370)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.35-40, 1988-01

短梢せん定による19年生'キャンベル・アーリー'を用い, 満開期にエチクロゼートの50ppm溶液の葉面及び全面散布と花穂浸漬による処理を行い, 処理部位の違いが結果枝内炭水化物含量に及ぼす影響を調査し, 結果枝の伸長並びに脱粒経過との関連からその摘粒効果について検討した。1. エチクロゼートの葉面及び全面処理は無核小果粒の着生を増加させることなく処理後7∿15日の脱粒を助長した。花穂処理では無核小果粒の着生が多く, 脱粒は処理後9∿20日と遅れ, その数も少なかった。2. エチクロゼートの葉面及び全面処理は果粒を肥大させる傾向を示した。糖度及び酸度には影響を与えなかった。3. エチクロゼートの葉面及び全面処理では結果枝先端部のでん粉及び全糖含量がそれぞれ処理後1日及び4日に無処理及び花穂処理より低下する傾向であったが, 処理後7日には増加を示し, 無処理と同程度となった。また, 処理後2∿3時間から7日間くらい結果枝先端部や葉に下垂症状がみられたが, その後回復した。したがって, エチクロゼートの摘粒効果は結果枝先端部の伸長の回復に伴う炭水化物の代謝の変化によって生じるものと考えられる。4. エチクロゼートの葉面処理によって処理後1∿4日に成葉のでん粉含量が著しく低下した。5. エチクロゼートの花穂処理では処理後7∿10日に花穂の全糖含量が高く維持され, 無核小果粒の着生と関連しているものと思われた。
著者
水川 克
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

グリオーマはグリア細胞由来の原発性脳腫瘍で、原発性脳腫瘍の約1/4を占める悪性脳腫瘍である。Olig2はグリア前駆細胞に発現し、オリゴデンドロサイトの分化に関与する転写因子である。しかし、Olig2はオリゴデンドログリオーマだけでなく、astrocytomaにも発現している。オリゴデンドログリオーマはアストロサイトーマよりも予後良好であることが知られており、オリゴデンドログリオーマではアストロサイトーマと遺伝子の発現パターンが異なっている。Olig2はグリア細胞の細胞周期を調節しているとも報告されている。そこで、悪性アストロサイトーマのうち、グリオブラストーマ(GBM)および退形成アストロサイトーマ(AA)でのOlig2の発現率と予後について詳細に検討し、Olig2遺伝子導入が治療ターゲットになりうるかについて検討した。(結果)対象はGBM : 43例、AA : 75例。118例のパラフィン包埋されたGBMあるいはAAの腫瘍サンプルを解析。症例は、1987~2007年に手術・治療を行い、追跡可能であった症例。平均Olig2陽性細胞率はGBM : 16. 0%(0~ 64. 7%)、AA : 45. 11%(0. 1~ 89%)であり、AAでは平均陽性細胞率が高かった。GBMではOlig2陽性細胞率の差による予後の差を認めなかったが、AAではOlig2陽性細胞率が40%以上と40%未満で分けると、生存期間中央値は40%以上の群で98. 6ヶ月、40%以下の群で30. 6ヶ月であり、2年生存率は40%以上の群で61%、40%以下の群で31%であり、有意に生存期間の延長を認めた。以上より、AAではOlig2発現細胞が多い方が予後良好である傾向があり、グリオーマにおいてOlig2を発現させることで、腫瘍の悪性度が低下する可能性があることが示唆された。(結論) Olig2の発現は、GBMよりもAAの方で有意に高く、Olig2の発現が高いAAは、発現量の低いAAに比べると、統計学的に生存期間が長かった。一方、GBMでは、Olig2の発現は予後と相関しなかった。以上より、AAではOlig2の発現を誘導することで、予後が改善する可能性があると思われた。
著者
萩原 守
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、崇徳3(1638)年のモンゴル文法規、康煕6(1667)年のモンゴル文法典、康煕35(1696)年のモンゴル文法典を比較研究し、清朝前半期における蒙古例の起源を問うという目的を持っていた。このうちまず、崇徳3年軍律と同年の漢文版軍律との対応関係を解明した。次にこの軍律は、康煕6年法典には含まれず、康煕35年に初めて蒙古例法典へ入ったことがわかった。さらに康煕35年版や後の乾隆年間の法典中の条文の改変状態より、八旗の法から蒙古例への編入という蒙古例形成課程の一類型を抽出できた。