著者
塚原 康友 本田 茂
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では未熟児網膜症(ROP)の発生におけるアドレナリンα1受容体の働きを解明するために、α1受容体ノックアウトマウスを用いたROPモデル(酸素誘発網膜症)を作成する計画を立てた。当初α1A、α1B、α1D各受容体のダブルノックアウトおよびトリプルノックアウトマウスの作成を試みたが、遺伝子欠損による生殖機能あるいは仔マウスの保育機能不全のため上記ノックアウトマウスの作成は極めて困難であった。そのため研究計画を修正してシングルノックアウトマウスの作成を行う事とし、α1A、α1B、α1D各シングルノックアウトマウスの作成には成功した。本研究期間後もさらに研究を継続する予定である。
著者
木村 幹 大嶽 秀夫 下斗米 伸夫 山田 真裕 松本 充豊
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、現在の各国政治に顕著に見られる「ポピュリズム現象」に注目し、その原因と各国の事情について分析したものである。研究の概要は以下のようなものである。1)「ポピュリズム」の概念に対する検討。本研究においては、従来の錯綜した議論の中から、ポピュリズムを政治家や政党の「戦略」としてのポピュリズムと改めて位置づけた。2)戦略としての「ポピュリズム」が採用されるに至った各国の事情。本研究におしては、主たる検討対象として、日本、ロシア、台湾、韓国の4カ国を取り上げ、その具体的な状況について検討を行った。3)各国に共通する状況と世界的な「ポピュリズム」現象が持たされた理由。本研究では、その理由として、従来の政治体制、就中、政党と議会に対する信頼の低下が、各国の政党や政治家をして、政治的リーダーシップの獲得・維持のための合理的な選択として、政治家の個々の個人的人気に依拠せざるを得ない状況を作り出していることを指摘した。また、このような政党と議会に対する信頼の低下の背景に、冷戦崩壊とグローバル化の結果として、各国の従来の政治システムが機能不全を起こしていることがあることを明らかにした。以上のような、本研究は今日も続く、世界各地の「ポピュリズム」現象とその結果としての不安定な政治状況に対する包括的な理解を築くものとして、大きな学問的意義を有している。そのことは、本研究の成果が既に国際的な学術会議や、雑誌論文として公にされ、国内外に広く反響をよんでいることからも知ることができる。
著者
稲垣 成哲 楠 房子
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は,科学系ミュージアムやフィールドでの学習における近未来の学習支援のためのデザイン指針と評価手法を明らかにすることである。近年の科学系ミュージアムやフィールドには,従来のHands-onタイプの展示だけでなく,ユビキタス社会を反映した様々なテクノロジが実験的に導入されており,それらによって可能になった近未来型のインタラクティブな学習支援・展示支援の現場が出現している。最終年度では,(1)文献・資料の収集とデータベース整理,(2)国内外の事例に関する実地調査,(3)デザイン指針の策定とその評価手法の開発及び試行,(4)成果発表を行った。まず(1)については,科学教育関連図書や博物館・フィールド学習関連図書及びこれらの関連領域の学術論文を収集し,科学教育の観点からみた学習支援のためのデザイン指針の理論的枠組及びその評価手法に関する仮説的提案を行った。(2)については,当該テーマにおける先進的な学習支援・展示支援の実例として,国外では,ベルギー自然史博物館,ポンピドーセンター,シュトゥットガルト自然博物館,メルセデス・ベンツ・ミュージアム,ビトラデザインミュージアム,ゼンケンベルク博物館等における新しいタイプの学習支援・展示支援のあり方について実地調査をした。他方,国内では山口情報芸術センター,北九州市立いのちのたび博物館等において調査を行った。(3)については,申請者らが従来から取組んでいる兵庫県六甲山を対象にした「実世界と仮想世界をインタラクティブに統合したフィールド学習」を題材にして,上記(1)における仮説的提案の適用可能性について調査した。最後に,(4)については,日本科学教育学会第34回年会(広島大学)において,テクノロジを利用した新しい学習支援・展示支援研究4件から構成された自主企画課題研究「インタラクション・デザイン・学習II」を組織した。
著者
横川 博一 定藤 規弘 田邊 宏樹 橋本 健一 吉田 晴世 原田 康也
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

平成28年度は,外国語処理における繰り返し接触による気づき・注意機能の発現と自動化に関する理論的・実証的研究として,主として以下の3つの研究課題を設定し,次のようなことが明らかとなった。(1)「相互的同調機能の発現が日本人英語学習者の第二言語産出に及ぼす影響」を研究課題として設定し、日本人英語学習者を対象にプライミング手法を用い、相互的同調機能を支えるメカニズムである統語的プライミング効果について検証した。その結果,英語母語話者を対象とした実験で見られた、プライムを音声提示、ターゲットを音声または文字産出した際の統語的プライミング効果が日本人英語学習者に対しても見られることが明らかになった。(2)「日本人英語学習者の文理解における統語構造および意味構造の構築の検証」を研究課題として設定し、初級および中級熟達度の日本人英語学習者を対象に、目的格関係節文と受動文とを用いて、音声提示および文字提示で心理言語学的実験を行った。その結果、中級熟達度の学習者は、意味役割の再付与はある程度自動化しており、音声と文字とでは同程度に処理ができるが、複雑で複数の統語処理が必要な場合、文理解が困難になることがわかった。一方、初級熟達度の学習者は、意味情報に依存して文を理解し、意味役割の再付与に困難性があり、統語構造の構築が困難であることがわかった。また音声のほうが文字よりも処理が困難であることが判明した。(3)「タスクによる注意機能が第二言語文理解時における言語情報処理に与える影響:自己ペース読み課題による検討」を研究課題として設定し,句構造規則違反では、低熟達度群は統語情報に注意を向けなければ意味主導の処理を行っていることが、また、意味違反では、高熟達度群は意味情報から注意をそらしても意味違反を即座に検出したが、依然として日本人英語学習者は意味主導の処理を行っていることが明らかになった。
著者
内藤 親彦 田井 晰
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

ニホントガリシダハバチHemitaxonus japonicus complexの野外個体群を研究対象として、同所性寄主転換と生態種形成機構を解明するために、主として遺伝・化学生態的手法により研究を行い、以下の新事実を得た。1.日本の北緯34度付近の狭い移行地帯(南北約10km)において、イノデ生態種がジュウモンジシダ生態種から、寄主転換と生殖隔離をともなって同所的に分化している。2.寄生転換の主要因である雌成虫の寄主選択性は一遺伝子座支配と考えられ、両生態種は異なる産卵誘引物質を感受している。両化学物質はパルミチン酸メチルに近い揮発性成分であるが、それらの構造決定には至っていない。3.両生態種は外部形態や染色体で区別することはできないが、酸素多型やDNA高度反復列の比較においても、生態種分化に伴う明瞭な変化はみられず、生態種形成の速度が極めて速いか、またはその過程が遺伝的変化とは独立であるかを示唆している。4.同所的生態種形成とその短期確立には、寄主選択機構の他、寄主植物上での同系交配、一方向的選択交尾、条件づけ効果による幼虫の不食化等の諸要因が関与している。一方向的選択交尾は旧生態種から新生態種への遺伝子流入を防ぎ、新生態種の遺伝的独立性を保証する機構であり、それには性フェロモンの介在が実験的に示唆されたが、両フェロモンの同定には至ってない。5.機種転換が一遺伝子座支配による分断選択に起因していることを想定し、ジュウモンジシダ旧生態種の雌に、寄主選択の突然変異因子を含むイノデ派生生態種の雄を交配し、得られたF1雌にさらにイノデ生態種の雄を交配して、イノデのみに産卵、摂食するF2雌を分離することに成功し、生態種形成の実験的再現の可能性を強く示唆した。
著者
滝川 好夫
出版者
神戸大学
雑誌
國民經濟雜誌 (ISSN:03873129)
巻号頁・発行日
vol.208, no.5, pp.1-18, 2013-11
著者
大川愼吾
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.87-92, 2003
被引用文献数
1

末梢性顔面神経麻痺では眼輪筋麻痺による眼裂の拡大だけでなく前頭筋麻痺による眼裂の狭小が重要な所見である。顔面神経支配の前頭筋は上眼瞼の挙上に関して補助的に働くので, その麻痺により上眼瞼の下垂 (眼瞼下垂) が起こると考えられる。このため, 前頭筋麻痺による眼瞼下垂が軽度であれば眼輪筋麻痺による眼裂拡大が前景に立つが, 重度になると逆に眼裂狭小が起こることになる。この眼裂狭小が時に非常に重度となることから, 上眼瞼の挙上に関する前頭筋の役割は極めて重要であると思われる。このことを説明するために, 上部顔面の皮膚の状態に注目した。すなわち, 高齢者では上眼瞼や額の皮膚の弛緩によって上眼瞼の下垂 (偽眼瞼下垂 pseudoptosis) が起こりやすいが, 前頭筋の働きによりこれが代償されると眼裂狭小にならない可能性がある。このような ''潜在化'' した眼裂狭小がある場合に前頭筋麻痺が起こると眼裂狭小が重度になると思われる。前頭筋麻痺による眼瞼下垂と上眼瞼挙筋麻痺による眼瞼下垂を鑑別する方法として, 験者の手で他動的に麻痺側の眉毛を釣り挙げて眼裂の大きさの変化をみる「眉毛挙上試験」が単純であるが非常に有用と思われた。
著者
蓮沼 啓介
出版者
神戸大学
雑誌
神戸法學雜誌 (ISSN:04522400)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-31, 2003-06
著者
山森 良枝
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

平成16年度は、<日本語の複数>表現の記述と仕組みの究明を目的に、アトムを基本単位とする意味対象領域を仮定し、質量性と複数性を連続的なものとみなす理論的立場から分析を試みた。その結果、以下が明らかになった。(1)一般的に、名詞述語には、quantized述語とcumulative述語がある。前者は可算名詞に対応し、非等質的集合に属する非連続的部分を増加して得られる外部複数を形成する。一方、後者は質量名詞に対応し、等質的集合を内的に分割して得られる連続的部分の範囲を複数として捉える内部複数を形成する、とされる。(2)しかし、日本語の普通名詞は質量性をその意味特徴とする。そのため、日本語ではquantized vs.cumulativeの対立ではなく、数量詞が結合する名詞の表す集合が等質集合か非等質集合かに応じて、前者の場合に外部複数、後者の場合に内部複数が形成される。(3)内部複数を作る典型的な装置には、単一の単位を表す類別詞、計量句や(計量単位として使用される)容器名詞がある。他方、区分を表す名詞、組織の下位区分を表す名詞は外部複数の装置である。(4)日本語では稀な数詞が直接普通名詞と結合される可算名詞構造は、当該名詞が予め規定され、前提された集合の最大範囲を表す場合にのみ使用される。(5)本質的に可算的アトムとして認定される集合名詞を除けば、日本語では、名詞の表す集合のサイズが規定されている場合には、それを内的に分割した部分の範囲を表す可算名詞構造によって、また、集合が規定されていない場合には、類別詞などを介して、(どちらの場合にも)内部複数を形成し、(可算性を特徴とする英語などの普通名詞と同じ)、アトム・レベルでの複数化を実現している。(6)以上から、日本語のような質量性を特徴とする名詞をもつ言語でも、計算のより容易なアトム・レベルでの計量が選好されていることが裏付けられる。
著者
寺内 直子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、明治時代以来、現代に至る、これまでの雅楽の「復元」研究と「復元」演奏の目的・方法論・実際を整理し、再評価するとともに、現代日本の音楽文化における雅楽の「復元」の可能性と、その歴史的、社会的意義を明らかにするものである。具体的には、1)明治末から第二次大戦までの20世紀前半、2)1945~1970年代前半、3)1970年代後半~1980年代、4)1990年代以降の四つの時期に分けて、それぞれの時代の「復元」研究と演奏の特徴を、資料批判、音楽的解読、鳴り響く音への実現の手法の観点から考察、整理している。
著者
尾崎 まみこ 佐倉 緑 尾崎 浩一 尾崎 浩一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

クロオオアリの全ゲノム解析と、触角(嗅覚器)の遺伝子発現解析を、カースト別に網羅的に行ない、完成度の高い嗅覚受容体遺伝子のカタログを取得した。また、バイオインフォマティクス解析により、社会行動を保証する巣仲間識別機構の中心的働きを担う、100~130個の嗅覚受容神経をもつ炭化水素感覚子で発現する121種の嗅覚受容体遺伝子とCSP遺伝子を特定、その進化的分岐点を推定し、これらの嗅覚受容体遺伝子群が社会性を持つアリ類で爆発的に進化したことを証明した。これらの嗅覚受容体遺伝子群は、女王と働きアリ(共に雌)で、発現しているが、結婚飛行時以外に巣外に出ることのない雄アリには発現していないことを確認した。
著者
林 昌宏
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013

平成25年度は、当初計画で提示した研究課題のうち(1)地方政府の権限拡大をめぐる・アクターの行動の分析に関する作業を中心に進めた。これは、地方政府が、どのような政治的・社会経済的背景のもとで権限を拡大し、それをいかなる意図をもって活用していくことになるのか。また、その際には、権限を喪失する中央政府が、どのような行動を取ろうとするのか。これらを、主に日本における港湾管理権の移譲を事例に明らかにする試みである。具体的には、東京の国立国会図書館東京本館などで、1950年の港湾法制定ならびに港湾管理権の地方政府への移譲に関する文献・論文・資料を調査・収集した。そして、地方政府が権限を拡大していくにあたり、関係するアクターがどのように行動しているのかという観点のもとに、収集したそれらの分析を進めていった。こうした作業で得られた知見については、2013年6月に福島市(コラッセふくしま)で開催きれた日本公共政策学会2013年度研究大会などで発表した。(1)の研究課題に関する作業に目途が立ったこともあり、2013年の冬から(2)地方分権の進展が政府間関係・政策帰結に及ぼす影響の分析に関する資料の調査・取集を開始した。(2)の研究課題は、(1)の分析を踏まえて、地方分権の進展によって権限を拡大した地方政府が、他のそれらや中央政府、超国家組織との商に、どのような関係を築くのか。そして、それが政策帰結に、いかなる影響を及ぼすことになるのかについて明らかにしようとするものである。(2)の主な作業は、先進諸国の地方自治制度(大都市制度を含む)、欧米、特に米国、オランダ、ドイツの港湾の整備・管理に関する文献・論文の収集になる。こちらについても平成25年度は東京の国立国会図書館東京本館を中心に、それらの調査・収集を進めた。また、来年度に調査を予定しているオランダの地方自治システム、港湾の管理・整備システムの分析を並行して進めることができた。
著者
高田 暁
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

室内での温熱快適性を予測する理論やモデルが提案されてきているが、着衣と皮膚との間に形成される空気層(着衣内空気層)での換気が十分に考慮されてこなかった。本研究では、測定の困難さを、着衣内空気層の実形状を考慮した数値流体力学(詳細モデル)による数値実験により克服し、着衣内空気層での換気性状を明らかにした。次に、これを換気力学モデル(簡易モデル)で再現する可能性を探り、それに必要な係数値を求めた。最終的に、簡易モデルにより換気を考慮した「着衣-人体熱水分収支モデル」により、室内の温湿度・風速等の条件から体温を求めるプログラムを作成し、着衣内空気層での換気が人体に及ぼす影響の量的な評価を行った。
著者
加藤 佳子 岩永 誠
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

健康生成論にもとづき食嗜好と偏食の機序について検討した。その結果,1)偏食の構成概念が明らかにされ,食嗜好,偏食行動を測定する尺度を開発した。2)首尾一貫感覚は食感覚に対する受容性と正の相関があり,ソーシャルサーポートは,偏食行動と負の相関があった。3)好きな味と嫌いな味に対する前頭前野の反応の相違が示された。4)偏食の改善は,健康状態に影響することを確認した。味覚感受性は,偏食や食嗜好に影響を与える傾向があるが,内的資源や外的資源を媒介とした時,味刺激に対する感情の調節が図られ偏食行動は緩衝される可能性がある。内的資源や外的資源の充実による食行動の改善について今後も検討する必要がある。