著者
山崎 恒夫
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

アミロイドβ蛋白(Aβ)とタウ蛋白の脳内沈着はアルツハイマー病を特徴づける重要な所見だが、両者の存在が単なる合併なのか、あるいは何らかの関連が有るのかは不明であった。ニーマン・ピック病タイプC(NPC)はNPC遺伝子に変異を持っ遺伝性神経変性疾患であり、興味深いことに神経細胞内にアルツハイマー病と全く同じタウの沈着が生じる。NPCのもう一つの特徴は細胞内、特に後期エンドソーム内にコレステロールが沈着することであり、これがNPCの本態と考えられている。近年、アルツハイマー病とコレステロールの関連が想定されつあり、私はNPCに見られるコレステロール輸送異常機構がいかにタウの沈着に結びつくか、またAβの異常とも関係があるのかを検討することとした。まずAβを産生するCHO細胞にType2 amphiphileを作用させ、NPCと同様にコレステロールを細胞内に蓄積させた。次に、コレステロールを蓄積する後期エンドソームを細胞分画法によって集め、生化学的に解析したところ、Aβが同じ画分に凝集していることが判明した。そこで、後期エンドソームをセルソーターによって集め解析すると、やはりAβの凝集が明らかとなった。このエンドソーム内へのAβの蓄積はコレステロールの蓄積量に依存していた。一方、Runzらは同様の処理を細胞に行い、エンドソーム内にAβの産生酵素を検出した。これらの事実は、後期エンドソームがAβの産生部位の一つであることを示すとともに、コレステロールの輸送異常はタウ並びにAβの細胞内蓄積を生じさせ、このことがアルツハイマー病の病態発生に関与している可能性が考えられた。
著者
星野 洪郎 清水 宣明 大上 厚志 藤木 博太 田中 淳
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

アジア地域でのHIV-1感染症の特殊性をタイのチェンマイ大学を共同研究の拠点として解析を行なった。タイには既に60万人の感染者がおり、その内2万人は子供である。HIV感染児では、大人より病気の進行が早く、治療効果の判定や薬剤の副作用の判定が早くできることがある。チェンマイ近郊には、HIVに感染した孤児を世話している国営の施設があり、経過観察や治療は、もっぱら国立病院やチェンマイ大学で行っている。文橡者の定期的な検査とその病態の関連をウイルス学的に解析してきた。このようにHIV感染小児の病態を解析しやすい体制を整えることができた。抗酸化物質にヒトのがんの発症を抑制する働きがあることが、多くの疫学的論文で報告されている。一方酸化ストレスやTNFαが、HIV-1感染症などの慢性感染症でウイルスを活性化させ、病気の進行を促進すると考えられている。抗酸化作用を持ち、TNFαを阻害する緑茶抽出物やアスタキサンチンなどの抗酸化剤は、HIV-1感染症の進行を抑える可能性が考えられる。これらについて介入的疫学研究を行う準備をしている。我々は、HIV-1感染の新しいコレセプターとして新しいコレセプターを同定し解析した。日本人感染者、タイの感染児の抹消血を用い、経時的に解析し、新しいコレセプターの臨床的、疫学的の意義を明らかにした。すなわち、HIV-1感染の新しいコレセプターとして、D6,CCR9b, XCR1およびFML1を同定し、解析を始めた。D6は、日本人血友病患者由来のsubtypeBのdual-tropic HIV-1、FML1はタイ、ベトナム由来のsubtypeAEおよびCのウイルスで利用した。これまでの研究期間の間に、タイの規則が厳しくなり、タイ人の試料は,許可なしには持ち出せず、国外持ち出しの手続きに長時間かかるようになった。緑茶抽出物をHIV感染者に投与するには、チェンマイ大学の倫理委員会に書類を提出しなければならないが、審査を受けるのに非常に時間がかかることが明らかとなった。現在手続きを進めている。
著者
小林 夏子 山勝 裕久 徳江 与志子 松房 利憲 小此木 扶美
出版者
群馬大学
雑誌
群馬大学医療技術短期大学部紀要 (ISSN:03897540)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.103-108, 1997-03-31

We evaluated the course of occupational therapy for psychosocial dysfunction with student self-evaluation on achievement educational objectives, which have intended to learner-centered education. The results of this investigation shows that 93.8% students their whole objectives and there is difference between pre and post-evaluation with χ^2 test. But student self-evaluation are lower and they are not confident as their achievement more than the half(52.1%)are C-grade rating and also their comments of the course feedback. Therefore we have need to do more corrective observation and realizing problem solving in process of group independent learning.
著者
内田 満夫
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は,人工知能の技術のひとつである再帰型ニューラルネットワーク(RNN)の技術を用いて,県レベルの地方の感染症流行の予測をおこなうことを目的とした。群馬県の衛生環境研究所と連携して過去の感染症データを用いて流行予測モデルを作成し,研究開始後に実際報告される感染症の発生データを入力し,実際に精度の高い予測を行うことが可能かどうか検討する。
著者
中村 和裕 川崎 平康
出版者
群馬大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

私は近年、中赤外領域の特定の波長の光が凝集Abeta1-42ペプチドを解離させることを見出した。今回アルツハイマー型認知症4例の前頭葉の凍結ブロックを試料として、6ミクロンの波長の光を照射したところ、アミロイドベータ抗体のウェスタンブロットで、一部の症例で高分子量型のシグナルの移動度が照射によって変化した。このことは、モノマーではなく複雑な構造を持つアミロイドベータの構造が照射により変化した可能性を示唆する。しかしながら、全症例ではなく一部の症例のみに変化が見られたこと、毒性をもつ構造体が照射によって減弱したかわかっていないことから、今後、照射後の神経機能について解析を続ける予定である。
著者
石谷 太 岡田 雅人 清水 誠之 佐久間 恵 石谷 閑 原岡 由喜也 龝枝 佑紀 小神野 翔平 Zou Juqi 古家 博信 梶原 健太郎 北野 圭介 大倉 寛也 河瀬 直之 Chen Ping-Kuan
出版者
群馬大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-07-10

本研究では、SrcとWnt経路の活性化が誘発する細胞競合の機序と、その脊椎動物における機能的意義、および腫瘍進展における役割の解明を目指している。まず、ゼブラフィッシュにおいて細胞競合可視化解析系を確立した。また、Wnt経路駆動性細胞競合の研究を行う過程で、発生プロセスで自然発生したシグナル異常細胞が細胞競合により排除されること、すなわち、細胞競合が発生プログラムのエラーを防ぐ発生ロバストネス制御機構であることを発見した。また、新たに構築した培養細胞系を用いた解析により、Src誘発性細胞競合におけるSrc活性化細胞の逸脱の方向性が細胞の種類によって変化することを発見し、その機序を明らかにした。
著者
柴崎 貢志
出版者
群馬大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

脳内の局所温度を自在にコントロールすることで、神経疾患の画期的な治療法となる可能性がある。この点に着目し、マウスの脳内に埋め込むことで局所(1mm3周囲)脳内温度を上は42℃、下は28℃まで加温冷却出来る局所脳内温度可変システムを開発した。そして、脳内冷却に伴う組織損傷や細胞死の有無を調べた。その結果、脳内温度を正常温度の37℃から30℃まで低下させた場合には、全く組織損傷や細胞死は観察されなかった。これらの点より、局所脳冷却を治療に用いた場合には組織損傷を伴う副作用は生じないことが確認出来た。そして、てんかん原性域を30℃まで低下させることで充分にてんかん発作の抑制を出来ることを見いだした。
著者
尾崎 純一 石井 孝文 神成 尚克
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、標題のシステム構築に必要な二種類のカーボンアロイ触媒の開発を目的とした。過酸化水素生成選択性をもつ触媒の開発では、第4周期金属を添加したポリマーを炭素化し、その過酸化水素生成を評価した。第2の触媒は、ヘテロポリ酸を固定化するための塩基性カーボンアロイであり、この触媒のキャラクタリゼーションと3-methyl-3-buten-1-ol酸化反応特性を評価した。その結果、表面塩基性をもつカーボンがヘテロポリ酸の固定化に有効であること、担持されたヘテロポリ酸の電子状態と酸化触媒活性および選択性をカーボン担体の表面特性でコントロールできる可能性を見出した。
著者
上林 邦充
出版者
群馬大学
雑誌
群馬大学社会情報学部研究論集 (ISSN:13468812)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.229-244, 1997-07-28

The penal regulations which impose legal controls and inflict punishments on speech and writing should be presumed unconstitutional. In order that the provisions on sedition of the Anti-Subversive ActivitiesAct may be taken constitutional, the following requirements should be satisfied. (1) It should not be permitted to punish the accused by reason of mere seditial action. (2) It should be recognized that the critical conditions of actual harm may come into being concretely.
著者
立元 一彦 清水 弘行
出版者
群馬大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

アペリンは、1998年に我々がオーファン受容体APJに対する内因性リガンドとして発見した36個のアミノ酸からなる生理活性ペプチドである。アペリンは血管内皮などから分泌され、内皮由来の一酸化窒素(NO)を放出して血圧を降下する。また、アペリンは既知の生体物質の中で最も強力な心筋収縮作用をもち、心不全などの病態生理において重要な役割を担うことが示唆されている。我々は、アペリンが脂肪細胞の産生する新しいアディポサイトカインであることを明らかにし、アペリンが肥満、高血圧症、動脈硬化などの病態生理に重要な役割をもつことを示唆している.本研究では、アペリンの脂肪細胞における生理的役割を検討するため、各種ラットモデルにおけるアペリンの血圧降下作用とマウス脂肪細胞および3T3-L1脂肪細胞におけるアペリンの遺伝子発現とその制御に関する研究を行った。我々は、アペリンが脂肪組織の豊富なラットに対しては強力に血圧を降下させ、脂肪組織の少ないラットに対しては弱い血圧降下作用を示すことを示した。さらに、マウス分離脂肪細胞においてアペリンおよびアペリン受容体の両方のmRNAが発現していることから、アペリンがオートクリンあるいはパラクリン機構を介して作用する可能性を示唆した。また、我々はマウス3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化の過程でアペリンmRNAの発現が増加することを見いだした。分化後の3T3-L1細胞におけるアペリンの発現はインスリンにより増加し、デキサメタゾンにより抑制された。また、インスリンによる発現増加はデキサメタゾン添加によって抑制され、デキサメタゾンによる抑制はインスリン添加によって回復した(1)。これらの結果は、脂肪細胞からのアペリン分泌が低インスリンおよび高グルココルチコイド濃度の条件下で低下することを示唆した。一方、脂肪細胞はアンジオテンシンを産生し、グルココルチコイドはそのアンジオテンシン産生を促進することが知られている。さらに、アペリン欠損マウスではコントロールと比較してアンジオテンシンによる血圧上昇作用が増強される。正常血圧の肥満患者における血中アペリン濃度が、非肥満患者と比較して2倍ほど上昇していることなどから、アペリンが肥満において血圧を正常に保つために抗アンジオテンシン作用物質として重要な役割を担っている可能性が指摘される。しかし、ストレスなどが原因で起る高グルココルチコイド濃度の条件下では、血圧降下作用のあるアペリンの産生が抑制され、血圧上昇作用のあるアンジオテンシンの産生が促進されることが予想される。そこで、肥満高血圧患者においてはストレスなどが原因で起ったグルココルチコイド濃度の上昇によるアペリン分泌機能の破綻が高血圧症の一因となっている可能性が示唆される。
著者
高橋 久仁子
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

マスメディア等からの食情報が原因と推察される健康被害事例について学会誌等に発表された論文を収集・分析するとともに医療関係者(医師、看護師、検査技師、管理栄養士等)および食生活指導者を対象に聞き取り調査を実施した。その結果、特定のテレビ番組に起因する健康被害と、メディア等を介して人口に膾炙した食情報を原因とする健康被害とが混在することが判明した。論文発表に至る事例はごく少数にとどまることが確認された。
著者
奥津 哲夫 渡邉 興一 平塚 浩士
出版者
群馬大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

本研究では、「光による結晶成長制御が可能であることを示すこと」を目的とし、研究期間内に以下の実績が得られた。光で結晶成長させることが可能であるような系の探索を行った結果、1.有機結晶を用いた系分子性結晶であるアントラセンを用い、結晶が懸濁した溶液にパルスレーザー光照射を行った。アントラセン結晶が溶解し、同時に新たな結晶の出現と成長が観測された。レーザー一光子で結晶相の分子4〜5分子が溶液相へと溶解した。このため、結晶表面がパルス励起されると、飽和溶液中に分子が溶解し過飽和状態となり、結晶成長の駆動力を生じることが判明した。このことから、光により結晶成長制御を行うことが可能であることが示された。2.無機化合物結晶結晶を用いた系無機化合物として硫酸銅結晶を用いた。レーザー光照射を行うと、結晶は溶解するのみで新たな結晶の出現・成長は観測されなかった。36光子を吸収することにより一分子が溶解した。光照射を行いながら結晶成長を行ったところ、光照射により結晶成長は著しく遅くなることが判明した。このことから、光照射を行うと結晶表面の温度が上がり、溶解度が上昇するため、成長速度が遅くなることと解釈した。光照射を特定の面に行うことにより、その結晶面の成長を制御することが可能であることが判明した。3.結晶表面に吸着物質を吸着させ、光で剥離させることにより特定の面を成長させる試み硫酸銅結晶にゼラチンあるいはシアニン色素を吸着させ、結晶成長を抑制させた。この結晶にレーザー光を照射し、表面の吸着物質を剥離させた。この結晶を飽和溶液中に吊し、結晶成長させたところ、レーザー光を照射した面の結晶成長が観測された。
著者
高澤 知規 三輪 秀樹 林 邦彦 高鶴 祐介
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

老化促進マウスであるSAMP8とコントロールマウスSAMPR1を用いて術後モデル動物を作成し、抗菌薬のミノサイクリンに術後認知機能障害(POCD)の予防効果があるかを調べた。POCDは麻酔よりも手術による侵襲により引き起こされること、ミノサイクリンにPOCDの予防効果があることを発見した。SAMP8ではミノサイクリンによって術後1日目のTNF-α濃度の上昇が抑制された。ミノサイクリンは血液中のサイトカイン濃度を低下させPOCDの予防効果を発揮することが示唆された。ミノサイクリンが術後の認知機能に与える影響を調べるMINPOC-Jトライアルは、予定数のデータ取得がほぼ終了した。
著者
倉知 正
出版者
群馬大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

成体マウス全脳にX線照射することで急性に血管透過性の亢進が誘導された。血管透過性の亢進とは反対に脳内の血管内皮細胞成長因子VEGFの量は低下した。また、大脳皮質において活性化ミクログリアが顕著に増加し、血管内皮細胞特異的に発現する密着結合タンパク質claudin-5の発現が低下した。遺伝子改変マウス(Flk1-GFP/Flt1-tdsRed BAC Tg)へのX線照射は、脳微小血管におけるGFP陽性の血管内皮細胞の割合を増加させた。二光子顕微鏡を用いたTgマウス大脳のライブ観察により、血管内皮細胞のFlt1およびFlk1の発現度合を反映した明瞭な脳血管像が得られた。
著者
山内 春光
出版者
群馬大学
雑誌
群馬大学社会情報学部研究論集 (ISSN:13468812)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.107-127, 2004-03-31

瀬石『こころ』のKはなぜ自殺したのかという問題は、以前の拙稿(1999年)で、他のいくつかの問いと共にとりあげたことがあったが、そこでの議論は不十分であった。本稿はこの問題を、日本倫理思想史の全体にてらして再考する。Kは真宗の教義としての阿弥陀崇拝に、殉ずる形で死んだのではなかったろうか。それは、まさに彼の生家の宗旨として信仰され続けていたものでもあった。
著者
石田 和子 中村 美代子 森田 久美子 茂呂 木綿子 神田 清子
出版者
群馬大学
雑誌
群馬保健学紀要 (ISSN:13434179)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.7-13, 2001-03

骨髄移植を受けた患者家族の不安構造を分析し, 骨髄移植の治療過程の中での家族の関わりを明らかにすることを目的に研究を行った。対象は同種骨髄移植を受けた患者家族6名であり, 半構成的面接法により1回につき30分から60分の面接を行った。面接内容は移植決定から無菌室退室後の不安について3期に分け逐語録に起こし分析した。その結果, (1)移植を決定した時から無菌室入室までの不安は「病名を聞いた時の衝撃」「病気, 移植に関する知識不足」「病気, 移植に関連した情報探求行動」「ドナーが見つかった安心感」「ドナーの骨髄採取術への不安」(2)無菌室入室時から退室までの不安は「患者のそばで直接的に役立てないことへの無力感」「いてもたってもいられない行動「再発, 死への不安」(3)無菌室退室後の不安は「思った以上の回復」「生きていてくれるだけで十分」「生活のすべてが悪化するのではないかという不安」「安心する要因」の12のカテゴリーが抽出できた。以上のことより, 骨髄移植を受ける家族には患者が無菌室入室中は無力感を強く抱いており, 見守ることも一大切な役割であることを支持する必要がある。また, 退院後の家族は, 患者が生存していること自体に感謝していることが明らかにされた。看護婦は家族の不安を受け止め, それぞれの段階に応じた家族援助を行うことが示唆された。