著者
島田 智織 小松 美穂子 服部 満生子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.1-11, 2006-03
被引用文献数
2

目的;従来から明らかにされてこなかった病院組織におけるコーディネーションを実証的に明らかにする。それによって,看護組織運営における基礎的研究とする。方法;本研究では,医師の集権的なコーディネーションの象徴とされる「指示」に着目し,指示の生まれる場-「指示出し」「指示受け」場面への参与観察を行った。相互作用を明らかにするために会話分析を採用した。結果;(1)日常的に繰り返される「指示出し」「指示受け」の場面では,経験的な手順によって効率的な進行がなされている。(2)その進行においては,看護師が優先的な発話が与えられていると示唆できる。(3)指示は,看護師の同意を必要とするため,変化する可能性をもっている。そのため,「専門家支配」でいわれているような集権的なコーディネーションの象徴とは必ずしもいえない。
著者
伊藤 文香 村木 敏明 白石 英樹
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.43-49, 2007-03

本研究の目的は,利き手と非利き手における包丁操作時の左右の足圧を分析し,非利き手と利き手での差の比較から,立位での当該操作の特徴に基づき,臨床での評価・介入の指針を呈示することである。対象者は包丁を頻繁に使用する右利きの健常女性15名(平均年齢50.1±6.5歳)であった。利き手と非利き手で20秒間,できるだけ速く薄く,きゅうりの輪切りを実施した。パフォーマンス指標(切断枚数と厚さ平均)と足圧分布測定装置を用いて,足底荷重を測定した。パフォーマンス指標では,利き手に片側優位性がみられた(各p<0.001)。足底にかかる左右の荷重は,利き手では有意差はなかったが,非利き手では,右側(非操作側)に有意に荷重が観察された(p=0.0110)。上肢に連動した荷重移動の協調性の阻害が包丁操作の効率性を低下させる一要因であることが示唆された。
著者
灘村 妙子 白井 沙緒里 村木 敏明 相原 育依 池田 恭敏 黒澤 也生子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学付属病院職員研究発表報告集 : ひろき (ISSN:13448218)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.39-47, 2008
被引用文献数
1

回復期リハ病棟では25〜40%の患者が抑うつ状態にあるとの報告がある。抑うつ状態の予防・改善については、個別での身体機能への介入やADL介入のみにとどまるのではなく、早期から患者同士のコミュニケーションの場を設け、援助することの重要性が指摘されている。そこで、当院OT科では通常の個別介入に加え、他職種へのOT,自分の健康意識向上の啓発を含めて病棟デイルームにて小集団OTを実施している。研究1では、回復期リハ病棟における小集団OT介入による入院中の脳血管疾患患者の心理社会機能の検討を目的とし、連続8回以上参加した18名に対して集団活動評価、うつ・情動障害スケールにて効果を検討した。その結果、いずれの項目においても有意な向上、改善が認められ、小集団OTが入院生活、退院後の生活の閉じこもり傾向を予防しうる可能性が示唆された。研究2では2事例を通して小集団OT参加による病棟内での生活状況と個別介入の変化を検討した。その結果、集団の特性を生かした個別介入により、成功体験による、自己有能感の向上や主体的なリハビリを促すことが可能であることが示唆された。
著者
滝澤 恵美 岩井 浩一 伊東 元
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.19-26, 2003-03
被引用文献数
3

転倒経験と高齢者自身の主観的な歩行評価を調査し, 時間的・空間的歩行変数が示す歩行パターンとの関係を検討することを目的とした。対象者は屋外独歩可能な65歳以上の高齢者39名とした。主観的歩行評価は歩行中に「よくつまずくと思いますか?」「転びそうだと思いますか?」の2項目を質問した。転倒は「過去1年間に何回転びましたか?」と質問し, 転倒経験が1回以上の者を転倒経験有りとした。時間的歩行変数は自由歩行速度と最大歩行速度, 空間的歩行変数は歩幅, 重複歩距離, 歩隔の平均値, 歩幅と重複歩距離のばらつき(変動係数)を計測した。転倒経験が有った者は11名(28%)であった。転倒経験は有るが現在「つまずきそうにない。」「転びそうにない。」と感じている者は転倒経験者の約半数存在した。しかし, この様なケースを特微づける時間的・空間的歩行変数は存在せず, 転倒経験と高齢者自身の主観的な歩行評価が歩行パターンに影響を与えるとは言えなかった。
著者
島本 直人 上原 知也
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

チャンネル・トランスポーター遺伝子は、数百あるといわれ、神経疾患やがんをはじめとする種々の疾患との関連性が指摘されているものも多い。近年、チャンネル・トランスポーターのポリクリロナル抗体やモノクロナル抗体が多く開発されてきており、診断・治療に応用できる放射性標識抗体の開発が期待されている。多くの腫瘍細胞に発現するとされるアミノ酸トランスポーターLAT1 を標的にした中性アミノ酸トランスポーターイメージング剤の開発を検討した。放射性標識抗体の評価実験系として、ヒト大腸がん株化細胞DLD-1 を移植した担癌マウス等とし、 腫瘍組織への集積性を評価することとした。 細胞については、リアルタイム PCR により、注目する主なアミノ酸トランスポーター等およびその補助因子(4F2hc, LAT1, LAT2, LAT3, LAT4, ATA1, ATA2, ASCT1, ASCT2, MCT8, TAT1, B0AT1等) に対して既に確立した方法で発現を確認した。 更に、 放射性標識抗体の評価実験系として、これら DLD-1 や AsPC-1 を移植した担癌マウスでの蛋白レベルの発現を確認し、腫瘍組織への集積性を免疫組織化学的な解析に有用であることが確かめられているモノクロナル抗体を125I 標識した放射性抗体とし評価した。用いたモノクロナル抗体は、ヒトの LAT1 タンパク質の N 末端近傍領域に特異的結合をする抗体であったためか、腫瘍組織切片で内在性レベルのLAT1 タンパク質を検出が可能であったが、インビボでの腫瘍検出には適さなかった。
著者
山口 忍
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

水俣病発生した後1965年以降に公衆衛生看護活動に類似する活動が行われていたことを発掘することができた。それは「移動診療所の活動」であった。活動を行っていたのは、看護職、医療職、資格を持たない人々である。その中でも、看護師である堀田静穂氏が行っていた訪問活動は、保健師の「家庭訪問」と酷似していた。その訪問活動を受けた患者から「家族関係がよくなった」「不安が軽くなった」「地域の活動に患者が出向くようになった」という評価を得ることができた。
著者
榎本 景子 萩谷 英俊 岩本 浩二 六崎 裕高
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学付属病院職員研究発表報告集 : ひろき (ISSN:13448218)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-6, 2010

足関節機能障害に対する外科的治療では、主に関節固定術あるいは人工関節置換術が存在する。人工足関節置換術は、関節固定術に比べると運動性を有するため、除痛ばかりでなく、可動域改善のため基本動作やADLの改善にも効果がある。しかし、合併症(緩み、沈下による再置換など)や正常可動域の獲得が困難である不良例が存在することも報告されており、長期成績に関しては人工膝関節や股関節と比較すると問題があるといわれているのが現状である。 今回、リウマチ性関節炎亜型による右足関節痛を有する症例に対し、人工足関節置換術後5週間の理学療法を実施した。術後は疼痛が消失し、理学療法により術中に確認された足関節角度は獲得され、歩容や耐久性が改善された。退院時には、運動量の確認、浮腫管理やアイシング、マッサージなどを継続することを指導し、在宅生活で必要となる床からの立ち上がりや階段昇降について負担の少ない動作方法について確認を行った。 今後継続的にフォローし、疼痛や緩みなどが出現していないか長期的経過観察をしていくことが重要となる。
著者
岩井 浩一 大谷 学 和田野 安良 岩村 幸雄
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.33-44, 2002-03

我々は, 健康な成人を対象に, 持久的運動負荷を加えることによって, ミトコンドリアDNA(mtDNA)に4977-bpの欠失(common deletion)が発現し, 数日後にその欠失が消失することを見いだした。その一連の実験の際, 2名の被験者において, common deletionの欠失配列とは異なる長さの配列が検出された。そこで, 本研究では, この塩基配列の構造について詳細な分析を試みた。まず, シークエンス分析を行い. mtDNA様配列の塩基配列を決定したところ, 2名の被験者においてこの塩基配列は全く同一であった。さらに詳細に検討を行ったところ, この塩基配列はmtDNAの塩基配列とかなり一致していることが明らかになった(類似度:88%)。また, これらの塩基配列をもとにアミノ酸配列を予測し, 読み枠(ORF)解析によりその詳細な構造を探った。これらの結果から, このmtDNA様配列は, 生物の進化の過程でmtDNAの遺伝子が核DNAに挿入されたもので, その変異が現在まで引き続いて核DNA中に組み込まれている可能性が示唆された。
著者
滝澤 恵美 岩井 浩一 横塚 美恵子 伊東 元
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.61-68, 2002-03
被引用文献数
1

歩行パターンの変動が高齢者における将来の転倒を予測するという報告がある。そこで, 本研究は歩行パターンの変動と身体運動機能の関係を調べ, 歩行の安全性や安定性の観点から運動指導する糸口を検討することを目的とした。地域在住の65歳以上の健康な高齢者90名を対象に, 自由歩行時における重複歩距離と歩幅の連続10歩の変動を変動係数(CV)で算出した。身体運動機能は, 筋力, 平衡性, リズム形成, 可動性の4項目を測定し, 歩行パターンの変動との関係を調べた。歩幅CVは, 開眼片足立ち時間と負の関係を認めたことから, 歩幅CVが示す歩行パターンの変動は身体運動機能4項目のなかで平衡性の低下がより関係していることが推察された。今後, 平衡性に注目した運動プログラムの実施, 杖や装具の利用による歩行パターンの変動の変化について検討する必要がある。
著者
阪井 康友 門間 正彦 山田 哲
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.19-24, 2007-03

脳卒中運動麻痺の回復機序は,神経系リハビリテーションの中で関心を持たれる課題の一つである。本研究は,運動の学習過程に伴う小脳の賦活状況の把握を目的にした。研究方法は,健常者5名を対象に正弦波の手指トラッキング・タスクを連続6日間行った。そのタスクのデータから正確度を算出し,タスク遂行中にfunctional MRIを用いて大脳皮質と小脳の賦活状態を経時的(1,2,5,6日目)に測定した。結果は,全例において,タスク正確度(運動学習)は徐々に高まる傾向を示した。小脳領域の賦活(横断面積)については2日目で急速に賦活部位は縮小し,6日目まで賦活部位の面積は維持されていた。一方,大脳皮質における感覚,感覚連合,運動,運動前,視覚の領域の賦活状態は,1日目より2日目は賦活部位が収縮しており,手指トラッキング運動の学習過程に大脳皮質とともに小脳の関与も考えられた。
著者
坪井 章雄 N D パリー
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.23-32, 2011-03

本研究の目的は、認知症高齢者の介護家族(以下:認知症介護者)の、抑うつ傾向軽減に有用なサービスを検討することである。茨城県下の全介護者を対象に、層化二段無作為調査を実施した。結果、認知症介護者は476名(男89名、女387名)、認知症介護者におけるサービス利用者と非利用者の抑うつ傾向では、「ショートステイ」、「トイレの改造」で利用者の抑うつ傾向が有意に高かった。一方、「障害の予後や改善の説明」では、サービス利用者の抑うつ傾向が有意に低かった。問題解決実施者と非実施者の抑うつ傾向については、「福祉職に相談する」で抑うつ傾向が有意に高かった。一方、「相談者がいる」、「援助者がいる」、「趣味がある」では、抑うつ傾向が有意に低かった。認知症介護者の家族は、身体障害の介護家族と同様に家族を中心とした相談者や介護支援者や趣味的活動の有無が、介護者の抑うつ傾向の軽減に有用であることが示唆された。
著者
金子 昌子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

研究1.〔目的〕震度5以上の地震発生時のICUにおける体験内容を明らかにする。〔方法〕震度5以上の地震を経験したICU看護師を対象に地震発生時の対応等について面接調査を行った。調査内容は、地震発生時の医療機器の動き,対処等をフリートーキングにより行った。〔結果及び考察〕震度5以上の地震をICU勤務中に経験した17名の看護師に協力を得た。勤務帯はいずれも深夜勤務帯であった。看護師1人当たり2〜3名の患者を受け持っていた。フリートーキングにより抽出された経験内容は、「1メートル以上の高さのある医療機器(透析機器・輸液スタンドなど)は揺れが大きく、転倒の危険を感じた」「輸液ボトルの落下の危険を感じた」「医療機器類のアラームは鳴らなかったがきしみや摩擦音など異常音を感じた」など12項目のカテゴリが抽出された。また対処行動は「患者の側に行った」「揺れの大きい医療機器を押さえた」など7項目が抽出された。以上の結果から、地震発生時ICU環境下において高さ1メートル以上の医療機器は不安定となり患者・看護師の安全性を脅かす危険性が高いことが明らかになった。研究2.〔目的〕揺れによる輸液スタンド転倒予防に向けた改善策を検討する。〔方法〕5脚輸液スタンドと輸液ポンプ装着位置による重心点と揺れによる動線を測定した。〔結果及び考察〕大型振動台上に(1)3脚輸液スタンド,(2)4脚輸液スタンド,(3)5脚輸液スタンド,(4)5脚輸液スタンドに輸液ポンプ設置の4種類の輸液スタンドを設置し、阪神淡路大震災時の揺れを(1)100%としてそれを基準に(2)50%,(3)125%,(4)150%,(5)200%で揺れを発生させ(1)一方向横,(2)一方向縦,(3)2方向,(4)垂直方向の4方向の加振を行い、動作解析を用いてそれぞれの動線を分析した結果、3脚輸液スタンドが転倒しやすく、5脚輸液スタンドが揺れによる影響が大きい。さらに輸液ポンプを装着している場合、装着側を軸として回転することが明らかになった。さらに安定性を確保するために重心計を用いて測定をした結果、輸液ポンプ位置は低位であるほど安定性は高くなるが、作業効率が低下する。そのため重心・動線と作業性の視点から検討した結果、輸液ポンプは輸液スタンドの中心点に設置することが望ましいと考えられた。
著者
小形 岳三郎 堀口 尚 松井 三和 大坪 理恵子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.89-99, 2001-03

茨城県民を対象にHelicobacter pylori (H.pylori)感染に起因する胃炎のプロフイルを知る目的で, 県内の広域中小医療機関にて施行された胃炎1291例, 胃びらんまたは胃潰瘍365例の生検材料を対象に, 病理形態的に細分類し, H.pylori菌の検出率を検討した。菌検出率は胃炎が54%,胃びらん(活動期)が87, %胃潰瘍(活動期)が65%であった。胃炎各型の菌検出率は, 軽度胃炎0%, 単純性胃炎17%, 表層性胃炎54%, 活動性胃炎98%, びらん性活動胃炎96%, 再生性胃炎52%, 化生胃炎17%, 萎縮性胃炎18%であった。この菌検出率の結果と年齢的発症率から検討した結果, 胃炎は次の3グループに分けられた。第一のグループ(軽度, 単純性胃炎)は,H.pylori感染とは無関係な胃炎で, 発症頻度は少く, 年齢とは無関係に一定の頻度にみられた。第二のグループ(表層性, 活動性, びらん性, 再生性胃炎)は, H.pylori感染と密接に関係する胃炎で, 20才以後年齢とともに増加し, 50才以降では胃炎の過半数を占めた。第三グループ(化生性, 萎縮性胃炎)は, H.pylori菌検出は低率であったが, その大部分が第ニグループの胃炎の終末像を示唆する病理像を示し, 第二のグループの増加とはやヽ遅れて年齢とともに増加した。以上, 茨城県民の壮年期以降にみられる胃炎の大部分はH.pylori感染に基づくことが示唆された。
著者
小國 英一 永田 博司
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.79-83, 1999-03

Machado-Joseph病に認められた特異な顔貌について生理学的解析を行った。これは, 片側閉眼と対側の前頭筋が収縮し, これまでの文献では不随意運動の一種と推測されている。症例は58歳男性で, 30年前に失調性歩行で発症し, 10年前に診断が確定した。神経学的には, 両側眼瞼下垂, 両眼性復視, 眼球運動障害, 構音・嚥下障害, 運動失調, 寡動, 筋萎縮, 筋力低下, 神経因性膀胱を認めた。解析には瞬目反射(BR), ビデオカメラによる運動記録(KR), 両側眼輪筋・前頭筋からの表面筋電図(sEMG)を用いた。 BRでは検出し得る異常はなく, KRでは顔面筋の随意性は保たれており, sEMGではこの顔貌と随意的片側閉眼の筋活動パターンが一致していた。これらの結果から, この顔貌は不随意運動ではなく, 眼瞼下垂と復視の随意的代償と考えられた。随意的代償運動が不随意運動に類似する例は他でも知られており, 障害評価の際には神経生理学的手法を用いた客観データを収集し解析する事が重要である。
著者
坂江 千寿子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.7-15, 1998-03
被引用文献数
1

昨年10月15日, 臓器の移植に関する法律が施行されて4ヶ月経った。いまだに第1例目の移植は実施されておらず, このテーマは日本人には受け入れ難いともいわれている。そこで, そのような国民感情に影響したと考えられる新聞報道に着目し, 臓器移植問題が国際化し始めた1982年から, 脳死臨調の答申を経て議論が国会の場に移った1994年までの全国版三紙(読売新聞・朝日新聞・毎日新聞)の見出し文を対象にしてどのような問題点が掲載されたかを分析した。分析には, (1)見出し文をプラスイメージ(価値付与)・マイナスイメージ(価値剥奪)・中立の三方向で分類した後, (2)価値剥奪に属する見出し文をJSORTプログラムで分析し, 抽出された個々の言葉を統合して報道された問題点を示すという方法を用いた。その結果, (1)価値付与の見出しは約70%から60%で推移し, 記事の多くはプラスイメージを伝えていたが, (2)脳死への疑問やそれを認めた場合に生起する諸問題, 移植医療の体制の問題など慎重な立場を取らざる得ない背景や広範囲な問題点も伝えたことが示された。
著者
五十嵐 尚美
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

1. 性暴力について看護者の認識とその変化要因に関する調査研究目的:看護婦の性暴力に関する認識とその変化要因に関して明らかにし、看護ケアの方向性を探る。研究方法:平成8年度から継続している学習グループを計5回の学習会を開催し、そのうち1回は部外者によりファシリテーターを行い「性暴力被害者への看護の役割」に焦点をあてる「フォーカス・グループ・ディスカッション」を行い質的に分析を行った。また、学習グループ主催で、1回の看護婦対象にした講演会を開催し、参加者よりアンケートへの回答を得た。結果:「フォーカス・グループ・ディスカッション」においては、性暴力被害者の実態を理解するならば、被害者を見逃すことが少なく、最小限でも現実的なケアできる、という結果であった。講演会では、看護系雑誌に学習会主催という広告を出し、30名の看護婦が出席。地域は神戸から東京在住者であった。被害者へのケアに関する悩み、被害者経験を有する者もおり、看護ケアを積極的に推進するニーズが高かった。2. 医療機関における性・暴力被害者の受け入れ実態調査研究目的:医療機関における性・暴力被害者の受け入れ状況につい実態を把握する。研究方法:前年度の調査票を簡略化し、回収率を上げ、東京都2区にて医療機関の実態をより正確に把握する。警視庁のデータとのつき合わせをする。研究結果:3年間フォローしてきた東京都の2つの区における病院外来診療部、医療機関400箇所を対象に調査票を配布した。前年度は回収率25%であったが、今年度は35%と若干の伸びが見られた。医療機関における性・暴力被害者受け入れ状況は、警視庁報告より多いことがわかった。また詳細な事例報告の中には、ドメスティックバイオレンス(夫やパートナーからの暴力)の割合が7割をしめていた。今後とも実態を把握することの必要性がある。3. 医療機関における性暴力被害者への看護マニュアルの開発学習グループを中心に当該病院において実現可能なマニュアルを作成中である。マニュアルの評価も今後の課題として残るところである。
著者
岩井 浩一 澤田 雄二 野々村 典子 石川 演美 山元 由美子 長谷 龍太郎 大橋 ゆかり 才津 芳昭 N.D.パリー 海山 宏之 宮尾 正彦 藤井 恭子 紙屋 克子 落合 幸子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.57-67, 2001-03

看護職の職業的アイデンティティを確立することは, 看護実践の基盤として極めて重要であると考えられるが, 看護職の職業的アイデンティティの概念や構造は必ずしも明確になっていない。そこで, 現在様々な立場にある看護職を対象に調査を行い, 看護職の職業的アイデンティティの構造を探るとともに, 職業的アイデンティティ尺度を作成した。因子分析の結果をもとに, 1)看護職の職業選択と誇り, 2)看護技術への自負, 3)患者に貢献する職業としての連帯感, 4)学問に貢献する職業としての認知, 5)患者に必要とされる存在の認知, という5つの下位尺度が抽出された。これらの下位尺度に高い因子負荷量を示した項目について信頼性係数を算出したところ, α係数は0.78〜0.89といずれも高い値を示しており, また尺度全体としては0.94と信頼性が高いことが確認された。さらに, 因子得点を算出し, 看護職としての臨床経験年数や看護教員としての教育経験年数などの変数との関連を探ったところ, 看護職の職業選択と誇り, 看護技術への自負, 患者に貢献する職業としての連帯感, および学問に貢献する職業としての認知という4つの因子は, 年齢, 臨床経験年数, および教育経験年数と有意な相関が認められたが, 患者に必要とされる存在の認知因子は年齢および臨床経験年数とのみ関連が見られた。各因子とも, 看護学生群でスコアが低く, どのようにして職業的アイデンティティが高まっていくかを探ることが今後の課題といえる。
著者
大西 真由美
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.61-71, 2000-03

1997年の日本の妊産婦死亡率は6.5であり, 一方1995年のパラグアイの妊産婦死亡率は130.7である。日本とパラグアイにおける妊産婦保健の状況と妊娠・出産に関する経験を比較し, 妊産婦死亡率を低下させるための戦略を考察する一助とする。日本においては, 現在においても妊産婦保健医療向上のために, 数, 質共に適切な医療従事者の配置と24時間管理体制の整備が必要であると報告されている。パラグアイにおいては, トレーニングを受けた助産婦数の確保と適切な配置が, 妊産婦死亡率を低下させる戦略として不可欠である。しかしながら, 両国における妊産婦死亡原因とそれをとりまく背景は複雑に入り組んでいる。今後の課題として, 戦後, 日本がたどった妊産婦死亡率低下と妊産婦保健サービス向上の経験を, 社会・経済的要因や女性の地位等も含めて多角的に研究することにより, パラグアイをはじめとする開発途上国の妊産婦保健向上のために貢献できると考える。