- 著者
-
苅部 甚一
- 出版者
- 近畿大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2015-04-01
H30年度は,放射性ストロンチウム(Sr)汚染地域を流れる請戸川の上流域の小河川において,環境試料(河川水,魚類,河川周辺の土壌等)の採集を行い,土壌,河川水,魚類(骨)に含まれる放射性Sr濃度の時間変化および移行プロセスについて検討した.その結果,H30年度に採取した土壌,河川水,魚類の骨の放射性Sr(Sr-90)濃度がH27,28年度の値とそれほど変わっていないことが明らかとなった.また,この小河川の下流域と源流部の湧水,土壌のSr-90濃度を調べたところ,H28年に採取した小河川下流部の河川水におけるSr-90濃度に比べて下流域の湧水が高く,源流域の湧水は低いという傾向を示した.同時に採取した土壌のSr-90は下流域が高く,源流域で低い結果となった.このことは,この小河川における福島第一原子力発電所事故由来の放射性Srの供給源の一つとして,この小河川下流域に広く分布するSr-90を高濃度に含む土壌が考えられ,それらの土壌から湧水を通じて原発事故由来の放射性Srが小河川に供給されている可能性を示している.以上の結果から,請戸川上流域の一部地域では,未だに土壌中に多くの原発事故由来の放射性Srが残存し,そこから湧水等を通じて河川へと放射性Srが移行していること,そして,最終的にその河川に生息する生物(魚類)への移行が続いていることが考えられる.河川への原発事故由来の放射性Sr供給源の一つと考えられる土壌のSr-90濃度の低下傾向が確認できていないため,今後もこの地域における放射性Sr濃度が高い状況が続く可能性が考えられ,放射性Srの今後の挙動を把握するためにも長期的な調査の継続が必要だろう.