著者
大河原 恭祐
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

(1)エライオソーム比の個体群間変異とアリ群集との関連本年度は個体群間でエライオソーム比が異なる要因を調べるため、カタクリ種子を運搬するアリについて野外観察を行い、特に代表的な4調査地点(定山渓、生振、浦臼、音威子府)間で比較を行った。約100個のカタクリ種子を20個ずつ分割して林床に配置し、誘引されたアリの種類、個体数とその運搬行動を観察した。エライオソーム比の高い定山渓、音威子府個体群ではシワクシケアリとトビロケアリが主要散布アリで、運ばれた種子の全てはこの2種によるものであった。またエライオソーム比が低かった生振、浦臼個体群ではその2種に加え、アメイロアリ、アズマオオズアリが種子に集まった。しかしアメイロアリはエライオソームを食害するのみで種子を運搬しなかった。さらにこれら4種のコロニーを実験室内で飼育し、カタクリ種子を与えて、その処理行動を観察したところアズマオオズアリは種子を運んだ後、巣内でその60%近くを胚珠まで食害していた。これらの観察からカタクリのエライオソーム比は散布者となるアリの種類とその種子に対する行動によって大きく影響を受けていることが示唆された。(2)カタクリの種子散布成功率と動物群集構造の効果昨年度からの継続調査として既にアリや土壌節足動物相調査、種子運搬率などが調査してある金沢市近郊の犀川上流部の河内谷カタクリ個体群において、開花個体35個体について実生の定着成功率を調査した。その結果、1個体当たりの定着成功率は70-90%で、同様の調査を行った北海道定山渓個体群よりも高かった。これは昆虫類などの散布妨害者が少なかったことと土壌動物密度が希薄でアリにとってエライオソームの食料としての価値が高く、運搬頻度が上がったためであると考えられる。
著者
東 朋美
出版者
金沢大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

黄砂中の環境化学物質が、気管支喘息や花粉症などのアレルギー疾患の発症や悪化の原因になることが指摘されている。近年、気管支喘息、咳喘息、アトピー咳嗽を代表疾患とする長引く咳(慢性咳嗽)を訴える患者さんが増加しており、本研究では、黄砂と慢性咳嗽の症状の関係を調べることを目的として、黄砂期間中の患者調査を行った。前年度に引き続き、第2期、第3期の患者調査を継続した。金沢大学附属病院の呼吸器内科にて、気管支喘息、咳喘息、アトピー咳嗽のいずれかの診断を受けて通院している成人の方を対象に、アレルギー日記に毎日の症状を記録して頂いた。黄砂日の判定は、国立環境研究所のLIDAR観測データをもとに行い、黄砂消散係数が0.03/km、0.01/km(濃度0.03mg/m3、0.01mg/m3に相当)をそれぞれ黄砂日、非黄砂日の閾値とした。第1期調査の結果、咳、たん、くしゃみ、鼻みず、鼻づまり、眼のかゆみのすべての症状において、黄砂期間に症状を有する人数が、非黄砂期間より増加していた。特に、咳と眼のかゆみの症状においては、非黄砂期間に症状が無く、黄砂期間に症状を有した人が有意に認められ (p<0.05) 、黄砂が慢性咳嗽の症状に影響を及ぼすことを初めて報告した(Higashi et al. Atmospheric Environment in press)。我々の調査では、期間中毎日症状を記録する方法によって、黄砂情報に影響されることが無く、症状変化を捉えることが可能になった。また、気象庁発表の目視による黄砂日ではなく、LIDAR観測データによる黄砂日を設定したことによって、軽い黄砂飛来時の影響を捉えることができた。今後、この調査と解析を継続し、黄砂以外の要因として考えられている大気汚染物質や花粉の健康影響を考慮した詳細な解析が必要であると考える。
著者
西村 聡
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1.能楽雑誌とその複写物を種々入手して,東京及び地方の番組を豊富に収集できた。このことによって,金沢の番組の欠を補えるだけでなく,金沢の能楽師たちの他地方における活動の実態が明らかになってきた。基本資料の整備が進んだことが第一の成果である。2.本研究は金沢能楽会を事例とするが,同時代の状況の中にどう位置づけるか,全国的な傾向と比較することを絶えず心掛けている。たとえば明治の能楽復興が10年代の保護期と30年代の自立期の二つの山があることや,その間の20年前後には演劇改良の影響を受けることなどは,『明治天皇紀』の関連記事の分析によっても跡づけられた。3.一方,金沢に限って見れば,「加賀宝生」の語の使用は,藩末期の能楽の隆盛を回顧して,明治中期に行われるのが,文献上の早い例であることが分かった。また,昭和の戦後間もない頃に「加賀宝生」が金沢市の記念文化財に指定される際に,その定義に関する当時の公式見解が「指定理由書」の中に示されていて,同文書を再発見できたことは収穫であった。4.金沢は「空から謡が降る」土地柄と言われる。その根拠を何に求めるかが課題であったが,『北国新聞』の記事を整理して,そのいわれと変遷を明らかにした。そして,能楽協会会員名簿を基に都道府県別の在住会員の数を比べると,石川県は人口比で全国第2位に位置し,しかも三役が揃い,由緒ある舞台や装束等が伝存することからしても,現在も能楽が盛んな地域といってよいことが確認できた。5.金沢能楽会の設立趣意書の原態を推定し,発起人の顔触れから社会的背景を探り、趣意書の文体に見る金沢の事情と全国的な趨勢を浮かび上がらせた。同じ頃の『金沢開始三百年祭記事』『旧藩祖三百年祭記事』の新たな資料的価値についても明確にした。
著者
中村 誠一 森島 邦博 西尾 晃
出版者
金沢大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2020-10-27

本国際共同研究はホンジュラスの世界遺産「コパンのマヤ遺跡」において、ミューオン透視という日本発の物理学イノベーションをマヤ文明の神殿ピラミッド内部の探索に利用する新しい発想の考古学調査法により、マヤ碑文に記載されているコパン王墓を世界に先駆けて発見しようとする文理融合研究である。コパン遺跡アクロポリス内の11号神殿をターゲットとして、ミューオン透視法を適用し王墓の可能性がある未知の空間を同定する。可搬式ライダー機器を使った三次元計測によって構築された3Dモデルに発見空間を正確に位置づける。そこへ最短距離で到達できるトンネル経路を設計し11号神殿内部を発掘調査し透視結果を考古学的に検証する。
著者
安村 典子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

プロメテウス神話について初めて言及しているのは紀元前7世紀のへーシオドスである。彼は『神統記』と『仕事と日』の両作品において、プロメテウスに関する物語を記している。『神統記』においては、プロメテウスとゼウスの知恵比べの物語が語られ、『仕事と日』では、ゼウスの火を盗んで人類に与えたプロメテウスに対する罰として、パンドーラが人類に送られたことが述べられている。本研究はこのプロメテウス神話を手がかりとして、(1)この神話のもつ意味を明らかにし、この神話を生み出した古代ギリシア人の精神を考察すること、(2)近代においてこの神話の意味が変容していったのはなぜであったのか、その理由を究明し、この神話のもつ今日的な意味を考察すること、以上の2点について研究することが、その目的である。
著者
清水 建美 植田 邦彦 山口 和男
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は高山植物を対象に、起源・伝播経路・分布パターンの成立過程といった生物地理学的課題をDNA情報を導入することによって解明し、DNA地理学に先鞭をつけることを目的としている。この種の研究では対象植物が常に大量に入手できるとは限らず、したがって少量の材料から効率よくDNAを抽出、増殖させる方法が求められる。まず、このような実験方法について研究、実施した。次いで、日本列島をはじめ世界各地から収集した高山植物、42種210試料について葉緑体DNAのtrnLとtrnFの遺伝子間領域、3種34試料についてtrnL遺伝子のイントロン領域の塩基配列を解析したところ、ハクサンチドリでは全分布域にわたって多型は認められず、アキノキリンソウ・コケモモ・ヤナギランなどの植物は、多型はあるものの地理的なまとまりは認められず、イワオウギ・イワツメクサ・ゴゼンタチバナ・ミヤマアズマギクなどでは北海道と本州の集団間にも多型はなく、また、ヒメクワガタやミヤマゼンコなどでは同一種内の変種間にも多型はなく、エゾウスユキソウとハヤチネウスユキソウでは異種間であっても多型は認められず、葉緑体DNAの変異の現れ方は分類群によりさまざまであることが判明した。一方、エゾコザクラ群およびヨツバシオガマ群においてはそれぞれ6および11の葉緑体DNA型が検出され、塩基配列の違いによって最節約樹を作成したところ、ともに広い分布範囲をもつ北方型、中部山岳群に細かく地域的に分化した南方型に大きくわけられるなど、生物地理学的に意義深い情報をうることができた。また、谷川岳でキタゴヨウマツ・ハッコウダゴヨウ・ハイマツの3集団間での遺伝子の動きを解析したところ、花粉はハイマツからキタゴヨウに供給されて浸透交雑が起こり、ハッコウダゴヨウが形成されることを見出した。
著者
菊谷 まり子 池本 真知子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では感情の定義に文化差が見られるかを検証するため、様々な国の人々に特定の感情を感じる状況を書き出してもらい比較している。研究では喜び、悲しみ、熱い怒り、冷たい怒り、驚き、興奮、眠気、リラックス、満足、恐怖の10感情それぞれについて、それらを感じる状況を参加者に書き出してもらった。分析では回答された状況を感情に関係なく似たような内容ごとに分類およびラベリングをし、どの感情にどのラベリングの状況がいくつ回答されたかを数え、感情ごとの類似性を計測した。現在、日本、台湾、スウェーデン、ベラルーシ、カンボジア、韓国のデータがそろっている。感情の概念構造は全体的に共通の枠組みが見られたが、細かいところが異なり、特に恐れの認識が各国でかなり違うことが見出された。さらに詳しく分析するため、テキストマイニングという手法でデータを解析しなおしている。計画ではポーランド、アメリカ、イギリスからもデータを取得する予定であったが、コロナウイルスに関連して回答が大きくゆがむと考えられ、コロナウイルス流行前に取得した他国とのデータとの比較が不可能であると考えられたため、令和二年度はデータの取得を見合わせた。その代わり、韓国と日本の感情概念の比較に関して協力研究者の朴氏と共同研究を行い、それぞれの文化や歴史的背景が感情の定義や評価(感情同士の類似性など)に関係するのかを調べた。このテーマで執筆した研究論文2本が現在査読中である。さらに同テーマのレビュー論文も執筆中で、学術雑誌Languagesの特別号(2022年発行)に掲載予定である。加えて中国人と日本人の感情がうつに及ぼす影響についての研究も別の協力研究者と行った。また、人間が声や発話内容から感情をどのように読み取るかに関する実験を日本人に対して行い、それに関する論文を執筆、投稿した(現在査読中)。
著者
市村 宏
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症は代表的な性感染症であり、子宮頚癌を起こす。HPV持続感染により男性も癌(中咽頭癌、肛門周囲癌、陰茎癌など)を発症するため、男性でのHPV感染予防ならびに発癌予防も重要である。米国や豪州では、男性HPV感染者の追跡調査結果を基に、若年男性に対するHPV感染予防ワクチン接種が開始されている。一方、アジアにおける男性HPV感染症研究は少なく、男性でのHPV感染症の流行状況やHPV関連がん発生率は十分に解明されていない。本研究では、性感染症外来を受診したベトナム人男性を対象に、尿・尿道スワブ・陰茎スワブ・口腔洗浄液を用いた長期追跡調査を行なうことにより、アジア人男性のHPV感染症の疫学や自然経過(HPV消失率/獲得率)を明らかにすることを目的とした。6ヶ月ごとに最低2回追跡が可能であった男性性感染症(STI)患者146名(16-67歳、追跡期間中央値14.6ヶ月)から検体(陰茎スワブ・尿道スワブ・尿・口腔洗浄液)を採取し、HPV DNAの検出ならびに感染遺伝子型の推移を統計学的(κ値、McNemar検定、χ2テストなどを使用)に解析した。外陰部に比べ、口腔では、高リスクHPV(hrHPV)の感染率が有意に低く(10.1% vs. 21.5%, P = 0.008)、hrHPVクリアランスまでの期間が有意に短く(6.2 vs. 11.3月、P = 0.001)、また罹患率は有意に高かった(15.6 vs. 9.5/1000人月, P = 0.001)。外陰部に比べ、口腔ではhrHPVが有意に高率に罹患するにもかかわらず、感染率が有意に低いことは、クリアランスが有意に早いことが原因と考えられた。また、hrHPV感染は、外陰部と口腔では独立して生じることが示唆された。これまでの結果をもとに、論文作成し、投稿中である。
著者
吉岡 学
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

近年、視覚障害児・者が白杖歩行中に巻き込まれる事故が相次いで報道されている。これらの事故は視覚障害者が白杖操作によって路面状況を把握できず起きた事故も含まれている。白杖は歩行の際に重要な3つの機能を有している. その1つは, 車のバンパーの役割と同様に視覚障害者が障害物に衝突した際の緩衝器としての役割. 2つ目は路面状況などの情報を白杖から振動として視覚障害者の手指に伝える役割. 3つ目として視覚障害者であることを健常者に知らせるシンボルとしての役割がある. また、白杖の構造はシャフト, 石突, グリップの3つの部品から成立している. この中でもグリップ部は白杖が路面から得た情報を手に伝える重要な役割を有している。しかしながら、通常使用されているグリップ部は白杖専用ではなく、ゴルフクラブのグリップを代用しているものばかりである。現在、全国の視覚障害特別支援学校及び盲学校において使用されている白杖グリップの実に93.0%はゴルフグリップの代用となっている。白杖操作時にグリップの形状が手指掌側面と一致していない場合はグリップを通して手指に伝える振動情報伝達が不十分であり、視覚障害児・者が路面情報を把握できず、白杖歩行技術習得への大きな障害となる。そこで、本研究では握りやすく、情報伝達性が良好な白杖グリップ部の開発を行うことを目的とした。新しく開発した白杖グリップは、従来のゴルフ型グリップとは異なり、白杖操作時の手指の握り方の形状に即したものとした。その結果、白杖操作に使われる筋群(橈側手根屈筋、尺側手根伸筋、長橈側手根伸筋)の筋活動を測定したところ、新規開発した白杖用グリップでは従来のグリップより手指による運動が盛んに行われていた。これにより新規開発グリップにおける白杖操作においては、手指における路面情報の収集が的確に行われるグリップであることが明らかになった。
著者
中道 範隆 加藤 将夫
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

中枢神経系細胞に発現する膜輸送体OCTN1の生理学的役割を解明する目的で、OCTN1による神経細胞の機能制御メカニズムおよびそのうつ病治療への応用の可能性について検討した。その結果、OCTN1による水溶性アミノ酸ergothioneineの取り込みは、mTORの活性化を介して神経栄養因子を誘導し、神経細胞への分化を促進することが示された。また、同作用を介して海馬歯状回における神経新生を促進することにより、抗うつ効果を発揮する可能性がある。さらに、OCTN1が抗うつ薬の効果に影響を及ぼす可能性も示された。
著者
古畑 徹
出版者
金沢大学
雑誌
日本海の環境と石川の食文化,講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.8-9, 2005-02-27

金沢大学文学部
著者
堀井 祐介
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

学生中心の学びへと転換しつつある近年の高等教育において、「学生の主体的な学びへの関与<学生エンゲージメント(student engagement)>」はその核となる概念である。英国では、<学生エンゲージメント>は、教育評価を含む大学評価における評価指標の一つとされている。本研究では、今後の日本の高等教育評価政策に資するため、英国での教育評価を含む大学評価に関する自己点検・評価報告書等を分析対象とし、テキストマイニングの手法を用いて、英国での大学評価における<学生エンゲージメント>の位置づけを明らかにし、日本の大学評価における<学生エンゲージメント>評価指標のあるべき姿を明らかにする。
著者
深見 達基
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ヒトアリルアセタミドデアセチラーゼ(AADAC)が肝毒性や腎毒性が副作用として報告されている前立腺癌治療薬フルタミド、解熱鎮痛薬フェナセチン、抗結核薬リファマイシンの加水分解を触媒することを明らかにし、薬物代謝においてもAADACが重要であることを明らかにした。また、HNF4・、SHP、FXRなどの転写因子および核内受容体を介して胆汁酸によりAADAC発現量が低下することが明らかとなった。