著者
苅谷 剛彦 濱名 陽子
出版者
関西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

この研究は、1970年代末から1980年代初頭にかけて、政府関係の審議会等の公式文書や政策文書において、日本が西欧諸国へのキャッチアップが完了したという認識を持つに至った経緯、さらにはその認識を持つことで、その後の教育政策やその基盤となる社会認識・教育問題の社会的構築にどのような影響がおよんだのかを明らかにした。研究の結果、ジャパン・アズ・ナンバーワンなどの海外の日本認識が提供した知識の影響と、キャッチアップ型近代化の限界と問題点が日本の教育政策を打ち立てる上でのトラウマとしてつきまとっていたことが示された。中央集権制や詰め込み受験教育の弊害などの「開発国家型」の教育としての問題である。
著者
林 鎭代
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.15-25, 2012-03-31

日本の昔話には,"人にあらざるもの"が いろいろと登場する。"天狗","河童","大蛇","鬼"等である。とりわけ,"鬼"は,恐ろしい存在として子どもに伝えられてきた。"鬼"の話には,同じ話が複数の地域にある場合と,その地域にのみある場合とがある。そうした昔話を教育現場で活用しようと,再編集したものが「読みがたり」である。「読みがたり」の話は,おおよそ基本に従って分類されているが,中には同じ話が異なって分類されている場合もある。これは,子どもに伝えたい教育的内容が異なったことから分類も異なったものと思われる。 "鬼"は,長きにわたり『避けるべきもの』『退治すべきもの』と子どもに伝えられてきた。しかし,近年のグローバル社会化を受けて『多様性を認めよう』『相手の立場を思いやろう』と"鬼"を通して伝えることも変化してきた。今後も,"鬼"は生き続ける限り変化していくであろう。
著者
河村 朗
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.47-57, 2004-03-30

世界的に人口成長率がここ数十年高かったアラブ地域の中で,サウジアラビアに焦点を絞って,この国の人口爆発が雇用問題にいかに影響を及ぼしているかを明らかにしている。またその問題の解決策としてサウジ政府が採用してきたサウジ人化が進んでいない理由を取り上げて,今後の課題について考察している。
著者
桐生正幸
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.221-228, 2012-03-31

本研究の目的は,大学にて犯罪心理学を専攻した学生の卒業研究を調査することである。 調査内容は,研究課題と調査方法に関して行った。結果は以下の通り。1) 多くの調査対象と主題が「非行」であった。 しかし,多様な主題も見られた。2)調査方法は,「質問紙法」であり,調査の対象は「学生」であった。
著者
和田正美
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.239-251, 2012-03-31

本稿は,大学での講義「西洋教育史」に使用する教科書を作ることを想定して作成したものである。教育思想を正しく深く理解するには,歴史,文化を十分理解していなければならない。大学は学問の場であるかぎり,幅広い領域の知識を統合化する教育が必要であることは言うまでもない。しかし現在,大学の講義内容に相応しい教科書は皆無といってよい。専門書は豊富にあるが,大学の講義を想定しては書かれていないのである。 ソクラテスの時代の倫理・教育思想は,決して突然に生まれ出たものではない。その背景となり,推進力となったものとして,自然哲学者たちの思想,ギリシア悲劇,自然中心主義から人間中心主義への転換をはかったソフィストたちの思想などを挙げることができる。 よって,本稿は,ギリシア神話,伝説などを扱うギリシア悲劇,自然哲学者たち,ソフィストたち,そして,ソクラテス,プラトン,アリストテレスの三大哲学者の倫理思想を考察することにより,古代ギリシアの倫理思想を概観する。
著者
堀尾 強 沢本 凌
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.16, pp.97-107, 2015-03

This research examined preference change of twenty-five vegetables between elementary school period and university one for 102 university students.As a result of three way analysis of variance, it was significantly different for the main effect of the generation and vegetables, and it became clear that preference changed by the development. However, main effect of sex did not have the significant difference, but it was significantly different for the interaction of the sex and vegetables. As for "leek" and "celery," the preference degree of the boy was higher than that of the girl, while as for "the eggplant", "the asparagus" and "the okra ," the preference degree of the girl was higher than that of the boy. In addition, the vegetables which became pleasant in the university period from unpleasant in the elementary school were "eggplant", "green pepper", " Welsh onion",and " leek ". According to factor analysis, there were four factors for vegetable preference in the elementary school period and university one, respectively. The multiple regression analysis showed the change of preference structure.These results suggested that preference structure of the vegetables changed developmentally.
著者
吉田 武大
出版者
関西国際大学
雑誌
教育総合研究叢書 (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.5, pp.103-111, 2012-03

本稿では,アメリカにおけるバリュールーブリックの活用動向について,実践事例の紹介を通じて明らかにすることを目的としている。検討の結果,次の5点が明らかとなった。第1に,評価規準を作成する際に,客観的な表現を使用したということである。第2に,評価の観点で示された能力を身につけていない評価基準としてレベル0を設定したことである。第3に,学士課程教育段階の学生に通常想定される能力を超えるような評価規準を設定しないということである。第4に,個々の授業のねらい等に応じて評価の観点の一部を見直したということである。そして第5に,これらの4点を踏まえ,授業で使用する学習教材それぞれについて,事前に評価の観点を細かく設定することで,書き換えたバリュールーブリックを活用する意義がより明確になるということである。
著者
宮地 弘太郎 道上 静香 細木 祐子
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.13, pp.229-238, 2012-03

日本男子学生テニス選手の強化策について,第26回ユニバーシアード競技大会の強化活動及び,本大会における結果から考察する。次回大会においての男子チームの目標は,1)シングルス入賞/ダブルス,団体メダル獲得/MIX ダブルス銀メダル,2)競技者として社会人としての人間形成の2点である。その為には,今後も継続的な強化活動の中で,1)についてはATP ランキングの更なる向上,2)についてはスポーツマンシップ教育であると考える。The way to make a hard-hitting measure of tennis players who are Japanese male students from an enhanced activity of the 26th Universiade game cup and the result of this cup are discussed. There are two goals for the next cup. The first goal is to win the single prize, to get medals for doubles and groups and to get a silver medal for mix doubles. The second one is to build a character as an athlete and a member of society. It is necessary for the first goal to improve ATP ranking more while continuing an enhanced activity. And alsofor the second goal, it is necessary to do a sportsman education.
著者
広沢 俊宗
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.121-138, 2007-03-31

新入生がその大学に適応していく過程において,対人関係面と学習面の2つの側面が重要である。ここでは,学習面に焦点を当て,大学新入生の適応過程について考察する。とりわけ,本研究では,大学に入学して半年後(前期の成績を受け取った10月時点で),自分が学習面で適応していると思っている学生とそうでないと思っている学生とでどのようなちがいがあるかを明らかにすることを目的とするものである。結果,入学して半年後,学習面で適応している学生はそうでない学生に比べ,成績が良く,学部・学科に適応しており,大学生活における授業へのウエイトのかけ方も高いことが示された。また,大学での学習面のみならず対人関係面においても自信をもっており,この傾向は高校時代から受け継がれていることが明らかにされた。さらに,高校までの学習技術や学習特性が,入学して半年後の学習適応に多大な影響を及ぼしていることが示された。ただし,学習技術や学習特性におけるある特定の因子については,入学後の半年間で向上していることも明らかにされた。よって,学習技術や学習特性は入学時のフィルターとして効力を発揮するとともに,初年次教育における重要な要因であることが裏づけられた。ただし,さまざまな変数が学習適応にどのように関与しているかは,さらに詳細に検討する必要があり,今後の課題としたい。
著者
濱名 篤 川嶋 太津夫 山田 礼子 森 利枝 塚原 修一 深堀 聡子 齊藤 貴浩 白川 優治 合田 隆史 近田 政博 芦沢 真五
出版者
関西国際大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では、大学設置の「入口規制」として大学設置基準が、日本の高等教育の発展にどのように貢献してきたか、を分析するとともに、今日の規制緩和の流れの中で従来型の質保証体制がどのように変容するのかについて考察を加える。設置基準と認証評価がどのように連動して質保証システムとして機能してきたか、この両者が相互補完する体制が実質的な成果を挙げているか、についても検証する。また、比較可能な諸外国の設置基準と認証評価制度の関係を調査し、国際比較研究を通じて、日本固有の課題や将来への課題を明示する。さらに、日本の現状に見合った大学設置基準と質保証体制の在り方を模索し、将来の設置審査に関する提言を行う。
著者
橘 セツ
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 = The bulletin of Kansai University of International Studies (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.24, pp.85-100, 2023-03-10

This paper is concerned with life history/life geography of the Countess of Warwick, Frances Evelyn Greville (1861-1938), also known as ‘Daisy’. Lady Warwick’s life was a paradox: her luxuriant aristocratic lifestyle was increasingly at odds with her conversion to socialism from around 1905, and the left-wing political activity that she undertook for the rest of her life. This paper looks at three different landscapes with which Lady Warwick was closely associated: Easton Lodge, Warwick Castle and Studley Castle. This paper then focuses on Lady Warwick’s philosophy and practice in relation to women’s agricultural and horticultural education. She opened the Lady Warwick Hostel in Reading in 1898, before developing Lady Warwick’s College at Studley Castle in 1903. The college offered a high standard of horticultural practical training and education for women. Finally, this paper introduces the Japanese student, Taki Handa, who studied at Lady Warwick College from 1906 to 1908. The paper evaluates how Lady Warwick’s horticultural school contributed to the establishment of a new female branch of the horticulture profession concerned with ‘the lighter branches of agriculture’
著者
富田 瑛智
出版者
関西国際大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は飽きの発生と解消に関わる要因を検討する。特に,飽きの解消に焦点を当て,反復提示によって生じる飽きの時間変化について検討するものである.研究では,時間経過などを操作し,飽きを測定する主観評価,行動指標及び生理反応を取得し、発生および解消の過程を検討する.
著者
櫻井 信人 溝畑 剣城 西本 美和
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.20, pp.33-46, 2019-03

The study aims to clarify how the image of schizophrenia can be changed by delivering a lecture with use of Delusion and Hallucination Cards. We asked 91 second-year nursing students to play Delusion and Hallucination Cards and conducted a questionnaire survey on the image of schizophrenia before/after playing the cards. We were using the questionnaire contents consisting of psychiatric patient’s image survey, social distance scale, and free writing. Later, the results were analyzed by using Wilcoxon signed-rank test, Mann-Whitney U test, and factor analysis with SPSS25.0J for Windows (Significance level: less than 5%). For free writing, we extracted the portion of image and teaching effect.As a result, the study received answers from 78 respondents, and 74 respondents provided valid responses for the analysis. A shift in the image of schizophrenia by playing Delusion and Hallucination Cards indicated a significant change in 18 items such as “Intense-Calm”, “Dangerous-Safe”, and “Scary-Not scary”, then the image of schizophrenia was shifted to positive by playing Delusion and Hallucination Cards. In social distance scale, we found a significant change in “Whether to employ a person with schizophrenia if you are a manager?”, but there was no large change in other items. In free writing, 4 categories were extracted as “Understanding of symptom”, “Understanding of individuality”, “Change in image”, and “Enjoyment through learning Delusion and Hallucination Cards”, and positive answers occupied the majority.Since the image of schizophrenia was shifted to positive by using Delusion and Hallucination Cards but change in social distance scale was not recognized, we would like to further examine lecture contents in future such as actual experience of a person with schizophrenia who could successfully returned to society.
著者
井上 尚之
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 = The bulletin of Kansai University of International Studies (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.23, pp.23-36, 2022-03-10

The Suga cabinet prime minister at the time of October 26th, 2020 remarked that Japan makes the emission of the greenhouse gas 0 as a whole (Carbon Neutral) by 2050 in the belief manifestationMoreover, in climate change Summit on April 22nd, 2021, Japanese Government expressed reducing CO2 reduction target in 2030 by 46 % at the ratio in 2013.By this, in the 6th energy basic plan, the rate of the wind power generation to occupy to all power generation was about 3.5 times raised from 1.7 % to 6 %.It is the floating-body type on the ocean wind power generation that, in Japan, is watched specifically in the wind power generation.In this paper, this floating-body type on the ocean wind power generation is considered.Then, the possibility of the popularization of the floating-body type on the ocean wind power generation is investigated.
著者
板山 昂
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.21, pp.1-10, 2020-03

本研究では,社会的逸脱行為者に対する罰(損害賠償額)の判断に無関係な他者による社会的制裁と感情,ミクロ不公正感(自分の日常に対する不公正感)が及ぼす影響を検討した。分析の結果,社会的制裁と罰の判断には相補性がみられた。また,社会的制裁はシャーデンフロイデ高め,シャーデンフロイデを強く喚起した場合には罰が軽く判断された。さらに,ミクロ不公正感が強い者は,社会的逸脱行為者に対して重い罰を判断する傾向にあった。その一方で,ミクロ不公正感が高い者は,社会的制裁が与えられたこと(罰を受ける者に訪れた不幸)を知った場合にはシャーデンフロイデを喚起しやすいことから,その喜びの感情によって罰を軽く判断しやすい傾向があることも明らかになった。以上のことから,社会的逸脱行為者に起こった不幸(社会的制裁)による減刑(社会的制裁と罰の重さの相補性)の背景については,与えられるべき罰が一部与えられたという観点に加え,社会的制裁が実行されることによって罰の判断者の感情が影響を受けることが要因であることが示唆された。
著者
林 鎭代 中西 一彦 濱田 格子
出版者
関西国際大学
雑誌
教育総合研究叢書 (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.4, pp.97-118, 2011-03

本研究は、国際化社会に生きる子どもの育成における絵本活用の可能性を明らかにすることを目的に、基礎研究として日本、韓国、台湾の絵本の内容の比較を行った。取り上げた絵本は、日本語訳されている韓国と台湾の絵本、および日本の絵本のうち韓国または台湾で翻訳されているもの、各20冊前後である。日本の絵本は国際的に評価が高く、韓国、台湾、中国で多く翻訳されている。物語絵本のほか、生活絵本、科学絵本も多い。韓国の絵本は、儒教的な意識や教育的な意図が感じられるものが多い。台湾の絵本の日本語訳は多くはないが、様々なタイプの絵本が作られる自由さが感じられる。各国の差異から、絵本には、その国の子どもに託した希望が凝縮されていることが明らかとなった。今後の課題として、韓国の絵本に見られる規範性、台湾の絵本に見られる心の自由さが、どのように実際の場面で活用されているのか調査し、日本における絵本活用で、取り入れたい点や改良すべき点について研究していくことが望まれる。
著者
進藤 正洋 尊鉢 隆史 田上 由雄
出版者
関西国際大学
雑誌
教育総合研究叢書 (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.3, pp.1-15, 2010-03
被引用文献数
1

京都府,大阪府,兵庫県および京都市,大阪市,神戸市の各教育委員会が求めている「教員の資質能力」は,文部科学省が示すそれをもとに,それぞれの地域特性を反映して策定されている。また,教員の資質能力を高めるための現職職修の実施だけではなく,よりよい人材の確保のために,各教育委員会が独自の教員養成施策を積極的に実施しているところもある。教育学部教育福祉学科こども学専攻教員チームは,昨年度から初等教育に携わる教員に求められる資質能力を明らかにするため,地域の幼稚園と小学校において,教員,保護者,校区住民を対象にして,ステークホルダーが求める初等教育教師の資質能力の調査を進めてきた。本稿は,さらに,教員採用を行っている関西3府県と政令指定都市の6教育委員会について,文部科学省が示している教員の資質能力を基軸に,各教育委員会が求める教師像を調査研究し,地域の教育行政が求める教員の資質能力を総合的に明らかにすることにより,地域の教育課題の解決と本学の初等教育教員養成カリキュラムや指導方法の改善に資するものである。
著者
前田 恵利 河野 美穂 小川 千尋 大場 亜紀 高林 康江 藤井 美香 原本 久美子 日野 徳子 今野 理恵 堀尾 強
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.19, pp.101-110, 2018-03-10

In this study, assistance for improving urinary incontinence based on bladder function evaluation was practically applied to four patients with voiding dysfunction. Analysis was then performed on actual verbal communication incorporating prompted voiding (PV) that was found to effectively motivate patients during assistance.Effective verbal communication fell into three categories: verbal communication of joy in expressing a desire to void and appreciation; verbal confirmation of recovery in urinary function and verbal praise; and verbal communication that respects behavior and pace during voiding. Voiding assistance based on bladder function evaluation and communication incorporating PV led to patients voluntarily asserting their desire to void and thereby to improvements in urinary incontinence. The findings suggest that in the course of improving voiding function, emphasizing respect for patients’ self-esteem in verbal communication is as important as adopting an individualized approach to voiding assistance during bladder training.
著者
和田 正美
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.15, pp.149-162, 2014-03

本稿は、大学での講義「西洋教育史」に使用する教科書を作ることを想定して作成したものである。教育思想を正しく深く理解するには、歴史、文化を十分理解していなければならない。大学は学問の場であるかぎり、幅広い領域の知識を統合化する教育が必要であることは言うまでもない。しかし現在、大学の講義時に使用される講義内容に相応しい教科書は皆無といってよい。専門書は豊富にあるが、大学の講義を想定しては書かれてないのである。ソクラテスの時代の倫理・教育思想は、決して突然に生まれ出たものではない。その背景となり、推進力となったものとして、ギリシア神話、自然哲学者たちの思想、ギリシア悲劇、自然中心主義から人間中心主義への転換をはかったソフィストたちの思想,ギリシアの民主政などを挙げることができる。本稿では、ソクラテスの伝記、歴史、そして、プラトンなどの作品を通じて、ソクラテスの人となり、人間像を概観する。それによって、ソクラテスの倫理・教育思想の一層の理解を深めることができると考える。
著者
清水 美知子
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.5, pp.91-110, 2004-03

本稿は,1950~60年代の日本における<女中>イメージの変容を,「家事サービス職業補導」「ホームヘルパー養成講習」という二つの事業に焦点をあてて考察するものである。第二次世界大戦後の混迷が落ち着きを見せるようになると,都市部では再び女中の供給が需要に追いつかない状況に陥った。そんな女中払底の対応策として労働省が打ち出したのが,家事技術者を養成して手不足の家庭に派遣するという事業である。1956年,東京・新宿に「家事サービス公共職業補導所」が開設された。同所は,未亡人等の女性を対象に短期間で家政婦や女中など家事サービス職業に必要な知識と技術を習得させる機関。いっぽう,1960年に始まった「ホームヘルパー養成講習」は,従業員家庭の主婦が出産・病気等の場合に,事業所から派遣される家事援助者を養成するプログラムである。いずれも,女中不足の緩和のみならず,就職が難しい中年女性の雇用を創出するねらいもあったらしい。これらの事業は,女中の職業的な地位を高めるとともに,"家事サービスは中年女性の仕事"というイメージを生み出した。かつて農村の娘たちの主要な働き口のひとつであった住み込み女中は,高度成長期に,家政婦やホームヘルパーといった中年女性の通勤職業にとって代わられたのである。