著者
岩井 洋
出版者
関西国際大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、いわゆる「カルト」への入信と、集団内において信仰が維持されるメカニズムを、「嗜癖」(addiction)という概念を導入することで明らかにしようとするものである。なお、本研究は、特定教団を対象とした実証的研究というよりかは、「カルト」研究に新しい視点を導入するための、文献資料による基礎的枠組みの構築をめざすものである。本年度は、平成13年度における研究、すなわち、(1)「嗜癖」概念の検討、(2)「カルト」への入信と信仰維持における個人レベルでの「嗜癖」の解明、を基盤とし、個人の宗教的「嗜癖」を促進する組織的な仕組みの解明を中心に研究を行なった。従来、「カルト」における入信と信仰の維持を論じる際、「受動的な心理的操作」(マインド・コントロール)か「能動的選択」(合理的選択)か、という二分法的な視点が用いられてきた。本研究では、マインド・コントロール理論と合理的選択理論という、対立する二つの立場を架橋するために、「嗜癖」概念と組織論的な視点を導入した。その結果、入信に際しては、ある程度の主体的な選択行動がみられるが、入信後は、容易に脱会できないような組織的な仕組み、すなわち宗教的「嗜癖」を促進するような仕組みが作り上げられ、さらにこの仕組みは、教義・儀礼や日常の宗教実践によっても補強されていることが明らかになった。したがって、本研究では、マインド・コントロールか合理的選択かという、二者択一の選択ではなく、両者を統合したモデルに向けての基盤を構築したといえる。
著者
清水 美知子
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.87-98, 2005-03-31

本稿は,1930年代に東京と横浜でおこなわれた2つの社会調査から,住み込み女中の実態を明らかにしようとする試みである。女中の多くは農村出身の10代後半から20代前半までの未婚女性で,小学校程度の学歴を持つ。就職の経路として最も多いのは親戚や知人の紹介で,民間・公共の紹介所で仕事に就いた者は少ない。職務限定で雇われている者は少数にすぎず,大半は座敷仕事も台所仕事も何でもこなす,いわゆる「一人女中」である。定まった休みのある者は半数以下で,ある場合も不定期である場合が少なくない。女中の属性や就労状況を女工と比較すると,年齢や学歴の構成は変わらないものの,就労条件は大きく異なる。すなわち,月給30円以上の者は女中では1%にも満たないのに対し,女工では半数近くを占め,公休日も女工の場合はすべて月極で定められており,大半は毎週もしくは隔週で休みがある。就労理由についても,女工のほとんどは「家計補助」「自活」など経済的な必要に迫られ働いているのに対し,女中の場合,過半数が「嫁入支度」「行儀見習」などの理由をあげている。「結婚を目標にした結婚準備のための修業」。このような意識が強いからこそ,安い給料で休みがなくても,何とか我慢できるのであろう。日本の家庭女中を考えるさいには,この点を見逃すことができないのである。
著者
広沢 俊宗 小城 英子
出版者
関西国際大学
雑誌
関西国際大学地域研究所叢書
巻号頁・発行日
vol.2, pp.3-18, 2005-03-31

本研究は、大学生を対象とした質問紙調査により、日本のプロ野球ファンの心理を明らかにしようとするものである。本稿では、その調査結果の一部について記述することを目的としている。概括すると、阪神ファンと巨人ファンでプロ野球ファン全体の4割近くを占め、巨人を除く11球団のファンの半分以上が巨人を嫌う傾向にあった。特に、広島、阪神、中日といった球団のファンにアンチ巨人傾向が強く示された。また、阪神ファンは巨人ファンに比べ顕著なイメージが形成されていること、両ファンの嗜好性はマイナー-メジャー(大阪-東京)に代表される項目で差異が見出されることが明らかにされた。
著者
岩井 洋 広沢 俊宗 井上 義和
出版者
関西国際大学
雑誌
関西国際大学地域研究所叢書
巻号頁・発行日
vol.3, pp.41-48, 2006-03

本稿は、社会人を対象としたインターネット調査から、日本のプロ野球における、阪神ファンと巨人ファンに対するイメージの違いを明らかにしようとするものである。特に、阪神ファンと巨人ファンに対する、阪神ファンあるいは巨人ファンの自己イメージと、他球団ファンからみた阪神ファンと巨人ファンのイメージを明らかにする。また、アンチ巨人傾向についても、球団別に分析する。加えて、同じ質問項目を使用し、大学生を対象として行なった調査の結果との比較も試みている。
著者
広沢 俊宗 井上 義和 岩井 洋
出版者
関西国際大学
雑誌
関西国際大学地域研究所叢書
巻号頁・発行日
vol.3, pp.29-40, 2006-03

本研究は、20代から50代までのプロ野球ファン各200名、計800名を対象にインターネット調査を実施し、ファン心理、応援行動、および集団所属意識の構造を明らかにすることを目的としたものである。ファン心理は、『尊敬・憧れ』『共依存的感情』『ファン・コミュニケーション』『熱狂的ファンの弱さへの両価感情』『疑似恋愛感情』『不安定性への魅力』『メジャー志向』『Bクラス的戦力への魅力』『強さへの魅力』の9因子、応援行動は、『直接的応援行動』、『メディ接触型応援行動・優勝便乗』、『批判的・分析的応援行動』の3因子、集団所属意識は、『準拠集団的意識』、『独自意識』、『親近感・愛着意識』の3因子が抽出され、大学生調査(広沢・小城,2005b)の結果と比較検討された。
著者
中山 誠
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.13, pp.91-103, 2012-03

我が国では,犯罪の発生数が減少しているのに対して,再犯率は近年,著しく増加している。とりわけ,子どもに対する性犯罪の再犯を減らすために,本研究ではアメリカ合衆国で導入されたミーガンの法律の効果が調べられた。しかしながら,ミーガン法は犯人の人権を侵害する可能性が有り,日本の再犯防止には役立たないと考えられた。その結果,犯罪者の評価や再教育が最も重要だと結論された。
著者
吉田 武大
出版者
関西国際大学
雑誌
教育総合研究叢書 (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-12, 2011-03-31

本稿では,アメリカにおけるバリュールーブリックの動向を紹介することを目的としている。目的の解明にあたり,AAC&Uのウェブサイトとバリュープロジェクトの関係スタッフの論考等を引用しながら,バリュールーブリック開発の背景,バリュープロジェクトとバリュールーブリックの概要を取り上げた。その結果,次の3点が明らかとなった。第1に,CLAやMAPPのような標準化されたテストでは学生の多面的な学習成果の評価が困難であることを受け,バリュールーブリックが開発された。第2に,バリュープロジェクトでは,多くの高等教育機関からの協力を得て,バリュールーブリックの開発が進められた。また,同プロジェクトは,学生の学習成果を評価する際に,eポートフォリオの活用を推奨している。第3に,バリュールーブリックは15種類作成されており,活用に際しては個々の機関・プログラム・授業の文脈に即して表現を書き換えることが求められている。
著者
小城 英子 広沢 俊宗
出版者
関西国際大学
雑誌
関西国際大学地域研究所叢書
巻号頁・発行日
vol.2, pp.19-26, 2005-03-31

本稿は、2004年度に大学生を対象に実施した質問紙調査による定量的分析を中心にして、日本のプロ野球ファンの心理を把握したものであり、本論では、調査結果の概要について記述することを目的としている。概括すると、阪神や横浜といった球団のファンは、球団に対する愛着や、ファン同士の交流や連帯感が強く、弱小球団を温かく見守るところにファン心理の特徴が見られた。一方、巨人や西武といった球団は、安定して勝ち続けるところに魅力があり、カリスマ的存在であることが示唆された。
著者
岩井 洋
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.5, pp.79-89, 2004-03

日本人の宗教観や宗教意識を表現する際に,しばしば使われるのが「無宗教」や「無神論」といった表現である。本稿では,「日本人=無宗教」あるいは「日本人=無神論」という言説が生まれた背景を探るとともに,日本人が無宗教・無神論であるのかについて検討する。そして,それを踏まえて,日本宗教と異文化における宗教との比較研究を深化させる視点や,グローバル化状況における日本宗教を理解する視点を提示したい。
著者
堀尾 強
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.115-123, 2012-03-31

過去嫌いであった食品の嗜好変化について410名の大学生を対象に調べた。過去嫌いであった食品の嗜好が変わった人が88%いた。嗜好が変わった食品はピーマン,納豆,ナス,シイタケ,ニンジン,トマト,レバー,カキ,セロリなどであった。食品群分類別では野菜類が41%と大きく占めた。嗜好が変化した時期は小学校高学年から中学校,高校にかけて,16%,27%,35%と徐々に増加し,大学生になっても14%と嗜好が変化している。その理由は「久しぶりに食べてみたら食べることができた」,「たまたま食べたものがおいしかった」というように時間を置きその間の経験が食品の嗜好変化に大きな影響を与えることが示唆された。「無理やり食べているうちに食べられるようになった」,「栄養があり体に良いと知って」と食べる努力の結果として食べられるようになった者も多かった。以上のように,過去嫌いであった食品の嗜好がポジティブに変わる経験をしている人が大変多く,その間の食経験が嗜好変化に大きな影響を与えることが示唆された。
著者
木下 隆志 正井 佳純
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要
巻号頁・発行日
no.14, pp.31-39, 2013-03

障害者の雇用の促進等に関する法律の基本理念では,「障害者である労働者が,職業生活において,能力発揮の機会が与えられること」「職業人として自立するよう努めること」の2つの理念が掲げられている。しかし,精神障害者の雇用促進の課題のひとつとして,障害の自己開示・非開示の問題が存在する。非開示就労の多くは,事業所側の障害の無理解による就労の幅が狭まることを懸念してのことであり,就労先事業所との丁寧な支援体制を構築する必要がある。本研究では,精神障害者の就労の課題と現状を明らかにするため実態調査を行い,開示・非開示で就労する違いに着目して,双方の当事者の支援のあり方について考察する。In the basic principles of the law on promoting the employment of disabled persons, two principles are emphasized: (1) Workers who are disabled be given the opportunity to fulfill their potentials in their working life, and (2) Efforts be made for their independence as professionals. However, one of the issues in promoting the employment of mentally disabledpersons is the question of self-disclosure or non-disclosure of the disability. Most cases of non-disclosure at work are due to the concern that the range of work will be narrowed dueto lack of understanding of the disability by the company, and considerate support systems at the workplace need to be established. In this study, we conducted a field survey in order to clarify the issues and current conditions of mentally disabled persons at work, and to consider the state of support for both such workers who are working with disclosure andwith non-disclosure.
著者
竹田茂生・陳 那森 陳 那森
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.77-90, 2012-03-31

共分散構造分析から,消費の先行指標である創造階層のさらに革新的な集団がツーリズムの志向を「地域密着型ツーリズム」からさらに「研究・自己啓発型ツーリズム」へと進化させているという知見が得られた。このことから,「研究・自己啓発型ツーリズム」は,将来の有力なツーリズムの形式となっていくことが予測される。そこで,「研究・自己啓発型ツーリズム」の進化形として顕在化してきた観光アートに焦点を当て,3つの地域特性によって都市型,郊外型,地方型に類型化し,事例研究を観察とインタビューによって行った。そして,観光アートの成功要因は,次の4点であるとの知見を得た。1)スタート時点での継続を意図したプランづくり2)継続させるための観光資源の持続的な探索 3)ボランタリーな組織から公的な組織への転換 4)住民参加型の展開,などが挙げられる。また,他の地域との連携やビジネスモデルとして商品化などの新たな展開にも発展してきていることが分かった。
著者
堀尾 強
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.153-159, 2011-03-31

暗示が味覚にどのような影響を及ぼすのか調べた。試料は,ショ糖,塩化ナトリウム,精製水を用いた。味の強さの評価について,暗示に従うタイプを従順タイプ,暗示に逆らう人を天邪鬼タイプ,暗示とは関係なく客観的に判断する人を冷静タイプ,およびその他のタイプとした。その結果,従順タイプはショ糖14.0%,塩化ナトリウム18.6%,精製水9.3%,天邪鬼タイプはショ糖11.7%,塩化ナトリウム9.8%,精製水2.4%であった。 以上のように,暗示により味の感じ方に影響を受ける人が20 〜 30%いることが示唆された。
著者
飯島 有美子
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.13, pp.187-194, 2012-03

本稿では,学部留学生対象の日本語クラス「日本事情」において,学生のドキュドラマ制作活動への導入としてドキュメンタリー映像を視聴させ,その視聴の記録のツールとしてマインドマップの利用を試みた。マインドマップの利用の効果を分析した結果,マインドマップの持つ機能である「情報の記録と整理」が有効に働いているに加え,映像から得られるイメージや感情の記録と整理についても,文章で記録する場合より容易であることが認められた。
著者
伊藤 創 仲 潔 岩男 考哲 藤原 康弘
出版者
関西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、構文レベルにおける日・英語の事態描写の違いに焦点をあて、日本語を母語とする英語学習者が、母語での事態描写のあり方に即した形で英語表現を構成できるような、より自然で低負担、効率的な英語学習法を提案しようとするものである。そのために、学習者・教科書データ、英語・国語教科書・教材の分析から、1)日本語母語話者の英語に見られる構文的な特徴、2)それらが日本語のどのような事態把握・描写に基づいているか、3)どのような過程でその描写の「型」が形成されるのか、を明らかにする。その上で、4)日本語母語話者の事態把握の型を生かした形で英語表現が産出できるような教材試案を作成、その効果検証を行う。
著者
清水 美知子
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.97-112, 2001-03-31

本稿は、両大戦間期の<女中>をめぐる社会事業の実態について、戦前期における日本最大の婦人団体「愛国婦人会」の活動を中心に考察するものである。1920年代は、"女中難"が深刻化するなか女中問題に対する社会的な関心が高まった時期で、愛国婦人会では「夜間女学校」を開き、女中をおもな対象とするコースをつくり教育活動をはじめた。また、地方から上京した女性のために「婦人宿泊所」を開設、宿泊のみならず人事相談や就職斡旋の事業もおこなっている。凶作による農村の疲弊がクローズアップされた1930年代になると、同会は農村子女救済運動に乗りだし、身売り防止ための資金貸付や職業紹介などをおこなった。これに関連して、地方出身の娘たちに都会の女中としての心構えや家事の基礎を教える「女中養成所」を設立するとともに、女中の共済組合をつくって福利厚生につとめた。
著者
清水 美知子
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.16, pp.61-73, 2015-03-31

This paper examines the home life of an urban middle-class household at the end of the Meiji Period as seen in Natsume Soseki’s full-length novel The Gate (1910). The character Sosuke, who resides in a three-person household with his wife and a gejo (maidservant) in a humble rented house nearly 20 minutes on foot from the final station of a rail line, lives in straitened circumstances. Despite his gloomy thoughts on a rainy day with a hole in the sole of his shoe, he cannot afford to buy new shoes.But why does this household, which is not particularly wealthy, have a live-in maidservant? This was because housework in a middle-class household at the end of theMeiji Period took so much time and effort that a full-time housewife could not complete the task herself. Gas lamps were the source of light, and meals were cooked using a shichirin, a small charcoal stove of clay or earthenware. The novel The Gate answers our question persuasively by depicting household articles and the living space in detail.
著者
林 鎭代
出版者
関西国際大学
雑誌
教育総合研究叢書 (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.5, pp.69-88, 2012-03

昔話に登場する"鬼は",「一本または二本の角を頭に生やし」「大きな体は赤や青や黒の色をしている」「毛深く力は強い」などと表現され,男性としてイメージされる場合が多い。"鬼"は,山奥に住まい,村に来ては食べ物や財産,娘をさらっていく悪しき存在であり,話の結末では人間に退治されることとなっている。「読みがたり」47巻は,2004年から2005年にかけて誕生した。それらは,以前から地方にあった昔話を,子どもへの教育的活用を意図として再編集されたものである。「読みがたり」には,わずかではあるが女性の"鬼"も登場している。そして,人間に退治されない結末の話も収録されている。女性の"鬼"は,老女とされているが,男性の"鬼"については年齢を示す表現はない。"鬼"の性別と話の結末には,関連はあるのか。"鬼"の性別によって,子どもに伝えたい内容は異なってくるのか。「読みがたり」から,"鬼"の性別による影響を探った。
著者
川村 光 紅林 伸幸 越智 康詞 加藤 隆雄 中村 瑛仁 長谷川 哲也 藤田 武志 油布 佐和子
出版者
関西国際大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13455311)
巻号頁・発行日
no.17, pp.51-71, 2016-03-31

The purpose of this study is to analyze Japanese teachers’ viewpoints relating toJapanese society and education based on the data of quantitative investigation of public primary school and junior high school teachers in 2013.From this survey, some important findings were drawn. First, the characteristics of teachers who take an optimistic view of the future Japanese society is that the level of their consciousness of the autonomy of the profession is lower. Second, the characteristics of teachers whose consciousness of the autonomy of the profession is lower are that the level of their consciousness of the training of pupils in 21 century academic abilities is lower and they are not ready to carry out the individual and clinical education that help teachers cope with the reality of pupils in their educational practice. Third, the teachers who are school middle leaders in schools are the ones “accomplishing their duty of the school organization”type, who positively carry out school and lesson reform. Also this trend in younger generation is higher. Especially, the characteristics of the school middle leaders is the important issue to consider for the future school education.